引きこもり少年の憂鬱
第四章、夏編(1)にようやく突入です。
10月に入って徐々に涼しくなってきたというのに今更のように物語は夏になります。本当は9月にでも投稿したかったのですが・・・間に合いませんでした。
というわけで、季節外れ感が半端ないですが、だいぶ遅めの初夏の幻想街を最後まで読んでいただけると幸いです。
やあ皆さん、俺の名前は雪村大和、18歳。引きこもり、ニート、二次ヲタ、童貞、根暗、陰キャ、コミュ障の七拍子が奇しくも完璧にそろっている人間だ。まぁ堂々と言える事ではないのだが。普段は家でネトゲのイベントクエストを周回してランキングを上げたり、FPSのオンライン大会に参加したり、通販で新作ゲームや専用機器を買ったり・・・要するにそこそこやりこんでるゲーマーだ。決してずば抜けてゲームが得意というわけではないが、そこら辺の自称ガチ勢よりかは出来る自身はある。ランキングだって数十万人のうち一桁にはなれるし、オンライン大会でも大抵三位以内には入れる。まあ家に引きこもって一日中ゲームをしていればそのくらいにはなるさ。
・・・え?誰に向かって話してるのかって?そりゃこの心の声をどこかで聞いているそこの君だ。・・・いや、決して変なキノコを食べたり、頭をぶつけたりしたわけではない。俺は至って正常だ。引きこもり過ぎて頭がおかしくなったわけでもない。繰り返す、断じて平常運転だ。
それはさておき、ここで一つ問題だ。俺は今一体どこにいるでしょう?・・・何?引きこもりなんだから家だろうだって?だったらこんな問題わざわざ出さねぇよ。あいつに無理矢理引きずり出されたんだ。ほんとはた迷惑なヤツだよ。なんで俺がこんなことにならなきゃいけないのだ?
それはそうと、なんだもう降参か?・・・まあ分からねぇよな、まだ何も言ってないし。それじゃあ俺の目の前の景色を言葉にしてみよう。
「大和!早く!すごく綺麗だよ!」
「水が冷たくて気持ちいい!」
「ねぇ、皆でビーチバレーしよう!」
「リリィ様、日焼け止めの魔法を付呪しましょうか?」
「うん、お願い。今日は暑いね・・・」
俺を容赦なく照らす真夏の太陽の光線。果てしない水平線の上に浮かぶ白い入道雲。透き通るような青い空と海。その強烈なコントラストが非常に眩しい。全身で感じる潮の香りに、遠くから聞こえる蝉の大合唱。そうだ、俺は今海にいる。引きこもりの俺が、浜辺に立っているのだ。
太陽光は水面でキラキラと乱反射し、目の中に入り込んでは俺の網膜にダイレクトダメージを与える。白い砂はその効果をさらに増大させ、俺のHPはかき氷のようにガリガリ削れていった。もうそろそろゲージが黄色から赤色に変わる頃、つまり俺は今、瀕死だ。誰か・・・回復スキルで助けてくれ・・・もう俺はもうすぐ天に召されそうだ。
・・・なんて俺の死にかけの状態なんていざ知らず、幼馴染みの花咲彩葉とその愉快な仲間達のカレン、ルーシア、リリィ、パドラは、この砂浜でTHE☆バカンスをエンジョイしていた。まぁ皆さんのご期待通り、みんな水着姿だ。彩葉やルーシアは言うまでもなく完璧に近いプロポーションだ。豊満な胸の膨らみに、柔らかな腰の曲線、すらりと健康的な太もも。出るところは出て締まるところは締まる。普段衣服に隠れていた女性としての魅力が、ここぞと言わんばかりに強調されている。カレンやリリィも、まだ小柄な体とはいえ可愛らしい水着を身につけて人々を魅了していた。・・・って、俺は何で女子の水着姿を詳細に分析してんだ!?ムッツリスケベかよ!?童貞こじらせるのも大概にしろ俺。いやでも、そもそも別にいやらしい目で見てたわけではないし・・・。そう、俺は目の前の光景をそのまま見てるだけだ。そこに下心的な意味があるわけではない断じて。・・・おいルーシア、何だその表情は?クソッ、あいつ動揺してる俺の反応見て楽しんでやがる。今すぐ抗議してやりたいが、うかつに水着女子に手を出してしまうとおそらくポリスメンにお世話になってしまう。そうなったら最後、やれ痴漢だのやれ強姦だの言われ、最後に待つのは社会的な死だ。そう、今の時代男はちょっとしたことでも通報されかねないのだ。俺は憤怒の感情を飲み込み、押し殺す。後に残るのは、どこにも行き場がないやるせない気持ちだけ・・・
「帰りたい・・・どうしてこうなった・・・」
俺はただ幸せな引きこもり生活さえ出来ればそれでいいのに、運命はそんなことも許さないと言うのか?
俺は一週間前に思いを致す。そう、この地獄の元凶となる出来事が起こったあの日に・・・
それは突然の来訪だった。
梅雨が明けて本格的に夏に入り始めたある日の朝。さんさんと降り注ぐ真夏の太陽の光と遠くに浮かぶ入道雲が、先ほど引っかかって開きかけたカーテンの隙間から少しだけ見える。部屋に響くのはクーラーの音と外から聞こえる蝉の声。あとは俺がキーボードを叩く音くらいか。だがその中でも一番大きく聞こえるのは蝉の声だ。あいつらはなぜあんなにうるさいんだ?オスがメスに自分をアピールするためだと聞くが、あそこまでボリューム上げる必要はないだろうに。正直、こっちは耳が痛くなるからとんだ迷惑だ。それが夏の風流だとか言う人もいるが俺はそうは思えない。ただオスがメスを捕まえるためにギャンギャンわめいてるだけなのにどこに風流があると言うのだろうか?理解に苦しむ。
しかし俺にとってしてみればうっとうしい以外何でもないこの季節だが、夏は多くの生き物が活発になる季節だというのはまぁ確かだ。生物学的に見てもそれは正しい事だろう。そしてそれは人間もまた例外ではない。やれ「夏だ!海だ!水着だ!」だの、やれ「浴衣着て花火しよう!」だの、やれ「ひと夏の恋がしたい!」だの、やけに夏限定でテンションハァイ⤴⤴になって騒いでるパリピのなんと多いことか。いや別に悪いことではないのだが、結局人間も他の動物と同じなんだなぁと実感する。進化の過程が違っても根本的な所は変わらないらしい。いかに人間に知性があれど所詮そこら辺の木にしがみついてミンミン鳴いている蝉と同類か。・・・が、俺は違う。ぶっちゃけ夏ほど嫌いなものはない。うるせぇしあちぃし蚊には血吸われるしついこの前エアコン壊れて新しく買う羽目になるしその間地獄だったし汗かくと気持ち悪いし久々に洗濯しようと思ったら突然の夕立で結局びしょびしょになるしでいいことが全くない。まったく、一般人はこんな季節のどこがお好きなのか?理解に苦しむ。
窓の外をちらりと眺める。住宅がひしめき合う中でゆらゆらと揺れる陽炎。コンクリートは高温になりやすく、上昇気流が発生して密度の異なる空気が混ざり合あい、光の屈折が起こって向こう側の景色が揺らいで見える、それが陽炎という現象だ。つまり、今俺の部屋の外は地獄だということだ。その元凶はまさに今俺たちの頭上に居座っている忌々しい太陽。この灼熱の光は俺にはとてつもなく害悪だ。少し当たるだけでも肌がひりひりと悲鳴を上げるし死ぬほどクソ暑い。だから俺は今日もカーテンを完全に閉め切って冷房を26℃に設定する。うん、この薄暗い空間にPCの画面だけが怪しく光っているような部屋が俺にはお似合いだ。太陽の光なんて俺には眩しすぎるのだ。
とまあこんなことを考えながらいつものようにダラダラとネトゲのデイリーミッションを進めていたとき、来客を知らせるチャイムが鳴った。ああ、まぁた彩葉が来たよ。いやもう見なくても分かるわ。不本意なことに彩葉とは切っても切れない関係だ。こっちが振り払おうとしても向こうはしつこくしがみついてくるのだ。俺がどれだけ振り回されたと思う?あいつが来るときは本当にロクな事などない。今回もまたとんでもないこと言って、俺は力尽きるまで付き合わされるのだろう。もうわざわざ玄関出る必要なくね?
そう考えた俺は無視することを決行した。いいんだよ、あいつの気持ちより保身の方が大切だ。桜花祭の時とかテスト勉強会の時のようにはなりたくない。この季節に外に連れ出されるのはごめんだからな。この部屋でのんびりと一人で過ごしていく、それが俺の唯一の願いだ。
・・・・・・
・・・
・・・いや、ちょっと待て。なんか違和感を感じる。あいつならこういうときいつもどうしてた?そう、彩葉は基本チャイム鳴らさずに入ってくるはずだ。他人の部屋だというのにもかかわらず、まるで自分の家のようにナチュラルに入ってくるのだ。俺がどれだけ怒っても、彩葉は「だって幼馴染みじゃない」と言うだけ。反省する気は皆無。「幼馴染み」は何やっても許される免罪符じゃねぇんだよ、少しは分かれ。しかもたちの悪い事に鍵をかけても彩葉には関係ない。合鍵で開けてくるのだ。いつの間に作ったんだよちょっと怖えよ。今はある程度慣れたけど、この部屋に一人で住み始めてまだ日の浅い頃は本当に警察に通報しようかと思った。
とにかく、このことから彩葉の可能性が一気に消えた。あいつならもうとっくに入り込んでるだろう。ということは「彩葉の愉快な仲間たち」のうちの誰かということになる。そうなると一番可能性が高いのは・・・
「・・・なんだ、リリィか」
ドアを開き、そこにちょこんとたたずむ青髪の少女の姿を見て、俺はどこか安心感のようなものがした。
「お、おはようございます」
リリィは少し頬を赤くしながらそう言った。うむ、彩葉やカレンやルーシアと違っておしとやかで可愛らしい。
「なんか久しぶりだな、二週間ぶりぐらいか?」
そう、前は結構な頻度で家に来てたのだが、最近は全く見ていなかったのだ。
「彩葉さんの、テスト勉強の時以来・・・ですかね」
「そうか、あのときは悪かったな。追い出すようなことして」
「いえ、事情は知っていますから・・・大和さんも、お疲れ様でした」
ああもうなんていい子なの!?リリィちゃんマジ天使!労いの言葉を優しい声でかけてくれるのは君だけだよ。当事者のあいつなんてテスト終わった事に喜ぶだけで俺に何か礼をしてくれるわけでもないし、結局無駄な体力を浪費しただけだった。まぁ目標を達成しただけまだマシなのだが。
それに比べてリリィはどこまでもいい子だ。天使様というか聖女様というか、あの3バカ女子に振り回されている俺から見ればリリィは神聖な存在だ。一緒にいると日々のストレスで廃れた心が癒やされていくのが分かる。彼女は精神回復の能力も持ってるんじゃないのだろうか?あいつらも見習ってほしいものだ。
感激の涙を流しているとリリィが「?」と首をかしげているのが見えて、俺は咳払いして誤魔化した。
「それにしても、なんで最近来なかったんだ?」
「ちょっと能力使いすぎて、体調崩しちゃって・・・ここ一週間くらい、ずっと寝込んでたんです」
「え、大丈夫か?言ってくれればお見舞い行ったのに」
正直、クーラーの効いた部屋からクソ暑い外に出るという自殺と言っても過言ではない行動をするのはごめんだが、俺の天使様が苦しんでるというのなら話は別だ。薬と栄養ドリンクと果物をいくつか持って彼女の家に急行し、すぐさま看病しなければ。
「あ、ありがとうございます、もう大丈夫ですので・・・そうだ、今日は大和さんに見てもらいたいものがあって来たのですが・・・――あっ!」
リリィが肩下げのバッグから何か取りだそうとしたとき、リリィが羽織っているロングコートから二つの何かが俺に向かって飛び出してきた。
「うわっ!?・・・ってあれ?」
ぶつかる!と思って身構えたが、それは俺の体をすっと音もなくすり抜けた。体にぶつかるように飛んできたのに、痛みどころか触れた感触すら感じない。よく見るとそれは赤紫色の雲のようなものだった。ふわふわとしていて形がはっきりと定まらない。
「もう、勝手に飛び出さないの。大和さん困ってるじゃない」
リリィがその二つに対して叱るが、どちらもしてやったりといわんばかりの不適な笑みを浮かべている。
「もしかして、こいつら霊か?」
「はい、この前廃墟ビルで見かけたんです」
俺は霊に手を伸ばすが、明らかに見た目では触れているのに俺の手は空を掴む。相変わらず不思議な存在だ。俺が改めてそう思っていると、俺の反応が面白かったのかケラケラとその霊は笑った。
霊というのは基本的に命ある者には見る事が出来ない。が、まれにそれを見る事が出来る能力を持っている人がいる。今まさに俺の目の前にいるリリィがその人だ。彼女は『死霊召喚』という能力の持ち主。その能力の力で霊が見えるのだ。
そして俺も、霊が見える人のうちの一人。しかし俺はリリィと同じ能力を持っているわけではない。俺が持っている能力は『聖鏡眼』――真の世界を視る能力だ。霊を含む本来は見えない存在を見たり、様々な人や物の本質を見抜く事が出来る。具体的には幻術で隠していた物を見破ったり、対象者の本当の姿を見抜いたり、なんなら人の心や過去を読み取ったり、時には未来すらも視る事が出来る。まぁ人の心や過去を視る悪趣味は俺にはないし、未来視も今のところ大したものは見えていない。能力のおかげで視力が良くなったわけでもないし、箱の中や壁の向こうにある物を透視することも出来ない。ただただ、見えざるものが見えるようになっただけ。実に俺らしい中途半端な能力だ。
まぁそんなことどうでもいい。重要なのは、この霊を見る事が出来る人間は今のところ俺とリリィだけということだ。
「こっちの元気な子がメアリー、こっちのいたずらっ子がランディ。あと、ここにも一人いるんだけど・・・ほら、この子が怖がりさんのハンス」
よく見るとリリィの後ろにも一人、かたかたと震えながらこちらを見ている霊がいた。なるほど、霊にも怖いと感じるものはあるのか。新発見だ。・・・いやでも、元々は人間なんだし当たり前といえば当たり前なのか?
「へぇ、リリィはこの霊たちの名前も分かるのか?」
「い、いえ・・・私が勝手に名付けたんです。その、いろいろ不便だったので。それに、そっちの方が仲良くなれるかなって」
リリィはそう言いながら霊たちに微笑む。霊と一緒にいるときのリリィはまるで別人みたいだ。保護者というか母親みたいな。人と話す時はひどく怯えているのに相手が霊だとここまで違うのか。
「でも成仏はしなくていいのか?おまえあれだけ苦しんでる霊を助けたいとかなんとか言ってたのに」
「あ、そう、そのことなんです。実はこの子たちを見つけたとき、これも見つけたんです」
リリィは一冊の本をバッグから取り出した。奇妙な模様が描かれた黒色の本。見た目はファンタジーものの小説とかに出てきそうなデザインだ。ただ、タイトル、作者名、出版年月日いずれも不明。本文も全くなく、ただ空白のページが延々と続く。ノートとかメモ帳とか記録するものか?それにしては分厚いしでかい。それに新品のように綺麗だ。汚れや傷が全く、表紙は光に当てると金属みたいに光沢を放つ。まるで何かでコーティングされているみたいだ。
「なにこれ?」
「わ、分かりません・・・だけどパドラさんが、もしかしたらこの子たちの未練に関係あるかもって・・・」
「あーなるほど、だから能力使ってないのか」
「はい、出来ることがあるのなら、なるべくやりたいんです。この子たちも待ってくれてるから、絶対に未練を昇華させて成仏してあげたいんです」
前にリリィから聞いた事がある。未練を残して死んだ人の魂は霊としてこの世界に留まる。この霊を本来あるべき場所へ還すには、未練を昇華させるかリリィの死霊召喚を使うか、この二択しかない。とは言っても、霊の未練を知る手段なんてどこにもない。霊は言葉を発する事は出来ない(というより霊は世界に干渉出来ないから霊の声を聞く事は出来ない)し、仮にその霊の未練が分かったとしてもそれがリリィに出来ることとは限らない。つまり前者はほとんど無いに等しいのだ。
だけど、今回はヒントがある。ほとんど無理だと思っていた選択肢の可能性が飛躍的に上がったのだ。だからこそ彼女はどうしてもやってみたいのだろう。能力なんかには頼らない本物の救済を。
ほんとリリィらしいよ。体調崩しやすいにも関わらず、自分のことよりも他人のことを優先するなんて。ああでも、あまり自分を犠牲にしすぎるのも良くないからな、おまえの気持ちの強さは分かったから何事もほどほどにな。仮に失敗したとしても誰もリリィを責めるようなことはしないから。
「・・・でも、結局それが何なのか分からない以上どうしようもなくない?」
「だ、だから・・・大和さんの能力で、これがどんな物なのか見て欲しいんです」
「俺の力で?」
確かに俺の能力を使えば物の本質を見抜く事は出来る。この本の正体も分かるはずだ。だが・・・
「んー、悪いがあまりこの能力は使いたくないんだよなぁ・・・」
はっきり言って俺はこの能力が嫌いだ。こいつのせいで俺の人生は狂ったんだ。そんな物を自ら使うなんて、いくらリリィの頼みでも承諾しかねる。
「そうですか・・・そうですよね・・・大和さんの能力のことは前に聞きましたけど・・・それでも、何か少しでも分かればいいなって思って・・・」
するとリリィはしゅんとうつむき、残念そうに悲しげな表情を浮かべた。
「うっ・・・」
俺の上にのしかかる罪悪感の重み。ちょっとリリィさん?それはずるくないですか?
「・・・分かったよ、見てやるからとりあえず中入れ」
この程度で心が揺らぐ俺氏・・・無念。
「い、いいんですか?ありがとうございます。」
その時、ぱぁとリリィの表情が明るくなった。うん、可愛い。
まぁ少しくらいいいか。霊が見えるのは俺とリリィくらいしかいないから(あとパドラもいるが)、彼女も俺にしか頼れないのだろう。霊が見えない彩葉たちは出来ることは少ないだろうし、同じ見える者どうしの方が何かと便利だろうし、俺もどうせ暇だから手助けくらいしてやるか。
俺はリリィを部屋に招き入れて適当に座らせる。リリィから受け取った謎の本をちゃぶ台の上にのせて、それをじっと見つめた。
・・・とは言ったものの、正直能力の行使には自身がない。今までずっと押さえ込んでいたし、使い方を忘れていてもおかしくない。それに、俺にはあの問題もある・・・
「・・・・・・・・」
一度目を閉じ、目元に力を込める。網膜がじんと熱くなるのを感じたら準備完了だ。うん、ここまでは順調。この状態で目を開けば『聖鏡眼』を発動出来る。出来るはず、なのだが・・・
「ッ――」
刹那、脳裏をかすめる俺の記憶。この能力が俺に宿って三年間のトラウマが、閉じた目の中で鮮烈に蘇る。
「ぐうっ――」
やばい、急に頭痛くなってきた。ひどい耳鳴りと吐き気もする。目を開けるだけ、たったそれだけのことなのになぜか体が言うことを聞いてくれない。
俺の能力にはもう一つ効果がある。目に映ったものを記憶する・・・完全映像記憶だ。見えたものが俺の脳には残らなくてもこの目には完璧に記憶される。忘れたい記憶も永久にこの目に焼き付けられるのだ。忘れたいのに忘れられない、記憶が薄れる事もない。その時見た光景がそのまま頭の中でリプレイされるのだ。
これがどれだけ辛いことか・・・誰も知るよしもない。
「や、大和さん・・・?」
リリィが心配そうにこちらを見ているのがなんとなく分かる。が、構っている余裕がない。
悪い、リリィ・・・
俺は目元の力を抜き、ゆっくり目を開ける。さっきの記憶はもう見えない。それだけでもだいぶ心は落ち着いた。そして、おろおろとした様子のリリィに俺はきっぱり言った。
「・・・無理だ」
「ふえぇ!?な、なんで・・・ですか?」
俺の突然の無理宣言に明らかに動転するリリィ。
「・・・すまない、やっぱり俺は・・・だめだ」
情けない。ただただ情けない。まだ小さいリリィだって苦しんでいる霊のために頑張っているのに。嫌いだった能力を使いこなせるように努力して、体調を崩しやすい体質にも関わらず街中をまわって、自分を犠牲にしてでもこの霊たちを助けたいと頑張ってるじゃないか。なのに俺はどうだ?昔のトラウマをいつまでも引きずって、部屋にこもってだらだらと怠惰な時間を浪費し、自分を変えようと努力もすることなく自分は不幸な人間だとただそれだけを思う毎日。こんな自分に嫌気が差す。
「悪いな、役に立てなくて」
「いえっ、その・・・私こそ、無理を言ってすいません・・・大和さんが、その能力ですごく辛い思いをしているって、知ってたのに・・・」
リリィは申し訳なさそうにうつむく。俺の能力の事は少し前にリリィに話した。だからリリィも俺の事情はある程度理解している。この能力が原因で周りと馴染めず、自分の殻に閉じこもった俺のこと。そのせいで俺はこの能力が嫌いなこと。だけどリリィはそれでも俺に頼んできた。それだけ霊を助けたいという気持ちが強かったのだ。だから俺はその気持ちに応えるべきだったのかもしれない。だけど俺はくだらない過去の事を言い訳にして逃げたのだ。俺が能力を使えさえすればこの本の謎も霊たちの未練も解決したのに。だから、悪いのは全部俺なんだ。
「いや、おまえが謝る事じゃねえよ。そこの霊たちを助けたかったんだろ?その気持ちは十分伝わったしおまえが気にする必要はねえ。それに最終的には俺が決めた事だしな」
「大和さん・・・」
リリィが何か言おうとした、そんなときだった。
バアァンッ!!
突然、壊れるかと思うくらいの勢いで玄関の扉が轟音を立てて開かれた。
「うひぅゃああぁぁぁああッ!?」
「きゃぁっ!?」
俺とリリィは同時に悲鳴を上げる。突然すぎて俺は変な声を出してしまった。妙なところで噛んだ上に完璧過ぎる裏声。まずい、これは完全に笑われるやつだ。あ、でもリリィは俺の腕にしがみついて震えてるし大丈夫かな・・・。・・・驚いた時のリリィちょっと可愛いな。
って、そんな場合じゃねぇ!一体何事!?まさか、白昼堂々の泥棒か強盗か?待ってくださいそれだけは勘弁して!?俺の家に金目のものなんて電子機器しかないし、それ盗られたら俺もう生活出来ないッ!金や食料は盗られても構わないがPCやスマホはダメだ。それがないと死んでしまう!それだけ俺の体は依存しているんだ!
俺たちは戦々恐々と突然の来客が居間にやってくるのを待つ。あ、やばいこれ、俺今日死ぬかも。
俺が死期を悟ったその時。
「ばーん!私、登☆場!!」
桜色の髪の少女、花咲彩葉がにぱっと笑顔を見せて決めポーズをとっていた。
瞬間、俺の心が恐怖から一転、「うっとうしい」の感情にシフトする。
「・・・あ?」
さっきまでいろいろ考えてた事が突然馬鹿らしく感じるようになってきた。何だよ強盗って。この部屋に大金稼げるようなものなんてあるわけないじゃないか。狙うとしたらこんな一般家庭のワンランク下のアパートじゃなくて、銀行とかブランド店とか豪邸とかだろ冷静に考えたら。「今日死ぬかも」?何言ってんだ一瞬前の俺は。
「ね?びっくりした?」
「てめぇ・・・最近成績上がったからって調子に乗りやがって・・・」
たまに起こる彩葉の予想外の言動にはだいぶ慣れたつもりだったが、つい先日彩葉の期末テストが終わってから余計拍車がかかったような気がする。
「おじゃましまーす!あ、リリちゃん!久しぶり!」
「はぁ、この前部屋を片付けたばかりではないか。なのにもうこんなに散らかしたのか貴様は・・・」
「へぇ、大和くんの部屋ってこんな感じなんだ。玄関までは何回か来たことあったけど、中に入ったのは初めてだなぁ」
そしてぞろぞろと現れるカレンとパドラとルーシア。こいつらもこいつらで他人の部屋にも関わらず一切の遠慮をしない。何で俺の周りには常識人が少ないんだよ。
「・・・なんでおまえらも来たし」
「へへん、私が呼んでおいたよ」
鼻下を人差し指でこすりながら偉そうにほざく彩葉。ほんと余計な事しやがる。七帖の部屋に合計六人は狭すぎるだろ。冷房つけているとはいえこの人口密度は暑苦しい。
「それにしても・・・ふふっ、大和くん、うひゃあああって・・・ふふふふッ、変な声ふすっ」
俺の顔を見て思い出したのか、腹を抱えて少し涙ぐみながら笑いを堪えるルーシア。必死に抑えているようだったが体は正直だった。内側からこみ上げてくるそれに肩を震わせる。そんなにツボだったか俺のビビり声は。
「しょ、しょうがねぇだろ!あんな音出されたらびっくりするわ!ってか扉壊してないだろうな!?」
「ああ、大丈夫だ。振動系操作魔法で音波を増大させただけだから」
「パドラ!てめぇの仕業か!?」
「俺はルーシアさんに頼まれてやっただけだ」
俺はキッとルーシアをにらむ。当の本人はあからさまに視線をずらし、上手く出来ずにかすれる口笛を吹いていた。
「おまえ・・・いい加減にしろよ・・・」
「ごめんごめん!ついいたずらしたくなって」
うーん、そのごめんは審査が必要だぞ。顔が未だににやけている辺り反省の色が全く見えないのだが。
「で、何しに来たんだよみんな集まって」
俺がそう言うと、彩葉は彼女らしからぬ真剣な表情になった。
「そうそう、今日は大切な話があって。今後みんなにも関わってくる重大な事なの」
脳天気娘のこいつがこんな表情をするのも珍しい。いつもは基本にこにこと笑っているだけなのに。
だが!俺らにも関わる重大な事?分かりきってる、そんなの絶対――
「嘘だ」
「ほんとだって!」
それでも彩葉は真剣な表情を崩さない。なるほど、確かにこいつは真剣らしい。が、分かってんだって。おまえの言い出すことにそんな一般的重要性なんてあるわけないじゃないか。
「いや絶対嘘だ」
そう、分かりきっているんだ。大方桜花祭の時と同じように面白そうなイベント見つけてみんなで参加しようとか思ってんだろ。
「大和!」
だがその途端、彩葉は急に顔を寄せてきた。
「なっ!?」
鼻と鼻が触れそうなほど近い。さらりと長い髪が俺の脚に当たる。彩葉から柔らかい香りが漂い、鼻腔から徐々に俺の脳に侵食していく。彩葉の目に明らかに動揺した俺の顔が映っているのが見えるが、状況が状況だけに思考がまとまらない。
「お願い、本当に大事な話だから。ちゃんと聞いてくれる?」
彩葉は真面目な瞳で俺に迫る。近い近い。離れようにも手を握られて動けない。幼馴染みとはいえここまで異性(しかも美少女)に密着されると、童貞の俺は一瞬にしてオーバーヒートを起こす。実際、思考回路が狂ったのか俺は結局「お、おう」と言ってしまった。
「ありがとう!」
ぱぁと明るい表情になった彩葉は俺の手を離した。瞬間、我に返る俺。あああああああああああああああ何やってんだ俺は!?絶対ロクな事ないぞ。
ってかあいつはいつの間に俺をコントロールする術を覚えたんだ?ルーシアの入れ知恵か?陰キャコミュ障童貞は手を握られるだけでも正常な判断が出来なくなるって。ちくしょう、マイペースで鈍感のくせに。・・・いや、むしろマイペースで鈍感だからあんなこと平然とやってのけるのか?
「まあいいではないか、俺たちにも関わる事なのだろう?」
俺が頭をかかえているとパドラがそんなことを言い出した。
「そうよ、彩葉お姉様すごく真剣じゃない。話聞くだけでもいいんじゃない?」
そして重ねて言うカレン。
「うっ・・・まぁ・・・」
確かにそうだ。俺は彩葉を見下しすぎているのかもしれない。なんだかんだ長い付き合いだ。少しはあいつを信用しても・・・
「よし、それじゃあみんなで海に行こう!」
前言撤回、やっぱダメだわこいつ。少しでも信用した俺がバカだった。なんだかんだ長い付き合いじゃないか、こいつの言い出しそうなことなんてたかが知れてるだろ。
それに海だと?ふざけるな、あんな地獄のような場所には絶対行きたくねぇ!人は多いだろうし潮でベタベタしそうだし、さらに砂浜には俺の天敵である太陽から逃れるための日陰がないじゃないか!何?俺に死ねと?俺は絶対行かないからな。あと全然“みんなに関わる重大なこと”じゃねぇ!
「海!行きたい!行きたいです!!」
そんな俺の心の声も知らず、カレンが目を輝かせて賛同する。
「わぁ、いいね!私ビーチバレーやりたい!」
続いてルーシアも。
「わ、私も・・・かき氷とか、食べてみたい」
なっ、リリィさん!?君だけは俺の味方だと思っていたのに!
「リリィ様が行くというのなら私も同行いたします。そうですね、浮き輪やボールは私が用意しましょう」
「ありがとうパドラさん!ええっと、じゃあ一週間後の日曜日ね!ちょうど海開きの日なの!」
「やったぁ!楽しみ!あ、私ね、スイカ割りってのもしてみたいの!帝国にそんな遊びなかったし」
「いいね!そうだ、夜ご飯はみんなで浜辺でバーベキューね!パドラさん、器具の準備とかも出来る?」
「ばーべきゅーがどういうものかは知りませんが、まあ調べればなんとかなるでしょう」
「花火もしてみたいよね!」
「あ、私も・・・花火、とても綺麗だから」
「じゃあ私が花火買ってくるね」
「ちょちょちょちょちょ、なんでもうすでに行くこと決定で話してんの!?」
俺が彩葉に呆れていた一瞬の間に、俺以外ですでに計画が着々と進んでいた。何でこの短時間でそんなポンポンと話が進むんだよ、気が合いすぎだろおまえら。何でだろう、脳波の波長が同じなんだろうか?俺だけ完全に蚊帳の外だ。少しは俺の意見も聞いてくれ。
しかし俺の言葉は完全に流され、彼女たちは想像の海に浸り始める。
「あつあつの太陽、透き通った海、爽やかな潮の香りを全身で感じて・・・」
「可愛い水着着てみんなで遊んで・・・」
彩葉とカレンがうっとりと妄想に浸る。
「そうだ、私水着買わなきゃ。海行くの初めてだし」
「そっか、ルーシアちゃんの出身って確かホビルニア王国だったよね」
「うん、私の国は内陸国だったから、海なんて本の挿絵でしか見れなかったのよ」
「そっか、じゃあ私と一緒だね!」
「え、カレンちゃんも?」
「うん、私のお母様とても厳しくてね・・・『淑女たるもの常に優雅で冷静でなければならない』ってうるさくて。私昔からこんな性格だったから楽しそうな場所には連れてくれなくて」
カレンの話す内容に疑問を持ったのか、ルーシアが首をかしげながら尋ねる。
「カレンちゃんって、もしかして貴族か何かのお嬢様なの?」
「あれ、言ってなかったっけ?これでも私貴族出身なんだよ!半獣人貴族『ジュリアナ家』の次女です!」
「「「えええええええええええええええ!?」」」
その言葉に、ルーシアも彩葉も俺も驚愕する。リリィも声には出さなかったが驚いた表情を見せていた。まさか彩葉と同居している子が正真正銘のお嬢様だなんて、一体誰が予想出来ただろうか。
「知らないのか?ジュリアナ家はティリア帝国でも有名な貴族だぞ。俺も生前は当時のジュリアナ家当主にお世話にあった事がある」
唯一、パドラが「何をいまさら」と平然とした表情で淡々と説明した。
「え!パドラ様が生きてた時にも私の家ってあったのですか!?それは知りませんでした」
「ええまぁ、帝国はなにかと戦争が多い国でしたから、資金提供などジュリアナ家にはいろいろ助けてもらってました」
それを聞いてカレンの瞳がより一層輝いた。
「わぁ!すごいですね!これが運命ってものですかね!?」
恋する乙女のような表情でパドラに迫るカレン。珍しくパドラが苦笑いしながら後ずさった。
「でも、なんでそんなお嬢様が、ここに・・・?」
そのとき、リリィがそれに気付いて尋ねた。するとカレンがギクッと肩を強ばらせる。
「まぁいろいろあってね・・・あはは」
そう言って笑うカレンだが、俺には少しその笑顔の裏に影があるように見えた。まぁでも余計な詮索はするつもりはない。カレンにもいろいろあるのだろう。お嬢様にしか分からないような、平民の俺たちには分からないような何かが。
「まぁ水着は今度女子みんなで買いに行くとして、どうやって海水浴場まで行く?」
「うーん、電車だと駅から少し歩かなきゃいけないからなぁ・・・やっぱりバス?」
「えー、私バス苦手・・・」
「まあみんなで行くし大丈夫だよ、ね、大和!バス調べといて!」
彩葉は何の悪びれもなくそう言った。だがしかし、俺はそう簡単にほいほいとおまえらについて行く気はねぇんだよ。
「絶対嫌だね。だいたい俺行かないし」
俺は決して行かないぞ。平和な引きこもり生活のために全力を注いで抵抗するんだ。
「えぇ~行こうよ大和ぉ」
「そうよ!こういうのはみんなで行って意味があるの!」
「私も、大和さんと、行きたい・・・」
「大和、おまえは少しは外に出た方がいい。それに彩葉さんはみんなで行くのを楽しみにしているんだ。おまえはその気持ちを踏みにじるのか?」
と、ここに来て彩葉、カレン、リリィ、パドラが俺に向かってたたみかけ始めた。さっきまで俺の意見なんてどうでもいいみたいな状況だったのに。ってかあれ?ちょっと待って。もしかして今、俺超アウェー!?
「うぅ・・・しかし、海なんて俺にはハードル高すぎというか・・・」
「えぇ~でも大和くん、海ではとってもイイコトもあるのに」
その時、ルーシアがニヤニヤしながら耳元で俺にしか聞こえないように囁き始めた。そして無念な事に、俺の体は“イイコト”という単語にピクッと反応してしまう。
「なっ、おまえ何言って・・・」
「もう、分かってるくせに。女の子の水着姿、それも彩葉ちゃんのを見れるチャンスだよ?普段服でわかりにくいけど、彩葉ちゃんってばすっごいカラダつきしてるのよ。ボンキュッボンって私も惚れ惚れするくらい。水着姿だとそれがあらわになるんだよ?柔らかい身体の曲線美をなぞるように水が滴って、彩葉ちゃんが動く度に跳ねる豊満な胸元、すらりと長い脚を冷たい海水につけて無邪気にはしゃぐ彩葉ちゃん、見てみたくな~い?」
耳元の妖艶な色声に俺は思わず彩葉の水着姿を想像してしまい、ぶんぶんと頭を横に振り回して正気を保とうとする。ってかその言い方止めろ!「イイコト」だの「カラダ」だの、所々の発音の仕方が明らかに女が男を弄んでる時のそれだ。もしやこいつ俺が童貞だと知りながらわざとやってからかってんのか?落ち着け落ち着け、あいつの思い通りになってたまるか!
「上手くいけば彩葉ちゃんとあーんなことやこーんなことまで出来るかもよ?」
「ごっほっ、げほっ、ゴホッゴホッ!!?」
ルーシアのその一言をトリガーに、冷静を保とうと力んでたのが暴発して咳き込んでしまった。
「おおおおおおまえっ、なな、なっ何を・・・ッ!?別にッ、そんな事思ってねぇし!?」
「あれ、じゃあ私?ええ~照れちゃうなぁ、でも彩葉ちゃんほどナイスバディじゃないし~」
「そういう意味じゃねぇ!」
「じゃあ、も、もしかしてカレンちゃんかリリィちゃん!?いやさすがにそれは危ないよ、バレたら世間的に死んじゃうよ」
「そういう意味でもねぇ!根本的なところから間違ってるわ!!」
クソこいつ完全に俺で遊んでやがる。人を煽って怒らせるのだけは一人前だ。喫茶店の仕事は半人前のくせに。さっきからニヤニヤとしたその表情が死ぬほどうぜぇ。
「ふふふっ、まあ何にせよ女の子の水着見てみたいでしょ?ほら、だからみんなで行こ?」
出来ればそんな不純な理由で行きたくないのだが・・・
俺はちらっと彩葉を見る。不思議そうに俺とルーシアを見ていた彩葉は俺と目が合うなりにこっと笑う。
「大丈夫だよ、海は大和が思ってるほど悪いところじゃないから」
俺の中で様々な思いが駆け巡る。外より家の中にいたい。その方が面倒くさくないし疲れない。だが、ここで断ればどうなる?多分彩葉は落ち込んで最悪泣き始める。そうなれば最後、俺は完全な悪役だ。別に彩葉やカレンやルーシアに失望されても俺は構わないが、もしかすると何気に行きたがってるリリィにも失望されるかもしれない。それだけはまじで勘弁。だからといって海なんて場所に行けば俺は確実に死ぬだろう。底なしの遊び心を持つ彩葉にさんざん振り回され、灼熱の太陽に体力を奪われ、疲労と熱中症を併発してそのまま冥界への片道切符を手に入れてしまう事になりかねない。しかし、つい先日彩葉と喧嘩して彼女を泣かせてしまった時、正直あのときの罪悪感のようなものはもう二度と感じたくない。でもやっぱり海まで行くのは辛い。桜花祭の時とは移動距離が違いすぎる。いやしかし、ちょっと彩葉の水着を見てみたいのも、う、嘘ではないし・・・
葛藤。“断ったときのメリットとデメリット”、“海に行くときのメリットとデメリット”、この二つの重さは同じだ。天秤は完璧に水平に保たれている。
悩みに悩んで俺の出した答えは・・・
「・・・わぁったよ、行けばいいんだろ行けば」
結果、俺らしくない返答してしまった。
「やったぁ!約束だよ?」
ほんと彩葉には調子が狂わされる。めんどくせぇ幼馴染みだ。
バンザイして喜ぶ彩葉とは対称的に、俺の心は最大級の憂鬱に飲み込まれる。俺、生きて帰れるかなぁ・・・いろんな意味で体と精神が保たない気しかしない。
俺は超長いため息をつきながら一週間後の日曜日のバスの日程表をネットで調べるのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
大和くんがただひたすら振り回されるだけの回です(笑)
まぁ彼には頑張ってもらうとして、次回に来るであろう女性陣の水着姿・・・楽しみですね、書き手の自分も少しわくわくしてます。本当は挿絵で水着姿の彩葉とかも描いてみたいのですが、もう10月ですし来年の夏でいいかなぁって内心思っています。それに時間があまりないですし。
あと前回の話、実は結構誤字脱字がありまして・・・今は修正したのですが、今回もミスってないか心配で・・・もし読んでて発見されましたらご報告よろしくお願いします。
あと、是非感想もよろしくお願いします。