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【100万PV突破!!】重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第1章 目覚め
6/159

第6話 異変

こんにちは。宜しくお願いします。

 

「祭りか…………」


 夕日が草原を照らすなか、町へ向けて歩き出した。


 ただ、不思議なことに魔物にはまったく出会わない。これだけ魔法で暴れてりゃ、ゴブリンの1匹や2匹には余裕で出くわしてもおかしくないのに。


 だがそんな不可解さも忘れてしまうほど、今日の収穫は大きかった。なんたって遠距離攻撃手段と防御手段、そして回復まで手に入れたのだから。しかもかなり魔法を使ったにも関わらず、MPはまだけっこう残っている。コスパも悪くないようだ。


 ステータスは次のようになった。


===========================

名前ユウ16歳

種族:人間

Lv :17

HP :145

MP :305→360

力 :108

防御:90

敏捷:201

魔力:380→480

運 :50


【スキル】

・鑑定Lv.6

・剣術Lv.4

・探知Lv.4→5

・魔力感知Lv.4→6

・魔力操作Lv.4→6

・並列思考Lv.3→5


【魔法】

・火魔法Lv.1→3

・水魔法Lv.1→3

・風魔法Lv.1→3

・土魔法Lv.1→3

・雷魔法Lv.1→3

・氷魔法Lv.1→3

・重力魔法Lv.1→4

・光魔法Lv.1→2

・回復魔法Lv.1→3


【耐性】

・混乱耐性Lv.2

・斬撃耐性Lv.1

・打撃耐性Lv.2

・苦痛耐性Lv.2


【ユニークスキル】

・お詫びの品

============================


 魔力の伸びがすさまじい。俺は魔術士の才能があるかもしれない。


 ピコン……!


 そう思っていると、探知に魔物が引っ掛かった。俺の探知の範囲はでかい。今なら半径50メートルはいける。


「…………なんだゴブリンか」


 よく見ると、ゴブリンのような尖った耳が見えた。


 ゴブリンごとき、魔法を覚えた俺の敵じゃない。あの時の恨みを晴らすべく、魔法の練習台になってもらおう。


 さっき考えたばかりの魔鼓を3つ俺の上に浮かべる。だが、そこでさらに探知が…………。


 ピコン、ピコン!


「またか。てことは、前みたいなゴブリンの群れ…………ん、んん?」



 ピコン! ピコン…………ピコン。ピコン、ピコン、ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ…………。



「は?」


 探知の反応が止まらない。どんどん増えていく。とうとうその数は百を越えた。


 な、なにかの間違いか?


 探知スキルの間違いでなければ、明らかに異常なゴブリンの大群だ。不安が胸をよぎる。だが夕焼けと背の高い草のせいで、姿がよく見えない。間違いだと思いたい。


「そ、そうだ。鑑定だ」


 鑑定は、視界に隠れた魔物の名前も表示してくれる。


「かんて………………………………」




 ピコピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ…………!




「へ……………………?」


 探知の範囲だけじゃない、おびただしい数のゴブリンの赤い表示が草原を埋め尽くしていた。



「お、おかしいだろこんな数!!!!」



 草の陰にしゃがみ、口を手で押さえながら叫んだ。


「まさか町を襲うつもり…………いやいや、待て。魔物は湖に入れない、はずだ」


 そう考えると胸がざわめき、ドクンドクンと鼓動が速くなった。心臓どころか、動脈がドクドクと言っているのが耳から聞こえる。


「すぅーはぁ、すぅーはぁ…………」


 落ち着くために、深呼吸をした。


 大丈夫。大丈夫だとして、万が一があるかもしれない…………。それに、あの町には俺を家族だと思ってくれている人たちがいる。魔物が近付けないとしても、危険が迫っているのは間違いない!


「俺が知らせないと!」


 ゴブリンたちに見つからないよう、湖側を身を低く草の影に隠れながら、バシャバシャと湖の水際を走った。


「はぁ、はぁ、はぁ!」


 早く…………早く早くっ……!!


 焦りで鼓動がさらに速くなる。必死に走っている最中、視界の端で小さく水飛沫が上がった。


 なんだ!?


 俺は無意識に緊張していたのか、足を止めて反射的に剣を構える。だがよく見ると、水辺でスライムが跳ねていただけだった。


「…………ただのスライムか。ちっ、時間を無駄に……!!」


 スライムの速さなら走れば追ってこれない。相手をしている暇すら惜しい。


 そうしてまた身を屈めて走り出す…………が、


 ん? …………スライム?


 なんだ? 何か違和感が…………。いや、待てよ?






 ()()()()()()()()()()()()()()()()






◆◆



 …………バタン!



「デリーーーーック!!」



 息を切らしながら、店へ駆け込む。この店も広場に面しているため、お店の前にテーブルを出して料理を売るつもりのようだ。デリックが厨房で料理を作り、ミラさんがせっせと運んでいる。


「おお、ユウどうしたんだ? 俺と祭りを見て回りたいってか? 残念、俺にはミラって言う…………」


 デリックはいつも通りで、町は完全にお祭りモードだ。誰1人外の様子には気付いていない。その能天気な様子にイラッとする。


「うっさいデリック聞け! 町が魔物に取り囲まれてる!!」


「は? 何言ってんだユウ。そんなわけあるか。仮にそうだとしても町に入って来れるはずがねぇ」


 デリックは祭りの楽しい時間に水を指すなとでも言いたいかのように、不機嫌な顔をして言う。


「いや、奴らは入ってくる! ここに来るときに見たんだ。湖にスライムがいるのを!!」


「…………なんだと!?」


 さすがのデリックも固まった。ミラさんも料理を運ぶ足を止めている。


「は……はは、おいユウ。いくら祭りだからってそれは笑えない冗談だぞ?」


 顔をひきつらせながらデリックが言う。デリックも真剣な俺の様子に頭ではわかっているが、信じたくないようだった。



「冗談なんかじゃない! 本当だ!!!!」



 必死になって叫んだ。


「ユ、ユウくん? うそでしょ?」


 ミラさんが手を止め、真っ青な顔で問いかける。


「馬鹿な! この湖は3000年、魔物を近づけなかったんだぞ!? 信じられるか!」


 頭の固いデリックは怒鳴る。


 いい加減に受け入れろよ!


「でも実際に来てるんだ!! なんとかしないと! 早く町の皆に知らせるんだ!!」


 デリックが黙って目をつむった。何かを、いや、デリックは探知を発動させたのだろう。


「…………ああ、くそ!」


 ガンッ!


 デリックが壁を殴り付けた。そのパワーに壁が凹む。


「あなた…………本当なのね?」


 ミラが真剣な顔でデリックを見つめる。


「ああ、ユウの言う通りだ。この町は魔物に取り囲まれている」


「そんな…………!」


 普段勝ち気なミラさんが動揺を隠せない。


「いや、今思えば不自然じゃない。少し前から魔物が増えていた。以前では考えられないくらいの数だ。もしかすると湖の力が弱まっていたのかもしれない……。くそっ、なんでよりによってこんな日に!」


 デリックが悔しそうに拳を握り締める。


「ミラ! 急いで町長に知らせるんだ!」


「わ、わかったわ!」


 ミラさんはあわてて店から飛び出して行った。


「俺も!」


 皆に知らせるためにミラさんの後を追おうとする。


「待てユウ! お前には話がある」


 強い力で肩を捕まれた。


「なんだよこんな時に! 早くしないとっ!」


 俺は声を荒げた。


「ユウ、お前が見た外の魔物は…………そう、ゴブリンだったか?」


 デリックの声は俺にもわかるほどに、震えていた。


「そ、そうだ。…………って、なんでわかって!?」


「いいか? 落ち着いて聞けよ?」


 デリックは俺の両肩を掴んで、目と目を合わせた。


 …………なんだか恐い。このタイミングで言うって何事だ!?


 俺はゴクリと唾を飲み込んだ。





「この町はな、()()()()の中にあるんだ」





「ア、アーカム? それがいったいなんだって…………!」


 一瞬、ピンと来なかった。しかし、アーカムという名前の意味を思い出した時、ゾッとした。


 なぜならアーカムは…………、





 『ゴブリンの国』だ。





「え? えっ!? え…………!?」


「あぁ、ここはな。大昔にゴブリン王に滅ぼされた国。その中にある」


「ば、馬鹿な…………!?」


 汗がドバッと溢れ、背中がぐっしょりと濡れる。


「人の国が滅ぼされた当時、湖の神聖な力で魔物は近づけなかったらしい」


 その前からこの湖はあったのか…………。


 デリックはうわ言のように話を続けた。


「この町のことは人の国じゃ誰も知らない。なぜなら……誰もが人は皆殺しにされたと思ったんだ。しかし、湖に守られたこの町は生き残っていた。ここは現在まで、奇跡的に続いてきた町だ」


「はっ………………はは」


 渇いた笑いが漏れた。


「わかったろ? 外に応援を呼ぶことはできない…………俺ら以外に、人間がいないからな」


 デリックの言葉で、この町に来てから抱いていた疑問が全て解けた。


「そういう、そういうことだったのか…………」


 どおりでおかしな町だと思った……! 町への人の出入りがないのではなく、()()()()()()()からだ! エルの両親は外に出ようとした。そんなの、当たり前だ! こんな牢獄みたいな町、出たいと思うのが普通なんだ! おかしいのは町の人間の方だ……!


 その時、外から祭り囃子とは違う音、喧騒が増えてきた。悲鳴が上がっていないところをみると、まだ攻めては来ていないようだ。おそらくゴブリンたちに包囲されたという話が広がったのだろう。

 今ごろ皆、戦う準備をしているだろうか…………。


 俺は無意識に下を向いていた。顔を上げてデリックに問う。


「な、なぁ、ここからどうするんだ? 戦うんだろ? 相手は所詮ゴブリンだ。それに…………負けたら、町の人たちがどんな目に合うか……!」


 死ぬよりもひどい目に遭う。


「わかってる。でも待て、話はもう1つある!」


 デリックは俺の前に手のひらを突きつけた。


「もうひとつって!? もう十分だ…………! これ以上、聞きたくない!」


 俺のキャパが溢れる…………。


「いや、そう身構えるな。こっちは大したことじゃない」


 そう言って、デリックは厨房の奥へ、何かを探しに姿が見えなくなった。ガチャガチャと荷物をあさる音が聞こえてくる。


「俺自身の、ことだ」


 厨房から、デリックの声だけが聞こえる。そして深く息を吸い込んでデリックは言った。



「俺はな…………7年前、たまたまこの町に迷いこんだ、元冒険者だ」



「ぼう、けんしゃ……………………ははっ、はははは」


 思わず笑い声が出た。


 …………ああ、そういうことか。


 デリックは、厨房から長めの両手剣を肩に担いで現れた。手入れはされていたようだ。


「ふん、道理で凶悪な顔だ」


「おいコラ、どういう意味だ。…………って、驚いたか?」


 ぶっきらぼうにデリックはそう聞いた。


「いやまったく。もともとデリックだけこの町で不自然な気がしてた。お前だけ隙がないってな」


 そう、デリックだけには戦う意志が感じられた。


「そうか」


 デリックがふふっと笑う。


「俺がこの町に偶然たどり着いた時、死にかけてた俺はここの人たちに助けられた。だから俺は、ここで町の人たちに恩を返してきた」


 デリックは右手をグッと握った。


「それは…………俺も同じだ」


 俺だってこの町には恩がある。


「ユウ、この町にはな、兵力がほとんどない。というより、こうなった時はもう仕方がないと諦めてるんだ。ここは敵地のど真ん中。確実に蹂躙される」


「ああ」


 予想通りだが、悲しいな。町の人たちは魔物と初めから戦うつもりがなかった。


 戦うことを…………諦めていた。


「だがユウ、お前は町の人たちとは違うだろ? お前は特別な人間だ。バカみたいなスピードで強くなるお前を、俺は天才だと思った」


 そしてデリックは、俺の目を真剣に見て静かに言った。



「約束だ…………。俺が絶対に、お前を逃がしてやる」



「俺を? 町の皆じゃないのか? だって、だって町の人たちには助けられた恩があるんだろ?」


「恩なんて、とうに返したさ…………」


 嘘だ…………。


 デリックは寂しそうな顔をした。


「それに、わかるだろ? 皆を救うことは、できない」


「それは…………」


 俺は言いよどみ、視線を外した。


 ゴブリンの大軍勢から全員を守りきるのは、ハッキリ言って不可能だ。


「なぁユウ、お前はすでに俺とミラの息子みたいなもんだ」


 そして、デリックは首元をポリポリとかきながら言いにくそうに言った。そして続けて聞く。



「お前はどうだ?」



「俺? 俺は…………」


 思わず足元を見た。


「俺とミラをどう思う?」


 この町に来た時から今までを思い出した。


 デリックとミラさんは…………。



「2人は、短い間だったけど、俺にとっての…………父さんと、母さんだ」



 デリックの目を見てそう断言した。


「…………ふふっ、ありがとうよ」


 デリックは安心したように笑うと、ワシッと俺の頭を掴んでは、乱暴に撫でた。


「おい、やめろこら」


 俺がやめろと言っても聞かない。そして、そのままデリックは言った。


「いいか? お前だけは、俺が命を懸けて逃がしてやる」


「…………っ」


 目頭が熱くなった。


「デリィック…………ありがとう…………っ」


 ホントにこの人に出会えて良かった。そう思った矢先、周りの喧騒が激しくなってきた。


 頭を振って、切り替えるとデリックに問う。


「これからどうする? 一応聞くが、俺らで奴らを追い返すのは?」


「まぁ無理だな。戦力が違いすぎる。気配を感じるだけで1000匹は超えている。しかもここはやつらの国だぞ? いくらでも補充はきく」


 そりゃそうか。


「この町の戦力は?」


「数えるだけ無駄だ」


「はぁ…………」


 でも、救えるのなら、手の届く範囲だけでもなんとかしたい。


 その考えを読んだかのようにデリックは話す。


「いいか? まず、奴らの戦力を確認する。逃げるだけなら何人かは助けられるかもしれん。集団は恐ろしいがゴブリン1匹1匹は弱い」


「わかった」


「ひとまず行くぞ」


 デリックは自分の剣を担いで、店を出た。そして町の広場では、



「信じられるか!!!!」


「昼間出た時は何もいなかったぞ! デタラメだ!」


「なぜだ!? なぜ!? ゴブリンがここまで来れる!?」


「いやだあああああああ!!!!」


「死にたくないよぉおおおおお!!」


「町長! 私らはどうしたら…………」



 まさに阿鼻叫喚の絵図。パニックだった。


 祭りで広場に集まっていた人々200人以上が町長のところに集まり、指示を、助けを求めていた。


「え、ええ…………と」


 ビクトルもどうしていいかわからない様子だ。無理もない。大昔から続いた日常が今日は破られるなんて誰も想像していなかった…………ましてや、今日祭りを楽しむつもりだったのだから。

 この町の人達は、魔物の危険から目を背け、安全が当たり前に続くと思っていた。それは町長も同じだ。危惧していたとしたらそれはデリックくらいだ。


 そして、町長のパニックの頭で出た答えは



「皆で戦うのじゃ!! 所詮はゴブリン! 数は多くとも1匹ずつなら倒せる。倒しながら退路を探せ!」



 これだった。


「そうだ! 戦えばいい! 所詮はゴブリン。弱い!」


 誰かが囃し立てた。それを皮切りに皆がそれに賛同する。


「待て!! おまえら…………!」


 デリックの声もむなしく、パンクした頭に唯一の指示を与えられた人々はその命令通りに動く。彼らは戦うため武器になるものを取りに家に帰っていった。


 あれだけの人が一斉にいなくなった広場には、吊るされたランタンがユラユラと揺れている。


 これからここで、いったい何人が死ぬのだろうか…………。



「おい町長! それで助かるとでも思ってるのか?」



 振り返れば、デリックが町長に詰め寄っていた。


「ゴ、ゴブリンごとき、町の人々で立ち向かえばどうとでもできるわい!!」


 もはや後に引けなくなった町長は開き直っていた。


「この…………!!」


 デリックが町長の胸ぐらを掴もうと手を伸ばす。俺はデリックの手を掴み、首を横に振った。


「デリック」


 さすがに気の毒だ。ビクトルじゃなくても、誰でもこの状況で正しい判断など出来るわけがない。


「もう手遅れだ。少しでも被害を減らそう」


「チッ!」


 ただただ、考えられる中で最も馬鹿な選択をした町長にデリックは舌打ちをした。


 もう、彼らを止めることはできない。なら、今後のことを考えるのが先決だ。


「なぁ、なぜあいつらは動かないと思う?」


 町の外に目を向ける。町はこのクレーターのほぼ底に位置している。遠くの少し上の方を見ると、闇の中に、月明かりが反射して黄色く光る目がギョロギョロとおびただしい数が浮かんで見えた。



「「「「「グギャギャギャギャギャ…………!!」」」」」



 大勢のゴブリンたちの声がひしめき合っている。


「あれだけの数だ。統率者がいるんだろう。そいつの到着か、指示を待っているんだ」


「統率者? ならそいつを倒せばこの場は凌げるんじゃないか?」


 一筋の光が見えたかと思えた。だが、デリックが眉間にシワを寄せて額に手を当てた。


「はぁ…………それは俺も考えた。だがあの数のゴブリンを束ねてる奴となると、おそらく化け物クラスだ」


「化け物クラス…………でも一か八か、やってみないか? それでダメなら逃げりゃいい。どのみち助かる確率は低いんだ」


「…………」


 デリックが遠くを向いて考えている。


「わかった。だが、無理ならすぐに退けよ?」


「わかってる」


 俺は真剣に頷いた。もう前回のような失敗はしない。


 その時、うるさく鳴きわめくゴブリンたちの声がピタリと途絶えた…………。一気に静寂が町を支配する。


「来るぞ! まずそいつの姿を確認しよう!」


 俺がそう言うも、デリックは何か別のことを考えているようだ。


「そうだな。…………すまん、すぐに追い付く。先に行っててくれ。どうしてもしとかなきゃならんことがある」


 なんだ? こんな時に言うことだから、本当に大切なことなんだろう。


「わかった」


 俺はゴブリンたちのボスを確認するために1番町の外側、ゴブリンたちに近い民家の影に隠れた。ここから畑を挟んだ向こう側に肉眼でも確認できるほどの距離に大勢のゴブリンがいた。手前はこん棒、奥には剣をもったゴブリンが。奥に行くにつれ、しっかりとした装備をした者が増えていく。ここまでゴブリンたちに近いと、その汚ならしい息づかいすら聴こえてくる。


 突然、奴らが道を開けるように左右に別れた。



 ゴ…………ゴゴ……ゴゴゴゴ…………ゴゴゴゴ、ゴゴゴゴゴゴ。



 地面を揺らすような音と共に、2.5メートルはあるだろう、全身漆黒の甲冑を身につけた巨大なゴブリンが現れた。ただ大きいだけでなく体はひきしまっている。明らかに他とは違う。


「んなっ!?」


 10メートルを超す大岩へ右手の五指をめり込ませたまま、引きずり歩いてくる。



 ヤバイヤバイヤバイヤバイッ!! なんだアイツは!?



 見た瞬間、冷や汗が滝のように流れ、血の気がひいていく…………。

 頭の中で危険を告げる警鐘が鳴りまくり、本能的な恐怖を覚えた。この一瞬で奴を倒すのは不可能だとわかった。


 アレは、もはやゴブリンとか魔物とか、そういうものとは別格の生き物だ!


 そして奴は、右手で掴んだその大岩を軽く振りかぶった。


「…………う、そだろ? それ、持ち上げるのか…………!?」


 その光景が信じられなかった。





「伏せろぉーーーーー!!!!!!!!」





 デリックの声が遠く聞こえた。


読んでいただき、ありがとうございました。

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