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重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第3章 ダンジョンの町ワーグナー
69/160

第69話 悪意のナイフ

こんにちは。

ブックマークや評価、感想をいただいた方、有難うございました。

第69話になります。何卒宜しくお願いします。


 ボロボロになっていた服を着替え、アリスと宿を出た。寝起きだったが、アリスがレストランからの香りにつられ食べたそうにしていたので、お昼は南の地方の香辛料たっぷりのご飯ものを食べた。


 お昼に町を歩いていると、どことなく暗い雰囲気が漂っているのを感じる。町の人たちは笑顔でいようと努めているが、その表情にはやはりどこか影があった。町が助かったことよりもジャンの死の哀しみが大きいようだ。


【ベル】ごめんなさい。


 違う。これはベルのせいじゃない。


 それでも、昨日の今日だというのに活気を取り戻しかけている。さすがは勢いのある町だ。そしてフリーたちを探して歩いていると、もはや見知った顔を見つけた。


「オッサン何してんだ?」


「おう、ユウか。町が助かったってときに武器なんか売れねぇじゃねぇか。今はデザート屋台のおやじに変身してんだ」


 見れば屋台には星形のマンゴーのようなフルーツや、皮の固そうな赤黄色のフルーツ、白く透明なブドウのようなフルーツが盛られている。


【賢者】星形のはピックル、赤黄色のものはナップル、小さく透明なものはアイスミールです。


 へぇ。


「はぁ、たくましいこって。オッサンも元気そうで何よりだ」


「おう。おかげさんでな。そっちの可愛い嬢ちゃんも大活躍だったみたいだな。ほんとお前たちには助けられてばかりだ」


 オッサンは嬉しそうに言う。


「いいんだ。好きでやったことだしよ」


「避難してた嫁さんも娘も、おかげさまで町に戻ってくるってな。これは礼だ。これでも食え」


 オッサンはお礼にとデザートを作り出した。慣れた手つきでナップルの皮の固そうな上の部分をナイフで切り取ると、果汁あふれる中身の黄色い果肉をスプーンで削るように掘り出した。そして中央の硬くデカイ種はゴミ箱に捨てる。


「ジャンは残念だったな。あの人ほどこの町のために働いてくれた人はいねぇよ。うちの町はこれから大変だ」


 いつも明るいオッサンもさすがに参ったと言う。


「すまん。俺がいながら助けられなかった」


 こればかりは何度思い出しても悔しいし、申し訳ない。


「いや、お前さんを責めてるわけじゃねぇ。いくらあの刀に認められたからってな。お前は神じゃねぇだろ? 思い上がっちゃいけねぇ。全員を救えるわけじゃねぇんだ」


 そう言いつつ、今度は中身のくり貫いたナップルの皮を容器にして、そこへ柔らかそうなピックルをスッスッと一口サイズに切り、ナップルの果肉と一緒に入れる。


「それはそうだがなぁ」


 自分で納得いかない部分はどうしてもあるもんだ。


「そもそもユウはこの町の者じゃねぇだろ? お前さんに頼りすぎちゃ今度なんかあったときに自分たちで解決できねぇしな。お前はできることをやったんだ。そこに感謝すらあれど、怒りはねぇさ」


 そして、いつものようにがははと笑う。


「ありがとう。そう言ってもらえると楽だ」


「おう。ほら、これでも食え」


 そして、最後にアイスミールと呼ばれる小さく透明なブドウのような果実をふりかけると俺たち2人に渡してきた。


「お。ああ、ありがとう」


「有難うございます」


 アリスもペコリと頭を下げるとオッサンの屋台を後にした。


「良い人が多いわね。この町は」


 アリスと機嫌よくデザート片手に歩く。


「だな」


 アイスミールという果実はシャリッという歯応えと共に、冷たく甘い牛乳のような味がした。それに甘酸っぱい果実がちょうど良い甘さと鼻に抜けるフルーティな香りがとても旨い。


 もともと氷属性を持った果実なんだな。


「あ、これ美味しい……」


「ほんと。あのオッサン、何を売っても一流だな」


 精神的に疲れたところにこの冷たさと甘さは、癒しをもたらしてくれる。


【ベル】いいなぁ。私も食べたいなぁ。


 ははは。


 笑って流そうとすると、ベルがむくれた。


【ベル】むっ、今度食べさせなさいよ?


 はい。


 そうアリスと共に、シャリシャリパクパクと食べながら町を歩いていると、本当にたまたまだが、フリーではなく目当ての奴を見つけてしまった。


「おいアリス!」


 ひっそりと耳元で、まだデザートを口に運ぶアリスを呼ぶ。ビクッとした。


「え、ええ彼ね。何をしてるのかしら」


 奴が広場から伸びる石畳で道幅5~6メートルの大通りを1人で歩いている。なかなか人通りは多い。


 あんなことをして、あいつは今、何を考えてるんだろう。敵か味方か? まだ自分が疑われていることには気付いていないんだろうか。


「あ、飲食店に入るわ」


 アリスの声に奴に注目していると、カフェのオープンテラスに一人で座った。緊張しているのか、癖なのか、腕を組んで貧乏ゆすりをしている。


 何をそわそわしてるんだ?


「怪しい。なんだ、誰かと会うのか?」


 俺らは屋台の陰からひそかに見つめる。屋台のオバサンは何か言おうとしたが、そこのクレープを買うと大人しくなった。


「ほれアリス」


「あら、ありがとう」


 アリスも素直に受けとる。


 そして2人でパクパクとクレープを食べながら奴を見張る。さすがに腹がおっきくなってきた。


「誰も来ないな」


「あ、来たわよ。…………て、ごめんなさい。店員みたいね」


 アリスが指差した。


 だが、奴はその女の店員と知合いだったのか何かしゃべっているようだ。


「何を話しているのかしら」


「ちょっと待てよ」


 身体強化で聴力を強化して、カフェ店員と奴の声に集中する。すると、会話の内容が微かに聞こえてきた。



「…………だからこないだの返事くれって」


「えー、もうちょっと待ってほしいの」


 女性店員は顔を赤らめて恥ずかしそうに言う。


 なんだ? なんの話だ。


「すごく良い店知ってんだよ。大聖堂が見える部屋があって景色最高なんだ」


 俺はずっこけそうになった。


「お、おい、アリス!」


「どうしたの? 何かわかった?」


 アリスが重要な情報かと真剣な顔で聞こうとする。


「いや、あいつあの子口説いてるだけだ」


「え…………うそでしょ」


 その子は年は若いがかなりボリュームのある体型をしていた。まるでドラム缶みたいだ。


「あんな子がタイプだなんて。笑えるわ」


 鼻で笑うアリス。


「おい、そこは笑うなよ」


 ちょっとそこは真面目に注意した。世の中には色んなフェチを持った人物がいるもんだ。


 それから10分ほどその店員を口説いているみたいだった。特におかしなところはない。


「つーか、あいつ店員の仕事邪魔し過ぎだろ」


 店員は仕事の手を止めて、奴の話に付き合っている。その分ホールが忙しくなってしまっているようだ。


「あ、終わったみたいよ」


「ほんとに口説いただけかよ…………!」


 それから奴はまたふらふらと町を歩いていく。奴はよく町の人に声をかけられお礼を言われたり、同業者に話しかけられたりしていた。


「ふぅん、それなりに顔は広いみたいね」


「俺、こいつみたいに自分が何してるか、あとつけられたら恥ずかしくて仕方ないな」


「あなた、普段何してるのよ」


 呆れ顔でじろっとアリスが俺を見る。その視線から逃れるために奴に注意を向けると、急に細い路地を曲がった。


「あ、おい曲がったぞ」


「ええ、追いかけましょう」


 俺たちも奴を追いかけ、左に曲がる。


「あれ? あいつは?」


「待て」


 遠くには行っていないはず…………空間把握。


「いた。そこの店の中だ」


 と、俺が店を指差すと


「ここね? ってここ、ふ、風俗店じゃない…………!」


 アリスが真っ赤な顔で俺を殴る。


 ボコッ……!


「あいてっ!」


 て俺別に悪くなくない?


 客引きのおばちゃんに笑われてしまった。アリスもさすがにこの風俗街にいるのは嫌らしい。仕方なく2人で屋根の上へ登り、頭をさすりながら俺は入り口、アリスは裏口を見張る。


 しばらくして、


「来たっ」


 奴はやけにスッキリした顔で入り口から店を出て、さらに路地の奥に入っていく。


「ふぅ、やっとなのね」


 裏口を見張っていたアリスを手で呼ぶと、若干機嫌が悪くなっていた。


「仕方ないだろ。行くぞ?」


 あいつ、かなり耐久力があるみたいだ。うらやましい。


 そして、奴は途中でわしゃわしゃと髪を触って髪型を崩すと、さらにフードを被った。まるで人の視線を気にしているようだ。

 それからどんどんと裏路地へ向かい、人通りもまばらな道へ出た。道も狭く、陽光があまり射し込まないため、薄暗い。俺たちも再び路地へ下りて追跡を続ける。


 そして、奴は地面の上に直接布を広げ、その上に武器を並べている露店商の前で足を止めた。首を動かしてはいないが、周りの気配を伺っているようだ。


「あやしい…………な」


「ええ、見逃しちゃだめよ」


 そして懐から短剣やナイフを合わせて4本ほど取りだし…………売った。



「「っ!!!!」」



「おい、アリス見たか!?」


「ええ。あのナイフなのね?」


 俺と目が合うアリスの声が真剣味を帯びる。


【賢者】あのナイフで間違いありません。


「ああ。あの中の1本、ウルが持っていたナイフだ。これで奴は間違いなく黒だ。少なくとも情報は必ず持っている」


「そう、残念ね」


 アリスが少なからずショックを受けている。それは俺も同じだ。


「アリスは奴の後をつけてくれ。おれはあのナイフを買い取ってくる」


「わかったわ」


 奴が去った後をアリスがつけていく。俺はしばらくして、何も知らないふりをしてからその店に立ち寄った。


「すまない、氾濫で武器をやってしまってな。見せてもらえるか?」


「ああ、いいぜ? 見てってくれよ」


 汚いひげをぼうぼうに生やした店主だった。別に裏路地じゃ珍しくない格好だ。地面の大きな紫色の布の上に広げられた武器の中には中古の剣やボロボロの盾、見れば怪しいオーラを放ついわく付きのものもある。


「ナイフはあるか?」


「ナイフ?」


 店主が一瞬、考えた。 


 ん? 今さっきあいつから買っていただろう。なんですぐわからない!? いや、俺がそれを追求するのもおかしい。後をつけていたことがバレる。


「あ、ああ。そうだ。ちょうどさっき良いのが入ったんだ」


 店主が首をかしげながら言った。そうして出してきたナイフの中に……


 あった! ウルが持っていた少し反りのついた刃渡り20センチくらいのナイフだ。


 見たところ特に変わったところはないが、


 賢者さん!


【賢者】はい。


―――――――――――――――――――

鋼のナイフ

ランク:B

属性:なし

特殊:呪い(Sランク)


〈最愛の者に対する殺害願望が心を支配する〉

―――――――――――――――――――


 なんてたちの悪い。しかもSランクの呪いか。


【ベル】最低ね。こんな呪いどうして存在するのかしら…………。


「おい、これいくらだ?」


 店主に勢い付いて問う。それにピクッと眉を反応させた店主。ニヤッと汚い歯を見せたように見えた。


「20万コルだ」


 こちらを見ずに堂々と言いきった。


「にじゅっ…………!」


 高っ……!!!! ぼられたかもしれねぇ。いや、ここでもめたら面倒だ。言い値で買い取るか。


「あぁ、はいよ」


 そうしてナイフを受け取った。


【ベル】絶対に装備しちゃだめよ!? わかってる?


 わかってるって!


【賢者】氷魔法で凍結させ、空間魔法に保管すれば大丈夫でしょう。


 ああ、そうする。いや、その前にこの店主…………。


「なぁ」


 ナイフが高値で売れたことに機嫌良くする店主に問いかける。


「なんだ? 返品は受け付けてねぇんだが?」


 クレームでもあるのかと、途端に不機嫌になる店主。


「いや、聞かせてくれ。なんでさっきナイフのことを聞いた時、不思議そうにしてたんだ?」


「ああ、それがな。そのナイフ、たった今仕入れたところだったんだ」


「ああ」


 そうだ。俺らだってそれを見ていたんだからな。


「いや、それが、それを持ってきた奴のことを思い出せなくてな。顔も、男だったのか女だったのかすらな」


「なんだそりゃ?」


「はっ! 別にどうってことねぇ。俺ももうガタが来てんだろう。かっかっか!」


 そう自分の頭を指差しながら、汚ならしい店主は歯の抜けた口を大きく開けて笑った。


 こりゃ、ウルの大聖堂や酒場での証言にも一致するな。


【賢者】あまりにも不自然です。ベル様、あの男に悪魔は憑いていないのですか?


【ベル】ええ。気配はないわ。だから精神魔法ではなさそう。


【賢者】魔法道具を使う素振りもありませんでした。ということは、なんらかのユニークスキルでしょう。


 認識を阻害するタイプか?


 俺は店主に向け、銀貨を1枚弾いた。


「ああ? なんだこりゃ?」


 手でキャッチすると首をかしげる店主。


 ぼったくりには腹が立つが、情報料だ。有力な話が聞けた。


「そいつで頭の検査してもらえよオヤジ」


「けっ! 馬鹿にしやがって。だが、これは受け取っとくぜ? 今晩は酒でも飲むさ」


「おう」


 よし。そんじゃ、アリスを追いかけるか。こっちの方か?


 あいつが向かった明るい大通りへの方向へ向かう。裏路地に入ったのはナイフを処分するためだけのようだ。



◆◆



 隠密を発動しながら行くと、細い路地に隠れてこそこそ話している4人を見つけた。アリスはフリーとレアと合流したのだろう。それにウルまで一緒だ。


 思ったより目立っていることに気付いてなさそうだが、幸い、空間把握で確認すれば俺たちに注目している奴はいない。


「お前ら、何してんだ。ウルまで」

 

 4人がビクッと肩を震わせた。


「ユウかい、びっくりさせないでほしいなぁ」


 やれやれとフリーが文句を言う。


「いいだろ俺がいたって! 当事者なんだから」


 ウルがむくれる。ウルは表面上はいつもの元気を取り戻しつつあるように見える。


 一応確認しとこう。


「まぁそれもそうか。しかしウル。声がでけぇ」


 言いつつわしわしと頭を掴むようになでた。


「はわわわ」


「おい、止めろ馬鹿!」


 大丈夫そうだ。元気で良かった。


「ちょうど今、後をつけてたらあいつが宿に戻ったとこなの」


 アリスがそう言う。確かに今奴は宿屋で水浴びをしているようだ。


「で、ナイフは手に入った?」


「ああ。盗ったのはあいつで間違いない」


「あららら。彼、嫌いじゃなかったんだけどねぇ」


 フリーは残念だとばかりに、ポリポリと頬をかく。


「確定だ。俺とアリスはこいつを商人に売ったところを確認したからな」


「う~ん、それは言い訳のしようがないよね。でもウルちゃんがあの人と会ったことを覚えていないのはどうしてなの?」


 レアが腕を組みながら首をかしげた。


「それだが、あいつ、やはりユニークスキルを隠してる可能性がある。どの程度かはわからんが、会った人間からその時の自身の記憶を忘れさせることができるのかもしれん」


「なっ…………! くそっ、そういうことかよ!」


 ウルは自分がまんまとやられたことに怒る。


「だな。実際、ナイフを買った店主はあいつのことを覚えていなかった。まぁ、あいつ自体は強くないがスキルは厄介だ。絶対油断するなよ?」


 皆は俺の目を見て強く頷いた。


「それでだ。もうすぐ葬儀だろ。フリーとレアはこのまま奴を見張っておいてくれ。俺らはナイフをもう少し調べたらこのまま葬儀へ出る」


「了解。なんかありそうならこっちの判断で動くけどいいよねぇ?」


 フリーなら冷静な判断ができる。レアも一緒なら問題ないだろう。


「ああ。そこはまかせる。ジャンの葬儀なのにすまんな」


「いいよ。これこそジャンさんのためだもん。それに私たちだって成長したしね!」


 そう自信満々に宣言するレア。確かに2人のステータスもアリス同様跳ね上がっていた。


============================

名前 レア 16歳

種族:獣人Lv.1→2

Lv :59→1

HP :940→2450

MP :1590→3300

力 :690→1580

防御:565→1400

敏捷:1500→4320

魔力:1970→4790

運 :650→760


【スキル】

・剣術Lv.6

・縮地Lv.6→7

・立体起動Lv.4

・魔力操作Lv.6→7

・解体Lv.5

・探知Lv.6


【魔法】

・火魔法Lv.1

・水魔法Lv.1

・風魔法Lv.7→8


【耐性スキル】

・打撃耐性Lv.3→5

・恐怖耐性Lv.2→4

・苦痛耐性Lv.3 NEW!!

・土属性耐性Lv.2 NEW!!


【補助スキル】

・自然治癒力アップLv.3 NEW!!

・魔力回復速度アップLv.1 NEW!!


【ユニークスキル】

・エアロボルテックスLv.1 NEW!!


【加護】

・風の加護Lv.1→2

============================



============================

名前 フリー

種族:人間Lv.1→2

Lv :74→1

HP :1290→3060

MP :750→1540

力 :1710→3800

防御:1470→3280

敏捷:1910→3960

魔力:1290→2300

運 :400→430


【スキル】

・剣術Lv.8

・抜刀術Lv.6→7

・縮地Lv.3→4

・天歩Lv.1→2

・解体Lv.6

・探知Lv.6

・魔力操作Lv.3→5


【魔法】

・火魔法Lv.3

・風魔法Lv.3


【耐性スキル】

・斬撃耐性Lv.7→8

・打撃耐性Lv.5

・恐怖耐性LV.1 NEW!!


【補助スキル】

・自然治癒力アップLv.7→8

・魔力回復速度アップLv.1 NEW!!


【ユニークスキル】

・魔剣喰いLv.1 NEW!!


【加護】

・刀の加護

============================


 うん、この2人なら大丈夫そうだ。


 って、ちょっと待て。レアの『風の加護』のレベル2? そんなことあるのか?


【賢者】加護自体が少ないので前例も稀ですが、確かにレベルが上がることがあるそうです。


 へぇ。ま、悪いことではないだろう。加護も気になる2人のユニークスキルも含めて後で確認しよう。


「じゃあ、2人とも宜しく頼む」



◆◆



 それからアリスとウルの3人で一旦宿屋へ戻った。


「よし、これがそのナイフだ」


 そう言って机の上に氷漬けにしたナイフをコトッと置く。


「へぇーこれがねぇ」


「うん、やっぱり間違いない! こいつだよ!」


 アリスとウルが顔を近付けてまじまじと観察する。


「あんま触るなよ?」


「ええ」


 2人を引き剥がして説明する。


「それでな。調べてみたところ、このナイフには強力な呪いがかけられている。それも最愛の人間を殺すようにな」


 2人が息を呑む。


 ベル、ウルのこと頼むぞ。


【ベル】もう、さっきから食べてるわよ!


 そうかすまん。


「さっきあいつが裏路地に入る時、わざと髪型を崩してフードを被ってた。印象が大きく変わるから分かりにくいんだろう」


「つまり隠そうとしてることは確実ね」


「ああ、今頃は葬儀に向けてまた部屋で髪をセットしてるんじゃないか?」


「あいつがあれ以外の髪型をしてるのは見たことねぇよ。ありゃ、特に目立つからな」


 ウルが斜め上を見て、過去の記憶を検索しながら言う。


「ただ、あいつはジャンを殺したいほどの理由があったのか?」


「皆が知る限りジャンに恩こそあれど、私怨はないみたい。だけど…………」


 アリスが神妙な顔をした。


「だけど?」


「午前中、フリーがギルドのジャンの部屋に忍び込んで調べたらしいの」


「おいおいおい…………」


 やることが大胆だな。


「あの人、実は数年前、この町に来る前は王都でマードック伯爵に仕えてたみたいよ」


「そういう…………ことか…。あーあ、あ」


 それなら全てが納得だ。でも残念だ。本気で、あいつであってほしくないと思っていた。


「加入する時、ギルドは犯罪歴くらいしか調査しないじゃない? でも当初ジャンが怪しんだみたいで、個人的に一通り調べたようなの」


 そこで、アリスは俺の耳に顔を寄せ小声で話す。


「もちろん。あの人がワーグナーへ来たのは例の王女を探すことが目的だったんでしょ。でも結局何年経っても、例の子が誰なのか掴めてなかった」


「それはジャンが撒いた嘘のおかげだな。さすがだ」


 なんだなんだ? と話がわからずウルは首をかしげている。


「で、ここからは推測なんだけど、その子捜索の任務中に別の任務が来た。それが伯爵の戦力集め。有能な冒険者の引き抜きにかかったのね」


「ああ、実際オーランドが引き抜かれてるからな」


「そこであたし思うんだけど、伯爵って本当はジャンを引き入れたかったんじゃないかしら?」


「うん? そりゃあ……戦力としては十分だしな」


 実質、ジャン自体かなりの戦闘力があったし、有用なユニークスキルを持っていた。そりゃそうだろう。


 だがアリスは首を横に振った。


「へ、違うのか?」


「あってるけど、それだけじゃないってこと。ワーグナーはジャンがまとめてるでしょ? もしジャンに敵対されれば、少なくとも町の1000人の冒険者が敵になる。それもほとんどがC級以上。その辺の兵士なんかじゃ相手にならない。戦力としたら、軍隊すら越える大戦力よ」


 ああ、そんな考え方があったか。さすがはアリスだ。


「そうか。確かに見方によればワーグナーという戦力をジャン1人で制御していたのか」


「そうよ。で、多分ジャンには断られたんじゃない? いいえ、必ず断るわ。だってウルがいるもの」


「なるほどな。つまり、ジャンに断られたためにワーグナー自体が今後敵に回る可能性を恐れ殺したと?」


「そんなとこじゃない?」


 はぁ…………。しかし、まさか当初探していた王の隠し子本人がジャンを殺したとは思っていないだろうな。


 俺がチラリとウルを見るも本人はなんのことかわかっていないようだ。詳細を伏せて、アリスはウルにわかりやすく説明する。


「要するに、ウルはまんまとマードック伯爵に利用されてしまったわけね」


「ちくしょう!! よくわかんねぇが、すべてはその伯爵のせいなんだな! 俺が直接ぶち殺してやる!」


 ガンッ…………!


 ウルが拳で壁を殴る。


 普通にヒビが入るからやめてほしい。修理代払うの俺なんだが?


「まぁそうだと仮定して、なぜまだあいつはこの町に残っていると思う? 伯爵の動きからしてちょうどいい引き際だろ?」


「それはちょっとわからないわ……」


 アリスはベッドに腰掛け、足を組んだまま頬に手を当てて首をかしげる。


 コルトのジーク辺境伯の事件が思い出されるが、あの時とは状況が異なる。今は町では犯人は誰かわかっていない。むしろ疑いの目はウルに向いている状況だ。これ以上、深追いする理由もないはず。わからん。


「ま、今回は悪魔が絡んでイレギュラーだらけだったからな。下手すりゃ町ごと氾濫でなくなってたかもしれないし。予測できることばかりじゃないもんだ」


「しかも、あの人も必死で魔物と戦ってた。普通あの人の立場だったら、自分が死なないように適当に手を抜くんじゃないかしら?」


 深まる謎にアリスがさらに思案をめぐらせる。


「うーん、そうなんだよなぁ」



 だが、そこでウルがあっけらかんと、とんでもないことを言った。



「いんや、難しいことはわからねぇけど、そりゃ単にあいつがこの町が好きなんじゃねぇか?」



「「へ?」」


 そんなことを言うウルにアリスと同時に驚いた。


「こんなこと言うのはあれだけどよ。あいつは根は良い奴だよ。新人には優しいし、あんま報酬の良くない依頼だって長いこと残ってたら進んでやってたんだ。俺が昔、ダンジョンで遭難した時だってな、あいつが率先して探しに来てくれたってジャンが言ってた」


 言われてみれば、確かにそうだ。俺らだって初めて会った時はそうだった。あいつは任務以外でなら本当に良い奴なのかもしれない。


 でも、そう言うことじゃない…………!


 だがウルは寂しそうに続ける。


「あいつ、町が好きで出て行きたくねぇんだよ」


 そのことに度肝を抜かれた。ウルの表情は本当に奴を思っていた。


「ウル、お前はあいつに…………」


 (ジャンを殺させられたんだぞ?)


 俺はその言葉を喉元で食い止め、心に閉まった。それは本人が一番わかってるはずだ。


 ウルはじっと床を見て、体を前後にゆらゆらと揺らしながら言う。


「それは、絶対に許せねぇ。ただアイツだって、使命、っつうのか? アイツのやらなきゃならねぇことがあったんだろうよ」




「「…………っ!?」」




 鳥肌が立った。アリスも固まった。


【ベル】この子、なんて子なの…………!?


 なんて器のデかさ。いや、そんなもんじゃない。わかってるのか? お前、被害者だろう?


【ベル】嘘なんかじゃないわ。この子、本心から言ってる…………。


 なんで、そんなことが言えるんだよ……。お前、おかしいぞ? ジャンを、親を自分の手で殺し…………! 


【ベル】変よ。いえ、ごめんなさい。変って言うか、受け入れる心が広すぎる……。こんな人間いるの? 初めて見た…………。


 これが、生まれもっての王族の血だってか。おいおいジャンよぉ。こんな奴、俺の手に余るぞ?


「はは……ははは」


 乾いた笑いと共に、思わず天を仰いだ。


 顔を下ろすと自然とアリスと目が合ったが、アリスの顔もひきつっていた。


「あ? どうしたんだお前ら」


 ウルが不思議そうにしている。


「い、いや、何でもねぇよ」


 アリスが切り替えて話し始めた。


「あ、そ、そうだわ。ウルの言うこともあるかもしれないし、もしかすると、彼の目的はまだあるんじゃないかしら」


「まだ?」


「今回の氾濫の立役者であるユウは、彼から見てジャンと同じ伯爵の敵と思われるかも。だって、今回の働きで町の信頼を得たのは確実よ。英雄の言うことなら皆聞くわよ?」


「てことは…………あいつが俺を始末しようと? 無茶だろ。止めとけよ……」


「そうね。でも親交のある彼ならあなたも油断するでしょ?」


「ま、確かにな」


 それは言えてる。そうやってジャンは殺されたんだから。


「それで言うなら、町をまとめようとするクランリーダーたちも危険だぞ?」


 ウルが言った。


「確かにね。どれだけ彼が伯爵に心酔しているかわからないけど、数年間も町に潜伏するくらいだから、可能性は高いと思うわ。だから、もし彼が怪しい動きを見せたら…………」


「わかってるよ。問答無用で…………」


 いくらお前だからって容赦はしねぇ。



「潰す」



 アリスは黙って俺の目を見ながらコクッと頷いた。




読んでいただき、有難うございました。

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