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チーズバーガーと八月の太陽

田澤三郎はマクドナルドに入った。それでチーズバーガーを注文した。

チーズバーガーは140円だ。ハンバーガーは110円だから30円も高かった。


「俺はチーズバーガーがにあう男だぜ」


席についた田澤がバッグを漁った。

中からコーラが出てきた。近所の業務用スーパーで買った28円のやつだ。安かった。


「くそお!もうちょっとで契約とれたのによお!」

「ママー!あのおじさんどうしてうるさいのー?」

「しっ、見ちゃダメ!」


離れた席のガキが田澤を指さしたので田澤が睨んだ。でも隣の男子大学生三人が「何コイツ」と見てきたので慌てて目をそらした。

それからチーズバーガーの包み紙をはがしてチーズバーガーを食べ始めた。


「チーーーーーーーーズひゃっほい!!」


チーズのドロドロ感とコーラのしゅわしゅわ感がいい感じだったから田澤が叫んだ。

浄水器の押し売りに失敗したことを忘れられてよかった。やったぜ。

でも会社に帰ったらまた怒鳴られるんだ。


すると前に40過ぎの小太りのおばさんが座った。他の席も空いてるのになぜか。

トレーをドンと置かれて田澤がビクッとした。

しかもトレーの上が凄かった。


「ダ、ダブル……チーズバーガー……しかもセット!?」


40過ぎの小太りのおばさんは名前を平岡という。

平岡はニヤッと笑ってダブルチーズバーガーの包み紙をはがした。それで食べ始めた。

しかも右手でポテトをつまみながらだった。しかもポテトはLサイズだ。


「嘘だろ……このオバサンまじか!ダブルでしかもポテトをLサイズ変更でコーラを業務用スーパーじゃなくてマックで注文したのか!?」


田澤が人生でマクドナルドのポテトを食べたのは5回しかなかった。他の人が置いて行ったトレーをコッソリ持ってきて容器についた塩をなめるのが趣味だった。

平岡はそんな田澤の前でダブルチーズバーガーとポテトを食べていた。


クチャクチャという咀嚼音が田澤の耳へ暴力的に侵入してくる。クソっ!俺だって浄水器がもっと売れればポテトが食えるんだ。クソっ!

それでコーラもコッソリ持ち込むんじゃなくてセットで頼めて窓際で足組んでパソコンしながらカッコイイとこ見せられるんだ。


「ポテトはLサイズだねぇ。Sなんてダメだよぉ。マックのポテトはLでなきゃねぇ」


おばさんが独り言を言いながらポテトの容器をつかんで残りを一気に流し込んだ。

それからコーラをぐきゅぐきゅ飲み干した。ダブルチーズバーガーはもうなかった。

田澤の手には冷えたチーズバーガーが三口分残っていた。28円のコーラがしゅわしゅわ言ってた。


ニチャア


おばさんが田澤を見て嗤った。田澤は何も言い返せなくて視線を逸らした。

トレーをそのままにしておばさんは出て行った。


「……なんてやつだ。あれがお金持ちって奴か。クソっ」


トレーの上に残されたポテトの容器をなめながら田澤が言った。

ニチャアと嗤ったおばさんの顔が忘れられなかった。


もしかして俺、恋してる!?

もしかして俺、恋しちゃってる!?


田澤は外に駆け出した。マクドナルドの前の人通りが多くておばさんの姿はもう見えなかった。

田澤は叫んだ。


「WCSL(ダブルチーズセットLサイズ)のおばさん!」


田澤の叫び声は人混みに消えていった。

八月の太陽が嗤っていた。

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