表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【100万PV突破!!】重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第3章 ダンジョンの町ワーグナー
67/159

第67話 敵は誰か

こんにちは。

ブックマークや評価、感想をいただいた方、有難うございました。

またアクセス数が70000PVを超えました! 本当にいつも有難うございます。

第67話になります。何卒宜しくお願いします。


 ノエルに一度別れを告げると、重力球を浮かべ、俺が開けた大穴からダンジョンを飛びながら登っていく。


【ベル】ああ。あなた、そうやって空を飛んでたのね! スキルもないのにと思えば、面白い発想ね。


 頭の中でガンガンうるさい……。賢者さんは本当に必要な時にしか喋らないからな。逆にそれで困ったりもするんだが。


【賢者】…………。


 い、いや、ベル戦の時は助かった!


【賢者】…………別件ですが、ベル様と同化したために新たなスキルが生まれています。


 わかった。後で落ち着いたら確認するよ。


 もぬけの殻となったダンジョンを抜け、空を飛び町を目指す。ベルとの戦いで魔力はほぼすっからかんになるまで消耗してしまったために、なかなか速度が出せない。それまでベルと話をする。


【ベル】あのね? あなたのステータス見たんだけど、どうなってるの?


 どうって…………見たまんまだよ。


【ベル】あなたと手を組んで正解ね。面白くなりそうだわ。


 それは良かった。……そう言えば、悪魔視点からベルはウルを洗脳したのはどんなやつだと思う?


【ベル】そうねぇ。あなたたちの町の人間じゃない?


 そう思うか?


【ベル】ええ。例え精神魔法で操るにしてでも、そのウルさんとジャンさんの関係を知ってる必要があるわ。無関係の決まった人間を殺すように仕向けるのは、場合にもよるけど条件付けが難しいのよ。


 だとしたら、やっぱり町の人間ってことか。冒険者である可能性が高いな。


【ベル】そうね。その子から話は聞けたの? 生きてはいるんでしょ?


 ああ。でもまだ意識は戻っていないと思う。起きたら心当たりがないか聞いてみるよ。


【ベル】そうね。ただ、やっぱりその…………その子の心が心配ね。だってお父さんだったんでしょ? 


 お前、本当に悪魔か? 


【ベル】ええと、なぜかよく言われるわ。


 だろうよ。まぁ、問題はそこなんだ。自分の親を殺したんだ。お前、かなり高位の悪魔だろ? なんとかできねえのか?


【ベル】うーん、根本的な解決にはならないけど、やりようはあるわ。



「あるのか!?」



 思わず声に出た。


【ベル】私がその子の感情を食べてしまえばいいの。


 感情を?


【ベル】ええ。悪魔は人間の負の感情が好物だから。


 つまり、ウルが目が覚めて絶望したり、パニックを起こした時に感情を食べてくれるということか?


【ベル】ええ、そうよ。


 それは助かる…………!


【ベル】任せてちょうだい。



◆◆



 ワーグナーのギルドに着いた。今は深夜1時頃だろうか。町は静まり返っている。ドアを開けると、俺のクランメンバーが椅子に座ったまま眠りこけていた。皆、氾濫の時のボロボロの装備のまんまだ。床で寝てる奴までいる。モーガンだ。


【ベル】あなたの仲間? 帰りを待っててくれてたのね。


「こいつら…………、休んでりゃいいのによ」


 ギシッとギルドの床を軋ませて歩くと、近くにいたブルートがぎょっ!? と目を覚ました。本気で驚いたようだ。思わず、椅子から転げ落ちる有り様だ。


 こいつ、驚きすぎだろ?


「あ、アニキ…………生きてます!? 夢じゃないですか?」


「生きてるぞ、ボスは倒した」


 ワンテンポあけてブルートは驚いた。


「………………ま、まじですか!? あんたほんと強すぎますよ!? ありがとうございます!!!! み、皆起きろ! アニキの帰還だ!」


 皆ぞろぞろと目を覚まし出した。


 壁にもたれ腕を組んだまま、槍をそばに1人武人のごとく眠っていたガランが目を開けると一言、言った。


「…………ゴーストか?」


「ちゃうわ!」


 ガランが寝ぼけている。


「お前ら、待ってる必要なかったのによ…………。きっちり休んどけよ……!」


 思わず怒鳴る。


「だって、アニキが戦っているのに、俺たちが悠々と寝てるわけにはいかないでしょう!?」


「ははっ、まぁいいや。ありがとうな」


 見渡せばクランメンバーは全員いるようだ。それにガラン、まだ寝てるがモーガンもいる。


「皆、聞いてくれ。ボスは倒した」




「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」




 全員が拳を握り、天に向け吠えた。その顔は歓喜と興奮で溢れている。


「すげぇ! すげぇぜアニキ!!!!」


「ま、まじかよ。この人ダンジョンボスランクをソロか…………!」


「アニキ!! それじゃあ、ジャンの仇を討ってくれたんですね!?」


 魔術士のニコルが嬉しそうに確信を持って言った。


「すまんが、それは違う」


「ど、どういうことですか?」


 俺が顔を曇らせて言うと、ニコルが動揺した。


「ダンジョンボスはジャンを殺していない」




「「「「「……………………え?」」」」」




 一斉にギルド内が静かになる。


「確かな情報だ。どうやらやった奴は他にいる」


「じゃあ、一体だれなんだ?」


 ガランの意識が一気に覚醒したかと思うと、眉間のシワが濃くなる。


「ジャンを殺した奴が他にいると!?」


「わからない。まずは詳しく説明する」



◆◆



 他の冒険者たちは一度宿に戻って寝ているらしく、今ギルドにいる職員たちを待ってから事情を説明した。ベルは死んだことに、そして交渉して手下の悪魔をダンジョンボスにすげ替えたことを伝えた。


「…………と言う訳だ。だからダンジョン自体はなくならない。ただ、元々のダンジョンよりかは、若干ランクは上がるかもしれない」


 まぁ、その辺はノエルに言えばなんとでもなるだろう。


【ベル】ノエルは何でもそつなくこなすわ。ダンジョンの管理だって、上手くバランス調整するでしょ。


 おう。


「さすがだな…………それは俺たちとしても非常に助かる。ランクが多少上がるのは大したことじゃねぇ。そんなもん、俺らが強くなりゃいいだけだ」


 がははと強気にガランは笑った。


「はは、そこは任せるよ」


「ちなみにユウ、疑うわけじゃないが、ダンジョンボスを倒したという証拠はあるか?」


 ガランが聞いてきた。


 来た…………いいんだな?


【ベル】ええ。あそこであなたに殺されていたと考えるなら、これくらいなんてことないわ。


 わかった。


「これだ」


 ゴトン…………。


 俺はテーブルの上にベルの使っていた剣を置いた。装飾の入った綺麗な長剣だ。あの時はベルが重力属性の魔力を纏っていたために真っ黒だった。だが、今はその美しい白銀の刀身が表れている。

 ベルを殺していないため、討伐証拠となるものがなかった。そこで、ベルの剣を提出することで同意してもらった。


「オリハルコン製、SSランク『聖人殺しの剣』だそうだ。ボス自体はアークデーモン。首を跳ねたと同時に身体は消滅したからこれしか残っていない」



「「「「「ア、アークデーモン…………っ!!!!」」」」」



 皆の顔が青白くなった。


「グレーターデーモンよりもさらに格上の存在だぞ…………!」


「存在したのか…………」


「アークデーモンがダンジョンボスってダンジョンランクは何になるんだ?」


「測定できんのかそんなもん…………」


「へ、下手すりゃ王国が滅んでたかもしれん」


 ガランが呟く。


「いやいや」


 あの話を聞いてからじゃ。やぶさかではない。


【ベル】あら、この国にだって『理』はいるんでしょ?


 ああ、らしいな。


【ベル】私が本来の力で戦っても『理』は無理よ。昔会ったことがあるけど、あれは生き物の範疇を超えた存在ね。


 会ったことあるのな。理がいなかったら?


【ベル】ワンチャンあったわね。


 あったのかよ!!


「これだけの代物。確かに認めよう。これはダンジョンボスの物だ」


 ガランはベルの剣を手に取りながら言った。他の冒険者たちも興味深げに集まってきて見ている。


「ああ」


 その時、



 バタンッ!



 ステラが慌ただしく扉をあけて駆け込んできた。


「皆さん! ウルさんが目を覚ましました!」


 ガランの顔をチラッと見ると頷いた。



◆◆



 まだ怪我をした冒険者たちで埋め尽くされるベッドが並ぶ中、ウルは窓際のベッドに寝ていた。ジャンの犯人として冒険者に狙われる可能性があるため、信頼できるヘクターを護衛につけていた。


「ヘクターすまんな」


「いや、いいんだ。それより聞こえてきたぞ。ボスを無事に倒したそうだな」


 ヘクターはニッと俺の肩に手をおいた。


「ああ、ウルはどうだ?」


「ウルは目は覚めたが、まだ意識がはっきりしてないみたいだ」


 ウルは半目でぼんやりと天井を眺めていた。病室になだれ込んできた冒険者たちがゾロゾロとウルを取り囲む。


「おいウル!! 大丈夫か!?」


 その呼び掛けにウルはこちらに目を向けた。気を失っていただけで外傷はない。むしろ、いつも来ていた大きめのシャツを赤黒く染めるジャンの血に胸が痛む…………。


「ん……ああ」


 まだボーッとしている。何かしら精神魔法で操られていたのなら、後遺症が心配だ。


「俺が誰かわかるか?」


「…………あ、ああ。大、丈夫だ。ユウだろ?」


 身体を起こしてベッドに座った。そして、自分を取り囲む冒険者たちを見る。


「どうしたんだ。何が……………………?」


 そして、徐々に頭が冴えてきたのか、記憶が戻ってきたのか、目が大きく見開かれ、はぁはぁと過呼吸気味に息が荒くなっていく。そして、頭を抱えて震えた。






「…………ジャン…は?」






 その消え入りそうな不安を抱えた声に誰も、その問いに答えることができない。その沈黙をウルはおおよそで理解していた。


 誰かが言ってやらんとダメだ。俺がジャンの分も…………。ベル、用意頼むぞ。


【ベル】わかってるわ。いつでも大丈夫よ。


 ウルにそれを伝えるのは、俺だって嫌だ。だから、せめて声が震えないように深く息を吸い込み言った。




「ジャンは…………死んだ」




「ひっ…………!」


 俺の声にウルは一瞬だけ悲鳴のような声を上げると頭を抱えたまま固まった。


 病室は静まり返り、皆が辛そうに目をつむり顔をしかめ、俯いた。


 ウルの、この先に来るだろう叫びや、謝罪文を想像するに容易い。だが、




「…………そう、か」




 それだけだった。


 ウルは脱力し、感情が抜けたように下を向いた。


【ベル】ちょっ…………今は私が飢餓状態だったからいいものの。こんな感情食べきれない!!


 そこを頼む。助けてやってくれ。お前にしかできん。


【ベル】う、うん。


 ウルはぼうっとベッドのシーツのただ一点を見つめているだけだった。


「それだけか!? ジャンを殺しておいて…………んぐ!!!!」


 うるさく騒ぐ冒険者の口をガランがふさぐ。


「黙れ。わからんのか?」


 ガランが気を効かせてくれたおかげで、ウルが取り乱さなかった理由は都合よく誤解してくれたようだ。



◆◆



 それからしばらくして、皆が固唾を呑んで見守るなかガランがしゃがみこんで気になっていたことを聞く。


「おい、ウル。俺たちはお前が正常な状態じゃない、もしくは操られていたと思っている。お前があんなことをする奴じゃねぇことはわかってるんだ。あれは…………どういうことだ?」


「う…………」


 ウルはただ、頭を抱えて震えている。


 ベル、どうだ?


【ベル】も、もう少し、もう少し待ってあげて……!


 わかった。


「おい、ステラ…………」


 小声でステラに持ってくるよう水を頼む。誰も音を立てない病室でステラがタタタと駆けていった。


「…………ふぅ」


 重苦しい空気に思わず深く息を吐いた。ウルはうちひしがれたように動かない。気付けば、同じ病室で眠るタロンじいさんの空気を読まないイビキだけが聞こえていた。


 と、ステラが戻ってきた。


「ユウさん、どうぞ」


「ああ、ありがとう」


 ステラから水を受けとる。


「まぁ、ウル。水でも飲んで落ち着け」


 俺がそう言うと、死んだ魚のような目をしたまま顔を上げ、水をひとくち喉に流し込んだ。


「どうだ? 話せるか?」


「あ…………あ、ああ」


 ウルは顔をあげる。さっきよりはましになっているようにも見える。


【ベル】大分楽にはなったはずよ。


 ああ、ありがとう。


「なぁ、ウル。氾濫が起きた時どうしてたんだ? あれだけ参加する気満々だっただろ?」


 すると、ウルはポツポツと話し始める。


「あの時は…………もちろん行く気だった。だったんだけど…………あれ? なんでだ?」


 結局諦めてなかったのか。だが、


「覚えてないのか?」


「あ、ああ。思い出せない」


 ウルが頭を片手で押さえながら考える。


「最後の記憶は…………あれ?」


 ウルが混乱する。


「俺と大聖堂でケンカしたのは覚えてるか?」


 俺はウルの隣に座って問う。


 そう、氾濫に参加させる約束をジャンに取り付けることができずに大聖堂の鐘の下でもめたことがあった。


「あ、そうだ! あれからあの鐘の下で目が覚めたらフードを被った奴がいたんだ!」


「フードを被ったやつ?」


 ふと、ベルが頭に浮かんだ。


【ベル】私じゃないわよ? 第一ダンジョンから出てないんだから。


 ああ。なんとなく、ベルがそんなことする奴じゃないのはわかるよ。


「…………わからねぇ。しばらく話したはずなんだ。でもそれが、思い出せねぇ」


 ウルは目をつむって首を振った。


「全くか?」


「あ、ああ。何一つ印象が残ってねぇんだ」


「それは変な話だな」


「それから記憶がなくて、気付いたら…………ジャンを、さ、刺してた」


 ウルは顔をくしゃくしゃにすることなく、ただただ真顔で流れるがまま涙を流し続けていた。ベルに感情を食われても、心のどこかで涙を流しているのだろうか。


 誰も喋らない。というよりも、ウルの様子に誰もウルの話を疑うものがいなかった。


 おい働いてるか? ベル。


【ベル】もう! 悪魔使いが荒すぎ。やってるわよ。


 普通に考えて、そのフードを被った奴に何かされたんだろう。


【賢者】精神魔法はめったに悪魔しか使えませんが、ユニークスキルや魔法道具ということもあります。


 なるほど。そういうこともあり得るのか。


「その男に何かされたんだろう。しかし、何が目的でジャンを狙ったのか」


 ガランたちが考え込む。


 ジャンが狙われる理由となれば、多分王族であるウルの関係だろうな。もしかすると、マードックの手先によるものか。だが、それは皆には言えない。


 あの時、ノーブルたちと路地裏で取引きを持ち掛けていた野郎の素性くらいは後をつけてでも調べておくんだった。


「そういやウル、お前5日ほど前にジャックモンスターの店で誰かと会ってただろう? あれは誰だ?」


 ジャックモンスター? 思い出した。ガランと一緒に飲んだあの魔物の剥製だらけの店か。そういやチラッとウルを見かけたな。


「俺が…………?」


 ウルが片手を頭に考える。


 まだ、ウルは本調子じゃないのか?


「覚えてないのか?」


 ガランが聞く。


「い、いや、そうだ。会った! そこは覚えてる!」


 思い出したようだが、自信なさそうだ。


「あれは、誰だ?」


「…………わ、わからねぇ」


 ウルは頭を抱えた。


「はぁ? どういうことだ?」


 ガランが問い詰める。


「おい、てめぇ。誤魔化そうとしてんじゃねぇだろうな?」


 ブルートが怒りを込めてウルの胸ぐらを掴む。高身長のブルートにウルの小さな身体が持ち上げられる。


「ちっ、違う!」


 ウルが泣き出しそうな顔で首を振る。


「止めろ馬鹿。ウルに手荒なまねしたらぶっ殺すぞ」


「あ、アニキ。すみません」


 ブルートを叱って、ウルを下ろさせる。


 そうだ。こいつは俺に懐いてはいるが、元々チンピラだ。


 手を離されドサッとベッドに座るウル。


「誰かと会ったことは覚えてる! でも、何を話したか、顔も、男だったのかも思い出せねぇんだ!」


 悔しそうにベッドのシーツを握りしめるウル。


「ん?」


 さっきも似たようなこと聞いたな。


「そりゃぁ…………、大聖堂の奴と同じかもしれねぇな」


 ガランが呟いた。


「敵にユニークスキルかそういう魔法道具があるのか。その可能性は高い」


「待てよ?」


 ガランが額に拳を当てて何かを思い出そうとしている。


「どした?」


「あの時、店でウルと話してた奴。うっすらだが覚えてる。確か男で、背は高かった」


「ほんとか!?」


 そういや、ガランの席からはウルのテーブルがよく見える位置にあった。


「ああ。座ってたからな…………背は高いが、ガタイは良い方じゃねぇ。だがそれ以上はわからん」


「う~ん…………」


 ダメだ。完全に暗礁に乗り上げた。


「なぁ、ユウ。ジャンを刺したナイフ、何かわかるんじゃねぇか?」


 ヘクターがふと思い付いたように言った。


「確かに…………! なぁウル。あれ、今持ってるか?」


 確かにナイフに何らかの痕跡があるかもしれない。そう思っただけだった。


「ああ、あるぜ」


 そう言ってウルはバッと自分の腰に手をあてた。


「あ、あれ? ない。いつのまに? お前、取ったか!?」


 そう言いつつウルは俺の胸ぐらを掴む。


「取って、ねぇって」


 掴まれた手を払いのける。ほんと寝ても覚めても荒っぽいなこいつ……。そこはいつも通りで安心した。


「ジャンの後すぐブルートにウルを保護させた。ナイフを盗れるやつなんて…………」


 ガランだ。


 なくなっているということは、武器の特性による線が強いか? それを隠したくて回収した。


【ベル】あり得るわね。呪いの武器とかならそれこそ。


 なるほどな。てことは、そいつが犯人だろう。


「なら、あの場で誰かに盗られたか。あの時いたやつ覚えてるか?」


 俺は周りを見回す。


「お前のクランだろ。それに俺のパーティ、モーガンのパーティ……まぁ、大勢だな」


 ガランが指を折りながら数えていくが、覚えているだけで30人以上になる。


「そこにいたやつら皆がジャンのために集まったからな。見つけ出すのは難しいだろう」


 モーガンが腕を組ながら顔をしかめる。


「アニキ、すんません。俺が運ぶ途中で落としちまったんでしょう。あれだけの混乱の中っす。気付く奴もいなかったんすよ」


 ブルートが申し訳なさそうに頭に手を当てて謝った。


「確かに、俺がこっちに来てからは見てないな」


 ヘクターもそう答えた。


「うーん、かもな」


 ただ、もしこれが証拠隠滅に盗んだんだとすればナイフを発見できればデカい。そういやこういう事件どっかで? そうだ。ジーク辺境伯の時も凶器はナイフだったな…………。


「アニキ、それよりも全てこいつの自作自演ってことも考えられないっすか? 証人は誰もいないんすっよ?」


「なんだとてめぇコラァ!! 俺が嘘ついてるってか!?」


 ウルがさすがにブチキレた。ふらつきながらも、ベッドに立ち上がってブルートに詰め寄る。


「信じたくはないが、感情論を除けば、その可能性が一番高い」


 ヘクターがそう言うと、ガランも頷いていた。ウルはさらに激昂してヘクターにも当たろうとする。


「おい! 止めとけウル」


 普通、そのように考えても仕方がない状況だ。




「俺じゃねぇって! 俺がジャンを殺すわけがねぇだろうがああああああああ!!!!」




 ウルはポロポロと泣きながら叫んだ。


「てめぇが錯乱したってこともあり得るだろうが!」


 ブルートがモヒカンをウルの額に突き刺しながら怒鳴る。


 そのブルートの言葉に、顔をひきつらせたウル。慌てて自分を取り囲む冒険者たちの顔を見渡す。


「ちっ、違う! 俺はまともだ!!」


 ウルが皆に訴えるように叫ぶ。


「落ち着け。俺はウルを信じてる」


「ユウ……!」


 ウルは泣きそうな顔で見た。


「ユウのアニキ……!」


 あの時見たウルは演技なんかじゃなかった。それに、絶対にウルはジャンを殺さない。殺す理由がない。


「どっちも決めつけるには証拠がねぇだろ。もう少し時間がいる。何にしろウルに手を出したら俺が許さん。わかってるな?」


 本気の殺意で周りを睨む。



「わ、わかってる」



 ある程度脅しでもしとかねぇと、血迷った奴がウルを襲いかねない。


「お前らも何か分かったら教えてくれ」


 皆にお願いする。


「ああ」


 ガランが言う。


「もちろんっすアニキ!」


 ブルートやニコルも拳を握って力強く頷いた。


 今は誰がやったかわからない。だから…………アリスたちの力も借りたい。



「あ、あの、お取り込み中申し訳ありません」


 こんな時でもあほ毛の直らないステラがおずおずと話し始めた。他にも数名のギルド職員たちもついてきている。


「ギルド長の葬儀の日程が決まりました。明日の夕方です。町民の皆様もこられます。是非同じ戦場に立たれた皆様方もお越しください。その方がギルド長も喜ばれます」


 そう言ってギルド職員全員で頭を下げた。


「…………もちろんだ」


 潮時だ。これ以上やっても今は無駄だな。それにどうも身体が重く、眠く感じる。さすがに今日は疲れた……。


「ガラン。犯人は必ず見つけ出して報いを受けさせる」


「ああ、もちろんだ。すまんな、色々と」


「いや、気にすんな。俺にしかできなかっただけだ」


「それとウル」


「な、なんだよ?」


 ビクッとするウル。


 こいつの心労はベルが助けているとはいえもう限界だ。そもそもこんな子供が背負うべきじゃない。


「お前もう身体は大丈夫か?」


「ああ、まだフラつくがもう問題ねぇ」


 俺から離れたらベルの能力が効かなくなる。それに、今は誰が敵かわからない分、ギルドにいたんじゃ守れない。もし、ウルを死なせたらジャンに申し訳が立たないからな。


【ベル】要は単に心配ってことじゃない。


 うるせぇ。


「なら、今日は一緒に俺の宿へ来い。いいな?」


「わ、わかったよ……」


 ウルは下を向いて答えた。


「すまんが、こいつは今晩ウチで保護する。いいな?」


「ああ」


 反論する者はいなかった。



 そうしてウルをつれ、ギルドを出た。



読んでいただき、有難うございました。

良ければブックマークや評価、感想等宜しくお願いします。


本当に苦しい時の思いや感情なんて、誰かが食べてくれたらいいのにと思いますね。

次回は皆のステータスがわかります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ