05
ローレット教室の面々は、机に座り黒板の前に立つ女性の声に耳を傾けている。
「と言う訳で、殴り合いコミュニケーションを通して、こいつ等のことは概ね理解できたと思う」
(....無茶苦茶ですね)
「なんか文句あるのか、大和?」
眉間に皺を寄せ、般若のような形相で睨むローレット。
片手に持つ指し棒が鋭利な刃物に見えてしまう程に恐ろしい。
「なんでもありません」
「よろしい。と言っても、流石に不親切すぎるからな、お前ら自己紹介しろ」
4人は表情を歪ませる。
「お前らが次に口を開く時、それは自己紹介をする為だ、そうだろぅ?」
抗議の声を上げることは許されなかったようだ。
ギロリと睨みを利かせ、4人を見回す。
「じゃぁ、メディックからな」
その言葉に窓際の右列席に座る目元が隠れている男性が嫌そうな声を上げようとしたが、寸での所で引っ込めた。
「俺の名前は、トリート・メディック。メディックでいいよ。よろしく」
簡単に挨拶をし、腰を下ろす。
「見ての通り、地味な男だ。おまけに彼女もいないし、協調性もない。目ん玉が本当にあるのかも分からない。ただ、この学園の誰よりも治療の腕はいい。何かあったら、メディックに言えば大抵の怪我は治るだろうさ」
「対価をくれれば歓迎するよ」
手をヒラヒラと振りながらニヤリと笑う。
「んじゃ、次はホウント!!」
「はいっ!!」
ローレットの呼び声に、きっちりとした敬礼をしながら、メディックの隣の席から飛び上がるピンク髪の少女。
「改めまして、レイズ・ホウントで~す。 可愛いものと可愛い人が大好きです! さっきは、先生の指示とは言え、殴り飛ばしてゴメンね?私自身、力の制御が出来ていなくて....でへでへでへ」
「こいつは、見たまんまの能天気な女だ。この中では一番、まともに会話が出来るだろう。ホウント、暫くは大和の面倒を見てやれ」
「了解であります!」
「ホウントさん。よろしくお願いします。後、先程は、背中を切ってしまいましたが大丈夫でしょうか?」
先程の、中庭での戦闘では、大和の斬撃により背中に傷を受けダウンした。
「だいじょうぶだよ~。メディックが綺麗に直してくれたからねぇ~」
当のメディックは、なんてことなかったのかの様に外をぼんやり眺めている。
「大和には、ホウントの訓練を手伝ってもらう予定だからな。女を傷者にした責任はしっかりとれよ」
「大和くんったら~、ダ・イ・タ・ン」
顔を赤らめ、くねくねと体を動かしながら紡がれる言葉。
この瞬間のみ、大和の視界には謎のピンク色のフィルターが掛かった。
「ローレット先生っ! 何か誤解を生むような発言をしないで頂きたいです!」
発端であるローレットは高笑いを決め、大和の抗議を無視する。
「次は、エドガール」
「了解」
黒板前に立つ大和から見て、左列の前の席。
金髪の男性がキザったらしく立ち上がる。
「先程は、良いものを魅せて貰ったよ。ありがとう。改めて名乗らせて貰おう。私の名は、エドガール。ただのエドガールだ。私は女神の力を借り受けることで戦闘を行う。大和君には助けてもらう場面も出てくるだろう。どうぞよろしく」
恭しく一礼をし、着席する。
「で、最後は」
左後ろに頬杖を突き座る男性。ローレットの視線を受け立ち上がる。
「俺が、最後だな。リース・ウォーク、それが俺の名前だ。リースとでも呼んでくれや。一応、このクラスのまとめ役をやっている。何かあれば、言ってくれ。何も出来なかったらごめんなぁ~」
締まらない挨拶で腰を下ろす。
「最初の2人が二年。残りが三年の4人。そして、一年が一人。この5人が今年度のローレット教室のメンバーだ。ほれ、メディック、大和の席を持ってこい」
「えぇ、そ..分かりましたよ」
文句を言おうとしたら睨まれた。
ローレットの命令には逆らえないようだ。
数分後には、机が教室の真ん中に置かれた。
「あのぅ、なんで教室のど真ん中に私が配置されたのでしょうか?」
左側には、メディックとホウント。
右側には、エドガールとリース。
挟まれるように、大和の机がぽつんと置かれている。
「それは、あれだ。何となく、収まりがいいだろう?」
キリっとした目で、さも当然のように言い切るローレット。
ここで言及したい所だが、行きつく先は鋭い眼光がと思い、渋々ながら席に着く。
「おし、全員が揃ったところで、大和の為に、特別にこの学園のシステムを教えてやろうではないか」
「あ、ありがとうございます」
目の前の黒板を使い説明を始めるローレット。初めて見る、教師らしい姿に感動した大和であった。