沈む音
どんなものにも似ているものがある。そんなことを思いながら私は窓を眺めてため息をつく。雨が降っている。こんな日に出かける約束なんてしなければよかった。
「一昨日からの約束だし、理由なく断れもしないか…。」焼却炉に捨てるように言い、私は待ち合わせの時間丁度に家を出た。傘を指し弱風に体を煽られながらも散歩まがいに待ち合わせ場所へ向かう。普段通ったことのない小路を通ってみたりして、でも向かう道は間違えないように注意して、なんとか少しでも遅れて着こうと思って。そんなことをしているうちにいつの間にか着いていた。待ち合わせ時間よりも30分ほど遅れて着いた。
「流石に雨の中長い間待つことなどできないだろうな。」少し安心の混じった声で呟く。帰ろうとしたその時、
「美桜!」笑顔混じりの友紀の呼び声が聞こえる。思わず
「帰ったんじゃなかったの?」なんて驚いた口調で聞くと
「何言ってんの?ここ駅だよ。時間潰す為のお店とかいっぱいあるんだから。誘ったの私なんだからいくらでも待つよ!それに友達を置いて先に帰るのは失礼だし個人的にやだし…。今日すっごく楽しみだったんだから!」あぁもう、友紀には敵わないな。友紀は、例えるなら容姿端麗や才色兼備が相応相応しいと思う。どんなにも面倒くさいとも思うことを誘われたとしても憎めない。そんな存在だ。
「さぁ、早く電車に乗ろ!!」はしゃいでるなぁ、友紀は。元気だ。なんて他愛もないことを思いながら私たちは電車に乗った。
電車の中でも雨音が聞こえる。窓には朝頃よりも強く雨粒があたる。乗客は雨だからか普段よりも少し多めに見られた。席は空いておらず、高い方の吊り革に二人手をかける。
走り出した電車は好きな話題を振られ流暢に喋る明るい人のように元気よく、止まることがないかと思わせるようにスムーズに走る。私達はショッピングをしに東京へ向かっている。速く流れる景色を友紀とのなんてことない会話に相槌をうちながら眺める。時々、会話が途切れる時はその時見た景色が何に似ているのか考えながら見るのが案外楽しい。
こんなことを思っているわけだが決して会話がつまらないわけでもない。
「今どんなこと考えてるの?」なんて言われたとき、なんて答えようか四苦八苦しながら
「ないしょ。」って返して顔を見たら苦笑いしてて、そんなくだらなく思えるやり取りがとても楽しくて、あぁ今青春てやつをしてるのかもしれないなんて考えも浮かんで、窓の外を少し覗いたら少しだけ雨がやんだ気がして、よかったなって思う。朝はあれだけ嫌だったのに今じゃあまり苦ではない。彼女、友紀は心を晴れさせる特別な力があるかもしれない。
「ショッピングが終わって時間が余ったらどうする?」って聞かれて咄嗟に
「神社に行きたい!」なんて柄にもなく少しだけ高めのテンションで答えたら、恥ずかしくなって顔を俯かせた。でも
「行きたい所を言うの珍しいね!嬉しい!時間余ったら行こっか。」
恥ずかしさを拭いとるような返しがきて思わず口角が上がり、嬉しさをひた隠すように再び顔を俯かせた。信じるのも悪くないな。みんながみんな自分にたいして劣悪な目をむけているなんて思うのは杞憂だったみたい。
照れ隠しでうつむかせた顔をあげたとき、電車は駅のホームに停車していた。もうそんなに時間がたっていたのかと気がついたとき、朝方の憂鬱な気持ちで遅れてきたことを酷く後悔していた。
そんな私に気を使ってか
「沢山服を試着したいな。」微笑みかけながら言ってくれて
「そうだね。」思わず答えて。楽しい。
ショッピングしにきて何も買わずに帰るよりもなにか買って残して着てみて些細な日常を体感したい。
雨はもう止んでいる。