第89話 チャドVSオズ
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場所は第1闘技場、最も人の収容できる広い会場へとやって来た。相手側の不正を疑うため、審判は無理言ってクロム先生に来てもらった。
「お前ら、厄介な奴とモメてやがるなぁ」
クロム先生ですら苦虫を噛み潰したような顔をした。
「先生、公正なジャッジを頼みますよ?」
「仕方ねぇな」
先生はポリポリと首をかく。
そして俺たちは観客席に向かうと、最前列に陣取ってオズの試合を見守ることにした。
闘技場中央ではオズとチャドが向かい合う。チャドの武器はシンプルにロングソード1本だ。ただ、魔剣士専攻であるため魔法も使うのだろう。
学園1位と5位との試合だけあって、続々と観客が集まって来ている。すでに観客席の8割程度が埋まる大観衆と化していた。
「ブラウン、チャドの魔法は?」
隣のブラウンに尋ねる。
「水魔法と氷魔法だよ。大丈夫、これはオズも知ってるはずだから」
そう言うがブラウンは不安そうな表情が隠せない。
「ふーん」
オズは雷魔法を使う。相性は悪くない。
「オズなら大丈夫だと思うが、やっぱりオーウェン王子が敗北したってのが気になるな」
「だよね。確かに兄さんは昔から強かったけど、それでも学園トップになるほどとは思えないんだよ」
弟のブラウンですら知らない秘密があるのか? まぁ、ブラウンと仲は良くなさそうだが…………。
闘技場中央で対峙する2人の魔力に動きがある。もうすぐ始まるのか、どちらも詠唱を始めている。
「はい、始めー」
クロム先生の覇気のない掛け声で試合が始まった。
「アイスビルド=ウェイヴ!!」
すかさずチャドから放たれる魔法。
チャドの足元からは1つ1つが細長い六角形をした白銀氷の集合体である波が3メートルはある高波となってザバァッとオズを襲う! これが直撃すればひとたまりもない。オズはズタズタにされてこの試合は終わるだろう。
バキバキ、ガシャァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!
細かい氷同士のぶつかり合う硬質な音が闘技場に大きく響く。だが、オズは続いて雷魔法を放つ。
バリッ、ビシィィィイイイ……ッッッッ!!
オズから放たれた幅8メートルはある横向きの雷の刃が見事に氷の高波を真っ二つに斬り裂いた。
「おおおお…………!」
その威力に観客たちはどよめく。
半ばで上下に斬り裂かれた氷の波がガシャガシャとオズの足元まで到達するも、勢いを失っておりオズは軽くジャンプしてかわす。
対してチャドの方は避けきれずに速度のあるオズの雷魔法が右腕を掠めた。澄ましているが痺れが出ているだろう。
「うわぁ、さすがはオズ。雷魔法の貫通力を配慮して、兄さんに当たるよう直線上に配置したんだね」
ブラウンが嬉しそうに言う。まったく兄の方は応援してないのな。
「でもな…………」
「あぁ、そうだねぇ」
フリーも思ったようだ。
「どうしたの?」
「あの規模の魔法を考えると、オズよりもチャドの方がかなり魔力が高い」
そう、チャドの放った氷魔法は直径40メートル以上ある闘技場の半分以上を氷の結晶だらけのフィールドに変えてしまっていた。見た目にもインパクトがある。
「そんな…………!」
オズもそれがわかっているのか、魔法を撃たせまいと氷の結晶を踏み砕きながらガシャガシャと走り、接近戦に持ち込もうとする。
だがチャドまではまだ20メートルは距離がある。それにあの足場の悪さ、あと一撃は魔法が来るだろう。オズもそれを見越して、対応できるように詠唱しながら走っているようだ。
本当に器用な奴だ。もしかすると並列思考持ちかもしれない。
すると、やはりチャドから氷の矢が次々と空に向けて放たれた。
「サンダーケージ」
バリィッ……!
オズが立ち止まってそう呟くと、オズを取り囲むように半球の雷の檻ができた。檻自体は雷が線となり細かな格子を作り出しているようだ。その瞬間、今度は教師陣からざわめきが起きる。
あれはオズがオリジナルで作ったっていう魔法ということか。
そして空高く撃ち上がった矢がオズの周囲へと降り注いだ!
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!
だが、ことごとく矢が雷の檻に弾かれ、周囲の氷へと突き刺さっていく。
「さすがオズ!」
興奮したように叫ぶブラウン。しかし降り注ぐチャドの氷の矢はまだ止まらない。やはり魔力は相当あるようだ。
…………オズの雷の檻が弱々しく点滅しだす。
ガガガガガガガガガッ…………!!
チャドの氷の矢に、ついにパキンッと檻が壊れた。檻の欠片の雷が空中に漂って消える。
「ああっ!」
防御が崩れたことにマリジアが手で口を押さえて悲鳴を上げる。
「おいおい、オズをなめるなよ」
あの程度じゃやられはしない。
キィン…………!
檻が消えると同時にオズは手に持ったナイフで、氷の矢を弾いた。オズは両手に持った2本のナイフで氷を次々と弾いていく。
そうだ。オズの体術は実は半端ない。
真上からの矢を横凪ぎにして弾く、右横から来た矢をバク宙して回避し、そのまま地面に伏せることで、左からの矢を避ける。そこから弾かれるように横に回転しながら跳ねる。すると、オズが寝ていた場所に矢が突き刺さった。そして、オズが着地する前に空中で両手のナイフをチャドに向け投擲する!!
カカキィン!!
ロングソードを構えたチャドがオズのナイフを弾いていた。だがこれでチャドの魔法は止まった。辺りは氷の結晶と矢だらけだ。その隙にオズはチャドに斬りかかった。
ガキッ、ギッ…………!!
胸に真っ直ぐに突き出されたオズのナイフをチャドが剣の腹で受け止める。どちらも口元が笑っていた。
そこから斬り合いが始まった。チャドの正統派剣術に対し、オズはトリッキーなナイフさばきだ。
一体何本のナイフを身体に仕込んでいるのかわからない。ナイフで斬りかかったと思えば、至近距離でナイフを投げつける。チャドが剣の柄でギリギリ弾いたナイフすら、オズは蹴りでさらに打ち返して武器として使う。または指の間に何本もナイフを挟み投げつける。
四六時中ナイフを触って遊んでいるだけあって、オズのナイフの技量は凄まじく、まるでジャグリングするようにナイフを扱う。しかし、あの至近距離でのオズのナイフの連投、連撃を防げているだけチャドの技量の高さもうかがえる。
この勝負、どうなるか……
【賢者】このままいけばオズ様の勝利は間違いありません。
そうだな。このまま何事もなけりゃ。でもそれならオーウェン王子もチャドに負けることはなかったかもしれない。
もはや試合というより、互いに致命傷を狙った単なる命の奪い合いのように見える。その緊迫した試合に、観客席の生徒たちはしゃべらずに固唾を呑んだ。
至近距離で同時にオズが投げた8本のナイフを受け、弾き損ねた1本のナイフがチャドの左肩に刺さる。
一瞬の隙を見せたチャドに、オズは弾かれ宙に浮いたナイフを手に持ったナイフで打ち返しながら、さらに斬りかかる。打ち返されたナイフは対処しきれずにチャドの右脇腹へと刺さる。
「ぐぅ…………!」
キィン。
再びオズのナイフの突きをチャドが受け止める形となった。
オズが押してる。近接戦ではオズにかなり分があるようだ。
「にしし。どうした、もう終わりか?」
睨みあったままオズが笑う。
「そんなわけないだろう」
チャドがそう言うと身体に力を入れた。すると、腹と肩に刺さったナイフがカラァンと抜け落ちる。
「ん?」
なんだ…………?
「ユウ、どうしたんだい?」
「いや、何でもない…………」
なんだかチャドの方から嫌な感じがする。この感じどこかで…………。
【ベル】これ、わたしが放火事件の時に感じたものに似てるわ。
なんだと? やっぱりあいつ、何かあるのか…………!?
「オズ! 気を付けろ!」
ドンッ…………!!!!
俺が叫ぶと同時に、オズが吹っ飛ばされていた。
「ぐっ……!」
20メートルは飛ばされたオズが氷の地面にナイフを突き立て、ガリガリガリガリと氷を削りながら勢いを殺し止める。
「ふん…………」
吹き飛ばされたオズに追い付いていたチャドが、そのままオズの首目掛けてロングソードをブンッと振るう。
速度まで上がっている…………!?
オズは膝をついたまま上体を後ろに反らし、剣を回避する。そのままオズは後ろへと倒れ込み、ブリッジからのバク転で距離をうまいこととった。
だが、そこからはさっきと同じことが起こった。ただし立場は逆だ。オズの体に傷が増えていく。チャドのパワーとスピードが上がり、オズの対応が難しくなった。
「つーーーーっ!」
オズの右足太ももをついに深く剣がえぐった。地面にピピッとオズの血が飛び、赤く染めていく。
まずいな…………オズは魔法を用意する隙すらない。なんで急に変わった? あの嫌な感じがあってからだ。
「ユウ! 兄さんはなんで急に強くなったの?」
隣でブラウンがわめく。
「知るか! お前の兄ちゃんだろ!」
「あんなの知らないって!!」
足をやられ、機動力が下がったオズはさらに切り傷を増やしていく……。今また手に持ったナイフを弾かれ、勢いで右手のひらを斬られた。オズが後ろへ下がる。
「こんなものか? やっぱり大したことないな王族ってのは」
チャドが嬉しそうにオズへ大声で話したので聞き取れた。
「ほざいてろ」
オズは斬られた手でナイフを握り、歯を食い縛りながら応戦する。
詠唱している?
オズはチャドとの斬り合いの精度を落とすことなく準備を整えていた。さすがだ。
そして、
「ぐっ…………!!!!」
オズが再び吹っ飛ばされ、地面を転がる。切っ先だらけの氷の結晶の上を転がったので切り傷が増えていく。だがオズは膝立ちになり、チャドに向け右手を伸ばしながら言った。
「か、い…………ほう」
ピシャアッッッッ…………ン!!!!
突然、太い雷光が5本チャドに向けて同時に落ちた。観客たちが悲鳴を上げ、そのつんざくような雷鳴と光に目を覆う。
「が…………か、か……!!」
チャドが白目を剥いて、立ったまま口から煙をあげてる。そして、ガラァンとロングソードを落とした。チャドの足元には煙をあげるナイフが5本あった。
さすがはオズ。応戦しながらナイフを足元に撒き、罠を張っていた。足元のナイフに導かれるように落雷したのだろう。つまり、あそこにチャドが来るように調整しながら、わざと吹っ飛んだんだ。
それにあの威力。相当魔力が込められていたようだ。さすがにこれには勝負ありか?
だがそうはならなかった。倒れそうになるとチャドは意識を取り戻し、右足をダンッと踏み出してとどまった。
「くそ…………!」
まじかよ。しぶとい!
「ふーっ! ふーっ!」
チャドの目がギラついている。キレたみたいだ。
無言でオズに向けてロングソードを振るう。両手のナイフをクロスしてガードするも、受け止めきれずにオズがまた転がっていく。今回は、罠にハメるためではなさそうだ。単純に膂力の差が大きい。
「まだだ……!」
オズはそう叫ぶと、
ドッ…………ドドドドドド!!!!
オズを追いかけるチャドの背中に帯電したナイフが7本も突き刺さった。オズがゴッサム戦で見せた魔法と同じだ。落ちたナイフを引き寄せたのだろう。
よし、あれが7本。さすがに倒れ…………?
しかしチャドは倒れることなくオズを睨み付けた。
「嘘だろ!?」
「ぐっ」
チャドはナイフが刺さったままロングソードを振り上げた。そして、足元にいるオズを目掛けて振り下ろした!
ガンッ……!
頭の上で両手のナイフを使って受け止めるも、衝撃を殺しきれずに真下に地面に叩きつけられ、小柄なオズがバウンドする。
見てても痛々しい。今のはかなりダメージが入ったはずだ。
「オズッ!」
ブラウンが観客席から身を乗り出して心配そうに叫ぶ。
「ねぇユウ! もうオズ限界なんじゃないの!?」
ブラウンが泣き出しそうな顔で俺の肩を揺さぶる。
「あぁ、でも諦めてねぇ」
オズの背負っているものを知っているからには俺が止めるわけにもいかない。
ボロボロでも、オズの目はまだしっかりとチャドをとらえていた。オズは隙を見て、バックステップで足を引きずりながらも距離をとる。
「これで大人しくしろ」
チャドがまた詠唱を開始する。それに合わせてオズもまた詠唱を始める。
「アイスビルド=ブロック」
オズの真上にパキパキと、3メートル四方の氷の立方体が形成されていく。オズの頭上に影が射す。そしてそれは完成した瞬間、ひゅっと落下する。
「ファイアバーナー!」
ゴウ…………ッッ!!
オズのまるでバーナーのような高火力で直線的な炎は、氷のブロックと衝突し氷をジュウッと蒸発させた。
火属性魔法!? オズめ、まだあんな隠し玉まであったなんて…………!
「……はぁ、はぁ」
カラァン…………。
オズがついにナイフを手からこぼし、膝をついた。魔力がそろそろ限界のようだ。
「ここまでだ。それに君が今みたいな火属性魔法を使えるとなると、犯人候補が増えそうだ」
そう言ってニヤリとする。そして、オズの首すじにロングソードを突き付けた。
「さぁ、敗けを認めろ」
オズは下を向いたままだ。
「聞いているのか!!」
「うるせぇ親の七光り野郎」
オズはそう言ってチャドを睨んだ。あくまでも降参しないつもりだ。
「敗けを認めないと言うなら……!」
キレたチャドが左足を後ろへ引いて、剣を振り上げる。
その時、オズの口元が確かに笑った。
バリィッ!!
チャドへ一筋の落雷。正確にはチャドの背に刺さったままの1本のナイフへ再度の落雷があった。
倒れろ…………っ!!
俺たちもチャドが倒れてくれることを両手を合わせて願った。だがチャドは目を血走らせ、口をグッと結んで耐えていた。
「なんだよあのタフさ!」
ブラウンが憎々しげに怒る。
「オズ…………!」
俺たちが心配でそう呟くなか、ついにオズの万策が尽きた。
片足を立て、震える膝をこらえながらまだ立ち上がろうとするオズをチャドは見下ろす。
「バケモノめ…………!」
オズはチャドを憎々しげに睨み付ける。チャドはそれを意に介さず、再び右手で剣を振り上げた。
おいおいおい…………!
チャドは全力で剣を振り下ろす。思わず観客席の手すりに身を乗り出して、飛び込もうとするが
パシッ…………!
クロム先生が隣に一瞬で現れ、チャドの剣を右手で受け止めていた。
「やり過ぎだ」
チャドを睨み付ける。
「ふんっ」
チャドはオズを見ると、剣をしまった。
「勝者、チャド・ヴィランド」
◆◆
オズはすぐに教師陣とシャロンの治療を受けた。だがその間、オズは何一つ言葉を発しなかった。そしてオズは大事をとって、今日の授業は欠席となった。
それからマリジアよりも火魔法が使えて実力が上のオズが犯人に近いのではないかということになり、マリジアの嫌疑はうやむやになり自然消滅した。というより元からマリジアは確実に違う。もちろんオズもだ。
放課後、オズ抜きでいつものメンバーで教室に集まっていた。
「オズ、大丈夫かな?」
マリジアが心配している。発端はマリジアが疑われたことからだからな。
「この後見てくるよ。まぁあいつなら心配いらんさ。今日は見たろ? あのオズの粘り強さは挫折を知らなきゃないものだ。あれぐらいじゃ折れねぇよ」
「だといいんだけど…………」
「それに、オズも気になるがチャドだ。あいつのタフさ、異常だと感じたのは俺だけか?」
「うううん、私も」
皆、同じように感じていたようだ。
「今亡くなった人のことを言うのはあれだがよ。5位のゴッサムはオズの電撃ナイフを背中に受けて1発ダウンだったろ? でもあいつは……」
「一体、何発直撃をくらってたんだろうね……」
「絶対なにか秘密がある。ブラウン、お前の兄だろ? なんか知らねぇか?」
言われてブラウンは首をひねる。
「うーん、僕最近兄さんたちや父さんと仲が悪くてあんまり知らないんだよ。あ、でも…………」
「でも?」
思わず詰めよる。
「これ、言っていいかわからないんだけど…………何か、屋敷の地下で兄さんたち相手に大掛かりな実験をやってるみたいなんだ。僕にもそれしかわからないんだけど」
これは新たな情報だ。実験…………人体実験か。マードックは自分の息子をも実験台にしてるってことか? だとしたら、とんだ鬼畜野郎だ。
「まさかドーピング、薬物を使ってるのか?」
「うううん、詳しいことはわかんないよ」
「そうか…………ちょっと考えさせてくれ」
そして長考に入った。
そう言えば、ベルが試合中に言っていたチャドから感じた嫌な感じは、放火犯と似てたんだよな。あいつが放火犯の可能性はないか?
【ベル】だとしても断言はできないわ。それに、嫌な感じというだけじゃ犯人だという証拠にはならないんじゃない? 別にきちんとした証拠が必要よ。
それもそうか。
【ベル】そうよ。それにあいつは火魔法を使ってなかったしね。
そうだな。…………ん? なぁ、そういや、放火犯の方はベニスのローグと気配が似てたんだよな。
【ベル】確かにそうだったわ。
もしそれが本当なら、マードック、ローグ、放火犯、チャド。これらの点と点は線で繋がらないか?
【ベル】あり得るけど…………だとしてもマードックがローグを作る意味がわからないわよ。
【賢者】可能性はありますが、あくまで憶測の域を出ません。
そうか…………。
「何かわかった?」
マリジアが期待を込めて聞いてきたが。
「いや、あんまり関係なさそうだな」
これ以上の情報はブラウンも持ち合わせていないようだし、今の情報じゃ、これが限界だ。
「とりあえずオズが心配だ。俺はもう戻る。また明日放課後この時間にな」
◆◆
その後、寮の自分達の部屋の前へと戻って来た。
「それじゃあユウ」
「また明日ー」
隣の部屋のフリーたちと別れ、扉を開ける。
「おい、オズ?」
部屋を覗き込むと中は真っ暗。灯りをつけると、オズはベッドに腰かけうつむいていた。
「オズ…………大丈夫か?」
「大丈夫なものか」
オズは辛そうに額に手を当てていた。
「そら負けることくらいある。お前だって1人の人間だ。考えすぎるなよ」
「違う。ただ負けたんじゃない。あいつに、あの貴族に負けた……!! 俺の立場を背負った試合で!!」
オズは珍しく声を荒げた。
こいつ…………思った以上に王族という自分の立場を意識してたんだな。
「マリジアを救う目的は達せられてる。…………まぁ、代わりにお前が犯人扱いだがな」
「それじゃ意味はない。マリジアが救われたのはたまたまだ。俺が完全に勝たなければ意味がなかった」
「お前が勝っていてもあいつらのことだ。また別のいちゃもんをつけただけだろ。気にするな。お前は、国と学園を重ねすぎだよ」
「重ねて何が悪い。ここ学園は今の国の縮図だと……!」
「まったく同じではないだろ」
「同じだ。王族を取り巻くのはろくでもない貴族ばかり、上っ面だけはへりくだりながら腹の中では常に自分が王になる方法を探ってる。そして俺はその貴族に負けた…………」
今にもオズは泣き出しそうだ。
なるほどな…………。オズがそう考えるほどにまで、国王は追い詰められているのか。
「ここは学園だ。何回でもチャレンジできる。1回負けたくらいでへこたれるな。次は勝ってみせろ」
オズの目の前にしゃがんで肩に手を置き、話しかける。
だが、オズはまだ負けたことから立ち直れていないのか、素直に返事ができないようだった。
「お前1人で突っ走るな。たまには俺らを頼れ」
「頼る…………? はっ、はははっ…………」
オズはベッドに腰かけたまま、バタンと後ろに倒れ込んだ。そして、腕で目元を隠した。
「あぁ…………そうだな」
オズの声が若干、泣いた時のように震えていた。そしてオズは呟くように言った。
「…………なぁユウ」
「ん?」
「お前、実はもっと強いんだろ?」
「……………………まぁ、あのチャドよりかはな」
「はっ、そうかよ。なら、教えてくれ本当のお前のこと」
そう来たか…………うん。そろそろ言うタイミングだろうな。
「前に、ブラームスの宿屋で俺はCランク冒険者だと言ったよな」
「ああ」
「あれは本当なんだが、実は、今はわけあってこれ以上ランクをあげるのをギルドに止められてる。この方が動きやすいからな。実力的には、A~Sランクってところだ」
「はっ、やっぱりな」
オズはどこか納得したようだ。
「じゃあ、なんのためにここにいる?」
オズはベッドに仰向けになったまま俺を見た。
「マードック伯爵の反乱計画について、貴族たちから情報収集するためだ。俺はギルマスに頼まれてここに来た。俺だって国を守りたいんだ」
「へっ、そうかよ」
オズに驚いた様子はない。そしてオズはベッドから起き上がると、目線を合わせて俺に質問してきた。
「なら1つ聞く。お前は…………味方か?」
「そうだ。それは信用してくれ」
「そうか」
オズはフッと笑った。
「オズはなんでも独りでやろうとし過ぎだ。お前にも仲間がいることを忘れるな」
「仲間か…………」
オズはぼんやりと言う。
「だったら…………ユウ、なぁ教えてくれ。もっと強くなるには俺はどうしたらいい?」
オズは真剣な目で俺を見つめた。
そう来たか…………。
「強くなる、か…………」
天井を見上げて思い出せば、俺が弟子をとったりするのをなるべく拒んできた理由は、めんどくさい、ただそれだけだった。
「頼む。力を貸してくれ」
オズは俺に面と向かって堂々と頭を下げた。
もういいだろう。王子様が頭を下げてるんだ。一肌脱いでやるか。
「仰せのままに、王子様…………」
読んでいただき、有難うございました。
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