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洋菓子店 Pumpkin lake 第九話

作者: NEPENTHE@ゆりりん

ここは、町外れにある洋菓子店「Pumpkin lake」

もう随分前からそこにあるお店は、朝から晩までぼんやりとした暖かい灯りが窓から漏れています。

風の噂によると、店主はまだ若い青年で、来店できるのは一日に一組と言うのです。栗毛色した扉にある貼り紙には

「来店時間はお客様の都合の良い時間に。お代は戴きませんが、その代わりに貴方の大切な思いを聞かせてください。」と書いてあります。

その言葉を疑って来店をしない人達もいますが、今日もまた誰かが、お店の扉を開きました。


いらっしゃいませ。おや、これはこれは…


店主はご来店の家族を見るやいなや深々と頭を下げました。扉の前に立つ彼らはとてもきらびやかで、店主には眩しすぎました。いえ、きっとここの国民やお隣の国民も皆一様にそうなのだと思います。窓の外にはそれはそれは大きな馬車が2つ並んで居ましたので、今日はこれに乗って皆さまいらっしゃったのでしょう。

真っ赤なドレスをお召しになったお姫様は、以前、ここを出られる時と同じ様に背筋を伸ばして尚且つ口許をきゅっと結んでおられました。その後ろに並んで立つ国王様とお后様のお召し物の裾が長いこと長いこと…なので、その後ろにお付きの者がしっかりと持っていました。

そして、お后様の腕にはしっかりと赤子が抱かれています。

お姫様は赤子の顔を覗き込んでにっこりとして、それから店主に顔を向けて


ケーキ屋さん、お久しぶりね。今日は皆で食べるケーキを買いに来たの。ねぇ、どう?わたくしの妹、可愛いでしょう。


お久しぶりです。ええ、とっても愛らしいですね。


ほんの少しの間だけ、お姫様と店主が楽しく会話をしていましたが内容は妹がどれだけ可愛らしいかと言う自慢ばかりでした。店主も嬉しそうに何度も頷いて聞いています。

その間、国王様はお后様を近くの椅子に座らせてショーケースへと歩み寄りケーキを近くで眺めていました。店主はその様子を盗み見て、きっとお城ではこれ以上にいいケーキ達が毎日出てくるのでしょうがと少し緊張をしていると、お姫様が店主の背中をポンポンと押して


今日は貴方のオススメを買いに来たの。どれがいい?勿論、妹の誕生記念にいただくものよ。わたくしやお母様とお父様がどれだけこの日を待ちわびたか、分かるわよね?


え、ああ……そう、ですねぇ…オススメ、ですか。


いつもお客様に選んでもらっていたために、オススメと言われると戸惑いを隠せない店主。どうするかと、顎先を触りながらロビーをうろうろして考え混んでしまいました。


うーん、オススメ、オススメ…


まだかしらー?


す、すみません…それでしたら、オススメは…タルト・オ・フロマージュ、これにしましょう。


店主はショーケースに並ぶホールケーキの中から、表面がピンクと白の混ざりあった模様の可愛らしい物を選びました。

そして店主はショーケースの内側にお姫様を呼ぶと、奥の部屋で小声でこっそり教えます。


良いですか、お姫様。


なぁに?


この小さなシュークリームを重ねると、何になりますか?


え?…えーと、んー?


雪だるま、です。まだ寒いから、小さな妹様とは雪遊び出来ないでしょう。だから代わりに、こうやって暖かい飴でくっつけて…あとはチョコペンで顔を書いて、雪だるまの手はこのチョコレート菓子を。ほらどうですか?


あら、素敵ね。


お城で作れるように全文入れておきますから、皆さんの前で作ってあげてください。きっと、喜ばれると思います。


ありがとう、ケーキ屋さん。貴方、いつもお優しいのね。


お姫様は微笑むとすっかり心を許した様な笑顔で店主にくっつくと店主の鼻先にちゅっとキスをしました。

慌てる店主を横目でおかしそうに、でも照れた笑みを見せると先にロビーに出て持ち帰り用のケーキの箱を広げて先程の雪だるまセットもこっそり入れて。そうしていると店主も出てきて、先程のレアチーズケーキを箱に詰め手提げ袋に入れてお姫様に手渡しました。


お父様、お母様、帰ったらわたくしからもプレゼントがあります。楽しみにしていてくださいね。


その言葉に国王様とお后様は、にっこりと笑んでお姫様の頭を何度も撫でました。

それから店主に頭を下げて、国王様が口を開きます。


この間も今日も、娘の我が儘を聞いてくれてありがとう。


い、いえ!とんでもございません…喜んで戴けて光栄です。


……、良ければ君をうちのお抱えのシェフにしたいのだが…どうかね?


その言葉に店主よりも先にお姫様が国王様の傍に寄って、声を大きく賛成しました。


お父様!それはいいわね。そうしましょう、そうしたら…


申し訳ありませんが…それは困ります。私はまだ此処で色んな方をお迎えしたいのです…。


店主がやっとの事で口を開くと申し訳なさから国王様やお姫様とは目を合わせる事が出来ませんでした。そんな姿を見て、椅子に座って見守っていたお后様が


ほら、困らせてはいけません。またお伺いいたしますから、その時はまた宜しくお願いしますね。


は、はい!またのご来店をお待ちしております。


お后様の助け船に、店主はほっと胸を撫で下ろして皆をお見送りしました。

ふと後になって、鼻先にじわりと残る熱に気付きロビーにある姿見を久しぶりに見てみると顔が赤くなる自分に気付いて、恥ずかしさと驚きと一日中落ち着かない店主なのでした。


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