第99話 決心
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第99話です。宜しくお願いします。
ダンジョンから王都へと戻ってくると、南門からサウスストリートを100メートルほど歩いた場所、道のど真ん中で馬車をせき止めている大勢の人だかりができている。
「何事かしら?」
「ちょっと見に行くか」
俺たちは興味本位でその中心にいる人物を見に行った。
「だから! グリフは俺たちと一緒にいたと言ってるだろう!?」
広いサウスストリートの往来の真ん中で声を荒げているのはクラン『レッドウィング』の団長マシューだった。後ろには団員と見られる冒険者十数名がいる。
そしてマシューの向かう相手は警備組織のあの、ジャベールだった。
何があった? マシューは馬車で話した時は悪い人と思わなかった。レッドウィング自体もすごく評判の良いクランだ。そんなジャベールに疑われるようなことは…………。
「こちらでは複数人からの証言がとれている。言い逃れはできんぞ!!」
ジャベールがずいっと前に出てマシューを見下ろす。
「団長!! 俺、俺ずっと団長と一緒にいましたよね!? ね!?」
グリフと呼ばれていた男がすがるように必死に助けを求める。
「ああ、それは俺たち全員が証言している。心配するな。お前のことは俺が守る」
そう言いマシューはグリフの肩を掴んで後ろにやった。そしてジャベールを睨む。
「邪魔をするなマシュー。そいつには、ここ数日で5人の殺害容疑がかけられている。多数の目撃証言がある以上、犯人なのは確かだ」
「だから、そのどの日もグリフは俺たちと一緒にクランのホームにいたんだ!」
マシューはジャベールを睨み付けた。
「庇うつもりなら、貴様とて容赦はせんぞ」
ジャベールは戦意をあらわにする。
「話の通じない野郎だ……」
マシューも殺気を纏って前へと出た。身体の大きいジャベールと、小柄なマシューが向かい合い、真ん中で2人の殺気が衝突する。
あの2人の戦いはやべぇ……。
「ジャベールと『レッドウィング』のマシューがやり合うぞ! 離れろおおおお!」
「やべぇ!」
「きゃあああああああああああああああああ!」
心配そうにやり取りを見ていた周辺の民衆は悲鳴を上げながら慌てて逃げ出した。家屋の2階、3階の窓から見下ろしていた人々もピシャンと窓を閉め、屋内へ避難する。近くを走っていた馬車も声を聞くなり、馬車を捨てて逃げ去った。
「ユウ! 離れなきゃ巻き添えをくうぞ!」
オズが声を荒げる。
好機だ。できればあの2人の実力は把握しておきたい。
「お前らは隠れてろ!」
俺がそう言うと、フリーが皆をつれて下がっていく。
「おい、ユウ!?」
ねばっていたオズもフリーが連れて行ってくれたようだ。すぐにサウスストリートには俺たち以外、誰もいなくなった。マシューとジャベールの間に風が吹き、枯れ葉が転がっていく。
マシューは武器を持っていないのか、拳を構えた。ジャベールは腕を組んだままマシューを見下している。
ダン……………………ッッッッ!!
マシューが瞬速でジャベールの足元へと踏み込んだかと思うと、道の石畳が衝撃で1メートルほど宙に跳ね上がった。そして、懐へと潜り込んだマシューは、地面を踏み蹴り上げながらジャベールのアゴ目掛け、右拳でアッパーを放つ。
だが、ジャベールは上半身を後ろに反らし、1歩も動くことなく難なくかわした。マシューの突き上げた拳で曇天の空にぽっかりと大きな青い穴がブワッと空く。
さすがはSSランク上位と呼ばれるマシュー。とてつもない威力だ。
「公務執行妨害だな」
ジャベールは冷たくそう言うと、組んでいた腕をほどいた。それに警戒し、マシューがジャベールから距離をとる。
「お前ら! 必ず真犯人を探し出せ!」
マシューは後ろの仲間たちにそう叫びながら前に出ると、小柄な身体を最大限に回転させ、右足での胴回し回転蹴りを上からジャベールの顔面へとぶち込んだ。
ズン………………………………ッッッッ!!!!
凄まじい衝撃が周囲を襲い、ジャベールの背後を衝撃が突き抜けていく。サウスストリートの石畳はバキバキバキとめくり上がり、地面が隆起したように吹き飛ぶ。瓦礫が空へと舞い上がり、衝撃はそのまま20メートルは離れた背後にあった建物へと直撃。石でできた壁一面にヒビが走ったかと思うと、ズガガガガガガガと複数の建物を崩壊させた。
まともに入った…………!
だが、ジャベールはその蹴りを顔の前で右手を添えるようにして受け止めていた。
「今のを…………!?」
俺ですらまともに入れば、確実に戦闘不能になる威力。それを片手で軽く止めた?
「くそっ、怪物が…………!!」
マシューは後方にジャンプし、ジャベールからさらに距離をとった。だが、そこから先はジャベールが何をしたのか俺でも見えなかった。
場面が飛んだかのように、次の瞬間、ジャベールが右拳をマシューの腹の位置に振り切った体勢になって現れていた。
は…………?
マシューは身体をくの字に曲げ、音を追い越すような速度で吹き飛ぶ。
ドゴンッッッッ…………!!
そのまま建物へ直撃。マシューは白目を剥き、瓦礫の中で口を開いたまま気絶していた。ジャベールの拳は空気摩擦でシューッと煙を上げている。
「長年の付き合いだ。命までは取らん。貴様の罪は、これで無しにしてやる」
マシューを見下ろしてジャベールはそう言った。
「だ、団長おおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
団員たちが気絶したマシューに駆け寄る。そして、マシューが庇っていたグリフと呼ばれた男はその場に膝から崩れ落ちた。
「団長…………?」
「貴様はこっちだ」
ジャベールが呆然とするグリフの腕を掴んで無理矢理に立たせると、ジャベールの部下が引きずるように連れていった。
とんでもない強さのマシューをまるで赤子の手を捻るかのように無力化してみせたジャベール。
強いと思っていたがあそこまでとは…………。
【賢者】申し訳ありません。ジャベールを鑑定できませんでした。
【ベル】何なのよあれ。おかしいでしょ…………!?
SSランクのマシューを一撃で再起不能に持ち込む威力。あいつ、何をしたんだ…………っ?
【ベル】あんなの、技でもなんでもないわ。ただ普通に殴っただけよ……!
まじかよ…………! なんだあの男は? 身体能力が異常なのか!?
「団長!」
「団長! 目を開けてください!!」
マシューにクランの仲間たちが必死に声をかけている。なかなか不味い状態のようだ。腹を殴られたんだ。もしかすると内臓がやられているのかもしれない。
死んでいい人じゃないしな。
急いでレッドウィングの冒険者たちの方へと駆け寄る。
「俺が治す。どいてくれ」
「誰だてめぇ!」
団員たちに声をかけると激しい怒鳴り声が飛んできた。団員たちも余裕がないようだ。
「俺はマシューさんの知り合いだ。上級の回復魔法が使える。見せてくれ」
「そ、そうか。すまん。頼むよ」
団員たちはすっとマシューへの道を開けた。マシューの横に座って様子を見る。
「どうなんだ?」
心配そうに聞いてくる団員たち。
肝臓が一部破裂し、体腔内で大量出血をしている。だがさすがだ。すでに血が止まりかけている。
「これなら大丈夫。すぐに治る」
団員たちはホッとしたようだ。マシューは余程慕われてるんだな。
本人の高い治癒力もあってか、回復魔法を使うとすぐに治療は完了した。
「ん…………」
マシューがゆっくりと目を開く。
「「「「「団長!!!!」」」」」
覗き込む団員たち。マシューが瓦礫の中でむくりと身体を起こした。
「生きてたか…………」
そう言いつつ自分の手のひらを見つめるマシュー。そして俺と目があった。
「君は…………」
小さな声でマシューは呟く。
「どうも団長さん。身体は大丈夫か?」
「ありがとう。どこかで見たかと思えばあの時の…………」
「ああ、西区の馬車で会ったな」
「ユウ、だったな。あの時は代金を渡しそびれてすまない。それに、世話になったみたいだな……」
自分の腹をさすりながらマシューは言った。
「いいんだ。大体話は聴こえてきてたが、何があったんだ?」
マシューは一旦黙ると、静かに話し始めた。
「うちの団員のグリフが、連続通り魔事件の犯人と断定された。そんなはずはない。グリフは俺たちと一緒にいたんだからな。だが、現場でグリフを見た人が何人もいるらしい」
「どういうことだ?」
「わからない。だが、グリフは俺の可愛い部下だ。絶対になんとかしてみせる」
マシューは拳をぎゅっと握った。
「そりゃ、真犯人を見つけるしかないだろうな」
さて、似たような状況をどこかで聞いたことあるような…………。
【賢者】ユウ様、偽コリンズがからんでいる可能性があります。
だよな。姿かたちを変えられる奴ならそれができる。
「ああ。クランを上げて捜索だ。言ってもジャベールの野郎は聞きゃあせん。必ず真犯人を見つけてグリフを助ける。それより世話になった。また礼をしなきゃな。どこに宿をとってるんだ?」
「いや、今は訳あって学園に通ってる」
「学園に?」
マシューは不思議そうに聞き返した。
「ああ。それより、俺にも手伝えることがあるかもしれない。もし良かったらあんたらの手伝いをさせてくれないか?」
「ありがとう。だがこれはうちの問題だ。巻き込むわけにはいかない」
「そうか。まぁ、何かあったら言ってくれ。手伝うよ」
「ああ、気持ちだけでも受け取っておく」
そうしてマシューと別れた。
グリフは確実に濡れ衣だ。通り魔事件の犯人を庇うため偽コリンズがやったことだろう。つまり、通り魔とマードックは関係しているってことだ。
偽コリンズが出てきてまでマードックが隠蔽したかったこととはなんだ?
◆◆
学園に帰ってきてから、俺、オズ、ブラウン、フリーの4人はブラウンたちの部屋に集まった。皆、のんびりとベッドに座ってくつろいでいる。
「なんだか、最近王都の様子がおかしいね」
ブラウンが先ほどの事件を思い出して呟いた。
「だねぇ。通り魔に放火魔、スラムじゃ人が消えてるって話もあるらしいよ」
フリーがベッドに仰向けに寝そべりながら話した。
「レッドウィングの人が、通り魔事件なんて起こすはずがないと思う。ましてやグリフさんはとても誠実な人なんだ」
「うーん」
本当にグリフって人はやっていないんだろう。マシューはクラン総動員で犯人を見つけると言ったが、本当にマードックや偽コリンズが相手だった場合、相手が悪い。貴族が出てくれば逆に潰されかねない。俺たちが早く動いた方がいいだろう。
「ああ、こないだの学園の放火殺人のこともそうだしな」
爪を噛みながらそう言うオズも、危機感を感じてきているようだ。
「ああ。王都、いやこの国で何かが起きている」
俺がそう言うと、ピクッとオズが反応した。
「ユウ」
「ん、どうした?」
「どうしたじゃねぇ。いい加減話せよ。学園に来た本当の目的をよ」
オズはその長い前髪の奥に隠れた瞳を強く俺に向ける。そこには確かな圧力があった。
オズは、俺がただ勉学のために学園に来たんじゃないと気付いてる。
「本当の目的?」
ブラウンは何のことかわかっていない。
「…………」
そうだな。そろそろブラウンとオズに俺たちの目的を伝える時が来た。それに屋敷のあの地下室に入るには、やはり内通者、ブラウンの協力が必要だ。
そろそろ潮時か…………。
フリーに目配せをすると頷いた。それを見てから俺は話し始めた。
「わかった。真面目な話だ。半年間、ずっと隠していたことを2人に打ち明けようと思う」
「そうだねぇ」
フリーもベッドから身体を起こした。
「やっぱりフリーもか」
「あはは」
横目で見るオズに対し、フリーは苦笑いで返す。
「俺とフリーは、ある人物の計画を阻止するために学園に侵入している」
「ある人物?」
ブラウンが聞き返した。
「ああ。それは…………」
「伯爵だろ? マードック伯爵だ」
オズが知っていたかのように言った。
「お前、そこまでわかってたのか」
「当たり前だ。俺だってそれなりに情報は掴んでる。お前に依頼したのはギルマスだろ?」
「まぁ、そんなとこだな」
「どっ、どういうこと!? 父さんの計画を止める…………!?」
ブラウンが明らかに動揺している。
いや、動揺したフリか…………?
「嘘付くな。お前も知ってるはずだ。ブラウン」
俺がそう言うと、ブラウンはうつ向いた。
「…………」
閉口して沈黙するブラウン。全員の視線がブラウンに集まり、答えを待っている。
「違うか?」
「…………うん。本当は、知ってた」
ブラウンは下を向いて、ポツリと答えた。
「やっぱりか」
「僕は、反対したんだ。でも…………」
そして、ズボンをギュッと握りしめ、ボロボロと泣き始めた。
「僕はダメだから、止めることができなかった…………! 僕は弱い…………!!」
本気で悔しかったんだろう。握りしめた手に血が滲んでいる。
「そうか、お前は反対したんだな」
ずっとブラウンが悩んでいたのはこれか。トイレ掃除の時、家族に言いたいことがあると言っていたものな。
「おいブラウン、だとしても計画を知ってて人に話さなかったのはなんでだ」
オズが問い詰める。
「そ、それは…………恐かった。父さんや兄さんたちが恐くて仕方なかった。何をされるか、わからないから…………」
ブラウンは尋常じゃない怯えた表情を見せた。
「お前1人のことじゃねぇんだぞ!」
頭に血が上ったオズが怒鳴りブラウンの胸ぐらを掴んだ。
「ひっ! ご、ごめんよオズ」
ブラウンはビクッとして縮こまった。
多分、マードックはブラウンの性格をよく理解した上で何もしなかったんだろう。
ブラウンごときに、何も出来やしないと。
「止めろオズ」
肩を掴んで止めさせる。
「ユウ、お前どうするつもりなんだ?」
オズは今度は俺を睨み付ける。
「ギルドは…………情報は掴んでる。だが奴を裁判にかけるには証拠が足らない。だから決定的な証拠がほしいんだ」
「そうか…………。もう少しなんだな」
「ああ、そのためにはブラウンの協力がいる」
俺はブラウンに向かい合って目を合わせた。
「いいかブラウン。よく聞け。お前の父親は非人道的な実験を繰り返して兵器を作り、それを使ってこの国にクーデターを起こそうとしてる」
「…………うん」
「あの野郎……」
オズが苛立つように呟く。
「人が大勢死ぬことになる。俺たちはそれを止めなくちゃならん。そのために学園へ来た」
「…………」
「間違ったことをしようとしている父親を止めるんだ。できるか?」
そう聞くと、ブラウンは目をそらし、自虐的に笑いながら呟いた。
「…………強いね、ユウは」
「違う。強い、強くないじゃない。やるか、やらないかだ」
「僕にはやっぱり無理だよ。あの、父さんの邪魔をするなんて、身体が震えて止まらないんだ」
そう言いながら無意識に左腕を右手でさするブラウン。
父親に対する異常な恐怖心、もしかして…………。
「ブラウン、ちょっと見せろ」
ブラウンの腕を無理やり掴んで、袖をまくると
「おい、ブラウンお前…………」
焼きごてを押し付けられた痕が1ヶ所じゃない、そこらじゅうにあった。
「こないだ、計画を止めてって強く言ったんだけど、その時に…………」
「あの野郎…………!」
間違いなく虐待、脅迫だ。おそらく、今回だけじゃないだろう。
「それで学費を出さないって言われちゃったんだけどね」
あははと空元気で笑うブラウン。
「っ…………」
俺は笑うブラウンを見て、何も言えなくなってしまった。オズもそれには黙り込んでしまう。
「…………」
沈黙が流れた。
そして、少ししてフリーが話し始めた。
「ブラウンはねぇ、すごく優しいんだよ」
皆、フリーに目を向ける。
「優しくて、誰にでも平等に優しくて。だから父親にも本当はそんなことしてほしくないんだよね?」
半年間、ブラウンの部屋の相方をやってきたフリーにはわかることがあるのだろう。
「…………」
ブラウンは辛そうな顔で黙っている。
「でも優しいブラウンだって怒れるよね? 友達や仲間のためなら怒ってくれたよね? ブラウン、君の父親はその友達を、仲間を傷付けようとしてる。許せるのかい?」
「許せない…………許せるわけないよ!」
ブラウンが大きな声で叫んだ。
「ほら、その気持ちがあればできるよ。ブラウン、父さんなんて恐くない。友達を傷つけられることに比べたらね? それにブラウンには僕たちがいる。ブラウンにはたくさんの味方がいるんだよ」
「ああ、俺もいる」
オズが続けて言った。
「俺も、マリジア、シャロン、クロム先生もな。皆、お前の味方だよ。1人で戦う必要はない」
「いなく…………ならない?」
怯えるようにブラウンは聞いてきた。まるで過去にそういうことがあったかのように。
「ああ、俺らは何があってもお前の味方だ」
ブラウンは静かに涙を流した。
「…………うん、わかったよ」
ブラウンは頷く。そして、
「僕は恐かった。父さんがどこまでも恐かった。でも皆がいてくれるなら…………やる。やってやる!」
そう、震えながら言った。
「そうだ。お前ならできる」
そして俺はブラウンに向き合った。
「ブラウン、俺たちは屋敷の地下室に入りたい。そこでおそらく研究が行われている」
「うん、知ってるよ。地下室に安全に入れる道なら、僕が知ってる」
「よし、今夜決行だ。覚悟はいいな?」
「うん。父さんの間違いは、僕が正す!」
ブラウンは力強い目で俺を見返した。
マードック、ブラウンをなめ過ぎだったな。
人は変われるんだぞ?
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