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【100万PV突破!!】重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第4章 王都
79/159

第79話 学園受験

こんにちは。

ブックマークや評価、感想をいただいた方、有難うございます。とても励みになります。

第79話です。何卒宜しくお願いします。


「えーーーーっ!!!? 学園に通うって本当!?」


 レアが猫耳をピンッと伸ばして、すっとんきょうな声をあげた。


「ああ」


 俺たちはレオンのところから戻り、宿でアリスたちと合流したところだ。


「いいなーーー!!」


 レアがキラッキラした猫目で俺を見上げる。


「良くないんだよそれが……!」


「どうして?」


 不思議そうに聞いてくる。


「マードックの息子ブラウンと同じクラスに入れだとよ」


 うんざりした風に答える。


「それのどこが良くないの?」


 わからないレアは首をかしげる。


「ブラウンってやつはかなり勉強のできるやつで、Sクラス候補なんだってよ」


「それは大変ね。確か…………レムリア学園は実技と筆記試験もあるって聞いたわ」


 アリスが思い出すように斜め上を見ながらつぶやく。


「あと3週間だぞ!? 実技はまだいいが、筆記試験どうすりゃいい!?」


 思わず興奮して声を大きくした。


「ユウなら実技で満点出せるでしょ?」


「いやいやいや! 筆記試験には足切りがあんだよ。それも50点」


「あら」


 アリスがその大きな瞳で含み笑いをしながら面白そうに呟いた。


「あらじゃないー!」


「なぁなぁ、ユウは何を騒いでるんだ?」


 ウルはこてんと首をかしげ、不思議そうにレアに聞いていた。


「ユウは勉強が出来ないんだよー」


 レアが頬に手を当てて不憫そうに言った。


 いやストレートか…………!


「なるほどなー。ユウはアホだったのか」


「うるさいなウル。お前よりは賢いわ」


「なんだとー!?」


 キー!と掴みかかってくるウルの頭を片手で押さえながら考える。


 いや、実際数学とかならまだなんとかできる自信はあるが、問題は歴史なんだよなー。


「フリー! お前はどうなんだ?」


 ニコニコしながら俺たちのやりとりを眺めていたフリーにも聞く。


「僕はデリックおじさんに最低限は教えてもらってたからね。それに前のパーティじゃ、お金の出入りも管理してたからそれなりにできるよ?」


「それで50点超せるの? あの、世界的に有名なレムリア学園なのよ?」


「あははは…………無理だねぇ」


「「「「…………」」」」



◆◆



 ということで猛勉強が始まった。テキストや資料は、いつの間にか宿屋の部屋の前に積まれてあった。誰がくれたかは謎だ。

 ちなみにギルマスに学園に通うことになった経緯を説明したところ、爆笑され、面白そうだからそのまま情報を抜いてこいと言われた。この先、ギルマスとレオンどちらに協力すればいいのやら…………。


 試験は以下のようになっているらしい。


《実技試験》(最低2点を選択)

・試験官との模擬戦

・魔法での標的破壊

・体力測定

・魔力測定


《筆記試験》(2点を選択)

・数学

・政治

・魔法理論

・歴史


《その他試験》

・面接試験


 筆記試験の科目は日本ほど多くないようだ。それに言語科目もない。そもそも皆同じ言語を話しているので、言語自体に名前すらない。筆記試験の分、実技に重きを置いていることがわかる。これなら実技で頑張ればなんとかなるかもしれない。

 また俺もフリーも、筆記試験は数学と歴史を選択した。詠唱主体の間違った魔法理論を覚える意味はない。せめて役に立つ方をすることにした。


 まぁ、最悪賢者さんに頼るつもりだ。でも出来るだけ自力でしようと決めた。そしてフリーも数学は得意だったが、歴史は苦手だったようだ。まさか、こっちの世界でも机にかじりついて勉強することになるとは思わなかった。


「アリス先生」


「なによ」


 雰囲気のものなのか、だて眼鏡をかけたアリスに聞く。これはこれでかなり似合っている。


「この国の20代目の王様はなんで死んだんだ?」


 俺の質問にくいっとだて眼鏡を指で上げてアリスは答える。


「53代アーサー王は戦で死んだのよ。当時の魔界ユゴスのタラテクト種から国を守るために相討ちになったの」


「そのアーサー王は歴代でも最強、理に匹敵すると言われた王なんだろ? タラテクト種ってそんなに強いのか?」


「匹敵するってだけよ。当時は誇張されたんじゃないかしら。実際、理とそうでない者の差は埋められるものじゃないわ。それにタラテクト種は個体によればSSSランク冒険者でも勝てないとされてるもの」


 アリスはサラサラの黒髪を耳にかけながら説明する。


「ふーん」


「ならこの『失われた大陸』ってのはなんで消えたんだい?」


 フリーもアリスに聞いている。


「そこには今で言うところのカルコサ王国とクルス帝国のような2つの大国があったとされてるわ。この国は仲が悪くどちらが大陸を支配するかで争っていたそうなの」


 アリスが人間界の地図をくるくる伸ばして広げた。そもそも、ユゴス側の地理はわからないらしい。


 そしてアリスは俺たちがいる王都からずっと南の何もない広い海の上を指差した。


「ここ。ここにあったとされてるわ。でも、いつまでも決着がつかなかった2国は互いに有する『理』を戦争に投入したそうなの。その結果…………」


 アリスは言葉をためた。



「「まさか…………?」」



「そう、2人の理の戦いで大陸ごと消滅したそうよ。それで世界規模で理の戦争への介入は全面的に禁止されたの」


「それはえげつない…………。わかった。理には絶対に手は出さない。俺だって大陸消せるやつと戦おうとは思わない」


「てかアリス先生は物知りだねぇ」


「昔、居候させてくれてたおうちに歴史に関する書籍が多くてね。隠れてよく読んでたのよ」


 懐かしそうに渇いた笑みでアリスは言った。


「へぇ」


 アリスに子どもの頃の話はタブーだな。


「ていうか、これくらいは常識でしょ?」


「へへぇ」


 アリスによると、3000年もの歴史を持つこの王都は敵国に攻めいられても、一度として落ちることはなかったそうだ。その事実は不落の城として人間界でも有名なのだとか。だが、反乱では何度も落ちかけているらしい。どうも内側からの攻撃には弱いようだ。


 また王都がなぜ3000年の歴史かというと、大昔、人間界はもっとずっと広く、コルトの町そばの魔物の森のずっと向こう側も人間界が広がっていたそうだ。

 だが、およそ3000年前、魔界ユゴスに『混沌の理』と呼ばれる者が生まれた。そいつは、あらゆる手を用いて人間界を滅ぼそうとした。その時人類は初めて全種族、全ての国々が一丸となり、全ての『理』をも投入し、血反吐を撒き散らし死に物狂いで抵抗したそうだ。だがその結果、人類は戦に敗れ多数の死者を出した。そして人間界は大きく後退することになったらしい。これを境に紀元前と紀元後というような扱いになっているようだ。

 なぜ、まだ人間界が残っているかというと、最終的に『混沌の理』を倒した者がいたからだとされているが、記録がほとんど残されておらず、詳しいことはわからないらしい。その名もなき人物は今もなお、神様のように崇められているそうだ。


 そして逃げ帰った人々が元々あったレムリア山を街に改造してできたのが、ここ王都だ。おそらくその時だろう。アラオザルの町が生まれたのも。


 そう考えたら人間同士で争いをしている今って平和だよな。


「勉強になるなぁ」


「ほんと、試験大丈夫なのかしら」


 アリスがジト目で見てくる。


「多分」


 実際、ここらへんは堅苦しい政権争いではなく、ほぼ物語を読んでいるようなので面白いと思える。問題は内国史だな。なんでどの世界も王様って似たような名前が多いんだろう。


 まぁまだ3週間ある。とにかく歴史にしぼって50点さえとれれば、あとは実技でなんとかしよう。


 その夜、話し合いで、俺とフリーはこのまま学園へ通い、レア、アリス、ウルの3人は王都で情報収集を行いながら冒険者として活動するということになった。


 まぁ俺らがレムリア学園に合格する前提の話だが。


 そして、試験1週間前、きっちりとレムリア学園の受講票が宿へと届けられた。レオンの力は本物のようだ。


 倍率は9倍ほどだ。どうやら貴族くらいじゃないと学問を教えられていないらしく、俺らのレベルでも合格するのは難しくないらしい。もちろん、これはすでに日本での知識があり、冒険者として活動してきた経験がある俺だから言えることであって、普通の家庭で育ってきた子供からするとかなり高難易度だそうだ。



◆◆



 そして、試験当日。


「でけー!」


 俺たちは下地区と中地区を隔てる壁の前に来ていた。こちらも高さ30メートルほどある。壁のせいで日光が当たらないためか、壁の近くに家屋はない。そして周囲をぐるっと水路が流れていた。水はずっと上の貴族地区から流れてくるようだ。どこかから水を引いているか、もしかすると巨大な水属性の魔石があるのかもしれない。


「大きいでしょ。ここの門は素通りできるんだけど、さらに上の貴族地区には許可がないと入れないみたい」


 アリスは水路をまたいだ橋の先にある大きな門を見上げながら話す。


「へぇ。それで、学園はどっちだ?」


「学園は門をくぐってまっすぐ行って、デカイ交差点を右に曲がったら見えてくるぞ」


 ウルが得意気に答えた。


「な、なんでお前らそんなに詳しいんだ?」


「そりゃあ、私たちで王都を探検してたからね!」


 レアがビシッとピースサインを突き出した。


「俺らが勉強してる間!?」


「そりゃ、だってあたしたち暇だったもの。この辺はだいたいわかるわ。行きたい場所があったら教えてあげられるわよ」


 自信満々でアリスは言う。


「おまえらなぁ」


 俺らが血反吐吐いて勉強してる時によ…………。


「あんだけやったんだもの。大丈夫でしょ?」


「やったって言っても3週間だぞ?」


「歴史だけじゃない」


「まぁな」


 実質、2人とも合格は問題ないレベルまで達していた。俺の場合、賢者さんとベルにも覚えてもらっていたので大丈夫だ。ちなみにベルはめちゃくちゃ頭が良かった。


「実技も不安がないわけではないんだよな」


 そう言って俺は中指にはめた指輪を見る。


「それが力を抑える指輪なの?」


「そうだ」


「へぇ、そんなものがあるんだね」


 アリスとレアがよく見ようと指輪を覗き込む。


 俺の現在のステータスだ。実際1/10になっていても、Aランクの魔術士くらいのステータスは余裕である。しかし、これでも学園で浮かないか不安は残る。


============================

名前ユウ16歳

種族:人間Lv.3

Lv :1

HP :1350

MP :3690

力 :890

防御:940

敏捷:1150

魔力:4070

運 :29


【スキル】

・魔剣術Lv.1

・体術Lv.8

・高位探知Lv.5

・高位魔力感知Lv.6

・魔力支配Lv.7

・隠密Lv.9

・解体Lv.4

・縮地Lv.6

・立体機動Lv.6

・千里眼Lv.8

・思考加速Lv.6

・予知眼Lv.8


【魔法】

・炎熱魔法Lv.1

・水魔法Lv.7

・風魔法Lv.9

・硬晶魔法Lv.1

・破雷魔法Lv.1

・氷魔法Lv.9

・超重斥魔法Lv.4

・光魔法Lv.5

・神聖魔法Lv.4


【耐性】

・混乱耐性Lv.7

・斬撃耐性Lv.8

・打撃耐性Lv.8

・苦痛耐性Lv.10

・恐怖耐性Lv.9

・死毒耐性Lv.9

・火属性耐性Lv.4

・氷属性耐性Lv.2

・雷属性耐性Lv.2

・重力属性耐性Lv.9

・精神魔法耐性Lv.10


【補助スキル】

・再生Lv.6

・魔力吸収Lv.1


【ユニークスキル】

・結界魔法Lv.6

・賢者Lv.4

・空間把握Lv.5

・空間魔法Lv.3

・悪魔生成Lv.1→2

・黒龍重骨Lv.1

・⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛


【加護】

・お詫びの品

・ジズの加護


【称号】

・竜殺し

・悪魔侯爵の主

・SS級ダンジョン踏破者

============================



 1/10のステータスでもスキルレベルは変わらないから十分だとは思うが、やはりどうも体が重く感じるし、魔力の出力の感じも違う。少しならしておくべきだったか。



「広いなー!」



 石造りの塀の間にある学園の門をくぐると、石畳の道がのびていた。遠くにそびえ立って見えているのが校舎だろう。レンガ造りのおしゃれなヨーロッパ建築の建物だ。4階建てで尖った屋根が見える。そこまでの道は複数に分岐しており、校舎は広大な敷地に複数あるようだ。石畳の道以外はキレイに整備された芝生が青々と茂り、移動手段に馬車が闊歩している。まるで私立大学の広大な敷地内のようだ。


「それじゃ、試験頑張ってね」


「ユウとフリーさんなら大丈夫!」


「よくわからんが楽しそうだな!」


 ウル、楽しくはないぞ。


 アリスたちの見送りはこの門までだ。


「おう!」


「頑張るよー」


 アリスたちの声援を受け、学園に足を踏み入れた。



◆◆



「さて、試験会場はどっちだ?」


「ユウ。ほらこれ」


 看板が立てられ矢印で案内があった。


 案内に従って進み、歩くこと5分もしないうちに試験会場へ到着した。午前中は筆記試験だ。同時に申し込んだからか、俺の後ろの席がフリーとなっていた。教室は大学の講義室のように後ろの席ほど高く段々になっている。椅子は木でできておりお尻が痛くならないようにクッションが縫い付けられていた。前には黒板があり、天井に輝く魔石灯以外は異世界というのを忘れるほど近代的であった。


 受験者は俺らと同じような年齢の者から、さらに若い者も結構いた。試験は毎年受験できるため、練習に受けに来ているのかもしれない。200人ほど入る講堂はカンニング防止のためか、隣同士にならないように1席ずつ空けてすべて満席となっていた。


 試験が始まる前に教室内を見回すが、マードックとこの息子の姿は残念ながら見つからない。別の教室か。


 ギリギリまで必死にテキストを見直す受験者が多い。日本でもよく見慣れた光景だ。そして、試験時間は90分が2回。試験官らしきおじさんの合図で始まった。



◆◆



「フリー、どうだった?」


 がやがやと試験について話す学生たちでごった返す食堂で昼食食べながらフリーに聞いた。食堂も敷地内の一画に作られており、今回の受験者が揃って食べに来ていた。


「まぁまぁかな。数学は大丈夫だけど、問題は歴史だねぇ」


「それな。合格は間違いないと思うんだが、クラスはどこに入れるかわからん」


 歴史は暗記問題だから、努力すればするほど点数はとれるはずだ。だが、3000年以上の歴史は範囲が広すぎた。Sクラスに入るためには実技試験をかなり頑張らないといけないかもしれない。


 そして、午前の試験についてフリーと話をしていると



「合格が間違いない? 腹立たしい。戯れ言は下民が言うものではないと言うのになぁ。サイファー」


「おっしゃるとおりでございます。ガストン」



 後ろの席から嫌みったらしい、ねっとりとした声が聞こえてきた。そしてわざと俺らに聞こえるように大声で言っているようだ。


「フリー」


 フリーが殺気立って刀に手をかけていた。最近フリーは俺の従者のようだ。まるで侍だな。俺に着いていくと決めてからだろう。


 止めておけと目で合図すると、フリーは刀の柄から手を離した。


「貴族か?」


「だろうねぇ。やりにくいねぇ」


「気にするな。どうせ口ばっかのやつ。試験で落ちるさ」


 顔をよせて小声でやり取りをするが、その時隣から大声が聞こえてきた。


「ここは学園! 生徒に身分の上も下もないのがモットーよ!? よく入学前からそんな口かきけるわね!」


 あちゃー、と俺は額に手を当てた。


 言い返したのは同じくらいの年齢の赤毛の女の子だ。あの貴族たちは俺らに言ったと思うのだが、余程勘に触ったのだろうか。しかしタイミングと場所が悪い。


「ま、まぁ落ち着けよ」


 俺は貴族が言い返す前に、立ち上がって女の子をなだめにかかった。


「何よ。そんな奴ら受験する資格ないわよ!」


 俺に強い目付きでつっかかってくる。


「負け犬が何か言っているようだな」


 そこにさっきの貴族が油を注ぐ。


「なっ!」


 俺越しにギリギリと歯を食い縛って睨み付けているようだ。


「落ち着けって、お前が失格になるぞ!」


 俺は小声で注意する。


「ううっ…………わかった、わよ」


 そう言うと、目をそらして声が小さくなった。


 それを聞いていた貴族がニヤニヤしながら煽ってきた。


「ふっ、はははははは!! そんな平民風情に止められて情けないなそこの女!」


 こいつ、やり口が汚い。


 ガタン!


「なんですって!?」


 赤毛の女の子が顔を真っ赤にして貴族に食って掛かる。


「おいって!」


「止めようよマリジア。ほら、ね、ね?」


 別の大人しそうな女の子が赤毛の女の子の袖を引く。


「う…………シャロン。うん」


 そのまま怒っていた女の子の手を引いて連れ去って行った。


「俺らも出ようフリー」


「うん、そだねぇ」


 俺らも貴族のとばっちりを食う前に食堂から避難した。去り際に何か貴族が言っていたが無視した。



◆◆



 さて、さっきの子らは…………いたいた!


 探してみると、食堂を出てすぐの中庭のベンチに座って、友達になだめられている。


「さっきはすまんな」


「うううん。大丈夫。こちらこそごめんなさい。もめ事にならないようにされてたのに」


 さっきの落ち着いた雰囲気の子だ。今改めて見れば、胸の膨らみがすごい。着ている白いワンピースがものすごく盛り上がっている。意識しないと、勝手に目線が行きそうになる。


「い、いや、その子が言うこともまぁ、一理あるしな」


「あなたたちはそれで良いの!? 腹が立たないの!? それでよく男を名乗れるわね!」


 赤毛の女の子はまだ熱を持っているようだ。


「それを言われちゃ何も言い返せないけど、僕らもプライドよりも大切なことってあるんだよねぇ」


 フリーがしれっとカッコいいことを言う。そう言いながらも、ガッツリ女の子の胸に目線が行っていた。


「まぁな」


「ぐ…………」


 赤毛の女の子が唇を噛んだ。


「それくらいにしよう? マリジアよりこの人たちの方がよっぽど大人だよ?」


「うん…………ごめん」


「あ、そだ。すまん、俺はユウ、こっちはフリーだ」


「私はシャロン、この子はマリジアよ」


 シャロンは落ち着いた雰囲気の背まで伸びるゆるふわロングの茶髪のきれいな女の子だ。身長も170センチ近くあり、スラリとした体型だが、しっかりと胸がある。EかFカップくらいありそうだ。今はシンプルな白のワンピースを着ている。暴走しがちなマリジアを抑える立場なのだろう。


 マリジアは赤毛のショートカット、身長165センチくらいでスラリとした体型だ。短気な性格なのだろう。常に眉間にしわを寄らせていそうだ。茶色のパンツにボタンシャツ、ベレー帽を被っている。


 どちらも整った顔立ちをしており可愛い。


「君らも貴族…………?」


 平民よりは着ている服の生地が良いように見えた。


「そうよ。一応はね。と言ってもあたしは子爵家」


「私は男爵家なの」


 貴族の階級は以下のようになっている。

 公爵(不在)>侯爵>伯爵(マードック)子爵(マリジア)男爵(シャロン)


 辺境伯であるジークは伯爵よりも爵位上、上の地位にいるようだ。


「へぇ、一応敬語使った方がいいか? 貴族様」


「嫌み? いらないわよそんなの。ただでさえ偉そうにする貴族が許せないんだから」


「そうか」


「それより早く次の実技試験会場へ行きましょう? そろそろここを出発しないと不味いわ。学園は広いんだから」


「だな。それじゃまた。合格したらまた会おう」


「またね」


 始めはイライラしていたマリジアも最後はにこやかに互いに手を振って別れた。



◆◆



 第2試験会場は四方を壁に囲まれた生徒同士の闘技場を使うらしい。試験の間だけ射撃場のような造りに改造されており、撃つ側は屋根の下、標的がグラウンドの先にある。


 そこには列が30箇所ほどできており、各列の先には土魔法で作られたであろう人間くらいのサイズの石柱があった。まだ試験は開始していないようだ。


「フリーは魔法の標的破壊どうするんだ?」


 そう、実技試験は魔法と模擬試験の両方の受験も可能だ。両方できればその分加点は大きくなる。そりゃ剣と魔法両方できる方が優秀とされるようだ。むしろどちらも受けていないと魔剣士クラスに入ることはできない。だが、どちらかが残念な結果になるとかえって減点になることもあるそうだ。


「僕も受けるよ魔法試験」


「え、でもフリー魔法できたのか?」


 フリーが魔法を使ってるところは見たことがない。


「使ってないだけでね。少しはできるから大丈夫だとは思うんだよねぇ」


 フリーはなんとでもなるといった風に答えた。


「ふぅん、そうか」


 まぁこいつがそう言うなら問題ないんだろう。

 フリーの受験番号は俺の次だからかフリーは隣の列へと並んだ。俺の順番はまだまだ先だ。20番目くらいだろう。それに試験会場は他にもあるらしい。なんて大規模な試験だ。


 そうしているうちに試験内容について試験官による説明が始まった。要はこういうことらしい。


《試験ルール》

・指定の位置から標的目掛けて攻撃魔法を放つこと

・攻撃回数は10発まで

・採点内容は、攻撃回数、発動までの時間、威力、速度、正確さetc

・標的が破壊されればそこで試験は終了


 なんてことない。簡単に終わりそうな試験だ。ただし回復魔法が使える人間はここで試すことができないため、診療所で軽症の患者を相手に魔法を使ってもらうそうだ。俺は全部できるが、とりあえず攻撃魔法にすることにした。


 説明が終わると、列の初めの受験者が魔法を一斉に放ちだした。


 1人目は男子だった。気合いを入れて詠唱し、集中して魔法を放つ。


「ファイアボール!」


 1人目の放ったファイアボールが弧を描いて飛んで行き、石柱に直撃した。ファイアボールが火花となってバチバチと弾け飛ぶ。だが表面を焦がしただけにとどまっている。


 嘘……あの石柱、そんなに硬いのか? あれじゃ何発撃っても同じだろ。


 そうして10人目まで試験が終了した。


「いや、さすがにレベル低すぎない…………?」


 あんまりなので声に出た。


 冒険者ランクで言えば、見た感じ良くてEランクってところか? たまに「おっ?」と思う奴でDランクくらいだ。

 まぁでもよく考えれば、俺の周りの人間って加護持ちばっかりなんだよな。ランクが上の人間はもっと年上ばっかりだし。Aランクなんて論外だ。俺らの年齢くらいで、Bランクだったのはやっぱり幼い頃から冒険者をやってたフリーやアリスか? それでも加護を得ているせいもあるだろうしな。


 さらに次々と試験が進むが、同じようなレベルが続く。


 これを見ていたら俺らのパーティが飛び抜けて優秀だったってことがわかる。あいつらに声かけておいて良かった。年齢で考えたら、ウルなんか超超天才の部類だろうな。


「ん?」


 先ほどもめたあの赤毛の女の子が隣の列にいた。


 バキ…………バキバキバキバキ!!


 見事に重力魔法で標的の石柱を押し潰してみせた。



「「「おおっ…………!」」」 



 その威力に周りの連中もざわめく。


 へぇ、なかなかやり手だったみたいだな。


 1時間ほどしてようやく俺の番が回ってきた。俺の列でここまでに標的を完全に破壊できた者は2人のみ。しかも10回目でやっとという感じであった。フリーの列は俺よりずっと後ろの方でまだかかりそうだ。


「次、1580番ユウ。前へ」


「はい」


 言われて前へと出る。試験官は的のそばに1人と俺の撃つ側にもう1人だ。


 何を放つかは考えていた。これは、あくまで試験だ。派手に標的を破壊することができても、意味がない。狙うは満点。


 俺の魔力が1/10になっていることと、あの標的が予想よりも固いことを想定して魔力は少し多めに込める。


 的へ右手を向けて言った。


「ファイアバレット!」


 狙いは完璧、賢者さんの補助も入ってまずはずすことはない。それに無詠唱だから発動時間も一瞬、速度もバレットなら問題ない。

 そして懸念のある威力だが、おれのスキルが解決してくれた。それも『魔力支配』。このスキルは自分の魔力に限らず、空気中に漂う魔力や他人の魔力すら集めて自分のものとすることができる。最悪、魔力切れを起こしても周囲から魔力を集めて魔法を使うことができる。

 これだけ魔法を使っている場所なら魔力はそこらじゅうにある。他人には触れずに空気中のもののみ集めてバレットに込めていた。


 完璧だ。これで満点確実…………あれ?




 ドゴッ……………………ォォォォォオオン!!!!




 俺の放ったファイアバレットは石柱をあたかもそこに何もなかったかのように一瞬で赤熱、蒸発させると、闘技場の壁、観客席を吹き飛ばし、その先の地面をキレイにくり貫いて、外の中庭で派手に爆発した。


 …………なんか俺がレベル2の時くらいの威力は余裕で出た。


 パラパラパラと、吹き飛ばされた地面の欠片が降ってくる。受験者皆の手が止まり、試験官は笑顔のまま凍りついている。俺の立ち位置からは、闘技場の一角が吹き飛び、クレーターのできた中庭がのぞいていた。


「しっ…………死傷者の確認を!!」


 慌てて隣にいた試験官が声を発した。


「「「はっ!!」」」


 突然バタバタと慌ただしくなる試験官の教員たち。


「きみ! 君はもう次に行っていいから!」


 やってしまった…………。し、失格になったりしないよな!?


 とりあえず促されるまま会場を出た。騒然とする会場では、フリーのひっひっひと笑いをこらえる声がこだましていた。


【賢者】大丈夫です。誰も死んでおりません。的の背後の反応も確認しておりましたので。


 いや、賢者さん。てことはああなるってわかってたのかよ!


【賢者】もちろんです。普段は必要がないほどユウ様の魔力は高いため、使用してきませんでしたが、魔力支配で魔力を集めればあれくらいは問題なく可能です。


 そういうことは先に言ってほしかった。


【賢者】問題ありません。


【ベル】そうよ。何小さいこと言ってるのよ。


【賢者】そうではなく、今までオーバーキルで失格になった者はいません。


 な、なるほどね。なら信じるぞ賢者さん。


【賢者】はい。


 というか、全然ステータスを抑えてる意味なかったな…………。


 そうして会場前で待ってるとすぐさまフリーが出てきた。1発だったのだろう。


「おっす。いけたか?」


「問題ないよ。まぁユウほど威力は出せなかったけど」


 フリーはふひっと半笑いで言った。


「うるせぇな!」


読んでいただき、有難うございました。

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