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【100万PV突破!!】重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第4章 王都
72/159

第72話 ベニスの謎

こんにちは。

ブックマークや評価、感想をいただいた方、書き進めていく上でとても励みになります。有難うございます。

第72話です。何卒宜しくお願いします。


 ダンジョンを出てウルを拾うと、俺たちは静かに町を出発した。今は俺が名付けたきみまろこと、ウォーグの引く馬車に揺られている。


「ほんととんだ寄り道だったねぇ」


 フリーが遠ざかっていくワーグナーを見ながらやれやれと言った。


「あいつら、この先大丈夫かな」


 支えを失ったように思えるワーグナーに心配の声が漏れた。


「あのリーダーたちなら心配いらないでしょ」


 レアが懐かしむようにワーグナーの空を見て言う。


 俺たちが雑談している中、御者席ではアリスがウルにウォーグの乗り方を教えていた。まだ習い始めたばかりのためか、きみまろもウルの指示がわからず右に行ったり左に行ったりと、挙動不審な動きをしている。そのたびにアリスが優しく教えていた。


 アリスって子どもとか嫌いなタイプかと思えば、そうでもないんだな。まぁ、ウルが覚えようと頑張っているのもあるんだと思うが。


「あ、そう言えばユウに預けてた妖刀」


 と、ぼんやりとアリスとウルを眺めているとフリーが思い出したように言った。


「どした?」


「ユウなら大丈夫だろうと思って預けてたんだけどどう?」


「ああ」


 パキンッと空間魔法から引っ張り出す。


【血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血…………】


 頭に変な言葉が浮かんだ。


 なんだこりゃ。


【ベル】マタラったら、ずいぶん変な刀持ってたのね。



【血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血…………。渇く渇く渇く渇く渇く…………血を寄越せええええええ!!!!】



 うるさ。なんだこりゃ。


 掠れた低音の変な声が聞こえる。


【賢者】ユウ様をたぶらかそうとは、見上げた根性ですね。しばしお待ちを。黙らせます。


 黙らすって…………あ、静かになった


 あ、ありがとう。賢者さん。


【賢者】いえ。

 

「あら、その気味の悪い刀なんなの?」


 アリスがウルへ教えるのを中断し、荷台の方へ戻って来るなりそう言った。


「お、アリス。この刀はフリーがマタラって悪魔に貰ったそうなんだ」


「へぇ…………」


「ウルの調子はどうだ?」


「しばらく自主練したいって。あの子、ヤンチャなのかと思えば案外真面目なのね」


「まぁ、ジャンの娘だもんよ」


 肩に力が入ったまま、ウォーグを操る縄を手にしているウルを皆で温かく見守る。


「さてと、そんじゃためしに抜いてみるか」


 スラッと刀身を抜いて見てみると、異様なオーラを感じるものの、それを除けば素晴らしく業物なのは間違いない。


「うわぁ…」


 アリスもレアも興味があったのか近づいてその刀身を見に来ている。


「あれ? ユウ平気なの? それしばらく持ってると自傷したくなるんだけど」



「「ええっ!?」」



 アリスとレアがズザザザと刀から荷台の壁際に避難する。


「それはよくわからんが、うるさかったから黙って貰った」


「いやいや、なんでそんなことできるんだい?」


 フリーがひきつった笑いをした。


「いやまぁでも、フリーはこんな刀持ち歩けねぇだろ?」


「そうなんだよねぇ。せっかく貰ったのに使えないんじゃ、宝の持ち腐れだよ……」


 フリーが腕を組んだままため息を吐き出す。


【賢者】フリー様のユニークスキルならばその刀、使えるかと。


 ああ、『魔剣喰い』ってやつか。まさにピッタリだな。


「フリー。お前のユニークスキルでこの刀、喰ってみろ」


「喰う?」


 一瞬何を言われたのか理解できなかったようだが、すぐにポンと手を叩いた。


「ああ、なるほど! 僕のユニークスキルってそのままの意味だったんだねぇ」


 フリーはガシャッと俺から妖刀『秋雨』を受け取ると、ぐっと顔をしかめた。


「うるさい刀だねぇ」


 フリーは刃先を口にまで持っていくと、咥えこみワイルドにバキンッと喰いちぎった。そしてバキバキと咀嚼して飲み込んでいく。


「「うわぁ…………」」


 レアとアリスは痛そうにその光景を眺める。


「ヒューズの大道芸より、こっちの方がスゴいじゃない」


 感心したようにアリスが言う。


「あれはあくまでも手品だからな? これは本当に食っちゃってるから」


 そのままフリーは刀をバリボリ柄まで食べてしまった。


「不味…………。あぁ、なるほどね」


 フリーがスキルを理解したようだ。フリーが自分の刀を少しだけ抜くと、そこに左手首をスッと滑らして軽く血管を切り裂いた。


「ちょっ!?」


 ボタボタと流れでる血にアリスが慌てる。


「アリスちゃん、大丈夫だよ。見てて」


 すると、フリーの流した血はフヨフヨと浮き上がると、硬質化し赤黒く半透明なナイフの形を取った。


 それは幌馬車内を縦横無尽に飛び回ると、再び液状化してフリーの手首から体内へ戻り傷口を硬化して塞いだ。


「すご…………めちゃくちゃ使い勝手いいんじゃないのそれ?」


 ポカンとした顔でアリスとレアがその様子を眺めていた。


「だねぇ」


 フリーも満足げだ。


「フリーそれ、魔剣なら何本でも喰えるのか?」


「んー、それは無理みたいだねぇ。スキルのレベルが足りないのかも」


「なるほどな。ま、強い魔剣があるほど、今後フリーはさらに強くなれるってことか」


「そういうことだねぇ」


「すごいなぁ。フリーさんのスキル!」


「レア、お前はどうなんだ?」


 そう言うと、


「にしし! これだよこれ!」


 よくぞ聞いてくれました。と顔に書いてあった。レアは空中にバスケットボール大の空気の玉を作り出した。


「これは?」


「まだ良くわかってないんだけど。この中は凄い風が入り乱れてるみたい。見てて?」


 そう言うと、レアは走る幌馬車から風で器用に地面に転がる石を吹き上げ、右手でパシッとキャッチする。そして、それを渦に投げ入れた。



 バスン…………。



 石ころは一瞬で粉末になり、後ろへ流れていった。


「こわっ!」


 まるでミキサーだ。


【賢者】レア様のユニークスキル、エアロボルテックスは強力な空気の渦です。単純ながら強力なスキルになります。


 なるほど。


「使い勝手良さそうなんだよ? これ操れるしね」


 レアが幌馬車から渦を出して、空中をクルクルと円を描くように動かす。


「そりゃぶつけるだけで相手は大ダメージだろうな」


「だよー」


「それになんだかね。風のことがわかるようになってきた感じがするの」


「風のこと?」


 そういや、レアは『風の加護』がLv.2になっていたんだったな。今も魔力を使わずに小石を拾ったように見えたし、それの影響か?


「うん、なんとなくだけど風が言うことを聞いてくれたり、どう風が吹くかわかるようになったの」


 そうレアは嬉しそうに言う。


「へぇ、そんなことがなぁ」


【賢者】加護のレベルアップは加護によって異なるようです。レア様の場合は風を味方につけるようですね。


 なるほどな。それは強みになる。


「あれ、そういやフリーは?」


 レアと話しているうちに消えていた。


「あぁ、多分スキル試しに行ったんだろ」


 あいつホントマイペース過ぎる。ま、そのうち追っかけて来るか。


「ねぇねぇ、ユウのは? ユウのことだから新しいユニークスキル貰ったんでしょ?」


 レアが目をキラキラさせ、顔を近付け詰め寄ってくる。


 ち、近いって…………! 


【ベル】案外シャイなのね。


 うるせ。


「お、俺か? 俺のは…………」


 答えようとすると、



「ユーーーーウーーーーーーーーッッ!!!!」



 後ろの方から俺を呼ぶフリーの声が聞こえた。


「どした?」


 幌馬車から後ろを見ると、フリーが腕を振りながら慌てた様子で走ってきていた。



「なんか、いっぱい来たああああああ!!」




「へ? ……………………うおおわあああああああああ!?」




 フリーが追われているのは、蛇に前足を着けたような、はたまた後ろ足のないトカゲのような魔物の群れだ。顔はトカゲやワイバーンに近く、黄色く爬虫類特有の目が特徴的だ。一番大きい個体で全長7メートル、小さい個体で2メートルくらいだろう。ドタドタと15匹くらいに追われている。前足だけで走るゆえか、やたらと砂ぼこりを巻き上げ大行進に見える。


【賢者】あれはフェイラーリザードの群れです。個体自体はC~Bランクの魔物です。注意すべきは鋭い牙もそうですが、あの強靭な腕と尾にも警戒が必要です。


【ベル】要するに雑魚ね。


 だな。氾濫でこの辺りを離れていたのが戻ってきたのかな。


「おい、フリー! お前、それくらい自分でなんとかできるだろ?」


 幌馬車から後ろへ顔を出してフリーへと呼び掛ける。


「えー!? そりゃないよぉ!」 


 フリーはげんなりとした顔で走り続ける。


「あいつ、めんどくさいんだな」


「もう、絶対そうね…………」


 アリスも不機嫌そうに共感した。


「仕方ない。ユニークスキルの練習にもなるだろ。やるぞ」


「「了解!」」


 2人とも頷いた。


「ユウーー! 俺は?」


 気付いていたのかウルが首を伸ばして後ろを覗きながら聞いてくる。


「ウルは馬車を止めてきみまろを守ってやってくれ」


「きみまろって誰だ?」


「そいつだよ」


 ウォーグを指差す。


「こいつ、きみまろって言うのか!? カッコいいなぁ。よーしよしよし」


 ウルは気に入ったのか、よしよしとウォーグを可愛がり始めた。


 ということで、アリス、レアと一緒に馬車を飛び下り迎撃の準備をする。フリーは一気に速度を上げると振り返って俺たちのところに並んだ。


「やれやれだねぇ」


「おまえなぁ」


 お前が連れてきたんだろうが。


 ジロリと睨むとフリーは目をそらした。


「始めはあたしがやるわ」



 パキ、バキバキバキ…………!



 アリスは氷の翼を背中から生やすとパキンッ!と広げた。途端に氷の結晶が辺りを舞い、陽光を反射しキラキラと光る。


「わぁ…………! 綺麗!」


「ふふっ、ありがとうレア」


 アリスは嬉しそうに笑うと、右肩を前に出すように身体を捻って右翼を下から横へフェイラーリザードに向けて振るう……!



「せっ!」



 すると、凄まじい風と共に翼から羽根が5本飛び、奴らの手前の地面に突き刺さった。



 バキンッ! バキバキッ…………!!!!



 羽根を元に太さ2メートル、長さ10メートルはある5本の六角柱が一瞬で生え、先頭を行くフェイラーリザード3体を直撃。頭や胴体をカチ上げられた奴らは空高く打ち上がると地面に衝突し、動かなくなった。


「あら、これじゃオーバーキルね…………」


 これはなかなか…………。


 だが、他の奴らはその氷柱の間を蛇のようにぬってくる。



 パァンッ…………!



 そして氷柱から飛び出た瞬間、フェイラーリザードの頭部は脳みそや頭蓋骨関係なく血飛沫となって弾けとんだ。


「わぁ」


 隣でレアが驚いたように口を空けている。


 エアロボルテックス、アリスの氷柱の出口に置いていたのだろう。空気の渦であるため、視認は難しくスキルであるため魔力も感じない。なにより恐ろしいのは、骨だろうが石だろうが抉りとるその威力だ。それに、今は球体をとっているが、あれなら応用が効きそうだ。


「ほっ、ほっ、やぁ!」


 レアが手で楽器隊を指揮をするように、ヒュンヒュンと空気の渦を操り、触れたフェイラーリザードの身体にバスケットボール大の穴が開く。どんどんとフェイラーリザードが血飛沫に変えられ数が減っていく。


「はい、レアちゃんストップ。次は僕だよ」


 フリーはレアの肩を叩いて前に悠然と歩いていく。魔物は仲間が殺されたことに逆上し、フリーを頭から丸かじりしようとした。


「あ」


 

 ガブリッ…………!



「あの馬鹿、喰われたぞ?」


「いや、今の避けれたでしょ? 絶対わざとよ」


 レアですら、呆れ顔で誰も心配していない。

 牙がフリーの上半身に食い込み、血が流れる。だがそこで、奴の顎はそれ以上食いつけなくなった。


「??」



 ブシュウッ…………!!!!



 フリーを咥えた状態で口の中から、血の刀が複数本飛び出し、頭を貫通した。


「こりゃいい。防御力も上がるねぇ」


 フリーは白目を剥いたまま痙攣し続けるフェイラーリザードのアゴを片腕で左によけ、ズシンと横向きに倒す。怪我はほぼ身体の表面だけのようだ。フリーは血の刀を1本だけ手に持つと、他は身体に戻した。



「クガアアアアア……!!」



 後続のフェイラーリザードがその筋骨隆々の右腕を振りかざす。


 スヒュン…………!


「ガ…………?」


 奴の腕は根元からフリーがいつの間にか抜いていた刀に斬り飛ばされ、振りかぶった勢いで宙を舞い、俺たちの目の前まで飛んできた。


 右腕を失ったフェイラーリザードはバランスを崩して地面をズザザザと滑る。そして、フリーとすれ違いざまに胴体を輪切りにされ動かなくなった。


 そこから残ったフェイラーリザードがフリーに向かっていくが、フリーは攻撃をことごとくかわし、間を縫うようにバラバラに斬っていく。


「もう今のステータスに慣れてきてるみたいだなぁ…………って、フリー俺の分残せ!」


 そう言いながら前に走る。レベルアップしてから初めて走ったが、速度が段違いだ。景色が線を引きながら一瞬で後ろへと遠ざかる。


 俺の言葉に、わかってるよ、とでも言うかのように片手を上げたフリー。そして後ろに下がった。


 フリーとすれ違うと、前に出る。残ってるのはボスらしき大きいフェイラーリザード1匹だった。子分たちが一瞬で殺られたのを見て、様子を見るように低く唸り、ジリジリと俺の周りを円を描きながら歩いている。目は血走り、ぶちギレているようだがそれなりに知能はあるようだ。



「クガアアアアアアアアアア!!!!」



 尾をバネのようにして予想よりも速い速度で飛び込んできた。


「ほっ」


 ユニークスキル『黒龍重骨』をイメージすると右の肩甲骨あたりから、バキバキバキという音と共に、先に刀のような刃がついた黒い背骨のようで尾のようなものが生える。よく見ればこの骨、黒いモヤを引き連れているようだ。


 黒骨は俺のイメージ通りにシュルッと動き、瞬時に飛び込んできたフェイラーリザードの胴体を空中で絡めとる。黒骨は関節を増やし、長さは40メートルほどにまで伸びていた。絡めとったフェイラーリザードの体重を全く感じない。そして、そのまま大地に叩き付ける!






 ズンッ………………バキ、バキバキ、ボゴォォオオオンッッッッ!!!!






 直径50メートルに渡ってクレーターが広がり、さらに地面が深くまで砕け、クレバスのような地割れが走った。地面が揺れ、きみまろが恐がったのをウルがなだめている。


「クガッ……………………」


 フェイラーリザードは地面に接地した瞬間に絶命していた。仰向けに目を開いたまま長い舌を口からダラリと垂らしている。


「いやいやいや…………やり過ぎ」


【ベル】あなたそれ、重力属性なの忘れてたでしょ…………。

 


◆◆



「そうそう、馬と一緒よ。あとは他の馬車とすれ違うときのマナーだけど…………」


 フェイラーリザードを殲滅後はまたアリスがウルの横につき、御者の指導を再開していた。アリスは教えるのが好きだな。


「ウルのやつも大分御者に慣れてきたみたいだ」


 しばらくして魔物の出現も減り、ガタガタと揺れる馬車の荷台でくつろぎながら2人を見る。


「さすが覚えが早いね。もう1人でもできそうだよ」


 レアも三角座りをしながら微笑ましそうに眺めている。



「そうだな。…………って、ん?」



 なにかアリスと並んで座るウルに違和感がある……。目を細めて見るも、それが何なのかわからない。


「どうしたのユウ?」



「いや、なんでもな……………………いいっ!?」



 そして、とんでもないことに気が付いた。


 け、賢者さん、ウルの奴もしかして…………?


【賢者】はい。ウル様の種族レベルは『2』になっております。


 いやいやいやいやいやいやおかしい。あいつは氾濫の防衛にも参加しなかっただろ!?


【賢者】いいえ。最後にAランクの者を倒しております。


 Aランクって…………まさかジャンか!? ジャンを殺したことでレベルが上がった?


【賢者】間違いありません。あの時のウル様のステータスで種族レベルが上がる相手は魔物にはおりませんでした。


「はぁあああああ…………」


 頭を抱えて、どっとため息が出た。


【ベル】それは、あんまりね……。


 どうすりゃいい? こんなの、あいつが気付いたら…………。


【ベル】でも隠し通すのは難しいわよ? 戦闘があれば、絶対に気付くわよ?


 何か方法はねぇか?


【ベル】無理ね。私の力じゃまた感情を抑えてあげることくらいしかできないわよ。


 そうか…………。




 それから、フリーとレア、御者席から戻ってきたアリスで隠れてその話を相談した。


「なんてこと…………」


 皆がその残酷とも言える事実にショックを受ける。


「どうしたら良いと思う? というか、伝える以外の方法ってないよな?」


 仲間のことは仲間に相談しようと思ったが…………。



「「「「うーーーーん…………」」」」



 俺たちは一生懸命ウォーグを操る小さな背中を見ながらうなる。


「あるとすれば…………ほ、他の原因とすり替えるとか?」


 アリスが苦い顔で、人差し指を立てながら提案する。


「どういうこと?」


「例えばだけど、例のナイフに意識を奪われている間に、どこかで氾濫の魔物を殺していたってのは?」


「確かにあの時の記憶がおぼろげだって言ってたからねぇ」


「なるほどな…………」


 確かに、そうすれば何でレベルが上がったかは証明できないはずだ。ただ、そのモヤモヤを抱えたまま、ずっとウルに事実を誤魔化したままいくのか?


 そう思っていると、


「でも!」


 アリスは目を伏せて首を横に振る。


「あたしは言うべきだと思うわ。それであの子が傷付いても、あたしたちが支えてあげなきゃ」


「やっぱり、そうだよな…………」


 皆が頷いた。とそこで


「お、おーい…………?」


 御者をしながらウルが俺たちに話し掛けてきた。


「今の話、聞こえてきたんだけどよ…………」


 その言葉で全員にビクッと緊張が走る。



「…………知ってたよ。それ」



 ウルが何でもないように言う。


「え…………。気付いてたの?」


「レア姉、当たり前だろ? さすがに種族レベルが上がって気付かない訳がねぇ。でもな、俺はこれをジャンからの贈り物だと思うことにしたんだ。だから…………うん、大丈夫だ!」


 そう言って振り返るウルはニッと歯を見せて笑った。


「だ、大丈夫だからよ…………!」


 でもすぐに前を向いて声を震わせた。下を向いて俺たちに顔を見せないようにしている。無理してるのがバレバレだ。


「おう」


 アリスとレアがすぐにウルの隣まで飛んで行き、抱きしめた。それからはまたウルの泣き声が聴こえてきたが、ここは2人に任せておこう。



◆◆



 ワーグナーを出発して数時間が過ぎた。


 とりあえず、近づく弱い魔物は俺が遠距離射撃で始末しているが、俺もレベルが上がることでまた魔力が激増していたのを忘れていた。初撃のファイアバレットはオークの集落を1発で森ごと木っ端微塵に吹き飛ばした。本気で撃てば空を赤く染めることもあり得るので注意したい。自分でもヤバい威力という自覚はあるので、魔力操作の感覚を改めて鍛えようと思う。


 そして、今は皆で寝床の準備をしている。と言っても俺が建てたマンションくらいの大きさの簡素な城に俺が空間魔法に持っていた皆の布団を引いてもらうだけだ。ウルの寝床の布団もしっかり持ってきている。それに、もともと食べ物は俺がコルトの町で買い込んでいた分がまだあるから心配要らない。


「よし! そんじゃ飯にするか」


 広めに作った20畳くらいのリビングの大理石テーブルを囲んで全員についた。

 硬晶魔法へと進化した俺の土魔法は、様々な鉱物を造り出せるようになっていた。ちなみに今は強化した透明感のある白い大理石で城を、さらに明かりは俺が光魔法で代用しているため、まるで大理石の洞窟を掘り抜いて作ったような神秘的な内装に仕上がっている。


「なぁユウ」


 俺の向かいに座ったウルが話しかけてきた。テーブルに着くと、皆より頭1つ背の低いウルはやっぱりまだ子どもなんだなと実感する。


 今はウルの心を気にかけてやる必要がある。なるべく負担になるようなことはなくしてやりたい。


「どうした?」


「俺、確かにワーグナーを出たことはなかったけどよぉ。これ、俺が想像してた旅と違うぞ? もっとこう、テントを張って見張りを立てながら野宿するのをイメージしてたんだけど」


 テーブルに座ったウルが、部屋をあちこち見上げながらそんなことを言い出した。


「だってウルも、そんな大変なことしたくないだろ?」


「おう。そりゃそうだけどよ?」


 不満はないようだが、納得はいっていないようだ。


「ウルちゃん、外は魔物や盗賊がうろついて危険なんだよ?」


「そうよ。そんな危険な場所で寝たくはないでしょ?」


 アリスたちも大分毒されてきたようだ。


「う、うん。言われてみればそうだな」


 ウルの目から光が消えた。多分考えることを止めたな。


 皆に諭されてウルも納得したようだ。こうしてこのパーティに染まっていく。


「よし! それじゃ、ウルの我がパーティ、ワンダーランドへの仲間入りを祝ってカンパーイ!」



「「「「カンパーイ!!」」」」



「カ、カンパイ?」


 それからウルの御者の話をしたり、ワーグナーじゃどれだけ豪勢な場所で寝ていたんだって話だとか、ジャンの昔話などを聞いたりした。ウルは仲間が出来たことがそんなに嬉しいのか、終始楽しそうでご機嫌だ。


「そういや、皆聞いてくれ! 俺ユニークスキル手にいれたんだ!」


「お、やったねぇ。どんなスキルだい?」


「『アイズ』って言うみたいだ! まだ使い方はよくわかんねぇけどよ」


「へぇ、どれどれ?」


============================

名前 ウル 10歳

種族:人間Lv.1→2

Lv :1

HP :1280

MP :2010

力 :1805

防御:820

敏捷:4050

魔力:2800

運 :90


【スキル】

・暗殺術Lv6

・剣術Lv.4

・縮地Lv.3

・隠密Lv.7

・立体機動Lv.8

・魔力操作Lv.3

・魔力感知Lv.3

・解体Lv.7

・探知Lv.6

・王の威厳Lv.3


【魔法】

・火魔法Lv.4

・光魔法Lv.3

・神聖魔法Lv.2


【耐性スキル】

・恐怖耐性Lv.5

・苦痛耐性Lv.7


【補助スキル】

・自然治癒力アップLv.6


【加護】

・なし


【ユニークスキル】

・アイズLv.1 NEW!!

============================


 王女様がそれでいいのかと若干思うが、完全にアサシン極振りのステータスだ。敏捷はなんとレア並みで、町中の屋根の上を走り回っていたからか立体機動が高い。しかも、魔力もそれなりに高い。


【賢者】神聖魔法を得る者は魔力が高くなる傾向があります。


 なるほど。アイズはどんなユニークスキルなんだ?


【賢者】アイズLv.1は一定範囲内にいる相手の視界を見ることができるスキルになります。また相手の探知範囲もわかるようになります。


 こりゃまた暗殺向きだな。相手が見てる場所が分かれば、いくらでも死角から攻撃できるってわけだ。


「おお、ほんとだな。アイズは一定範囲内の相手の視界を見れるらしいぞ。あと相手の探知範囲も分かるとか」


「なんだそりゃ? 微妙だな」


 ウルが自分のユニークスキルの良さに気付かずにがっかりしている。確かに派手さはないが…………。


「いやいや、ウルは隠密が得意なんだろ? ならこのスキルを使えば……」


 ウルはフォークの端を摘まんでプラプラさせながら考えている。


「な、なるほど。俺の戦闘スタイルと相性抜群じゃねえか!」


 喜びからか、ガシャアン!とテーブルに手を突いて立ち上がった。


 やっと気付いたようだ。


「だな」


「というか前から思ってて、その、ユウだからって流してたんだけど、なんでユウは皆のステータスやスキルの使い方までわかるの?」


 アリスが聞いてきた。まぁそら今まで聞かれなかったのが不思議なくらいだ。


「あ、それ。僕も気になってたんだよねぇ」


 フリーもだ。


「そりゃあ、俺のユニークスキルだな。鑑定みたいなもんだ」


【賢者】私です。


「あ、あなたいくつユニークスキル持ってるの?」


 皆の視線が集まる…………。


「え? …………教えない」


「なんでよ。ユウばっかりズルいわ」


「いや、子どもか! ズルくはないだろ?」


 全部説明するとめんどくさそうだから。


「て、ウル黙りこんでどうした?」


 さっきからウルが一言も喋らない。


「いや、アイズ使ってユウの視界を見てたんだけど、なんでユウはたまにレア姉の脚をチラチラ見てるんだ?」


「は…………? ち、違う! 可愛い部屋着だなと思っただけで…………!」


 お、おい。なんで俺にスキル使うんだ。そんな使い方、プライバシーの侵害だ!


 今日のレアの部屋着がショートパンツで隣に座ったのを良いことに、太ももをチラ見してしまっていたのがバレた。


「ひっ!?」


 アリスの方から絶対零度が飛んできた。首を傾け、頬の横を冷気が通りすぎ壁が一瞬で凍り付いた。


「今のは死ぬだろ!?」


「ユウ、恥ずかしいよ…………」


 レアが顔を赤らめながら内ももに手を当てて隠している。


「ヘンタイ。サイテーね…………」


 アリスが機嫌を悪くする。


「さ、最低だねぇ。同じ男性として恥ずかしいと思うよ」


 フリーが胸を撫で下ろして言う。


「てめっ、フリー!」


 アイツのどの口が言うんだよ!


「フリーもアリス姉の胸元見てたぞ?」


 ナイスだウル。


「ちっ、ちがう。だって見るほどの胸なかっ…………」


 フリーは言葉の途中でツララを生やした氷像になっていた。


「馬鹿か」





 翌朝、夜の見張りは何故か俺とフリー2人だけの担当だった。


「ふわぁ~、ねむっ」


 アクビが止まらない。


【賢者】ユウ様、見張りなら私がやりましたのに。


 いや、賢者さんに頼んだんじゃアリスたちを騙してるみたいでな。


【ベル】変にまじめなのね。


「あなたが悪いんでしょ?」


「はーい」


 じろっと見てくるところ、アリスの機嫌は直っていない。


「はいそれじゃ、ここから馬車で10日ほど進んだ場所に小さいけれどベニスっていう町があるはずよ。ひとまずそこを目指しましょう」


 ベニスか。ベニスと言えば、ワーグナーで3兄弟のノーブルが言ってた気を付けろって言葉が気になるが…………。



◆◆



 しばらくは何事もなくただ淡々と進んだ。ウルも俺たちに馴染み始め、年が1番若いから皆の妹のような感じだ。


 そしてワーグナーを出発して9日目。



「定期便が途絶えた?」



「ああ。ベニスは街道からちょっと離れたところにあるから、長旅をする連中が王都へ向かう途中に休憩に寄るくらいで、それほど頻繁に人が訪れる町じゃない。どちらかといえばひっそりとした町だ」


「ほん、それで?」


「近くに観光地もないんだが、うちの町と週に1度は定期的に売り買いの便が出ててな?それが2~3週間ほど前からパッタリと途絶えた」


 そう語るのはベニスから北側に位置するアコーディアという町からはるばる来た太った商人だ。


「なんかあったのか?」


「さぁそれがわからん。あの町にも小さいが冒険者ギルドがあったんだが、ギルド間の呼び掛けにも反応がないらしい。もうすぐ、隣の町から調査団が出る予定だ。あんたらも今は行かない方がいいんじゃないか?」


「ああ、そうだな。忠告ありがとう」


 情報料代わりに仕入れたらしい銀食器を俺たちの人数分セットで買ってやると上機嫌で商人は去っていった。


 ノーブルが注意しろと言っていたのはこのことか。あれからもう10日以上経つのに、解決されてないってのはただごとじゃないかもしれない。


「うーん、どう思う?」


 俺は馬車の皆に問い掛ける。


「俺は面白そうだから行きたい! 俺たち冒険者だろ!? 謎に立ち向かってこそだ!」


 ウルが無邪気で元気にそう言う。


「いや面白そうってお前な」


 軽く頭をつんっと小突く。


「いてっ!」


「どうなんだろ? でも何かあったのなら助けてあげたいよね」


 レアは結構正義感があるというか、優しいんだよな。


「…………そうねぇ、でもわざわざ危険を冒すべきじゃないと思うけど」


 アリスが現実的に考えながら言った。


「まぁ王都への手土産になってもいいんじゃない? 全然情報が掴めていないみたいだし」


 そしてフリーはちゃっかりしてる。


「うーん、それもそうね。王都で手ぶらでギルドマスターに話を通してもらうのもね」


「じゃあ少しだけ見ていくか?」


「賛成!」


 ウルが目をキラキラさせて喜んだ。



◆◆



 それからさらに1日半ほど馬車を走らせた。もう陽が沈むころだ。


「ねぇ。ベニスが見えてきたわよ」


 御者をしているアリスからだ。


「どうだ?」


 俺も御者の席、アリスの隣に座る。皆も気になるのか荷台でギュウギュウと前に詰めてきた。


 この距離から見えるのは、ほとんど沈みかけの太陽を背に平原にポツンと現れた町のシルエットだけだ。


「逆光だなぁ」


 千里眼を通して見てみる。いたって普通の町だ。白色の壁に柱を木材本来の焦げ茶色を生かしたお洒落な家作りで統一されている。この辺は出てくる魔物も大して強くないのか町を囲う塀は木造で2メートル程度と低く、町自体も小さいようだ。


「外から見た感じ、変わった様子はないな。ただ、町の灯りが全くついてない」


「だったら、単に魔物に襲われて全滅したとかか?」


 ウルがワーグナーの最近を思い出してか、そう聞いてくるが。


「いや、だとしたら町はもっと建物が壊れてたりして荒れてるはずだろ? でも整然として、入り口から見た感じ、ちょっと雑草が繁ってるくらいだ」


「人は見えるかい?」


「んー、見えないな。…………ん?」


 一瞬、2階建ての民家の窓に人が動いたように見えた。


 こっちを見ていた?


「今、窓に人影が見えた」


「あら、だったら人はいるのね。なら何か理由があって町から出られないとかかしら」


「だとしたら話を聞いて助けてあげようよ」


「いや、でもそれってどんな理由だよ?」


 一度皆で考えてみるが、答えはでない。


「一番あり得るのは…………盗賊が町を人質に立てこもってるってことか。それならさっき見えた人影は見張りだろうな」


「その場合はちょっと厄介だね。町ごと人質にとるって、何かでかい計画がありそうだし、盗賊の人数も多そうだよ」


「うーん、ただそういう感じにも見えないんだよなぁ。見つからないように少し潜入してみるか?」


「うん」


 ということで町の目の前まで馬車を進めた。もう太陽は完全に沈み、月は雲に隠れて町の外はほぼ真っ暗だ。

 ベニスの町は村と言ってもいいほど、小さな町のようだ。町の入り口から伸びる道だけが石畳で舗装されているが、他は剥き出しの草地。街灯はあるんだが…………やはり消えている。


 そして、不思議なことに


「なぁ、生き物の気配はそこかしこにあるんだが…………」


 そう、探知には家屋内のそこらじゅうに反応があった。やはり魔物で全滅したわけではないらしい。


「そうだね。だけど……静か過ぎない? 生活感がないというか…………」


 耳をピクピク動かしたレアが違和感に気付いた。


「本当に盗賊なのかな? なんというか……それよりもずっと嫌な感じ?」


「そうだねぇ。とりあえず、馬車はここに止めて町の様子を探ってみる?」


「だな」



 馬車は町から少し離れた茂みに止め、歩いて無言の町への門をくぐった。

 もちろんいるはずの衛兵などは立っていない。町の中は荒らされたりした様子はなく、人がいればあるはずの生活音というものがまったくなく、気味が悪い。まだ暗くなって間もないため、ワーグナーほど夜中まで飲んで騒ぐことがなくとも、これはおかしい。


 念のため、声を抑え町の雑草が茂り始めた町の中央の通りを警戒しながら静かに進んでいく。灯りは控えめに光魔法で辺りを照らす。


「なぁ、魔石灯ってどれくらいで取り替えるんだ?」


 見上げれば、街灯に取り付けられている魔石は魔力を失ったまま放置されているようだ。


「あ、それオレが冒険者になって始めのころやってたからわかるぞ。質にもよるけど普通の小さいやつで1~2週間だ。まぁ王都にあるようなやつはチャージできるみたいだけどな」


「へぇ、ウルちゃんは物知りだね」


「だろ!?」


 レアに誉められてウルはニヨニヨと嬉しそうだ。


「だったらしばらく前に魔石が切れてそのままなんだろうな」


「しっ!」


 レアが真剣な顔で口に指を当て、耳をピクピクと動かしている。


「どうした?」


 俺が小声で聞く。


「なんか、なんて言うか……気持ち悪い音、咀嚼音て言うのかな? ぐちゃぐちゃって音がする」


 レアがあまり聞きたくない音のようで、顔をしかめて猫耳を畳んでいる。


「魔物か? どの家からする?」


 まず盗賊ではなさそうだ。


「そっち、左の民家」


 レアが指を指した方を見るも、外見に破壊されたりおかしなところはない。町の門をくぐって3軒目、木造平屋の一般的な民家だ。


 空間把握の範囲を民家に寄せてみる。認識範囲をドアから入って、中を透視する。


 玄関…………何もないな。


「どう? ユウ今、スキルで見えてるんでしょ?」


「ああ、今見てってる。ちょっと待ってくれよ」


 そのまま慎重に範囲を進める。ここは、キッチンか…………。


 木製テーブルの上には3人分の食器と夕飯が並べられたまま手をつけられた様子はない。だが、ハエが飛び回っている。やはり結構時間は経過しているようだ。


「ねぇ、どうなの?」


 アリスが服を引っ張って聞いてくる。


「なんだアリス怖いのか?」


「こ、怖くなんかないわよ」


 ひきつった顔でアリスが答えた。


 ん?


「これ、血か?」


 よく見ればテーブルの上には勢いよく飛び散った血の跡があった。黒くボロボロと固まっている。多分これじゃ、大人の男性でも致死量だろう。絨毯にもシミになっている。


「誰か襲われたの?」


 血と聞いてレアとウルが動き出そうとするが、2人の肩を掴まえて止める。


「待て2人とも。これは大分前の血だ。もうとっくに固まってる」


 なんか毛むくじゃらの生き物が見えてきた。床に寝そべり、舌をだらりと出して口を開けている。牙が生え、犬のような顔。


「こいつは…………町に迷いこんだオオカミだな」


「なんだ動物か」


 ウルはほっと胸を撫で下ろす。


 見ていると、オオカミの様子がおかしいのに気がついた。そして、オオカミのそばに何がいる。


「…………いや、おいおいまじか!?」


「どうしたの?」




「喰われてるのが、オオカミだ!」




 俺に見えたのは、オオカミの腹に顔を埋めて一心不乱、獣のように内臓をむさぼる人間の姿だった。




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[良い点] 仲間が増えて、ストリー展開に厚みが増してきたと感じます。とても面白いです。 [気になる点] ウルの年齢。 ストーリーではウルの年齢は10歳のようです。81話を見てそう感じました。 72話の…
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