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重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第4章 王都
85/161

第85話 迷いの森

こんにちは。

ブックマークや評価をいただいた方、有難うございます。とても励みになります。

遅くなってすみません。まとまらなかったので分割しました。元々1話だった分の前半です。後半はまた投稿します。

第85話です。何卒宜しくお願いします。


 さらに1ヵ月後、俺らは学外実習で王都の外に来ていた。目的は『迷いの森』というCランクダンジョンでの魔物討伐訓練だ。

 現在Sクラスの皆を乗せた2台の馬車は、最西端だったコルトとは反対、王都より東側に位置するブラームスという町を目指して進んでいる。その町は王都から馬車で1日と比較的近くにあり、王都へ向かう商人たちがよく立ち寄る場所らしい。


 これまでの1ヶ月間は、授業が本格的に始まりガストンたちの嫌がらせも相変わらず続いていたが、俺たちは受け流したりやり返したりして過ごしていた。最近はマリジアとシャロンも俺たちとつるむことが増え、Sクラスは俺たちとガストンたちで完全に二分されていた。

 また、皆はさっそく上級生から試合を申し込まれ、フリー11位、ガストン13位、サイファー20位、マリジア25位、シャロン30位に上がっていた。ブラウンだけは未だに人を傷つけることに抵抗があり、全ての申し出を断っているようだ。


 そして何よりも気に入らないのは…………。


「なんで誰も俺に試合を申込んでこない!」


 俺はブラームスへ向かう馬車の荷台で声を上げた。


「あはは、また言ってるの?」


 馬車に揺られながら向かいに座るブラウンが笑う。


「だってよぉ」


「自分から申し込みに行ったらどうなんだ?」


 オズが呆れたように腕組みして言う。


「行ってみた! でもあいつらことごとく俺を避けてやがる……!」


 そう、試しに現在7位だという上級生に試合をお願いしに行ったが、まるで忍のごとく、時には3階の窓から飛び降り、時には池に潜って出てこなかったりと、必死で俺から逃げているようだった。


「だってユウは、頑強な闘技場の外壁に大穴をあけたり、Sクラス皆が卒倒するほどのあの学園長の威圧に涼しい顔で耐えるんだから。そりゃ皆死にたくないよねぇ」


 のほほんとフリーは言う。


「いや、さすがに殺さねぇよ」


「それ凄い、凄いよ! 要するにユウにはランク上位者ですら萎縮しちゃってるってことでしょ!? 誰も手を出せない、言わば強すぎて『ランク外』扱いなんだよ!」


 ブラウンが興奮した様子で言った。


「はぁ…………ブラウン、それ別に嬉しくねぇぞ。このまま行けば永遠にランク圏内に入れねぇ」


 まさか魔道具で弱体化してまでこんな扱いを受けるとは…………。


「ふっ、違うであろう。誰も貴様など相手にしていないだけでは?」


 そこまで聞いていたサイファーが嘲笑う。


「うっさい雑魚」


「こっ、この私に向かって雑魚など…………!」


 サイファーが額に青筋を浮かべた。


「止めなさいサイファー。それで怒れば認めていることになりますよ。所詮誰にも相手にされない負け犬の遠吠えです」


「ふん! そのようですね」


 はぁ、だからこいつらと一緒の馬車は嫌なんだよ。

 


◆◆



 日が沈み始める頃、馬車はブラームスに到着した。

 俺たちは今夜この町に1泊し、明日ここから馬車でおよそ1時間のダンジョンに挑戦する。

 まぁ、Sクラスともなると魔物を倒したことがない者はいないようだ。だが今回は念のため教員も同行し、安全もある程度確保されたオリエンテーションらしい。


 宿は2人1部屋、寮と同じ組み合わせで宿泊だ。質素な宿の部屋に入って荷物を下ろしてからオズに聞いた。


「なぁ、明日のダンジョンってどんな感じだ?」


「昔に来たが、魔物も弱く退屈なダンジョンだ」


 オズも大して興味なさそうだ。ベッドに仰向けに寝転がりながらナイフを天井に投げ、刺しては遊んでいる。


「だよなぁ」


 残念。レベル上げにはならないだろうな……。レベル3になってからというもの、ろくにレベルが上がっていない。


「むしろ、厄介なのは魔物よりもガストンたちだろう」


 オズがそう言うのには訳がある。というのもチーム分けが


Aチーム(クロム先生):オズ、ユウ、ガストン、サイファー

Bチーム(ハンナ先生):フリー、ブラウン、マリジア、シャロン


 と2チームになっており、ぶっちゃけガストンとサイファーが信用ならない。ちなみにBチーム引率のハンナ先生はSクラスの副担任で、クロム先生とは違い真面目できちんとした人だったのでそこは安心だ。


「やられたらやり返すだけだろ?」


「ふん、まぁな」


 オズは天井から落ちてきたナイフを指でピッと挟んでキャッチした。


 オズはこないだの「冬じゃないのに静電気ビリビリ大作戦」が気に入ったようで、あれから俺のイタズラに協力するようになり、一緒に行動するようになった。


 俺、この国の王子に変なこと教えて大丈夫だろうか…………?


 ちなみにガストンたちは俺がビリビリのイタズラを仕掛けるようにしてから、さっき宿のドアノブを掴むのをためらっていた。



◆◆



 さて、この遠征の唯一の楽しみと言えば、女子たちが同じ宿に宿泊していることだ。学園の寮では建物ごと離されているため、遊びに行くことは叶わなかったが、今なら行ける…………!

 というわけで俺とフリーは部屋を抜けだし、下の階のマリジアとシャロンの部屋の前にまで来ていた。念のため探知で確認したが、クロム先生は夜の町に消えていったようだ。


「行くぞ?」


 こういうのって修学旅行ぽくてワクワクする。


 コンコン!


 コンコン…………!


 だが返事がない。


「ん?」


 フリーと2人、木製のドアの前にしゃがんで首をかしげる。


「何だか音しない?」


 ドアに耳をくっつけ、中の音を遠慮しがちに聞いてみる。



「ーーーー!」


「ーーーーーーーーっ!?」



 ドアに張り付いてみれば、ドタバタと中から何か争っているような声が聞こえる。


「何してんだろ……?」


「行くぞ!」


 バタン!


 勢いよくドアを開くと、目の前30センチにメイスが迫っていた。



 あ、これシャロンのメイス…………?



「うわっとぉ!」


 とっさに屈んで回避する。前髪を巻き込み、メイスは俺の頭の上を通過していく。そして、真後ろにいたフリーの顔面へと吸い込まれていった。


「へ?」


 ドガンッ…………!


 メイスはフリーの顔面を直撃。フリーは宿屋の木製の壁に顔面をめり込ませ、壁から生えるオブジェのようになった。


「あっ、また…………! ご、ごめんなさい!」


 すごい勢いで頭を下げているのはシャロンだった。黒っぽいネグリジェワンピースを来ている。寝る前だったのだろうか。身体のラインがかなりえっちだ。さらにシャロンが頭を上げると、薄着の下の胸が大きく揺れた。


「い、いいからいいから」


 おおう、確かにこれと戦ったら勝てないな。


「なんであんたたちがここにいるのよ!!」


 いつものように元気よく突っかかって来たのは、赤いネグリジェ姿で弓を構えてベッドの上に仁王立ちするマリジアだった。そして床には、2人の男が気を失い、あとの1人は肩を2本の矢で貫かれ壁に縫い付けられている。


「ぐ…………て、てめぇら、これを抜きやがれ!」


 壁の男が両肩から血を流してわめいている。


「これ、どういう状況?」


「実は…………」


 シャロンが下を向いて話し始めた。



◆◆



 要は、突然男たちがシャロンとマリジアの部屋に乱入してきて、2人に乱暴しようとしたところを返り討ちにしたということらしい。2人が強くて良かった。


「こいつらに心当たりは?」


 男たちを指差して問うも、マリジアとシャロンは首を横に振る。

 彼らは剣と防具を装備しており、格好からして冒険者のようだ。つまり誰かに雇われたんだろう。まだ意識のある壁に縫い付けられた男に詰め寄り、肩の矢を無理やりずぼぉっと引き抜く。


「ぐあああ!!」


 痛みに声を上げる男の胸ぐらを掴んで持ち上げる。


「お前ら、誰に雇われた?」


「しゃ、しゃべるから助けてくれ!」


 男はすぐに諦めて怯えたように言う。


「話せ」


「ゆ、裕福そうな2人組のガキだ。多分お前らと同じ学園の生徒で、10万やるからその2人を襲えって言われたんだ」


 学園の生徒で2人組? まさか、ガストンたちか…………? いや、でもそこまでやるか?


「依頼者の名前は?」


「し、知らねぇ! 知らない子供だった!」


 もう金は受け取ったようだし、これ以上は無理だろう。


「へぇ、それで子供の誘いに大の大人のあんたらはそれにノったのか」


 俺が殺気を向けて威圧すると、男は慌てたようにどてっと尻餅をついた。床を後ずさりながら両手を突き出して必死で弁明する。


「い、いや仕方ねぇだろ。俺らにだって生活がある! すまんかった! だ、だから見逃してくれ!」


「は…………? マリジアたちがお前らに負けてたら、2人をどうするつもりだった?」


 本気の殺気を向けると、男は震えながら黙って土下駄をした。


「い、いや、あ…………、そ、その…………」


 男は何度も床に頭をこすり付けた。



「出ていけ」



「え…………?」


 男はかすれた声で聞き返した。


「…………出ていけと言ったんだが?」


「へ、へい! すまねぇ!」


 男は部屋の床に倒れてる2人を抱えて窓から飛び降りた。ここは3階だったと思うが、自業自得だ。マリジアたちが無事だから良かったものの、そうでなければこれじゃすまないところだった。


「ふぅ…………お前ら、怪我はないのか?」


 できるだけ柔らかい声で2人に聞く。


「ええ。これくらいわけないわ」


「わたしも」


 まぁ、結局自分らで撃退したが2人とも女の子だ。事件が落ちついて手が震えている。そして、2人がまだ握りしめている武器を置きベッドに座らせた。

 

「ね、ねぇ、もしかして依頼者って、ガストンたちなの?」


 マリジアが困惑したように口を開く。


「いや、わからない。あれだけじゃ証拠にはならんからな。すまんな、何もしてやれなくて」


「うん…………」


「大丈夫だよ。何かあったらまた返り討ちにするし、ユウたちは気にしないで?」


 シャロンが苦笑いしながら言った。


「いや…………うん」


 もし、ガストンとサイファーだとしたらイタズラで済むレベルを越えている。


「良いのよ。あの2人、侯爵家と伯爵家だもの、大事になったら家にまで何かしてくるかもしれないし」


 マリジアは無理やり笑顔を作った。



◆◆



 翌日早朝、太陽も昇りきらないうちから出発すると、馬車に揺られ1時間ほどでCランクダンジョン『迷いの森』へと到着した。昨日は一晩中賢者さんにマリジアとシャロンの警戒をお願いしたが、あれ以上何も起きなかった。ずっと見張っているが、ガストンたちに何も変わった様子はない。



「はい。じゃあ説明した通り、こっからは2チームに別れて進むぞー」



 ダンジョンの森の前でクロム先生が出発を宣言した。

 ここには「トレント」という木のモンスターが生息し、こいつらは自分で移動するためダンジョン内の景色がよく変わる。さらに霧が発生しやすく視界が悪いということもあり、『迷いの森』と呼ばれるそうだ。


 先頭はオズ、俺、ガストン、サイファーと続き最後尾がクロム先生の順で森の中を進んでいく。

 ハンナ先生とフリーたちは別の場所から森に入るそうだ。そして、ダンジョン半ばにある巨大樹前で2チーム合流後、1泊してまた町に戻る行程となっている。


 この辺は常緑樹ばかりで、秋だというのに葉は青々と繁っている。木の密度は高いところもあれば低いところもあり、獣道すらない。先頭のオズがナイフで邪魔な枝をスパスパと落としながら進んでいく。


 昨日のことはまだブラウンとオズには話していない。また落ち着いたら話をしようと思う。


【賢者】ユウ様、そろそろ前方からのゴブリン4体とぶつかります。


 ああ。


「オズ、前からゴブリンが4匹だ。いけるか?」


「問題ない」


 オズはこちらを振り返らずに答えた。


 すぐにゴブリンの声が聞こえてきた。するとオズは駆け出し、手前の木々を蹴って高く登ると、ゴブリンたちのど真ん中に着地。くるっと1回転して、両手に持った2本のナイフで4匹全員の首を一瞬で掻き斬った。


「おお」


 俺が出る暇もないな。


「よし、じゃあお前らで魔石の回収な」


 先生の指示でゴブリンの魔石を回収する。


 この世界に来て初めてゴブリンを殺した時は、生々しい臓物に気分が悪くなったのを思い出す。この世界の人たちもそれは同じようで、オズも嫌そうな顔をしながらも無言でゴブリンの死体から魔石を探している。


「ふん、あんなことするのは下民だけですね」


「ほんと馬鹿らしいです。召し使いにでもやらせておきましょう。さぁ、早くやりなさい」


 2人の発言が頭に来る。


「ああ!? 今なんつった?」


 俺はお前らの召し使いじゃない…………!


 思わず立ち上がりゴブリンの死体を右手で掴んで振りかぶると、2人に向かって投げつけた。


「ひっ!」


 それは見事にサイファーの顔にベチャッと直撃し、ゴブリンの臓物と血まみれになる。


「はははっ!」


 それを見てオズは声を上げて笑う。


「ばっ! こ、こんの…………!」


 プルプルと怒りに震えるサイファー。


「おい、お前らも学園の生徒だよな…………? だったら遊んでないでやれ」


「うぐ…………!」


 クロム先生の圧力があり、ガストンとサイファーも嫌々やるようになった。どうやらクロム先生には逆らえないようだ。


 そして、魔物を倒しながら20分ほど歩くと複数の気配が感じられた。いや、もっと前からわかっていたのだが、目視できなかった。近付いても他の木とまったく同じで見た目ではわからない。


 なるほどこれがトレントか。


「オズ、俺がやる」


「わかった」


 俺が近づくと、メリメリメリと地面から根っこが剥がれ、枝やツルが動き出した。一般的な広葉樹というよりかは柳のように枝が垂れ下がっている。


 そして、鋭く尖った葉が一斉に発射された。


 俺は屈んで葉を全てかわし、足を踏み出して前に出る。枝がムチのようにしなって振り下ろされるが、刀でスッパリと斬り飛ばした。そして、本体にまで走り寄ると、60センチくらいはある幹を刀を横に凪ぎ、斬った。



 バキッ、バキバキバキ…………! ズン…………!!



 樹高5メートルはあったトレントがバランスを崩して傾くと、幹が完全に折れ横倒しになる。森に陽光が射した。


「おう、ユウご苦労」


「ども」


 偉そうなクロム先生のねぎらいにイラッとしてひきつった笑顔で答えていると、驚いたのはこの直後だった。




 へっ? レベルが上がった…………!?




 レベル3になってからは、さすがに必要な存在値が多くなっているようで、俺の『お詫びの品』のスキルをもってしてもレベルが上がる気配がなかった。

 種族レベルが上がれば寿命が伸びるらしいし、ギルマスや学園長などは気の遠くなるような時間をかけて多数の魔物を倒しレベルを上げたのだと思う。しかし、今回のこれはどういうことだ…………?


【賢者】おそらく指輪が原因です。必要な存在値すら10分の1になっていると考えられます。


 ああ、なるほど……! いや、これ凄くないか…………!? これは逆に良かったのかもしれない。この指輪が外れるまでにできるだけレベルを上げよう。


 というわけで、それからは俺も積極的に魔物を倒した。さっきまでとはモチベーションが違う。


 また、警戒しているが、ガストンたちは何も手を出してこない。むしろ、ただサボって楽をしようとしているようにも思える。このまま何もなく終わってくれればいいが。


 そして、遠くに目的地の巨大樹が見えてきた頃だった。



「きゃあーーーーーーーーーーーーっ!!!!」



 離れたところから甲高い悲鳴が聞こえてきた。


「今のは………マリジアか!?」


 何かあったのかもしれない!


 昨日のこともあり、心配になって思わず走り出した。


「ユウ止まれ!」


 後ろからクロム先生が叫ぶのが後ろから聞こえたが無視した。木々の枝をかき分け、根っこをジャンプして避けながら走る。


 向こうにはフリーがいるから大事にはならないと思うが、昨日のこともあるし心配だ。


 高位探知を使用すると、200メートルほど近くに反応がある。向こうのチームも目的の巨大樹に大分近付いていたようだ。葉っぱだらけになりながらも森を駆け抜けると、すぐにフリーの姿が見えてきた。


 何かと戦ってる…………?


「って、タラテクト種…………!?」


 フリーが向かい合っているのは、間違いなく巨大なクモであった。フリーの後ろにはブラウンたちがいる。


 とにかく1人でタラテクト種を抑えているフリーの元へ向かう。ちらりと見えた土壁はブラウンが作った防御壁だろう。タラテクト種相手に役に立つかどうかはおいといて、ブラウンはいざというときは動ける奴のようだ。


「フリー!」


「ユウかい!?」


 フリーの持つ刀は、タラテクト種との戦いで刃は潰れ、ただの鉄の棒と成り下がって今にも折れそうだ。やはりその辺の刀では奴らの装甲は破れない。


 空間魔法からフリーの刀を取り出し投げ渡す。


「これ使え!」


「助かるねぇ」


 久しぶりの感触に嬉しそうに自分の刀をカシャンと受けとると、スラッと抜いた。きれいな銀色の刀身があらわになる。

 

「ユウなんでここに!?」


 後ろでブラウンが驚いて声を上げる。ブラウンのそばでハンナ先生は木にもたれ掛かって気絶しているようだ。


「いいから、お前らは先生つれて先に逃げてろ!」

 

「で、でも! いくらユウでもそいつは無理だよっ!」


 ブラウンは泣きそうな顔で叫ぶ。


「そ、そうよ! 一緒に逃げましょ!」


 マリジアたちも止めてくるが、今は却ってそれが邪魔だ。


「これくらいなんとでもなる! いいから早く行け!」


「だめっ!」


「ダメだよぉ!」


 マリジアたちがなおも止めようとしてくる。


「ブラウン、マリジアたちを連れていけ!」


「わ、わかった!」


 ブラウンはハンナ先生を背負おうと、残ろうとするマリジアとシャロンを引っ張って逃げていく。


 助かったブラウン。これで大分やりやすくなった。


 向かい合ったクモは間違いなく竜に肩を並べられるタラテクト種。なんでこいつがこんな場所にいるのかは後にして、とにかく倒すことが先決だ。


 体高は3.5メートルくらいで体が黒い鎧のような外骨格で覆われている。頭から尻にかけて、短いトゲが縦に並び、8本の脚の先には鳥の脚のような爪がついている。顔にはヨダレ滴る2本の大きな牙が見えていた。


 そこまで大きい個体じゃないな。


【賢者】大きさはそうですが、スモールタラテクトのオスは通常のタラテクト種とは異なり、成体になると生殖機能を失い、小型化していきます。


 小型化する?


【賢者】はい。そして小型化するほどに力は凝縮され、強力な個体となります。


 じゃあ、こいつは…………。


【賢者】気を付けてください。毒はないものの、コルトの洞窟で倒したタラテクトよりも数段強い個体です。


=========================

スモールタラテクト(成体)

Lv.205

HP:3620

MP:1405

力 :4200

防御:3980

敏捷:2805

魔力:980

運 :100


【スキル】

・縮地Lv.6

・斬糸Lv.7

・強粘糸Lv.7

・硬化Lv.4

・怪力Lv.7

・爪撃Lv.5


【魔法】

・土魔法Lv.5


【耐性】

・苦痛耐性Lv.5

・雷属性耐性Lv.3

・毒耐性Lv.7

・打撃耐性Lv.5

=========================


 ホントだな。しかもパワータイプと見せかけて、糸も厄介そうだ……。


「キシキシキシキシ…………!」


 カチカチと牙を打ち合わせて音を立てている。威嚇か何かだろうか。俺らと奴の距離は30メートルほど。


「どうする? 俺が壁役やろうか?」


「今のユウでいけるのかい?」


「まぁ、なんとかなるだろ」


 と、話している間も俺たちは目の前のタラテクト種から目を離してはいない。そして、その8本の脚をたわめていく……。



 ドンッッ……………………!!!!



 地面が爆発したかのような音と共に、タラテクト種はハエトリグモのように飛び掛かり、一足で距離を詰めてきた。


「ところがそこには見えない壁が」



 ドガ……バキバキ、バキッ…………!!!!



 そいつは俺が張った結界に衝突し、止まった。


 10枚中8枚もいかれるとは。結界魔法のレベルは上がっても魔力が下がるとやっぱり弱体化するな…………。


「だが、止まったな?」


 10個の魔鼓を俺の目の前に円形に並べてスタンバイ済み。セットする弾丸は『火炎魔法』で作った圧縮バレット。


「ゴー」



 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!



 スモールタラテクトは爆炎で見えなくなった。俺のいる場所にまで高温の熱風がゴウッと押し寄せてくる。


「フリー追撃頼むぞ?」


「いやこれ、追撃必要かい…………?」


 煙が晴れたそこには、頭が吹き飛び胴体を損壊したスモールタラテクトの死骸があった。死体からはバチバチと火の手が上がっている。


「あれ?」


【賢者】ユウ様、進化した属性魔法は非常に強力です。火炎魔法の場合、炎の温度が超絶高温となりますのでバレットですら、前とは威力がケタ違いです。

 

 そうなの…………!? そういや、今まで必要なかったから普通に火魔法を使ってたもんな。


 火属性耐性がなければ、超高温がタラテクト種のあの鋼の鎧のような外骨格すらドロドロに溶かしてしまうようだ。


【賢者】ユウ様、もう1匹来ます。先程よりも大きいスモールタラテクトです。


 わかった。


「まだ来るぞ。次はいくか?」


「じゃあ、お言葉に甘えて」


 俺はフリーの後ろへと下がった。



 ドドドドドド…………!



 地響きをたてながらタラテクトが突進してくる。フリーは納刀すると左足を後ろにひいて構えた。

 さすがに手加減はしないらしい。抜刀術、つまりフリーの全力だ。


 そして、スモールタラテクトがフリーに衝突する。その直前、



 ッッッッ…………パンッ…………!



 音が遅れて聞こえてくるかのような斬撃の後、スモールタラテクトはフリーの目の前で縦に真っ二つに分かれ、絶命した。ネチネチとした黒い液体がドロリと流れ出てくる。


 ふぅ、と息を吐き出し刀をブンと振って血を落とした。


「ありゃ、まだだねぇ」


 フリーが前の前方の木々の間を見ていった。


「おいおい、なんだこりゃ」


 森の奥からあのクモの地面を這う独特の動きでぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞと湧いてきた。


 気持ち悪っ!! このダンジョンの地下、一体何があるんだ?


 俺が倒したやつくらいのタラテクト種はいないが、普通のブラックスパイダーやBランクほどのタラテクト種の幼体が混ざっている。そいつらが俺らを取り囲み、キシキシと威嚇の声を上げる。


「これは…………ちょっと面倒だねぇ」


 フリーからもタラリと汗が流れる。


「だな」


 今の俺でこれを抜けられるだろうか。魔力支配で威力底上げした重力魔法で一掃するか?


 とその時、クロム先生の声がした。




「…………お前ら、やっぱり実力隠してやがったか」




 聞こえた瞬間、俺らを取り囲むクモ型の魔物が30匹以上一斉にドパァンと爆散した。


「あはは……………………それは先生の方でしょ?」


 そう言いながらひきつった顔で振り返る。後ろには相変わらずの白衣にくわえタバコのクロム先生が、ダルそうにポケットに手を突っ込んで岩の上に立ち、俺らを見下ろしていた。


 なんだ? 先生は今、何をしたんだ…………?


「オズたちは無事ですか?」


「ああ無事だ。とりあえずここから逃げるぞ」


「了解です」


 クロム先生はポケットから両手を出す。両手には真っ黒の薄手のグローブをしていた。


「町はこっちだ」


 そう言い、風に白衣を揺らしながら俺らの真横を通りすぎた。そして大量のクモでできたわさわさと蠢く壁に近づくと、飛びかかってきた2メートル程のスモールタラテクトを裏拳で軽く小突いた…………ように見えた。



 ドパァンッッッッ…………!!!!



 スモールタラテクトは声も発せずに無言で弾け死んだ。体液だけが吹き飛び広範囲にビシャッとシミを作る。



「「一撃…………!?」」



 その光景に俺らは衝撃を受ける。さすがに俺でもあんなに軽くタラテクト種を殺すことはできない。

 

「あ、あれは武術だねぇ。もはや異次元の練度だよ…………」


 クロム先生はぷかぷかタバコをふかし、鼻歌交じりで、まるで散歩でもしているかのように歩きながら、ドパンドパンとSランクのタラテクト種すら素手で殺していく。どんなに強固な外骨格も、冷たいも牙も関係ない。もはや触れるまでもなく、近付いただけで爆散していくタラテクト種たち。彼らはそんな状況に恐れをなしたのか、ついに追いかけることを止めた。


「キシキシ……………………ッ!!!!」


 親玉らしきタラテクト種が悔しそうに鳴く。そして、彼らはザザッとクロム先生から距離を取るように後退するとそのまま見えなくなった。



「先生、強すぎ…………!?」



読んでいただき、有難うございました。

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