ちゃんとしているかもしれない後日談 13
「おい、これで今日の貴様の問題については、解決したぞ」
皇帝陛下からそう言われて、私は呆然と「ええと、そうですね、本当にありがとうございます……」と、相槌を打つしかなかった。
一気に物事が進んでしまった気がする。
先ほどまで、この先どうしよう、と考えていたというのに。
私は、どうやら本当に今日の分の死を全て回避して、加えて、今後他の妃たちによって引き起こされる死に繋がる不幸も防ぐことが出来たらしい。
まだ半信半疑だった。
「安心しろ。此奴の手腕は、それなりだ。そう簡単にしくじりはせんだろう。──まあ、しくじったならその時は容赦せんが」
「ええ、もちろんでございます。皇帝陛下よりご提示を受けた破格の報酬を前にして、さすがに手を抜くことなど出来ませんから。ありとあらゆる要因に対して抜け目なく、手を打たせていただきます」
彼女は、私を見て「もちろん他の妃が貴女に危害を加えるような真似は決してさせません。お約束いたします」と、告げる。
「貴女に手を出すということは、皇帝陛下の意に背き、最上位の妃である私と敵対するも同義です。つまり、その愚か者の居場所は後宮どころかこの国のどこにも無いと言えるでしょう」
とても頼もしい言葉であった。
……でも。
本当にそんなに上手くいくだろうか。
何度も死んできたので、ふとそのように疑問を抱いてしまう。
そしてそう思っていると、ちょうど一番目の妃の女性が「では、一応、こちらから担保を提示させていただきますね。お二人に少しでも深く信用してもらうために」と言って、私たちに近寄るのだった。
そして、周囲に誰もいないことを確認すると、私たちに耳打ちするようにして顔を近づける。
「──私の『祝福』は、【常に微笑を浮かべていると、他者が何かこう良い感じに自分の言動を好解釈してくれやすくなる】でございます。……まあ、なぜか昔から皇帝陛下には怪しまれてばかりいますが」
なので、自身の『祝福』を用いれば、失敗することは限りなく低いのだと、彼女は告白するのだった。
……初めて聞いた『祝福』の力だ。
かなり珍しそうな部類だろうか。
私がそう驚いていると、彼女の言葉に皇帝陛下は「ああ」と納得するようにして頷く。
「なるほど。貴様、道理で昔から胡散臭かったわけだ」
「……本当に皇帝陛下は、なぜ私の『祝福』の影響を受けていないのでしょうか……? ──まさか、そういった類の『祝福』をお持ちとか……? そのような『祝福』、類例すら聞いたことが──」
「それは、後で話してやる。──というか、貴様、『祝福』も『呪い』も、確か国に申告していなかったな? しかも、片方は間違いなく新種か。二つの力を秘匿し続けるなど、研究者の端くれとしてどうなんだ?」
「確かにそうでございますね。来年の試験で研究所の職員になれたなら、考えさせていただきます。今はとりあえず便利なので、伏せておこうかと」
全く悪びれていない様子の彼女の言葉に、「いや、まあどっちでも構わんが」と、皇帝陛下は答えた後、「それで」と、彼女の『呪い』について尋ねるのだった。
「一応確認しておく。貴様の『呪い』は、『祝福』の効果を帳消しにするようなものではないのだな?」
「はい。私の呪いは、【常に微笑を浮かべていないと、年中そこそこ重い花粉症に悩まされる】でございますので」
そう言った後、彼女は畳んでいた扇を素早く開く。
そして、その扇で自身の顔を隠した。
その数瞬後、「へぁっ、くちゅん!!!!!!!」と、くしゃみの音が彼女から聞こえてくるのだった。
……ああ、なるほど。ずっと持っていた扇は、それ用なんだ……。
彼女の『呪い』は、どうやら割と深刻な代物であったのだった。
♢♢♢
「――とりあえず、任せたぞ。特に、十三番目と、二十一から二十四までの妃は、きちんと手綱を握っておけ。其奴らは、短絡的な者たちだ」
「承知いたしました」
「……あと、二十五番目もある意味、予測がつかん。奴も、違う意味で注意しろ」
「はあ、そうでございますか……?」
「おい、貴様も注意しておくべき妃がいるなら、予め言っておけ」
「分かりました」
皇帝陛下の言葉に私は頷く。
「ええと、そうですね……まず四十番代の妃の方、全員ですね。三十番代なら、三十二、三十四、三十五番目の方々だったと思います。二十番代なら、先ほどの方々ですね。あ、二十五番目の方は違いました。それで、十番代だと、十三番目の方に加えて、十六、十九番目の方々が、ちょっとあれだったはずです」
そう今までのことを思い出しながら言うと、皇帝陛下は、「おい、嘘だろ……」というような顔を向けてくるのだった。
「貴様……」
「……はい、本当です。申し訳ございません……」
……ああ、そういえば、まだ、きちんと彼には話していなかったかもしれない。
実は、割と沢山の妃たちに、私は殺されていた。故意、無意識かかわらず、彼女たちの殺意はかなり高かったのだ。
なので、それを知った皇帝陛下は、「やはり、ここは今日から刑務所にすべきだな……」と、嘆くのであった。




