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19 大地の勇者

 春人たちの目の前にいきなり現れたのは茶髪のツインテールの少女だった。


「シャルロット様?」


 そんな少女を見て街長が驚いた様子でそう言った。


「シャルロット?」


 フレアはそう街長の顔を見る。

 少女は岩から飛び降りて、フレアの前に降り立った。


「あなたが炎の勇者?」


 そう少女が問いかける。


「え? は、はい」


 フレアは戸惑いつつもそう答えた。


「ふふっ、まだ子どもね」


 彼女はそう妖艶に笑う。しかし、フレアより背が低く見た目が幼い彼女が言ったところで説得力が無かった。


「こんばんわ。シャルロット様」


 旅館のオーナーがそう挨拶をする。知り合いのようだ。


「ええ。こんばんわ」


 そう彼女は返す。


「シャルロット様。事前にお伝えておりましたのにどうして来て下さらなかったんですか?」


 街長はそう不満げに言う。そこで春人は思い至る。料理店に来る予定だった勇者という存在に。名前はシャルロットと言っていた。彼女こそがこの街に居る勇者なのだと。


「忘れていたのよ。ごめんなさいね」


 シャルロットは悪気無さそうに謝罪する。


「それより、あなた名前は?」


 すぐに街長から視線を外してフレアに尋ねる。


「え? わ、わたしですか? わたしはフレアです。フレア・カナスタシア」


 フレアは戸惑いながらも答える。


「そう。フレアね。私はシャルロット。シャルロット・バックス。よろしくね」


 シャルロットはそう手を差し伸べる。


「は、はい。よろしくお願いします」


 フレアは恐縮した様子でその手を握った。


「ふふ」


 また茶髪のツインテールの少女は笑う。


「シャルロット様。夕食の方は?」


 旅館のオーナーはそうシャルロットに問いかける。


「心配いらないわ。宿の方で用意してもらったもの」


 シャルロットはそう返事をした。


「そうですか」


 旅館のオーナーは納得した様子だった。


「私も宿に戻るわ。この娘と話したいしね」


 シャルロットはフレアの側に寄ってそう言った。


「はい。一緒に戻りましょう」


 オーナーは頷いてそう答えた。


「フレア、疲れているかもしれないけれど、良かったら私と一緒に話さない? 色々と聞きたいこともあるでしょう?」


 シャルロットはフレアにそう言う。最後に意味深にフレアを見つめた。


「は、はい。も、もちろん大丈夫です」


 フレアは動揺した様子だったが、シャルロットの言う通り気になることがあるのか肯定の返事をした。


 街長がフレア以外にも気を使ったのかシャルロットに自己紹介をさせてもらってもいいですかと問いかけていた。シャルロットは「構わないわ」と答えて、春人たちとも挨拶を交わした。


 春人たちは旅館へと戻ることになった。

 旅館の中に入るとオーナーがこちらを向いて、


「皆様、どうぞお寛ぎください」


 そう笑顔を浮かべる。


「それではすみません。私はこれで失礼いたします。皆様」


 街長はそう言ってフレアの方を向いて頭を下げる。


「はい。ありがとうございました」


 フレアもそれに返事を返す。


「じゃあ、俺は別のところに宿を取ってるから、ここでお別れだ」


 ダンカンもそう言って手を上げる。どうやらダンカンはこのホテルでは泊まらないようだ。


「そうなんですね」


 このホテルではあまり姿を見せなかったのはそれが理由か。


「ここまで送ってくださって本当にありがとうございます」


 フレアはそう礼を言う。


「いいってことよ。まぁ、俺も仕事だしな」


 ダンカンは少し照れくさそうにしながらもそう返した。


「ダンカンさん、ありがとうございます」


 春人もダンカンに頭を下げる。ダンカンにはなんだかんだ言いながらも世話になった。口数の少ないこの面子で唯一賑やかしい存在で気まずい空気から何度も春人は救われた。


「おう、明日からは一緒に行けないが、兄ちゃん、頑張れよ」


 ダンカンはそう言って春人の肩を叩いてくる。


「はい」


 春人は頷く。


「……お礼は言っておくわ。ありがとう」


 次にエレクトラがそっぽを向きながら告げた。


「おう、嬢ちゃんの憎まれ口が明日から聞けなくなると思うと寂しいぜ」


 ダンカンはそう戯けてたように返す。


「嬢ちゃんはやめてって言ってるでしょ」


 エレクトラは不満そうにそう言った。真面目に礼を言ったのを茶化されたことに怒っているようだった。


「ははは」


 ダンカンは笑った。この二人のやり取りも見れなくなると思うと少し寂しいものがある。なんだかんだ言いながらも仲は悪くなかったように思えるのだ。


「ダンカン、色々と世話になった」


 バーグはそう礼を言った。


「はは、あんたにそう言われるとなんか照れるが、まぁ、頑張ってくれ」


 ダンカンはバーグには真面目にそう返す。少し前から思っていたがダンカンはバーグに対しては尊敬しているような節があった。


「あ、ありがとうございます」


 最後にディアがわたわたしながら礼を言った。


「この旅はあんたにかかってる。無理はすんなよ」


 そんなディアを茶化すこともなくダンカンは真剣な顔でそう言った。


「……はい」


 ディアもそれに対して少し落ち込んだ様子で返事をしていた。


「じゃあな。また翌朝に会おう」


 そう言ってダンカンは旅館を出て行く。


「フレア、行きましょう。あっちに話すのにいい場所があるのよ」


「は、はい」


 ダンカンが出て行くのを見守っていると後ろでそんなやり取りが聞こえた。

 シャルロットがフレアを誘ってどこかへ行くようだ。


「私は部屋に戻ります」


 ダンカンはそう旅館のオーナーに告げる。


「私も」


 それに続くようにエレクトラもそう言った。


「はい。晩餐に付き合っていただきありがとうございます」


 オーナーはそう返した。

 ふたりとディアは部屋の方へと消える。

 春人は一人その場に残った。

 フレアとシャルロットの二人の後ろ姿を見る。ホテルの従業員に言って温かい飲み物を受け取っている姿を見る。

 フレアがシャルロットと話すことは別になんとも思っていない。しかし、これまでずっとフレアを一緒に行動していたからか、フレアがいないこの状況でどうすればいいのかわからなかった。


「ハルト様、お部屋の方へ戻らないのですか?」


 そんな春人を見かねてか街長がそう話しかけてくる。

 てっきりもう旅館から出て行ったものと思っていたがまだ残っていたようだ。


「え? あ、はい」


 ちらりとフレアの後ろ姿を見る。フレアはこちらを気にした様子もなくシャルロットと話しながら移動している。別になんとも思っていないが、多少なりこちらを気にしてもいい気がしないでもない。一人で戻った方がいいのか、それともシャルロットとの会話が終わるまでここで待った方がいいのか悩んでいるというのに。


「もしよろしかったらお話しませんか?」


 街長はそう提案してきた。どうやら春人に気を使ってくれたようだ。


「え? 別にいいですが……」


 気を使ってくれた手前断りづらい。それにフレアを待ったとしてもきっとそれなりに遅くなるだろう。だったら時間を潰す意味合いでも街長と話してもいいのではないかと思った。 

 しかし、街長はこの旅館に泊まるわけではないのだろう。外も暗くなっており、このまま春人と話していたらもっと遅い時間になるのは確実だ。だから、春人は街長は大丈夫なのかという顔で見る。


「デールさん、今夜部屋の空きはありますか?」


 春人の意図を察したのか街長はそうオーナーに尋ねる。


「ええ、ありますよ」


 オーナーはそう返した。


「そうですか。では、申し訳ないですが、そこに私が泊まっても?」


「いいですよ。手配しましょう」


 街長のいきなりの申し出にも関わらずオーナーは了承した。


「ありがとうございます。では、ハルト様行きましょう」


 街長はそう礼を言うと春人を促した。

 春人は少し戸惑いつつも街長に従うことにする。



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