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重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第4章 王都
82/161

第82話 王子オズ

こんにちは。

ブックマークや評価、感想をいただいた方、有難うございます。とても励みになります。

第82話です。何卒宜しくお願いします。


「やぁ」


 自室の扉を開けると、華奢で線の細いプラチナブロンドの男の子がこちらを向いてテーブルの上に片足を立てていた。まるで不良のように行儀悪く腰掛けていた。

 かなり中性的な見た目をしており、声も少し高い。サラサラで女性のボブカットを思わせる髪だが、前髪が長く目が隠れている。


「…………ふぅん」


 俺を上から下までじろじろと観察しながら呟く。そして何かキラッと光が反射するものを右手でシュッと投げてきた。


「いっ!?」


 俺の喉元に飛んできたものを親指と人差し指でパシッと挟んでキャッチする。それを見ると


 おいおい、これナイフじゃねぇか…………!


「おい、危ねぇだろ!」 


 どういうつもりだこいつ…………?


「やっぱり、お前があの騎士団長とやり合ったやつか」


 あの時の試験、見られてたのか。というかその確認にナイフ投げてくるってどうなの?


「だったらなんだ? いきなりこんなもん投げてきやがって」


 こいつの足元に投げ捨てるように返した。ナイフは床にカッと突き刺さる。


「俺の部屋の相方になるなら申し分ないって意味だ」


 話しながら返されたナイフを床から引き抜くと、話しながら右手でクルクル回して遊んでいる。


 なんでこいつ、そんな上から目線? さては貴族か。うへぇ、めんどくさそうだ。


「お前、名前は?」


「俺はオズ。オズ・ウィストン・フィッツハーバード」


「フィッツ……ハーバード?」


 フィッツハーバードて…………。あっ! こいつ王族かよ!? 最悪だ。貴族より絡みにくいじゃねぇか。


 俺が嫌な顔をしながらため息をついていると、オズは俺を鼻で嗤った。


「おいおい、ここは学園だ。王族の名でビビるのは飽きた。俺は実力でねじ伏せる。勝手にひれ伏すな」


 ひれ伏してないし、偉そうに…………。


「はぁ、この国の王子様かよ。俺はユウだ」


「知ってる。それにお前のことはさっきのでわかった」


 オズは偉そうに言う。


「はいはい、そりゃどうも」


 さっきのナイフは実力を図るためのこいつなりの挨拶みたいなもんか? こりゃ相当癖の強いやつと同室だ。


「まぁ、な。仲良くしようじゃねぇの」


 右手を差し出した。


「ふん……」


 オズはそう言いながらも握手を返した。


 ああ、そこはちゃんと握手してくれるのな。


 握手をしてから、改めて部屋を見回すと、シンメトリーに2人分のベッドと勉強机が壁にくっついて備えられており、真ん中にはテーブルがあった。部屋の広さは30㎡くらい。ちょっと広めのホテルの一室くらいはある。


 これが寮の部屋って、豪華だよな。


「お前、そっちでいいか?」


 入って右手側にはすでに、オズの荷物が置かれてあった。


「ああ」


 ベッドにはカーテンが備え付けられており、ベッドの上ならプライバシーは守られるようだ。さっそく、さっき受け取った制服に袖を通してみる。


「おー、なんか懐かしいな…………」


 制服を着るなんて何年ぶりだろう。ま、記憶がないのでその辺ははっきりとはわからないが。


 男子の制服は灰色の生地に大きめのチェック模様が入ったズボン、上は紺色のブレザーだ。左胸には、魔剣士専攻のSクラスを示す黒色のバッジ。学園では、このバッジでクラスを表しているらしい。


 バッジは専攻ごとに以下のようにデザインが分けられているそうだ。


魔剣士:炎をバックにした交差する2本の剣

剣士 :交差する2本の剣

魔術士:円を描く5属性

治癒士:十字架


Sクラス:黒

Aクラス:赤

Bクラス:青

Cクラス:黄

Dクラス:茶

Eクラス:白


「オズ」


「なんだ?」


 俺が制服に着替え、ベッドのカーテンを開けると、オズはベッドに腰掛けてナイフを磨いていた。


 ほんとナイフ好きだよな。


「これから宜しくな」


「ん」


 それだけ声を発すると、また目線はナイフへと戻った。



◆◆



 今日はもうすることがないのでベッドに仰向けに寝転びながら、手渡された冊子に目を通す。


 なんと、この寮には大浴場が完備されており、いつでも入浴可能だそうだ。…………すばらしい。もうここに永住してもいい。


 2階には食堂があり、寮生は無料で食べることが出来る。さらに、地下には訓練場があり、自由に使用できるそうだ。ちなみにこの訓練場は災害時には避難場所となるとのこと。


 そして初日の予定は以下の通りだ。


09:00  入学式

10:00  クラスルーム

12:00  昼休憩

13:00  上級生の案内による学園内見学

16:00  終了


 学園は1時間ごとの鐘の音で時間を知るそうだ。まぁ、俺には賢者さんがいるからいつでもわかるが。


 また、クラス名簿もついていた。


01:オズ

02:ガストン

03:サイファー

04:シャロン

05:マリジア

06:ブラウン

07:フリー

08:ユウ


「うん、ブラウンの名前もある」


 て、シャロンとマリジアって入試の時の女子2人組だな。Sクラスだったのか。サイファーとガストンてのは知らん奴らだ。


「おい」


「ん? どうした」


 カーテンをシャッと開けると、オズは寝転びながらまたナイフで遊んでいる。そしてこっちを見ずに言った。


「その名簿の出席番号、成績順らしいぞ」


「え……?」


 何…………? てことは。


「まじか。俺、フリーよりも下!?」


 筆記試験か! 数学はほぼ満点だろうから歴史だ。絶対そうだ。


「つら…………。てかオズお前、入試トップかよ!」


「当たり前だ」


「さいですか…………」


 そういや、フリーは誰と一緒の部屋なんだ?


「オズ、俺今から隣のフリーの部屋行くけど一緒に来るか?」


 こいつ、そういうの着いて来るタイプじゃなさそうだけどな。


 オズは少し考えた後、返事をした。


「…………行く」


 行くんかい!


 オズはナイフを制服の下にしまってベッドから立ち上がった。


「言っとくが、さっきみたいにナイフ投げるのはなしだぞ?」


「…………相手によるな」


「おい」


 オズと一緒にドアを出ていく。そばに立って分かったが、オズは少し小柄だ。身長160センチ弱くらいだろうか。


 部屋の扉を開けると、10階というだけあって廊下からは学園内がよく見下ろせる。


 隣の部屋のドアをコンコンとノックし呼び掛ける。


「隣のユウとオズだ。入っていいか?」


「……ユウかい?」


 中からフリーのこもった声がする。そして扉が開いた。


「やぁ」


 フリーも制服に着替えている。あの着流し以外着ているのを見るのは初めてかもしれない。


「やほ。部屋はどうだ?」


「どうもこうも綺麗だし、すごい広いねぇ。快適だよ。そちらさんは?」


 俺の後ろから顔を覗かせているオズのことだ。


「こいつはオズ、王子様だ」


「王子様…………!?」


 フリーがキョトンとした。


「お前は?」


「僕はねぇ、フリーだよ。よろしくねぇ」


 フリーが握手しようと手を出す。


「へぇ…………」


 フリーを観察して、オズが胸元からナイフを取り出そうとした。


 ガッ!


 ナイフを取り出す前にその腕を掴んで止めた。


「投げるなって言っただろ?」


 するとムッとしたようだ。


「投げない。直接刺そうとしただけだ」


「そういう問題じゃねぇし。はぁ、お前とんだ問題児だな」


「あ…………?」


 俺を見上げて、その前髪の奥の目でギロッと睨んでくる。


「はいはい」


 てきとうにオズをあしらう。こいつよりまだウルの方が可愛げがある。


「ははは。なんだかユウ、大変そうだねぇ。……ま、僕はナイフくらい、なんの問題もないけど」


 フリーの目が普段より細く鋭くなる。


「…………へぇ?」


 オズも殺気を出す。


「おいこら、フリーも煽るな」


 注意するとフリーはペロッと舌を出した。


 まったく、ほんとにこいつらは……!


「それにオズ、こいつは今の俺より強いぞ? 止めとけ」


「いや、それはどうなんだい?」


 フリーはそう言うが、さすがにステータスを1/10に抑えられちゃ、多分俺に勝ち目はない。


「それは楽しみだ」


 オズがやる気満々で口元を吊り上げニヤッと笑う。とりあえず後ろから両腕をがっちりと押さえ、羽交い締めに拘束する。


 ホント、とんだ王子様だよ。


「おい邪魔すんな。確認させろ!」


 バタバタと暴れるオズを無理やり押さえつける。とりあえずそこまで力は強くない。

 その時、部屋の中から聞き覚えのある声がした。


「ど、どうしたんですか……?」


「ん?」


 このおどおどとした声は…………。


「あ!」


 ひょこっとドアの隙間から顔を出したのは


「ブラウンか?」


「ユウさん!?」


 フリーと同室なのはターゲットのブラウンだった。相変わらず丸坊主で目線がさ迷うところ、気が弱そうだ。こないだ物置に閉じ込められてたが、そこはまぁ大丈夫そうだ。

 ただ、さっそく敬語が出てきてた。


「はい。前言ったよな、敬語はナシ」


「わ、わかり…………わかったよ。まさかフリーがユウの知り合いだったなんて」


「まぁな」


 そして、ようやく暴れていたオズが大人しくなった。


「ん? おいオズこいつはダメだぞ? ナイフ投げたら本当に死ぬからな?」


「馬鹿にするな。見ればわかる」


 ブラウンを見てやる気をなくしたようだ。確かに見た感じブラウンは武闘派ではない。魔法、もしくは頭の良さで合格したのだろう。


「なんのことかわからないけど、馬鹿にされてる気がするよ…………」


 ブラウンがわかりやすく落ち込んだ。


 顔合わせも済んだことだし、とりあえず部屋の中に入れてもらった。と言っても中は俺たちの部屋と変わらない。


「ま、座ってよ」


「ああ」


 フリーに促されるまま、ベッドに腰掛けた。ブラウンは床に、オズはまた部屋の真ん中のテーブルの上に行儀悪く座った。


「ユウもそうだけど、まさかオズ王子と同じクラスだなんて」


 ブラウンは感激だというばかりに言った。


「お前のことも知ってるぞ。クソマードックのとこの気弱坊主」


「あはは…………」


 ブラウンは眉を下げて笑った。


 笑って誤魔化すなよブラウン。せめて言い返せ。


「オズって、あれだよねぇ。天才的な戦闘センスだと言われてるあの第3王子様」


 フリーが人差し指を立てながら言う。


「へぇ」


 フリーも知ってるんだな。


「言っとけ。所詮レベル2に勝てはしない」


 苦虫を噛み潰したような顔でオズが言った。


「まぁ、普通そうだよねぇ」


 フリーがニコニコしながらこっちを見る。


「な、なんだよ」


 そりゃレベル1の時にレベル2のカイルと引き分けましたけどなにか?


「この学園の卒業試験ではレベル2に上がる奴がたまに出るらしいな。まれに死人も出るそうだが」


 死人て何させられんだ? それ。


「でもあれなんだよね? 卒業試験ってレベル2の人達がサポートに入ってくれるから、考えられる最高の環境でチャレンジできるって! それ目当てで入学する人もいるくらいだし」


 ブラウンが興奮したように話す。


「へぇ、まぁレベル2になれりゃ、将来は引く手数多だろうしな」


 王国も戦力アップに力入れるのも頷ける。この世界じゃ、レベル2になることは一生の目標みたいなとこあるよな。


「将来ねぇ……」


 そういや、俺騎士団に勧誘されたんだよな。


「ユウ。言っとくが騎士団長の本気はあんなもんじゃないぞ」

 

 見透かされたようにオズが睨んだような雰囲気で言ってきた。


 調子に乗るなって言いたいのか。


「わかってるわかってる。俺なんかじゃ、足元にも及ばねぇよ」


 こう言っとけばオズも大人しくなるだろ。謙遜は美徳だな。うん。


 そうして、顔合わせも済み、自己紹介を兼ねての雑談をしてから今日はベッドに入った。


 聞くところ、どうやらオズの2人の兄と姉もこの学園にいるらしい。つまりは2人とも王子と王女だ。オズは兄弟から話を聞いているのか学園に詳しかった。

 また、ブラウンも2人の兄が学園にいるそうだ。ブラウンは遠慮気味に話していたが、聞いた感じだとその兄たちはブラウンと同じような人間だと考えない方が良さそうだ。つまりは貴族を鼻にかけるタイプということ。めんどくさそうだから会いたくはないな。

 後、ブラウンにはフリーが朝弱いから起こすのは大変かもしれないとだけ伝えておいた。



◆◆



 翌日、賢者さんの目覚ましで7時半に目が覚めた。寮のベッドはふかふかで寝心地が良かった。そこからオズを起こす。


「おーい、オズ。朝だぞー」


 覗き込めば、案外可愛い寝顔ですやすやと寝ているオズの頬をぺしぺしと叩く。寝顔はかなり幼い。


 てか、オズのパジャマ絹か何かでできてんのか? 質がめちゃくちゃ良い。さすがはリアル王子様だ。


「…………ん、ああ、くそ。ここのベッドは最悪だな」


 オズが首に手をやりながら起き上がる。


 いや、寝心地良かったが? 王宮のベッドと比べんなよ。


「てめぇ、寝顔見やがったな?」


 前髪で見えないが、多分不機嫌そうに睨んでいる。


「いんや?」


 寝起きは機嫌が悪いようだ。


 2人とも眠い頭でボーッとしながら制服に着替える。


 てか、オズの制服大きいな。ブレザーの袖なんて、長すぎて女子高生の萌え袖みたいになってしまっている。ちょっと可愛いなこいつ。歳はいくつなんだろう。


 食堂で飯を食べてから隣の部屋のフリー、ブラウンと合流した。フリーは眠そうな顔。そして、ブラウンはげっそりとしていた。


 やっぱりフリーの奴、全然起きなかったんだろう。ブラウン、朝飯食う暇あったのか? 後で起こすコツを教えてやろう。


「よし、そんじゃ行くか」


「ふわあああ…………へーい」


 まだ半分寝ているフリーのケツを蹴飛ばしながら、寮を出た。今日は快晴で太陽が輝いている。学園内の芝生には水属性の魔石でスプリンクラーのように水が撒かれ、日光で芝生についた水滴がキラキラと光っていた。


 ぞろぞろと他の学生たちも寮から出てくる。キョロキョロと不安そうにしている奴等が新入生だろう。分かりやすい。


 そして、生徒たちの流れに逆らわないようについていくと、学園内ど真ん中を通るメイン道路、その先にある総合教育棟の第1講堂へと皆が吸い込まれていた。

 それこそ1000人以上入れる講堂だ。中は体育館のような板張りで、新入生は前方へと案内された。魔剣士専攻のSクラスは最前列のようだ。出席番号順に俺はフリーの隣へ並ぶ。中はすでに1000人近くの生徒達で埋め尽くされていた。


 フリーと、周りを見回しながら可愛い子がいるとかいないとかのしょうもない話をしていると、舞台の上に教員が上がった。そして、興味のない誰だか知らん教員の前説の後、学園長が前へと上がっていく。

 学園長は仙人のような白く大量のヒゲに、怒っているかのような鋭い眼光。白髪はその髭と途中で混じり、肩まで達している。そして、まるで底が見えない、巨大で深い魔力を感じる。


「あれがSSランクの学園長ブレイトン・スウェイツか……」


「あれは…………強いねぇ。ユウ、あの人に勝てそう?」


 フリーもはっきりと目が覚めたようだ。学園長を見ながら耳打ちして話をする。


「前の俺でも、わからない、かな…………」


 魔力は相当あるな。元の俺に近いかもしれん。ありゃ化け物だ。


「そりゃヤバイね」


 どうやらSSランクというランク付けには、相当の振れ幅があるようだ。前に会ったクラン『レッドウィング』の団長マシュー・レッドメインよりも、入試で会った聖光騎士団の団長よりも、数段上だ。


「新入生諸君、まずは入学おめでとう。私はこのレムリア学園の学園長だ」


 挨拶が始まると拍子抜けした。


「思ったより普通の人だな」


 隣にいるフリーに対して、また緊張感なく話し掛けた。学校じゃ、まともに校長の話なんか聞いてる生徒はいなかった。そんなノリで。


「だねぇ」


 いつものようにのんびり返事するフリー。だがその時、




「……………………おい」




「へ?」


 声がした方を見れば、学園長が舞台の上から俺を見下ろしていた。いや、まるで親の仇でもあるかのように憎々しげに睨み付けていた。


 お、俺…………!?


 講堂内がしん…………と一気に静まり返る。



「貴様、俺が話している前でしゃべったのか…………?」



 ピシッと空気が変わり緊張、とてつもないプレッシャーがゴッッッ!!と駆け抜けた。そしてそれらは物理的な力を持って迫ってきた。

 学園長の目の前の床板が軋んだかと思うと、音速でバキバキと俺に向かって床板がバキバキとめくれ上がる。講堂内のガラスに一斉にヒビが走り、天井からは剥がれた建材が落下してくる。

 そしてそれが俺に届いた瞬間、身体の芯を抉るような冷たい殺気。心臓を素手で掴まれたかのような感覚と、膝を折ってしまいたいと願うほどの恐怖が俺を襲う。呼吸が苦しくなり、冷たい汗が服の下を伝うのを感じる。


 こ、この人魔王かなんかか…………!? 


 だが、俺は今こそ弱体化しているが、元々この人並みの力を持っている。そのためか、踏ん張って堪えることができた。


 と、とりあえず謝ろう。この人は話を聞かない奴はご法度なんだな。


「す、すみませんでした」


 深く、誠意を込めたつもりで頭を下げた。


 すると、何が面白かったのかわからないが、



「ふっ…………!! がっはっはっは!!」



 学園長は突然、我慢が出来なくなったかのように大口を開けて爆笑しだした。


 は…………!? 大勢の前で俺を謝らせて満足したかこのジジイ!


「面白そうなやつだ」


 そう言うとサッと切り替え、さっきの迫力はどこへやら普通に挨拶を続けだした。


「では、話を続けるが…………」



 バタン!! バタ…………バタバタ、バタバタバタバタ!



 ブラウンが突然、糸の切れた人形のようにパタリと崩れたかと思うと、マリジアやシャロンまでも続いて倒れ、後ろのAクラスの生徒数十人がダラッと一斉にドミノのように倒れた。


「ん……はぁーーーぁ!! あぁ……はぁーーーっあ!」


 オズも片膝を床について、真っ青な顔で必死に酸素を追い求めるように荒い呼吸を繰り返している。


「ユ、ユウ…………さすがだねぇ」


 フリーは大丈夫かと思えば、膝が震えていた。そして、立っていられず尻餅をついた。


 今のプレッシャー……!! そうか周りの奴らは耐えられなかったのか!


 つまり、少なくとも俺があのプレッシャーに耐えられる実力だとバレた。


【ベル】あはは。これはやられたわね。


 普通全校集会でこんなことやる!?


【ベル】まぁいいじゃない。なんとかごまかしなさいよ。


 うへぇ…………。



「あ、あー死ぬかと思った……」



 胸を撫で下ろした。


【ベル】下手すぎ!!


 え!?


 ポカンと俺を見つめる生徒と教員たち。


「がっはっはっは!! なかなか元気のあるやつもいるようじゃ! もうよい、早くそいつらを助けてやれ」


 そうして、倒れた生徒を運び出すため、一気に慌ただしくなる。


 5分ほどして、入学式は再開した。学園長のクラスター爆弾並みの威圧が直撃した1回生のSクラスとAクラスは俺とフリーしか残っていない。その後、俺たちの周りががらんとしたまま、入学式は滞りなく入学式は進行した。本当は新入生代表の挨拶をオズがする予定だったらしいのだが、急遽取り止めとなった。


 最後、再びあの学園長が舞台へと上がった。それだけで皆がピシッと姿勢を正す。


「そう身構えずともよい。これだけは俺から説明させてもらう。知っている者も多いと思うがこの学園の個人ランク戦についてだ」


 なんだそれ、知らんぞ。


 要約すると以下のようだ。

・全校生徒が対象。決闘スタイルで試合を行い校内順位100位までを決める。

・決闘場所は校内指定の10箇所。

・相手を戦闘不能にする。もしくは負けを認めさせると勝利。

・決闘申請は拒否することも出来るが、連続10回拒否するとランクが下がる。

・相手を死なせてしまうと退学。


 げ…………大分ぶっそうだな。過去には退学になった者もいたそうだ。あの学園長あってのこの学園か。


 ランクは常時更新され、学園で最も大きい中央噴水広場に100位以内の者の名前が表示されているそうだ。ランクは頻繁に入れ替わるため、常に確認が大切だ。

 さらにトップ5は腕章を付けることが義務付けられている。1位は腕章に星が5つあり、順に減っていき5位は星が1つらしい。要するに星を奪い合うゲームのようなものだ。


「特に新入生は上級生に容赦なく下克上することだ。この学園は、家柄ではなく、実力がものを言う。1年以上5位以内をキープできた者には褒美を与えよう。それでは健闘を祈る」



◆◆



 猛威を振るった学園長のおかげでSクラスの生徒はほぼ壊滅。ホームルームは昼からに延期となった。


「暇だなー」


「暇だねぇ…………」


 俺とフリーは一足先に昼食を食べ終え、自分たちの教室で他の生徒が保健室から復帰するのをのんびりと待っていた。

 教室は階段状になった大学の講義室のような部屋だった。広さは高校の教室2つ分くらい。8人しかいない魔剣士専攻のSクラスの教室はかなり広く感じるだろう。正面には大きな黒板がある。魔道具のようで、専用の杖をかざすと色が変わり文字を書けるらしい。


 俺は教壇の上に座って足をぶらぶらさせながらフリーと話していた。


「そろそろアリスたち、出発した頃かなぁ」


「またワーグナーのダンジョンに向かうんだってねぇ」


 フリーは生徒用の机の上にでろーんと寝そべっていた。誰もいない教室って普段できないことをしたくなるな。


「アリスたち、ワーグナーについたらまた来たのかって思われそうだな」


 あははとフリーは笑う。


「あ、そうそう。それでアリスたちにフリーのアレ、頼んどいたぞ」


「アレって?」


 フリーがこっちを見た。


「お前のユニークスキルで使う魔剣や妖刀があったら取っておいてくれってな」


「やっ、ほんとかい!?」


 フリーががばっと飛び起きた。


「ああ、それは嬉しいねぇ」


 フリーの声が弾む。そう、フリーのユニークスキル『魔剣喰い』は食べた魔剣の能力をフリー自身が獲得できるというぶっ壊れ性能のスキルだ。


「てか、知ってるか? 今年のSクラスは魔剣士専攻だけらしいぞ」


 賢者さんがさっそく学園内の情報を収集してくれている。


「そりゃ、Sクラスがあることが珍しいからねぇ。毎年、いても1人くらいだからそういう人はAクラスに一緒に入れられてるんだって」


「ふぅーん? なら今年、8人もいるのはすごいことなのか?」


「らしいよ? なんでも魔剣士専攻のSクラスができるのは20年ぶりなんだとか。上級生たちからは『危険世代』だって、警戒されてるんだってねぇ」


「まぁ、そりゃランク上位のやつらは気が気じゃないだろうな。今頃、俺らに今の順位を奪われるんじゃないか、ひやひやしてんじゃねぇか?」


「確かにねぇ。ユウは順位興味あるの?」


「いやどうだろう。でも面白そうではあるよな」


 とその時、教室の扉がガララと開いた。そこにいたのはまだ若干顔色が悪いオズだ。


「お、もう大丈夫なのか王子様?」


 俺がおちょけてそう言うと、オズのプライドにさわったようだ。ムッとして言い返してきた。


「黙れ鈍感馬鹿。あんなもの普通にしてられる方がおかしいんだ」


「へいへい。どうせ学園長の威圧に気づけないほど俺は鈍感ですよ」


 気付かなかったわけではないが、そんな風にとらえてくれたら俺も目立たなくてやりやすい。

 それに軽口を叩けるほど一晩でオズとは仲が良く?なってきた。フリーの方はどうなんだろうな、ブラウンとは上手くやっているのか? こっちが本題だ。だがブラウンは波風を立てたがるタイプではないだろうから、まだやりやすそうだ。


 オズはドサッとカバンを机に置くと、一番前の席に座った。


「オズ、もうお昼は食べたのか?」


「ああ」


 とその時、教室の扉を力強くノックする音が聞こえた。


「失礼!」


 ガララと勢い良く扉を開けて入ってきたのは、筋肉で制服がはち切れそうになっている角刈りでまじめで頭の固そうな男子生徒だ。


「あ、どちらさんで?」


 見た感じ、かなり使いそうだ。


「お前らはこのクラスの生徒か?」


 見た感じ上級生っぽい。一応敬語使うか…………。


「そう、ですけど?」


「誰でもいい! 俺と試合してくれ!」


 うへぇ、さっそくかよ。


 よく見ると1つ星の腕章をしている。てことは…………。


「第5位ですか、先輩」


 オズが立ち上がり、話している俺たちの方へと歩いてきた。


「ああ、そうだ。お前は?」


「オズです」


「オズ?」


 どこかで聞いたことがあると、アゴに手を当てた。


「へぇ、入試トップ合格、天才と名高いあの第3王子か。俺はゴッサム。3回生剣士専攻だ」


「俺が相手しますよ」


 オズが喜んでいるのが、なんとなく雰囲気で伝わってくる。


「助かる。『危険世代』と呼ばれるSクラスの実力が気になって、いても立ってもいられなくてな」


「あ、その試合、俺らも見学いいですか?」


 手を上げて聞いてみる。


「かまわん。ここからなら第2闘技場が近い。行くぞ!」


「わかりました」



読んでいただき、有難うございました。

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