『皇帝』視点 24
──その後、エルクウェッドは、二十六番目の妃と共に行動した。
しかし残念ながら、結果的にその妃と、周囲にいた関係者は、彼が探し求めている相手ではなかった。
時が巻き戻ったことによって、彼は八回も念入りに確認することになったのだ。
ゆえにそのことについて、間違いはない。
ならば、二十七番目の妃の場合はどうか。
しかし、それもまた空振りに終わる。よって、「十三回も巻き戻ったのに……」と彼は気を落とすことになるが、何とか頑張って気を取り直す。
よし、次だ、次。
次は二十八番目の妃だ。期待しよう。
彼はそう、意気込む。
……けれど、彼女の場合もまた違うのだった。
二十回以上巻き戻って唯一分かったのは、「違った」ということだけ。
彼は、強く焦燥感を募らせていく。
徐々に、徐々にと……。
それに伴い、自身の言動が以前よりぞんざいなものになってきたと彼は感じることになるのであった。
――ああ、駄目だ。これは全く良くない傾向にある。
こういった焦りは、放っておくと、ろくなことにならない。
自身の内情を分析した彼は、急遽次の二十九番目の妃と共に行動する際の一度きりだけ、時を巻き戻す『祝福』の持ち主を探すことについて、一旦きれいさっぱり忘却することに決めたのだった。
ループは毎日何度も起きている。
――その中の一回のみだけ、そうしてみよう。
彼は、そう考えたのだ。
以前、十五番目の妃が言っていた。
今を楽しむべきだと。
ならば、今はその言葉に従ってみよう。
たまには、こういった機会も必要である。
そう考えながら、彼は二十九番目の妃の部屋に訪れる。
今回の妃は、果たしてどのような自己アピールを行うのだろうか。二十五番目の妃の時のような恐ろしく疲れるようなものでなければいいが……。
まあ、しかし。
何にせよ、楽しみだ──
彼は、そのように思いながら、ノックする。
そして、「どうぞ、お入りくださいまし」という声が聞こえた後、おもむろに彼は扉を開けた。
──しかし、そこには二十九番目の妃の姿はなかった。
代わりにいたのは、二十八番目の妃である。
そう、エルクウェッドが扉を開けた瞬間に、ちょうど時が前日に巻き戻ったのだ。
そのためエルクウェッドは、部屋の入り口の前で呆然と立ち尽くす。
彼は、おもむろに思うのだった。
──やはり駄目だ。どう足掻いても絶対に、今を楽しめる気がしない。
と。
そしてその後、彼は、「そもそも巻き戻されすぎて『今』っていつのことかもう正直分からなくなってきたんだけどな、畜生めェェェェェェッ!!!!」と、心の中でブチ切れたのであった。
♢♢♢
――何とか二十八番目の妃が終わり、そして二十九番目の妃も終了する。
彼は、自室に戻り、そして眉間を指で押さえた。
――最近いつも思っていたが、あまりにも自己主張が激しすぎる。時を巻き戻す『祝福』の持ち主の。
彼が十二歳の時からずっと、自己主張してきたそれが、ここにきてさらに激しくなった。
ある意味、他の妃たちよりも積極的に自己アピールしてきているのではないか?
彼はそう思ってしまうのだった。
――つまり何だ、もしかして本当に貴様は私に選ばれることを望んでいるのか? なるほどなあ、甲斐甲斐しい奴だ。はははは。ふふふふ。……はっ倒すぞ、畜生めが。
彼は、にこにこと笑みを浮かべながら、心の中でそう呟く。
けれど当然ながら、笑っているのは顔だけであり、その目は一切笑っていなかった。
むしろ怒りで目をかっ開き、完全に血走った状態であった。
残念ながら、たとえ無理やり忘れようとしても、全く忘れることが出来ないほどに、その存在感は強烈だ。
もはや自己アピールの権化と言っても差し支えがない。何せ、病める時も健やかなる時も、己を全力プッシュしてくるのだ。どうしようもなかった。
――やはり、迅速に件の相手を見つけることこそが、自身の心の平穏を保つ最短にして最善策となるだろう。寄り道している暇など無かったのだ。
そのように改めて認識した後、エルクウェッドは「次巻き戻ったら牢屋にブチ込む。次巻き戻ったら絶対に牢屋にブチ込むゥ……」と、超絶ブチ切れながら明日の三十番目の妃に、自身の希望を込めるのであった――




