ちゃんとしているかもしれない後日談 1
今話はコメディー要素ありません。ごめんなさい。
『――貴様は今日から私のものだ。故に命令する。死ぬな、私のために生きろ』
先ほど皇帝陛下は、私にそう言った。
よって、私は今日より彼の『最愛』となったのだった。
ゆえに大きく困惑することしか出来ない。どうして、こんなことに、と。
……いや、明確な理由はあった。
このような事態となったのは、間違いなく『呪い』が原因である。
私の『呪い』は、【死に繋がる不幸を招き寄せる】というもの。
だから、私は妃の一人として選ばれた。
後宮で毎日のように『祝福』の力を行使することとなった。
そして、それだけでは飽き足らず、ついにこの『呪い』は、皇帝陛下の『最愛』という地位に目をつけたというわけだ。
この国の頂点に位置する人物の伴侶。
どう立ち回ろうと、目立たないわけがない。
そのため、おそらく私は、今後、より多くの死に繋がる不幸に見舞われることとなるだろう。
それこそ、今までとは、比べ物にならないほどに。
──ならば、逃げるべきかもしれない。
私の『祝福』を用いれば、それは十分可能なはずだ。
しかし、皇帝陛下は、私の『祝福』の影響を受けないようなのだ。
現に、彼はこうして時を巻き戻した後でも、記憶を保持したまま、私の部屋に訪れた。
彼の様子から見て、どうやら今までずっと私のことを探していたらしい。
きっと、私が逃げれば、今後も必死になって私のことを探すだろう。
それはさすがに気の毒な話に思えて、強い罪悪感を覚えてしまう。
彼は、私が五歳の頃からずっと、私の『祝福』の力に巻き込まれていた。
今思えば、彼にとってそれは地獄以外の何物でもなかったのだろう。
それに、そもそもの話、私は、その責任をまだ果たしていない。
ならば、このまま皇帝陛下の『最愛』となるべきなのだろうか。
……私は、どうすれば、いいのだろう。
そう、悩むように思考をしていた時だった。
目の前で皇帝陛下が立ち上がる。
そして、近くにあった椅子に座って言った。
「とりあえず、貴様。先ほどの一回目と二回目の状況をきちんと話せ。それと、そのまま平伏していないで、椅子に座れ。話し辛いだろうが」
──一回目と二回目……?
「貴様が死んだ時だ。一回目は、私の作った壺を割った時。二回目は、階段から突き落とされた時」
彼は「ほら、さっさとしろ」と、促してくる。
なので、私は慌てて皇帝陛下同様に、椅子に座り、口を開くことになる。
といっても、私自身、そこまで詳しくは分からない。
いずれも突発的なものであったからだ。
──というか、あの壺、皇帝陛下の自作だったんだ……知らなかった……。
私の説明を彼は、真剣な様子で聞いていた。
「……なるほどな。やはり計画性は、まあまあ薄そうだな……」
彼は、そう結論付ける。
「あの妃たちは、貴様に対して何かしらの負の感情を以前から抱いていた可能性がある。だが、その犯行は全く凝ったものではない。衝動的に実行しようと思えば、いくらでも出来るだろう」
彼は、「腹いせの線が濃厚か……?」と、腕を組み、独り言のように呟くのだった。
なので、私は「あの……」と、思わず、彼に声をかけてしまう。
「なぜ、このような話を……?」
「決まっている。貴様の死を回避するためだ」
皇帝陛下は、そうきっぱりと言い切ったのだった。
「貴様が死ぬと、私も死ぬ。精神的にな」
単純明快な回答であった。
「それに、今日より貴様は、私の妻となった。妻を守らん夫などこの世にいるものか」
これもまた分かりやすい答えだった。
そのため、私は口をつぐむことになる。
何しろ、理由が明快すぎて「どうしてそこまで……?」というような言葉さえかけることが出来なくなってしまったのだから。
そして彼は「言っておくが」と、念を押すようにして私に言葉をかける。
「──私は、もう貴様を二度と死なせるつもりはないからな。覚悟しておけよ」
そう、真剣な様子で指を突き付けてくる。
「貴様は、今までに何度も時間をやり直してきて、それがもはや普通となっているのだろうが、私にとっては、ただ自分をブチ切れさせるだけのひどく煩わしいものでしかない」
「えっ、ブチ切れ……?」
「……過去を思い出して言葉が乱暴になってしまったが、とにかく私にとって、時間の巻き戻しとはそのようなものだ。分かったか?」
その後、彼は呟くようにして言葉を続けた。
「──まあ、ただの一度だけは、貴様に感謝したことがあったといえば、あったがな──」
「皇帝陛下……?」
私の言葉に、「何でもない、独り言だ」と、彼は返す。
「とにかく、貴様には何としてでも生きてもらうぞ。私の心の平穏のためにもな」
──自分も頑張るから、お前も頑張れ。
彼は、そう言いたげな表情と共に、覚悟を決めた眼差しを私に向けて、そう強く宣言するのであった。




