表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第4章 王都
91/161

第91話 つわものども

こんにちは。ほんと更新が不定期ですみません。

ブックマークや評価いただいた方、有難うございます。とても励みになります。

第91話です。何卒宜しくお願いします。


 およそ3週間が過ぎた。


 生徒同士による犯人の探り合いは、結局ランク上位者で炎魔法が使えるオズかマリジアということに落ち着いた。だが2人ともアリバイは完璧で、1人は王子で、かつマリジアはチャドグループと敵対する俺らが完全に囲っている。そのため学園長の思惑は外れ、犯人を探そうとする者もいなくなったかのように見えた。


 まぁ、現状で2人を糾弾できるとすれば、


「なんと! まだ人殺しと一緒に学ばなければならないとは…………!!」


 ガストンとサイファー、こいつらとチャドたちくらいだ。今も授業中、迫真の演技でマリジアとオズを苦々しく睨み付けている。

 

 よくもまぁそんな顔ができるもんだ。そこは素直に感心する。さすがに腹が立って来たのでチャドグループを対象にイタズラを再開しようと思う。

 でもその前に…………。


 放課後、俺達は再び例の第6闘技場へと集まっていた。魔法オタクのオズはキラッキラした期待に満ちた目をし、他の皆も次に学べることに意欲満々だ。


「スキルの方はどうだ?」


 これが3週間特訓した4人の魔力操作のスキルレベルだ。


オズ  :Lv.3

ブラウン:Lv.2

マリジア:Lv.2

シャロン:Lv.2


 俺の目の前に並ぶオズたち4人は、どうだとも言いたげな顔で自信たっぷりだ。相当練習したんだろうな。普通の人間がこの短期間でレベル2に上げるだけでもすごいことだ。だが、身体強化や魔力の纏いはまだ先になりそうだな。


「うん。十分だな」


「おいユウ。こっからどうしたらいいんだ!?」


 オズが食い気味で詰め寄る。


「ああ次の段階だ。次は魔力を体で動かして…………」


 そう言いつつ俺は、オズたちの目の前でゆっくりと人差し指を立てた。


「なんなの?」


 わかっていないマリジアが首をかしげる。


「魔力感知で指先を見ろ」


 皆がハッとして魔力感知を使う。俺は魔力を人差し指に集め、ポコンッと指先から出した。


「出た!?」


「そんなことできるの?」


「そ、それより、あんたの魔力ヤバくない!? それ余裕で1000超えてるでしょ!!」


 マリジアがうろたえ焦っている。これくらいはわかるようになってきたようだ。


「はい、人の魔力は詮索なしな。ちなみにお前らくらいの魔力感知相手ならいくらでも捏造できるから見たまんま信じない方がいいぞ?」


「つまり、もっとあるってこと? まったく本当に何者なのよ…………」


 ぶつぶつ言っているマリジアをスルーして続ける。 


「体から切り離さなければ魔力は消費しないから、しばらくは今のを真似して自由に練習しててくれ。全てはここからだ」


 魔力操作があれば、これはそこまで難しいことじゃない。1時間後、ブラウンが四苦八苦していたが全員問題なくできた。


「はい、お疲れさん。それじゃ次に進みたいと思う。次のステップは、無詠唱だ」


「来た…………!」


 オズが拳をグッと握って声を出した。


「今のは無詠唱のための準備運動ってところだな。ただ無詠唱は詠唱魔法とはまったく勝手が違うから注意してくれ。そしたら、例えば…………」


 俺はさっきと同じように指先からポコンと魔力を出す。言わずもがな皆魔力感知を使ったようだ。分かりやすいように少し大きめに魔力を集める。


「まずこの身体から出した魔力。これに属性魔法をイメージする。例えば火属性なら炎だ。ここで、ロウソクの火をイメージすると…………」


 ボゥッ…………!


 魔力が火へと変換され、指先に火が灯った。



「「「「おおーーーー!!」」」」



 拍手と歓声が上がった。


 いちいち大げさにリアクションしてくれるこいつら可愛いな。


「とまぁこんな感じだな。大事なのはイメージだ。じゃ、各自で自分の属性と、変換後のイメージを大事にやってみてくれ」


「あの、わたしは…………」


 おずおずと手を上げたのはシャロンだ。


「あぁ、シャロンの回復魔法は特殊だからな。こっちだ」


 ちょいちょいとシャロンを皆から離れたところへ呼び寄せる。


「フリーちょっとみんなを見といてやってくれ」


「りょーかい」


 シャロンがこっちへ来た。ちょこんと座って話をする。


「シャロンは人の身体の構造はある程度理解しているか?」


「身体の、構造…………??」


 コテンと首をかしげた。


「内臓とか、血管、神経とかなんだが…………」


 そりゃ知らないか。この世界じゃ医学は回復魔法があるからそれほど認知されていないのだろうか。

 

 そこから1時間くらいかけて、土魔法で人体模型を作りつつ、細胞や血液、脳や内臓について簡単に説明した。シャロンは真剣にメモを取りながら聞いてくれた。

 俺くらいの知識でも治せたんだ。シャロンでも大丈夫だろ。


「ということで、ほいっ!」


 風魔法で自分の手首に傷をつける。


 ブシュウッ…………!


 血が腕を伝い、肘からポタポタと流れ落ちる。


「え? えーー!?」


 急に大声を上げるシャロン。


「おっ、どした?」


「だ、だってそんなためらいなく…………」


 若干シャロンが引いている。


「これくらい別に問題ないから大丈夫。さ、早く早く」


【ベル】ユウ、そりゃいきなり腕を切ったら驚くわよ。


 うそ? 腕が繋がってるからまだ大丈夫だろ?


【ベル】ちょっと…………まじで自重しなさい。


「ちょ、ちょっと待ってね!」


 あわあわと慌てるシャロン。


「シャロン、落ち着いてさっき教えたことを思い出せ。まずは魔力で怪我を覆って太い血管を繋ぐイメージを…………」


「う、うん」


 シャロンの魔力が俺の腕を覆い、そして淡く光った。まず血管が修復され血が止まると、裂けた傷口が互いにひかれ合い、ゆっくりと塞がっていく。シャロンは四苦八苦するも、腕の傷は治療された。


「ふぅ…………」


 シャロンが息を吐きながら可愛らしいパステルピンクのハンカチで額の汗を拭った。


 ほっといたら俺はすぐに自然治癒してしまうから、シャロンの回復魔法が間に合って良かった。


「感覚は掴めただろ? なかなか回復魔法は練習する機会が少ないからな。やりたくなったら俺がまた実験台になろう」


「う、うん。その…………また気が向いたらね?」


 シャロンは苦笑いで答えた。


 さて、これでシャロンは大丈夫だな。あいつらは…………。


 後ろを振り返ると、オズは指先から高出力の細い雷をジジジと放ち続け、地面を赤熱させ溝を掘っていた。ブラウンは魔力から1メートル四方くらいの立方体の岩を生み出し、それを3個積み上げている。マリジアは小さな炎の球体を5個浮かべていた。


 皆少年のようにはしゃいでいる。さすがは天才たち。筋が良い。


「はいストップ」


 パンパンと手を叩くと、すぐに皆は手を止めて集まった。初めは疑心暗鬼だったものの、できるとわかってからは素直に話を聞いてくれる。


「とまぁ、無詠唱ができることはわかったと思う。後はちょっとした小技だが…………ブラウン、そこの岩借りてもいいか?」


「え? うん、いいよ」


 俺は魔力を伸ばし、ブラウンが作った立方体の岩を掴み持ち上げた。何もなしに見ると、勝手に岩が空中に浮かんだように見える。


「何それ…………どういう原理? 何魔法?」


「マリジア、魔力感知だよ」


「あそっか!」


 シャロンに小声で教えられ、マリジアも魔力感知を使う。


「へぇ…………そんなこともできるのか」


 オズが感心したように言う。


「すごい! ユウの授業ってクロム先生の100倍楽しいよ!」


「そりゃどうも」


「私たちってもしかして、歴史上類を見ない技術を手に入れてるのかも……」


 冷静になったマリジアが考え込んで呟いた。


「こんな有用なスキルがあったなんてな…………」


「これがあれば…………!」


 各々が興奮して騒ぎ立てる。


「はいはい、話を戻すぞ。見てわかったと思うが、これは自分の魔力を操作して岩を掴んだだけだ。だがこれはかなり便利だ。魔力が強力であるほど力も強い。強くなくてもうまく使えば多彩な攻撃ができる」


 皆、集中して聞いてくれている。


「魔力操作は練習すれば、同時に魔力も増える。あと、これより上の技術はまだスキルレベルが足りないからどんどんスキルを鍛えてくれ」


 皆が頷いた。基本となることは皆に教えられたのでしばらくは自主練となるだろう。

 これでようやく俺にも時間ができた。



◆◆



 週末の早朝、俺とフリーはダンジョン『迷いの森』に来ていた。学園の制服を脱いで冒険者の服装に着替えている。以前、学園の演習で馬車で来た時は時間がかかったが、ここまでは俺の重力魔法でひとっ飛びだった。


 なぜまたここに来たかというと、学園にいるとレベルを上げる時間がないからだ。もしも反乱が起きた時、今の実力じゃ生き残れないかもしれない。そこでレベル上げにちょうど良い相手、タラテクト種を狩りに来たというわけだ。

 

 このダンジョンは以前にタラテクト種が確認されてからまだ調査中のようで、入り口前は3人のギルド職員が立ち封鎖されている。森の前の受付では、ダンジョンに入れないことに苛立った冒険者とギルド職員が口論になっているようだった。

 だがまぁここは洞窟等とは違って広大な森型ダンジョン。どこからでも侵入は容易だ。

 というわけで、気配を殺してささっとダンジョンに入ると、こないだタラテクト種に襲われたあたりまで進んできた。


「さてさて、久々に本気で身体動かせるねぇ」


 森の中で、フリーが上半身をねじるようにぐいっぐいっとストレッチをする。そして刀を楽しそうに抜いては肩にポンポンとのせながら歩く。


「まぁ学園じゃ、なまって仕方ないよな」


 ダンジョンに入って数分。ここまではまだトレントの気配しかない。薄い霧が立ち込める視界はまだそれほど悪くなく、それらしい影はなく探知にも反応はない。


「いないねぇ」


「反応もねぇな」


 トレントを狩ってもそれほど存在値は得られない。手っ取り早くタラテクト種を狩りたい。


「あれだけの数のクモでしょ? 隠れる場所って限られると思うんだよねぇ。これだけ探していないってことは、例えば…………地下とか?」


 フリーが刀で地面を差す。


「ま、残るはそこしかないよな。やってみる」


 地表ではなく、地下に探知を広げると…………50メートルほど地下にうぞうぞとうごめく、おびただしい数の反応があった。


 おげっ。


「いた! …………て、これ小さいのを含めたら数万匹どころじゃないかも」


 ヤバくないか? なんで地下にこれほどまでにタラテクト種がいるんだ…? こいつらはどこから現れた?


「それは狩りがいがあるねぇ」


 嬉しそうにフリーが言う。


「いや、それどころじゃねぇ。これはなんとかした方がいい。こいつらが溢れだしたらとてつもない氾濫になる! 巣の入り口は…………こっちだな」


 空間把握で見つけた木の根の隙間、そこに地下へと伸びる直径5メートルほどの下穴があった。覗き込んでみるが、下は真っ暗でどこまでも続いていそうだ。穴には声もよく響く。


 この大きさならタラテクト種も出入り出来そうだな。間違いない。


「どうする? 飛び込むかい?」


「いや、さすがにタラテクト種の巣に飛び込むのは不味いだろ」


 クモの巣に飛び込むことがいかに危険かはコルトで体験済みだ。


「だからこうしよう」


 というわけで、その穴へぶち込むべく魔力を込める。俺自身の魔力プラス、魔力支配を使用して周囲の魔力をかき集めていく。ここはダンジョン、魔力はふんだんにある。そして集めた魔力に火炎魔法の属性を込め、できた火炎を球体にして押し固めていく。前に作ったことがあるが太陽のような高密度エネルギーの集合体だ。


「ちょ…………その魔力大丈夫かい?」


 フリーがメラメラと燃える俺の魔力を見て汗を流す。


「大丈夫。ある程度数を減らすのも兼ねてるからな。俺たちはこれで死ななかった奴を狩るだけだ。ほらよっ……!」


 眩しすぎて目が開けてられないほど、カァーーッッと白く輝く太陽のようになった3メートルほどの火炎魔法の球体を慎重に穴に落とし込む。


「は、入ったねぇ」


 心配そうに穴の方を見つめるフリー。


「よし、隠れろ」


 俺達は穴から離れた岩の木陰に隠れた。そして魔法を穴の中である程度進ませた後、解放する。




 ズンッ……………………………………………………!!!!!!!!




 直下型地震のような真下からの揺れと共に、穴からわき上がる炎の赤い光と、その後に続く黒い煙。そして連続して鳴り止まないレベルアップの音。


「あれ?」


「…………はぁ、やっぱり。これ、生き残りいるのかい?」


 ため息をつくフリー。


「や、やり過ぎたか?」


「あ…………いや、出てきたみたいだねぇ」


 わさわさと複数の脚が見えたかと思うと、穴から怒り狂った1匹のクモが現れた。身体からはブスブスと煙が上がっている。



「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」



=========================

タラテクト(成体)

Lv.598

HP :5620

MP :3405

力 :7200

防御:8980

敏捷:7805

魔力:2980

運 :1000


【スキル】

・縮地Lv.9

・斬硬糸Lv.8

・強粘糸Lv.7

・硬化Lv.9

・怪力Lv.9

・爪撃Lv.8

・硬糸弾Lv.4

・糸操作Lv.7


【耐性】

・苦痛耐性Lv.8

・火属性耐性Lv.5

・毒耐性Lv.8

・打撃耐性Lv.7

=========================


 体高はおよそ5メートルほど、脚幅は10メートルを超えている。その身体は強固な黒い外骨格で覆われ、背には鋭く尖ったトゲが連なって生えている。その丸太のような脚にもまるでカブトムシの足のトゲのようなものがあり、足の先端は黒光りするよく研がれた鎌のようだ。あれで刺されれば、一瞬で身体を裂かれて即死だろう。頭部には大きさの違う8つの赤い目玉がついていた。


 ランク的には間違いなくSランク以上。これが本当のタラテクト種か…。


「フリーさん。これやばい奴呼び出したんじゃね?」


「あは。ま、とりあえずやってみようねぇ」


 久々の死地にフリーは楽しそうに笑った。


 俺もタラテクトを見上げ、その圧力にビリビリと感じながらも臨戦態勢に入る。

 まずは突進対策として結界魔法30枚を前方に張る。そして、あの敏捷値に対抗するために、空間把握、予知眼、思考加速、身体強化を発動。そして黒刀に重力魔法を纏わせ、黒龍重骨を右肩甲骨からバキバキッと取り出して俺とフリーを守れるように取り囲む。


 これで万が一があろうと即死は免れる…………と思う。フリーも初めから立ち上るような魔力全開で身体強化している。タラテクトはどうやら俺の火炎魔法が効いていたのか、装甲の弱い関節部分のやけどが酷いようで、かなり動きが阻害されているようだ。


 久しぶりのこの緊迫感。和やかな学園生活では得られなかった命のやり取りの楽しさがよみがえってくる。と、思えば早速来た。



 ズンッ……!!!! バキバキバキ…………バキッッッッ!!!!



「キシャアアアアア!!!!」


 突進とともに結界魔法に衝突したタラテクトが30枚すべての結界を貫いて最後の1枚で止まった。頭は貫通したが身体が結界に阻まれ停止したようだ。


「あぶねぇ!」


 目の前まで来たので一瞬突破されるかと焦った。


「まずは脚から」


 身体が結界にはまり、頭を振り乱して唾液を撒き散らすタラテクトにフリーがスッと接近し、研ぎ澄まされた水平斬りを放つ。



 キンッ…………!!



「硬っ…………!」


 フリーの刀はタラテクトの前足の関節部分に弾かれた。


「硬化のスキルだ! 抜刀術じゃないと斬れないかもしれん!」


 と話していると、俺目掛けて白いバレーボール大の塊が飛んできた。


「いっ!?」


 上半身を、空が見えるほど反らして避ける。



 ボゴッ…………ガガガガガガ!



「糸の弾か」


 後ろを振り返れば、白い糸の塊が地面にめり込み、20メートルは地面を掘り進んで止まっていた。


 どんな貫通力!? 当たれば上半身に穴が空いていた。


「て、またか!!」


 今度は2個同時に飛んできた。だが、直線的なコースなら賢者さんの補助もあって俺には当たらない。2個の糸弾の間をすりぬけるようにコースを読んでかわそうとする。


【賢者】糸です! 避けてください!


「え?」


 2つの糸弾の間を繋ぐように糸が張られてあった。避けるのは間に合わない。


 げっ、胴体が切断される!


【賢者】対処します。


 賢者さんが黒龍重骨を動かし、その先端の刃で糸を斬った。


 斬れるのかよ!


【賢者】このユニークスキルは最高クラスのユニークスキルといって良いほどです。この程度問題ありません。


 まじか。


 その勢いでタラテクトに向かって突進し、直前で前宙をする。20メートルほどに伸ばした黒龍重骨をブンブンと縦回転に振り回し、タラテクトの頭上から遠心力を利用して思い切り振り下ろした…………!


 

 バキィッ…………ズンッ!



 黒龍重骨は、交差するように防御したタラテクトの2本の前足を半ばから切断。そして頭部の目玉の左半分を潰す。勢いでタラテクトは地面に頭から叩き付けられた。


 このユニークスキル、強すぎるだろう……。


 また、俺が狙われている間、フリーは集中力を高めて抜刀術の準備をしていたようだ。俺の攻撃に合わせてさらに左側の脚を1本切断していた。


 これで残る脚は5本。



「キシャアアアアアアアアアアアア…………!!!!」



 ここで怒り狂ったタラテクトが頭から紫の血を撒き散らしながら暴れまわり、俺の結界をバキバキと破壊。脚を3本失ってるとはいえ、完全に自由の身となってしまった。


「フリー今のうちだ」


「だねぇ」


 俺たちは全力で錯乱するタラテクトの足元に潜り込んだ。突っ込んだ瞬間、タラテクトが前足を振るも、もはや半分の長さしかない。


 ブシュッ…………!


 かすった右の肩が抉られた。


「いっつ…………!」


 痛みを無視して走る。そして、すかさず腹に黒刀を突き刺し後ろまで走り抜ける……!


「ああああああああああああああああああああ!!」



 ズブズブズブズブズブズブズブズブ…………ッッッッ!!!!



「キシャアアアアア!!!!」


 タラテクトが悲鳴を上げ、ヨタヨタとよろめきながら紫色の血が何リットルも裂けた腹からドバドバ大量に溢れ出る。そして


 ヒュンッ…………。


 フリーは柔らかい身体部分を脚の付け根から3本さらに脚を斬り落とす。これでタラテクトは自立できずにその重い腹を地面につけた。続けて、俺が残る2本の脚でズルズルと這って逃げようとするタラテクトの胸と頭の境目に向け刀を振り下ろす。頭部はゴロリと地面に転がった。


「ふぅ…………なんとかなったねぇ」


「だな」


 ホッとして汗を拭ったその時、




 ゾクッ………………………………………………………………! 




 フリーと俺は同じタイミングでバッと後ろを振り向いた。

 

「感じたかい?」


「ああ。なんだ…………この気配。ざわざわする」


 気配はタラテクトが出てきた穴からだった。見ればそこから赤い8つの光がこちらを覗いていた。出ようとして穴から太い脚を2本もぞもぞと出しているが、身体がつっかえているようだ。


「あ、あれはヤバい…………」


「うん、だねぇ」


 フリーも1歩後ずさった。


 俺はとんでもない奴を呼び起こしたのかもしれない。


【賢者】ゲイルスパイダーの上位種、ゲイルタラテクトです。太古の昔から地下深くに生息するため、生きた姿を確認すること自体、非常に珍しい個体です。


 そんなレア個体なのか。


 …………ん? ゲイルスパイダーの上位種…………つまり、こいつがタラテクト種を生んだってことか?


【賢者】状況的にそう考えられます。


 俺に勝てると思うか?


【賢者】無理です。以前のユウ様ですら勝てるかどうか…………。


 そんなレベル!? ただのタラテクト種とは格が違うってことか。そうだな…………。


【賢者】今すぐに逃げるべきです。


【ベル】ねぇ、力の差くらいわかるでしょ! あいつはでかすぎてあそこから出られないわ。早く逃げなさいよ!


 待て待て。こいつ捕獲して、タラテクト種産ませれば学園でもレベル上げできんじゃね?


【ベル】ばっ、馬鹿じゃないの!?


 馬鹿じゃねえよベル。大まじめだ。


【ベル】無茶に決まってるわ!


【賢者】確かにやる価値はありますが、危険度は高いです。


 俺に良い作戦がある。


「ユウ、今良からぬこと考えてないかい?」


 俺が考えながら黙ってゲイルタラテクトを眺めていると、ニコニコと器用に顔をひきつらせたフリーが言った。


「あ? なんでわかった?」


「だって、学園で悪巧みしてる時と同じ顔してるもんねぇ」


 というわけでフリーに作戦を伝える。


「…………正気かい!?」


「ああ。なんとかなる。この方が倒すよりも簡単だ」


 と、話をしていると、




 ボゴォオオオオオン…………!!




 通れる入り口の穴の大きさでなかったはずが、地面とその上に生えていた木々を吹き飛ばして身体を現した。吹き飛ばされた木や岩が音を立てて周囲に降り注ぐ。


「でけぇ…………」


 見上げるほどの大きさ。体高は20メートルはある。ビルみたい……いや、ドームのようだ。乗っかった土や石くれをブルブルと身体を震わせて落としている。1本、その脚を動かすだけで地面が陥没し、揺れた。


「やるしかないようだねぇ……」


 俺が構えるまでもなく、近くにいたフリーに突撃してきた。思わずフリーに叫ぶ。


「そっち行ったぞ!」


「わかってるねぇ!」


 凄まじい速度だが、でかすぎるからか攻撃が大雑把だ。ゲイルタラテクトの突進をフリーがスライディングで回避する。


「こっちだ!」


 火炎魔法のファイルバレットで挑発する。背中に衝突し、爆発するも体毛すら焦げていない。


 これ、こないだスモールタラテクトには相当効いたんだけどな…………。


 突進を停止し、カチカチと人間ほどの大きさの牙を鳴らしながらゲイルタラテクトは8本の脚を順番に動かして俺を振り返った。


「キシャアアアアア!!!!」


 狙いどおり俺に向かって地面を揺らしながら突撃してきた。


 ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!


 なぎ倒された巨木や巻き込まれたトレントがゲイルタラテクトの脚に蹴り飛ばされ、高く空に舞い上がる。


 なんつー迫力…………頼むぞ賢者さん!


【賢者】はい。お任せを。



 バキンッ! バギバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキ…………ッッ!



 俺の目の前に空へと昇る特大の空間魔法の亀裂が現れた。


「キシャアアアア…………ァァァァァァ………………ァ」


 ゲイルタラテクトはブレーキが間に合わず、その中に飛び込んでいく。


【賢者】閉じます。


 よろしく。


 賢者さんが空間の割れ目をすうっと閉じる。


「捕まえた!」


「あ、ははははは……………………上手く行ったねぇ」


 俺とフリーがその場にパタンと尻餅をついた。そのまま上を見上げれば霧もなく、よく晴れた空だ。


「死ぬかと思った」


「ほんと、無茶するよ」


 今の大怪獣との相対に速く打つ鼓動を落ち着かせるため、木々が吹き飛び開けたその場所でそのまま休憩していると、


「…………ん?」


 パタパタとこちらに白い鳥が飛んできたのが見えた。


 野鳥、じゃないな。あれはギルドの連絡用のペットだったか。


 肩に止まらせ、脚にくくりつけられている手紙を受け取った。


「なんだって?」


 がさがさと手紙を広げ、フリーが読もうと近付いてくる。


「また定期連絡だな。特に大事そうなのは…………っと、明日マードック伯爵が王都を出るらしい」


「へぇどこへ行くんだろう。気になるねぇ」


 確かに、外へ出る用事か。気になるな。


「…………なぁ、ちょっと早く戻ろう。やりたいことができた」


 それから、周囲のタラテクト種の反応がなくなるまで狩りを続け学園へと戻った。



============================

名前ユウ16歳

種族:人間Lv.3

Lv :1→42

HP :1350→1850

MP :3690→5050

力 :890→1260

防御:940→1340

敏捷:1150→1520

魔力:4070→5630

運 :29→33


【スキル】

・魔剣術Lv.1

・体術Lv.8

・高位探知Lv.5→6

・高位魔力感知Lv.6

・魔力支配Lv.7

・隠密Lv.9

・解体Lv.4

・縮地Lv.6

・立体機動Lv.6

・千里眼Lv.8

・思考加速Lv.6→7

・予知眼Lv.8→9


【魔法】

・炎熱魔法Lv.1→2

・水魔法Lv.7

・風魔法Lv.9

・硬晶魔法Lv.1

・破雷魔法Lv.1

・氷魔法Lv.9

・超重斥魔法Lv.4

・光魔法Lv.5

・神聖魔法Lv.4


【耐性】

・混乱耐性Lv.7

・斬撃耐性Lv.8

・打撃耐性Lv.8

・苦痛耐性Lv.10

・恐怖耐性Lv.9

・死毒耐性Lv.9

・火属性耐性Lv.4

・氷属性耐性Lv.2

・雷属性耐性Lv.2

・重力属性耐性Lv.9

・精神魔法耐性Lv.10


【補助スキル】

・再生Lv.6→7

・魔力吸収Lv.1


【ユニークスキル】

・結界魔法Lv.6

・賢者Lv.4

・空間把握Lv.5→6

・空間魔法Lv.3

・悪魔生成Lv.2→3

・黒龍重骨Lv.1→2

・⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛


【加護】

・お詫びの品

・ジズの加護


【称号】

・竜殺し

・悪魔侯爵の主

・SS級ダンジョン踏破者

============================


 どうやら穴にぶち込んだ炎熱魔法はかなりの数のタラテクト種を焼いたようだ。おかげか黒龍重骨はレベル2になり、右肩甲骨から2本同時に生やすことが出来るようになった。

 また、気付けば悪魔生成のレベルが3になっていた。これで1日に4柱の悪魔を生み出すことが出来るようになった。



◆◆



「さてと。…………よう」


 俺はゲイルタラテクトを捕らえている空間魔法の部屋へと来ていた。200メートル四方の部屋はすでに糸だらけのクモの巣へと作り替えられていた。見上げれば、天井の隅に張り付いて呼吸で腹を上下させながら静かに俺を威嚇しているゲイルタラテクトがいた。


 基本的に見た目はタラテクトに近いが青みがかった色をしており、前足の2本には長い鎌がついているようだ。すると、いきなり飛び降りて近付いてきた。


「やっぱり襲ってくるよな…………」


 だがここは俺の空間魔法の中だ。俺とゲイルタラテクトとの間に空間を仕切る透明な壁を作る。物理的には破壊不可能な壁だ。ただし声は聞こえるようにする。


「キシャアアアアア…………」


 顔を近付けると、静かに鳴いた。


 敵意むき出しだな。


【ベル】いえ、あれは警戒しているのよ。


 そうなのか?


【ベル】この場所じゃ、自分の敵う相手ではないと本能的に理解したようね。


 へえ。頭良いな。こいつ、何食うんだ?


【賢者】基本的に魔物は、他の魔物の肉を食べることによって魔力を吸収します。つまり、肉がなくともユウ様の魔力があれば問題ないかと。


 なるほど。


「じゃお前、俺の魔力やるから俺の仲間だ。これから仲間を増やしてくれ」


「キシッ」


 理解できたのかわからないが、反応はあった。


【ベル】『仲間』なのね。存在値稼ぎするんじゃなかったの?


 いや、そう思ったけど、さすがに子供を産まして存在値のために殺すのってあんまりじゃないか?


【ベル】当たり前じゃない。


 ですよねー。


 産ませては殺し、産ませては殺し。それじゃまるで賽の河原、地獄だ。そこまで俺は鬼畜じゃない。存在値はまたダンジョンで狩ることにする。


 こうして俺は腹の中でとんだ化け物を飼うことになった。しかし竜に悪魔、そしてタラテクト種か。どんどん増えてくな。



◆◆



 俺の空間魔法から帰って来た先は、王都の西門の近くの宿屋の一室。フリーがベッドに腰かけて窓から外の大通りを見下ろしていた。


 この宿屋は王宮から西門へと続く大通り、ウエストストリートに面している。俺とフリーはダンジョン『迷いの森』から帰った後、この宿屋の2階でマードックを確認するために待機していた。


「様子はどうだった? よく食べられずに戻ってこれたね」


 冗談か本気かわからないことを口走るフリー。


「いや、思ったより大人しかったな」


「まったく、あんな怪物級のタラテクト種を飼うだなんてとんでもないこと考えるね」


 これは本気で呆れているようだ。


「いや、戦力はどれだけあっても足りないからな。それで、ギルマスから他の情報は?」


 ダンジョンではゆっくりと読めなかったのでフリーにギルマスからの手紙を預けていた。


「ギルマスによると、ウイリーの町でローリーと調査団が捕獲してきたローグに対して実験を行ってるみたいだねぇ」


「うーん下手すりゃ人体実験になりかねないな。いやでも、それも敵を知るためか。他は?」


「他はマードックが秘密裏に他の貴族たちを仲間に入れて勢力を増やしているようだねぇ」


「ふぅん。その辺を防ぐのは難しそうだな。なんとでも言い逃れされるだろうし」


 そう話していると夕日に照らされたロープウェイの影がゆっくりとこの部屋を通りすぎた。今のリフトにマードックが乗っているはずだ。


「そろそろかい?」


「ああ」


 今日はマードック伯爵は西門を通って王都の外へ出るらしい。だが目的は不明だ。


「普通、彼ほどの大物となれば話は流れるものなんだけどねぇ。情報が規制されているのかも」


「ああ」


 どこへ向かうのか公にされていないということは、人に言えない内容である可能性が高い。だからここで空間魔法を使っておこうと思う。というのも、空間魔法レベル3は対象の位置をマークできる。これで俺が学園にいる間も伯爵がどこへ向かったかがわかる。ここで待っているのもそれが目的だった。


「来た!」


 ほりが深く目力の強い、アゴ髭を生やした中年男性だ。護衛も連れており、鑑定で見ても間違いない。影武者である可能性もないだろう本物だ。その時、厄介な人物を見つけた。


「いっ…………!?」


「あいつ、ヤバいねぇ」


 フリーも気が付いた。

 伯爵に続いて後ろを歩くのは、伯爵の抱える食客であるSSSランク冒険者バンギラス・ガードナー。2.5メートルはある巨体に鱗に覆われた筋肉質の身体。肉食獣を思わせる鋭く尖った牙がびっしりと生えた口元。ワニのような太い尾を振り回すリザードマンの冒険者だ。

 ありゃ、影武者も必要ないわけだ。自身満々堂々と歩くその姿はスキだらけだが、まったく傷を負わせられる気がしない。


 あれは要注意人物だ。


「あいつは…………今の俺じゃ無理だ。とにかくあいつをなんとかすることが課題だな」


 俺は、1年は弱体化されているため、クーデター阻止の時は今の状態であいつと戦わなければならないかもしれない。できれば直接対決は避けたい。


 賢者さん。


【賢者】はい、マークしました。


 空間魔法を使用すれば、奴がどこにいるのか感じとることができる。


「これでよし!」


 そしてすぐさま伯爵とSSSランク冒険者は用意されていた馬車へと乗り込んだ。


「姿を見せるのはほんと一瞬だったねぇ」


「とにかく、伯爵と護衛の冒険者も確認できたのはでかい。出来れば冒険者の方もマークしたかったがな」


 SSSランク冒険者を連れてどこへ向かうつもりだ?


「だねぇ。今日は出来るのはこれくらいじゃない? そろそろ学園へ戻ろう」


「ああ」



◆◆



 学生服に着替え、学園に戻るために張り込みしていた宿屋を出た時だった。



「だっ、誰かあああ! 馬車を止めてくれえええええ!!!!」



 はっと声のする方を見れば西門の方から、2頭の馬が引く馬車が暴走し御者がパニックになっているのが見えた。このウエストストリートを猛スピードで走って来ている。


 この人通りの多いメイン道路だ。


「あっ! まずい!」


 馬の前方に先程のロープウェイを追いかけて道路に出ていた5~6人の小さな子供たちが見えた。


「きゃああ!!」


 都民たちは子供たちが馬車に轢かれると思い、目を手で覆う。

 フリーと俺はとっさに馬車の方へと走り出すが、子供たちまでここからはまだ50メートル以上ある。


 どうする!? 走っても追い付かない。魔法で壁を作ればぶつかった時に御者が大怪我をする。バレットを撃って馬を仕留めるか? いや、もし御者に当たったら大変だ。でも賢者さんなら…………?


 走りながら思考をギュルルと加速して最善を探す。


 その時、真横を一陣の風が通り過ぎた。


「ん?」


 次の瞬間、子供たち全員を肩に担ぎ上げ、2頭の馬の手綱を掴んで馬車を止めている男がいた。

 

「ジャベールだ!」


「ジャベールさん!」


 町の人たちが歓声を上げた。


 ジャベール? あの憲兵か!


 ジャベールはゆっくりと子どもたちを下ろす。御者が帽子をとってジャベールにペコペコと頭を下げている。危なかったことにすら気付いていない子供たちがきゃっきゃと嬉しそうにジャベールに群がっていた。

 

「無事で良かった」


 ジャベールはぶっきらぼうにそれだけ言うと、への字口で悠然と去っていった。


 悪い奴ではない。無愛想なだけで、むしろ治安を守る素晴らしい人物だ。だが、それ以上にその強さに興味を覚えた。というのも、


 あれだけの動きをしたにも関わらず、彼からは魔力をまったく感じなかった…………。しかも


「あいつ…………後ろから俺らを追い抜いたのか? なぁ、ジャベールの動きが見えたか?」


「いんや、まったく」


 フリーはやれやれと肩をすくめて言った。


「くそっ、ほんと王都は化け物だらけだな」




読んでいただき、有難うございました。

良ければブックマークや評価、感想等宜しくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ???「凝!」 例のシーンを彷彿させる修行シーンですね(笑) この子たちが新たな戦力となっても、反乱では苦戦するのでしょうね…今回は誰も死にませんように。 しかしゲイルタラテクト、魔力…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ