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落ちこぼれ騎士の学園反逆記  作者: あねものまなぶ
最低教室のカヴァリエーレ
1/11

01

太陽の日差しが木々の合間から差し込む。

周囲を激しい自然環境に囲まれた大陸、ヒューマニア。

その内の一国、ツウィンド。

そこから、少し離れた森の中に佇む大きな屋敷。

派手な装飾はない物の、随所に見受けられる細かな彫刻がその絢爛さを感じさせる。


「おい、大和。準備は出来たのか?」

風が撫でる木々の音に交じり、妙齢の女性の声が聞こえる。


「勿論です」

背中に大きな荷物を背負った青年が、背丈の2倍はある大きな扉から出てきた。


「というか、今ので5回目の確認ですよ。心配のしすぎではないでしょうか?」

「何を言う! 弟子の出立を心配するのは当たり前だろう?」

腰に手を当て、鼻息荒く息巻くのは、背が隠れる程に真っ直ぐな金髪を伸ばす青年より少し年月を重ねた女性。


「はぁ...」

その様子に辟易するのは、白い制服に身を包む青年。


「あぁ..その..本当に大丈夫か? 私が付いていってやろうか?」

「師匠が学園に行ったら、皆さんが混乱してしまいますよ。もう少し、ご自身の立場を理解して下さい!!」

宙に彷徨う手で忙しない。

凛とした強い意志を宿す眼には、どんどん雫が溜っていく。


(大和の自立は嬉しいが、反面、とても寂しく感じる...これが親離れっ!!)


「それでは、"師匠"。行って参ります。学園に到着しましたら、連絡しますので、それでは」

親の心、子知らず。

頭を丁寧に下げ、屋敷を後にする後ろ姿に、更にざわつく親心。


「や、大和。その...だな。師匠ではなく....その..よっ呼び方を..」

顔を赤らめたどたどしく言葉を紡ぐ。

その様子に察しのいい弟子は、三度、態度を改める。


「母さん、行ってきます!」

「うん! 行ってらっしゃい!!!」

師匠と弟子。親と子、そんな彼らの一幕であった。


屋敷のある森から、目的地までは歩けば間に合う。

昨夜も確認した筈だった。


「...これは不味いですね」

玄関先で話込んでしまったために、当初の予定より出発が遅れてしまった。


(初日から遅刻はシャレになりませんっ!!)

足の回転が徐々に速くなる。

地を踏みしめる音が、大きく、連続して森に響く。

天高く舞う葉と土煙が彼の足跡を残していた。



- 王立ツウィンド学園 正門前


「ここが、憧れの学園!!」

大きな荷物を背負い、校門前で目を輝かせる大和。

次々と人の波が門に吸い込まれる中、ピタリと止まりウロウロする姿は、否応なしに注目を集めた。


「なーにあの子? きょろきょろ校門なんかを見回して?」

「もしかして、田舎から来たんじゃねーの?」

「そうだよ、あれ見てみろよ」

同じく入学するであろう3人組の視線の先には、大和の腰に差した刀が。


「ほら、このご時世に、刀を使ってるんだぜ?」

「あら、本当ね。もしかして、"アパラタス"を持っていないのかしら?」

「そりゃ、ないだろ? 今どきは、10才の子供でも持たされるぜ?」

嘲笑する声もなんのその。大和は目を輝かせたまま、人波に乗り校内に走っていく。

呆気に取られる三人の心の中には"変わった奴がいるもんだ"という言葉が浮かんだ。


歩みを進める大和は移ろう景色を視界に移す。

人生を大半を森の中で過ごしてきた大和にとっては、白で統一された大きな建物、そこを行きかう同年代の人々と言うだけで非日常となる。


(先程は取り乱しましたが、大きな建物に、彼等...本当に、学園生活がスタートするのですね)

校門前での出来事を反省しながらも、自身の憧れの中に足を踏み入れ、思わず感傷に浸る。


人波の先には、校舎と遜色ない程に立派な作りをしている建物。

目の前に所狭しと配置される座席には、真新しい制服に身を包み、大和同様に思いを馳せる生徒達がいた。


「えぇと、指定された席は....この席ですね」

入学案内に同封された座席番号を確認しながら、目的の席に着く。


次々と座席が埋まっていく。開始の時間が近づいている証拠だ。

木霊するざわつきも鳴りを潜め、その時を今か今かと待ちわびる。


「あった、ここかぁ」

右から聞こえる快活な男性の声。お互いの視線がぶつかった。


「おう、俺の名前は祐成・マーキス。気軽にマークと呼んでくれ!」

大和より少し大柄、短く髪を切りそろえた爽やかな笑顔の男性。


「私の名前は、大和と言います。こちらこそよろしくお願いします」

差し出された手を握る。


「いやぁ、隣が大和みたいな奴でよかったぜ。正直、都会の奴らにいい思い出がなくてよ」

「私も、田舎から来たものですから、その気持ち分かります」

自称気味の苦笑いをこぼす2人。


「大和って出身は何処なんだ?」


(..あの場所については..避けるべきでしょうか)

「私は、ここから少し離れた東の出身なんです」

言及することを避け、ぼかして言う。


「やっぱりか、大和って名前からそうだと思ったんだよ。俺はよ、生まれも育ちもこの国なんだが、俺の爺様が西の出身なんだ。東西仲良く行こうじゃねぇか!」

「そうですね、祐成さん。東西仲良く行きましょう」


ヒューマニア大陸には3つの国が存在する。

ツウィンド王国は大陸の東西に跨った中央に位置する国なのだ。


大和の言葉に反応する。

「おいおい、大和。マークで良いって言っただろ?」

「でも、その恥ずかしながら同年代の人と話す機会があまりなくて、どう接すればいいのか...」

不安がる大和の背中に衝撃が走る。体を強張らせて、衝撃の正体に視線を向ける。


「何言ってんだよ、俺達は友達だろ? 遠慮なんかすんなよ?」

マークの気質は気のいい兄そのもの。


「マ、マーク?」

反応を伺うように視線を向ける。


「応よ! 仲良く行こうぜ、大和!」

「はい! 今後とも末永くよろしくお願いします!!!」

「お、おう。言葉が仰々しいな....」

大和に同年代の友人が出来た瞬間だった。


会場の証明が落とされた。待ち望んだ瞬間の到来に、ざわつきが増す。

次の瞬間には、正面のステージに円形の光が差し込む。。


「皆様、大変ながらくお待たせいたしました。これより入学式を執り行います。初めに生徒会長より、祝辞がございます」

アナウンスと共に、背まで伸ばした銀髪が美しい、凜として雰囲気の女性が登壇した。

会場に木霊した雑音が、彼女の登場により書き消された。


「皆さん、ご入学おめでとうございます。私が、当学園の生徒会長を努めています。3年のゼノビア・ジェーンと申します」

その言葉に、期待に満ちた雑音から、驚愕の物へと変貌する。


大和の隣に座るマークも例外ではなかった。

「おいおい、噂はホントだったのかよ」

「マーク、噂とは一体、何の事でしょうか?」

大和の質問で落ち着きを取り戻したのか、一呼吸おいて解説を始める。


「あぁ、大和は東の出身だから知らないかもな。この国内ではよ、なんでも正義感が強すぎる余りに、小さい頃から騎士の訓練に混ざって稽古していた女の子がいてよ」

「それは凄いですね」

(小さい頃に、騎士の訓練とは。なんとも親近感がわきますね(


「それが凄すぎたんだ。訓練の一環として剣術の試合をしたらよ、経験豊富な大人に勝っちまったそうだ。その後も、お灸を据えようと挑む大人を悉く返り討ち。結果、付いたあだ名が"ジェーン家のお転婆姫"」

「なんとも、まぁ、騎士としての才能がある方なんですね」

「過ぎた才能は常人の手には余るモノさ。この噂が流れちまってからは、町中、いや、国中が彼女を避けるようになってそうだ」

視線の先には、驚愕に染まる光景は見慣れたのか、一切の感情を書き消した能面のような表情を浮かべる彼女がいた。


(なんとも、悲しいですね。彼女はただ、全力で訓練に望んだのに。まるで....)


「可愛そうですね。彼女」

「あぁ、そうだな。さっきは、俺も驚いちまったが、失礼だったな....」

大和の言葉に反省するように呟く。


「――以上になります」

いつの間にやら、彼女の挨拶は終わったようだ。


「ありがとうございます。それでは、入学性の皆様。校庭にお越しください」

アナウンスと同時に、開け放たれた扉。

突然のことに慌てる者もいれば、分かっていたかのように気合を入れる者もいた。

続々と、扉の外に歩みを進める入学生達。


「どうやら、あの扉から行けという事でしょうか?」

「だな、何をやらせる気なんだかなぁ。まぁ、行くしかないか」


大和は出発前に師匠から言われた言葉を思い出す。


("入学式では気を抜かずに、かといってアレは許可があるまで外すな"。....ということはつまり)

思わず全身に力が入る。


「マーク。警戒しておいた方が良いかもしれません」

膝に置いていた刀を腰に差し、手を添える。

その姿を見て、マークも警戒する。


「大和は気づいていたのか? この後の展開を?」

「いえいえ、師匠からの言葉で思い出したのです。そういう、マークこそ気づいていたのでは?」


「気づいたというより、疑っていたの方が正しいな。この建物の外でよ、ちょいと気になるモンを感じたんでな」

「流石ですね。マークってもしかすると?」

意味ありげな視線を送る。


「どうだか」

飄々と躱されてしまう。

腹の探り合いをしながらも、光の中へ歩みを進める。


建物の外は、とても大きな平地。

背後には校舎と思われる施設のみ。


アナウンスにより校庭に集められた入学生達。

200名程の群れの中に、大和とマークがいた。


雑音を書き消すように響くアナウンス。


「これより、皆様の力を測らせて頂きます」

そのアナウンスにより、ざわめきが増幅される。


「ふざけんな! 急に言われたって準備してねぇぞ!!」

「そうよ、いくら騎士を育成する学校と行っても、これは理不尽だわ!!」

数々の怒号が飛び交う。

急に戦えと言われても準備をしていない生徒も勿論いる。その中で力を測れとは些か理不尽ではないかと。



「おだまりなさい!! 貴方達は騎士となり、この国の刃となる人材。騎士とは如何なる時でも戦場に居るという心構えが何より重要。貴方達が、"アパラタス"を持っていないのなら、その身体を武器として戦場を駆けるのです。我が校の門は、そのような騎士にのみ開かれます。御武運を」

生徒会長による一括。冷たい一言に入学生の心が燃え上がる。


「っっしゃぁ!!」

「やるしかないっ!」

泣き喚いても仕方ないと腹をくくった新入生達。一様に気合を入れ、その時に備える。


「流石、お転婆姫。いう事がキツイねぇ」

「と言いながら、しっかり"アパラタス"を構えているではありませんか?」

マークの拳には、先程はなかったグローブが嵌められている。


「おぉ、初見でこのグローブが"アパラタス"だと良く分かったな」

「これでも、観察力には少し自信がありまして」


(それにしても、マークの使いこまれたグローブ。無駄な筋肉が付いていない肉体。かなりの場数を踏んでいる.....)

マークの力がどれほどのものなのか測りかねていた。


「そう言う、大和の刀も"アパラタス"なんだろ?」

「...流石に、分かりますか?」

正解を言われ、苦笑いが浮かぶ。


「まぁ、この局面で普通の刀を使う人なんて、"当代最強の女神様"だけだろうよ」

マークの脳裏には、戦場を優雅に歩く女性が浮かんでいた。


「はっはっは、そうですよね。普通の刀では、まともに戦えませんものねぇ...」

(.........師匠)


"アパラタス"とは、行使する能力の媒介となるもの。

魔法、その他の能力を行使する際は、"アパラタス"と呼ばれる物を媒介として、現世に効果を及ぼす。

国内で市販されている複数の機械部品で構成される物もあれば、大和、マークのように思入れのある物を"アパラタス"とするときもある。

勿論、後者の方が、使用者との結びつきが強いため、現世に及ぼす効果が大きいとされている。


まだ子供といえど、騎士見習い達。校庭が一瞬にして、戦場の様相を呈してきた。

入学生達は、それぞれの"アパラタス"を構え、周囲を警戒する。


鳴り響くブザー音。決戦の時が来たようだ。


同時に、風景が捲れ上がるようにして、突如、黒い衣装に身を包んだ一団が現れた。

これには、驚きの声を上げる入学生達。


(これは、誰かの能力で、一団を隠していたのでしょう。この数となると、乱戦は必死ですね...)

入学生が200名。黒衣の集団も同じく200名。

それが一斉に衝突するとなると、満足に動くことは難しいことが想像できる。


「マークはどのように行動しますか?」

「俺は、ある程度までは大和と一緒に居させて貰おうか」

周囲を見渡しながら。


「ほう、理由をお聞きしても?」

「だって、大和は滅茶苦茶ツエーだろ?それに乱戦になるだろうから、下手に動きたくねぇんだわ」

当たり前のように言っているが、戦場の動きと大和の力量を見抜いた上での作戦立案。

突如出現した敵に対して、怯え、威嚇するかのように声を上げる入学生と比較すると、その異常さが浮き彫りになる。



「では、ある程度までは一緒に居ましょうか。ある程度までは」

「へへっ! そうこなくっちゃな。取り敢えず、背中は任せてくれ!」

「背中から、いきなり攻撃するのは無しにして下さいね」

「少しは、友人を信用してくれよっ!」


ここから、大和の学園生活が始まる。

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