ちゃんとしているかもしれない後日談 5
「百歩譲って殺すのが可哀想とかならまだ分からんでもないが……不公平、ってなんだ……不公平って……」
皇帝陛下が、「おい、難題すぎるぞ、これは……どうすればいい……?」と、そのように力なく呟きながら、私の前を歩く。
どうやら、先ほどの私の言葉に少なからずショックを受けたような様子だった。
……そこまで、おかしなことを言ったつもりはなかったのですが……。
そう思うけれど、しかし、彼の反応からして、誤った認識でいるのはきっと私の方なのだろう。
ならば、自分の考えを改めなければならない。
……しかし、どれだけ頭をひねっても、どのように自分の考えを改めればいいのか、今の私にはまるで分からないのだった。
ゆえに、とても申し訳ない気持ちになる。
彼と出会ってから、私はほとんど考えたことがないことばかり考えるようになっていたのだった。
私たちは、蛇を捕まえた後、一旦自室に戻った。
その理由は、『ここに毒蛇、封印中!!』と書いた紙を壺に貼り付けるためだ。
実は蛇は、まだ生きているらしい。
後で犯人を特定するための証拠として用いる予定なのだとか。
皇帝陛下いわく、「通常の蛇より柔軟だから、多少乱暴に扱っても問題ない」ようなのだけれど……それは果たして本当なのだろうか。しっかりと、固結びしていたように、見えたのだけれど……。
そして、巡回している女性兵士がいたら蛇の処理を任せようと考えながら、私たちは、廊下を進む。
皇帝陛下は、常に私の歩幅に合わせて歩いてくれた。
そして、彼は、思いついたように時折振り返って私の様子を確認する。
彼は、おもむろに言う。
「──よし、ちゃんと生きているな」
先ほどから彼は、なぜか「よくやった。偉いぞ」と、そう私を何度も繰り返し褒めてくるのだった。
……どうやら、彼の中で私は、目を離すとすぐに死ぬ脆弱すぎる生き物だという認識らしい。
さすがにそこまでの頻度では死んでいないのに……。
彼は、「よし、きちんと息をしているな。勲章ものだぞ」と、言って安堵の息を吐く。
けれど、その神経は常に研ぎ澄まされているということが、彼の背中を見ているとよく分かったのだった。
彼は、常に周囲を警戒していた。
また、先ほどのように死に繋がる不幸が私を襲ってくるかもしれないと、終始身構えているのだ。
私は、先ほど皇帝陛下に次の死に繋がる不幸について、話した。
それは、
「──あっ、危ない!!!」
ちょうど廊下の曲がり角に差し掛かった時、そのような女性の慌てた声が間近から聞こえる。
私たちは、その方向に視線を向けた。
すると、
──私だけに向かって、いくつものナイフやフォーク、包丁といった切っ先の鋭い料理や食事に用いる道具類が飛んできていたのだった。
そう、ちょうど、廊下の曲がり角で私たちと偶然鉢合わせるようにして、料理人の女性が運ぶ台車の前輪が破損することになるのだ。
その弾みで運んでいた道具類が、私目掛けて飛んでくる。
料理人の女性は、かなりの急ぎ足だった。
ゆえに、
……これで、私は三回、時間を巻き戻すことになったのだった。
けれど、今回は──
「──アアーッッ!!」
皇帝陛下が、即座に私をかばうようにして、素早く反応する。
そして、一瞬のうちに、飛んできた道具類を両手を用いて、パシパシパシと、キャッチするのだった。
それは、まるでサーカスの団員が、投げられたナイフを素手で受け止めるかのごとく。
ゆえに私は無傷のまま。
私はすぐさま、「大丈夫ですか!! どこかお怪我は!?」と彼に声をかける。
彼は、またしても私の死を完璧に防いでくれた。
そして、「本当にありがとうございます、皇帝陛下……」と助けてもらったことを感謝しながら、「……それで、なぜまた叫び声を……?」と、再度疑問を抱くことになってしまうのであった。




