『皇帝』視点 15
皇帝に即位したエルクウェッドは、今までと変わらず、次々と新たな功績を打ち立てていった。
もちろん、彼がそうすることが出来たのは、相も変わらずループに巻き込まれているからに他ならない。
彼は、皇帝となった今でも、以前と同じようにブチ切れていた。
しかも、自分が行う仕事の量や重要度は、皇太子であった時よりも格段に上がっており、なおかつより手間のかかるものばかりと化したため、彼は以前以上にブチ切れることとなったのであった。
「──おい! 貴様ァ! いい加減、人の心を持つことを覚えろ!! この悪魔め! いつか貴様を見つけたら、絶対牢屋にブチ込んでやるからなァー!! チクショウめェッ!!!」
そのように、彼は人知れず荒ぶりながら、結果的に自身の仕事を完璧にこなしていく。
彼は、即位してからわずかな期間で、国民から『賢帝』と呼ばれて、親しまれるようになった。
そしてその呼び名は、国外にも瞬く間に広まっていく。
──『賢帝』エルクウェッド・リィーリム。
彼のその名の影響により、大陸におけるリィーリム皇国の地位は盤石なものとなったのであった。
人々は言う。
彼が現在も力を尽くしているからこそ、この国はこうして平和を維持出来ているのだと。
そして本人は思う。
皇帝になった後、生き地獄が以前よりもパワーアップしたので、何だかブチ切れ方にもバリエーションが出来てきたな、と。
「……おい、やめろ。それ以上、巻き戻るんじゃあない。いいか、落ち着け。五日までだ。五日までならば、今回だけは私も貴様を許すつもり──アアーッ!! 十日!! おい! 十日ァ!!!」
皇帝となった彼は、皇太子であった時のような頻度で他者と交流することが出来なくなっていた。
しかし、だからと言って彼は時を巻き戻す『祝福』の保有者を探すことを諦めるつもりはない。
むしろ絶対に見つけてみせる、と気力をみなぎらせるのであった。
「心して待っていろよ、貴様……! 見つけた時、決してただではおかないと知れ。この積年の恨み、必ず晴らしてや──まぁた、戻ったな……? いい度胸だ……!! この私を一体誰だと思って──お、おい、まだ戻るのか……? さすがに、それは、その、戻りすぎだ……。もう、止まるよな? 頼むぞ、おい……」
彼は数多のループを経験してきた。
しかし、それでも彼の精神は未だ壊れてはいない。
おそらくそれは──せっかく終わらせた仕事を白紙に戻されたりといったような、今まで何度も経験させられてきた数々の理不尽に対して湧き上がってくる、この激しい怒りの感情こそが、自身の正気を保つ秘訣なのではないか、と彼は大雑把に考えていたのであった。
まあ、とにもかくにも、
「アアーッ! 性懲りも無く貴様!! 許さんッ! 許さんぞ! 許さんからなァー!!」
──エルクウェッドは、またいつものように唐突にループに巻き込まれてしまい、そして毎回のようにブチ切れるのであった。
次回から、後宮要素出てきます