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重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第3章 ダンジョンの町ワーグナー
60/159

第60話 レア VS ボスト

こんにちは。

更新が遅くなりすみません。

アクセス数が50000PVを超えました!ありがとうございます。

第60話になります。宜しくお願いします。

 

 レアたちは残された3柱の悪魔と対峙していた。


「ねぇねぇ、君らのリーダーどっかいっちゃったけど3人だけで大丈夫なの?」


 メルサが組んだ腕の上に重たそうな胸を乗せ、フフンと馬鹿にした態度で言う。

 その態度というか動作がアリスの癪にさわったらしい。


「それはあんたらも同じでしょ無駄おっぱい。そんなに脂肪蓄えて、冬籠もりでもするのかしら?」


 笑顔に怒りマークを張り付けたアリスが答えた。


「む、無駄おっ…………!!」


 いきなり煽るかと思えば、ただの妬みだ。


「あ、あなたこそ、あんまり貧相じゃ冬には餓死するんじゃない?」


 メルサがアリスの胸元を見下ろした。


「うぐ…………! 秋にはいっぱい食べておくもの!」


 アリスが胸を抱きながら涙を貯めた目を向ける。


「あはは、そういう問題?」


 アリスちゃん、煽りにいったのに打たれ弱いよねぇ。と暖かい目でフリーはアリスを眺める。じろっとアリスがフリーをにらんだ。


「ま、まぁアリスちゃんは頭が良いからそっちに栄養使っちゃうんだよねぇ」


「フリー、だからあたしの胸が小さいって言いたいの?」


 アリスは真横のフリーをにらんだ。


「あ、あれー? 誉めたんだけど…………」


 ちなみにフリーもアリスのは小さいとは思っていない、普通サイズだ。レアみたいにEとか、メルサみたいなスイカクラスが周りにいたというだけなのだ。レアは何も言えずに目をそらした。


「…………もういいわよ」


 アリスは、敗北感にため息をつきながら目を伏せた。


 グレーターデーモンたちの残り2柱は無口なようで、興味無さそうにそんなやり取りを眺めている。


「ふん、茶番も今のうちよ 」


「どういうことだい?」


 フリーがメルサに尋ねる。


「あっちにはノエルがいるわ。あなたたちのリーダー、死んだわよ?」


「逆じゃない? そのノエルって奴がユウ相手に何秒もつかしらね?」



「「……………」」



 沈黙の後、レアとメルサの間に火花が散った。


「いいわ。あなたとは物凄ーく気が合いそうだから、そこまで言うなら代理戦争しましょうよ」


「同感ね。レア、フリー、後はよろしく。ちょっとあの無駄脂肪もいでくるわ」


 アリスはそう言ってここから離れた。


◆◆


「やれやれ、女の子って恐いねえ。君もそう思わないかい?」


 フリーはマタラという、剣豪の空気をまとう悪魔に話し掛けた。


「……貴様らさえいなければ、この戦場は瓦解する。俺は主のため、敵を消すだけだ」


「それは困るんだよねぇ」


 やれやれと頭をかくフリー。そして、ちらりとマタラの持つ刀が目に入った。


「ん……? それ、多分良い刀だよねぇ?」


 フリーが指差したのは、マタラの腰にある。暗赤色の刀だ。とたんにマタラのボサボサの長い前髪の奥の目がきらめいた。


「わかるか? これは我らの世界で5指に数えられる狂った名匠が打った秋雨という刀でな。この刃紋をみろ。素晴らしいだろう?」


 そう言ってマタラが刀を抜いて見せてきた。刀が好きなフリーもどれどれと見に行く。禍々しく波打つ濃紫色の波紋は良くないものを感じさせる。


「確かに、いかにも妖刀って感じがするねぇ」


 フリーがアゴに手を当てながらふんふんと頷く。


「ふふ…………ふふふふ。その通り! こいつは非常に稀有な能力を持った妖刀でな。厄介なことにこれを装備していると激しい自傷衝動にかられるうううっ!!」


 ドコッ…………!


 言ったそばから頭を地面に叩き付け、地面にヒビがはいる。顔を上げたマタラの顔には額から血が鼻筋の横を流れていた。


「うわ…………」


「恐いよ、この人」


 フリーのそでをレアが掴む。


「レアちゃん社会勉強だよ。ああいう人は王都に行けばたくさんいるんだから」


「ええっ!! ホント!?」


「嘘だねぇ」


「嘘なのっ!?」


 レアをスルーしてマタラに話し掛ける。


「刀が好きなのはわかったよ。でも妖刀なんて、デメリットしかないんじゃないの? 物好きだねぇ」


「そんなものカッコいいからに決まっている!」


 急に大声を出すマタラ。


「ああ、はい」


 こいつ色んな意味でヤバいのかもしれないねぇ。


「話が合うな」


 マタラがふと気付いたように手を叩いた。


「え、うそお…………?」


「是非、刃を交えようぞ!」


「お、おう」


「フリーさん、がんばって!」


「…………う、うぃ」


 フリーはマタラという悪魔とともに走り去っていった。



◆◆



 残るは私と、あのゴリラみたいな悪魔だね。


 残されたレアはボストという悪魔を観察した。まず身長は2メートルを超す巨漢だ。ウォーハンマーと呼ばれる武器を肩に背負っている。長い持ち手の先についているのは、片方がつるはしのように尖っており、反対側はハンマーのようになっている。その柄は長くボストの肩くらいまでの長さがある。


「あの~………?」


 2人きりで無言の空気に、気まずくなったレアがそーっと首を伸ばしながら問いかける。


「話すことなどない」


 ボストは右手に持ったウォーハンマーの柄で威嚇するようにドンッと地面をついた。


「あー、うん。ごめんね」


 この人やりにくいなぁ……。


「こい」


「わかったよ~」


 レアはパンパンッと頬を叩いて気合いを入れた。


「よしっ!」


 早速レアは無詠唱でエアハンマーを放つ。


 先手必勝………!!


 ゴウッ!


 しかし、さすがは魔術士。ボストは何かが来ることに気づいたのだろう。見えない攻撃にも、直ぐに反応した。


「ぬん!」


 だが、避けるのではなく、ウォーハンマーの柄で地面にゴンッと叩く。すると、ボストの目の前から直径5メートルほどの石柱が飛び出した!



 ドガガガッ!



 地面から生えた石柱とエアハンマーが衝突し、石柱が砕け、風が散らされる。


「そんな風に戦うんだ。それなら……!」


 レアは得意のスピードを生かしバッと石柱の裏に回りこむと、直接斬りかかろうとする!


「あれ?」


 しかし、そこにボストは居なかった。そしてレアの視界に影がさした。


「え…………!?」


「俺はそんなに温くない」


 先程砕いた石柱の上にボストはいた。そこから飛び降りながら、


「まずい…………!」


 慌てて地面を蹴って下がるレア目掛け、ハンマーを降り下ろした!!



 ドガァン……!!



 ボストのハンマーが地面を抉る。


「あ、危なかった!! あんなのくらったら一発でお陀仏だよ」


 間に合わないと踏んだレアは回避にさらに縮地を使い、後ろに飛んでいた。降り下ろされた地面には2メートルほどのクレーターが出来上がっていた。それを見てレアの手に汗がにじむ。


 なんてパワー、それに予想以上に動ける……!? この悪魔さん、本当に魔術士なんだよね?


「ふむ」


 ボストが、ウォーハンマーを肩に担ぎ直すと、何か考えるようにレアの方へ歩いてくる。そして、今度はウォーハンマーの柄でトントンと地面を叩いた。


「魔法の気配………! どこから!?」



 ボゴォッ………!!



 地面がメリメリと盛り上がると、レアを取り囲むようにドーム形に現れた。土壁は半球の状態を目指し、両サイドからレアを完全に閉じ込めようとする。



 ゴゴゴゴゴゴ…………!



「だめっ!」


 レアが強くジャンプして、閉じようとしている天井から逃げようとするが



 ガゴォォン…………!



 目の前、寸前で閉じきるドームの天井。


 レアはボストの土魔法のドームの中に完全に囚われてしまった。


「しまった…………! 真っ暗だよぉ」


 見回して光源を探すも、何も見えない。


「早く脱出しないと……!! 絶対何か仕掛けてくる!」


 風で壁の破壊を試みるも、思いのほか壁の強度が高く、弾き返されるだけ。さらに密閉空間であるため、風を起こしにくく威力が出ない。


「このままじゃあ……痛っ! 何?」


 突然襲われる痛みに左腕の二の腕を触るとぬるっとした感覚。慌ててドームの中央へと下がる。


「これ、もしかして私の、血?」


 うううん、間違いない。この臭い…………血だ。


 恐る恐る手を伸ばせば、硬く、そして鋭く尖った感触。太いイバラのトゲのようなものが無数に壁から生えている。しかも、今なお数を増し、そしてこのドーム内を埋め尽くそうとしていた。


「このままだと身体が穴だらけになっちゃう……!」


 しかし、普通の風魔法はこの空間では威力が減衰され、壁に穴を空けるまではいかない。しかし、レアは1つ考えがあった。


「あのユウが教えてくれた方法なら………!!」


 レアは空気を圧縮し始める。しかし、この限られた空間、普通に爆発させればレアも確実に巻き込まれる。

 

「どうしよう……………あそか! 爆発の方向を絞ったらいいんだ!」


 レアはとっさの思い付きで、爆発の逃げる方向を一番脆いと思われる天井の接合部分に向ける。


 あれ? 何か息が…………!? 早く早く…………!




 ドッッッッ……………………ガァン!!




 岩石が吹き飛び、バラバラと落ちてくる小石に混じって天井から光が差し込んだ。あまりの眩しさに一瞬目を細めるも、強く地面を蹴り、そこへ向かって跳んだ。そして穴の空いた部分に手をかけると、外に自分を放り投げる。


「はぁ! はぁはぁはぁ…………」


 ユウにこの技を教えてもらってなかったらヤバかった。ありがとうユウ。


 外に出て、一気に全身が日光に包まれる。目をこすり、ボストを探すと、岩に腰掛けていた。


「よもや破壊されるとは」


 ボストは少々驚きながらも立ち上がる。


「当たり前でしょ! これくらいじゃやられないよ!」


 ドームの上に立ったままボストを見下ろしたレアはフフンとイキる。


「ほう」


 そうレアは強がるも、死に直面したストレスからの疲労感に身体に重さを感じた。


 ボストはまた土魔法を使う。今度はレアが立つ真下のドームから、壁を突き破り、先程のトゲが飛び出てくる。


「あぶなっ!」


 慌ててドームからレアが飛び降りる。一瞬で土のドームはトゲだらけのイバラに包まれた。


「多彩なゴリラだね!」


 その言葉にムッとした表情でボストが答える。



「ゴリラではない」



 一気に攻撃の手が激しくなった。


「くっ! うわっ! うっ!」


 円錐が地面からメリメリと生え、レアを襲う。


 後ろからレアを突き刺そうとしてきた円錐を、前にジャンプして避けるもそれを待ち構えるかのように地面から向かいから飛び出す槍の束。空中の自分に無理やり下から風をぶつけて、わざと吹き飛ばされることで避ける。


「あぶなかっ…………え?」


 しかし、レアの着地地点には地面がなかった。前を向いたレアの目の前、地が裂けていた。



 地割れだ。



 50メートルにも及ぶ幅で地面が裂けており、底は真っ暗。見えないほどの深さになっている。


「やっ、ヤバっ…………!!!! 」


 また自分に風でぶつけ空中を移動するも飛距離が足りない。



「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ…………!!」



 もはやどうすることもできず、レアの身体中は吸い込まれるように地割れへと落下していった。それを確認すると、


「ムンっ!」


 ボストは両手を力強く胸の前で拝むように合わせる。




 ズズズズズンッ…………!!!!




 地割れは何事もなかったかのように、大地を揺らしながらその裂け目を閉じた。



「断じてゴリラではない」



 そう言ってウォーハンマーを担ぎ直すと、戻ろうとする。




「………あはは、やっぱり気にしてたんだ」




 バッ!とボストはその声に振り返った。


 そこにはボロボロのレアが。だが確かに生きて立っていた。


「どうやってあそこから」


「私の自慢はスピードなんだよ?」


 ピースしながらニッとどや顔をするレア。


 レアは風を纏っていた。地割れに巻き込まれそうになったレアは、全力で風の魔力を纏うと、壁キックの要領で閉まろうとする地面から抜け出していた。

 

「ふん」


 それだけ言うと、ボストは再び土魔法を使った。レアの足元にピシッ!とヒビがはしる。



「冗談だよね?」



 またもや大規模魔法の気配。ピタッと動きを止めたレアが、ひきつった笑顔でボストを見る。



「冗談ではない」



 まったく笑わずにボストが言った。



 ボゴォ…………!!!!



 レアの周囲、半径30メートルに渡って地面が崩れ落ちた。突如として足場を失い、再び瓦礫と共に落下していく。



「またあああああああぁぁぁぁぁぁ…………!!??」



 ガラガラガラ……………………!!!!



 深さ40メートルほどの谷底に落とされたレア。


「あいたたた……!」


 瓦礫に巻き込まれそうになるも、怪我をしていなかったレアは上を見上げて困った顔をした。


「あ、あの人、本当に魔力消耗してたんだよね…………?」


 谷底を見下ろすボストの隣には、7メートル級のゴーレムが3体並んでいた。


「いけ」


 命じられるがままに、一歩空中に踏み出す3体のゴーレムたち。そのまま谷底へとダイブする。



 ヒュウウウウウ…………………………ドゴゴゴォン……!!



 レアのいる谷底に派手に着地し、土煙を起こした。


「げほっ、けほっ…………もう!」


 レアは腕で顔をガードしながら、風で土ぼこりを吹き飛ばす!


「潰せ」


 ボストが命令した。


 ゴーレムたちがキレイに揃った動きで右腕を振りかぶる。


「さすがにゴーレムなんかにはやられないよ!」


 レアは3体いるうち、真ん中正面のゴーレムに突撃すると、突き出されるパンチを避け、その腕に上る。そのまま腕の上を走り抜けゴーレムの頭を蹴りジャンプした!


 そして、壁へと垂直に着地すると、その壁を蹴り真上に走った。



「なっ……!」



 壁を掛け上がってくるレアに驚きの声を上げるボスト。


 ズバンッ…………!


 谷底から這い出た瞬間にボストとすれ違う。虚をつかれたボストはモロにレアの剣を受け、胸に斜めの深い傷を負った。


 すれ違った後走り抜けると、ザザザっとブレーキをかけたレアは振り返ってボストを追撃する。



「小娘が…………っ!」



 胸を押さえながらブチキレたボストが、ウォーハンマーを頭が地面に着くかと思うほど身体を反らして振りかぶる。そして、思いっきり地面を叩いた。



 ドゴオンッ!



「え…………?」


 嫌な予感に突撃をストップすると、ボストの目の前の地面がまるで畳返しのようにめくり上がった。その規模500畳ほど。



 ズガガガガガガガガガガガガガ…………!!!!



 しかも一面から剣山が飛び出す。


「避けられない!!」


 レアは覚悟を決めた。


 レアは全身に纏う魔力を強めていく。風を集め、周囲の瓦礫すらも巻き込みレア自身が小さな嵐となる。いつかユウとの試合で見せた突撃技だ。そしてレアは踏み出した…………!





「せあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」





 レアの剣と、ボストの魔法が真正面から衝突した。




◆◆




「あっ…………う、ぐ……………………!」


 土埃が舞う中、レアはうつ伏せに地面に倒れていた。


 原因は、ボストの魔力が予想を上回ったこと。そして、ぶつかったのは魔法とレア本人であったことだ。ボストの土魔法も砕かれはしたが、無論ボストにダメージはない。レアはうめきながらも、肘をついて上体を持ち上げる。


「ま…………まだ、だよ?」


 剣を離していなかったレアは、剣を支えによろよろと震える足で立ち上がる。



「ああ、知っている」



 その声にハッ!と顔をした上げるレア。


 ボストは攻撃の手を緩めていなかった。



 ドガガガガガガガガガガ……………!



 次々と現れる石柱に、振ってくる大岩。レアを殴り殺そうと、もしくは刺し殺そうと、ボストの殺意が込められた魔法が容赦なくレアを襲う。


「うっ…………!」



 避ける。


 避ける。


 避ける。



 レアは走り、ジャンプし、時にはしゃがみ、時にはバックステップをとる。もはやレアは避けるだけで必死だ。ヒュドラに荒らされていたこの辺りの地形も、いつの間にやら様々な大木のような石柱が無数に乱立する、ある意味ミステリアスな空間へと変わっていた。


 レアは焦っていた。


「ゴリラの魔力がいつまであるかわからない。でも、ジリ貧になるくらいなら…………!」


 これだけ石柱を出せば遮蔽物も多い。石柱に身を隠しながらレアはボストに接近する。



「後ろもらった!」



 ボストの背後に滑り込むと、斬り飛ばすつもりで首筋に向け愛剣を振るう!



 ガィン…………………………!!



 振り返りながら振り抜いたボストのウォーハンマーがレアの剣を弾いた。


「い゛っ!?」


 そしてパワーの差でレアは地面に弾き飛ばされ尻餅を搗く。


「……ど、どうして!?」


 ボストはこちらを振り向いた。


「それだけ風の魔力を纏えば、こちらからでも場所はわかる」


「そんな…………」


 レアの表情が強ばる。魔術だけじゃない、近接戦闘においてもボストは格上だった。


「自分の弱点くらい知っておけ」


 ボストがハンマー部分を下からスイングするように振り上げた。


「きゃあああ!!」



 ドッ…………メキメキメキ!!



「ううっ…………!」


 レアは後ろに跳んで衝撃を逃がすも、ボストのハンマーをもろにくらう。ハンマーは風で防いだにかかわらず、衝撃はレアの剣の防御をやすやすと突破し体に届いた。ハンマーがレアの胸を強打する。


 激しく吹き飛ばされ、地面に背中からぶつかりバウンドしていく。



「あっ……、うっ!、うっ!、うぅッ…………!」



 素手で地面を掴むと長い指の痕を残しながら勢いを止めた。そして、身体をひねってとっさに石柱の影に隠れ、風の纏いを切る。


「はぁはぁはぁ………! いっ……つー!!」


 レアは腕を見る。


 腕はどんどん紫色に変色し、肘から先が2ヶ所おかしなところで曲がっている。


「左腕が………折れちゃった」


 それに息をすれば胸が痛い。多分肋骨もヒビか、折れてる……かも。


 レアは胸をさする。


 最近強くなったと思って調子にのってた…………! ダメだなぁ、こんなんじゃ。皆の足をひっぱっちゃう。でもっ! 私の戦いはここからだよ!


 レアは拳を握りしめ、ぐっと気合いを入れ直す。

 

「風を止めたか。賢明だ。ならあぶり出すまで」


 そう言ったボストが何かすると同時に鳴り響く破裂音。



 バンッ!



「なっ、なに?」


 レアが岩の影から顔を覗かせると、ボストが作り出した石柱の一部が爆ぜるのが見えた。


 バンッ! バンッ! ババンッッ!!


 ボストの魔法で今まで作られた岩石が次々に拳大の大きさの石になって爆発しだす!


 嘘っ! この石柱すべてが爆発する石なの!?


 当たれば、痛いではすまない。まるで散弾銃のように石が飛び続ける。



 ババババババババババババババババババババババババンッッッッ!!




「ひっ……………………!!??」



 レアの悲鳴とともにポップコーンのように弾けた岩石は、地面を抉るほどの勢いで雨のように飛び交った。しかし、おかげでボストとて視界を失う。


 そんな時、ボストの背後でまた風が動くのを感じた。


「そこだ」


 ボストが背後に向け、大槌を大きくスイングする!!


「なに!?」


 しかしボストのウォーハンマーは手応えを感じることなく、むなしく文字通り空を切った。そこには何も居なかった。ただ、風がいただけ。


 そして背後でヒュッと僅かに空気が揺れた。


「隙をみせたね?」


 背後から声がした。


「まさかっ!?」


 ボストが振り返る間もなく、レアが背中を斬りつけた!


「ぐあああ!!!!」


 ボストのゴツい筋肉を覆われた背には斜めに深く長い傷ができた。



 ブシュウッ…………ボタボタボタボタ!!



 血が飛び散る。


 この戦いの勝ち負けを左右するほどの大怪我だ。


「くっ……、フンッッ……!」


 ウォーハンマーをブンブンと粗っぽく無造作に振り回し、レアを遠下げる。


 ボストは石つぶてを防ぎきれずに風を再び纏ったのだと思っていた。しかし…………見るとレアは全身に打撲の跡があり、内出血に血を流している。ボロボロだ。


「あれを生身で凌いだのか!?」


「えへへ。風で見つかるなら、偽物の風を動かせばいいだけだよ!」


 そう言うものの、レアは満身創痍。ボストよりも重傷だ。


「貴様をなめていた」


「わ、私だってそれなりに修羅場は潜ってきたんだよ」


 そしてレアは風を纏った。




「ん?」




 その時だった。急にレアの五感が研ぎ澄まされていく。見える世界が広がる。

  

「あ…………また、あの感覚だ…………!」


 風と一体になったような感覚…………空気の動きがわかる。私が腕を動かせば、それを避けるように空気が動く。この空間の空気の流れが手に取るようにわかる。


 前にダンジョンで大きなベルガルと戦った時に感じたそれと同じだった。


「えへへ。ボロボロなのに、何だか調子がいいや。追い風とはこのことだね」


 レアがニッと笑う。


「行くぞ」


 ボストはウォーハンマーを振り回しながら近付いてきた。



「うおおおおおおおおおお!」



 ウォーハンマーを振れば振るほどどんどんと岩石が付着していき、人間の頭ほどの大きさだったハンマー部分は、今や一軒家ほど巨大になった。これがボストの武器への土属性の纏いだった。


「でっか……………!」


 見上げるレアがそのハンマーの影に入るほどだ。


 そして、野太い気合いの入った低い声と共に、レア目掛けて振り下ろした!


「はあっ!」




 ドゴオオオオオオオォォォ……………………ン!!!!




 振り下ろされたウォーハンマーに地面がズズンと沈む。


「ふふっ、そんなに大きなもの振り回したら危ないよ」


 ボストの20センチほど目の前で、剣を納め後ろで手を組んだレアがニコニコと笑っていた。


「な!?」


 レアは巨大化したウォーハンマーを後ろに下がるのではなく、前に出ることで避けていた。長い柄のボストの武器は、そのハンマー部分でなければただの棒にすぎない。


「えへへ」


「ふんっ!」


 ボストが巨大なウォーハンマーを振り回すも、すべて間合いの内側で、ヒラリヒラリとかわす。レアは、まるで、空中に舞う鳥の羽のようにボストが力強く捕まえようとすればするほど、指の間をすり抜けていった。


 空気の動きからボストの全てを把握し、先読みを成功させている。こうなったレアをパワータイプのボストが捕まえることは出来ない。



「がああああああああ!!!!」



 ブシュウッッ…………!


「ぐうっ……!」


 ボストがハンマーを振り回すほど、レアがヒラリとかわしボストの身体を斬っていく。こうなれば、パワータイプのボストはかなり相性の良い相手だ。


 先程のウォーハンマーの一撃で仕留められなかったのをボストは悔やんだ。


「離れろおおお!!!!」


 ボストが頭の上に10メートルを超す巨大な岩を作り出し、自身の上に落とした。


「はわわわ!」


 紙一重では避けられない面の攻撃。さすがにレアも大きく距離を取る。



 ドゴゴゴォン……!!



「はぁ、はぁ、はぁ」


 ボストは頭から血を流すも、ウォーハンマーで自ら岩を粉砕し、致命傷を避けていた。しかし、今ので武器への纏いも解けたようだ。



「終わらせる……!!!!」



 バキバキバキバキ…………!


 ボストは周囲の瓦礫を押し固め、ボストの目の前に高硬度の巨大なドリルのような円錐をレアに向け浮かべる。それはまるでユウが作ったような黒色で鉄のような光沢がある。


「あれはヤバそう……」


 脅威を感じ取ったレアは、剣を納め両腕を広げる。


 そして、空気を圧縮していく。先程とは違いここには空気が無限にある。レアが定めた範囲は30万立方メートルにも及ぶ。それをレアは手のひらサイズにまで圧縮した。今や、それだけの空気の塊は、レアの目の前、手のひらに乗っており、透明でありながらも、時々光を反射し、うごめいている。


「これを…………!」


 さすがにレアの限界の大きさの空気量、今にも破れそうにビリビリと振動している。そして、レアの額にも大粒の汗が浮かぶ。


 レアはその空気の塊を折れた左腕の手のひらに乗せたまま、まっすぐにボストに向け突き出している。


 その時ボストが動いた。ボストは残りの魔力をすべて腕に集め、円錐形の岩石の底をハンマー投げのように身体を回転させ、全力でウォーハンマーで殴った!!



「ぬンッ…………!!!!!!!!」



 ドッッッッ…………!!!!!!!!

 


 打ち出された岩石がドリルのように回転しながらレアに向け迫るーーーー!



 「もって! 私の左腕…………!!!!」


 レアは手のひらに乗せた空気に後ろから右手を横倒しにして添えた。



 「いけええええええええええええええええええ!!!!!!!!」




 ゴウッッッッッ……………………!!!!!!!!!!!!




 先程の土壁のドームを破壊したやり方にヒントを得て、周囲に向くはずの爆発の威力をすべて、指向性を持たせ大砲のようにしていた。


 レアの砲撃とボストの岩石が衝突する!!




 ボゴオオオオオオオオオオオオオ!!!!




 見えない空気の塊をボストの攻撃がガリガリと削り掘り進み、食い込んでいく…………!



「ぐうぅぅ! 腕が…………!!」


 支えきれなくなったレアは左腕をだらんと下ろし、歯を食い縛って右手だけで攻撃を繋いでいる。


 すでにボストもすべての魔力で最後の攻撃を出しており、膝をついてもはや1歩も動けない。だが、ボストに今も不安はなかった。なぜならこれほど格下の相手に負けることなど想像もしていないからだ。



 どんどんとレア側に近づいてくる円錐。レアに近付くにつれ、回転するドリルのような岩石のギャルルルという音が聞こえる。



 そして、その先端がレアの1メートル手前まで迫るーー!


 このままじゃ…………負ける! 死んじゃう! 


 そんなの絶対にいや! 皆と離れたくない! もう1人になんて、なりたくない! 絶対に皆は勝って帰ってくる! 私も絶対に生きて帰るんだ!



「死んで……たまるかぁぁぁあああああああああああああああああああ!!!!!!!!」



 レアは、目に涙を溜めながら叫んだ。


 


「うおりゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」




 ボストが目を見開いた。


 目の前まで来ていた円錐は徐々に押し戻されていく…………そして遂に抗えずに弾き飛ばされた。


 そして、空気がボストに衝突する。



 ドッッッッッッッッ……………………!!!!!!!!!!!!



「がっ…………!」


 見えない強大な塊に直撃され、息すら出来ずに吹き飛ばされるボスト。そのまま数百メートルは様々な場所にぶつかりながら飛ばされていく。



「やっ…………たぁ!! やった!」



 レアはバタンと仰向けに倒れる。


「はっ、はっ、はっ、はっ…………!」


 勝者のレアも激しく胸が上下し、身体が必死に酸素を取り込もうとしている。満身創痍だ。


「にししし!」


 それでもレアは笑っていた。


 レアとボストの間は地面と岩がレアの攻撃の間だけ、すべてが吹き飛び、岩ですら風に粉砕されていた。


「ひゃあ……! この攻撃スゴいんだね」


 レアは顔を上げると、その風の通りすぎた後の惨状を見て呟いた。レアは、ガッ、ガッ、と剣を地面に突き立て支えにしながらヨロヨロと吹き飛ばされたボストの元へと歩いていく。


 ボストは全身ボロボロで、その鍛えられた太い腕や脚が全然違う方向を向いてしまっている。


 目だけがこちらをとらえた。



「……………おまえの、勝ちだ」



「うん」



 レアは歯を見せて笑った。




読んでいただき、ありがとうございました。

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