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【100万PV突破!!】重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第4章 王都
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第97話 無限砂漠

こんにちは。

ブックマークや評価いただいた方、有難うございます。とても励みになります。

第97話です。宜しくお願いします。


 ある日の授業終わり、1人で廊下を歩いていると


「よっ!」


 壁にもたれ掛かり俺に向かって片手を上げている少年がいた。


「はああ!?」


 身長140センチくらいで白髪の少年、ギルマスだった。


「何してんだあんた!」


「兄ちゃんに会いたくてな!」


 そう無邪気な笑顔でニッコリと言った。


 少年のふりをした元SSSランクの怪物がいる…………。


 顔をひきつらせながらギルマスの手を引っ張って誰もいない教室に連れ込んだ。


「すまんな。どうもこっち側が上手いこと進んでなくてな」


 いつものしゃべり方に戻ると、やれやれというジェスチャーをするギルマス。


「だからって学園入ってくる?」


「俺の気分転換も兼ねてんだ。伯爵サイドとの冷戦で今こっちは大変なんだぞ? しかし元気そうにやってんな」


「おかげさまでな。それはそうとして、何の用?」


 ギルマスが直接会いに来るなんて面倒な予感しかしない。


「実は頼みがあってな」


「頼み?」


「奴の一番下の息子は親父の行いに否定的なんだって? お前、ちょっとそいつそそのかして奴の屋敷探ってきてくれ」


 無表情で淡々とギルマスは言う。


「はぁ!?」


「リスクは承知してる。急にとは言わねぇ。良い時期をみて決行してくれ」


「いや、おいおい」


「用事はそれだけだ。じゃ、宜しく頼んだ」


 俺が反論するまでもなく、じゃあ、と手のひらを立てて挨拶すると教室を出ていった。


「ちょっ、待っ!!」


 追いかけて教室から出ると、普通に廊下を歩いて帰っていく姿。そして女子生徒に見つかっていた。


「きゃっ、可愛いい! どうしたの? 迷子かな?」


 女子生徒がしゃがんでギルマスの頭をなでなでしている。


「うん、道間違えちゃった…………」


 可愛い子ぶって話すなギルマス!



◆◆



「無茶言うなよ…………」


 つまりギルマスの方が余程順調じゃないんだな。おそらくマードック側が優勢なんだろう。

 物証を得るとなると屋敷の地下室か。でもあそこは確か入り口にトラップが…………。ブラウンにお願いして何らかの作戦を立てるべきか。でもブラウンを騙すような真似をするのはなぁ。


 頭を悩ませながらブラウンの部屋の扉を開く。

 

「なぁブラウン、ちょっと話があるんだが…………」


 ブラウンは寮の自室で机に突っ伏して落ち込んでいた。


「て、どうした?」


「父親がブラウンの後期の学費の支払いを拒んだらしいねぇ」


 フリーが困ったように言った。


「それまずくないか? 支払い期限は?」


「…………もう2週間もないよ」

 

 おいおいおいおい…………! ブラウンが退学になれば作戦どころじゃない。


 それに、個人的にも何とかしてやりたい。


「ブラウン、父親にお願いしてみたのか?」


 ブラウンの肩を叩いてそう言うと、その鼻水だらけで泣きべそをかいた顔を上げた。


「うん。で、でも、聞く耳持たずって感じで、挙げ句の果てに通いたかったら自分で払えって」


 げ、ここの学費を自腹はキツいな。


「しかも父さんは最近ずっと地下室にこもってるし、これ以上話なんてできそうにないんだ!」


 地下室…………! いや、とりあえずそれは後回しだ。


「ちょっと皆集めるか」




 放課後、教室にて。


「なんて親…………! そんな大金、学生に用意できるわけないじゃない!」


 怒りに任せてマリジアがバンッと机を叩く。


「落ち着いてマリジア」


 ヒートアップしやすいマリジアをシャロンがなだめる。


「ねぇユウ、いつもみたいになんか策はないのかい?」


 本気でブラウンを心配するフリーはすがるような目でこちらを見る。


「うーん、こればかりはブラウンの家の話だから俺らは踏み込めないしな……」


 マードック本人と自然な形で顔を合わせる機会があれば、俺としてはこれ以上嬉しいことはないが……。それは諦めるとして、要は学費が払えればいいんだよな。


「なぁ、半年分の学費って確か300万コルだったか?」


 まぁ数ヶ月の遠征費とかもあるんだろうが、高過ぎだ。実質日本円でのほぼ300万円。


「そうだねぇ。僕たちで立て替えれば…………」


 フリーが言いかけると


「それはダメだよ!」


 食いぎみでブラウンは怒った。


「ブラウンだからそう言うよねぇ」


 フリーも困った表情になる。


「何か良い案はないか?」


 皆頭を悩ませる。


「あっ…………!」


 たまたまシャロンと目が合うと、何かに気付いたように声を上げた。


「シャロンどうした?」


「300万コル稼げないかな? ほら、冒険者なら!」


「ああ、なるほど」


 ありかもしれない。300万くらい、Aランクの魔物狩ればすぐに稼げるだろう。


【ベル】あんたの基準で考えないの。普通の人にはそんなことできないわよ。


 あ、そうだった。俺普通じゃなかった。困ったな…………。


【賢者】ここより馬車で1週間ほど南に進んだ場所にCランクダンジョン『無限砂漠』があります。そこのゴールデンゴーレムという珍しい魔物は倒せば多量の金鉱石が手に入ることがあるそうです。


 そんなのいるのか! ちょうどタイミング的にも行けそうだ。


「えー、ちょっと提案なんだが、3日後から自主訓練期間に入るだろ? まぁ訓練ってついてるが、要は長期休暇だよな」


 この学園にも、日本で言うところの夏休みのような休暇らしい。前期と後期の間の休暇に当たる。


「何か思い付いたのかい?」


「まぁ、『無限砂漠』ってCランクダンジョンにはゴールデンゴーレムという魔物が出るんだけど、そいつさ、かなりの量の金鉱石を落とすらしい」


「あ、それ聞いたことあるわよ! すごくレアな魔物だけど倒せれば一攫千金だって!」


 マリジアも知ってたみたいだ。 


 ゴールデンゴーレム自体の強さはどんな感じだ?


【賢者】Dランク上位程度です。問題ないかと。

 

 よし。


「それでだ。お前ら、冒険者登録して訓練期間にゴールデンゴーレム探しに行かないか?」


「冒険者登録するの!? 楽しそう! ね、シャロン!」


「うん、やってみたい!」


 マリジアが即答し、シャロンも胸の前で手を合わせて楽しそうに言う。


「ブラウンのためだしな」


 オズがブラウンの肩に手を置いた。


「い、いいの?」


 涙目でブラウンが顔を上げた。


「皆ありがとううううう!!」


 泣きべそをかいたまま腰に抱きついてきた。


「うわっ! お前鼻水つけんなって!」



◆◆



 長期休暇の初日、俺たちは全員私服で自分の武器を持ち、ギルド本部前に集まった。

 そして集まってすぐにもの申したくなった。


 こいつら、冒険者なめてんのか?


 ブラウンは自分の貯金を崩して買ったのであろう地味なシャツにズボン、革靴に肩当てをしていた。だが他の3人は、ホコリ1つついていない生地の上等そうな服を着ている。


「お前らさ。育ちの良さ、出し過ぎじゃね?」


「あ? なんでだ?」


 そう言うオズはロングブーツに黒いフード付きのコート、多分裏地に大量にナイフを仕込んでる。悔しいがカッコいい。

 マリジアは動きやすそうな白のボタンシャツの上から膝丈スカート、その上からジャケットを羽織っている。そして背中には矢筒と弓を背負っているため、斜めがけになり胸にスラッシュが入っていた。

 シャロンはその豊満な胸を支えるためか革の胸当てをして、黒のミニスカートに真っ白なノースリーブ。胸当て以外、冒険者の格好には何も合ってない。防御力はどこに置いてきた?


「その高そうな服、絶対汚れるからな?」


「わかってるわよ!」


 わいわいとやり取りをしながらギルドに入り、ブラウンたち4人は冒険者カードを作った。オズは王子なので一応偽名を使っている。


「すごい! これで私も冒険者なのね!」


 手渡された自分の冒険者カードを見て子どものようにはしゃぐマリジア。よほど憧れてたらしい。ワクワクした顔をしてるのはブラウンも同じだった。


 そしてギルド1階の木製テーブルで6人で話し合いを始めたが、何かこちらを探るような視線を感じる。

 新人冒険者に向ける興味とは別のものだ。しかも学園を出てからずっと着いてきているような気がする。


「どうかした?」


「いや、なんでもない」


 状況的にオズの護衛かもしれない。この国の王子だしな。


 周りでは、わいわいガヤガヤと冒険者たちがひしめきあっている。

 ギルドの情報によると、ダンジョン『無限砂漠』はやはり王都から南に馬車で1週間ほど進んだ場所にあるらしい。


「往復だけで2週間はかかっちゃうよ。本当に大丈夫かな?」


 ブラウンが心配そうにもじもじとテーブルの木目を眺めている。


「まぁ、それに関しては俺が何とかする」


 それを聞いて、何か感づいたフリーはあははと苦笑いをしていた。


「な、なんなの?」


 フリーの微妙な反応にマリジアが不安そうにする。


「大丈夫。大丈夫」


「ところでパーティ名はどうするの?」


 話題をそらすべく、フリーが言った。


「うーん。オズ、パーティ名でなんかいいのあるか?」


 眠たそうにしているオズを起こすために話題をふる。


「あ? じゃあ、ブラウニーで」

 

 オズが目を擦りながら本当に適当に答えた。


 まぁブラウンのパーティだし、いいか。


「じゃ、それ決定で」


「え、ブラウニーって僕?」




 それから、一番冒険者経験の長いフリーに良さそうな依頼を見繕ってもらった。


「どうだ?」


「無限砂漠の依頼で、そんなに難易度が高くなくて報酬が良さそうなのはこの3つくらいだねぇ」


 フリーが皆が座るテーブルの上に3枚の依頼書をパサッと並べる。



>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>

~ロックパルゥムの魔石採取~


推奨:Dランクパーティ以上


種別:討伐依頼


場所:無限砂漠


詳細:ロックパルゥムは体格がゴブリンに似た魔物。身体が硬い石でできているため、防御力が非常に高い。数匹で群れていることが多いため、注意が必要。


達成条件:ロックパルゥムの魔石10個


報酬:10万コル

=======================




>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>

~ドラウンドの眼球採取~


推奨:Dランクパーティ以上


種別:討伐依頼


場所:無限砂漠


詳細:ドラウンドは1メートル大の動く泥の塊で、スライムのようだがゴーレムの1種。1つの目玉と1つの魔石を持ち、その眼球は石化の回復薬の原料の1つとなる。


達成条件:ドラウンドの眼球2つ


報酬:5万コル

=======================




>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>

~サンドワームの魔石採取~


推奨:Eランクパーティ以上


種別:討伐依頼


場所:無限砂漠


詳細:サンドワームは直径30~50センチ、長さ3~5メートルの巨大なミミズ。砂漠の砂の中を泳ぎ回り、振動を感知して砂の中から襲いかかる。


達成条件:サンドワームの魔石5個


報酬:5万コル

=======================



 報酬は全部で20万コル。まぁ昔討伐したBランクのブルーボアが25万コルだったことを考えても、このランクではかなり良い方だろう。少しは300万までの足しになりそうだ。


「なるほどなぁ。このぐらいなら問題ないだろ」


「うん、だね」


 というわけでこの3つの依頼を受託した。ちなみにブラウンたちは全員Fランクからだが、俺とフリーがいるからCランクダンジョンにだって問題なくいける。


「それでだけど、どうやって行くの? 私たち、馬車もないし、ほとんど手ぶらなのよ?」


 ギルドを出てすぐに、とうとうマリジアが移動手段への疑問をぶちまけた。


「そりゃあ、飛ぶんだよ」


「飛ぶ!? 飛ぶってどうやっ…………!?」


「こうやって」


 俺は魔力操作でしっかりと5人を掴むと一気に飛び上がった。



「きゃっ、きゃあああああ!」


「うわあああああああああああああああああ!?」



 一気に視界が高くなり、王都のあるレムリア山の頂上が横目に見える。雲が近く、町のメインストリートを歩く人がアリのような大きさになった。結構な距離があるので、ギュンッと速度を上げると景色が後ろに吹っ飛ぶような速度で、南へ飛んでいく。


 マリジアとブラウンがワーワーと大声でわめいているが、風の音で何を言ってるかわからないので、無視して飛んだ。



◆◆



 それから空を飛んで2時間。目的地へ到着した。目の前にどこまでも広がるは照りつける太陽と広大な砂の海。


「よっ」


 地面へふわっと着地すると、ドサドサっと砂の上にマリジアとブラウンが白目を向いて倒れた。どうやら気絶してる。

 他は平気だったようだ。特に終始ケラケラとご機嫌だったのはオズとシャロンだ。


「快適な空の旅はいかがだったでしょうか?」


「面白かったな。帰りもやってくれ」



「「絶対いやっ!」」



 マリジアとブラウンが声を揃えてオズに抗議した。


 ほんと恐がりなところは息ぴったりだよな。


「ね、ねぇ! というか今の重力魔法よね? だったらあたしにもできたり…………」


 マリジアが生き返ってきた。


「厳しいな。これ、魔力操作と重力魔法を俺のユニークスキルで補助してやっとできてるから、普通にやったらまともに飛べねぇ」


「そんなぁ」


 マリジアはガクッと膝をついた。


 1つ心配なのは、飛んできたせいでオズの護衛? をまいてしまったことだ。まぁ、オズも俺らといりゃ安心か。


「いやー、しかし広大だねぇ。ここから探すなんて大変そうだよ」


 フリーが手で目に影を作りながら砂漠を見渡している。


「あ、あれ受け付けかな?」


 フリーの指差す先には砂漠の中にポツンと掘っ立て小屋があった。

 

「みたいだな」



◆◆



 ダンジョン受付で手続きをパパッと済ませ、砂漠に足を踏み入れた。


「あぢぃ~」


 正面は見渡す限りの砂丘だ。100メートルを超す巨大な砂丘が山ほどある。

 砂を踏みしめザクザクと進んで行くも、ジリジリと過剰な日光を放出する太陽が、体力を奪おうとしてくる。遠くを見ればユラユラと揺れる陽炎が見える。暑すぎて剣の刀身で目玉焼きが焼けそうだ。


「当たり前よ。ここはそれほど強い魔物はいないけど、この戦いにくい砂地と暑さでCランクなんだから」


 マリジアが額に汗を浮かべながら言う。


 それにしては黒で熱を吸収しそうなコートを着てるオズは涼しげな顔をしている。


「オズって、どうしてそんな厚着で平気なの?」


 シャロンも気になっていたのかオズに聞いた。


「これ、体温調節機能付きのコートだからな。中は涼しいんだ」


「えーずるい!」


「いいなぁ。貸してよねぇオズ」


 フリーがオズのコートをちょいちょいと引っ張る。


「無理」


「貸してください」


「土下座したら考える」


「止めなさいよあんたたち。ただでさえ暑いんだから」


 イライラとマリジアが怒る。


「で、どうやら目的のゴールデンゴーレムは遺跡にいるらしいな」


 ゴールデンゴーレムは有名らしくダンジョン受付でも話を聞くことができた。


「遺跡なんてどこにあるのかな?」


 ブラウンがパタパタと手で扇ぎながら言った。


「うーん…………」


 フリーがザクザクと近くの砂丘に登って辺りを見渡すが、


「ないねぇ! とりあえず依頼をこなしてたら何か見つかるかも」


 砂丘の上から声を張り上げて言った。


「手がかりなしかぁ…………」


「ユウがなんとかしてくれるだろ」


 残念そうなブラウンにオズが言った。


「俺頼みかよ」


 まぁ、空間把握と探知を使えば見つかるかもしれん。


 探知…………。


「げ…………」


 地表より砂の下の方が魔物が多い。多分、サンドワームって奴だ。わらわらいる。こいつらに関しちゃ、向こうから来てくれそうだ。


 そうして6人で砂の海を歩き始めて1分ほど。さっそく前から突進してくる3メートルほどのサンドワームが見えた。海の中を泳ぐように上下にぐねぐねと身体を動かしながら進んでくる。


「フリー」


 返事するとスラッと刀を抜いて前に出る。


「はいよー 」


 フリーが砂から飛び出してきたサンドワームの噛みつきをスッと斜め前に歩を進めてかわす。そしてサンドワームの円形に牙が生えた口に刀を添えるとスパァン!! と一気に振り抜いた。


「プギィッ…!」


 サンドワームは頭から尾の先まで、キレイに2枚におろされ、空中でその身を分かれさせた。ドサッと落下するもまだビタンビタンと動いている。


「すごっ…………」


 加減なしのフリーの斬撃を見たマリジアたちが驚く。


 まぁ加護持ちのフリーが身体強化すればもはやSランク並みだからな。


「ね、ねぇ。これ、私たちの出番来るのかな?」


 フリーの実力に驚いたシャロンが言う。


「僕もやるよ。ユウ、前衛させて!」


 ブラウンが腕まくりをして槍を担いだ。


「わかった」


 というわけでフォーメーションを決めた。前衛をオズとブラウン、中衛を俺、シャロン、後衛をマリジアとフリーだ。シャロンは全体の回復とメイスでの遊撃、フリーは射手をしているマリジアの護衛だ。


 そして、1時間は進んだだろうか。俺とフリーが手を出すまでもなく、魔力の扱いに長けたオズたちは魔物たちを圧倒していった。


 オズは雷槍を空から何本も降らしサンドワームたちを瞬殺すれば、ブラウンは砂を生き物のように操り、魔物たちを突き刺す。マリジアは炎の矢を放ちドラウンドの魔石を射抜けば、シャロンは身体強化を駆使してロックパルゥムを頭から足元まで粉々に叩き潰した。

 学園のランキング上位をチーム「ブラウニー」の皆で占める日も近いかもしれない。


「ねぇ、ユウ気付いてる?」


 目の前で楽しそうに戦うオズたちを尻目に、フリーは真剣なトーンで話しかけてきた。


「ああ、もちろんだ」


 わかってる。数分前から俺たちの後ろを何者かがつけてきている。砂漠に溶け込むような黄土色の迷彩ローブを着て、さらに隠密を使っている。さすがにオズの護衛じゃなさそうだ。


「やっぱりユウも気付いてたか。シャロンの胸は、胸当てなんかじゃ押さえきれないよね」


「ん、そっちかよ!! それはもちろん気付いてたよ!」


 シャロンがメイスを振るう度に揺れる胸は、もはや凶器であり俺たちを狂喜させる。


「あ、あっちも気付いてるよ。後ろの奴でしょ?」


「あたりまえだ馬鹿!」


「どうする? 仕掛けてくる前に殺っちゃう?」


 フリーが腰の刀に手を添える。


「いや、まだ確証がないんだ。動きがあるまで待とう」


「ああ、そうだねぇ」


「気は抜くなよ」


「抜いたことないよ」


「嘘つけ」


 しばらくして、俺たちの不安は的中した。


「ん…………!?」


 ん? 消えた?


「フリー、後ろのあいつどこいった?」


「あれ?」


 バッと振り向くもついさっきまでいたはずの尾行者が消えている。


「どこに…………?」


【賢者】前方です!


 いつの間に…………!


 ロックパルゥムと戦うオズたちに、側面から向かう頭までローブを被った影があった。注視すればさっきよりもハイレベルな隠密を使っているのがわかる。


 こいつ、俺たちが気付いていることがわかってたのか…!


 あえて隠密を緩く発動することで油断させ、隙を見てフルで隠密を発動。俺らの意識を掻い潜ってきた。そんなやり方があるなんて、かなりの使い手だ。


 走りにくい砂地に結界魔法を引き、オズまでの最短ルートを作る。そして身体強化で一気に加速し、奴を追う。


 尾行者は丸太のような太さの金棒をどこかから取り出すと、それを右横から振りかぶった。真横から金棒がオズとブラウンの身体へと向かう。


 このままだと2人とも殴り殺される…………!


 ブラウンは何が起きているか理解できていない。


「ブラウン!」


 オズは咄嗟にブラウンを両手で押し、突き飛ばそうとするが、それも間に合いそうにない。尾行者の口元がニヤリと歪むのが見えた。


 させるかよ!


 身体強化を限界を超えて発動し、右足に全力の魔力を込めて足場の結界魔法を蹴り砕きながら飛ぶ。筋肉がブチブチと音を立てて千切れるが関係ない。




 ガイン……………………ッッッッ!!!!




「くっ!」


「ううっ!」


 俺とフリーの2本の刀が尾行者の金棒に縦に斬り込む形で交差し、受け止めた。


 重っ……………………!


 腕がプルプルと震え、歯を食い縛る。


 フリーも受けてくれて助かった。隣にいてくれてこれほど心強いことはない。


 ピシッ…………!


 そこで魔力で覆っているにも関わらず、学園で借りた刀にヒビが走る。


 ああ、こんなことなら最初から黒刀を用意しとくんだった。


「ほお」


 受け止められたことが珍しいのか、それだけ言うとそいつは金棒を引き、両腕で高く振り上げた。



「フリー! 皆をここから遠ざけろ!」



 目の前の奴から目をそらさずにそう言った瞬間、猛スピードで俺の頭へと迫る金棒。一瞬の判断でバック宙で金棒を避けると、金棒が砂地を叩いた。



 ズ、ズンッ……………………!!!!



 大地に深く伝わる衝撃。



 途端に陥没し、崩壊、失われていく地面。


「きゃあああああああああああああ!!」


 ザザザザザザザザザザザザザザザザザザと、砂が地下へと大量に吸い込まれ、オズたちも一緒に落下していく。結界魔法で足場を作った俺だけがその場に残っていた。


 襲って来た奴は空中に浮かんでいる。おそらく風魔法だ。あれで俺たちを王都から追って来たんだろう。俺に追い付くとはかなり魔法も使えるようだ。


「ユウ!」


 下半身は砂に埋もれ、どんどん流砂に吸い込まれていくフリーが俺に向かって手を伸ばしながら叫ぶ。


 普通に考えりゃ、オズは王子だ。狙う理由がありすぎる。とにかく皆を遠ざけないとこのレベルの奴とまともに戦えない。



「お前はあいつらを守れ! こいつは俺がやる!」




読んでいただき、有難うございました。

良ければブックマークや評価、感想等宜しくお願いします。

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