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【100万PV突破!!】重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第3章 ダンジョンの町ワーグナー
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第64話 ジャンへの思い

こんにちは。

ブックマークや評価、感想をいただいた方、有難うございました。

第64話になります。何卒宜しくお願いします。



 雨が降った。



 ジャンが死んでから、ひとまず現場はガランが収め、皆、傷を癒しに町へと戻った。意識を失っているウルはギルド預かりとなり、処分は後に決定する。


 史上かつてない規模の大氾濫を防いだとして、町は大喜びのお祭騒ぎだったが、ジャンの死を聞き、町は静まり返った。この町にとって最愛の人物を失ったのだ。


 皆がジャンの死に悲しみにくれるなか、クランリーダーたちは再びギルドの会議室に集まっていた。ギルド職員たちも3人同席している。人も誰もが怪我を負い、心にも傷を負っていた。


 ジャンとタロンを除いたクランリーダー10人が席に着いた。タロンのじいさんはまだ目を覚ましていない。氾濫は終わったが、皆の顔は今なお険しいままだ。

 そして、ガランが席を立ち、話し始めた。


「皆お疲れのところ、よく集まってくれた。すまんがジャンに代わり、この場を仕切らせてもらう」


 ギルド職員よりも、ガランならばリーダーたちをまとめられる。全員黙って頷いた。


「防衛ご苦労だった。話というのは、もちろんジャンの死についてだ。奴はこの町になくてはならん存在だった。そして殺したのはウル。皆も知ってると思うが、ウルはジャンの娘だ」


 それは全員認知しているようだ。


「えー、まず個人的な意見を言わせてもらうと、ウルが父親であるジャンを殺すとは思えない。なぜならウルが最も、いや唯一慕っていたのがジャンだったからだ。それは間違いないだろう?」


 ガランの声にヒラリーが手を上げた。


「私も同意見だ。あの子がジャンを殺す理由がない」


 ヒラリーが答えると、ミゲルが言った。


「だとしてもだよ。事実は事実じゃない? ウルがジャンを殺したのは大勢が目撃してる。それはどう説明するの?」


 そこだ。それが問題なんだ。


「その事についてだが、俺から話をさせてくれ」


 手を上げ、俺は席を立つ。ガランが頷いて皆の視線が俺に集まった。


「俺はジャンが刺される直前、一緒にいた」


 一斉にどよめきが起きる。


「ジャンを救えなかったこと、本当にすまなかった…………!」


 心からお詫びを込め、机に頭が付きそうなほど深々と下げた。


 これで怒鳴られ、殴られようと仕方ない。あの場でウルを止められるとすれば俺1人だけだった。


 だが、いくら待てども誰も俺を責めない。


「止めな。あんたの責任じゃないよ」


 ヒラリーが弁護してくれる。


「あ、ああ」


 拍子抜けし、肩の力が抜けた。


「だが、実際に刺したのはあの小娘じゃないのか!? それで犯人じゃないというのはおかしな話だ」


 モーガンだ。眉を潜めながら腕を組んでふんぞり返っている。


 相変わらず頭が固い。


「そこだ。ジャンを刺したウルの様子だが、あの子は涙を流し、ごめんなさいと言い続けていた。明らかに、様子がおかしかった…………!」


 俺の発言に皆がざわめいた。


「確かに、あいつはナイフを握ったまま泣いていたな……」


 クランリーダーである狼の獣人が思い出したように呟いた。 


「どういうことだ?」


 皆が思案に更ける。


「魔法……、もしくは何かの呪いで操られていたのかもしれない」


 ミゲルがそう呟いた。


 それは俺も考えた。賢者さん、実際そういう魔法もあるのか?


【賢者】はい。精神に作用する魔法は確認されています。


 なるほど。


「それはあるな。それが最も可能性が高い」


 ガランもそう考えるようだ。


「俺もそう思う。ウルを恨むのは筋違いだ。ジャンも刺された直後、『ウルは悪くない』そう確かに言っていた。魔法か何かに気が付いていたんだと思う」


 ウルに責任はない。ジャンがそう確信した以上、絶対にウルを犯人にはしない…………!


「ふむ。だとしても確証がない分、断定しにくいのではないか?」


 リザードマンの男性が言う。


「確かにこの場合、目撃者が多数いる中でウルが犯人ではないと証明するのは難しい」


 別の男性がそれに賛同した。


「ちっ」


 そっちに話が転ぶのは良くない。ウルが正常な状態でなかったのは確かだ。ウルのためにも、なんとしても方針は確実にウルが犯人でない方向で進めなければならない。なんとか…………!


「ま、待てよ。ジャンはウルにとって育ての親同然だったんだろう? 親を自分の手で殺させられて、ウルはどうなる? あの子だってジャンの一番の被害者だ。そんなの…………むご過ぎるだろ!」


 これ以上皆を説得するには、感情に訴えるしかない。しかし、


「ユウ、感情論で物を言うのはガキのすることだ」


 ガランが俺を見る。


「うっ……」


 厳しいな。ガランは。


「だが…………俺もユウに同意見だ。ウルへ同情する。それにウルが操られていた可能性は極めて高い」


「うむ……」


「そうだな。それは間違いないか」


 ガランの言葉で皆の意見が傾く。


「むしろここで、ウルが犯人と俺らが決めつけてみろ。ジャンが化けて出てくるぞ?」


 ガランが冗談めかして言った。


「はっはっはっは! その通りだ。俺らは冒険者。そして仲間を信じられなくて何がワーグナーだ?」


 声のでかいモーガンだ。良いことを言う。


「ふっ、そうだな。俺らはこの町にして全員が仲間だ」


「ウルは仲間だ。違うか?」


 ガランが皆に問い掛ける。


「そうだ」


「ちげぇねぇ」


「そうだ。敵は他にいる!」


 皆が次々と賛同する。


 ジャン、心配はいらなかったぞ? 皆はウルを信じていた。


「ウルは今どうしてるの?」


 ミゲルが尋ねた。


「まだ目を覚まさない」


 ギルド職員が首を横に振りながら答えた。


「そうか…………」 



 パンッ! パンッ!


 ガランが仕切り直しに手を叩いた。


「ウルが操られていたのは確かだろう。となれば犯人はどいつだ?」


 皆が黙って考え込む…………。


「子に親を殺させるなんて、悪魔みたいなやつだな」


 誰かが何気なくボソッと呟いた。


「…………あ、それ! 悪魔じゃないの?」


 ミゲルが叫んだ。


 悪魔が出たことはクランリーダーたちには周知している。


「ユウどう思う? お前、あいつらと直接戦ったんだろ?」


 ガランが問い掛け、皆の視線が再び俺に向かう。


「ああ、悪魔は全員倒したはず…………いや、そうだな。あと1柱残っている」


「1柱?」


 ガランが首を傾げる。


「ああ、飛びっきりのやつだ。ダンジョンボスが」


 皆、はっとなる。全員意識していなかったが、ダンジョンボスがグレーターデーモンたちの主だ。ちなみに氾濫ではボスがダンジョンを離れることはまずないらしい。


「そうか。諸悪の根元はまだだったな。あの氾濫を起こした親玉なら…………確かに人ひとり操るくらいわけないだろう」


「確かに、悪魔は人をそそのかし操る、もしくは直接身体を乗っ取ることもあると過去にも実例は多数ある。かの北の王国が滅んだ際も悪魔を召喚した者たちや王族の身体を乗っ取ったらしいよ」


 ミゲル答えた。


 賢者さん、そうなのか?


【賢者】はい。悪魔が受肉を果たした場合はそうなります。


 なるほど。


【賢者】だとしてもウルが乗っ取られていることはありません。それは確認済みです。


 となれば、やはり操られていた。もしくは思考誘導のようなものがあったのかもしれない。


「ウルが行動したのはユウたちが悪魔を全員倒した後だ。ということは、やはり残された悪魔ダンジョンボスがやったと考えるのが妥当だな」


「それ以外にないな」


 ガランが納得すると同時に槍を握って立ち上がった。


「よし誰が行く? 俺は行くぞ! ジャンの仇をとらんと腹の虫がおさまらん!!」


「俺もだ。卑怯もんごときにやられる俺らじゃねえ!」


「私も行くよ!」


 モーガンに、ヒラリーが続く。そうして続々と皆が武器を持って立ち上がった。


 そして、他の冒険者たちが聞き耳を立てていたのだろう。会議室の扉の前が騒がしくなった。空間把握を駆使して確認すると、彼らもボス討伐に向け動き出すつもりのようだ。仲間を集めに全員がバタバタと慌ただしく走り去っていった。


 しかし、ダンジョンボスか…………。こいつら、それがどういうことか気付いてるのか?


 俺の心配をよそに皆、会議室から出ようとする。


「ちょ、ちょっと待って!」


 しかし、ミゲルが全員を引き留めた。


「なんだ!?」


 走り出す寸前で止められ、つんのめったモーガンが腹立たしげに言った。


「ボスを倒すということが、どういうことかわかってるの?」


 ミゲルが真剣な表情で問い掛ける。


「そ、それは…………」


 皆の動きが止まった。


 同じことをミゲルも考えていたようだ。俺もミゲルについて補足する。


「ミゲルの言う通りだ。ダンジョンボスを倒せば、遅からず管理者を失ったダンジョンは崩壊する。その先、ダンジョン産業で成り立っていたこの町はどうなる? それがわかっての討伐だろうな?」


 どうしようもなく正論だ。俺は皆が一度冷静になるべきだと思った。

 しかし、皆にとって大切なのは、そういうことではなかったのかもしれない。


「じゃあ、なんだユウてめぇは俺たちにジャンの仇を討たずにのうのうとここで今までの暮らしを続けろとでも言うのか?」


「てめぇは元から言えば部外者だもんなぁ! 俺らがどれだけジャンに世話になってきたか知るよしもねぇ」


「口を挟むんじゃねぇ若造が!」

 

 言いたい放題だ。ヒラリーさんも腕を組んで目をつむっている。ミゲルはハラハラしながら俺の方をチラチラと見ていた。




「じゃかぁしぃ……!!!!」




 ダカァンッ…………!!


 ガランがキレた。と同時にテーブルを殴り付け、テーブルが真っ二つに割れた。


「ユウやミゲルもこの町のことを考えての発言だ。貴様ら一度冷静になれ」


 ガランの声に静まり返った。


「すまんな。ユウ、ミゲル」


 ガランが俺とミゲルに頭を下げた。


「いんや」


 手を上げて答える。


「全員一旦席に着け」


 割れたテーブルを真ん中に、皆がガララと椅子を引いて席に座る。


「さて、どうだ? それがダンジョンの崩壊を招くとしてもボスを討つべきか?」


 ガランが壊れたテーブルに腰掛けながら、改めて全員の意思を確認する。


「ああ」


「なんであろうとそれは変わらん」


「ジャンが守った町が、ジャンの仇を討たずしてなんじゃ?」


「同じく」


「そうねぇ。落ち着いて考えてみてもそれは、変わらないよ」


「俺もだ」


「そうだな」


 ヒラリーもモーガンも同じようだ。


「わっはっはっは! と、いうわけだ。お前の気遣いは無駄だったな」


 ガランが膝を叩きながら嬉しそうに言う。


 なんだこの負けた気分は……。


「わかったよ。勝手にしろ」


 不機嫌に返事をする。


 だとして心配の種は残る。なんせあのノエルたちの親玉だろ? こいつらで勝てるわけがない。



 バタンッ……!!!!



 途端に会議室の扉が重みに耐えかねたように壊れ、大勢の冒険者たちがなだれ込んできた。皆フル装備になっている。


「ガランさん、ダンジョンボスなんでしょ! 俺らも行きます。連れていってください!」


 1人の男が叫んだ。


「お、お前ら…………」


 開け放たれた扉の向こう側は決死の表情をした冒険者たちで埋め尽くされていた。


「ガランさん! 僕たちも支援します!」


 別の扉からはギルド職員たち、受付嬢たちもがいる。



「ダンジョンボスを倒せー!!!!」




「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」




 外からも地を揺るがすような声が聞こえて来た。


「いっ!?」


 窓から外を見れば、町の住民たちが剣や斧を片手にギルド前へ集まって来ていた。


 さすがは元冒険者たちが多い町だ。


 皆、本当にジャンのことが大好きだったんだな。この結束力には驚かされる。あの自信のない男にこの光景を是非とも見せてやりたかった。しかし、だからこそ無駄死にさせるわけにはいかない。こいつらじゃ、ボスには絶対に勝てない。

 反応はわかってる。でも俺が止めなければ誰がやるんだ。



「待ってくれ。俺が1人で行く。あんたらじゃ無駄死にだ」



「「「「「なんだと…………?」」」」」



 武器を手にした全員の殺気が突き刺さる。だがこの程度、息を吹けば飛ぶようなもんだ。


「だめだ。こんな殺気じゃ、あの手下の悪魔どもにも及ばない。死者を増やすだけだ。ここは降りてくれ。お願いだ」


 腰を折り、再び頭をテーブルにつくほど下げた。


「頼む。わかってくれ…………!」


 ジャンに町の人を頼まれた。ここで無駄死にさせるわけにはいかない。

 

 この場にいる人間すべての意見、葛藤、怒り、憎み、哀しみが溶け出した空気が確かな重さを持ち、俺にのし掛かった。30秒にも満たない無言の時間は果てしない時間のように感じた。


 静寂を破ったのはやはりこの男だった。


「…………わかった」


 そう呟いたのはガラン。


「ガラン! ほんとうか!?」


 だが俺が顔を上げると、ガランは槍の刃先をすっと俺へ突き付けていた。


「ただし、俺らクランの頭全員を倒してからにしろ。それなら皆も納得する」


「は……?」


 な、なんでだ?


【賢者】心配はありません。ユウ様が負ける確率は0%です。


 違う。そんなもん、わかってんだよ……。


「おいおい、それは……無茶だろ。結果はわかってる」


「そんなに俺らが弱ぇと思ってるのか? 出来ないなら俺らは行く」


 今まで見たことない、俺がたじろぐほどのガランの目力だった。


「くそ…………」


 気がすむまで、分からせるしかない。




◆◆




「ぐうっ…………」



 どしゃ降りの雨の中、俺の蹴りがガランの腹部に直撃した。最後の1人だったガランは顔を苦痛に歪めながら地面に片ひざを突いた。


 ギルド前の通り、ユウの周りにはクランリーダーたちが1人残らず倒れていた。それを輪になって固唾を呑んで見守る町の人達。


 すでにボロボロのこいつらに手を上げるなんて、やりたくなかった。


「わかっただろガラン。こんなもん、やるだけ無駄だ」  


 俺はガランを見下ろす。ガランは両手を地面について、なんとか立ち上がろうとしている。


「はぁ、はぁ、はぁ。そんなこと、全員わかっとる!」


 ガランは下を向き、血を吐き出すように叫んだ。


「だったら…………!」


 なんでだ……! 理解できない。



「だが、こうでもせんと…………俺らは、納得できんかった!!」



 ガランは声を震わせ叫ぶと、槍を支えに立ち上がった。




「俺らが、ジャンを殺した敵の前に立つ資格すらないことを、頭ではわかっても、感情が、心が許せんかった…………!」




 ガランは悔しそうに心から叫んだ。

 

 思わず、はっとなった。


 そういう、ことか…………。


 そしてリーダーたちもヨロヨロと立ち上がる。


「そうだ」


「頼む…………ジャンの仇を、俺らの親の仇を、代わりにとってきてくれ」


「俺からも頼む!」


 モーガンが膝を折って頭を下げた。


「頼むよ」


 ヒラリーさんだ。


「ユウ様…………」


 クランリーダーたちがユウに向かって頭を下げると、その波は周りの冒険者にも広がっていった。


「頼む…………」


「お願いします!」


「アニキ…………!」


 それらは町の人達すら巻き込んでの事態となった。辺りに立っている者は誰もいない。静まり返って、俺の返事を待っている。


 なんて、頭の堅い頑固な連中だよ。




「…………任せてくれ」




 答えると、


「ありがとう」


「ありがとう」


「ありがとう、ございます」


 礼を言われた。


 まぁ最初から俺が行くしかないとは思っていた。


 ようやくガランが立ち上がってフラフラと俺の目の前まで来た。


「ユウ、すまん。礼を言う」


「ああ、気にすんな」


 それだけ言って、俺は立ち去ろうとした。だが、


「最後にひとついいか?」


 ガランに呼び止められた。


「ん? ああ、なんだ?」



 がっ!



 ガランが俺の胸ぐらを力強く掴んだ。


 なんだと思ってガランを見ると…………泣いていた。





「てめぇほどのもんが一緒にいて、なんでジャンを救えなかった!!!!」





 雨じゃない。確かにガランの頬を涙がつたった。


 胸がナイフで刺されたように痛い。何も言えなかった。


「悪い。ユウのせいじゃないことはわかってる」


 ガランが掴んだ胸ぐらを乱暴に振り払うようにして去って行った。


 辺りは静まり返っていた。


 そうだ。あの時、俺が防ぐべきだった。ウルがジャンの娘だからと、ウルがそんなことするわけがないと思っていても、隠密を使って近付いてきた時点で警戒すべきだった。あれを、ジャンを驚かそうとしてたという安易な思い込みがジャンを死なせてしまった。あの戦場の総大将であるジャンが狙われる可能性は十分にあった。


【賢者】考えすぎです。ジャン様ですら、自身の娘を信じてしまっていた以上、ユウ様が警戒できる余地はゼロでした。


 だとしても、あの場には俺しかいなかった。救える可能性があったのも俺だけだった。


【賢者】いえ、あれはどうしようもありません。


 ありがとう。だが、また大切な人を死なせてしまったのは事実だ。


【賢者】ですが、これだけは言えます。ユウ様がいなければ100%ワーグナーは滅んでいました。


 …………そう、か。俺はこの町を救えたのか?


【賢者】まだ、その結果はボスを倒してからです。


 ああ、そうだな。


【賢者】ただ少し気になることが……。


 なんだ? 


【賢者】いえ…………なんでもありません。



 ギルド前からダンジョン方向へ町の出口を目指すと、俺のクランのメンバーたち全員が揃って迎えてくれていた。


「ユウのアニキ! 行くんでしょダンジョンボス!」


「ああ、ついてくんなよ?」


 ブルートだ。戦闘で乱れた髪型をセットし直したのかまた見事なリーゼントが出来上がっている。ブルートについは、なんでここまでなついたんだかわからない。今となれば可愛い奴だ。


「言われんでもわかってます。いくら俺でも足手まといだってことは」


「だったら帰れ」


 冷たく言うと、ブルートたちは寂しそうに乾いた笑いをした。


「でもこれくらいはさせてください」


「は?」


「いくぞー!! おまえら!」


 ブルートが後ろを振り返って声を張り上げると、いつの間にかクランメンバーたちが町の出口まで列をなして並んだ。


「な、何だこれ?」


「どうぞアニキ」


 ブルートに促されるがままにクランメンバーたちで出来た道を進む。


「アニキ!」


「ボスなんてぶちのめしてください!」


「御武運を!」


「ウッス!」


「アニキの勝利信じてます!!」


「帰ったら祝勝会ですよ!」


「…………!」


 出口に向かうと1人1人が一声かけながら礼をしてくれた。


「ギルド長の仇を!」


「お願いします!!」


 ギルド職員から泣き腫らした受付嬢たちまで皆が頭を下げてくれていた。



◆◆



 改めて防壁の上に立てば、町の外はおびただしい数の魔物の死骸に取り囲まれていた。その光景にあの氾濫の凄まじさを思い出した。よく、あれだけの数の死者だけですんだものだ。奇跡としか言いようがない。

 そして襲い来る凄まじい腐敗臭。


「うっ…………!」


 思わず吐き気を堪える。


 早く通り抜けよう。


 死骸が山として溜まっている箇所を防壁からジャンプして飛び越える。そして走りながら魔力ポーションを3本飲み干し、ステータスを確認する。


============================

名前ユウ16歳

種族:人間Lv.2

Lv :27→75

HP :5455→9250

MP :14560→22700

力 :4720→6230

防御:4580→6690

敏捷:5700→7505

魔力:16100→26510

運 :207→250


【スキル】

・剣術Lv.9→10

・体術Lv.6→7

・高位探知Lv.4→5

・高位魔力感知Lv.4→6

・魔力支配Lv.5→6

・隠密Lv.9

・解体Lv.4

・縮地Lv.5→6

・立体機動Lv.5

・千里眼Lv.7→8

・思考加速Lv.3→5

・予知眼Lv.5→7


【魔法】

・火魔法Lv.9→炎熱魔法Lv.1New!

・水魔法Lv.6→7

・風魔法Lv.8→9

・土魔法Lv.9→10

・雷魔法Lv.9→10

・氷魔法Lv.8→9

・超重斥魔法Lv.1→2

・光魔法Lv.5

・神聖魔法Lv.2


【耐性】

・混乱耐性Lv.6→7

・斬撃耐性Lv.7

・打撃耐性Lv.5→8

・苦痛耐性Lv.9

・恐怖耐性Lv.8

・死毒耐性Lv.9

・火属性耐性Lv.4

・氷属性耐性Lv.2

・雷属性耐性Lv.2New!

・重力属性耐性Lv.2→6


【補助スキル】

・再生Lv.1→2

・魔力高速回復Lv.8→10


【ユニークスキル】

・結界魔法Lv.4→5

・賢者Lv.3

・空間把握Lv.3→4

・空間魔法Lv.2

・⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛


【加護】

・お詫びの品

・ジズの加護


【称号】

・竜殺し

============================


 ジズの加護が仕事をして、氾濫ですでに使用したようにレベル10を越えた火魔法は火炎魔法へと進化している。異常過ぎる威力にまだまだ練習が必要だ。


【賢者】レベル10を越えたスキルは上位スキルへと進化させることができます。それは既存の上位スキルもあれば、ユウ様固有のものもあります。火炎魔法や超重力魔法がそれにあたります。


 俺以外が10に達するとどうなるんだ?


【賢者】10に達すること事態非常に稀ですが、レベル11へと上がっていきます。


 なるほどな。


 これだけレベルが上がっているとは思わなかったが、ノエルたちのボスとなれば正直それでも物足りない気がする。


 ここから魔力はなるべく使わず温存でいく。今の俺なら走っても3分もかからない。魔物の死骸を飛び越えながらダンジョンへとひたすら進み続けると、ダンジョンが見えてきた。


 近くにあるダンジョン監視用の小屋は見るも無惨に壊され、近くにギルド職員と護衛冒険者たちと思わしき衣服の切れ端があった。死体は食べられたか。こうなっては、誰かわからない。


 ダンジョンに着いた。中へ入ると、確かに前回よりも雰囲気が違っている。

 なんというか、前は自然体に近い洞窟という感じだったが、ボスが変わったからだろうか、床、壁、天井すべてが黒く、ゴツゴツした感じになっている。


 しばらく歩いてみるが、魔物は氾濫で出払ってしまったのかなんにも出くわさない。邪魔が入らないのは良いことだ。だが、ただ歩くのも時間の無駄だ。護衛の魔物がいないうちに叩くのが一番。


 それに…………こいつだけは殺さなければならない。思い返すと、今まで抑えてきた怒りが沸々と沸いてきた。そうだ。ジャンの仇を。皆の思いが俺にはかかっている。



『てめぇほどのもんが一緒にいて、なんでジャンを救えなかった!!!!』



 今も、頭で繰り返される痛い言葉だ。あれは、ガランの俺に対する信用もあっての言葉だったのだろう。


【賢者】考えすぎですと言ったでしょう。それにユウ様だけではありません。ウルの行動を読みきれなかった私にも責任はあります。


 あれは賢者さんでも、誰であっても無理だ。言わば、初めからあれを想定できていなかった俺たち全員の落ち度だ。


【賢者】しかし、どうしてウルだったのか。情報が足りません。ダンジョンから操るにしても、個体を識別するには何か媒体が必要だったのでは…………。


 方法は、会ってみりゃわかんだろうよ。


【賢者】はい。

 


 突如、遥か下層に敵として出会った中では過去最大の魔力を感じた。


「そこか」


 床に向かって重力魔法を使う。


【賢者】はい。そうするのが最も合理的です。


 床が一瞬ミシッと凹むと、


 ボゴン…!!!!


 ドゴォン……!!


 ドゴォォォン…………!



 床をぶち抜くと、いつか見たことのあるたて穴が現れた。あのヒュドラが封印されていた穴だ。


 その穴をスーッと下りていく…………。


 いつの間にかダンジョンの中は真っ暗で、底へ進むほどさらに明るさがなくなり、何も見えなくなる。


 空間把握。


 スキルを使えば魔力を使用することもない。


「着いた」


 底へと着地し、辺りを見渡せど何もない。


 いや、この下か。


 まだ下にフロアがある。



 

 ドガガガゴォォン…………!!!!




 重力魔法で穴を開ける。


 そして、無明の闇にユウは飛び込んだ。



読んで頂き、有難うございました。

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