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【100万PV突破!!】重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第2章 町へ
9/159

第9話 毒魚

こんにちは。感想と評価、お願いします。

 

「うん、これは希望が見えてきたな」


 大木の頂上で腕を組み仁王立ちしながらつぶやいた。向こうにはまだまだ先の見えない鬱蒼とした森林が続いている。


 自信の根拠は身体強化だ。これをいかに使いこなすかがこの森を抜ける上で重要になりそうだ。森にいる間は常に身体強化して慣れるようにしよう。人間の国に着くまでに完璧に使いこなすことが今後の目標だ。


 大樹の幹を蹴りながら、地上へ下りた。


「しかし、幻想的な森だ」


 身体強化で心に余裕が生まれたのか、じっくりと森を見る余裕ができた。

 

 巨大樹の樹皮には苔が繁茂し森の中は緑で染められている。張り出した枝葉によって陽光が遮られ薄暗い中、遥か上にある枝葉の隙間から極細い木漏れ日が降り注ぎ、おとぎ話に出てきそうな景色だ。


 そんな森には色んな魔物がいた。


 例えば、フォレストウルフに、コルラビット、コロニースライム、フォレストゴブリン、フォグベアなどだ。全てがレッドボア以上の強さを持っていた。


【フォレストウルフ】苔色の体毛を持つ狼で、7匹の群れだった。体毛の濃淡で森に擬態しながら近づいてきたが、探知で気付いていたのでなんなく撃退。一対多の戦闘訓練になった。


【コルラビット】蹴り技に特化したウサギ型の魔物。感知能力が高く、ハイドしながら奇襲をしかけるも、2本足ですっくと立ちあがり、後ろ回し蹴りを放ってきた。初撃はギリギリかわしたものの俺の後ろにあった低木は簡単にへし折れていた。

 実はこいつが一番手強く、こちらの剣撃をことごとく避けては、バレットの連射すらかわしてみせた。最後は凍らせた地面で足を滑らせて上から重力魔法で押し潰した。


【コロニースライム】群体のスライム。初めは体高2メートルほどの大きなスライムかと思ったが、中にある大量のタピオカのような黒い粒々が全て核のようだった。厄介なことに1つの核を剣で斬り裂いても、元の1匹のスライムが死ぬだけでコロニースライム自体は死ななかった。結局最後は火魔法で丸ごと蒸発させた。この森ではスライムは生き残るためにこういう進化を遂げたのだろう。


【フォレストゴブリン】ただのゴブリンと違い、体に草葉を直接生やし完全に森に溶け込んでいた。かといって探知にはかかるので、見つけることは容易だった。だが森のツルを使って立体的に飛び回る機動力は厄介で、武器のナイフには強力な毒が塗り込まれていた。


【フォグベア】体毛から霧を発生させる熊。パワー、スピード共に優れていたが、それを発揮させる前に探知で見つけ出し、背後から首を斬り落とした。


 ここには暗殺に長けた魔物が多い。俺には探知や魔力感知があるから平気だが、普通の冒険者にはキツい環境かもしれない。全ての魔物は俺のレベルを上げるための糧となってもらった。



◆◆



 魔物を倒しながら進み、5時間ほど経過した頃、樹木の隙間から微かに水が流れる音が聞こえてきた。


「っし! 川か!」


 思わず拳を握った。


「はぁっはぁっはぁっ……」


 息を切らしながら音のする方へ急ぎ足で向かうと、木々を抜けると突然陽光を遮るものがなくなり、パァッと白い明るさが目に入った。

 目が慣れてくると川幅100メートルくらいの大河が現れた。


「おお…………」


 この川は森の間を割くように流れており、河原近くには木が少しまばらに生い茂っていた。水面は陽が反射してギラギラとまぶしい。水深が深いのか目をこらしても暗緑色で水底が見えない。河原は丸っこい石がごろごろした場所だ。

 よく見ると魚もいるようだが、妙に大きなとげや牙が見えた。


「残念、川にも魔物はいるか」


 肉ばっかりじゃ飽きてきていたので魚を食べたいと思ったが…………。


「あ、別に魚の魔物でもいいか」


 そんなことを考えつつ、異世界の川の中はどんなになっているか気になったので、森から川原を歩き水面に近づいた。川原は開けているが魔物は見当たらず、足首あたりまで水に使ってみる。


「は~、冷たくて気持ちいい…………」


 手に水をすくってみると透き通っていてとても綺麗だ。有毒ではないだろうが、どうだろう。飲むのは我慢した方がいいだろうか…………。


 そう考えていると、1メートルほど先の水底の影が動いた。


「ん?」


 バシャッ!


 突然何かが川から何か飛び出してきた……!


「あっぶっ…………!」


 それが何かを認識する前に、身を右によじりながら上半身を後ろに反らす。飛び出してきたそいつは、俺の上を通り過ぎ、そのまま川原の石の上にガシャンとぶつかった。

 体勢を戻して振り返れば、ワニの頭を持ったウナギのような生き物がビタンビタンと跳ねている。頭は1メートル、ヌメヌメと光る胴体は2メートルはある。


「魔物でも魚だろ? さすがに陸に上がったら……」


 今はまだ激しく跳ねているが、もうすぐ呼吸ができずに力尽きるはずだ。


 そう思っていると、そのウナギの胴体をバネのようにして、まだ俺を襲おうとこちらにビヨンッと跳んできた!


「陸でも関係ないのかよ……!」


 だが先程のような速度はない。


 サッと余裕をもって右に避け、川原の石でこけそうになりながらも、すれ違いざまにバレットをぶちこむ!


 ドドドドッ!!


 頭とその付け根、胴体に2発。計4発のバレットが直撃し、バラバラの肉片となって吹き飛んだ。その肉片は川に向かって飛んでいく。


 ボチャッ、ボチャッ、ボチャチャン!


 その肉片が川に落ちた瞬間、


 バシャッ、バシャバシャ!!!!


 水しぶきが川のそこかしこで上がった。


「…………まじか」


 ここら一帯を埋め尽くすほどの、同じワニの頭にウナギの胴体を持った魔物だ。川を埋め尽くしており、獰猛さと食欲はまるでピラニアだ。


「通りでこの川に魔物がいないわけだな…………ん、んんっ?」


 ピリピリすると思えば、二の腕に3センチほどの浅い切り傷ができていた。最初の奇襲で掠めたのかもしれない。


「まぁ、これぐらいならいいか。しかしなぁ、川は諦めるしかないか。とりあえずこのまま川を下ってみよう」


 川の側には文明が発達しやすいから、運が良ければ町があるかもしれない。


 食べきれなかったレッドボアの肉はまだ俺の後ろに重力魔法で浮かせている。途中、あんまり魔物が肉につられて寄ってくるので、ちょうど生えていた人間サイズの葉っぱにくるんだ。


 いろいろ考えながら川に沿って歩いていたが、急に足に違和感を感じた。


「あ、あれ…………?」


 力を込めるも膝がガクガクと震えて力が入らない。だが、足に怪我をしたわけでもない。

 頬を汗がつたって流れてくる。反射的に手でぬぐう。


 そして気付いた。



「…………赤い?」



 手についた汗は血だった。


 次いで強烈な悪寒がきた。体がブルブルと震え出し止まらない。


「さっ、寒い…………!」


 肩を抱いて擦っても到底治まるような寒気でもなく、天気はポカポカ陽気だ。


 これは、絶対に普通じゃない。


 自分の身に起きた不調に、慌ててステータスを確認した。


============================

名前ユウ16歳

種族:人間(状態:猛毒Lv.8)

Lv :49→59

HP :601→780(132/780)

MP :1360→1785

力 :590→675

防御:533→599

敏捷:856→950

魔力:1530→1960

運 :62→68


【スキル】

・鑑定Lv.8

・剣術Lv.6

・探知Lv.8→10

・魔力感知Lv.8→9

・魔力操作Lv.8→9

・並列思考Lv.7

・隠密Lv.3→4

・解体Lv.1


【魔法】

・火魔法Lv.5→6

・水魔法Lv.4→5

・風魔法Lv.4→5

・土魔法Lv.5→6

・雷魔法Lv.5→6

・氷魔法Lv.3

・重力魔法Lv.6→7

・光魔法Lv.3

・回復魔法Lv.4→5


【耐性】

・混乱耐性Lv.4

・斬撃耐性Lv.2

・打撃耐性Lv.3

・苦痛耐性Lv.3

・恐怖耐性Lv.2

・毒耐性Lv.2 NEW!!


【ユニークスキル】

・お詫びの品

=============================


「毒!? しかも、猛毒!?」


 こころあたりはあった。先程、川の魔物から受けた擦り傷だ。


 だとしても一体どんな猛毒だ!! 怪我してから2分も経過してないぞ!


「回復魔法!!」


 全力で回復魔法を使うと、一時的に体のダルさも悪寒も治まった。おそらく毒で破壊された細胞が、修復されたのだろう。だが、毒素はまだ抜けていない。


 とりあえずは安心だが、再び目まぐるしい速度でHPが減り出した。


「くそっ!」


 幸い魔力はまだまだある。だが解毒の方法がわからない。とにかく回復魔法をかけ続けるしか…………!


 そしてまた出血してきた。フラフラと目眩をこらえて歩くも、目や鼻、汗腺からも出ているようだ。


「こ、こんな状態で魔物に襲われるわけには…………!」


 レッドボアの肉を放り投げて重力魔法を切る。そして、常時発動していた隠密スキルだったが、神経を隠密に集中し全開にした。


「回復魔法…………!」


 この毒は一体いつおさまるんだ!? 


 魔力がなくなったら、し、死ぬしか…………ない、のか!?


 恐怖による悪寒までもが身体をむしばみ始める。だが、『死』を覚悟して思い出した。


「いや、こんなことで死んだらデリックやエルに会わせる顔がない…………!!」


 顔を上げた。


 とにかく身を隠して落ち着けるところを探そう。


 魔物に注意しながら川沿いの低木を使って隠れるように進む。水辺だからかムシムシと湿度が高いにもかかわらず、悪寒が止まらない。震える身体をさすりながら歩いていく。


「はぁ、はぁはぁ……………………あれは?」


 見ると、川原から見えるそびえ立った崖の中腹に小さい穴がポカンと空いていた。探知には1つだけ生き物の反応がある。だが、とても弱々しい。これなら無害かもしれない。


「ここに賭けよう…………」


 立地的にも見つかりにくそうだ。ふらつきながらも3メートルほどの高さにある洞窟を目指して崖を登り始めた。


「ふーっ、ふーっ、ふーっ!」


 岩の出っ張りに指をかけ、震える手に力を精一杯入れて身体を持ち上げた。


「よし…………」


 なんとかその横穴の中にたどり着くことができた。


 中を覗き込むも、生き物らしきものは見えない。恐る恐る入ってみると、入り口は狭いが中の天井は高くなっており、俺がギリギリ立てる高さだ。


「魔物がいませんように…………っ!!」


 そう願いながら慎重に進むと、一本道で洞窟は思いの外浅く、10メートルほど進むとすぐに行き止まりだった。

 とその時、足先に何かが当たるのを感じた。


「ん…………? うおっ!!」


 よく見てみると人間の骨だった。洞窟の奥は少し広くなっており、その壁に寄りかかるようにいた。肉は全く残っていない白骨死体だ。死後かなりの年数が経過している。何かに追われてこの洞窟に逃げ込み、死んだのだろうか。


 観察していると、またHPが減ってきていた。


「回復魔法! あ、危なかった」


 それで、あの反応はどこだ?


 安全を確保するために探知にあった反応を探す。


「これか?」


 生き物の反応は白骨死体にくっついた布の下からだった。

 もはやボロボロの茶色い布切れとなった衣服を拾い上げると、黒っぽいものがコロコロと転がり出た。拾い上げてみると、その見た目は魔石とはまた違う。


「黒い…………卵?」


 探知に反応するくらいだ。生き物なんだろう。大きさはニワトリの卵くらい。本当に真っ黒だ。光を全て吸収してそうな黒さだ。


 だがよく見ていると引き込まれそうな存在感がある。それにコンコンと指で弾いてみると、殻がめちゃくちゃ硬い。

 もっと調べてみたいが今はそれどころじゃない。白骨死体の横に座るのは嫌だが仕方ない。まだ腐敗していないだけマシだ。


 洞窟内に腰掛け、ステータスを開く。


============================

名前ユウ16歳

種族:人間(状態:猛毒Lv.8)

Lv :59

HP :780(305/780)

MP :1785

力 :675

防御:599

敏捷:950

魔力:1960

運 :68


【スキル】

・鑑定Lv.8

・剣術Lv.6

・探知Lv.10

・魔力感知Lv.9

・魔力操作Lv.9

・並列思考Lv.7

・隠密Lv.3→4

・解体Lv.1


【魔法】

・火魔法Lv.5→6

・水魔法Lv.4→5

・風魔法Lv.4→5

・土魔法Lv.5→6

・雷魔法Lv.5→6

・氷魔法Lv.3

・重力魔法Lv.6→7

・光魔法Lv.3

・回復魔法Lv.4→5


【耐性】

・混乱耐性Lv.4

・斬撃耐性Lv.2

・打撃耐性Lv.3

・苦痛耐性Lv.3

・恐怖耐性Lv.2

・毒耐性Lv.3


【ユニークスキル】

・お詫びの品

=============================


 いろいろとレベルアップしているのもあるが、まずは毒だ。猛毒Lv.8ってめちゃくちゃヤバい。この短時間で毒耐性がLv.3まで上がっている。このまま回復魔法で耐えながら耐性が上がるのを祈るしかない。


「よっ…………」


 洞窟の床に横たわる。広くない洞窟だが、声がよく響いた。冷たくゴツゴツした岩の感触が背中、頭と伝わってくる。このまま寝れば、絶対背中が痛くなりそうだ。

 だが、とにかく安全で落ち着けそうな場所にたどり着けた。


「…………回復魔法」


「…………回復魔法」


「…………回復魔法」


「…………回復…………回復、回復…………」


 ひたすら回復魔法をかけ続けた。


 繰り返すこと何十回だろう。

 一晩が過ぎ、外からは鳥のさえずりが外から聞こえてきた。まだ毒は消えない。


 魔力も残り4分の1だ。魔力を節約したくて光魔法すら止めた。何も見えない。真っ暗闇だ。アラオザルを出て数日、孤独感が押し寄せてくる。誰でもいい。誰かと話がしたい。


「俺、このまま死ぬのかな…………」


 真っ暗な天井を見上げて呟いた。


「はぁ……………………」


 深いため息が出た。俺の周辺は俺の血だらけになっていた。よくわからない黒い卵も俺の血がかぶってしまっている。


 ステータスを見ていると、ようやく毒耐性が『猛毒耐性』になった。


「あぁ…………これで少しは減りがマシになるといいな」


 少し希望が湧いた。それにずっと魔法を使い続けたためか、俺の魔力も成長し、自然の回復力も早くなってきた。




ーーーー2日目の夜が来た。


 時折、この崖の上に来た魔物だろうか。洞窟が揺れ、砂がパラパラと落ちてくることがあった。ステータスを確認すると、補助スキルとして『自然治癒力アップ』と『魔力回復速度アップ』を手に入れていた。猛毒耐性はレベル2だ。

 これらのスキルのおかげで、1秒に1程度の減少になってきた。魔力は残り6分の1を切った。まだまだ寝ることはできない。寝れば死ぬ。




ーーーー3日目の朝が来た。


「まだ、生きてる…………」


 猛毒耐性はLv.5になった。自然治癒力アップと合わせて、1秒に0.5程度しか減らなくなってきている。魔力は増えはしないが減りもしなくなってきた。これで死ぬことはなくなった。だが、ここからが辛い。睡魔との戦いだ。


 その夜、猛毒耐性が6になった。

 もうすぐ終わりが見えそうだ。途中、デリックやミラさんがテーブルで大食いチャレンジをする俺を応援してくれる夢を見た。時間切れを知らせるデリックが鉄のフライパンをお玉で叩く音で目が覚め、命拾いをした。まだまだ寝てはいけない。



ーーーー4日目朝が来た。


 ついに猛毒と耐性スキル、補助スキルがつり合った。

 だが、寝てる間に死ぬのも恐い。とりあえず回復量が上回るまで様子を見る。寝不足か疲労か、死んだはずのエルが出てきて俺の隣に腰掛け寄り添ってくれていた。嬉しいし、ありがたかった。

 まだ寝るわけにはいかない。


 その昼過ぎ、ついに回復し出したように思う。もはや寝不足で幻覚なのかわからないが、ずっと隣に座って寄り添ってくれる女性が見えた。


 もう寝よう。



◆◆



 どれくらい寝たかわからないが、目が覚めた。いつの間にか洞窟の地面で仰向けになって寝ていた。




「生きてた。ははっ、はははははは!!!!」




 笑った声もカスカスだ。

 まさかちょっとした油断で、こんな地獄を味わうとは思わなかった。


============================

名前ユウ16歳

種族:人間(状態:猛毒Lv.8)

Lv :59

HP :780(685/780)

MP :1785→2450

力 :675

防御:599

敏捷:950

魔力:1960→2696

運 :68→95


【スキル】

・鑑定Lv.8

・剣術Lv.6

・探知Lv.10

・魔力感知Lv.9

・魔力操作Lv.9→10

・並列思考Lv.7

・隠密Lv.4→6

・解体Lv.1


【魔法】

・火魔法Lv.6

・水魔法Lv.5

・風魔法Lv.5

・土魔法Lv.6

・雷魔法Lv.6

・氷魔法Lv.3

・重力魔法Lv.7

・光魔法Lv.3

・回復魔法Lv.5→8


【耐性】

・混乱耐性Lv.4→5

・斬撃耐性Lv.2

・打撃耐性Lv.3

・苦痛耐性Lv.3→6

・恐怖耐性Lv.2→7

・猛毒耐性Lv.7 NEW!!


【補助スキル】

・自然治癒力アップLv.9 NEW!!

・魔力回復速度アップLv.9 NEW!!


【ユニークスキル】

・お詫びの品

=============================


 猛毒はまだ消えていないが体力が減ることはなくなった。もう大丈夫。魔法を使い続けたためか、魔力がかなり伸びている。


 ホッとした途端、俺を文字通り死ぬほど苦しめてくれたあの魚に怒りがフツフツと沸いた。


「川のあいつら…………絶滅させてやるからな!」


 あんな猛毒生き物、さぞレベルが高いんだろうな……?


 自分の血でカピカピになってしまった服を水魔法で洗う。そして、誰だかわからない骸骨を土魔法で埋葬してやった。


「なんだかわからんが、あんたにはもう不要だろう。これはもらうよ」


 そう言って、手を合わせてから黒い卵をポケットにしまった。


「さてと」


 洞窟から出る。長らく暗闇にいたせいか、日射しが目に染みてチカチカとする。


 ぐーっと両腕を上げて伸びをした。


「はぁーっ! 久々の外だぁ…………しかし腹減ったな」


 崖を降り、川原を歩いて置いてったレッドボアの肉を見に行くが、


「あー、そりゃ喰われてるよな」


 川原の石に残るのはレッドボアの肉の血痕だけ、骨すら残されていなかった。


「あいつらは、いるな…………」


 川を覗き込むと、一瞬で黒い影が水底から突進してきた。


 バシャッ!!


 だが今度は上体を反らして避ける。そして、水から出て飛び上がった空中のそいつの喉元を掴み、身体を地面に叩き付けた。


 ドゴッ…………!!


 どうやら気絶したようだ。ワニの顔面は口をバクンバクンとさせている。ヌメヌメと光る胴体は筋肉が異様に発達していて、これで水を蹴って飛び付いてくるのだろう。


 

============================

デドリーポルガ

Lv120

HP :53

MP :585

力 :68

防御:60

敏捷:890

魔力:120

運 :1


【スキル】

・ハイジャンプLv.5

・猛毒の牙Lv.8

・速泳Lv.7

============================


「敏捷が高い。奇襲で毒を喰らわせて、弱ったところを食べるために進化したのか。これがいったい何千匹いるんだ…………?」


 気絶したこいつを剣で出来るだけ細かく斬り刻む。そして、


「ほらよ」


 その身を川へ全て投げ込んだ。

 

 その途端、



 バシャッ! バシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャ!



 見渡す川一面にものすごい水しぶきが上がる。何匹いるか検討もつかない。


「こいつら平気で仲間の肉食うのな。よし…………!」


 集まったあいつらがいる川の水を重力魔法でまるごと持ち上げる。


「どっっっ、せい!!!!」


 ギュウウウウンンンンン………………!!


 川の上に作った重力核に大量の水が巻き上げられていく。



 ドザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ……………………!!!!



 さらに川の水を持ち上げたことにより、上流からどんどんと水が流れ込む。


 そうして出来たのが、空中に浮かぶ巨大な水球だ。直径は30メートルくらいだろうか。中には200匹くらいのデドリーボルガが捕らえられていた。パニックを起こしたように凄いスピードで泳ぎ回っている。


「準備完了だ」


 魔力を大量に込め、雷魔法を使う。



 バリッ…………!! バリバリバリィッッッ…………!!!!



 一瞬目の前が真っ白になるほどの雷だった。魔力が上がった分、より強力になっている。


 水球の中には、1匹残らず動きを止め、ふわふわ漂っていた。そこに魔力操作で作った手を突っこみ、死体を取り出す。漁をしてる気分だ。


「大漁だな。ゲテモノは旨いって言うし…………ん?」


 異様な気配を感じて振り返ると、


 そこには水面から頭を出しているワニがこちらを睨んでいた。頭だけで3メートルはあり、龍のような長い髭が2本ちょろっと出ている。そして、その先端は槍のように尖っていた。


「あの髭…………あ、こいつらのボスか。いや、母親とかそんなのか?」


============================

デドリードルガ

Lv.272

HP :1308

MP :780

力 :609

防御:909

敏捷:2670

魔力:285

運 :6


【スキル】

・ハイジャンプLv.7

・死毒の牙Lv.2

・死毒の髭Lv.8

・速泳Lv.7

・猛毒鎧Lv.7

============================


 死毒って、猛毒の上か? 猛毒耐性持ちすら殺すつもりなのか。だがまだ良かった。今は毒耐性を鍛えたところだからな!


 バシャッ!


 強靭そうな筋肉に包まれた前足で地面を踏みしめ、陸へと上がってきた。背には背びれが3枚縦に並んで生えている。


 ズシン…………ズシン…………!!


「水陸両用て、生物的にも進化したのか」


 全長は15メートルくらいで、鱗のあるウナギのヌメヌメ胴体にヌメヌメの10組の脚がムカデのように生えたような感じだ。


「ガアアア! ガアアアアア!!」


 そのワニのような口を開けて大きく吠えた。そして、川原の石をはね飛ばしながら俺に向かって来る。


 ズズズン……! ズズズズズズズズズズン……!


「思ったより遅い。あの敏捷はあくまで水中の数値か…………?」


 だがあの鱗は硬そうだ。しかも、ドロドロした液体が皮膚の下から出てきている。


 あれが猛毒鎧だとすれば、近づかない方が得策だろう。


 並列思考で10個のファイアバレットを俺の目の前に並べる。


「いけっ!」



 ドドドドドドドドドドッ!!!!



 10個のファイアバレットは全てがデドリードルガに吸い込まれていった。鱗を突き破ったバレットは体内で爆発するように改良している。


「グガアアア!」


 肩や顔の一部が吹き飛び、明らかなダメージを与えた。やはり防御も猛毒鎧に頼っている分、俺の魔法なら十分貫通可能だ。


 だが、巨体が巨体なだけに削った肉は少しだけでまだ元気に動いている。なのでトドメとして、魔鼓をあいつの真上に移動させた。そして、振り上げた右手を勢いよく振り下ろした…………!


「よっ!」



 ドッ…………ピシャア!!


 ガラガラガラガラ…………!!!!



 俺の全力の雷を真上の魔鼓から落とした。


「ガッ、ガ、ガ、ガ、…………」


 ブスブスと黒い煙を上げるデドリードルガ。


 ズズン…………!!!!


 黒こげになって横向きに川原に倒れ、衝撃で川原の石が飛ぶ。


「かなり魔法の威力が上がったな」


 強くなったのを実感しつつ、デドリードルガにゆっくりと近付いてみる。


 近付くで見るとなおさらデカイ。倒れていても俺の身長と同じくらいの高さがある。ピクリともせずに、舌が口の中から外に出ている。


「ぐ、ぐぅ~…………」


 そこで腹が音を立てた。


 何日食べていないのだろう。無性に腹が減ってきた。


「だがなぁ、これ食えるのか? いや、毒はほぼ克服しているし大丈夫か。解体して運ぼ…………!?」


 その時、閉じられていた目がバチリと開き、ギョロッと俺をとらえた。


「お前、生きてっ!?」


 それと同時に襲い来る痛み。


 脇腹を髭が貫通していた。


「ぐっ!」


 まずい、あの髭は…………!


 とにかく、腹を通り抜けている髭を掴み引き抜く。


 ズルルルルルルルルル!!


「ぐぅ、ああああああああああ!!!!」


 痛みと傷口を通り抜ける気持ちの悪さはあるが耐えられる。それに、それほど太くはなかったので、致命傷にはかろうじてなっていない。

 だがその間に死んだふりを決め込んでいたヤツが起き上がった。そしてガバッと大きなアゴを開き、頭を横向きに捻って跳んでくる!


「ガアアアアアアア!!」


 左右から牙がギッシリと生えたアゴが迫ってきた。


 やっ、ばい、避けないと…………。

 

 だが、足に力が入らない。とっさに剣を左からくる上顎に突き刺し、右手を下顎に向けて突っ張る!



 ガゴッッッッ…………!!!!



 牙が右手の甲を貫き、さらに俺ごと噛み砕こうと迫る。


「ぐ、う、うううう…………し、死ぬかよ…………!!」


 生臭い息の出る口内に向け、雷属性の魔鼓を作り、


「喰ぅ……らえ!」




 ピシャアアアアッッッッッッ…………!!!!


 バチッ、バチチチチ!




「ガ……ガ、ガ、ガガ…………」

 

 ビクビクと痙攣する巨体。


 注意深く見ているうちに奴の痙攣が治まっていく。今度こそ本当に息耐えたようだ。顎の力も弱まったので口をこじ開ける。


「くっ…………ああっ!!」


 右手に食い込んだ牙を抜き、抜け出すことができた。そして感じるこの感覚…………トラウマとなるついこないだの…………。


「回復魔法…………」


 あぶない。HPが1割を切っていた。やはりあの髭の死毒を食らっている。脇腹の傷は今ので回復した。


「くそまたかよぉ…………!」


 死毒は俺の猛毒耐性すら、やすやすと上回っていた。目まぐるしく減少するHPに、俺は泣きそうになりながらまたあの洞窟に戻ることを選択した。




「はぁ…………」



読んでいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公が試行錯誤しながら成長して確実に強くなっていくのと、その展開のさせ方が好きです。 [気になる点] >時折、この崖の上に来た魔物だろうか。洞窟が揺れ、砂がパラパラと落ちてくることがあ…
[良い点] 毎回書いてしまいますが面白いです! 誤字脱字は見つけたら報告していますが、ただの癖であって偉そうに指摘しているつもりはないです。参考になれば光栄ですが、気楽に流していただいて大丈夫です。
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