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重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第4章 王都
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第76話 王都到着

こんにちは。

ブックマークや評価、感想をいただいた方、有難うございます。とても励みになります。そして、アクセス数100,000PVを突破しました!! いつもありがとうございます。

第76話です。何卒宜しくお願いします。


 ウイリーの町を出て、街道沿いに空を飛ぶこと3時間ほど。街道は平原を抜け、どうやら渓谷の底を通るルートを進んでいく。そして、ようやくアリスたちの馬車が見えてきた。

 街道が通るこの渓谷は、オルフェン大渓谷と呼ばれ、長い年月をかけ河川が脆い地層を侵食してできた地形らしく、古い河川の後を街道が通っている。ここを通り抜けるには馬車でも3日はかかるらしい。両サイドの高い渓谷は300メートルほどで赤茶色の岩肌がむき出しの崖が立ちはだかっている。崖に陽光が遮られ影が射し、まだ昼過ぎだというのに薄暗い。こんな暗い谷底は魔物が好みそうな場所だ。


 というかアリスたち、思ったより進んでいないな。なんでだ?


 よく見れば谷底が幅20メートルほどで道幅狭くなっている箇所が5メートル以上の複数の巨岩が積み重なって塞がれている。まるで誰かが崖の上から落としたようだ。


「あはぁ、なるほど」


 アリスたちなら飛び越えられるだろうが、あれでは馬車が通れない。さらに前にも立ち往生し、つかえている商人や冒険者たちの馬車が何台もあるようだ。


【賢者】この渓谷はレッドキャップが住み着いています。念のため警戒を。


 レッドキャップ?


【賢者】はい。奴らは山岳地域に住むゴブリンの亜種です。赤ん坊の頃は白い頭髪が、成長するにつれ獲物の血で赤く染まり、成熟した個体は真っ赤な髪で帽子を被っているように見えるためそう呼ばれています。狂暴な性格で知能も高いDランクの魔物です。


 この足止めはそいつらの仕業なのか?


【賢者】いえ、この足止めは奴らによる可能性は低いかと……。ここまでの岩を複数動かせる技術がレッドキャップにあるとは考えにくいのです。


 わかった。とりあえずアリスたちと合流しよう。


 俺たちの馬車を見つけ、上空から馬車の横に着地する。数日空けてしまったが馬車には傷ひとつない。そして前後には、他の馬車が列をなして並んでいた。


「おーい」


 幌馬車の真横に着地し、荷台を覗き込んで呼び掛けると、4人は荷台でこの状況をどうするか話し合っている最中だった。


「ユウ!」


 1番に俺を見つけたレアが荷台から俺の腹部に突撃してきた。


「ぐふっ!」


「心配したんだよー?」


 さすがは獣人、猫みたいにめちゃくちゃに顔を擦り付けてくる。


「や、やめろレア。大丈夫だよ」


「無事だったの。遅かったわね」


 アリスが座ったままそっぽを向いて言った。ツンデレ可愛いなと思いながら、4人にこの数日にあったことを話した。


「やっぱり魔力が感染源だったのね……」


 アリスもそう予想していたようだった。


「ああ。フリーが無事だったのは本当に運が良かったんだ」


「こわいねぇ…………」


 フリーがまじの苦笑いしながら、引っ掻かれた肩をさする。


「で? その後はどうなったの?」


「向こうのギルド長がなんとかするってさ。俺も王都についたらギルドマスターには直接話をしとこうと思う」


「その方がいいだろうねぇ。それよりユウ、なんだか背が低くなったかい?」


 フリーが変なことを言い出した。


「は? ついにボケたかフリー」


「あれ? いやぁ、気のせいみたいだねぇ」


 もしかして、ベルが重力魔法かけるから背が縮んだのか?


【ベル】え…………?


 おい。


【ベル】もしそうだったらごめんなさい。


 いや、嘘だよな!?


「で、お前らここ通れないのか?」


「そうなのよ」


 アリスが困ったように言った。


「斬っても細かくなるだけで、積み上がった岩は退けられないしねぇ」


「風で吹き飛ばしても、この両脇の崖崩しちゃいそうで」


 レアが申し訳なさそうに言う。確かに、この赤茶色の崖は脆そうな、薄く剥がれやすい岩石で出来てる。ここが崩落すれば二次災害だ。


「それで皆止まってたのか」


「そういうこと。ユウならなんとかできるでしょ?」


「まぁな」


【賢者】ユウ様、崖の上からこちらを見ている者が10名以上います。レッドキャップではありません。人間です。


 てことは盗賊か?


【賢者】それはわかりません。


 何でだ?


【賢者】こうして足止めしているのにも関わらず、襲撃してこないからです。


 なるほどな。何が目的なのか…………。ま、動きがないのなら、この岩はどかさせてもらおう。



◆◆



「少し道を空けてくれ」


 そう言うと、前に渋滞していた商人や冒険者たちが脇に馬車を寄せた。


「こんなデカイ岩、本当に貴様が動かせるのか?」


 性格の悪そうな太った商人が自慢らしい髭を触りながら言う。


「まぁ見とけって」


 種族レベル3になった俺の魔力量はもはや、桁が違う。岩をまとめて魔力で包み込み持ち上げる。



 ゴゴゴゴゴゴ、…………ガコッ! パラパラ、パラ…………。



「「「おお…………!!」」」



 パラパラと小石を落としながら10個以上の岩は空中に持ち上がり、道の向こう側が見えた。そして、掴んだ岩を右側の崖の上へと放り投げる。


 崖の上でこちらを監視していた反応は岩が降ってくるのを見ると、慌てて逃げていった。


 何だったんだあいつら? 盗賊とは違うようだが。


 考えながら自分の馬車へ戻るために馬車の列の横を歩いて行くと、皆それぞれが礼を言いながら馬車たちが動き始めた。


「お疲れさん」


 馬車に戻るとアリスが言った。


「ああ」


「ユウ助かるぜ!! そんじゃー、発進だきみまろ号!」


 そして、御者席のウルが元気に馬車を発車させる。ガラガラと動き始める馬車の音を聞きながらフリーたちに聞いてみる。


「なあ、気付いてたか? 崖の上の奴ら」


「うん、ずっといたよ。何だったんだろうねぇ」


 フリーも気付いてたようで首を傾げていた。


「まぁ何もしてこないなら今はいいんじゃないかしら。先を急ぎましょ」


「そうだな」



◆◆



 それからは何事もなく渓谷を通り抜け、2週間が過ぎた。


 アリスたちは俺がいない間にウルへの事情の説明と、『魔力操作』のやり方について説明してくれていたようだ。おかげでのみこみが早いウルはスキルを取得し、もう身体強化ができるようになっていた。


 また、悪魔30柱目を生成したところで俺のユニークスキル『悪魔生成』がレベル2に上がった。これで1日に2柱の生成が可能になったようだ。これで悪魔軍団の増強がさらにはかどることになった。

 しかし、種族レベルが3になってからというものの、『お詫び品』があったとしても、さすがにレベルが上がりにくくなってきた。それなりに魔物は見つけ次第殺しているんだが、ここまでレベルが上がると雑魚ではどうにもならんようだ。打開策が見つかるまではスキルの強化に集中しよう。


 そしてようやく遠くキレイな左右対称の山が見えてきた。ハワイ島にあるキラウエア火山のような緩やかな斜面を持ち、山裾のとても広い山だ。標高は2000メートルを超えている。山自体がどれだけでかいのか、数日前からずっと同じ景色が見えている。


【賢者】方角、距離から考えますと、あの山が王都ではないかと考えられます。


 あれが!? 山が王都なのか? すごいな異世界。


 そして、山を見ていた千里眼をふと手前に移すと


「ん、ありゃ盗賊かもな」


 街道沿いの木の上に5人程隠れているのが見える。探知で確認すれば間違いなさそうだ。


「ほんとかい?」


「ああ。今度は誰が相手する?」


「順番で行けば…」


 そう言いながらレアたちを目線で追っていく前に


「俺だな! 行ってくる!!」


 そう言ってウルは一直線に飛び出して行った。


「おい、ウル1人で…………!」


「ウルちゃんなら大丈夫だよ。私と組み手できるくらいだし」


「そうなのか?」


 まぁ相手はDランク程度みたいだし、大丈夫か。


「…………終わったぞ!」



「はや!」



 盗賊たちが隠れていた木々を通ると、全員首もとをナイフでかき斬られ、きれいに川の字に並べて寝かされていた。


 王女様はやることがえげつない。


「アイズは使い勝手がいいんだ! 相手の次の行動が手に取るように分かるしな!」


「いいユニークスキルだな」


 ニシシと嬉しそうに語るウルの頭をわしわしと撫でる。


「おう!」


 人の返り血を浴び、赤色を頬にこびりつかせたウルが無邪気な笑顔で答える。


「早くその顔を洗ってこい」


「おっす!」


 それからのんびりと馬車に揺られているも、見えているのに王都はなかなか近付いてこない。 


「しかし、遠いな…………」


「ホントだね。都市が大きすぎるんだよ」


 レアが目を細めて遠くをじーっと見ながら言った。


「おーい。ユウ、前!」


「ん?」


 御者をしているウルが指差す方を千里眼で見ると、幌馬車じゃない屋根付きの装飾がなされた豪華な馬車が盗賊の集団に襲われていた。


「何なの?」


「いや、また盗賊だろう。馬車が襲われてる。相手は…………」


 探知で確認すると…………。


「おいおい、盗賊側50人はいるんじゃねぇか?」


 もしかして、さっきウルが殺った奴らは斥候だったのか。王都の近くなのにこんな規模の盗賊団がいるなんて、騎士団は何をしている?


「うそ!? それは助けた方がいいんじゃない?」


「俺が先に行く! 皆も続いてくれ」



「「「「了解!」」」」

 


 重力球を出し全力で飛び上がる。一瞬でたどり着くと、襲われている馬車の上空から見下ろす。どうやら15~6人いたであろう馬車の護衛はあと6人しか残っていない。立派な馬車なだけあって、乗っているのは貴族か何かだろう。急いで、馬車を守っている騎士のそばに着地する。


「助太刀する!」


「す、すまない。助かる!」


 俺に目線を送る余裕もなくそう答えたのは、馬車の目の前で盗賊の男と切り結んでいる40歳代後半の男性騎士だ。ガタイは良く、白髪交じりの茶髪に口ひげを蓄えている。かなりの腕前の騎士だろうが、余りにも多勢に無勢だったようで、すでに満身創痍だ。


 いや、違うな。あの騎士が相手してる男…………あいつはレベル2は確実にある。なんで盗賊でそのレベルがあるんだ!? 冒険者になればいいだろうに。


 その男はドレッドヘアで目から下は口元に巻いた黒色の布で見えない。取り敢えずそいつは騎士に任せて、なんとか残り5人で食い止めている他の50名を殺ろう。


 さて、ちょうどいい。ここでこいつの威力を試させて貰おうか。


 空間魔法から取り出したのはベニスで手に入れた『烈怒の炎裂包丁』。刀身だけで1.5メートルはある肉斬り包丁だ。それを2本左右の手に持ち騎士たちよりも前に出ると、その威圧感に馬車の騎士たちと俺たちを取り囲む盗賊たちがたじろいだ。


「さてと、どいつからだ?」


「何者だてめぇ!!」


 取り乱した盗賊の1人が剣を両手に突っ込んできた。


 試しに2本の包丁を高く掲げて振り下ろす…………!



 ボウッ!!!! 


 ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ…………!!!!



 2筋の炎が地面を抉るように凄まじい速度で走り、男を炭化させたあとも止まらずに後ろの2人まで消し炭にした。炎の斬撃が走り、一直線に抉れた地面は、切り口のそばから炎の熱で溶け出し、斬撃跡の抉れた地面の底は煮えたぎった溶岩がゴポゴポと溜まっていた。それは、斬撃は視界の見える範囲の先まで続いている。



「「「「「…………」」」」」



 盗賊と俺、双方ともにあまりの威力に声が出なかった。



 お、俺の魔力で振っていい剣じゃないだろこれ!! 剣振っただけで地面が地獄みたいになってんじゃねぇか!


【ベル】あなた、いいかげん自分の魔力を自覚しなさいよ。


 う…………。


【ベル】私やあなたクラスになると、剣を振る相手すら選ばないとならないのよ。


 思ったより真面目にベルは言っていた。確かに、どんな奴が相手であろうとこれはオーバーキル過ぎる。


【ベル】そういう時は、もっと加減できる技にするとか。後は手下を使うとかね。


 なるほど、手下か。そういやあいつら試してなかったな。


「出てこい。悪魔ども」



 ピシッ…………!



 空間にヒビが走ると、そこから黒い影が一瞬にして俺の目の前に跪いた。呼んだのは1ヵ月ほど前に生成した10柱の悪魔たち。生み出された頃はBランクだったが、俺の魔力を吸収成長し、すでにAランクになっていた。



「「「「「主様、お呼びでしょうか」」」」」



 頭を上げ、そう声を揃えた。こいつらはデーモンだ。筋骨隆々だが引き締まり、手足が長い。個人差はあるが、手を広げると4メートル、立ち上がったら3~4メートルはある。黒と灰色の間くらいの肌の色に、首から上は人間の骸骨。頭からはねじれながら真っ直ぐに伸びる2本の角がある。


「ああ、俺たちを囲んでるあの蛮族が見えるだろ?」


 俺が目を向けると盗賊たちは明らかにうろたえ、後ずさった。


「はい。虫けらが見えます。あれらを殺してくれば宜しいのですね」


 そう言う1番前のデーモンは表情はわからないが声色にどこか歓喜の色を滲ませている。


「…………お前ら、人を殺せることが嬉しいか?」


 思わず聞いた。管理出来ないようなら危険すぎる戦力だ。


「いいえ」


 デーモンは首を横に振った。


 違うのか……? 悪魔ってそんなイメージだったんだがな。


「主様のお役にたてることが、この上なく喜ばしいのでございます」


 本心からそう言ったように感じる。


【賢者】この悪魔たちが創造者たるユウ様に逆らうことはありません。


 なるほど。それは安心だ。


 そして先頭に立って話すこのデーモンは他の追随を許さない存在感を感じる。恐らくはすでにAランクの中でも上位に位置している。なんでまだデーモンという種族に収まっているんだろう。どうやら同じ時期に生み出されたとしても、個々の差はあるようだ。


「そうか。なら、さっそく動いてもらおう。殺れ」


「かしこまりました」


 そうしてデーモンたちは残像すら残す速度で散開し、盗賊たちに襲い掛かった。

 ある者は頭を鷲掴みにして、リンゴのように割り砕き、ある者は盗賊の腹を蹴り破いて臓物を撒き散らしていた。誰1人デーモンの動きをとらえることができていないようで、阿鼻叫喚しながら剣を振り回している。そして、あのデーモンはどんな攻撃をしたのか、取り囲んできた6人の盗賊たちが一斉に倒れた。


「うお…………」


 凄惨過ぎねぇか…………これ。第三者が見たらこっちが悪者みたいだわ。



「「「ぎゃあああああああああ!!!!」」」



 あちこちから盗賊たちの命乞いやら、悲鳴やらが聞こえてくる。


「はい、ストップ!」


 俺が声を上げると、デーモンたちは盗賊たちの手足をもぎ取ろうとする手を止め、一瞬にして俺の目の前に集合し跪いた。


「何かおきに召しませんでしたか?」


 申し訳ありませんと、頭をたれる。


「い、いや十分。働き者だなぁと思ってね。でも、これくらいにしてあげようか。働いてくれた君たちには、お礼に俺の魔力を分けてあげようと思う」


「ありがたき幸せ」


「じゃ、戻ってよし!」


 そうしてデーモンたちを空間魔法に戻ってもらった。もちろん。多めに俺の魔力を与えておくことは忘れない。


「ふぅ…………」


 なんか疲れたな。あいつら、思ったより強くなってた。特に1人ヤバそうなのいたな。あれ、もうただのデーモンに収まらんだろう。ま、俺には絶対服従のようだし、扱い方を間違えなければ大丈夫だ。


 残った盗賊は、騎士を襲っていたドレッドヘアのあの盗賊と、あと立っているのが十数人だ。


「そうだな…………後は、試したかったのが魔剣術だ」


 だいたいのイメージはわかっている。魔剣術は剣術の上位互換であり、当然剣術の技術も上だ。それに加えてどうやら魔力で作成した剣を放つことができるようだ。


 魔法に近いようなイメージだが、発動すると半透明、ガラスのような魔力が押し固められた剣が出来上がった。


「ほお」


 掴んだ感じは結界魔法に似ている。剣としてのランクはBランク程度か。魔力を込めればもっといけそうだが、十分だな。ただ淡く光っているため隠密には向かなそうだ。

 それをあと5本作り上げ、計6本浮かべると、残る盗賊に1本ずつ射出した。弾丸のような速度で飛来した剣は盗賊たちの胸を貫き、


 ズガンッ…………!


 地面に縫い付けた。


「おお、なかなかカッコいいな。数もまだまだ増やせそうだし」


「きっ、貴様…………何者なんだ!?」


 ドレッドヘアの男は俺に向かってそう叫んだ。騎士のおじさんは、死んだわけではなさそうだが、腕の傷が深くさらに足を引きずっている。


「ユウー!!」


 とそこにようやくアリスたちが追い付いてきた。


「くそっ、こんなときにさらにAランク冒険者とは…………! 足止め役は何をしてやがる! まずい、計画が…………!」


 ドレッドヘアの男が焦って呟いた。


 よくアリスたちがAランクだとわかったな。このドレッドヘア、なかなかの手練れなのかも。それに、計画…………?


「撤退だ! 退け!」


 リーダーらしいドレッドヘアの男が声を張り上げた。それを聞き、盗賊たちはちりじりに逃げ出した。


「逃がすかよ!」  


 俺がドレッドヘアの男を追いかけようとすると、


「ぼっちゃま!?」


 そのとき騎士の緊迫めいた声が馬車の中から響いた。


「ちっ…………。どうした?」


 追撃は諦めて騎士の元に駆け寄る。馬車の扉を開くと、矢が左肩に刺さった青年がいた。年齢は15歳くらいの坊主頭の青年で、男性にしては背が低めだ。160センチくらいだろうか。今は歯を食い縛り、うめきながら痛みに耐えている。


「退いてくれ。俺は回復魔法も使える」


「ホントか!?」


 騎士に肩を強く掴まれる。


「本当だ。今ならなんの後遺症もなく完治できる。だから退いてくれ」


「あ、ああ」


 そういうこの騎士も酷い有り様だ。3分の2ほどの深さまで切り裂かれている左腕は上腕骨すら断たれ、全く動かせないようだ。後で治してやろう。でもまずはこの青年だ。


「おい、治療してやるが、矢を抜かなきゃならん。我慢しろよ」


 青年は顔に汗の水滴を浮かべながら頷いた。俺は肩の矢に手をかける。


「ふーっ! ふーっ! ふーっ!」


 青年がぎゅっと目をつむる。


「行くぞ? 歯ぁ食いしばれよ。せーのっ! よっ!」



 ズボッ。ブシュウッ…………!



 矢が肩から引き抜かれる。血が跡をひくが、その瞬間に俺は回復魔法を使い、傷口をふさぐ。正直この程度の傷、片手間で治せる。


「よし治ったぞ? おい、治ったって…………ん?」


 青年は痛みに目を開いたまま気絶していた。


「弱いやっちゃな」


 しかし、この豪華な馬車に騎士の護衛と言い、やっぱり貴族かなんかか? 関わるとめんどくさそうだな。


「おい貴様! ぼっちゃまはいったいどうした!? どうしたんだ!」


 まるで俺が殺したかのように言う。


「うるさいな。痛みで気絶したんだろう。大丈夫だ。心配いらん」


「ホントか!? 本当なんだな!?」


 騎士が俺の肩を強く揺さぶる。


「ああ、そうだよ」


 ぼっちゃまとやらがそれほど大切なのか、それともただ上司が恐いだけか。まぁ関係ない。どっちでもいいか。


「そ、そうか」


 騎士は心底ほっとしたようだ。


「よし、あんたも左腕と足を出せ」


 さっきからダラダラと血を流し続けているのが、気になっていた。馬車の床にボタボタと血だまりが出来るほどだ。よくこれで普通に話ができてな。


「良いのか? いくら払えば良い?」


 貴族とバレてると思っての発言だったろうが、それは心外だ。


「いらんいらん。俺の気まぐれだ。いいから早くしろ。失血死したいのか?」


「す、すまん。恩に着る」


 そう言って騎士は腕を出した。上腕が大きく切り裂かれている。痛々しい。これで戦っていたとか、下手すりゃ動いただけで肉が裂けていきそうだ。


 神聖魔法を使うと3秒も掛からずに完治した。


「なっ!? なんという力だ…………。まるで王族のようだ」


「助けたんだ。俺の力のことは黙っておくべきだぞ?」


「あ、ああ、助かった。私はティム・ロビンス。この方は…………」


 そう語るこの騎士はやはりどこかの貴族に仕えているようだ。


「いいからいいから。貴族とはなるべく関わりたくないんだ。じゃあな」


「お、おいっ!」


 呼び止めようとする騎士を無視して、俺は離れて待っていたアリスたちの元に戻った。


「良いの? 恩を売っとかなくて」


 もったいないとアリスは言うが


「良いよ。どうも貴族という人種は苦手なイメージがあるんだ」


「僕もあまり好きではないかな。たまにコルトの辺境伯様みたいなのもいるけどね」


 思ったよりフリーのジーク領主への評価が高い。


「あの人は特殊なパターンだろ?」


「だね」


「誰だそいつ?」


 そうか。ウルは辺境伯のこと、知らないんだった。


「ん? なぁ、そういやなんで全員いるんだ? 馬車は?」



「「「「あ…………」」」」



 遠くにウォーグのきみまろが1人だけノシノシと寂しそうに馬車をひいてくるのが見えた。


「うわぁ、賢いねぇきみまろ」


「馬鹿」


「あいたっ!」



◆◆



 それからこの戦場を迂回して進むこと1時間、長かった旅も終わりを迎えた。


「あ、見えてきたよ!! 王都レムリア!」


 レアの声に前を向くと、


「でっけぇーーーー!!!!」


 目の前にそびえ立つは富士山よりもデカイ、巨大な山だ。だが、山の斜面自体が全て町となっており、山肌には建物しか見えない。30万ヘクタールはありそうな規模だ。その山頂には、白銀の城がそびえ立っていた。山からすれば小さく見えるが、あれも相当でかそうだ。そして、山裾を取り囲むは高さ30メートルはある白い城壁。


【賢者】王都レムリアは人口60万人を超す大都市です。元々山を改造した作りになっており、王都ができてから3000年、敵におとされたことがありません。まさに鉄壁の城です。


 3000年か…………。どんな文化が発達してるか楽しみだ。


【賢者】東西南北に巨大な門がそれぞれ構えられ、その4箇所からしか王都に入ることは出来ません。

 頂上には王族の住む王宮があり、その外側に区画をドーナツ状に分けております。城に近い方から外側に向かって、上地区(貴族地区)、中地区(商店地区)、下地区(住宅地区)となっております。下地区の南門近くにはスラム街が存在します。上地区と中地区の間にはさらに壁が存在し、貴族以外は入ることが出来ません。


 完全に一般市民と貴族を分けているのか。ギルドは?


【賢者】王国ギルド本部は西区にありますが、王都が巨大なため各地区にも支所が存在します。


 なるほど。1箇所だけじゃないのか。


【賢者】また、レムリア騎士団と警備組織が存在します。騎士団は戦争時に軍を率い、警備組織は王都内の治安を守ります。どちらも国の組織になります。


 ふぅん。注意すべき人間は?


【賢者】王都は王国中の強者が集まっています。


≪レムリア騎士団≫

 騎士団長:ダリル・オールドマン

      冒険者で言うところのSSランクに相当。


≪王立警備組織≫

 警備長:ジャベール

     実力不明だが怪物との呼び声も高い。

     SSSランクの可能性あり。


≪レムリア学園≫

 学園長:ブレントン・スウェイツ

     元冒険者。学園を管理するSSランクの魔術士。


≪冒険者≫

 SSSランク:バンギラス・ガードナー

       王国唯一のSSSランク冒険者。

 

 SSランク:スカーフィールド・サラザール

       素行不良の目立つ冒険者。いつも行方知れず。


 SSランク:マシュー・レッドメイン

      クラン『レッドウィング』の当主


 元SSSランク:アレック・ギネス

        現ギルドマスター。引退しているが、

        今なお衰えておらず、多数の伝説を持つ男。


【賢者】冒険者では、さらに他にも多数の強者が存在します。ですが、上記の者たちは特に警戒すべき相手であり、いくらユウ様とは言え、手を出すにはそれなりの覚悟が必要かと。


 なんで賢者さんの俺のイメージそんなケンカっぱやいの?


【賢者】SSランク冒険者は他に3人おりますが、この3人はSランクに毛が生えた程度で警戒するに当たりません。


 賢者さんはすでにSランクは敵と見なしてないのかよ…………。


【賢者】最後に、絶対に、敵対してはいけない人物が『斬の理』を持つブラッド・ステイサム。人族にして、生ける伝説。もはや何百何千年前の人間かすらわかりません。人、生き物を超えた存在、絶対に怒らせてはならない人物です。


 そこまで言うか?


【賢者】はい。『理を持つ者』とは、もはや生き物の枠に収まらないと考えるべき天災です。都市など簡単に消し飛ばせますし、下手すれば大陸ごと焦土と化します。だからこそ、国々は理を戦争に持ち出すことを世界的に禁止しているのです。


 はぁ、絶対に敵うことのない相手か…………。そんな化け物はどこにいるんだ?


【賢者】王宮です。この国の守護神として君臨し続けています。


 へぇ、だったら普通にしてりゃ出会うこともないだろうよ。


【ベル】あんたのことだから心配してるんじゃない。特にそのなんとかって伯爵とやり合うんでしょ?


 まぁな。そんなすぐには始めないが…………。というか学園があるんだな?


【賢者】はい。国立レムリア魔法騎士学園です。他国からも生徒が多数入学している有名学園です。

 13歳~22歳まで入学可能。最大12年在学可能で、魔術士で優秀な者は数年の実務経験を得て、宮廷魔術士に推薦されます。また、戦闘で優秀な者は騎士団へ入団することができます。

 全6学年で1900人程度で剣士クラス、魔剣士クラス(少数)、魔術士クラスがあります。1学年で300人ほどで1クラスは15人ほどS~Eクラスまでの6クラスあります。


 うわ、入ってみたい。


【ベル】あなた、入る必要ないでしょ? 宮廷魔術士程度、簡単に潰せるじゃない。


 いやいや、学園生活ってのにあこがれるんだろ?


 そう賢者に王都について教えてもらっているうちに王都が近づいてきた。遠くからは山に見えたが、圧倒的圧迫感で迫る王都はもはや天に伸びる壁のようだ。


 皆も王都を目にして盛り上がっている。


「あそこが西門だねぇ」


 フリーの案内で馬車が進路を変える。


「よし皆、ここからが本番だ。マードック伯爵をとっちめるぞ!」



「「「おうーー!」」」



 皆が拳を握る中、


「そんなこと大声で叫ばないの……!」


 アリスにツッコミを入れられた。


「…………へい」




 そして、コルトの町を出発しておよそ2ヵ月、ようやく王都に到着した。



いつも読んでいただいている皆様へ

 えー、書き留めがなくなってきましたので、申し訳ありませんが、しばらくお時間いただきます。

「王都編」は今までよりもかなりボリュームが大きくなりますので、だいたい2~3カ月(年明け目指します→2月1日にします。ごめんなさい)かかることになると思います。また今までの投稿した分についても、私が納得いかない部分(表現や演出、文字ミスなど)はストーリーに影響のないレベルで修正していきます。

 活動報告で再開の方をまた連絡させていただきますので、何卒よろしくお願いします!!

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