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【100万PV突破!!】重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第4章 王都
94/159

第94話 騎士団

こんにちは。

ブックマークや評価いただいた方、有難うございます。とても励みになります。

あと、1話当たりの文字数が多いとの意見をいただいたので少し減らしていこうと思います。

第94話です。何卒宜しくお願いします。


 およそ2ヶ月後、無事に俺たちはオリエンテーションから帰ってきていた。


 そして今、オズとチャドが再び闘技場にて武器を持って睨み合っている。


「まさかこんなにすぐ再戦することになるとはね。前回の惨めな敗戦を忘れたのかい?」


 余裕の表情でチャドはオズに剣を突きつけ、挑発するようにゆらゆらと揺らしている。


「ほざいてろ」


 チャドの挑発にもオズは答えない。


 本当にオリエンテーションの移動時間のほとんどを使って魔力操作を鍛えたオズは、前と同じ人と思わない方がいい。無詠唱魔法が使えるようになり、魔力もかなり増えている。元々の戦闘センスもあって、冒険者で言うならBランクくらいだ。ただ、チャドのあの異常なタフさはそれでも油断できない。


 あの森の演習でゼロがスクルを殺した後、救援信号を発見した教員と騎士たちが到着し、ガストンたちは保護された。俺はバケモノがガストンたちを襲いどこかへ逃げ去ったと話したところ、森には厳戒態勢がしかれた。また、俺が抜けてからもオズたちは難なくデュアルホーンを討伐できたようだ。

 それから何事もなくヴォルフガング砦を見学し学園へ戻ってきたというわけだ。ちなみにあれから何か思うところがあったのか、サイファーはともかくガストンは嫌みを言ってくることはなくなった。


「ユウ、ねぇユウ。今度こそオズは勝てるよね?」


 盛り上がる満員の観客席では、隣のブラウンが考え事をしてる俺の肩を揺さぶる。


「え、なんだって?」


「オズのことだよ。どうしたんだい? 学園に戻ってきてからそんな調子だけど…………悩み事かい?」


 心配そうな顔をするブラウン。


「いや、なんでもない。オズなら心配いらないだろ」


「だね」


 ブラウンはそう言って笑った。


「くっ……!!」


 急激なオズの成長にチャドが苦戦している。オズは激しいナイフ捌きで残像を残す凄まじい速度と手数の突きを繰り出す。チャドに魔法を使わせる暇もない。


 そしてオズはチャドを圧倒し、首もとにナイフを突き付けた。


 ガラン…………ッ!


「ま、参った」


 チャドは剣を落とし、両手を上げて降参した。前回の試合よりも早くに決着がついた。

 そもそも身体強化も会得したオズは圧倒的なスピードを得た。加えてオズの急所を狙える正確さがあれば、チャドのタフさなど関係なかったようだ。


「勝者オズ・ウィストン・フィッツハーバード!」


 心なしか審判員も弾んだ声で試合結果を叫んだ。



「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」



 会場が派手に沸いた。学園で威張り散らしているグループのトップが負けたのだ。それに迷惑していた学生たちはここぞとばかりに盛り上がる。そしてこれでオズはようやく学園1位となることができた。これで少しは学園も過ごしやすくなるだろう。


 その様子を見ながら俺は、王都で直接ギルマスにヨハンで起きた真実を報告した時のことを思い出していた。




「Sランクがローグになった!?」




 動揺し、思わず机に身を乗り出してギルマスに詰め寄った。


「そうだ」


 ギルマスも参ったと苦い顔で額に手を当てた。


「な、なんでだ? 調査隊はSランク冒険者と騎士団の副団長に精鋭騎士たちだろ? 安全マージンは相当とってたはずだ!」


 ベニスのランドルフは確かにローグになり進化していたが、さすがにSランク2人が足下をすくわれるとは思えない。


「わからん。だが副団長の報告だ。間違いないらしい」


「くそっ」


 まずい、まずいまずいぞ。それは…………!


「副団長は無事だったのか?」


「ああ、彼女は無傷で戻ってきた。どうやらSランクのティモンは彼女を庇ったようだ」


「その、原因は単なる油断か? それとも他に理由が?」


「油断しただけらしい。ただ、彼女も慎重な性格だ。にわかに信じられないが…………」


 ギルマスも腑に落ちないようで頭を悩ませている。


 あれほど忠告していたというのに、そんなことがあるのだろうか? いや、それよりも今はとにかく。


「Sランクのローグが進化すれば、前代未聞のバケモノになるかもしれん。将来の危険性を考慮するなら、すぐに討伐隊を出して進化する前に…………ティモンを殺そう」


 俺はギルマスの目を見て、真剣に訴えた。


 あいつらローグの異常さは直接出会った者にしかわからない。だから、ローグになった冒険者には悪いが…………死んでもらうしかない。

 

「わかってる。ローグをよく知るお前の意見は尊重している。ちまちまと戦力を送っていても仕方がない。そこで、SSランク冒険者によるベニスの町掃討作戦を計画中だ」


 SSランク…………種族レベルがSランクよりも2つ3つは上の連中だ。つまりは怪物が動き出すということと同義。


「誰に声をかけるつもりだ?」


「今手が空いてるのはスカーフィールドだな。だが、俺もSランクのティモンが簡単にやられたことは納得がいかない。その原因をもう少し探りたい。出発はそれを待ってからだ」


「そうか。そうだな」


 ギルマスは疲れたようにふうっと息を吐き出して、椅子の背もたれにもたれ掛かった。その顔は外見通りの少年のような顔ではなく、疲れきった大人の顔つきだ。


 ギルドが抱えている問題は多いからな。


 そしてギルマスは姿勢をなおすと、再び話し始めた。


「話は少し変わるが、ベニスにヨハン、コルトの件も全てにマードックが関与してることが、お前の情報のおかげで確定した」


「ああ」


「後は物的証拠を押さえることができれば、都立最高裁判所で伯爵を審議委員会にかけられる」


 過去にジーク辺境伯がかけられたものか。だが、


「今さら法的な手段に頼るのは甘いんじゃないか?」


 ここまで証拠があるんだ。むしろ本人を物理的に直接叩く方がいい。


「いや、食客であるSSSランクのガードナーは常に奴に張り付いている。実質あいつはこの王国で最強だ。SSランク複数人で今のマードックを仕留めるのは不可能だろう」


「あんたこそ元SSSランク冒険者だろう? ガードナーを倒せないのか?」


 ガードナーもヤバいと感じたが、目の前に座る小さなこの少年の方が底の見えない強さがある。


「無理じゃないが、俺らクラスが王都で本気で戦えば王都にどんな被害が出るかわからん。それに俺の力は…………まだ使うべき時じゃない」


 ギルマスは苦しげにそれだけ言った。


 使うべき時? なんだそれは?


「あいにく、マードックは俺を警戒してか、ガードナーを使って真正面から反乱を起こすつもりはないようだ。とにかく、物理的に奴を止められない以上、法的手段に頼るしかないんだ」


 仕切り直して申し訳なさそうにギルマスはそう言った。


「向こうは自分につく貴族の囲い込みにかかってる。今後は王族側も味方につく貴族を集めてにらみ合いの冷戦状態になる。そうなるとマードックがいつ痺れを切らすかわからん」


「その辺は俺じゃどうしようもない。ただの冒険者だから何の権力もないしな。だから任せる」


「ああ。王族はギルドを通して情報を集めている。悪いが、もう少しお前には働いてもらうぞ」


「…………わかった」



◆◆



 学園での休日、寮官のブラックウッドさんに呼び止められビクッとした。


「な、なんです?」


 色々とやらかしすぎて反射的に警戒する身体になってしまったのが悲しい。

 

 でも寮で怒られるようなことは…………まだどれもバレていないはず。


「なんでそんなにビクついているのですか。あなた宛ですよ」


 怪訝な顔をしながら手紙を渡された。


「なんだこりゃ?」


 部屋にもどって差出人を見てみると、なんと騎士団長から直々の手紙であった。


「どうしたんだい?」


 ちょうどフリーたちも俺の部屋に集まっていたので皆が何事かと聞いてくる。


「いや、なんか騎士団長から手紙が来たんだけど」


 ぴろっと手紙を見せる。


「騎士団長から?」


 ブラウンたちは興味津々でずいっと手紙を見に来た。


「ああ、みたいだ」


 がさがさと封筒を開け、中身を読んでみる。


「うげ…………まじかよ」


 そこには達筆でこう書かれてあった。


 国境でのいざこざもなく平和が続いているためか、騎士たちの気持ちが緩んできている。何かあればこんな緩んだ気持ちでは対処できない。だが学生にコテンパンに負ければ彼らだって気持ちを切り替えるだろう、とのこと。


「なんだって?」


「ええと、つまり、うちの騎士に稽古をつけに来てほしいんだと」


「騎士団に稽古おおおお!?」


 ブラウンが心底驚いて叫んだ。


「学園って、騎士団に入りたくて稽古してる生徒が多いんだよ? ユウ知ってるの?」


「ああそうだったな」


「いいんじゃないか? お前今暇だろ? 行ってこい」


 オズがナイフに陽光を当てて眺めながら言った。チャドに勝ってからというもの、オズは俺とさらに打ち解けるようになっていた。


「フリー、オズが冷たいんだが」


 フリーに泣きついた。


「でもユウ、実際暇だよねぇ?」


 ぐ……………………、お?


「あ、フリーも一緒に来いって書いてるぞ」


「……まじ?」


 フリーは嫌そうな顔をした。



◆◆



 というわけで俺とフリーは初めて、王都の『王宮地区』へ足を踏み入れた。


「良く来てくれた!」


 入学試験以来の騎士団長が出迎えてくれた。相変わらず長いアゴひげを三つ編みにした奇抜な外見だ。

 騎士団の本拠地があるここは、鏡餅のように上層、中層、下層と分けられる王宮地区の下層だ。ここは半径6キロほどの広さがあり、ほぼ庭だ。騎士団はこの庭で普段から訓練を行っているそうだ。ここはこのレムリア山の頂上に近く、それなりに標高もあるため城下町がよく見渡せる。


「今日来てもらったのは、あの入学試験で規格外の強さを示した君たち2人にうちの団員たちへ稽古をつけてもらいたくてな!」


 元気に騎士団長がそう言った。


 俺たちは今、雲1つない晴天の下、綺麗に整列した300人ほどの騎士団の目の前に立っていた。ちなみにここにいる騎士たちはまだ騎士団の中では経験の少ない若者のようだ。他の騎士たちは今、副団長が率いて別の場所で仕事をしているそうだ。


 騎士たちからは俺たちを睨むような敵意のこもった視線を感じる。それもそうだ。ここにいるのは学園でも優秀な成績を修めた者や、厳しい試験を合格して騎士団に入った者たちだ。


 そりゃ学生に鍛えてもらおうなんざ、プライドが許さんだろうな。


「団長。さすがに学生に稽古つけてもらうほど俺たちは弱くありません」


 すぐさま反対意見が上がる。


「そもそもその2人、まだ下級生じゃないですか?」


 その言葉にニヤリと騎士団長は笑った。

 

「よし、それじゃ今文句言ったナブー、前に出てこい。ユウと戦ってみろ」


「ふん、任せてください。一瞬ですよ」


 そう言いながら、ナブーと呼ばれた騎士が並んでいる列を抜け、前に出てくる。目の前にすると、かなりガタイが良い。俺より30センチは背が高い。近付くと見上げるかたちになった。

 そして、訓練用の木剣を手に構えた。俺も同じものを手渡される。


「大丈夫。怪我はさせない」


 俺の身を案じてか、気を使ってくれるところ、悪い人ではないのだろう。


「ありがとうございます」


 俺も構えると騎士団長が宣言した。


「では…………始め!」


 その合図とともに俺は動いた。縮地を使って一瞬で懐に潜り込むと、土属性を纏わせ、岩のように硬くした右拳を腹に1発ズドンと振り抜いた。


「がっ…………!?」


 ナブーは地面に平行に20メートルは吹っ飛ぶと、壁に衝突し動かなくなった。


「あ」


 こりゃ『纒い』はやり過ぎだったか。


 今見た光景が信じられずに騎士たちはポカンとしている。


「はっはっはっは! ああ、そうだな。一瞬だったな」


 腹を抱えて爆笑しているのは騎士団長1人だけだ。


 騎士団長の頼みで出来るだけ圧倒的にぶっ飛ばすように頼まれていたとは言え、悪いなぁ。


 遅れて団員たちが駆け寄るも、ナブーは気絶していたようだ。


「まじかよ…………」


 一気に警戒度が増す騎士たち。


「さぁ、どんどんかかっていけよ? 学生に負けたとあっちゃレムリア騎士団の名折れも良いところだ」


 団長は頼んでもいないのにどんどんと煽っていく。


「やってやろうじゃねぇか!」


「騎士団なめんじゃねええええ!!!!!」


「ぶっっっっキルユー!」


 いやいやいや…………全員同時かよ?


 訓練用の軽装備の騎士たちが、一斉に俺に向かって走ってくる。思わずフリーを振り向くと振り向いて逃げようとしていたので首根っこを掴んで引きずり戻す。


「いやぁ、僕は男たちとのくんずほぐれつな激しい運動は避けたいんだよねぇ……」


 目をそらしてフリーは言った。


「お前言い方!」


 長年の付き合いでわかるが、多分本気でフリーは嫌がってる。でも、逃がさないんだよな。


「悪いなフリー。付き合え」



「い、いやあああああああああ…………!」



 というわけで、フリーと俺の300人斬りが開始した。

 腐っても騎士団だ。弱いわけがない。全員最低でもBランクの実力がある。それを300人とは、馬鹿も休み休み言ってほしい。


 結果を言うと、俺とフリーは余裕で生き残った。

 今、騎士たち全員が俺たちにノされて、地面に伸びて寝転がっている。避ける道が見つからずに1発良いのをもらってしまったが、殺さないよう加減をしての中、まぁまぁの結果だ。特に空間把握は多対一において、かなり有利に働くのは実証済み。まず攻撃は俺に当たらない。


「へぇ、強いですね」


 聞き覚えのない声に振り返ると、騎士団長の隣に知らない女性が立っていた。褐色の肌に尖った耳、豊満な胸、それに穏やかで優しそうな目。だがどこか本性は隠したような雰囲気を漂わせる少しミステリアスな超美人。


 エルフ…………だろうな。暗い肌の色以外の特徴が一致する。


「向こうはもういいのか?」


「はい、しばらくは放っておいて大丈夫でしょう」


 騎士団長の問いかけに彼女は笑顔で答えた。


「彼女はうちの副団長だ」


 副団長? つまり、あのベニスへの調査隊にいた人か!


「フレア・ナイトレイです」


 差し出された手と握手する。


「ども、ユウです」


 知りたい、本当にベニスでの調査で何があったのか。そう思った瞬間、口が動いていた。


「あ、あの副団長。ベニ…………あ」


 待て待て! 俺がベニスについて知ってるのは不自然過ぎる。やっぱりそこはギルマスに任せるしか…………。


「どうかしましたか?」


 頬に人差し指を当て、首をかしげる副団長。


「いえ、何でもないです」


「そうですか」


 それから副団長はフリーのところへも行っていた。フリーは登場した美人に一気に元気を取り戻すも、今度はガチガチに緊張しながら握手した。


「それで、どうかな? 私とも1戦やってみませんか?」


 ニコリと柔らかく笑って俺にそう提案する副団長。


「へ?」


「だってこの子たちがここまでやられたんじゃ、この国の騎士団が、君たちに信用してもらえなくなりそうですから。強いんだってところを見せたいじゃないですか」


 ウフフと口に手を当てて笑う。


「わかりました」


 まぁ副団長さんはSランクと同等らしいし、ちょうどいい。Sランクに今の俺の力がどこまで通用するか…………。


「では、始めましょう」


 ボコボコにされた騎士たちが倒れる庭のど真ん中で俺とフレア副団長は木剣を構えて向かい合った。


「始め!」


 騎士団長の合図で同時に飛び出した。


 速い…………!


 木剣と木剣がガンッとぶつかり合い、衝撃が庭の芝生を揺らす。目線を上げれば、楽しそうに笑う整った顔があった。


 この人、闘いが好きなんだな。


「よく止めましたね」


 そう誉めてきた。


 当たり前だが、彼女は自分の方が上だと思ってる。なめられたもんだ。

 だが彼女は一瞬で俺の倍の距離を詰めてきた。身体能力は彼女の方がふた回りは上だ。この均衡状態も腕の筋肉の限界が近く、こちらはプルプルと震えている。長くはもたせられない。


 なら、技術でカバーするまで。


 つばぜり合いの状態から、フッと一瞬力を抜き、相手の体勢を崩す。そして踏ん張るための足を前に出せないように俺の右足で副団長の足を押さえた。


「なっ!」


 副団長は前に身体の重心が移る。普通なら即座に相手の木剣に叩かれておかしくない。だが最小限の動作と体さばきでそれからの攻撃を可能にした。手の力を抜き、相手の木剣を真下から柔らかくいなして手首を返す。そして腰は後ろに下げながら相手の木剣に走らせるように上に振り上げた!


 ガンッ!


「ううっ!」


 真下からの斬撃が当たり、副団長は上に3メートルほど打ち上げられた。


 いやぁ、こんな美人さん、木剣だとは言え殴るのは気がひけるな。そう思いながらも手が進む。


「ふ、副団長!?」


 打ち上がる副団長を見て、倒れていた騎士たちにどよめきが走る。


 だが、彼女はそのままバック宙をして、くるくると回るときれいに着地した。だが口が切れ、血を流している。


「まだです」


 上下関係が逆転した。一気に真剣な目付きになる副団長。


 再び向かってくる副団長だったが何度向かってきても結果は同じだった。俺は全ての攻撃をいなし、かわしては百発百中でカウンターを決めた。明らかに身体能力は彼女の方が数段は上だ。だが俺の剣術はもはやその程度では埋めようのない領域まで来ていた。


「まだ……です」


 肩で息をしながらボロボロでもまだ向かってくる副団長。


 いい加減、諦めてくれないかな?


「ならこれでどうです?」


 スヒュン…………!


 いつまでも諦めようとしない彼女の木剣を、俺は同じ木剣で半ばから斬り落とした。


「う、嘘…………ですよね?」


 呆然とした様子で斬られた木剣の断面を眺める副団長。


「はっはっは! 鉄の剣で俺もやられたなぁ、あれ」


 嬉しそうに指を指して笑う騎士団長。


「何者、ですか…………?」


 副団長の気配が変わった。木剣の切れ端を捨て、両手をダランと脱力して垂らすと、手に魔力らしきものが集まっている。そして瞳はランランと赤く輝き、口はまるで裂けたように笑っていた。


 なんだ? ユニークスキルか? 明らかに普通の魔法ではない。


 意識を切り替えて何がきてもいいように構える。


 とその時、一瞬で後ろに現れた騎士団長が首と後頭部の間を手刀でトンッと叩いた。ガクンッと意識を失う副団長。


「こんなとこで狂化を使うな。馬鹿」


 倒れる副団長の身体をスッと支えると、騎士団長はそう言った。


 どんなスキルなのかちょっと楽しみだったんだがな。実際、俺はこの戦闘では身体強化しか使っていない。いくらでも余裕はあった。


 ただこの人は決して弱いわけではない。それに奥の手もあるようだった。ベニスでローグに遅れをとるとなると、やはり何か原因があったのだろう。そう感じた。


「すまんな。こいつのわがままに付き合わせて。どうも前の任務に失敗したらしくてな。久々に身体を動かしてスッキリさせてやりたかったんだ」


「いんや、良い手合わせだった」


「ははっ、そうか。こいつもいい経験になったろう。まぁ気が向いたらまたやってくれ」


「ああ」



読んでいただき、有難うございました。

良ければブックマークや評価、感想等宜しくお願いします。


あと、Twitterアカウント作りましたんで良ければ是非。

「かじ@小説家になろう」で検索したら出ると思います。しょうもないこと9割、更新情報5分呟きます。

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