表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落ちこぼれ騎士の学園反逆記  作者: あねものまなぶ
最低教室のカヴァリエーレ
4/11

04

大和が構える抜き身の刃が白い光に包まれた。


「ほぅ、ようやく動き出したか。何を見せてくれるんだぁ、女神の弟子」

背を壁に預け、大和の動きを観察するローレット。

期待通りに事が進み笑みが零れる。


ローレット教室の他3名も戦況の変化を感じ取り、一層、目つきを鋭くする。

大和の力量を推し量るように。



(正面からの殴り合いは圧倒的不利!...ならば、速さで上回るしかないっ!)

輝く刃を二度振るう。

横に一閃、切り返すことで更に一閃。


目の前で起こった、一見、意味のないと思える行動に拳を握り直す。

大和の行動を一種の威嚇の類だろうと思ったのか、気にも留めずに、飛び込んでくる。


しかし、彼女以外はその不自然さに気づいた。

いや、本来ならば、彼女も気づいていたのかもしれない。


未だに残り続けている、2つの軌跡の事を。


「あれは、先程の刀の軌跡が空中に残っている...いや、斬撃を留まらせたのか」

ローレットの推測が当たっているのかは、後の戦況が答えを示してくれる。


気づいた時にはもう遅い。

高速で飛び出す彼女は、進むしかない。例え、白い軌跡が在ろうとも。

右拳を引き絞り攻撃態勢に映る。またもや、黒い靄が何処からともなく発生し、大和の行動を阻害する。視界を奪う事で、回避、防御体勢を取れないように動く。



その動きを確認すると体勢を低くし、先程とは比べ物にならない高速の動きを披露し、拳を構える彼女の後ろに回り込む。

先程のまでの速度に慣れていたため、大和の急な速度変化に対応しきれず、視界から外してしまう。


「へぇ、今までは態と速度を落としていたと。やりますね」

戦況を見守っていた金髪の青年が驚きの声を上げる。


「でも、彼女には文字通り、"ついて"いますから」

次の展開を予測し、どうなることかとワクワクしながら視線を大和に向ける。


大和の視界には、ガラ空きとなった彼女の背中。そこ目掛け、一太刀を浴びせる。

(貰ったっ!!!)


白刃は黒き靄により停止された。

動きを阻害するのではなく、靄自体が防御を行った。


(本当に、意志があるかのようですね)

靄に捕らわれた白刃を手前に引き、後退。立て直しを測ろうとする。


靄から刃を引き抜こうとした瞬間、上半身を大きく捻り、勢いに任せた左手による裏拳を繰り出す。


「この程度では、私に届かないっ!」

刀は靄に捕らわれ、両手もふさがり、回避も防御も間に合わない。

ガラ空きの側頭部に向かって裏拳が飛ぶ。




大量の出血と共にふらつく体。血を流していたのは裏拳を放った彼女の方だった。

大きく捻ったその背中から、切り裂けれたように血が溢れ出す。


「っ! な、なぜ...」

背後に視線をやると、先程から空中に残っていた2つの軌跡がゆらりと消え去る。


「油断した...」

2つの軌跡は斬撃そのもの。それを背後に一太刀浴びせた数瞬後に、炸裂させたのだ。

それにより、前後、2つの斬撃に対応できず、地面に沈むことになった。


「メディック。ホウントを」

後ろに控えていた、先程のナイフを使っていた青年が倒れ伏した彼女に駆け寄る。

右手を彼女に向ける。

緑の魔方陣が掌の前方に出現、同色の淡い光が彼女の全身を包み、見る見るうちに傷を塞いでいく。


ついでと言わんばかりに、大和にその右手を向ける。

体力かでは回復できないが、先の戦闘の傷は綺麗に塞がった。

「ありがとうございます」

メディックと呼ばれた青年に頭を下げるが、片手で制される。


「気にすんなよ。ついでだ...それに、アイツとやるにはその傷は邪魔だろ?」

ピンク髪の少女、ホウントを肩に担ぎ、ローレットの元に運ぶ。

そのまま、地面に座り観戦の体勢に入る。


「おい、メディック。お前はまた、手を抜いただろ? ホウントを見習え」

「俺は、十分、彼の事を理解できましたよ。それに、力を測りたいなら、俺よりも、あの人たちの方が良いと思いますよ?」

悪びれることのない態度を見て、嘆息し、視線を彼らに戻す。



「次は、僕でいいでしょうか?」

隣の男子生徒に目をやる金髪の男。


「構わねぇさ、俺はそんなに乗り気じゃねぇんだ」

ボサボサ頭の青年はまたもや、ローレットの元に歩き、座り込む。


「なんだ、お前もか。というか、なぜ、ここで観戦するんだ!?」

「それは此処が、一番安全な場所だからですよ」

眉を寄せ、不機嫌さを露にする。


「私はお前の戦闘が観れると思って期待していたのに....この純情をどうしてくれるっ!」

「んなこと言わんでくださいよぉ、アイツの強さは分かったんだから十分でしょ?」

「何かしらはやって貰うからな!!」

「へいへい、彼が無事ならね、考えますよ」

腕を組み、やる気のなさそうに観戦体勢に入る。

ローレット含めて、これまで以上に厳しい戦いになることを予想している。

その理由は、肩を竦めにこやかに微笑む彼だ。


ローレットの元に歩き、休憩するかのように振舞う男性。

てっきり、戦うものだと思っていた大和は拍子抜けする。


「あぁ、彼は何時もあの調子ですので気にせずに」

「そうなんですね」

「えぇ、と言う訳で連戦申し訳ありませんが、手短に宜しくお願いします」

丁寧なお辞儀に戸惑う。


(何と言うか、マイペースな方ですねぇ..)


「因みに、貴方の相手をするのは、私ではなく彼女です」

その瞬間、金髪の男性の隣に金色に輝く魔方陣が出現する。


余りの眩さに目を開けてはいられない。

薄く広がる視界で微かに確認できる情報が。


(なんですか、あれは...人...でしょうか)


やがて収束する光の中から現れたのは、青き絢爛な装飾が施された鎧に身を包む、一対の白き翼を持つ美しい女性。


「あのバカが、態々、彼女を召喚したのか、後で説教だな」

予想外の展開に思わず舌打ちをする。


「まぁ、あれでしょ。何時もの、自慢したいんでしょうねぇ。....面倒ごと増やさないで欲しいんですがね」

召喚された女性を見て、呆れ果てる2人。


「ご紹介しましょう! 彼女こそが我が天使であり、僕の愛しい人!!! ヴァルキュリャさんです!!」

片膝を付き、両手をヒラヒラさせながら、舞い降りる彼女を声高らかに紹介する。


「で、なんで私を呼んだんですか?」

自慢げな彼とは対照的な冷え切った声。明らかに、起こっていることが伝わる。


「えぇ、と彼に自慢をしたかったんですよ! 僕の愛しい人はどうだ!!!って」

予想だにしない冷え具合に、一気に酔いが醒めたようだ。たどたどしく言葉を紡ぐも彼女の表情が変わることはない。


「ほぅ、それだけで、態々、私を召喚したんですか?」


時が止まったかのように静寂が支配する数瞬。

この時ばかりは、誰も彼もが声を出すどころか、動くことすらしようとしなかった。

雷が落ちるのは局所的でいいと誰しもが思った。


「....はい。ただの自慢の為に、召喚させて頂きました」

「...帰ります。私も仕事がありますので」

そう言うと、再び、右手を振りかざし、金色の魔方陣が出現させる。


「ちょっと、待ってくださいよ。召喚主を無視して、帰れるっておかしいですからね。ヴァルキュリャさんっ!!」

みっともなく彼女の足にしがみつく。


「放して下さい。貴方が、つまらない事で私を呼ぶからです。もっと、こう、貴方の身に危機が迫ったときなど、そういう場面で呼んで下さい!!」

前に進もうとするが、彼の抵抗が凄まじく中々、思うように進まない。

コントのようなやり取りを片隅に、ローレットに質問する青年。


「先生よぉ、毎回思うんだが、ヴァルキュリャって召喚できるもんなんすか?...あれって」

「出来るはずがないだろう? 彼女はれっきとした神だ。そんな存在が一介の学生如きに召喚出来て堪るかっ!」

予想できた答え。


通常、召喚魔法と言うと、無機物は勿論の事、生き物を召喚し、戦闘を共にするというのが一般的だ。

なかでも、大型の生き物が使役しすることが召喚魔術の通常の運用方法となっている。

少なくとも、ヴァルキュリャのような神を召喚できた事例は報告されていない。


「じゃぁよ、召喚された彼女は、何で自分の意志で帰還できるんだよ? 普通は、召喚主が許可しなきゃだろ?」

先程見せた一幕。

右手を振りかざし、帰還用の魔方陣を用意した出来事を言っている。


「まぁ、彼女が規格外だからだろう。神なんぞの召喚の事例自体がないんだ。何があっても不思議ではない。まぁ、これはこれで、あり得ないであろう光景が観れるため、私的には歓迎する状況だがな」

「だよなぁ、神の足に泣き付く人間なんて、そうそう拝める光景じゃねぇよ」

「そう言う意味で言ったんじゃないのだが、確かに、この光景は...神話の中でも拝めないだろう」

足を大きく振り、なんとか泣き付く男を振り払おうとする神。

それに泣き付く男など、どこの神話でも描きはしないだろう。


「あのぅ、ローレット先生」

理解できない出来事が繰り広げられる中、堪らず声を掛ける大和。

「なんだ?」


「どうしましょうか?」

対戦相手である大和を置いてけぼりにする展開。


「この質問が来ることは想定していたがなぁ。....おいエドガール!」

金髪の男性は驚いたように顔をローレットに向ける。


「真面目にやらないと、お前に罰を下そう。とっておきのだっ!!!」

罰と言うのが相当に嫌なのか、見る見るうちに、表情を歪ませていく。相当に、罰と言うモノが嫌なのだろう。


「いいぃやぁだぁぁぁ!!!」


堪らず声を上げるが、現状は変わらない。

彼が進むべきは、真面目に大和の相手をすること。それしかない。


そうなれば話は早い。立ち上がり、埃を払う。息を軽く吐き、真剣な表情でヴァルキュリャに向き直る。

「お願いだ。私の代わりに、彼と戦ってくれないか?」


見つめること数秒。

「了解しました。契約に従い、貴方の矛となりましょう」

「分かっているとは思うが、3割、場合によっては5割までの力を出していい。それ以上は、指示があるまで禁ずる」

神たる彼女が全力を出せば、この学園自体の崩壊の危機だ。


「了解しました」

「と言う訳だ、新入生君。彼女に魂を持っていかれないように頑張ってくれ」

先程までの無様な姿とは、打って変った凛とした姿。

その端正な顔立ち、傍らに美しい女神という構図はさながら、おとぎ話の主人公のように見えた。


刀を正眼に構え、その視界に女神を写す。

「はいっ! 全力で頑張ります!」

なんせ相手は神だ。生半可な心構えでは、死が近づく。何より、場の流れを支配されまいと、気持ちを昂らせる。



大和の言葉と同時に、女神が消えた。文字通り、ふわりと空気に溶け込み大和の視界から完全に消え去った。

正面には優雅に佇む青年のみ。周囲を見回しても一向に姿が見えない。



(何処にっ!)

大和の後ろから衝撃が襲う。


その瞬間まで、姿の視認どころか、攻撃の瞬間さえ知覚することが出来なかった。

この事実は大和に非常な現実を突き付ける。


「グァァァァッ!」

焼けるような熱さと共に、前方に大きく吹き飛ぶ。


(あ、熱いっ! ....何も見えず、感じない。....文字通りに、次元が違う)

相手の動きが何一つも知覚できない。

これは、大和とヴァルキュリャの力量差に隔絶した物があることを示している。

身を焦がす、熱さに悶える。心では思考を途切れさせてはいけないと分かっている。

ただでさえ、力量が隔絶している、ならば、考えることを放棄したら、本当に負けてしまうと。


その心ですら、灼熱が焼き尽くす。

このままでは、嬲り殺しにされるだけ。


(でも...ここで負けるわけには..)

ひび割れる心を何とか繋ぎ止め、次の一手を導き出す。


その身の内に灼熱を宿し、全神経をこの空間に注ぎ込む。


その瞬間、僅かな冷たさを顔に感じた。

生き物の生存本能に身を任せ、頭を左に傾ける。


「がぁ...」

先程まで、頭があった場所には、深々と地面に突き刺さる槍があった。


「ほぉ、彼女が放つ僅かな殺気を感じたんだね。凄いじゃないか新入生君」

エドガールは純粋に驚いているようだ。

その傍らには、いつの間にか姿を見せていたのか、ふわりと宙より降り立つヴァルキュリャの存在が。


(殺気を感じたのも、偶然でしょう......彼らは強すぎる)

エドガールからの称賛を素直に受け止めることは出来ない。

此処まで、五体満足でいられるのは全ての要素がいい方向に転んだだけ。


先の攻防で大和の力量を測り終えたと認識するエドガール。

ローレットへ進言する。


「十分に合格なのではないでしょうか?ローレット先生」

「確かに、彼女の殺気を偶然とは言え感じ、2撃目を回避してみせた。十分に合格だ。....だが、大和は底を見せていない、だろ?」

視線の先には、悶えながら何とか立ち上がる大和。


ローレットの言葉に、またもや、驚き、目を見開くエドガール。

此処までの戦闘で見せた大和の攻防は、何れにおいても学生のレベルに収まらない代物。

十分に、ローレットの求めている基準、自分たちの仲間足りえるとそう思っていた。


しかし、ローレットは更に、上の段階があるという。


「新入生君は、まだ見せていない力があるのかい?」

エドガールは興味をそそられた。これ以上となると、本当に自分達と同じようだと思ったからだ。


「はぁ...はぁ...これは...師匠からの戒め..なのですので...解くことは..できません」

息も絶え絶えに何とか答える。

大和は解くつもりはないと。

そんな大和の耳に驚愕の言葉が飛び込む。


「安心しろ、奴には私から連絡しておいたぞ」

その言葉に大和は驚き、振り返る。


「奴も過保護になったもんだ、戦場の女神が許可を出した。戒めを2つまでなら解いていいそうだぞ。嘘ならば私を殺してもいい、誓って本当だ」

含み笑いをしながら言い放つ。

どうやら、大和の師匠とローレットには繋がりがあるようだがそれは置いておこう。

その表情、言葉、何れからも偽りは感じられない。

となると、大和の底の一端が垣間見れる。


「へぇ、戒め...聞いた感じだと力を封じている状態なのか..それは修行の一環なのかい?」

「えぇ..強すぎる力は、その人を否応なく増長させます...精神面の鍛錬を兼て..」


これには女神も頷く。

「貴方も彼を見習って欲しいものですね。エドガール」

女神からの叱咤。

苦笑いでしか返せない。


「確かに、大和君。君は、力と心をいいバランスで保持している。それに引き換え僕は、心が力に追いついていない。君に素直に、純粋に敬意を表します」


――――だから


「魅せてくれないか? 君の力の一端を。僕達に」

ここまで言われては引き下がれない。



「はい、私の枷の一つを此処に外しますっ!」

大和の足元から立ち上る魔力の本流。

余りの大きさに、魔力の流れが、大きな風となり、中庭全体を強風が襲う。


刀の柄にある複数の紋章の内の一つを右手の中指と人差し指でなぞりながら言葉を紡ぐ。


「天よりの祝福を」

たった一言、詠唱には余りにも短すぎる一言が紡がれた。


淡い光を一身に纏う。

荒れ狂う暴風となった魔力が大和の構える刀に収束していく。

風が鳴りを潜めたことには、大和を包む光も霧散する。


その様子からエドガールが焦りの表情を見せる。

「ちょぉっと、危険な香りがしますね...ヴァルキュリャ、やばい場合は帰っていいんだよ」

「ふざけないで下さい。本当にヤバくなったら、貴方ごと帰還します」

只ならぬ雰囲気に、一歩、後ずさる2人。


「お待たせしました。これが戒めを解いた、今の、私の全力になります」

先程のダメージが回復したのか、落ち着いた呼吸を見せる。



荒れ狂う魔力を取り込んだのに対して、外見的特徴にさして変化が見られない大和をつぶさに観察する。

「しいて、上げるとすれば、刀の装飾が少し変わったくらいかな?」

視線の先には、柄に施された羽のような紋章の色が一つだけ赤く染まっていた。


並々ならぬ気配に警戒レベルを一気に上げる。

「ヴァルキュリャ、5割だ!」

「了解」

先程と同じように、ふわりと姿を消す。



目を閉じ、周囲の気配を探る大和。

先程よりも鮮明に空間全体を感じ取れる。

その状態で見渡すと、一部の空間に不自然な動きがみられた。


「そこだっ!」

自身の斜め後ろにあるそれに向かって、刀を振り下ろす。

傍から見たら何もない空間に刀を振り下ろす間抜けな図だ。


しかし、刀が何かに衝突する鈍い音が響き渡る。

刀の先には、槍の先端部があった。


そこから徐々に、露になっていく女神の姿。その表情は驚愕に染まっていた。


「驚きました。今の貴方がもう少し深く踏み込んでいれば....神殺しの偉業を達成できたでしょう。素直に称賛します」

「ヴァルキュリャっ! 何言ってんの!! 5割が厳しいなら、10割でもいいから!」

まさか、神を捉えることが出来るとは、神に届き刃を持っていたとは予想だに出来なかった。

しかし、現実は、あと一歩で、大切な彼女が消え去る所だった。

エドガールの心には焦りしかない。


「安心してください。全力にはまだ遠いです。先程は、油断しただけ。あれが、最後のチャンスでした」

ヴァルキュリャから人間らしい表情が消え去り、冷たい眼をが大和を射抜く。


「彼は強い、それこそ5割とは言え、私に届きうる刃だ」

ここからは、女神が人間を試す、人と神との真剣勝負が行われようとしていた。


「おいおい、新入生君は随分と、規格外のもの持ってんなぁ。あれは、先生も知ってんのかい?」

「奴の師匠と知り合いでな。小耳に挟んだ程度だったが。確かに、あれは封をすべき代物だな」

「へぇ...」

生気のない目に、強モノが灯った。



「大和君。最後の一撃だ。ヴァルキュリャに一撃を浴びせてみたまえ。ヴァルキュリャ、5割だ!」

「了解しました」


大和が消えた。追うように、女神も消える。


そこからは2人が消えた世界が残った。

正確に言うならば、両者が視認できないような高速でぶつかり合っている。


鈍い音が響き渡り、空中を満開の火花が彩っている。

どれほどの時間が流れるのだろうか、一同がそう思っていた、その時。


突如、視界に踊りでる大和。

肩を大きく揺らし、滝のような汗が地面に滴る。


「どうしました? これで終了ですか?」

同じく、ふわりと降り立つ女神。

対して、顔色一つ、傷一つ先程と変わることない。


足元がおぼつかない中、やっとも思いで立ち上がり、構えを取る。


「これで、最後ですっ!」

今までの中で、最速の一撃。

一瞬にして、懐に潜り込み下からの白刃を繰り出す。


「なっ!」

先程とは比べ物にならない位の速さ。

咄嗟に、空中に盾を呼び出し、自身と白刃との間に滑り込ませる。


刀と盾の押し合いが続く中。

最速の一撃を塞がれたのに焦りの色が浮かんでいない大和。


「此処からです」

不穏な言葉と共に、中庭の空に浮かび上がる白刃の軌跡。

ホウントとの戦闘で見せた、空中に残る斬撃が辺り一帯の空間に所狭しと浮かんでいる。


「あ、あなたは先程の剣戟の最中....これを仕掛けていたのですね...」

「2度と通用しない、初見殺しの手です。.....私も負けず嫌いなので」


「エドガール。私の背に」

女神の真意を理解したのか、背に隠れる。


「人の子よ。いや、大和、貴方の勝ちです。女神より称賛を送りましょう。...褒美に"我が力の一端を御見せします"」

優しい光を解き放つ。彼女が身に纏う青色の鎧がの色が変化し、白銀に染まっていく。


突如、中庭に響き渡る鐘。聞くものを癒し、邪悪を払う癒しの音色。

数回、鐘の音が鳴り響く。徐々に眩い光が収束すると、空中で解き放たれようとしていた、斬撃達が一つ残らず消えていた。


(........届きませんね)

力なく倒れ伏す。


「ヴァルキュリャ。ありがとう。お疲れ様」

「エドガールこそ、怪我はありませんか?」


大和とエドガールの勝負。最後まで立っていたのはエドガールだ。

しかし、女神も言ったように、決められた5割というルール以上の力を使ったため、実質、大和の勝ちだろう。

もっとも、大和自身がそれを認めるかは分からないが。


「あぁ、君が守ってくれたからね」

「良かったです。では、エドガール、大和。それに強き人達よ。さらばです」

輝かしい魔方陣と共に女神の姿は消えていった。


「いやぁ、大和君。強いね本当に。僕、びっくりしちゃったよ」

笑いながら手を差し出すエドガール。


「いえ、女神様に一撃を入れられなかったので...」

「いや、君の勝ちだ。彼女は7割近い力を使ったからね。本当に、大したものだ。褒めてやろうではないか」

一部始終を見守っていたローレットがニヤリと笑う。


「そうだった、最後の生徒がまだだったな、リース」

リースと呼ばれた男性が、尻についた埃を払いながら、ゆっくりと立ち上がる。


「いやぁ、大和君。お疲れ様。お互いに面倒だけど、先生からの命令なんで、適当に勝負と行こうか」

「はい、お願いします!」

リースは足を擦ったまま大和と10メートル程度、離れた距離に立つ。


「女神様みたいな派手さはないぜぇ、これを防いだら大和君の勝ち。防げなかったら負け。どうだい?簡単だろ?」

「承知しました!」


その勢いのいい返事に顔をしかめる。

「何と言うか、真っ直ぐで....眼が眩んじゃうわ」

左手をポケットに入れ、右足を前に出し半身になる。

右手を親指を空に、人差し指を大和に向け、その他の指は折りたたむ。所謂、銃の形をした手を大和に向ける。


人差し指に黒い魔力が集まっていく。

途轍もない力に大気が震え、バチバチと帯電している。


リースのしようとしていることを察知し、思考を回す。

(尋常じゃない魔力...どうする、避けるか!? いや、それだと後ろの建物が..ならば)

回避も防御も不可能、何より、勝利するためにはコレしかない。


刀を鞘に収め、構えを取る。


「ほぅ、切ろうっていうのか。面白いじゃぁないの。そんじゃ、行くぜ」

覇気のない声とは裏腹に、指先から撃ちだされた黒き弾丸。


「そいつの中心には核がある。それを破壊すれば霧散する。狙うならそれを狙ってみな」

大和にアドバイスを送る。


(中心の核....核....)


――音が消えた瞬間


弾丸の後ろ、つまり、リースの前に突如躍り出た大和。

既に、刀は鞘から解き放たれていた。


「ってことは....」

自分が放った弾丸に眼をやると、進行が止まり空中で停止していた。


「お見事」

次の瞬間、黒き弾丸は霧散。大和の勝利が決定した。


「いやいや、お見事だった。大和。よくぞ、この4人の攻撃を凌いだ。合格だ」

拍手をしながら、近づくローレット。


「合格と言うと...もしかしてとは思いましたが、コミュニケーションを取ろうというのは真っ赤な嘘で、その実、私の力を測っていましたよね?」

「勿論、このクラスに在籍するには色んな条件があるからな」

「因みに、条件をお聞きしても?」


「一つは純粋に強い事。一つはある程度のコミュニケーションを取れること。最後に、他の教師じゃ扱いきれない事」

確かに、この場にいる4人に視線をやると何れの条件にも当てはまる癖が強いメンバー。


「では、私もその条件に入っているということでしょうか?」

「勿論、お前のような奴は、他の奴らじゃ扱いきれん。師匠が"あれ"なら尚更だ」

「はぁ......そうですか」


「何はともあれ、ようこそ"異端児"、"問題児"、"落ちこぼれ共"が集う場所<<ローレット教室へ>>」


(異端児、問題児、落ちこぼれ....私って一体...)

大和のローレット教室在籍が正式に決定した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ