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【100万PV突破!!】重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第4章 王都
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第77話 ギルドマスター

こんにちは。今回より投稿を再開させていただきます。

馬車で王都が見えてからで説明と会話がメインの話になります。

第77話です。何卒宜しくお願いします。


「でけぇ…………」


 王都に馬車で近付いていくと、王都のあるレムリア山のふもとは果てしなく長い防壁がぐるっと取り囲んでいた。防壁の高さは30メートルはくだらない。防壁というより、もはや一種の建造物と化しており、等間隔に空いた小さな窓からは中を人が歩いているのが見える。

 こんな規模の建物、いったい何十年かけて製作したのだろうか。


 そして霞むくらい遠く、山頂にぼんやりと尖った屋根が見えるのは王宮だろうか。


 なんて規模だ。何もかもが規格外の大きさだ。


 皆が御者席で王都の大きさに感動していると、


「おいユウ。まさかあれに並ぶのか?」


 御者席の横にぴょんと飛び乗ってきたウルが、心底うんざりしたように指差しながら聞いてきた。あれとは西門の前、平原にずらりと並ぶ大行列だ。王都ともなればウイリーの町よりもすごい行列が伸びている。門にたどり着くまで、あと5~6時間はかかりそうだ。その行列相手に商売をする売店すら伸びているしまつだ。


「仕方ないだろ? 無理やり入るわけにはいかないしな」


 そう言うと、ウルが嫌そうにうー、と下唇を突きだした。とりあえずその長い行列の後ろに馬車をつける。


「ユウ、あのジャンが書いてくれた紹介状。急ぎだって言えば入れないかな?」


 荷台で話を聞いていたレアが、ウルをなだめながら思い出したように人差し指を立て言った。


「ああ、そう言えばそうだな……ちょっと聞いてくる!」


 御者をフリーに任せて馬車から飛び降りると、行列の横を駆け抜け門番の元へ行く。近づくと、だんだんと迫ってくる見上げるほどの重厚な門のでかさに圧倒される。真っ白の巨大な2枚の石で出来ているようだ。前後に開閉する両扉で、その重さは見当もつかない。いったいどうやって開け閉めしてるんだろう。

 それはともかく、行商人への対応で忙しく働く門兵の1人に声をかける。


「すみません」


「いかが致しましたか?」


 こちらに気付いて丁寧な門兵が対応してくれた。


「これ、ギルドマスターへの紹介状なんだけど、急ぎなんだ。すぐに入れてくれたりしない?」


 そう言って、紹介状を渡す。


「拝見いたします」


 紹介状を開けるでもなく、裏返したそのサインを見て表情が変わった。


「これは…………どうぞお入りください」


 すげぇなジャンの紹介状。そう思いながら皆を呼びに戻る。


「お待たせ。いけるってよ」


「ホントか!? やたっ!」


 馬車に戻って特別に通してもらえることを伝えると。ウルは跳び跳ねて喜んだ。余程待つのが嫌だったらしい。


「良かったねー」


 レアがニコニコとウルの頭を撫でている。


 と、その時、列に並ぶ馬車たちが急にざわめき始めた。


「あれ、あのクランじゃないか?」


「マシューたちだ!」


 興奮した様子で行商人たちが騒いでいる。


 なんだ?


【賢者】どうやらクラン『レッドウイング』遠征隊の帰還のようです。


 後ろを振り返れば長々と続く、冒険者の馬車が見えた。どの馬車も同じ燃える1対の翼の絵が描かれた旗を掲げている。


 かなり大規模だな。50人以上はいそうだ。冒険者ってのは今まで旅をしてきてわかった通り、相当我の強い、粗放な連中だ。それをまとめ上げるってのは、トップに余程の実力かカリスマ性があるんだろうな。確か当主はマシュー・レッドメインという名前だったか。


「ユウ、あんな大人数の団体が来たら余計に面倒よ。早く行きましょ」


「そうだな」

  

 アリスに促され、馬車を走らせ行列を悠々と抜かしていく。


「おらおらぁ、良いだろ? 俺ら特別待遇だぞ!」


「止めろバカ!」


 きちんと並んでいる行商人たちを挑発していくウルの頭をパシンと軽くしばく。


「ウルちゃん、めっ!」


 ウルが調子にのるのでレアがガッチリと後ろから肩を押さえて、睨んでくる行商人たちに頭を下げていた。 


 レアはウルの保護者だな。



◆◆



 門をくぐるとその先には、遥か先の王宮を目指してただ一直線にずーーっと伸びる広い坂道と、今まで出会ったことのないほどの人々の多さ、そして感動すらおぼえるその統一されたお洒落な町並みだった。


「すっげええええええええええ!!!!」


「わぁ!!」


 各々が王都の街並みにリアクションをしながら、辺りを見回し、そして見上げる。

 王都の街並みはまるで地球のパリの町のようだ。西門からは道幅20メートルはある石畳の坂道がどこまでも山の上を目指して続いている。この西門から伸びる道はウェストストリートと呼ばれているらしい。そこは何十台もの馬車が慌ただしく往き来し、ガタガタと馬車の車輪が音を鳴らしては人々の喧騒の声と混じりあっている。

 ウエストストリートの両サイドには広めの歩道があり、そこに面してずらっと露店が続いている。そこには多くの人々が集まり賑やかせていた。

 町を形作る建造物は全てが白い石で統一されており、2階のベランダには花が植えられ、景観を色鮮やかに縁取っている。

 そして、そのウエストストリートをまたぐように頭上には道の両サイドの石造りの民家から、洗濯物を干すためのロープが張られている。そこに干されている色とりどりの洗濯物ですら王都をより美しく見せていた。そして何よりもすごいのはその景色がどこまでも坂道の上に向かって続いていることだった。


「へぇ…………」


 アリスも口をポカンと開けて町並みに見入っている。


「ん? あれはなんだ?」


 俺が気になったのは、西門の右に建つこれまた巨大な白い塔だ。


「ああ、あれはねぇ。あ、ほらちょうど来たよ」


 フリーの指差す先には、塔の上部から出てきた20人は乗れそうなゴンドラだ。屋根もあり、よく見ると5人ほど実際に乗っているようだ。塔からは王都の中心に向かって太いロープが伸び、それがまた上地区(貴族地区)の塔と繋がっている。それが王宮の方から下りてくるところだった。


「あれは貴族や王族専用の乗り物で、リフトって言うんだよ。住宅街を歩いて上らなくても良いように作られたんだって」


「へぇ…………」


 あれは完全にロープウェイだ。街の上空を走るようにロープが張られている。確かにこの街を頂上まで登るのはかなり骨が折れるだろうしな。


「すげぇ考えたやつ天才かよ!? 俺、あれに乗りたい!」


 興奮したウルがゴンドラを指差しながら振り返って言った。


「ウルちゃん、話聞いてた? 貴族か王族しか乗れないのよ?」


 アリスがウルをさとす。


「俺、王族だろ!?」


 そう口に出したウルが頬を膨らませる。


「おまっ…………!」


「ユウ大丈夫。皆冗談だと思うよ」


「まぁ、確かにウルの年齢だったら言いそうなことだけどよ」


 そう言うとウルは拗ねたように口を尖らせた。


「ガキ扱いすんなよな」


 そういうところが子どもなんだけどな。


 よく目を凝らして見てみると、ウェストストリートを上っていっても王宮には届かず、途中王都を取り囲む壁と同心円状に上地区(貴族街)を取り囲む壁があり、はっきりと貴族とそうでないものを区分けしているようだった。


 んー、ちょっとその壁はいやな感じだな。せっかくの景観が…………。


 だが城下町の人々は明るく元気にたくましく暮らしているようだ。時々、町の上を通るリフトの影を子供たちがキャッキャ言いながら追いかけていた。


 とりあえず、門を越えたところで感動して立ち止まっていては田舎者丸出しだ。後ろの人たちの邪魔にならないように壁の側に避ける。


「さて、王都は他の町とは比べ物にならないくらい、とてつもなく広いわ。絶対に迷子にならないでね。特にウルちゃん」


 アリスがウルに念をおす。


「もちのろんよ!」


「もし、迷子になったら近くのこの東西南北の門に集まるようにしましょう」


 アリスが目印にしやすい巨大な門を指差す。



「「「「りょうかい」」」」



「それじゃあ…………まずは宿ね。宿を探しましょう」



 しかし、それから探し回ること2時間。どうやらここの1人1泊あたりの相場は1万コル前後のようだ。


「ちょっと、高過ぎない?」


 アリスが相場の高さに目くじらを立てている。


「思うんだが、ここいらの宿って皆観光客向けじゃねぇ?」


「かもねぇ。いっそギルドで教えてもらうってのは? ついでにギルドマスターにも話ができればいいしね」


 フリーが疲れた顔でそう言った。


「確かに。ギルドで聞いてみようか」


 俺も仕方なくフリーの提案にのる。ウルは疲れてか、とっくに馬車の荷台、レアのひざの上で寝ていた。


 あの2人本当仲良いな。


「あんまり甘やかすなよレア」


「あはは」


 そう目線を送るとレアは苦笑いだ。


「ちょうどいいわ。このウェストストリートをずっと登って行けば、ギルド本部が中腹の右手にあるわ」


 アリスも疲れた顔で、途中で買った王都西区の地図を見ながら答える。


「ほらほら、行くぞー」


 ギルドはこれまたでかかった。1000坪くらいの土地に石造りの4階建てだ。外見はもはやギルドに見えないほど、このヨーロッパのような街並みにに馴染む白い外壁をしていた。大きさだけなら、領主の館くらいはありそうだ。


「ここ、ほんとにギルドよね?」


 アリスが戸惑うくらいキチンとした建物だ。中からケンカで人が飛び出してくることもない。


「みたいだぞ? ほら」


 俺は外壁から生えている大きな木製のギルド看板を指差す。


 きみまろを大通りにある駐車スペースに停め、寝ているウルを起こしてからギルドに入る。


 一階の板張りのフロアは広く、冒険者たちでひしめき合っていた。様々な話し声や掛け声、がなり声もある。鎧を着たゴードンのような巨人族、頭に角の生えた鬼人族や竜人族、ケットシーやドワーフまでいる。さすがは首都だ。いろんな種族の冒険者までもが集まっている。


 受付だけで1~20番まであり、素材の受け取り所、バーカウンターまで充実している。入って左手、北側の壁は一面に依頼書が貼り付けられている。右手には2階へと続く階段があった。


「わあ、すごい人ね。ほら、あれ出して」


「ああ」


 たまたま空いていた4番受付へ行く。


「すまん、これをギルドマスターへ渡してほしい」


 俺はジャンからの手紙を色白で大人しそうな受付嬢へと出す。


「はい?」


 受付嬢は手紙を受け取ると不思議そうな顔で、じっと手紙を眺める。 


「他のギルド長からの手紙だ。とりあえず渡してみてほしい」


「承りました」


 受付嬢は『対応中』の札を4番カウンターへかけると上の階へと上がっていった。さすがに王都では絡まれることはない。というよりも、王都全体が非常に治安が良いように感じる。受付前で待つこと3分ほど、受付嬢がぱたぱたと慌てて戻ってきた。


「お待たせしました。ギルドマスターがあなた方にお会いになりたいそうです」


 受付嬢は信じられないという風に言った。


 何が書いてあったんだろうな。渡して終わりってこともあると思ったが……。


「それでは、こちらへどうぞ」


 受付嬢に続いて俺たちは階段を登っていく。


「ギルドマスターは忙しい身ですから、アポ無しですぐに冒険者に会われることなどまずありません」


 受付嬢は少し驚いた様子で言う。


「へぇ」


 ということは、手紙の内容はそれほど重大な案件だった認識してくれたわけだ。


 2階に上がると、ここも冒険者たちのフロアのようだ。だが、こっちにいる冒険者の方がランクが高そうだ。俺らが珍しいものを見るようにギルド内を眺めていると、受付嬢が尋ねてきた。


「王都のギルド本部は初めてですか?」


「ああ。というよりも俺は王都自体が初めてだけどな」


 そう言うと、受付嬢がギルド本部の説明をしてくれていた。


「ここは冒険者のランクに応じてフロアが別れておりまして、1階がF~Bランク、2階がAランク、3階がSランク以上となっております」


「へぇ…………そりゃ上の階が良い目標になるな」


「そうなんです。冒険者たちは皆3階を目指しています」


 受付嬢はニコリとそう言った。


「ギルドマスターは4階です。どうぞ」


 受付嬢が扉をノックする。


「手紙をくださった方々をお連れしました」


「入れ」


 中から聞こえてきた声に受付嬢がドアを開ける。


「どうも」


 部屋に入ると、身長140センチくらいの少年がいた。童顔で、短く切り揃えられた髪は珍しい白色だ。ギルドの豪華な机の後ろに座るその姿は、この部屋が似つかわしくないほどに幼く見える。


 だが間違いなく強い。それもとんでもなく。隠しきれない存在感というか、オーラというオーラが立ち上っている。存在感の塊のようだ。その幼い見た目に騙されそうだが、ベルよりも、そして今の俺よりも確実に強い。


【ベル】ちょっと! 前戦った時、私はかなり弱ってたんだからね!


 はいはい。負けず嫌いめ。


【ベル】でも確かに、私から見てもこの人間は強いわよ。あなたたち人がランク付けしてる中に果たしておさまるのかしら? 

  

 へ? SSSランクだろ?


【ベル】いえ、それは人間界で一番上だからでしょ? まだ上のランクがあるとすれば、この人間はそこに入るわ。


 まじか…………この人SSSランクを超えるのか。さすがは王国最強と名高い男。いったいどれだけのレベルがあるんだ!?


 アリスたちは圧倒的な男の威圧感に圧され、俺の後ろで萎縮してしまっている。


「ようこそ王都ギルドへ」


 そう言って可愛らしくニコリと笑った。


 話し始めると、見た目どおりの幼さの残る高い声だった。ただ、外見は13歳前後だが、その鋭い眼光は少年のものではない。


「俺がギルドマスターのアレック・ギネスだ」


「ワンダーランドのユウだ。よろしく」


 机を挟んで握手をする。小さな子どもの手だ。ギルマスは小柄なため、若干身を乗り出してくれていた。


「ワーグナーのギルド長ジャンからの手紙だな。読ませてもらった。それにワーグナーのギルド長代理ガランとウイリーのギルド長ローリーから、お前らのことは聞いてるよ。…………ジャンの小僧が死んだこともな」


 ギルマスはジャンの部分で少し悲しそうな声色で言った。


 俺らのことはもう伝わってるようだ。そういや、ギルド間で通信ができる魔道具があるんだったか。


「そうか。なら話は分かるだろ?」


「まぁ待て急ぐな。お前らは運悪く2つのでかい事柄に関わっている。そのことで話がある」


 ギルマスが指を2本立てて話し始めた。


 2つと言えば心当たりしかないな。


「王都の反乱分子とベニスの件だ。まず反乱分子については、俺の方でも探りを入れてたとこだ」


 へぇ、ギルドでも疑う動きが出てたってことか。王都ギルドは優秀らしい。少し安心した。


「それでだ」


 アレックが机に両ひじをつき、手にあごをのせた状態で鋭い視線を向けてきた。可愛らしいその見た目に反して、物理的な圧力を持ちそうなその視線にぞくりと寒気が身体に走る。




「…………お前ら、どこまで知ってる?」




 さて…………どう答えるべきか。その前にギルマスは信用できるのか? さすがにこの化け物がマードック側だとしたら、俺たちに勝てる見込みはない。


【賢者】それはおそらく大丈夫です。今ある情報から考えるに、ギルドマスターが伯爵側である可能性は低いかと。


【ベル】私がこいつから感じる感情は警戒だけで、敵意や悪意はないわ。


 そうか。まぁ、確かにジャンの紹介だったり、ガランやローリーさんがこの男を信用して連絡してるところを聞くと大丈夫なんだろう。


 まぁでも念のためだ。それに、どんな人物か知るためにもだな…………。


「待ってくれ。まず、あんたが敵でないという証拠は?」


 そう言うと、ピクリと反応した。


「ははっ! 流石慎重だな。俺の威圧を受けて真っ直ぐにそう切り返せるやつは珍しい。そうだな…………」


 アレックが一瞬考え込むと、側に控えていた秘書の女性に合図した。


「おい、あのデータをまとめた資料を」


「宜しいので?」


 秘書が驚いた顔をして聞き返した。


「早くしろ」


「…………かしこまりました」


 そうして隣の部屋から持ってきた書類を俺に渡してきた。


「これは?」


「それはマードックの野郎が密かに囲ってる冒険者の一覧だ。いわゆる食客だな。それに奴とつながりのあると思われる帝国の人間だ」


「おいおい…………そんな情報をつかんでるのか。いや、これが本物だとどうやって証明する?」


 無論、本物だろう。ペラペラとめくると、ここへ来るときに見かけた弓使いのオーランドや魔術士のカーストの名前もある。


「あははは。馬鹿じゃないようだな。信用できそうだ。もっとも、他のギルド長たちもお前に信頼を置いているようだしな。疑いはせど、敵に回るつもりはない」


 そう笑いながらギルドマスターはテーブルに置いてあったグラスのワインをくびっと呷った。


 ガランたち様様だ。てか、その外見で酒を飲むのな。


「それで、これが本物であると証明する方法はない。そもそも俺だって偽の情報を掴まされている可能性はある。だが、俺の部下が命懸けで持ってきた情報だ。俺は本物だと信じてる」


 ギルドマスターはテーブルに頬杖をついて、俺の答えを待つように眺めた。


「その答えじゃ、俺は納得出来ないんだが?」


「だろうな。ならどうすれば良い? ここで俺が腕を落とし、『これで信じてくれ』とでも、覚悟を見せるべきか?」


 ギルドマスターは腕に手刀を当てて斬るジェスチャーをした。


「いや、そんなもの後でちょいとくっ付けて終わり。少し痛いだけだろ?」


「よく分かってるじゃねぇか」


 何が面白かったのかニヤニヤと笑う。


「普通くっつかないわよ……!」


 アリスがボソボソと突っ込みを入れているのが後ろから聞こえた。


「ならどうする?」


「なんでお前が上から目線なのかは気に入らんが、俺相手にそれだけはっきりと物を言える奴は珍しい。気に入った。どうすると言うなら、まずは俺を信用することだ」


「は?」


「お前、慎重なのは良いが、そのために好機を失うつもりか? そもそも初対面の相手を信用しろなんて難しいだろう? なら、まずは初めに仮にでも俺を信用するんだな」


「はぁ…………新手の詐欺?」

     

 自信が溢れてるような人だな。ま、確かに無駄な掛け合いだった。それにこの人の性格はだいたいわかった。


「もういいわかったよ。ハナからあんたは悪人じゃないと分かってた。信用する」


「あははは。それは嬉しいね。くえない野郎だ」


 ギルマスは楽しそうに笑う。


「まぁこちらも気に入ってもらえて何よりだ。伯爵のことは分かった。で? これを俺に寄越してどうしろと?」


 渡された書類を見せる。


「とりあえず今のうちに目を通しておけ」


「…………わかった」


 この世界の知識がまだまだ乏しい俺じゃ、有名人だろうと誰が誰だかわからない。だから、アリスたちも見えるようにパラパラと書類をめくりながらアレックに聞く。


「で、話は変わるが、ベニスの件はウイリーのギルド長からはなんて?」


「ああ、お前のおかげでサンプルを1体確保できたとな。で、今は動物を使っていろいろ試してるようなんだが、奴らに外傷を負わされることで感染することはほぼ間違いないらしい」


 よくそんな危ないこと試したなあの人は…………。


「どうやら傷口から奴ら特有の魔力を流し込まれるようだ。だから対応とすれば、距離をとっての遠距離攻撃が基本となる」


 まぁ、無論そうなるだろうな。


「ああ、疫病のように感染すると考えた方が良い」


「…………そうだな。後、あの女ローリーの調査でわかったことは、奴らは短期間で凶暴化、そして進化するらしい。呪いに感染させたラットが1週間で2倍の大きさに進化したとのことだ。まぁ、俺は実物を見てないから詳しいことは知らん。この件は予想以上に重大だ。ギルドで優秀な冒険者を数名選出して調査に向かわせる」


「わかった。後付け加えるなら、奴等は群れで行動し、群れのボスはAランクかSランクに相当する。必ずSランク以上も同行させてくれ」


「そこまでか?」


 ギルマスが少し驚いた様子で眉を持ち上げて問いかけてくる。


「ああ、群れのボスはベニスのAランク冒険者のランドルフ。俺が会ったとき、すでにそいつは異形の姿をしていた。しかも、そいつは全力ではなかったが俺の防御魔法を破りかけた。奴らを侮らない方がいい」


「お前の防御を…………?」


 ギルマスはある程度俺の実力を見抜いているのだろう。真剣に何かを考えているようだ。


「分かった。肝に命じておこう」


「それと、呪いにかかった動く死人を俺らは『ローグ』と呼んだ。なにか呼び方が必要だろう?」


「それは言えてるな。『ローグ』か、わかった。これら2つの案件についてはまた連絡させてもらう」


「連絡? まだ何かあるのか?」


「ああ。事情を知っており、実力もある。そしてそれなりに信用できそうなちょうど良い奴らが目の前にいてな」


 そう言ってニヤッと笑いながら俺らを見た。


 げっ…………これ、仕事振られるやつだ。そんな奴ら、知らんってことにしよう。


 俺らは、揃って後ろを振り返った。そこには出入り口のドアがあるだけだ。


「誰もいないが?」


 わかってて首をかしげてみた。


「コントか……! お前らだよ!」


 ギルマスの可愛らしいツッコミが炸裂した。


「今後はお前たちにも動いてもらいたい。問題ないな?」


「うへぇ……………………」


 ま、俺らもギルマスに連絡して終わるつもりはなかったが。


「それは報酬次第…………かな?」


 自分で動くならまだしも、人に良いように働かされるのはな。あくまで対等でありたい。


「あははは。報酬は分かった。考えておく。ああ、それとお前、このまましばらくCランクでいろ」


「はぁ!? なんでだよ!」


 せっかく雑魚冒険者にウザ絡みされることがなくなると期待してたのに。


「お前みたいな実力があって、Cランクでいる冒険者はまずいない。相手はお前のランクを聞けば警戒することはまずないだろう。動きやすくなる」


 なるほどな。まぁそのうちばれるだろ。最初だけだ。


「分かったよ」


「おう。だからある程度のお前の功績は伏せさせてもらう。火竜を討伐したとか、SSランクダンジョンのボスを1人で倒したとかな。それに仲間たちのギルドカードもまだそのままでいろ」


「はぁ、そこまで?」


「やるには徹底的にだ。だとしても、情報に詳しいやつにはバレるだろうがな。俺としてはそんなところだ」


 きっちりしている。仕事面でも信用できそうだ。バリバリ仕事はできるが見た目は少年…………。奇妙だな。


「ちょっと気になったんだが、あんたいくつなんだ?」


「あ?」


 ちらりと俺を観察するギルマス。


「…………さぁな。コルトのゾスと同じくらいの年月は生きてきたつもりだ」


 そして、なんでもないと答えた。


「はぁ!? あんた人間か?」


 エルフ並みに長生きしている…………人間?


「正真正銘、人間だ。知らないのか? 種族レベルはな、上がるほどに年がとりにくくなる。むしろレベルアップで数年分若返るんだ」


「若返る…………!? まじか」


「お前もレベル1ではないだろ? 2、いや3はいってるな。身長が低くなったように感じたことはないか?」


 まさか…………、そういやフリーに前に聞かれたような。


【ベル】ほ、ほら! 私のせいじゃなかったじゃない!


 う、すまん。確かにベルが俺を押し潰そうとしたからじゃなかったみたいだ。


「なんで若返るんだ?」


「それはわからん。そもそも、そこまでレベルが至った奴自体が少ないからな。ま、元々俺は14歳かそこらで種族レベルを上げていったから今くらいに落ち着いたんだろう。俺の場合はレベルを上げるのが早すぎた。もう少し身長がほしかったんだがな」


 ギルドマスターは少し残念そうだ。


「そういうことか」


「話は以上か?」


「…………あ、待ってくれ。ここからが本題なんだ」


 ギルドマスターが本題だと聞いて真剣に眉をひそめ、身を乗り出して聞こうとする。


「なんだ? 言え」



「ああ、安い宿を教えてくれ」



読んでいただき、有難うございました。

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