『皇帝』視点 22
「──これで、ようやく二十人目か……」
ある日、エルクウェッドは自室にて、大きく息を吐きながら、そう呟いたのであった。
妃たちが後宮入りしてから、二十日が経過した。
しかし、当然彼の体感としては、それ以上の時間を経験している。
彼は、ため息を吐くのだった。
もう二十日。
しかし、この毎日連続で続いているループは全く終息を見せる気配がない。
──おそらく、今後もずっと続いていくことになるのだろう。
そう、予想して思わず彼は身震いした。
さすがに、このままではまずい。
非常にまずい。
彼は、焦燥感に駆られることになる。
この調子だと、いずれ限界が訪れてしまう。
それが、いつになるかは分からないが、しかし決して遠くはないだろう。
エルクウェッドは決意する。
──早急に、この時間の巻き戻しを行っている者を見つけ出さなければならない。
と。
「おそらく、その者は私の身近にいるはずだ」
ちょうど皇妃選びを開始してから、この毎日ループが始まった。
ゆえに、それに関わることの出来る範囲に、その者がいると考えるのが妥当だろう。
……というかもう、そのように考えなければ、この先メンタルを維持する自信がエルクウェッドには残ってなかった。
彼は、最後の賭けに出たのだ。
椅子に腰かけながら、エルクウェッドは必死になって思考する。
「一体、奴は何を企んでいる……?」
一般論から言えば、時を巻き戻すのは、何かしらの目的を達成するためであるはずだ。
そうでなければ、巻き戻す意味がない。
ならば、その目的とは何か?
それは、
「──私が特定の妃を選ぶこと。それしかない」
でなければ、こうも毎日時を巻き戻そうとはしないだろう。
毎日巻き戻ることにより、「彼がその日行動した妃を『最愛』として選ぶという可能性」を片っ端から潰していっているのだ。
そう考えれば、辻褄も合ってくるはず。
しかし、
「そんな素振りを見せた相手が、今までいたか……?」
現在のところ、残念なことに、いくら過去を振り返ってみても、自分の身の回りで怪しい言動を取っていた者がいなかった。
加えて、
「どうすれば、妃の特定ができる……?」
相手が望む妃。
それが誰なのか現時点では一切不明なのだ。
その妃が誰なのか分かれば、きっとその者の関係者もしくは妃本人が時を巻き戻す『祝福』持ちであるのだと、絞り込むことが出来るのだが……。
「巻き戻った回数が最も多い時の妃がそうなのか……? いや、そうとも限らないか。くそっ、難しいな……。とにかく妃全員と会ってみなければ分からないのか……?」
エルクウェッドは、思考の回転をさらに潤滑にすべく、グラスに注がれたりんごジュースをおもむろに口に運ぶ。
ちなみにそのりんごジュースは彼の手作りである。
実のところ彼は宮殿の果樹園にて、自分用のりんごを栽培しており、この前は収穫もきちんと自分で行っていた。
「――だが、やりようは十分あるな」
彼は、しばらく思考した後、そう結論を下す。
何しろ、今まで、相手は自分を一切認識していなかった。
しかし、意識的か無意識的かまでは分からないが、今はこちらをしっかりと認識しているのだ。
――ならば、自分の言動によって相手を操ることもできるはずだ。
彼はそう考えるのであった。
――道は以前より開かれた。
間違いなく。
「――待っていろ。いずれ、目に物を見せてやるぞ」
そう、エルクウェッドは、宣戦布告を果たす。
今まで苦汁を飲まされてきた。
しかし、ここからは自分が主導権を握る。
そう、戦意を滾らせながら、彼はその後、無意識に再度りんごジュースを飲もうとしてグラスを持つ手を動かす。
――しかし、そこにグラスは存在していなかった。
時が巻き戻ったのだ。
エルクウェッドは、そのことに気付いた瞬間、すぐさま椅子から立ち上がって、慌てて自室の暦を確認する。
そこには、
「は、二十日前……!?」
そう、しっかり二十日前まで、時が巻き戻っていたのである。
つまり、また最初から。
一番目の妃からやり直しである。
エルクウェッドは、愕然としながら椅子に深々と座り直した。
そして、
「貴様……っ! ――その一手は流石に反則技だろうがァァァアアア!!! この、ド畜生めェェッッ!!!!」
悲鳴を上げながら、ブチ切れる。
彼は、目に物を見せられたのであった。




