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落ちこぼれ騎士の学園反逆記  作者: あねものまなぶ
最低教室のカヴァリエーレ
3/11

03

「いやぁ、それにしても体の傷が一瞬で治るだなんて、魔法さまさまだな」

「えぇ、魔法の御蔭で、先程のような戦闘が出来ますし。更には、"例の大会"もこのような魔法のサポートがあっての事でしょうね」

治療が終わり、マークと談笑しながら、割り振られたクラスへ向かう。

治療室で手渡された紙には、人物の名前が書いてある。


「そういや、大和は誰のクラスになったんだ?」

「私は、"ローレット"という先生のクラスになりました。マークは?」

「俺は、"アラスタス"っていう先生のクラスだってよ。まぁ、クラスは別々だが、これからも仲良くしようや」

「はい」

階段を上った先には二股の通路。


「んじゃ、俺のクラスはコッチなんでな。またなっ!」

手を振りながら、右側の通路を行く。


「はい、それでは」

挨拶を済ませ、左側の通路を進んでいく。

真っ直ぐ伸びる通路を進んでいくと、突き当りに目的地と思われる教室があった。


古ぼけた木製の看板が教室のドアに立てかけてあり、"ローレット教室"とあった。


先程までの明るく輝いていたマークの教室へ続く道とは対照的な、どんよりとした暗い雰囲気。

二股の通路が、文字通り明暗を分けたのだと考える大和。


(....なんというか、異様な雰囲気が...)

ノックをしたいが手が伸びない。教室が放つ異様な雰囲気にたじろいていると女の声が聞こえてくる。


「扉の前で何をしてるんだ。入りたまえ」

大和の存在に気づいていたようで、中から女性に呼ばれる。

呼ばれてしまっては引き返せない。意を決し扉をノックする。


「失礼します」

恐る恐る、中を伺うように入室する。外で感じた異様な気配とは裏腹に、至って普通な教室。机が5つ。黒板に向かって配置されている。

目の前には、声の主であろう女性。黒板を使って何か話をしていたようだ。


教室内には、4人の生徒が。ある男性は、外を見つめ。ある女生徒は目を輝かせている。


「お前が、大和だな」

黒板の前に立ち、講義を行っていた女性が此方に歩み寄ってくる。


「ようこそ、ローレット教室へ。歓迎するぞ。盛大になぁ」

大和の肩を掴み、笑みを浮かべる。

腰まで伸ばした銀髪に口元のほくろが特徴的なタイトスーツを着こなす30代くらいであろう女性。彼女が教室の主であるローレットだ。


「は、はい。大和と申します。よろしくお願い致します」

肩に置かれた手からは、絶対に離さないぞと言わんばかりの力と何かを感じ、ひきつった笑みを浮かべる。


(や、やっぱりマークは天国、私は地獄なんですかねぇ....)


「先生っ! 先生の馬鹿力で新入生君の肩が粉々になりそうですよ!」

ピンク髪の目を輝かせていた生徒が手を勢いよく上げ、警告を発する。


「おぉ、それはいかんな。あいつに怒られてしまう。.....それは避けたい所だ」

大和の肩から手を放し、黒板前に戻っていく。


「では、早速、新入生に挨拶をして貰おうか。ほれほれ、こっちに来なさい」

手招きで、大和を黒板前に呼ぶ。


4人の男女の視線が黒板前に立つ大和に注がれる。

(....すっごい視られてますね)


「えぇ、私も名前は大和と言います。出身は東にある小さな村です。戦闘では、刀を使っています。魔法は余り得意ではありません。どうぞよろしくお願い致します」

挨拶の常套句とも言える、必要最低限の事だけを述べる。


「それでは、質問タイムっ!!!! なんていったことはしない、面倒だから!」

その言葉を皮切りに、4人の生徒達は席を立つ。


「言葉で語りよりも、己の力で以って語って見せろと言うのが、この教室の方針なんだ!」

その言葉が理解できなようで、大和は頭を悩ませながら質問する。


「えぇと?」

「つまりは、今から、この4人と戦ってもらうという事だ!!」

「....4人と?」

「おう!」

「私が戦うんですか?」

親指を突きだしながら笑顔を浮かべる。


「勿論さ!」

その言葉に思わず項垂れる。

(あぁ、この教室では常識は通じないのでしょうか...)


想像していた輝かしい青春とは逆方向に位置する、黒く濁った渦に巻き込まれていく未来を思い描いてしまう。


(とは言っても、やるしかなさそうですし)

状況は進行している、最早、引くことは出来ない。


「分かりました。場所はどちらで行うのでしょうか?」

「受け入れるのが早いのは好ましい。そこのベランダから降りるといいさ」

外に向けられた指の方向にはベランダと開け放たれた窓。

そこから下を覗き込むと、校庭とは言えないまでも十分に広い中庭があった。


既に、4人の生徒達はスタンバイできているようで、各々、準備体操を行っていた。


「先生、どこから降りればいいのでしょうか?」

教室内にいるローレットは、歩み寄りながら答える。


「飛び降りればいいだろう?何を言っているんだ大和は?」

「.....因みに、彼らはどうやって降りたのでしょう?」

下方向を指さす。


「勿論、飛び降りたのさ。この高さなら別に怪我せんだろ?」

確かに、建物2階程度の高さならば、下手な着地をしない限り大事にならないだろう。

とは言っても、飛び降りるという恐怖も多少なりともある。


ローレットの圧と、先輩たちを待たせてはいけないという心理から意を決する。


(っ! 行きます!!)

多少の恐怖心を振り払い、思い切って飛び降りる。

着地の衝撃を転がることで逃がすことでダメージを無くす。

着地からの軽やかな身のこなしに、それを見守る4人の生徒から拍手が起こる。


パチパチと音が響く中、ローレットが舞い降りた。

こちらは、魔法を使用したのか、着地の瞬間のみ重力に逆らった動きをし、ゆっくりと足を付ける。


「お前ら、準備はいいな!今年の入学生は中々に手ごわい事は理解していると思う。全力を出したら、私が怒られるので"いい感じに"力を出せ! コミュニケーションを拳で、魔法で行うのだぁぁぁ!! スタートォォォォォォ!!!」

先程までの冷たい印象から一転して、熱血漢のようなことを言い出す女教師。

不思議と彼女の背景に燃え上がる炎が視える。


彼女の号令を皮切りに、男子生徒が駆け寄る。

前髪を目元まで伸ばし、目が隠れている青年。その両手にはそれぞれ逆手に持ったナイフが見える。


(速いっ!)

刀を抜く暇がない。


迫りくる二つの白刃。

それを鞘をつけたままの状態で何とか受ける。


「ぐっ...重い」

踏ん張るが、じりじりと後退していく。

その細腕から繰り出されたとは思えないほどの威力。


このやり取りを見守る3人。

(...どうやら、一斉に仕掛けてくる訳ではないのですね)

目の前の青年に集中することにした大和。

鍔迫り合いが続く。


「っはぁ!!」

2本のナイフを水平にすることで防いでいたが、その状態から鞘の位置は変えずに、右手で刀を抜き、そのまま男子生徒の左手めがけて振り下ろす。


振り下ろされる右手に反応し、大きく後ろに後退。

「ふぅん...やるねぇ。次どうぞ?」

ナイフを仕舞い、構えと解く。

その言葉を合図に。


「次は、私が行きますよぉぉ!」

大きく手を振る、ピンク髪の女性。クリっとした大きな緑色の瞳とその言動や仕草から伝わる愛嬌が特徴的なムードメーカー的雰囲気を受ける。


「ほいっ!!」

両手をパチンッと勢いよく合わせる。


「我に集え、我の障害を払う刃となれ」

詠唱を開始する。しかし、魔法発動の際に出現する魔方陣の姿が一向に確認できない。


(なぜ、魔方陣がないのでしょう...)

目の前の現象を冷静に解析しようと、思考を行うがその余裕もなくなる。


目の前の女性に変化が訪れた。

先程までの、愛嬌のある目が途端に鋭くなる。全体的に暗い影を落とす顔。一番の変化がその両手。

何処からともなく出現した黒い靄が両手に纏わりつく。


冷たい視線が大和を視界に捉える。


「せいやぁっ!」

低く、鋭い声と共に勢いよく飛び込む。

大和の懐に潜り込むと同時に、右手を引き絞る。


防御態勢を取ろうとした瞬間、大和の視界を突然、黒が埋め尽くす。

(不味いっ...これではっ!!)


突然の事に、回避も出来ず、ただただ、何処から来るかも分からない攻撃に備えることしか出来ない。

当然、防げるはずもなく、腹部に大きな衝撃を受け、後方の壁に凄まじい勢いで激突する。


大和と共に崩れ落ちる瓦礫がその威力を物語っている。


「がぁっ....はぁっ..はぁ..」

血液が混じる胃液が逆流する。。その衝撃により、呼吸もしにくく成っているようだ。


(まさか...ここまでの激的な変化があるとは...)

呼吸を落ち着かせ、衝撃の主を観察する。


「ふっ!!」

大和に止めを刺そうと拳を構えたまま向かってくる。


高速の拳を座り込む大和の頭に目掛け振り下ろす。

その瞬間、またしても大和の視界を奪う黒色。


「っな!!」

僅かな時間、確認することができた彼女の拳の軌道を予測、大きく左に飛び込むことで回避する。

体を打ち付けながらも何とか逃れることが出来た。


(...あの黒い靄が厄介ですね..)

彼女の底が見えない為、正確に判断することは出来ないが、現時点では、大和の方が僅かに優っている。

しかし、彼女の拳、及び、大和の視覚を奪う、正体不明の黒い靄も相俟って、ここまで苦戦させていた。


(まるで、意志があるかのように、こちらの行動を阻害してくる)

大和には拳を振るう彼女と黒い靄。この2人を相手に戦っているような錯覚に陥る。


(ならば、彼女達を出し抜くしか方法はないですかね...)


追撃に備え、即座に立ち上がり、刀を正面に構える。

その時、抜き身の刃に白き光が纏われた。

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