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落ちこぼれ騎士の学園反逆記  作者: あねものまなぶ
最低教室のカヴァリエーレ
7/11

07

「失礼します」

開け放たれた扉から、姿を見せる長身の男性。

銀髪を短く切りそろえた、気品あふれる立ち振る舞いを魅せる。


「おや、副会長君ではないか、元気しているかね?」

「えぇ、先生も相変わらず元気そうですね。安心しましたよ」

親し気に挨拶を交わすローレット。

その表情から、旧友にあったかのような距離感が伺える。


「お前が来るという事は、大和の様子を見に来たのか?」

「えぇ、新入生がクラスに馴染めているのかを確認しに来ました。会長はアラスタス先生の教室に、書記は彼女達の教室に言っています」

「あぁ、奴の教室に行くには、確かに、書記が最適だろうなぁ」

書記が向かった教室のことを思い浮かべ、ゲンナリする。


「この教師に来たのが、お前でよかったよ。会長殿がきたら何を言われるのか分かったもんじゃないからな」

その言葉に副会長も苦笑いする。


「確かに、会長なら皆さんに突っかかるかもしれませんね。真っ直ぐすぎますからね、彼女」

「だな。その点、お前は清濁併せのむことが出来るから、安心だ」

その言葉に反応する者がいた。


「ちょっと先生っ! その言い方だと、私達が濁っているみたいじゃないですかっ!!」

頬を膨らませ、両手の拳を握りながら怒る。


「はっはっは。いいか、ホウント。私は綺麗子ぶって表面上ばかり取り繕う奴よりも、欲に忠実で、剥き出しの奴の方が人間っぽいと思っている。人間の本質は濁りにあると思っている。そういう意味では、ここにいる奴らは、アスラスタの奴らよりも人間っぽくて私は好きだぞ?」

「えぇ、先生は私達の事が大好きなの?!」

「勿論だ。お前らは、人間の本質を観て、体験して、此処にいる。私はお前らが大好きだぞ?」

茶化すようにクラスメイト達に言う。

その言葉にホウント以外も、肩をすくめたり、笑ったりと和やかな雰囲気が教室を包む。


「これならば、大丈夫そうですね」

すっかり、教室に溶け込んでいる大和を見て、安心する副会長。

大和の席の前に歩みを進める。


「初めまして、生徒会副会長のヤン・ドナルエルと申します。困ったことがあったら、何時でも相談くださいね」

「新入生の大和です。こちらこそ、よろしくお願い致します」

席を立ち、ヤンに挨拶する。


「それでは、私はここで失礼させて頂きます」

教室を去ろうと、扉に向かい歩みを進める。


「ヤン。今年は、こいつらも"学生戦争"に出場するぞ」

その言葉に穏やかな表情を崩し、驚きに変わる。


「それは、一大事ですね。まさか、リースさんもその気なのですか?」

視線の先には、寝る体制を決めている男の姿。


「あぁ、先生がやる気だからなぁ。お前さんも知ってるだろう? この人は一度決めたら、梃子でも動かんぞ。なら、抵抗するだけ無駄だろ?」

「そうですか。ならば、生徒会も油断は出来ませんね。それこそ、今年の我が校の代表の座を明け渡すことになるかもしれませんね?」

「期待してろよ、落ちこぼれ共の戦争を」

「えぇ。勿論です。ではこれで」

一礼をして退出する。


大和がローレットに質問する。

「"我が校の代表"というのは、学生戦争に関連した事なのでしょうか?」

「そういえば、まだ説明していなかったな。大和の為に、説明してやろう」

黒板にまたもや、文字を書き連ね説明を始める。


「おう、大和以外もしっかり聞いておけよ。特に、ホウント以外の野郎共」

三人の視線が黒板前に立つ女性に集中する。


「外の景色観たり、妄想したり、寝やがったりをすんなって言ってんだ。分かったか?」

大人しく3人とも、視線を前に向けたことを確認し説明に入る。


「"学生戦争"と言うのは、5人一組となって、ルールに則った戦争を行い、優劣を付ける戦争を競技レベルに落とし込んだものだ」

黒板に5人対5人の構図を描く。


「いいか、ルールと言っても極めて簡単だ。4人が参加者、一人が補欠となり、相手を全滅させることを目的としている。勿論、競技と言っている以上、殺したり、度が過ぎる力を使った場合は失格となる」


ローレットの説明を受け、大和が手を上げる。

「質問なのですが、"度が過ぎる力"とはどの程度を指すのでしょうか?」

「いい質問だ。例えばだな....」

エドガールとヴァルキュリャの似顔絵を黒板に書く。


「エドガールが召喚できる彼女。彼女の力の5割程度がギリギリのラインとなる」

ヴァルキュリャの横に5割と書く。


「つまり、女神様基準で言うと、大和の枷を1つ解いた程度の力が許容範囲だ。2つ以降は厳しいだろうな。あれ以上は、死人が出る」

(...成程。1つめの枷がギリギリか。となると、あの状態が私の切り札となる訳ですね)


「お前らは個の力で見た場合は、強いが群れの力で見た場合は弱い。これは間違いない」

ローレットの言葉を聞き、先程の中庭での戦闘を思い出す。

(確かに、皆さんは常に1対1での戦闘を行っていました。今思えば、個人プレーの塊。いや、それぞれのスタイルが確立されているが故に、連携が取りにくいのですね)

納得する大和。


「気づいたか?こいつらのスタイルは、いずれも周りを巻き込みかねん。唯一、メディックが柔軟に対応出来るだろうが、本来は治療が専門。更に、本人にやる気がないと来ている」

その言葉に外の景色を視界に移すメディック。


(力の限りに殴り倒す、女神を召喚、周囲の大気を震わせながら迫る黒の凶弾。確かに、個人で戦った方が効率がいいですね)

「では、学生戦争に向けて、連携を高めて行くという事でしょうか?」

大和の質問に頷く。


「その通り、お前らにも仲間と戦うという事を覚えてもらうぞ。分かったな?」

その言葉にピンク髪を揺らしながら反応する。


「おぉっ! 私とメディック君のコンビネーションアタックが炸裂しちゃうかもね!!」

メディックの肩を揺らしながら興奮する。

ガクガクと揺さぶられるメディックの顔色がどんどん青ざめていく。その力の強さを周囲は感じ取り、顔をしかめる。


「おいおい、ホウント。コンビネーション以前に、メディックが死んじまうぞ。そろそろ離してやれ」

その言葉に驚いたように手を放す。

ようやく解放されたことに安堵し、ぐったりと机に倒れ伏すが、更なる魔の手がメディックを襲った。


「メディック君。大丈夫っ!! ねぇ!」

ぐったりと倒れこむ、メディックを心配し、肩を掴み揺さぶる。

上下に揺らされる反動で、頭を机に叩きつけられ、デコが赤く染まっていく。


「メディックは、青くなったり、赤くなったり忙しいね」

苦笑いしながら呟くエドガール。


なにを言ってもメディックの犠牲は付き纏うとであろうと結論付け、周囲は次のステップへ話を進める。


「と言う訳で、お前らには連携を言うものを覚えてもらう。その為に、用意した今年度、初の授業は"個人を知ろう"だ」

黒板に書かれた文字を読み上げる。


「お前らは、未だ、力の上辺しか見せていないだろう?様々な理由があると思うが、それを限界まで私を含めた、このクラスの連中に晒せ」

「個人の力を把握して、そこから連携をどうするかを考えるってことですかぃ?」

「流石に理解が速いなリース。その通りだ。勿論、それぞれが秘としたい部分については除外する」

ローレットの言葉に一応、理解を示した面々。


「んじゃ、付いてこい。ローレット教室の特訓場に案内してやる」

その言葉を皮切りに、教室の外に向かうローレット。


「ホウント。メディックを運んでやれ」

「了解!!」

先程の出来事でダウンしたメディックを背負い上げるホウント。


「んじゃ、行きましょうか」

ローレットの後を付いていく面々。


ローレット教室を出て、左手。更に奥を進んでいくと、地下へと続く階段が。

その扉の先に広がるのは、見渡す限りの広大な大地。

剥き出しの岩肌に、緑が生い茂る森。

とても地下とは思えない光景に驚く。


「地下に...こんな場所が...」

「そうだねぇ。僕も初めは驚いたよ。なんせ地下に森があるんだから」

大和の隣でエドガールが言う。


「これもローレット先生の御蔭らしいよ」

「ローレット先生の?」

「あぁ、なんでもこの空間を保っているのはローレット先生の力の一端が理由らしい。詳しくは教えてくれないけどね...」

噂の彼女が声を上げる。


「おう、これからお前らの力を見せて貰う。方法は簡単だ。私と戦え」

その手には挿し棒を持ち替え、木刀を持っている。


「メディック。起きろ」

ホウントにより運ばれ、転がされていたメディックに声を掛けるリース。


「いたた。ったく、凄くデコが痛い」

目を覚ますなり、デコを抑える。


「リース、状況説明をくれよ」

「あぁ、俺達は先生と戦って、力を測られるらしいぜ?」


「あぁ、学生戦争に向けての特訓って感じ?」

「そうだな。なんでも連携する必要があるから、それぞれの力を出来る限り観たいんだとよ」

「また、あの人は....。しょうがないね。ほら、ホウントも構えなよ」

「了解っ!」

それぞれの得物を構え、眼前に立つ木刀を構えるローレットを見据える。


(ローレット先生との戦い...先生はどれほどの...)

「大和君。ローレット先生は、かなり強いよ」

「えっ!?」

「ヴァルキュリャが言うには、7割以上の力を出さないと勝てないそうだよ?」

「そんなに....」

「入学初日から大変だと思うけど、このクラスは毎日がこんなものさ。気合をいれて行こうか!」

「はいっ!」


準備が整ったことを確認し、ローレットが大地を蹴る。

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