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重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第4章 王都
92/161

第92話 オリエンテーション

こんにちは。

ブックマークや評価いただいた方、有難うございます。とても励みになります。

第92話です。何卒宜しくお願いします。


 翌日、学園で授業開始前にオズたちがさっそく俺の席に集まってきた。内容はだいたい予想がつく。


「ユウ、放課後修行の成果見てくれない?」

 

 4人はワクワクした様子でそう言う。どうやら俺がいない間、あの第6闘技場でひたすら魔力操作のスキルを皆で磨いていたようだ。


「はいはい」


 と、そこでクロム先生が教室に入ってきた。


「はいお前ら、さっさと席につけ。今日は大事な連絡がある」


 バタバタと皆席に戻っていった。頭には魔法のことしかない様子だ。


「来週オリエンテーションがある」


「「「「オリエンテーション?」」」」


 皆が声を揃えて聞いた。


「表向きはクラスの奴らとの交流を図る機会だな。お前ら仲悪いだろ?」


 クロム先生は俺を見た後、ガストンたちに目を向けた。


「そ、そんなことないですよ?」


 目をそらして答えるもスルーされた。


「お前らはここから東、帝国との国境にあるヴォルフガング砦を目指す。あと、剣士専攻と魔術士専攻のAクラスも同行する。こいつらとも仲良くしろよ」


 それから珍しくクロム先生がきちんと説明した。内容はこうだ。


 来週の初日、ここ学園を出発しブラームス、ヨハン、カミーユ、バルトークの4つの町を順番に経由してヴォルフガング砦へ向かう。

 途中、ヨハンとカミーユの間にあるブリード森林では、他クラスと連携し魔物の討伐訓練を行う。そして最終目的地であるヴォルフガング砦での国境警備を見学し、学園に引き返す。全行程およそ2ヵ月弱の大イベントだ。

 その目的は他クラスとの交流、国内を見て回ること、多人数での移動、連携に慣れること、そして国境警備を見学することで他国の脅威について認識することらしい。


「ま、本当は先週連絡するつもりだったんだが、すまん。忘れてた」


 クロム先生はポリポリと頭をかいた。


 それで珍しく説明したのかよ。


「あ、道中も魔物は出るし、基本見張りも生徒たちでやってもらうが、万が一に備えて俺たち教師と騎士団が10人ほど護衛につくからそこは安心してくれ。まぁなんだ、これも社会勉強だな」


「移動の馬車はどうするのですか?」


 マリジアが手を上げて聞いた。


「そうだな。それを決めるか」


 班分けの結果。俺たちSクラスは8人しかいないため、4人グループが2つになった。


①班:ユウ、オズ、ガストン、サイファー

②班:フリー、ブラウン、マリジア、シャロン


 ちなみに先頭がリーダーだ。


「おおふ…………」

 

 俺は机に伏せて頭を抱えていた。


 最悪だ…………。いや、確かに考えてみれば、女子2人をガストンたちと同じ班にするわけにはいかないし、ブラウンじゃ奴らの嫌みに負けるかもしれない。戦力的に見てもフリーと俺は別々にすべきだ。


 だとしてもガストンたちと2ヵ月一緒はヤバいだろう!?


「ユウ、オズ。なんかあったらこっちの班来てもいいからね?」


 さすがにマリジアたちがに心配そうに言う。優しい心遣いがまじで心に染みる。


「ああ。ありがとう」


 完全に2択だ。奴らと戦争するか、仲良くするか……。


 そう考えていると、オズが俺の肩を叩き、真剣な顔で言った。


「ユウ、事故に見せ掛けて殺るぞ」


「おい何言ってんだクソ王子」


 オズは本気でむくれ始めた。もうヤバいかもしれん。


「ユウ、殺る時は言ってね。手伝うから」


 シャロンが拳をぎゅっと握って熱弁する。


「いやだから、殺らねぇって!」


 それから、今週はオズたちの魔力操作の進捗確認と、オリエンテーションキャンプの必要品の確認に追われた。2ヵ月もあるんだ。途中の町で買い込み出来るとは言え、揃えておくにこしたことはない。


 そしてその準備にガストンとサイファーは来なかった。


 仲良く…………出来るのか?



◆◆



 そして出発日。俺たちの幌馬車にはクロム先生が、フリーたちにはハンナ先生が同伴している。御者は交代で行い、野宿用品、食料等も積み込んだ。


「貧民は可哀想ですなサイファー」


「ええ、ガストン殿。拡張鞄すらも持ち合わせていないのだから」


 乗り込んだ幌馬車の中で、向かいの席でそう自慢げに見せてくる2人は手提げ型の拡張鞄に自分たちの必要な物資を詰めているようだ。どおりで準備の時に協力しなかったわけだ。


 とりあえず中指を立てて答えておいた。この世界の人にはわからないジェスチャーだ。


「お前ら、これはオリエンテーションだってことを忘れるなよ?」


 俺とオズがあからさまに嫌そうな顔をしていると、隣に座ったクロム先生にそう言われた。


「先生、それはこいつらに言ってくださいよ」


 俺が目の前に座る2人をはっきりと指差して言うと


「お前らの方が言うこと聞くから言ってるんだろうが」


 そう真面目な顔で返された。


 ああなるほど。そりゃ納得。


 青空の下、学園門前には馬車が長い列をなしていた。教員や護衛の騎士団を含めれば100名近い大集団だ。初めての学園外での演習に皆テンション高めに騒いでいる。


 確かにこの光景を見れば、ちょっと修学旅行みたいでワクワクするな。まぁガストンたちがいなければの話だが。


「それでは出発する! 各自気を引き締めること!」


 全体のまとめ役は剣士専攻の教員がやっているようだ。


「普通Sクラスの教員がやるもんじゃないんですか?」


 俺がそう言うと


「ああ? 俺はお前らのお守りで手一杯だ。そう言って断った」


 あんたも協調性を学んだ方が良いんじゃないか? そう思ったが、おそらく先生が大変な原因は確かに俺たちにあるので黙っておいた。



 学園を出発した幌馬車の列車は何事もなく王都を抜けていく。毎年の行事なのか道行く人や、2階のベランダからにこやかに手を振ってくれる。


 東門より先は見通しの良いのどかな平原が続く。


「これから先は長いんだ。肩の力抜いとけよ」


 クロム先生はそう言うが、班員のせいでそうもいかない。俺らの馬車の後ろにフリーたちの馬車がいるようで、楽しそうな声が聞こえてくる。


「クソだりぃな」


「まぁそういうな」


 クロム先生はポンポンと俺の肩を叩いた。


 御者は交代制だ。平原をのんびりと馬車は走り抜け、2時間オズが御者をやった後、ガストンの順番になった。


「はい交代だ。次はガストン、お前がやれ」


 クロム先生がガストンにそう言うも、ガストンは足を組んで座ったまま言った。


「やりませんよ。私たちは貴族ですから」


「あ?」


 ピキッとクロム先生のこめかみに青筋が浮かんだ。


 はぁ、よく言うなそんなこと。


「そもそもこんなちんけな馬車に我々を乗せるのが失礼とは思わ…………」


「てめぇら、いい加減ぶちのめすぞ?」

 

 クロム先生から威圧感が発せられるとガストンは黙って御者席に座った。


 帰りてぇ…………。



◆◆



「ふぅ…………」


 ああ、御者をやってる時が一番気楽だ。


 能天気に青空を流れる雲を見てそう思う。目の前にはおよそ十数台帳の長い馬車の行列。時々列を離れて怒られているのは、御者に慣れていない連中だろう。


 もうずっと御者をさせてほしい。そんなことを考えながら進み、ようやく初日の夜営の時間がやってきた。テントは俺しか張ったことがないようでオズに教えながらの準備となった。


「お前らも自分でやれよ?」


 ガストンとサイファーにそう言う。

 ニヤニヤしながら何もすることなく座って俺らを眺めていたガストンとサイファーは、無言で立ち上がり拡張鞄から折り畳み式の高級テントを取り出すと、パパッと広げ一瞬で完成させる。


「可哀想な人たちですね」


 そう言いながらテントに入っていった。


 バキィッ!


 オズは持っていたテントの骨組みを怒りに任せてぶち折っていた。



 な、仲良く…………するんだぞ、俺。



「ユ、ユウ? 大丈夫かい?」


 ブチキレそうになっていると、心配になったのかフリーたちがこっちのキャンプ地に来てくれた。



「「あいつらやっぱ殺していいか?」」



 オズとハモった。


「ダメだよ!? 2人して言わないでほしいねぇ…………」


 珍しくフリーの焦った顔が見れた。その顔を見てたら思わず笑けてきた。


 やっぱり仲間は良いな。


「もう。またイタズラしてやり返せば良いじゃない」


 マリジアだ。考え方が俺に染まってきている。


「いや、この遠征中は仲良くするって俺は決めたから…………な、なるべく抑える」


「大人だねぇ」


 フリーやマリジアがうんうんと感心してくれるなか、


「ユウ、俺は無理かもしれねぇぞ?」


 オズは堂々と言った。


「お前もこらえろよ!?」



◆◆



 夜中、オズはとっくに眠りについたようだが、俺は眠れなかったので空間魔法の各部屋の様子を見に行った。


 ゲイルタラテクトは捕まえてから1週間。ゲイルという名前を付けて様子を見ていたが、もう部屋の中はどこもかしこが白い糸で覆われ、バランスボールサイズの卵をびっしりと床と壁一面に産んでいた。全部で数万個はあるだろうか。


「うわ…………すげぇなこれ」


 少し透けている卵を近付いてよく見てみると、できかけの半透明のクモの形が見てとれた。たまに中でぐるんと動いては頭の位置が上下入れ替わっている。すでに俺の魔力を吸収し、よく成長しているのがわかる。


「エイリアンの子どもみてぇ」

 

 賢者さんによると、産まれたタラテクト種はある程度共食いをして数を減らし、強固な個体のみが生き残っていくそうだ。なので全てが全てタラテクト種になるわけではないようだ。


「キシシ…………」


 ゲイルは壁がなくても俺を襲うことなく、満足そうに俺と卵たちを見ていた。




 続いて空間魔法に扉を開け、悪魔たちの部屋へと入る。


 悪魔たちは、今全てで200柱を超えた。Bランク以上のデーモンが150柱、Aランク以上が50柱だ。そして、盗賊討伐時に多めに魔力を与えたデーモンたちはAランク上位の力を得たようだ。中でも飛び抜けて力の強かった個体はSランク下位の力を、そしてユニークスキルすら持っているようだ。

 また、悪魔生成のユニークスキルがレベル3になり、1日に生み出せるデーモンが4柱までとなった。これでまた戦力増強が期待できる。


「壮観だな」


 悪魔たちの空間魔法の部屋を訪れると、200柱を超える悪魔たちが膝まづいていた。肌の色が青や赤みがかった悪魔から、背の高い悪魔、はたまたゴツく筋肉隆々の奴もいる。こうしてみると悪魔も案外個性豊かだ。


【ベル】あなたのユニークスキルは不思議ね。この悪魔たち、すでに受肉して生まれているもの。


 へぇ、どおりで強いわけだ。


「ご主人様、どうかされましたか」


 トップであろうグレーターデーモンが言う。グレーターデーモンへと進化すると、人間のような外見を得るようだ。骸骨だった頭部は、黒髪の美形青年の姿へと変わっていた。燕尾服を着こなす様子は様になっている。そしてこいつから感じるのは凄まじいエネルギー。


「いや、あれからしばらく経つから様子見に来たんだが、こりゃ増えたな。お前もいつの間にかグレーターデーモンか」


「はい。ご主人様の魔力のお陰で進化することが出来ました。感謝申し上げます」


 しかし、ここまで人間らしい外見なら名前が欲しいところだな。ただ全部に名前はめんどくさい。


【ベル】番号で良いじゃない。


 適当だなお前。いやでもありか。


「お前ら、名前がほしくないか?」


 そう言うと、ざわめく悪魔たち。


「ご主人様から与えられるのであれば、それは光栄でございます」


 代表してグレーターデーモンがそう答えた。


 そうだな…………。


「お前は別格だから、これからは『ゼロ』を名乗れ」


「はっ! 有り難うございます」


 『ゼロ』と名付けたグレーターデーモンは喜びを隠しきれない表情で深く礼をした。


「他の奴らだが…………さすがに数が多いな」


 そこで、学園のランキング制を思い出した。


「全員で戦え。トップ10には名前を授ける。ただし殺しは無しだ。戦闘不能にすればいい」


 そう言うと、目をランランと輝かせて口元をつり上げる悪魔たち。もともと戦闘が好きなのだろう。


「ゼロ、お前は参加するなよ。さすがに強すぎる。審判を務めてくれ」


「はっ、承知しました」


「お前ら、こいつはお前らのまとめ役だ。ゼロの言うことは必ず守れ」



「「「「「はっ!」」」」」



 広い空間に響き渡る悪魔たちの声。


「ゼロ、お前はここから出て自由に俺に会いに来ていい。結果がわかったら報告しに来い」


「承知しました」


 これで強い奴が生まれてくれればどんどん戦力になるだろう。



 続いて竜の部屋へと入った。


 リトルアースドラゴンのユーリカは、俺の魔力を吸収し凄まじい勢いで成長。手のひらサイズだった体長はまさかの5メートルにまでなった。可愛らしかった顔も凛々しさが見え隠れし、いいかげんリトルじゃなくなってきたのでもうすぐ進化するかもしれない。


「ユーリカ」


 俺が部屋に入っていくと、その巨体で嬉しそうに突進してきた。両手を突っ張って受け止める。ガリガリと俺の足が下がるほどのパワーだ。


「でかくなったなぁ」


 よしよしと首もとを撫でてやる。地竜というだけあって、すでに全身は大小様々な岩で覆われている。体重もすでに3トンは超えていると思う。


「ガアアウ」


 あんなに可愛かった鳴き声まで猛々しくなっていたが、まだ中身は子供のようで、その頭をゴリゴリとすり付けてくる。ゴツゴツした体表でかなり痛い。


「元気そうで良かった」


 ユーリカにはこの調子で成長してもらおう。他の2つの卵はもう少し時間がかかりそうだ。


 これからもこの3部屋の彼らには俺の仲間として仲良くしたいと思う。



◆◆


 

 そうして、俺とオズがひきつった顔で耐えること2週間。俺たちが言い返さないことを良いことに、暇だからやれ芸をしろだの、平民は馬鹿だの、嫌みが絶えなかった。オズはひたすら目をつむり無言で魔力操作を練習していた。


 ブラームスの町を過ぎて、夕陽が沈み始める中、ヨハンの町が目の前に見えてきた。ここは林業が盛んな町で、町の周囲の広大なブリード森林から木材を切り出し、建材や家具、燃料等様々な物に加工している。町の規模は大きく、コルトと同じくらいだ。木造家屋がほとんどで、王都とは別の趣のある町だ。今日はこの町の郊外にキャンプをさせてもらう予定となっていた。


 だが町に近付いた時、事件は起きた。





 ズ…………ドォォォォォオオオオオオオン!!!!





「「「きゃああああああああああああああああああああああああ!!!!」」」



 俺らの団体が到着する寸前、大地を揺るがす轟音がしたかと思うと、町の方から悲鳴が聞こえて来た。


「なんだ…………!?」


 学生の誰もが馬車から頭を出して町を見ている。町は壁で覆われているため中は見えないが、モクモクと立ち上る土煙が見えた。


「確認してくる。お前らは絶対にここを動くなよ?」


 直ぐ様クロム先生が馬車から飛び出して行った。だが俺は今起きたことよりも、特に昨日のことが気になっていた。


 実はマードック伯爵につけたマーカーが、なぜかこの町に昨日立ち寄っていた。


 西門から出て西方の町に行くと見せ掛け、東側のこの町に来たのだろうか。ギルドからの連絡でも、ギルドが放った追手がどうやってか撒かれ、行方がわからなくなっていたようだ。

 だがギルマスの放った追手を撒いても俺の空間魔法は外せなかった。そして、このタイミングでの爆発、伯爵が原因である可能性は高い。


「魔石加工場で事故か?」


 さすがのオズも魔力操作の練習を止めて顔を上げた。


「いや、それにしても爆発が大きかったような……」


 すると、すぐにクロム先生が戻ってきて荷台の俺らに下から呼び掛けた。



「お前ら全員降りてこい! 人手がいる!」




◆◆



 クロム先生に呼ばれ町へ入ると、ヨハンの町の南側の1/4が吹き飛んでいた。


「なんだこりゃ」


「何があった…………?」


 呆然と学生たちが眺める目の前にはまるで竜巻にあったような町が広がっていた。

 100棟を超える家屋が全壊し、半壊の家屋はそれ以上。そして、数百人が崩れた家屋の下敷きになっていた。


「う、うう…………っ」


「助けてくれ…………!」


「おかあさあああああん!」


 なんでこんなことに…………?


 耳をすませば助けを求める声があちこちから聞こえる。運が良いのは、家屋がすべて木造だったことだ。王都のような重たい石造りの家屋でない分、すぐに助け出せば命は助かるかもしれない。


「時間がない! 各班ごとに分かれて救助にかかれ! 回復魔法が使える者はギルド職員についていけ!」


「いくぞユウ!」


 クロム先生の言葉にオズが真っ先に動いた。


「あ、ああ」


 呆然としてしまった俺はオズに呼ばれてハッとした。この光景、無意識にアラオザルを重ねてしまっていたのかもしれない。


 オズと2人で声をかけながら生存者を探す。


 教員と護衛についていた騎士団の指示で学生たちフル動員、ヨハンの冒険者たちも交えての救助活動が始まった。俺はこういう現場は初めてではないが、その惨状に動けなくなる生徒たちも多かった。

 考えたくはなかったが、やはり爆発の中心に近い部分では直接爆風を受けた人々は亡くなっていた。


「重傷者はこちらに!!!!」


「頭を強く打たれた方も念のため、こちらで治療を受けてください!!」


 ギルド職員が総動員され、指示を出している。町中から人が集まってきていた。


 初めは指示通りに班単位で動いていたが、途中からは怪我人が見つかると、それどころではなく、学生、教員、騎士団、冒険者、町民、全員がごちゃまぜになっての救助活動となった。


 目につくところの人は救出できた。今度は空間把握を使い、瓦礫の下にいる人がいないか探す。


「……い、いた………………い」


 いた!


「オズ! この下だ!」


 俺は瓦礫の下を指差す。


「わかった」


 それは元々3階建てだったのだろう。1階と2階が潰れ、3階がその上に丸々乗っかっているような状態だ。住民がいるのはおそらくその潰れた1階部分。


「手を貸してくれ! この下に1人いる!」


「なんだと!」


 近くにいたギルド職員と冒険者の男性が集まってきた。


「上の居住部分をなんとかしないと厳しいな」


 ギルド職員が眉を潜めて言う。


「オズ、俺が3階部分を持ち上げるから、お前は魔力操作で下の瓦礫がさらに崩潰しないように支えてくれ」


「わかった」


「持ち上げるって、どうやっ…………」


 説明してる暇はないので直ぐに行動に移す。魔力で掴むと、崩さないようにゆっくりと持ち上げた。



 ガララ……………………ッ!


 

 宙へ浮かぶ瓦礫の山。


「なっ!?」


 驚いて後ずさる男たち。


 安全な場所へ瓦礫を移動させる。


「あんたら、さっさと助けてやれ!」


「あ、ああ」


 俺が叫ぶとようやく手を動かし始めた。


「いた! いたぞ!」


 瓦礫の下から助け出された少女は大腿骨を柱に挟まれ骨折していた。このままだと一生歩けなくなるかもしれない。


「痛いよぉ」


 泣きじゃくる少女はまだ幼い。そう、エルと同じくらいの年齢だった。


「大丈夫。すぐに楽になるからな」


 目の前にしゃがんでなるべく優しい声でそう言うと、骨折した両足に手を当て、骨を治してやる。


「ほえ?」


 少女は信じられない様子で自分の足を触っている。


「ありがとう! お兄ちゃん!」


 少女はニパッと嬉しそうに俺を見た。


 その笑顔にアラオザルのエルの顔が重なった。

 

「ああ…………どう、いたしまして」



◆◆



 この町の治癒士たちは数が少なく、回復魔法の使える教員たちやシャロンまでもが駆り出されている。重傷者はギルドの1階を解放して看病されているようだ。


 俺なら助けられる。死なせるものか…………!


 空間魔法からフード付きローブを取り出し目深に被ると、隠密を発動しながらギルドで横たわる重傷者たちへ回復魔法を徹底的にかけてまわった。


 救える命があるなら救う。アラオザルの、あんな悲劇はもうたくさんだ。


 また救助活動で役立ったのは、あれだけ特訓していた魔力操作だ。オズたちは腕力でどうすることもできない瓦礫等は魔力で補助して持ち上げていた。

 瓦礫の余計な部分を崩さないように緻密な制御が必要になり、さらには人命がかかっているため、皆は必死でかなりの訓練になったと思う。


「なんだ凄いな君ら! こっちも手伝ってくれ!」


「は、はい!」


 疲労困憊で、泥々になったマリジアとブラウンが汗を拭っていると、またすぐに呼ばれて走っていった。


 ガストンとサイファーは見かけなかった。多分どこかでサボっているんだろう。もう呼びに行く気も起きない。


 そうして、学生たちも協力して汗水を流し、救助活動は夜通し行われた。悔しいのは亡くなった人たちが何の罪もない一般市民だということだ。


 聞いたところによると、死者27名、行方不明者1名、重軽傷者多数で、その行方不明者というのがこの町のAランク冒険者らしいのだ。


 Aランクがそう簡単には死ぬか…………? 何かありそうだ。


「残念ですね。Aランクの人がいれば、もっとたくさんの人が助かったかもしれないのに」


 気になったので情報を聞き出すために俺がさっき一緒に少女を助けたギルド職員と話していると、意外な情報が入ってきた。


「いや、どうだろうなぁ」


「なんでですか?」


 苦い顔で職員は話す。


「あいつ、こう言っちゃなんだが、Aランクにしちゃかなり弱い部類だった。落ちこぼれさ。なんせユニークスキルもなかったみたいだしな」


「おい、あいつそれで悩んでたんだ。あんまり言うなよそんなこと」


 情に厚そうな冒険者の男が注意してきた。


「あ、ああ。すまねぇ」


 確かにレベル2になれば全員がユニークスキルを得られるわけではない。それにAランクになれば、町のシンボル的な扱いにもなる。プレッシャーも相当あったのだろうか。


「それよりも見たか? 爆発の直後、あの現場から走り去る影をよ?」


「影? あの爆発の中にいて五体満足なわけねぇだろう。お前疲れてんじゃねぇのか?」


 走り去る影ねぇ…………。


 そして救助が一段落し、皆が泥だらけの疲労困憊顔で腰を落ち着けた。そして、朝日が町に差し込み始めた頃、


「フリー、ちょっといいか?」


 フリーを路地裏へと連れていき、マードックがここに来ていたことを伝えた。


「それはもうどうしようもなく黒だよねぇ」


「だよな。何かに絡んでいるのは間違いない」


「許せないねぇ」


 フリーは瓦礫だらけの町の惨状を見回して見て言った。


「何か証拠を探すぞ」


「うん」



◆◆



「なぜだ!? なんで、重傷者が全員もう退院できるんだ?」


 重傷者が全員完治していることに不思議そうにギルド職員は首をかしげていた。


 それを尻目に現場跡へとこっそりと2人で向かう。俺とフリーはその冒険者が泊まっていたとされる宿屋跡に来ていた。この辺りは更地だ。建物は跡形もなく粉々になってしまい、地面が抉れている。


 ここが一番ひどい。おそらくは爆発の中心で間違いない。


「凄い威力だねぇ。原因はなんだろう?」


「わからんな」


 瓦礫を避けながら練り歩いて何かないか探す。


 ここまで粉々なら何も残っていないだろうな…………。


【賢者】ユウ様、何か微小な気配があります。


 まじか。どれだ?


【賢者】ちょうどその足元の辺りです。


「これは…………?」


 粉々に砕けてわからないが、恐らくはガラスの破片、それも窓に使用されていたものではない。ガラスがかなり薄く、微かに魔力の残滓が感じられる。


【賢者】散らばった同様の破片から推察するに、おそらくはベニスにあった注射器に類似するものかと思われます。


 てことは…………ベニスに注射器を持ち込んだ偽コリンズとマードックは繋がっているてことだな。

 ただ、今回はベニスのように人々のローグ化は起きていないようだから、また別の種類の魔力も考えられるか。


【賢者】魔力はベニスのローグのものよりも、コルトのバケモノに類似しているように感じます。


 こんな破片からそこまでわかるのか。すごいな賢者さんの解析。だとしたら伯爵のローグ化する魔力は別にあるのかもしれない。 


 とにかく、伯爵が関わっているなら事故じゃない。おそらくこれは、




 意図的に引き起こされた、人災だ…………。




読んでいただき有難うございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 久々に出たアラオザルとエルの名に、涙が浮かんでしまいました。 序盤で悲惨な目に遭う作品はたくさんありますが、こんなに鮮烈に心に残っているのはこの作品が群を抜いています。 いつも犠牲になるの…
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