あめふりとりのうた
雨の森に、今日も歌が響く
夜明けから、日が沈むまで
ずっと
あの鳥の歌が聞こえる
けして美しいとは言えない
澄んだ声とも違う
でも心に響く、懸命なあの歌が
その鳥は、天の国で暮らしている
天の光を地上へ届ける仕事をしている
晴れた日には翼にたくさんの光を乗せて、太陽の光とともにゆっくりと地上へ降りてくる
その羽の一枚一枚にたっぷりと光を含ませて、世界へと届けるため
けれど厚い雲で太陽の道が塞がれる、そんな日は
雨とともに地上の森へやってきて、恋人のために歌を歌う
しっとりと水に濡れた翼は重いけれど
恋人に会える
その喜びで心は軽々と舞い上がる
森では今日も、恋人が彼を待っている
そしてときには、天の国で咲いた花々を地上に降らせる事もある
それは年に何回かしかない特別な夜
空に大きな満月が輝く特別な夜
祝いの船とともに空を舞う
大きな天の船にはたくさんの花が飾られて
その花を仲間たちと1つ1つ抜き取って
花には、それを飾った天使たちの心が込められていて
降りしきる花々は世界へ小さな奇跡を届ける種となる
けれど雨で船が飛べないそんな夜
雨雲の隙間を縫って、鳥は地上へと降りていく
たった一輪の花をくちばしに咥え、奇跡を願って森へと飛ぶ
森で待つたった1人の愛しい恋人の元へ
鳥は今日も天の国と地上を行き来する
静かに天の食べ物を食べ
静かに光を届け
静かに天で眠り
静かに天と地で舞って
ときには静かに天の花を降らせ
雨が降れば地上に降りてきて恋人に愛の歌を歌う
季節がいくつも変わっても、恋人のため、鳥は森へ降りていく
森の中にはいつの頃からか、1つの像が建っている
その像は永い年月風雨にさらされ
ひびが入り、蔦に絡まれ
けれど壊れることなく、蔦に覆われることもなく、そこに建っている
その手は繊細な動きで顔の前に持ち上げられていて
優しげな瞳はその手の甲の上で視線がとめられていて
楽しげな唇はまるで歌を歌うようにほんの少しだけ開いていて
ぽつり、ぽつりと雨が降り出した
そしてその雨がさあさあと音をたてて森を包む頃
空から鳥が一羽、舞い降りてくる
娘の像のその手の甲に
そして愛の歌を歌い出す
それはまるで娘の像と愛の歌を歌い交わしているかのように
像の台座の前にはたくさんの花が輝いている
けして枯れない天の花が、風に飛ばされる事なく、娘の像に捧げられていた
花々はいつか、ここから天へと登る虹の橋をかけるだろう
娘の像はいつか、壊れて自由を得るだろう
けれど今は
霧雨の降る森の中で
冷たい冬の雨降る森の奥で
土砂降りの雨の森で
今日も、あの鳥がないている