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07 晩餐会

 パーティ会場に着くと、馬車が止まる。

 そこには豪邸があった。日本じゃ見られない豪邸だ。アメリカなどの億万長者の豪邸といった感じ。一度でいいからこんな豪邸に住んでみたいと春人は思う。掃除が大変そうだが。


「すごい」


 豪邸を目の前にしてフレアはそう感嘆な声をあげた。


「受付は庭園の方ですね。この庭園が会場のようですね」


 会場にするだけあってものすごく広い庭園だった。その庭園にはたくさんのテーブルと料理や飲み物が置かれていた。

 受付らしきところには正装の男女が集まっていた。どの人物も品のある人で上流階級なのが伺える。


「行きましょう」


 ジョージに言われて春人たちは受付へと向かう。


「お名前は?」


 しばらく並んだ後、受付の前まで来る。

 そして、受付の女性がそう問いかけてきた。


「はい。こちらフレア・カナスタシア様とハルト・ヤシロ様です」


 ジョージが代わりに答えてくれる。


「はい、フレア・カナス……タシア」


 帳簿に書き込んでいると驚いたように顔を上げる。


「あ、は、はい……そうです」


 フレアはおずおずと答える。なにかおかしかっただろうかという顔をしているが、春人はフレアが勇者だから驚いているのだろうと気づいた。


「し、失礼しました。フレア・カナスタシア様ですね。まさか、ここで受付なさるとは思わなくて、申し訳ございません」


 そう女性は謝る。


「い、いえ大丈夫です」


 フレアは慌ててそう返した。


「え、えっと、それとお連れ様のハルト・ヤシロ様ですね。はい。確認させて頂ました。どうぞ、中へお入りください」


 かなり恐縮した様子でそう女性は言った。その様子を見て、春人は疑問に思う。そこまで勇者に対して畏怖を覚える必要があるのか。春人からすればフレアは普通の女の子にしか見えない。そんな恐れられるような存在には見えなかった。


「私はジョージ・モリス」


 ジョージが受付を済ましている。

 フレアと春人は少し先へと行き庭園を見渡す。


「すごいですね」


「そうだな、金持ちって本当にすごいわ」


 フレアに同意する春人。こんな広い庭園にあんな巨大な豪邸を持てるのだから。羨ましい限りだった。


「ふふ、貴族様ですよ。商人のような言い方をしては失礼です」


 フレアはおかしそうに笑う。


「あ、うん」


 春人は思う。ここの世界では金持ちは商人で貴族はそういう存在とは違うのか。自身の世界とは違うことを実感した。


「お待たせ致しました」


 受付を済ましたジョージはそう言って春人たちの前へと来る。


「いえ、大丈夫ですよ」


「主催者のパーキンソン卿の所へ行きますか?」


 そうジョージは問いかける。

 主催者か。この豪邸と庭園の持ち主。春人は少し興味があった。


「はーーあれは」


 フレアは頷こうとして知っている人物を見かける。

 金髪のミディアムの女性、エレクトラ。薄い黄色のドレスを纏っていてとてもよく似合っていた。その近くには老騎士のバーグも居る。着こなしたタキシード。威厳がある。またそこから少し離れた場所に水色のドレスを着たディアの姿があった。相変わらずオドオドしていた。


「同行人の方々ですね」


 ジョージはそう問う。


「えっと」


「はい、挨拶したいんですよね。どうぞ」


 ジョージは気を使ってそう促す。


「すみません」


 フレアはそう謝ると彼女たちに近づく。フレアは彼らに挨拶をするつもりらしい。一応、旅を共にする仲間なのだから当然かもしれない。春人もフレアの後に続く。


「ど、どうも、こんばんわ」


 ぎこちない感じでフレアはそう挨拶をする。

 しかし、気づいているのかいないのかエレクトラは反応しない。


「あ…………さ、さっきその会ったフレアです」


 それでも反応しない。春人はこれは無視されているなと気づいた。


「炎のーー」


 めげずにフレアは言おうとして、


「勇者でしょ。わかっているわよ。どうも」


 そう遇らうように言うとフレアから視線を逸らし距離を取る。春人はかなり感じ悪いなと思う。こんな人と一緒に旅をしなければならないのか。先が思いやられるなと思う。

 フレアは戸惑った様子だったが、すぐに切り替えたのかバーグの方を向いた。


「こ、こんばんわ。わたしはフレアです。さっき宮殿で会った炎の勇者です」


 今度は最後まで言えたようだ。


「ああ、バーグ・エルフォードだ。剣士だ。よろしく頼む」


 しかし、愛想の無い言い方をする老騎士。さっきの金髪の女よりかはマシではあるが、親しみを一切感じない。


「はい、よろしくお願いします」


 萎縮気味にそう答えるフレア。二人も続いてこの対応じゃ、そうなってもおかしくない。


「え、えっと、ディアさんですよね? わたしはフレアです。先程、宮殿で会った者です」


 めげないフレアに春人は感心する。更に隣にいた水色のドレスを着た女に声を掛けたのだ。


「あっ……は、はい。ゆ、勇者様ですよね? わ、わたしは、その、あの、で、ディア・マーシャルです。い、一応、精霊術師です」


 ディアはかなり挙動不信だった。視線を合わせようとしないし、何度も噛んでいる。コミュニケーション障害にも程がある。それでも先の二人よりはマシだが。


「わぁ、すごいですね。精霊術師、かっこいいですね」


 話を広げようとフレアはそう言った。


「そ、そんなことないです」


 ディアは謙遜する。


「そんなことありますよ。精霊を呼び出す事が出来るんですよね?」


「ま、まぁ」


 フレアの追撃にディアは困惑しつつも頷く。


「どんな精霊を呼び出すことが出来るんですか?」


「え……あ、その」


 ディアはなかなか答えない。沈黙が続く。正直、見てられなかった。

 春人も経験があるが、趣味って何? と聞かれ、咄嗟に答えられず困ることがよくある。

 ネットやソーシャルゲームと答えてもいいが、言いにくいのだ。だから無言になってしまう。


「あー……答えられないなら別にいいですよ」

 

 フレアは察したのかそう言った。ディアは気まずそうだった。


「あー……えっと、こちらの方はわたしの村の時からの連れ人で、春人さんって言います」


 この空気を壊す為か、話題を振って春人を巻き込む。


「あ、ど、どうも八代春人です。えっと、こっちだとハルト・ヤシロって言った方が良いのかな?」


 仕方ないので春人も話に参加する。この世界のことなんて何も知らない春人にとってハードルが高いことだが、当たり障りの無いことを言うしか無い。

 しかし、春人の言葉に答えず、怯えたように後じさりする。


「えー……っと」


 春人は自分を指差しながらフレアに自分なにかやったか? と問いかける。フレアは首を横に振ってから、


「この人はわたしの婚約者でちょっと変わった容姿ですけど、すごくいい人ですよ」

 

 変わった容姿なのか。すごく馬鹿にされた気分だった。


「は、はい、ディアです。よろしくお願いします」


 早口で捲し立てられる。


「あ、はい、よろしくお願いします」


 春人もそう返す。

 しかし、その後会話は続かず沈黙が漂う。



 そんな時、誰かが近づいてくるのが判る。

 金色の癖っ毛の男だ。中年くらいの男。帝都で宮殿の中で会った男。春人を擁護していた男だ。


「やぁ、どうも」


一番最初に反応を示したのはディアだ。顔が恐怖に引きつっていた。春人にも怯えていたし、どれだけ恐がりなのか。フレアには多少マシなのでこれが男性恐怖症という奴なのかと思う。


「あ、あの時はその、ありがとうございます」


 フレアは会った早々に男に感謝を述べる。フレアは何故感謝するのか春人には分からなかった。


「いや、当然の事をしたまでですよ。おきになさらずに」


 男はそう爽やかにそう返す。この笑みは反則だと春人は思う。こんな風に微笑まれたら女性はすぐに落ちてしまうだろう。


「今の礼に彼がいることが精神的支えになることがわかりましたしね。言ったかいがありました」


 そして、からかいの声色でそうフレアに言った。


「あ、その……」


 フレアは顔を真っ赤にさせる。免疫の無いフレアは完全にやられてしまっている。

 春人の顔を伺うフレア。何故こっちを見たのかわからない。

 再度、男の目が合いフレアは動揺したように顔を赤くする。

 仕方ないとは思うが、なぜか少し面白くなかった。


「自己紹介がまだでしたね。私はエドガー。エドガー・アダムスという者です」


 金髪の癖っ毛の男、アダムスはそう微笑む。


「あ、ふ、フレア・カナスタシアです」


 フレアはそう返した。


「八代春人……じゃなかったハルト・ヤシロです」


 春人も名乗る。


「よろしく」


 アダムスは手を差し出す。フレアと春人は握手する。


「えーっと……」


 フレアはエレクトラとバーグを見る。エレクトラ、バーグ、ディアは答えそうにない。


「お三方も謁見の時に知っていますから大丈夫ですよ」


 しかし、アダムスは気にした様子もなくそう答えた。


「は、はぁ……」


 微妙な感じで返すフレア。社交性の無さすぎる仲間に思うことがあるのだろう。


「皆様、お集り頂きまことありがとうございます。今宵の宴を楽しんでいってください。また旅のご武運をお祈りしています」


 アダムスはフレア、また後ろに居たエレクトラやバーグ、ディアに言う。


「は、はい」


 フレアはそう返し、エレクトラは反応を示さない。バーグは軽く会釈を返すだけだ。ディアは気配を消そうとしている。

 春人はなんとも言えなかった。


「このまま談笑といきたいところなのですが、主催者があなた方を探していましてね」


 アダムスは残念そうな顔をした後、そう言った。


「主催者、ですか?」


「ええ、あなた方を紹介したいとか」


 フレアの問いにアダムスは答える。

 嫌そうな顔をするエレクトラ。興味無さげに目をつぶるバーグ。


「あまり乗り気ではなさそうですが、彼の顔もたてて貰えないでしょうか。とりあえず彼の所へ行ってくれると助かるのですが」


 そう苦笑するアダムス。


「わ、わかりました」


 フレアは気を使うようにそう答えた。


「ありがとうございます。では、私はこれで」


 アダムスはそう言って去っていく。


「主催者ってどこに居るのよ」


 不満そうにするエレクトラ。一応、話は聞いていたのかと思う春人。ガン無視していたので話も聞いていないのだと思っていた。


「えっと……」


 フレアは困ったように思案する。キョロキョロと辺りを見渡している。春人も見渡すが、そもそも主催者がどんな風貌すら知らない以上無意味な事だった。


「なにかお困りのようで」


 様子を伺っていたジョージが近づいてきた。

 警戒した様子のエレクトラ。人見知りなのだろうかとエレクトラを見て思う。


「ジョージさん、あの主催者さんに呼ばれているらしくて」


 フレアは事情を話す。


「パーキンソン卿ですね。パーキンソン卿ならあそこに」


 演説ような台のような場所。そこに小太りだが上品そうな男が立っている。

 さすがジョージさんだと春人は思う。そう言えば最初にパーキンソン卿のところへ行こうと言っていたので場所を知っていてもおかしくなかった。


「ありがとうございます」


 フレアは礼を言う。


「いえいえ、フレア様、私も挨拶に回らなければならないので離れさせていただきますが」


「はい、大丈夫ですよ」


 ホテルの関係で色々と挨拶しないといけないのだろう。大変だなと春人は思う。


「申し訳ありません」


「いえ」


 ぺこりと頭を下げてジョージはその場から去っていく。


「とりあえず行きます?」


 フレアの言葉にあまり乗り気では無さそうな面々。



 演説台まで来て、小太りの男にフレアは声をかける。


「あの、すみません」


「ん? えっと、どうかしましたか?」


 小太りの男は怪訝そうな顔をする。主催者だけあってかなり高級そうな服を着ている。


「アダムスさんに言われて着たのですが」


「おお! もしや貴方が炎の勇者殿!?」


 フレアがそう言った途端、小太りの男は興奮したように破顔する。


「えっと……はい」


 フレアは引き気味にそう答えた。


「なんと! 若い! いやー、申し訳ない。案内をしたかったのですが、色々と手違いがあったようで」


 テンションが高いと春人は思う。謝っているのに謝られている気がしない。


「いえ、別に大丈夫です」


 フレアはそう返した。


「ありがとうございます。私はヒューイ・バーキンソン」


 そして、小太りの男は自己紹介をする。


「わたしはフレア・カナスタシアです」


 フレアも返す。フレアの名前は知っているだろうが、一応礼儀としてフレアも名乗ったのだろう。


「良い名前ですね。勇者殿、今宵の主役は貴方です。どうぞ楽しんでいってください。もちろんお連れの方々も楽しんでもらえれば幸いです」


 パーキンソンは人懐っこい笑顔で言うと、後ろにいるバーグたちにもそう笑顔を向ける。

 エレクトラは不満そうだった。バーグは「ああ」と軽く返すだけ。ディアは目立たないよう後ろの方に居る。


「勇者殿、早速ですがお願いがあるんですが」


 そんな三人の素っ気ない返しも気にした様子もない主催者。ある意味大物だなと春人は思う。


「は、はい」


「さっきも言った通り主役は勇者殿です。どうかこの場でご紹介預からせて貰えないでしょうか?」


 パーキンソンはフレアにお願いする。紹介ってことはこの演説台の上で紹介されるのか。春人は絶対嫌だと思った。よっぽど目立ちたがり屋でもない限り嫌がるだろう。フレアも嫌がっているのではないかと思ってフレアを見る。


「それは……いいですけど」

 

 いいのか。少し意外だと春人は思う。


「おお! ありがとうございます!」


 嬉しそうにフレアと握手するパーキンソン。


「すみません」


 そんな時、唐突に声を掛けられる。女だった。ドレスは纏っていないが、タキシードに近い服装だ。この催しのスタッフなのかもしれない。


「え? おい、今は勇者殿と……判った。すぐ行く」


 いきなり話しかけられて不機嫌そうな顔をするパーキンソンだが、話を聞いて改めたのか、


「勇者殿、申し訳ない。少しこの場で待ってもらえないでしょうか。すぐに戻ります。私が戻り次第この晩餐会の方を始めたいと思いますのでその時にご紹介の方をさせて頂きたい」


 そうフレアに謝る。


「わ、わかりました」


 フレアも戸惑いつつもそう返答する。


「申し訳ない」


 パーキンソンは若干小走りで去っていく。


「……全く、ありえないわね。皇帝陛下の使命をこんなくだらない貴族の馴れ合いの催しに利用するなんて」


 パーキンソンが居なくなるや否やエレクトラは不満をぶちまける。

 

「あ、あはは」


 フレアは苦笑いを浮かべる。バーグは興味無さげだった。ディアは辺りを怯えながらキョロキョロとして挙動不審だった。

 なんだかなと思いつつ、パーキンソンが帰ってくるのを待った。

 

「いやーお待たせしてしまって申し訳ない」


 パーキンソンはすぐに戻ってきた。


「いえ大丈夫です」


 フレアはそう答える。エレクトラは不満そうにパーキンソンを睨んでいるが、パーキンソンは気づいてない様子だった。


「そろそろ時間ですね。勇者殿、開会式を始めたいと思いますので、その場にお待ちください。開会式の際、紹介の方をさせて頂きたきます」


「はい」


 春人は緊張し始める。こんな大勢の前で紹介とか恥ずかしすぎる。一応、紹介の言葉を考えるが、一向に浮かばない。浮かんでもすぐに忘れてしまう。第一、どういう風に挨拶すればいいのかすらわからない。仕方ない。他の人の真似をしよう。


「では、そろそろ始めるか」


 パーキンソンはそう呟く。


「セシル」


 脇に控えていた女性を呼ぶ。


「はい。ヒューイ様」


 彼女は杖を取り出し、パーキンソンののど元に向ける。杖先が光ると、


「あー、あー」

 

 声が拡大した。春人は驚く。今のはなんだ。杖が光ったら声が拡大した。マイクなのだろうか。


「皆様方、お集り頂ありがとうございます。今宵、皇帝陛下から徐々に迫り来る脅威ーー凍てつく大地の浸食の阻止、そして、氷の神殿を封印する命が下されました」


 それぞれ挨拶を交わしていた人々がパーキンソンに注目し始める。


「そう、その使命を達成することが出来る唯一の存在、炎の勇者が選ばれたのです」


 その言葉に会場は静かになり、演説台に視線が集まる。


「ではご紹介致しましょう。今宵の主役、皇帝陛下より大命を受けた炎の勇者、フレア・カナスタシア様です」


 パーキンソンはそう脇に寄って演説台の真ん中を指し示す。


「どうぞ」


 助手のセシルはそうフレアに台に上がるよう促す。


「は、はい」


 壇上に登るフレア。フレアが壇上に上がると、

 拍手喝采が起こる。口笛を吹く者すら現れる。

 春人は少し驚く。


「フレア様、一言お願いしてもよろしいでしょうか?」


「え? え? は、はい。ご、ご紹介に預かった炎の勇者、フレア・カナスタシアです。え、えっと、よ、よろしくお願いします」


 パーキンソンの言葉にフレアは戸惑いつつも挨拶する。そして、拍手が起こる。


「ありがとうございます、フレア様。少し驚かれた方もいるのではないでしょうか。フレア様はまだ未成年でございます。勇者としては稀なことですね。しかし、しっかりとしたお方なのできっと陛下の命を全うして下さることでしょう」


 パーキンソンはまた階段の方を指し示すと、


「続いて、フェニックス騎士団の隊長を務めたこともある凄腕騎士、バーグ・エルフォード様」

 

 壇上に上がるバーグ。一言あると思ったがなにも言わないようだ。察したパーキンソンは拍手をして拍手を促す。


「次に、帝都セントラル魔法学園を主席で卒業したエレクトラ・ガーネット様」


 不満そうに壇上に登るエレクトラ。また拍手が起こる。


「そして、サラマンダーを使役する高等精霊術師、ディア・マーシャル様」


 おろおろするディア。セシルに促されるまま壇上へ。拍手が起こる。


「この三方が炎の勇者、フレア様を支える心強い旅のお仲間です。どうか皆様、お三方に盛大な拍手を」


 また拍手が起きる。

 春人は呆然としつつ、自分を指差しながらセシルの方を見る。

 首を横に振る助手。春人の紹介は無いらしい。


「あ……え……あ、春人さん……」


 フレアは春人を気にしたようにこちらをチラ見する。


「今宵、彼女たちの門出を我々で祝おうではありませんか」

 それに気付いた様子のないパーキンソン。パーキンソンは合図し、助手はワイングラスを用意する。それをフレアたちに渡していた。春人にも流石にあるようだ。セシルに渡される。


「彼女たちの幸運を、氷の神殿の封印の成功を祈って、皇帝陛下万歳!」


 そうパーキンソンは片手に持ったワインの入ったグラスを掲げる。


「皇帝陛下万歳!」


 会場の貴族たちが一斉にグラスを掲げた。

 それと共に晩餐会が開始された。


「ありがとうございます」


 壇上から降りてフレアたちに感謝の言葉を告げる。


「いえ」


 フレアはそう答えた。エレクトラは無視している。バーグは軽く会釈をする。ディアは俯いていた。


「今宵、主役はあなた方です。どうか楽しんでください」


「は、はい」


 パーキンソンの言葉にフレアは頷く。


「おっと、勇者様とお話したい方々が集まってきているようですね」


 おどけたように言うパーキンソン。フレアたち付近には野次馬の如く人が集まっていた。フレア、また他のメンバーが気になって仕方ないという雰囲気だった。

 そんな人だかりに動揺した様子のフレア。不安そうに春人の方を伺い、春人に近づこうとしたが、

 笑顔でパーキンソンが貴族たちにフレアを指し示す。

 その前に貴族たちに囲まれた。ぎこちない笑顔を浮かべるフレア。


「ちょっ」


 囲まれるエレクトラ。バーグ、ディア。

 一人取り残される春人。辺りを見渡し、白いテーブルクロスの上に置かれた料理を眺める。食べていいのだろうかと迷う。

 一応、フレアの方へ視線を送り、目を離さないようにしている。

 そんな時こちらへ歩いてくる少女が見えた。薄い緑のドレスを纏った少女。エメラレルドグリーンの髪の少女。

 春人はそんな彼女に見蕩れる。

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