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【100万PV突破!!】重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第4章 王都
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第98話 ゴーレム

こんにちは。

ブックマークや評価いただいた方、有難うございます。とても励みになります。

第98話です。宜しくお願いします。


「何者だ」


 問いかけるも反応がない。

 フードで顔も見えないが、身長は2メートル近くあり、がっちりとした体格で肩幅が広い。立ち振舞いからも、その存在感からも、かなりの手練れだということがわかる。この相手、種族レベル3以上は確実だ。


 男は風魔法で空中に浮かび、俺は結界の上に立ったままにらみ合う。


 こいつ…………指輪で弱体化してる今、全力でやらないと厳しいかもな。


【ゼロ】ご主人様。


 ん、どうした?


【ゼロ】いえ、ご主人様が出るまでもありません。私が相手します。


 いや、いいよ。俺がやる。


【ゼロ】承知しました。


 わざわざゼロが言い出した理由は俺の身を按じてだろう。危険な相手なのはわかっているが、この先人間相手の戦闘も増える。避けては通れない道だ。


 場所を移し、砂地の上に着地すると向こうも俺に合わせて10メートルほど先でこちらを向いて地面に降り立った。


「出し惜しみはなしだ」


 空間魔法からずらりと引き抜くように2刀の肉切り包丁『烈怒の炎裂包丁』を取り出す。握った途端、呼応するように熱を持ち始めた。刀身からジューっと煙が上がり始める。

 魔力支配を使ってダンジョン内に充満する魔力を、そして砂の下を動き回る魔物からも吸い上げるように魔力を吸収し、さらに身体強化を上掛けする。筋繊維が強制的に強化され、力が凝縮した筋肉に圧迫された血管がビキビキと皮膚の下に浮かび上がる。


「ふー…………いくぞ」


 深く深呼吸する。右足に力を込め、地面を蹴り飛ばすようにダンッと踏み出した。水しぶきが上がるように、俺が蹴った場所の砂が反動で舞い上がる。


 一瞬のうちに迫り来る俺に、すかさず反応して金棒を横に掲げてガードする男。そこに、右手の包丁を背まで振りかぶった状態から、一気に振り下ろす。火属性の魔力を纏った燃える炎裂包丁はその威力を遺憾なく発揮した。



 ガァ……………………ンッッッッ!!!!



 鈍い音と共に男の周囲半径30メートルの砂が衝撃で一瞬、ボフンと一斉に宙に飛び上がった。


「ぐっ…………」


 想定よりも遥かに重い一撃に声をもらす男。この炎裂包丁と火属性魔力は相性が良い。普通に打ち込んだ場合の十数倍の威力を叩き出した。そしてこの炎裂包丁を至近距離で受け止めた男の腕はその高温に発火し始める。


 そしてそこにもう一撃、左手の炎裂包丁を振り下ろす…………。



 ガァ……………………ンッッッッ!!!!



 バキョッと湿った音がした。


「う…………っ」


 男の足が折れたようだ。ガクンと不自然に体勢を崩す。見れば左足のすねに関節が増え、左に曲がっている。


「これで終わりなわけないだろ」


 火属性の魔力をさらに追加するとこの包丁はその本領を発揮する。相手の武器が特殊な金属を用いていようと、火竜の牙を元に作られたこの炎裂包丁に俺の魔力が加われば…………。


 『烈怒の炎裂包丁』はカァッと明るく赤熱し、しのぎ合った状態から金棒をズルリと溶かし斬った。


「なっ…………!?」


 男はすかさず片足のみのバックステップで俺から距離をとる。そしてポーションを取り出して2本飲み干し、空の容器を投げ捨てた。

 すると、男はまっすぐに両足で立った。


「もう完治したのか」


 瞬時に骨折が治るなんて、相当品質の良いポーションだ。かなり高価であるはず。バックに誰か財力のある大物がいるのかもしれん。


 そして男は半身になって腰を落とし、右手のひらを俺に向けて構えた。すると、凄まじい圧力が俺の肌をビリビリと叩いた。


 これはこちらが本命のようだ。


「徒手空拳が相手ならリーチと速度重視だな」


 俺は包丁を手から離して、空間魔法へと落とすようにスッとしまうと、続いて黒刀をひび割れから取り出した。


「な、なんだそれは…………!」


 その黒刀を見て、さあっと男の血の気が引いていく。武器のヤバさがわかるほどには実力があるようだ。


 刀じゃ手数で負ける。これも試してみるか。


 バキバキと右背中から2本の黒龍重骨を生やすと、それらの刀のような先端を上から狙うように男に向け、ゆらゆらと構えた。


「…………!?」


 それを見て男はさらに警戒する。


 そこへ、1本だけ黒龍重骨を男を突き刺すように真正面から突撃させた。



 シュッ……………………!!!!



 見た目とは違い、背骨のような関節がズラララララララとどんどん増え、どこまでも長さを増して男へと突き進む黒骨。その目にも霞むような速度は、男の反応できるギリギリだった。


「ぐあっ…………!?」


 男は骨の側面を殴り付けるも、全く骨の方向を反らすことはできず、逆に反動で自身の身体ごと弾かれた。20メートルほどすっ飛ぶと、砂丘に直撃し、ようやく止まった。

 

 圧倒的だ。やはりこのスキルは強すぎる。


「ばっ、けものがっ…………!」


 だが、起き上がった満身創痍の男が、諦め悪く俺へと突進して来た。


 まだ心が折れていないことには感心だ。やはりプロなのだろう。


 俺は剣術をレベル10からさらに進化させ魔剣術にまで至っている。スキルレベルで言えば、剣術レベルは11に当たる。例えこいつがどんな達人だろうと、圧倒的なステータス差がない限り問題にはならない。


 俺が刀を正面に構えると、男の突進が突如止まり、砂ぼこりを上げながら俺の間合いから離れた場所で停止した。


「な…………何者だ」


 男は初めて自分からしゃべった。

 刀を構えた俺を目の前にして、男は俺のプレッシャーのためか、砂漠の暑さのためなのか、尋常ではない量の汗が滝のようにアゴを伝って流れ落ち、砂の地面にシミを作る。


「学校で習わなかったか? 相手にものを聞くときは、まず自己紹介からだろっ…………!」


 そう言いながら俺が、刀を縦に振り下ろすと、斬撃が男に向かって飛ぶ。だが、何らかの危機察知スキルかで事前にそれを認識した男は、反応しようとした。


 

 スパンッ…………!



「ぐうう…………っ!!!!」


 だが避けきれずに右腕を斬り飛ばされた。血飛沫が、砂を濡らし、腕が遠く後ろへと落下する。


「が、ガキ2人消すだけが、割に合わない仕事だ…………」


 そう呟きながらフラフラと立ち上がった。


 2人? 2人と言ったか?


 オズはわかる。あの時こいつが最初に狙ったのもオズだ。戦うオズとブラウンを見ていた俺たちは奴に気付かず隙だらけだったはずだ。それでも俺らを狙わずにオズとブラウンを狙った……。


 まさか、ブラウンか!? オズとブラウンが標的なのか!?


「お前の標的はオズとブラウン。そうだな?」


「……」


 男は黙秘する。


「答えろ」


「…………答えたら、見逃してくれるか?」


「本当のことを話すならな」


 男は斬られた右腕の付け根を押さえ、ひざを突いたまま話し始めた。


「わかった。お前の言う通り、第3王子オズ、そしてブラウン・ヴィランド、この2人を消すように依頼があった」


 やはりブラウンまで…………!!


「お前は、何者だ」


「俺は殺しを生業にする帝国の者だ」


 帝国だと?


「依頼者は?」


「帝国の人間だ」


【ベル】いいえ、僅かに動揺を感じるわ。


【賢者】依頼者が帝国の場合、ブラウンまで狙う理由が不明です。


 ああ、わかってる。


「嘘だな」


「ちっ、ちがっ」


 男の足を右手で指差し、ファイアバレットを撃つ。


「ぐ…………ああ」


 撃ち抜かれた左太ももを押さえてうずくまる男。


「死にたくなかったら本当のことを話せ」


 そう言って男を見下ろすと、男は怯えた目で見返してきた。



「い、依頼者は…………マードック、マードック・ヴィランド。ブラウンって奴の父親だ」



「父親…………そうか」


 …………そういう、ことか。父親が息子を殺そうとしてる。


【ベル】ユウ…………。


「お、俺は話した。もういいだろ」


「ああ。後は勝手にしろ」


 男はよろよろと立ち上がると後ろを向いて歩き始めた。



 早くブラウンたちを追っかけないと……。


 そう思って振り返り、皆が落ちた流砂に向かう。見ればまだ砂は中心の窪みに向かって流れ続けている。


 だがその時、背後で男が腰のナイフを抜くのが空間把握で見えた。息荒くそれを持つ男のナイフからポタポタと液体が滴っている。恐らくは猛毒…………。


「死ねええええええええ!!」


 そう叫びながらそのナイフを俺の背中へ向けて投げた。


 ダンッ…………!


 背を向けたままノールックで空中でナイフをバレットで撃ち砕いた。


 もういい、賢者さん。


【賢者】はい。了解しました。


 賢者さんは魔剣術を使って、淡く光る透明の剣を多数造り出す。そしてそれに重力属性の魔力を纏わせ、重剣化すると空へと放った。


 男の頭上に重剣が降り注ぐ。


「う、うおおおあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 男は降ってくるそれを見上げ、ただただ叫び声を上げた。



 地を揺るがすほどの轟音を聞きながらオズたちの元へと向かう。


【賢者】あの者は死にました。


 ああ。

 

 遺体の肉片はサンドワームたちが綺麗に掃除してくれるだろう。


「さて」


 オズたちが落ちたところは砂が流れ込んでいるが、後を追うにはここから行く以外方法はなさそうだ。


 風魔法でつむじ風を起こし、サラサラと砂を巻き上げていく。遺跡部分が露出したところで、そこに飛び込んだ。



◆◆



「へぇ、こりゃすごい」


 降りた下は天井が高く広い空間だった。着地した足元には大量の砂が山を作っている。天井の穴からは砂漠の強い日光が射し込み、この部屋を照らしていた。何か儀式でも行う部屋なのか、内壁はすべてが石造りで所々竜の彫り物が並んでいる。


 とりあえず頭上の穴からまだサラサラと砂がこぼれ落ちて来るので、土魔法で簡単に塞いだ。帰りはあの穴から帰ることになりそうだ。


 この部屋に通じている通路は幅5メートルほどの通路1つだった。通路の壁に備え付けられている松明には正面に火が灯り、そちらの方向へオズたちが向かったのだと予想できた。とりあえず松明の灯る方へと足を進める。


 地表で戦って数分しか経過していない。まだ皆そう遠くには行っていないはず…………。


 少し進むと魔物の残骸が見えてきた。やはりこの遺跡にも魔物はいるようだ。通常のゴブリンからドラウンドの死骸まである。


 すると前からドタドタと不細工な足音が聞こえてきた。見れば、人並みの大きさの黄金色に輝くゴーレムが腕を振り上げて全力でこちらへ走ってきている。


「ユウ、そいつだ! 捕まえろ!!」


 ゴーレムの後ろから走ってくるのはオズたちだ。俺に向かって声を張り上げた。


 良かった。全員無事だ。


「…………っと、了解!」


 すぐに魔力でゴーレムを包み込み拘束。そのまま空中に持ち上げた。


 思ったよりずっと重い。これは金が期待できる…………!


「ふぅ、ちょうど良かったねぇ。あいつは?」


 ジタバタと空中でもがくゴーレムを見ながら追い付いてきたフリーが言った。


「始末した。多分他国の密偵だな」


「やっぱり、オズ狙いかい?」


 フリーがチラリとオズを見た。


「多分な」


「すまんな。迷惑かける」


 それを聞いてオズが珍しく謝ってきた。


 依頼者とブラウンのことは黙っておこう…………。


「ははっ、オズが謝るなんて今日はナイフでも降りそうだな」


「本当に降らせてやろうか?」


 オズが真顔でナイフを手に遊びだした。


「冗談だって」


「で、これが目当てのゴールデンゴーレムなんだな」


 確かに全身金ぴかだ。今も脱出しようと必死にもがいている。


「じゃあこいつをぶっ壊してさっさと帰ろう」


「そうだねぇ」


 その話を聞き、ビクリとゴーレムが身体を震わせた。



「ブッ、ブッコワ…………! マッテクダサイイイイイイイ!!!!」



「「「「「「喋った!?」」」」」」



 驚きで固まる俺たちを他所に、ゴーレムは手足をバタつかせながら叫ぶ。


「コワスノダケハ、ゴカンベンヲヲヲヲヲヲ!」


「お、お前喋れるのか?」


「ハナセマス! ダカラ、コワサナイデエエエエエ!」


 ゴーレムはしくしくと泣き出した。


「壊さないでか。こんなこと言ってるけどどうする?」


 捕まえたゴーレムの目の前で、こいつの生殺について皆に聞いてみる。


「どうするって。確かに話せるゴーレムは珍しいけど…………」


「生かしたままの方が高く売れたりしない? ほら見世物小屋とか欲しがりそう」


 さらっと言うシャロンの発想が鬼畜だ。


「イ、イヤデスウウウウ!」


 ブンブンとゴーレムは首を振る。


「いや、それはさすがに…………」


 さすがに可哀想過ぎる。


「てか、話聞いたらいいじゃない。せっかく話せるんだし」


「あ、それもそうだねぇ」


 マリジアの提案でとりあえず殺すのは保留にして話を聞くことにした。


「おい、お前は何者だ?」


 魔力で吊し上げていたのを地面まで下ろしてくる。


「ワタシハ、コノ、イセキノ、カンリニンデス!」


「管理人?」

 

「ワタシノ、マセキヲコワスト、ココニ、フウインサレタ、リュウガ、カイホウサレテ、シマイマス!」


「竜が封印…………?」


 嘘だろ?


【賢者】本当かもしれません。この遺跡のさらに下、巨大で妙な気配があります。


 まじか。どうすっかなぁ。封印されてるぐらいだ。さすがに普通の竜じゃないだろうし。


「それは困ったねぇ。僕たち、君の身体が目当てなんだけど」


「言い方!」


 マリジアがフリーの頭をパシンと叩いた。


「ソンナ、カラダガメアテ、ダナンテ!」


 ゴーレムは肩を抱くようにイヤンイヤンと震えた。そのゴーレムの反応にマリジアはジト目で言う。



「…………やっぱりスクラップにしましょ」


 

 さて、マリジアの許可も得たことだし…………。


「マ、マッテ! ソンナ、ハクジョウナ! オカネガ、ヒツヨウナラ、ザイホウ、アゲマス!」



「「「財宝!!??」」」



 俺たちは顔を見合わせた。



◆◆



 というわけで、このゴーレムに財宝の在処まで案内させた。

 それでわかったのだが、ここの遺跡には多数のトラップと隠し通路があり、このゴーレムなしではたどり着くことは難しかった。


 そうして案内についていくこと30分。天井まで届く重厚な石の扉が現れた。


「サァ、ヒライテ、クンサイ!」


 ゴゴゴという石同士の擦れる音を響かせながら自動で扉が開いていく。



「「「すごい!」」」



 そこには、山のように積まれた金銀財宝がまぶしいほどにキラキラギラギラと光り輝いている。俺たちはその光景に声が出なかった。


 なんで、Cランクダンジョンにこんなに…………?


「サァ、ワタシニハ、ヒツヨウアリマセン。スベテ、モッテイッテ、クダサイ!」


 これらすべてとか、何百、何千億コルになるやら。


「何でこんなに財宝があるんだ?」


「ココニ、フウインサレタ、リュウガ、アツメマシタ」


 竜の財宝か…………。


「全部はいらない。必要な分だけ頂いてくよ」


「ワカリマシタ」


 そしてブラウンの学費に必要そうな分だけをわっせわっせと鞄へ詰める。


「で、お前は竜復活の鍵でありながらなんでそんな簡単にこいつらに見つかったんだ?」


 それを聞くと、恥ずかしそうにモジモジと答えた。


「ソレハ…………、スコシ、オモッタノデス。ソトニ、デテミタイト」


 要は外に出ようとこの遺跡の深層部から出てきたところを運悪くフリーたちに見つかったと。


「そうか。出たことないんだな」


「ハイ、ウマレタトキカラ、ココニ、シバリツケラレル、ウンメイデシタ」


 そう言いながらこの財宝の部屋を見渡すゴーレムは、どことなく寂しそうに見える。


 もしかしてこいつは、その竜が自分が寝ている間、財宝を守るために作ったんじゃないか?


「なんかちょっと可哀想そうじゃない?」


 ブラウンがゴーレムの代わりに皆に助けを求めるように言った。皆も同じように思うようで頷いた。


「あなた、名前は?」


「ナマエ…………? ナマエハ、アリマセン」


「ないのね」


「ハイ。ヒツヨウ、アリマセン、ノデ」


 そりゃ、そうか。人に会うこともまぁないもんな。


「それじゃ、なんか名前考えてあげない?」


 ブラウンが提案した。


「だったら、そうだなぁ…………お前は今日から『ニュート』だ」


 俺が適当に思い付いた名前を言った。


「ニュート…………? ニュート! ワタシ、ニュートデス!」


 よほど嬉しかったのか財宝を蹴飛ばしながらガシャンガシャンと駆け回った。


「ははっ、やたら人間らしいんだよな」


 それに喜んだニュートは1本の薄汚れたナイフを持ってきた。


「これは?」


 刃渡りは20センチほど、黒い樫の木でできた持ち手は真っ黒にくすみ、刃はところどころ欠けている。


「コレハ、ココニアル、タカラノナカデ、カチノアル、モノデス」


「いいのか?」


「ハイ!」


-ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

暗殺者のナイフ

ランク:S+

属性:水

特殊:魔力に応じて霧を発生させ、さらに隠密スキルを強化する。


〈2000年前に王都を恐怖に陥れた連続通り魔事件の犯人が使用していたナイフ〉

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ありがとう、助かるよ」


 良いものをもらった。これがあればあの屋敷にだって忍び込みやすいかもしれない。


「良いなぁユウ。私だって名前つけてあげるのに、ほら、ミッチーとか、パンタナールとか」


 マリジアが口を尖らせて悔しがる。


「イヤデス」

 

 ブンブンとゴーレムは横に首を振る。


「何よもうっ!」


 しばらくこの、世にも珍しいゴーレムと歓談し、そして帰るときが来た。


「モウ、カエルノデスカ?」


 表情は変わらないが、ゴーレムの寂しそうな雰囲気が伝わってくる。


「ああ、あんまり時間もないしな」


「ザイホウ、モット、アゲマス。マダイナイ、デスカ?」


 わっさわっさと財宝を持ち上げるニュート。余程残ってほしいらしい。


「すまんな。財宝はもういらない」


「ジャ、ジャア、エエト、エエト…………!」


 俺らが帰ってしまうことが悲しいのか、必死になんとか引き留めようと考えている。


 寂しかったんだな…………。


「その代わりまた遊びに来るよ」


 そう言うとはっと顔を上げた。


「ホントウデスカ! マッテマス!」


「ああ」


 手を大きく振る変なゴーレムに見送られ、俺たちは遺跡を脱出した。


「なんだか、ちょっと可哀想だったな」


「うん、あそこでいつまでも1人で遺跡を守ってるんだ」


 遺跡を脱出し、また砂漠のど真ん中へと帰ってきた。


「やっぱ砂漠は暑いねぇ」


 久しぶりにじりじりと照りつける日光の下に出た。


「ま、とにかくこれでブラウンの件はなんとかなったな」


「そうね。一時はどうなることかと思ったけど」


「ちょうど良い暇潰しになったんじゃないか?」


 オズはぶっきらぼうに言う。


「だねぇ」


「皆ありがとう~!」


 ずびずびと泣くブラウンを皆は微笑ましそうに見た。


 ブラウン暗殺の件はなんとかしないとダメだ。じゃなきゃ、またブラウンの命が狙われる。やっぱりマードックを押さえるしかないかもしれない。


「じゃ、帰るか」


「帰るって…………また、あれ?」


 ブラウンの顔が固まった。


「もちろん! 飛んで帰らなきゃ時間かかるしな」


 できるだけ明るくそう言ってみるが


「「…………」」


 ブラウンがまた泣いた。


読んでいただき、有難うございました。

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