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重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第4章 王都
84/159

第84話 イタズラ

こんにちは。

ブックマークや評価、感想をいただいた方、有難うございます。とても励みになります。

第84話です。今回は少しのんびりしたお話です。何卒宜しくお願いします。


 翌日。今日は午前中に学園の先輩による学園内の案内。そして、午後からは総合実技の授業がさっそくある。


「はい、昨日言ってたと思うが今日は学園内を案内してくれる2人を紹介する。さぁ入れお前ら」


 クロム先生の覇気のない声で呼ばれて教室に入ってきたのは、オズの兄姉の2人だった。2人ともオズと同じプラチナブロンドでクセのないサラサラの髪をしている。


「生徒会長のオーウェン・ウィストン・フィッツハーバードです」


 オーウェン王子は190センチほどと背が高く、引き締まった体だ。髪は短髪でかき上げられ、清潔感がある。その精悍な顔つきに凛々しいブルーの瞳は常に先を見据えていそうだ。


「副会長のキーナ・ウィストン・フィッツハーバードです」


 キーナ王女は160センチほどの身長で、濡れ髪風にセットされた肩くらいまでの長さの髪が良い。小顔でまつげが長く、とにかく可愛い。


 2人がハキハキと挨拶をすると、途端にざわめく教室。


「オズの兄ちゃんと姉ちゃん2人とも生徒会!?」


「ああ、どっちも4回生。今年で卒業だ」


 なんでもないようにオズが言う。


「ねぇ、王女めちゃくちゃ可愛くない!? オズ、後で紹介して!?」


 フリーがオズの肩を掴んで揺すりだす。真顔のオズの額にはめんどくささで怒りマークが浮かんでいる。


「皆さん、ご入学おめでとうございます。まだ不馴れな学園だと思いますので、今日は私たち2人が施設を案内させていただきます。よろしくお願いします」


 オーウェン王子はそう言ってニコリと笑った。よく通る声だ。教室に良い感じの緊張感が走る。場を治めるために王族のスキル『王の威厳』を使ったのだろうか。だとしたらかなり使いなれている。

 学園はある意味、社会の縮図。将来の国王となるなら、ここを治められなければ国などどうにもできんからな。


 そうして教室を出ると、施設案内が始まった。2人が先頭を行き、俺たちSクラスの生徒が列をなして後ろをついていく。2人の説明は簡潔でわかりやすい。

 また、廊下や中庭ですれ違う生徒たちは、我先にと生徒会の2人にニコニコと挨拶している。よく慕われているようだ。


 王の素質があっての『王の威厳』スキルなんだろうな。


【賢者】それはわかりませんが、どうやら現国王にはその『王の威厳』スキルがないそうです。


 え、王族なのにそんなことあるのか?


【賢者】はい。才能が開花しなかったのでしょう。


 そうかなるほど。だから今の国王は国を治める力が弱く、マードックに台頭を許していると…………。


【賢者】はい。


 ちなみに昨日の風呂のイタズラ以降、ガストンとサイファーは何も言ってきてはいない。ただ、何やら2人でニヤニヤして話を聞かずにしゃべっている。


「何もしてこないな。あいつら」


 そう言うとフリーは首を横に振った。


「うううん、今朝あったよ」


「あったのか!? 何されたんだ?」


「僕たちの部屋のドアノブが魔法で溶かされてて、今朝、部屋から出るとき扉が開かなかったんだよねぇ。多分、それであいつら僕らを遅刻させるつもりだったんだよ」


「卑怯だな。それからどうしたんだ?」


「刀でドアごと斬っちゃった」


 おうふ!?


「そ、それブラックウッド管理人に怒られね?」


 あの人、怒ったら恐そうだぞ?


「ユウなら魔法で直せるでしょ?」


 あっけらかんとフリーが言った。


「想定済みかよ…………」


「それでねぇ、ユウならわかってくれると思うんだけど…………」


 フリーが明後日の方向を見ながら頬をぽりぽりとかいている。


「うん?」


 他に何しやがったこいつ…………。


「腹いせにあいつらの部屋のドアも真っ二つにしてきた」


「いやいや…………お前なぁ?」


 バレたらガストンたちは騒ぐだろうな。気付かれる前に直さないと…………。


「ごめんねユウ。止めようとしたんだけど」


 ブラウンが申し訳なさそうに謝ってきた。


「いや、やってしまったものは仕方ない。うーん、そうだな…………どうせ直すなら、やり返しも兼ねよう」


 フリーとブラウンに顔を寄せてもらう。そして俺の計画を話した。


「「いいねぇ」」


「だろ?」



 そして、昼休憩、施設案内も終わり一度寮の食堂を利用すると見せかけて自室へと戻ってきた俺たちはささっとフリーのドアを直し、さっそく作業を開始する。


 ガストンたちの部屋のドアを硬晶魔法で直すついでに、そのドアノブからフリーたちの部屋へと銅の配線を壁の中へと這わせた。

 あいつらがドアノブを握った時にあわせて配線に雷魔法で微弱な電気を流し、あいつらを感電させる。「冬じゃないのに静電気ビリビリ大作戦」だ。


 とりあえず配線を這わせるところまでは完了した。あとは今日の授業が終わってあいつらが帰ってくるのを待つだけだ。


「ユウお前、悪どいな」


 一部始終を黙って見ていたオズが言った。


「頭脳明晰の間違いじゃない?」



◆◆



 それとは別に楽しみにしていた総合実技の時間がやってきた。この授業は前にオズがゴッサムと戦った第2闘技場でやるようだ。全員がそこのグラウンドに集合した。


「まず、お前らがどれだけ動けるか見るために1対1で戦ってもらう。魔法は禁止。無抵抗の相手に攻撃することは禁止だ。じゃあ誰からいく?」


 全員分のメモ用紙を手にしたクロム先生の言葉に、俺らは誰からやるか顔を見合わせた。


「ふん、不甲斐ない愚民ども。私の実力をお見せしましょう」


 ガストンが自身たっぷりに前に出た。


 お前とクロム先生との『不甲斐ない』戦いは昨日見せてもらったけどな。


「おう、ガストンからか。そうだな…………」


 クロム先生が相手を考えていると


「ブラウンと相手を願いたいですねぇ」


 ガストンが言った。


 まじかよ。こっちの弱いとこ狙って来やがった。


「へ? ぼ、ぼく!?」


 突然挙動不審になるブラウン。


「ブラウン、ご指名だ。いけるか?」


「は、はい!」


 先生の声にとっさに返事をしてしまうブラウン。


 あららら…………。


 ブラウンの武器は槍だ。距離をとって戦えるならガストンの剣との相性は良い。ただ2人の性格の相性は良くなさそうだ。


「頑張れブラウン、骨は拾ってやる」


「え、僕死ぬの!?」


 もちろん冗談だが、相手が相手だけに心配だ。何かあれば俺が止めに入ろう。それに、過剰な攻撃はクロム先生が止めさせるだろう。


「はいそれでは始めー」


 クロム先生のやる気のない合図で試合は始まった。開始直後、ガストンはブラウンへと突進する。しかし、ブラウンが先手を取る形でガストンへ槍を突き込んだ。その先端は間違いなくガストンの胸へと吸い込まれていく。


「よしっ!」


 見ていた俺たちはやったと思い、拳を握った。思っていた以上にブラウンの槍術のレベル高い。単に自分に自信がないだけのようだ。


 しかし、ブラウンはガストンの体に触れる前に槍を止めてしまった。


 なんでだ…………?


「ふん」


 ガストンは鼻で笑うと身体を捻って槍を避け、そこから剣の間合いに持ち込む。ガストンの連撃にブラウンは防戦一方へと強いられ、尻餅をつく。そして、剣を首もとに突きつけられ、簡単に敗北した。


「ふっ、やはり弱いですねぇ。そんな愚民とつるんでるからじゃないですか?」


 ガストンの発言にサイファーが一緒になって笑い声を上げる。


「大丈夫かブラウン」


「う、うん。大丈夫……」


 尻餅をついたままのブラウンは下を向いて返事をした。


 ブラウンは深い傷はないものの、全身をくまなく斬られていた。ガストンも剣術レベルはなかなか高いようだ。


「ブラウン君!」


 駆け寄ってきたシャロンがすぐさま回復魔法を開始する。


「あ、ありがとう」


「ブラウン。なんで最初、槍を止めたんだ?」


 そう言うとブラウンはうつむき言った。


「僕、人を傷つけることが恐いんだ…………。無意識に体が反応しちゃうんだよ」


 なるほど、それを知っててわざとあの突進か。あいつ、まじで性格悪いな。


「はい、じゃあ次サイファーか」


 クロム先生が次の試合のメンツを決めていく。


「相手は…………」


「俺だ」


 今のやり取りを見て、若干キレ気味のオズが名乗りを上げた。俺が行くつもりだったが、先を越された。フリーもやれやれと首を振っている。


「次はサイファー対オズだな。はい、開始」


 先生の合図でサイファーがオズへと迫る。


「オズ殺すなよ!?」


 後ろから声をかけると、オズは右手を上げて答えた。


 オズに残り5メートルと近付いたところでサイファーが剣を抜いた。それに対し、オズはナイフを1本だけ右手に持っている。


「飛び散れぇ!!」


 目をひんむき、殺意むき出しで叫ぶサイファーは、オズの首を横から斬り飛ばすように剣を振った。


 だがオズは一歩も動かずに上半身だけを後ろに反らすことで今の攻撃を回避した。


「ぎゃあ!!」


 そして悲鳴を上げたのはサイファーの方だった。


 オズはサイファーの剣を避けながらも、自分の真上を通る奴の剣に注目し、それを握るやつの指を3本、ナイフで切断していた。地面をバラバラと転がる指。


 いや、切断はやり過ぎ!


「お、俺の血が!! 高貴な血が!」


 手を押さえて、ボタボタと砂地に血が落ちていく。


「あーあ、あ」


 馬鹿にしたようにオズは手でナイフをクルクルと回転させ遊びながら言った。歯茎を見せてケタケタ笑っている。


「あっ、あいつを捕らえろ! 反逆罪だぞ!」


 怒り狂ったサイファーがまだある指でこの国の王子に向かって叫ぶ。


「おいおい、ここは学園で今は試合中だぞ?」


 オズは呆れたように言った。


「はいはい、勝者オズ」


 サイファーは続行不可能と判断されたようだ。キレイに関節の隙間を斬ったようだし、あれならシャロンもくっ付けられるだろ。それにオズのおかげでブラウンの分をやり返すことができた。


「じゃあ、次は俺とフリーが行くよ」


「あいよ。はい、開始」


 クロム先生の合図で刀を構えて向かい合う。

 俺とフリーは主武器は封印中だ。ランクが高すぎて学園で平民の俺らが持ち歩くには目立ちすぎる。ということで今は王都で見つけたBランクの刀を使っている。


「今のユウとやるのは初めてだねぇ」


「お手柔らかになー」


 実質、フリーは今の俺の3~4倍のステータスがあるはずだ。勝っているのはスキルレベルとスキルの数、それに魔力か。待っていても勝ち目はなさそうだ。攻めるしかないだろう。


 とりあえず、レアの十八番、縮地の連続使用と足の運びで直線的でない不規則な動きで強襲する。フリーの左側面から縦に斬り込む。


 キィ…………ィン!!


 一瞬、驚いたフリーだったが、下から刀を振り上げ俺の剣撃を弾いた。やはり、ステータスは数段フリーの方が上だ。


「なんなの…………!? 今の動き!」


 マリジアたちがざわざわと驚きの声を上げる。俺たちの動きは完全に学園生のレベルを超越していた。


 そこから剣撃の応酬だ。圧倒的なステータスのフリーに対し、俺は剣術と予知眼、バックステップの縮地を組み合わせて対抗する。


 実質、俺がユニークスキルや重剣を使えば負けることはないだろう。ただ、こんなところで本気を出す必要もない。フリーも手の内を明かすつもりはないようだしな。


 これ、どう決着をつけようかな…………?


 そんなことを考えていると、


「参りました」


 勝手にフリーが負けを認めて刀を鞘にチンッとおさめた。


「おいフリー!」


「わかった。勝者ユウ」


 先生が試合終了を合図した。皆が待っている場所に戻ると、


「お前ら何者だ?」


 オズが驚きを隠せない声色で聞いてきた。


「何者ってなぁ。平民だろ?」


「そうだねぇ」


「おいユウ、フリー」


 話していると、クロム先生がダルそうに言ってきた。


「なんです?」


「手ぇ抜くな」


「げ…………」


 バレてたのか。あそこまでしたら大丈夫と思ったんだけどなぁ。やっぱりこの先生はただ者じゃない。


 残るはマリジアとシャロンだったが、マリジアは弓を使うので、40メートルほど離れた的を狙って矢を射った。10発中9発がど真ん中と、かなりの腕前だ。


 そして最後、シャロンの相手はフリーがした。フリーとシャロンでは大人と子どもくらいの差がある。だがしかし、


「ぐがっ…………!」


 最後、シャロンのメイスがフリーの顔面を直撃すると、フリーがぶっ飛び地面をバウンドした。


「え…………?」


 驚くのはシャロン本人だ。振り抜いた格好のまま固まっている。なぜならそれまでは全くフリーに掠める気配すらなかったのだ。


「ご、ごめんなさい! 大丈夫!?」


 慌てて駆け寄るシャロンが倒れたフリーの横に膝をつき、回復魔法を使う。


「あり…………が、とう……!」


 フリーは親指を立てながら気を失った。


 あいつ、絶対メイスを振る度にぶるんぶるん揺れるシャロンの胸に見とれてたな。律儀にお礼まで言って…………。


「シャロン、回復魔法はいいから。そんなのこいつにはもったいない」


「え、でも…………」

 

 申し訳なさからか、もじもじとするシャロン、可愛い。


「おい、起きろ馬鹿!」


 俺はフリーをがしがし蹴って無理やり起こす。


「ん…………あ、あれ? おっぱ……」


 ふわふわした表情で目を覚ましたフリー。


「近くで見れてうらやましいぞ!」


 そう言いながら思わず蹴った。


「おい…………てめぇら真面目にやりやがれ」


 ドスのきいたクロム先生の声が聞こえた。



「「すんません」」



◆◆



「はい、次は魔法だ。あそこに入学試験の時に使用した的がある。あれ目掛けて撃て」


 先生の指差す先には人間サイズの石柱があった。


 順番に次々と魔法を放っていく。さすがはSクラスとだけあって皆、問題なく破壊できている。入試で見た奴らよりも遥かにレベルが上だ。


 魔法のスキルレベル的にはこんな感じだろう。


オズ   :雷魔法レベル5

ブラウン :土魔法レベル6

ガストン :水魔法レベル5

サイファー:火魔法レベル5

マリジア :重力魔法レベル5、火魔法レベル4


「じゃあフリーやってみろ」


「はいよー」


 フリーが手を向けると、一直線に太さ30センチほどの炎が吹き出し、的となる石柱を赤熱させた。


 炎が拡散せずに直進し、あの火力。これは風魔法も使ってそうだ。いつの間にこんな技を。


「カイルと一緒のパーティにいたからね。それにレアちゃんにも教えてもらったんだよ」


 フリーは俺に見せられて嬉しそうだ。


「なるほどな。すごいじゃんフリー」


 だが、皆の注目は別のところだった。


「無詠唱!?」


「小声で詠唱していたんでしょう? 汚い平民らしいですねサイファー」


「そう言ってやらないでくださいガストン。ずる賢くないと生きられなかったのでしょう。可哀想に」


 可哀想なのはお前らだよ。それにずる賢く生きることは悪いことではない。


「よっし。次は俺だな」


「お前はもういい」


 意気込むと、クロム先生に止められた。


「へ?」


「また闘技場を壊されちゃかなわん。お前が魔法を使っていいのは俺が許可した時のみだ」


 うんざりしたようにクロム先生は言った。


「そんなんありっすか?」


「施設を壊すのはありなのか?」


「な、なしです」


 あの後余程大変だったんだな。


「よし、今日はここまで。明日は休みの(水)だから明後日だな。はい解散」


 その合図を待ってました。


「よし早く戻るぞ!」



◆◆



 フリーとブラウンの部屋に戻ってきた俺たちは、壁から伸ばした配線にさっそく電流を流す準備をする。


「ブラウンの弔い合戦だ!」


「僕生きてる…………」


 ブラウンの呟きはむなしくも消え去った。


 それから10分ほどガストンたちが戻ってくるのを待っていた。そして、ちょうどブラウンがトイレに立った時


「ユウ、お前の魔法どうなってんだ? 土魔法で作れるのは鉱石が限界のはず、まして金属の糸なんて……」


 オズが疑問だったのか、聞いてきた。


「んー、これはコツとかじゃなく、単に技術だな」


「技術…………?」


 ますます不審そうな顔をするオズ。


「お前……他にも色々隠してるだろ? いや、フリーもだ」


 さすがと言うべきか……、周りがよく見えているようだ。


「まぁ、何も別に悪事を企んでるわけじゃない。むしろ逆だ」


「ユウ、オズならいいんじゃない?」


 フリーはブラウンがまだトイレから出てこないことを確認しながら言った。


「うーん、また機を見て言うよ」


 そういうと、オズの雰囲気が剣呑になる。


「これは分かっておいてくれ。俺とフリーはオズ、お前らの味方だ」


 勘の良いオズならこれで言いたいことは伝わるかもしれない。


「…………わかった」


 何か言いたげだったが、オズは言葉を飲み込んだようだ。とその時、ガストンたちの話し声が聞こえてきた。


「お? よし!」


 ちょうど、ブラウンもトイレからひょっこり戻ってきた。


「来たの?」


「ああ、よし行くぞ」


 俺は魔力を雷属性に変換し、微弱な電気を配線へと流す。これで今、ガストンたちのドアノブは帯電しているはずだ。


 オズたちは少しだけ部屋のドアを開けてガストンたちの様子を見ている。


 あ、そっか。俺は空間把握で見ればいいのか。


「…………しかし馬鹿でしたな。ガストン殿がわざと当たりに行っているというのに、攻撃できないとは」


「人を傷つけられないという噂は本当だったようですな。まぁ元々、私にかかればあんな雑魚……」


 そして、ガストンはサイファーの方を見て話しながらドアノブへと手を伸ばす。そして…………



 バチチィッ……!!!!


「あばばばばびびばばばば…………!?」



 その叫び声は俺たちのいる部屋まで聞こえてきた。


「くっ…………くくくく……!!」


 俺らは奴らに聞こえないように笑い声を抑える。


 てか電流強くしすぎて、感電したガストンからプシューと煙が上がっている。これはバレたか…………!?


「ど、どうしましたガストン殿?」


 右手をさすっているガストンにサイファーが話しかける。


「い、いや…………よく冬に起きるあの雷神のいたずらが起きたのです」


 バレてない。馬鹿で良かった…………! というかあれ、ただの静電気なのにそんなたいそうな名前ついてたのか。


「今はまだ秋ですよ? そんな馬鹿な…………」


 サイファーに合わせてもう一度弱めに電流を流す。


 バチッ!


「あばばっっ…………!?」


「ほ、ほら言ったであろうサイファー!」


「ほ、本当ですねガストン殿…………!」


 2人は目を丸くして手をさする。


「あははは…………!」


 よし、今日はこれくらいにしておくか。俺は配線から手を離した。


 今頃ガストンとサイファーはドアノブを恐る恐るつついている。


「あー、スッキリした」



◆◆



 それから約1ヶ月間、ガストンたちとの戦争の日々だった。俺がガストンが飲もうと口を近付けたスープを風魔法で爆発させれば、なぜ俺だとバレたのか、翌日俺の机の上にはゴブリンの糞がぶちまけられていた。

 ただ、オズの机にも被害が及んでおり、シンプルにぶちギレたオズがガストンとサイファーへ濃縮したゴブリンの尿をぶっかけ、3日間2人は強烈な刺激臭に苛まれていた。しかし、問題は俺たちが同じ教室で授業を受けているため、全員が被害を被り、最終的にクロム先生がキレて説教を受けるはめになった。


「許せねぇよなぁ!? なんで俺たちまで怒られなきゃならねぇんだ!」


 クロム先生の説教の後、俺たちは放課後教室に残って文句を言っていた。


「いやだって、そもそも原因は僕たち…………」


 ブラウンが小さな声で言うが何も聞こえない。


「なんか良い復讐の方法はないか?」


 オズが懲りずに皆に案を聞いた。


「んー、だったら…………」


 ということで、ガストンとサイファーのテキストを『成人向け雑誌』にすり替えることにした。カバーだけは元のテキストのままなので閉じて見れば授業で使うテキストにしか見えない。ちなみに雑誌はフリーが王都で購入したものだ。


「これは別に悪いことじゃねぇ。あいつらだって喜んでくれるかもしれねぇだろ?」


 俺が2人のことを思ってそう言うと皆賛同してくれた。


「ぼ、僕のバイブルが…………!」


 泣いているフリーを除いて。



 というわけで奴らが昼ご飯に出ている間にテキストをすり替えた。本当のテキストは鞄の中へ戻しておく。


「クロム先生ー」


「なんだ? またなんかやったのか?」


 授業が始まるなり俺が手を上げると、めんどくさそうにジロッと見てくる。


「や、やだなぁ。なんでそんな疑うんですか。テキスト忘れちゃっただけですよ」


「はぁ。そんなこといちいち俺に言うな。誰かに見せてもらえ」


 ただでさえめんどくさそうに授業をするクロム先生がさらにめんどくさそうに言った。


「はーい」


 別に誰とは指定されなかったので、ガストンに見せてもらうことにした。


「いやぁ、ホントに申し訳ない」


 俺がへこへこ申し訳なさそうにガストンの席へと近付いていくと何故か警戒されていた。


「おい、なぜわざわざこちらに来る? その愚民どもの方が席が近いでしょう」


「いやぁ、だってあの席なんだかゴブリンの糞臭くて。テキスト見せてくれるよねガストン君」


 俺が笑顔で話しかけると、明らかにガストンはこちらを警戒している。失敗かと思えば、ここでクロム先生の助けがあった。


「おいガストン。授業が進まん。もういいからそこの馬鹿に見せてやれ」


「ぐむむ…………」


 クロム先生に言われ、仕方なく机の上のテキストを手に取るガストン。掴んだ瞬間違和感を感じたようだが、そのまま本を開いた。写っていた見開きは肌色が極端に多いページだ。


「ひぃょっ!」


 人間びっくりすると変な声が出るもんだ。そして、慌ててテキストをパタンッ!と閉じ、鞄に突っ込んだ。


「あれ? どうしたのガストン君。テキスト見せてほしいんだけど」


「い、いや。どうやら私も忘れてしまったようですねぇ」


 ガストンが変な汗をかいている。


「おかしいな。持っていたように見えたんだけど、見間違いかな? じゃ、サイファー君見せてもらえる?」


「仕方ないですねぇ。愚民には…………」


 危険を察知したガストンは必死に首を横に振っていたが、サイファーは気が付かなかった。

 そしてサイファーは机の上に置いたまま、テキストをバンッと堂々と開いた。


「いっ…………!?」


 ぎょっ!と驚くサイファー。


 そして開かれた成人向け雑誌を後ろの席のマリジアとシャロンは目にしたようだ。



「「きゃっ…………!?」」



 可愛らしい2人の声が聞こえた。


 さて、もう十分かな?


「あ、すみません。僕テキスト持ってたみたいなんで席に戻りますねー」


 手を上げてそそくさと自分の席に戻る。


 それからはガストンたちはぷるぷると怒りに震えながら、俺はニコニコしながら授業を受けた。


「「「鬼だ…………」」」



◆◆



 ガストンたちとの攻防を繰り広げている間に、ようやく俺が保管していた3つの卵に変化があった。それは深夜、オズも寝静まり、俺もベッドでうとうとしていた時だった。


【賢者】ユウ様、少し宜しいですか?


 …………どしたの、こんな時間に。


【賢者】お休みのところ申し訳ありません。至急お伝えしたいことがございまして。


 至急?


【賢者】はい、例の卵のうちの1つが孵化しそうです。


 まじで!?


 眠気が吹っ飛んだ。


【賢者】一度空間魔法へ入られますか?


 ああ、行こう行こう!




 そうして、久しぶりに卵を保管している空間魔法の部屋へと入った。


「うわっ…………! すんげぇ魔力だな」


 俺の魔力で満たされている部屋に入ると、息苦しいまでの物凄い濃度の魔力を感じた。弱体化中の俺だからこそ、いかに自分が化け物だったかわかる。


【賢者】はい、とてつもない魔力が満ちています。


 ここの部屋は元々何もない部屋だったのだが、さすがに真っ白の部屋に卵を転がして置くのはアレなので、俺がちょくちょく岩や土を持ち込んでは整理して、今やちょっとした庭園のようになっている。そこの真ん中の3メートルほどの岩の凹みに、木の繊維を束ねたものをクッションにして3つの卵を置いていた。


【賢者】蛇足ですが、今やこの部屋内の岩は魔力が浸透し、ミスリル鉱石へと変化しています。


 は…………そんなことあんの!?


【賢者】ミスリル鉱石自体は魔力濃度の高い場所で形成されるものですので、理論的にはあり得ます。


 へぇ…………それはすごいな。っと、それより卵!


「おお!!!!」


 興奮しながら卵を覗き込むと、ウイリーのギルド長ローリーに貰った石のような見た目の卵に、ひび割れが起きていた。中の薄い膜が卵の殻にくっついているため、まだ完全には穴が開いていないがそれももうすぐだ。


「動いた!」


 ヒビの入った殻をペコペコと内側からなんとか押し退けようとする、動きが見える。


【ベル】すごい…………! 魔物の孵化なんて初めて見るわ。助けてあげないの?


 いや、最初は自分の力で出なきゃダメだ。


【ベル】そうなの?


 そういうもんだ。



 そうして見守ること30分、


「キューーーーーーゥ!」


 産まれてきたのは、手のひらに乗るほどの竜の子供だった。まだ、生まれたばかりでプルプル震えている。


「産まれたーーーー!!!!」


【賢者】おめでとうございますユウ様。


【ベル】可愛いー!!!!


 大きさは頭から尻尾までで20センチ弱ほど。翼はなく、茶色みがかった鱗をしている。4足歩行で、見た目はまだ子供のままだからかトカゲに近い。だが、顔はトカゲよりも肉食恐竜のようで、それでいて目がクリっと大きく愛嬌のある顔をしていた。

 実際手のひらに乗せてみると案外ズッシリと重い。


「キューーーーーゥ?」


 身体についたままの卵の殻を取ってやると首を傾げながら、俺を見上げた。


 ヤバッ…………! 可愛い過ぎ!!



============================

名前 なし 0歳

種族:リトルアースドラゴン

Lv :1

HP :280

MP :80

力 :250

防御:400

敏捷:85

魔力:80

運 :20


【スキル】

・魔力操作Lv.3

・魔力感知Lv.3


【魔法】

・土魔法Lv.3

・水魔法Lv.1

・火魔法Lv.1

・重力魔法Lv.3

============================


 産まれたばかりでもやはり竜だな。この小さい身体をしていて、防御力が半端ない。重力魔法は俺の影響かもしれないな。


【賢者】ユウ様、名前をつけてやってください。


 名前か…………。じゃあ喜びの意味を込めて、『ユーリカ』で。


「ユーリカ、宜しくな」


「キューーーーー!」


 ユーリカは元気良く鳴いた。


【賢者】空間を他の卵と分けましょう。魔力を吸収して自然と成長するはずです。


 わかった。


 新たな仲間が出来た。早く他の2つの卵も産まれてくれることに期待だ。




読んでいただき、有難うございました。

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