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【100万PV突破!!】重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第3章 ダンジョンの町ワーグナー
55/159

第55話 残り1日:午後

こんにちは。

ブックマークや評価していただいた方、有難うございました。

第55話になります。宜しくお願いします。


 武器購入後、主にポーションと魔力ポーション、麻痺や毒に効く魔法薬を買っておいた。

 そして今のご時世、他の店よりギルドで食べる方が情報も入りやすいだろうということで、ギルドへ昼食を食べに行く。


 ギルドに入ると、ここもいつもと空気が違うのを感じた。いつもなら他の冒険者と喧嘩していたり、弱そうな奴を見つけては絡んできたりする輩も今ではなりを潜めて目の前の脅威に集中しているようだ。それにギルド職員も表情が固い。


「あちゃあ」


 フリーが思わず口に出した。


「仕方ないよ。皆頭の中は氾濫でいっぱいなんだから」


 レアが真面目な顔で言う。


「冒険者って案外、冒険しないことが多いものね。普段は逃げることだって選べるんだから」


 とりあえず修理が終わったカウンターで飲み物を購入する。カウンターを破壊した犯人だとバレているのか、バーのマスターにはすごく嫌な顔をされた。


 ちゃんと弁償したんだけどなぁ。


 それはさておき、テーブルに座っていよいよ明日に迫った氾濫について話をする。皆新しく買った武器が嬉しいのか、大事そうに抱えている。談笑した後、レアが不安そうに話し始めた。


「ねぇ皆、ダンジョンの魔物はAランクも出るんだよね?」


 雰囲気につられたか?


「そうだな。それはほぼ間違いない」


「私、Aランクに勝てるのかな。デーモンには勝てたけど、あれは3人がかりだったし、Aランクの中じゃ弱い部類でしょ?」


 そうだな。今回俺たちのパーティの肩には重荷が背負っている。


「そうだな。でも、お前らはあの戦いを通して強くなったんだ。魔力を纏うことも使いこなせるようになってきた。レアらしくないな」


「レア、あなた恐いの?」


「違うの。私はユウですら敵わないような敵が現れて、皆が死んじゃうことが恐いの」


 そうか、レアはウワバミに仲間を食われたんだった。


「大丈夫。俺はレアが思うより遥かに強いからな。心配するだけ余計だ。馬鹿」


「ごめん…………ありがとう」


 レアはあははと笑った。


 レアだって不安なんだ。そりゃそうか、明日死の危険があるってのは何よりも恐い。


「そうだよレアちゃん。レアちゃんに何かあったらユウなんかより僕が先に駆けつけるからね」


「あたしもよ。レア」


 アリスがレアの肩にポンと手を置いた。


 こんな時だが、アリスも自然に人に触れられるようになってきたことが嬉しい。


「おい!俺もそうに決まってるだろうが」


 自然と4人でテーブルの真ん中に手を重ねた。


「うん……皆で町を守ろう!」


 


「「「おう!」」」




 …………さて、そうは言ったものの、さすがにこの3人がAランクと戦うとなると不安が残る。どうすべきか。


「ユウ。まだ僕らに教えられることあるよねぇ? ユウの発想は面白いから何かヒントになるかもしれないし。今の僕らの戦い方、どう思う?」


 フリーはマイペースに前向きで戦うことに貪欲だ。


「確かにまだまだ伸び代はあると思う。…………まず全体的な話をさせてもらうと、相手がAランク下位だとして、今のお前らなら2人でも危なげなく勝てる」


「ホントに?」


「ああ、別に過大評価はしてないつもりだ。でも1対1になるとわからない。相性の問題もあるしな。」


【賢者】その通りです。1対1では、自力の差で勝つのは難しいです。


 だろうな。


「でも実戦が最も成長できるんだ。これはチャンスだぞ?」


「チャンスかぁ……」


 レアがそう言いながらぐーっと後ろに胸をそらし伸びをする。


「うん、頑張ってみる。気持ちで負けたらダメだもんね!」 


「おう。でも無理はするなよ? 勝てないと思ったらすぐに逃げろ。こんなことを言ったらなんだが、町よりも俺たちが最優先だ。依頼に失敗したからって生きていればまだ次がある。死んだらそこで終わりなんだからな」


 3人は黙って頷いた。


「さて、フリーの言う3人に足りないところ…………まぁとりあえず技とか、魔力操作とかその辺りの改善点を見つけてみよう。それじゃあ、この後行くか?」



「「「うん!」」」



◆◆



 昼御飯後、訓練場へと向かった。ここももう3度目だな。


「よし、それじゃあ順番にフリー」


「はいよ」


 フリーが一歩前に出た。フリーの身体強化はこの短期間でもはやベテランの域に達している。すごい才能だ。それに前から欠点であった、武器がフリーの実力に釣り合っていなかった問題も、あの刀で解消されただろう。鬼に金棒とはこのことだ。フリーはおかげで相当強くなっているはず。あとは、


「フリーのあの斬撃を飛ばす技、あれは広範囲を狙う点ではいいんだが、威力が分散してしまってるだろ?」


「…………というと?」


「縦斬りを飛ばしたのになんで、地面にあれだけ幅の広い溝ができるんだ?」


 こないだここで試合をした時も斬撃が広がってしまい、2メートルくらいの幅で深さ数メートルの削り取られたような溝ができていた。要は厚さがある斬撃は斬るという攻撃なのに、そこに無駄があるということだ。斬撃である以上、攻撃は線であるべきだ。極端な話、接触面が大きいと打撃になりかねない。


「あ…………」


「あれじゃ、防御力が高い相手だと弾かれて終わりだ。だから範囲を広げるんではなく、もっとスマートに凝縮した斬撃を撃ち出すようにしたらどうだ? 目指すは厚さ0.1ミリだ」


「なるほど…………試す価値はありそうだねぇ」


 フリーは1人納得すると離れた場所に行き、個人で練習し始めた。



「じゃあ次はアリス」


「ええ」


 アリスは自然体で立つと、目を閉じて体に魔力を纏う。アリスの体から魔力が溢れ出した。そして魔力の特性なのかキラキラとアリスの周りを氷の結晶が舞っている。


「わぁ、キレイ…………」


 レアが目を輝かせる。


「どう?」


「やるな。もう属性をのせられるのか」


「まぁね」


 アリスは照れたように返事した。


 まじめに練習してきたからな。


「どうだ?症状は?」


「まだ、普段普通に生活している分には素手で触っても凍らせることはなくなったわ。でも、動揺したりするとまだ厳しいわね」


「そうか。癖はあるものの、大分良くはなっているみたいだな」


「うん、ユウのおかげでね」


 アリスは嬉しそうに言った。


 アリスをパーティに勧誘した時、治せると大口を叩いたんだ。少しでもマシになっていないと合わせる顔がない。


「ほとんどアリスの努力のおかげだろ。それ、属性をのせられるとどんなことが出来るんだ?」


「まだあたしの魔力量じゃ長時間はキツいんだけど…………っ!」


 そう言うとアリスは纏った氷属性の魔力をさらに体の外、半径10メートルくらいに広げる。


「へぇ…………」


 俺もアリスの薄い水色の半透明の魔力内に取り込まれ、ひんやりとした心地良い魔力を感じる。魔力内も小さな氷のつぶが舞っていて光を反射してキレイだ。


「この状態であれば。この空間内を好きに凍らせることができるわ。それこそ魔力を練る暇もなく一瞬で。完全にあたしの独壇場ね」


 アリスがどう?とでも言いたげな顔で俺を見る。


「凄いな。でもそれ…………」


「ええ、この広さならもって30秒が限界。狭くすればまだ伸びるけど難しいわね」


 そう困ったように言いつつアリスは魔力を解いた。


「…………ふぅ」


 アリスは思わず声をもらした。


 やはりあれだけ魔力を広げると負担があるのだろう。


 魔力は属性を与えると、属性を維持するために少しずつ消耗していく性質がある。これだけの大きさはさすがだが、これを実践的に使うにはコスパが悪すぎる。それに消耗すればするだけ、アリスの魔力範囲は小さくなり命中しにくくなる。


「うーん、アリスが近接戦闘をする時、一瞬だけ展開するとかなら使えそうだな。ただ一度でも見せたら警戒されそうだ」


「そうね。むしろ近接戦は得意じゃないから距離を取らせるために見せてもいいと思ってるわ」


「なるほどな。普通に身体強化もできるんだろう?」


「それはもちろん」


 それならアリスの弱点であった身体能力もカバーされるだろう。


 あとはコスパだな。


「なぁ、それ立体的に魔力を広げるんじゃなく、地面や壁を這うようにして広範囲に広げられないか?」


「それくらいなら余裕よ…………。ああ、なるほど」


 アリスが地面に沿って魔力を広げる。俺の魔力感知を見てみると、地面に沿ってアリスの魔力が広がっている。それも30×30メートルくらいの範囲をだ。


「いけるかしら…………それっ!」



 バキバキバキバキッ…………!



 アリスの魔力で覆われた何もない地面からいきなり氷柱が飛び出した。


「でっ、できた!」


 アリスは顔を綻ばせる。今度はつららが地面を覆いつくしたかと思えば、氷の壁が地面から一瞬で現れた。


「なかなか面白い使い方だな」


「ええ、これはいけるわ!燃費もさっきとは比べ物にならないし、攻撃も防御も自由自在ね」


 アリスのテンションがものすごく上がっている。


「ああ、あとはしっかり練習しとけよ?」


「まかせなさい」


 アリスは歯を見せながら笑った。




「アリスちゃんいいなー。カッコいい!」


 レアはアリスの次々現れる氷の柱を見ながら拍手をしている。


「で、あとはレアだな。レアはもう仕上がってるんじゃないか?攻守のバランスも良い」


 なかなかレアに求めるところが難しい。元々他の2人よりも頭1つ飛び出て強かったしな。


「うーん。でももう少しアリスちゃんみたいな派手さがほしい!」


「派手さ…………?」


 派手さってデザイン性かよ!


「あの敵をバラバラにするやつはダメなのか?」


「あー、あれも良いんだけどもっと広範囲に広げられて、どっかーんていけるようなのないかな?」


 レアは両手を大きく動かして説明する。


「要するにもっと威力のある攻撃ってことか。そうだなぁ…………」


 風関係でどっかんかぁ。どっかん…………爆発?


 そうだ。


「…………なぁレア、空気ってわかるか?」


「前に教えてもらったやつだね。風は空気が動くことによって起きるって」


 覚えてたか。ワーグナーに来る道中、レアに風の原理を知ってる範囲で教えたことがあった。


「そうそうそれだ。空気はな。圧縮出来る」


「空気を圧縮?」


 レアの頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。


「例えば宿にあるクッションをギューってしたら縮むだろ?手を離すとどうなる?」


「膨らむ?」


「そうだ。空気もそれと同じで圧縮し、離すと元に戻ろうと膨らむんだ」


「へぇ、そうなんだ」


 だから?とでも言いたげにキョトンしながら首を傾げている。


「でだ。大量の空気をむっちゃくちゃ圧縮して、一気に解放するとどうなるか。爆発するんだ」


「あっ、なるほど。それを使って技を考えてみるって訳だね!」


 勘が良いな。


「そうそう、しかも空気だから相手には見えない爆弾になる。上手いこと工夫できれば強力な武器になると思うぞ」


「おお~。ユウは天才かいなっ!」


「誰だよ。まぁ、俺も今思い付いただけだ。まず俺が出来るかやってみるよ」


 目の前に5メートル四方の空気の塊があるとイメージして………これを圧縮していこう。


 風魔法に当たるのかわからないが、魔力を込めて空気の固まりを押し縮めていく。うん、思ったより魔力の消費が少ない。これはコストパフォーマンスがいいな。


 そうして、手のひらサイズ、10センチほどの球体にまで押し固めた。


「レア、これが見えるか?」


 広げた手のひらの上に乗せてみるが何も見えない。ただ、魔力感知で見ると押し固めているのに少しばかり魔力を消費しているので見つけられる。


「うーん…………目には見えないね。でも何かがあるのは感じるよ」


「魔力感知なら見えるが、これには少ししか魔力を使っていないから魔術士にも警戒されにくいはずだ。よしそれじゃ、解放してみるか」


 ちょうど、隣で魔法を放ちまくって暴れているアリスが作った高さ5メートルくらいの氷柱がある。それに向け固めた空気を打ち出す。大人が本気で投げた野球ボールくらいの速度で飛ぶと、氷柱の真ん中に衝突。そこで抑えてた空気が弾けた。

 


 ボゴォンッ……!!!!



 透き通り、綺麗に向こう側が見えていた氷柱にピキィッ!と一瞬でヒビが走り、真っ白になる。そして、直撃した真ん中から氷がガシャガシャと崩れ落ちる。


 ガシャ、ガシャアアアアン…………!


 氷柱は木端微塵に砕ける。こっちまで強風が吹き荒れ、腕で顔を守る。


「おお~!すごい!」


 レアが驚きながら拍手をした。


「なかなかの威力だな。あとは空気の量や圧縮度合いによって変わってくるだろう。一回やってみろよ」


「うん!」


 レアは俺がどうやっていたのか、魔力感知でよく見ていたようだ。俺と同じように5メートルほどの範囲を決めて圧縮し出した。


 よし。俺だけでなく、レアでも問題なく出来そうだ。


「いくよー」


 固めた空気を風魔法で撃ちだし、同じようにアリスの氷へぶつける。



 ドガッシャアアアアアン!!!!



 くらった氷柱は同じように木っ端微塵になった。


「よしっ!」


 レアがガッツポーズをした。


「ちょっとレア!あたしの氷壊さないでよ!」


「はわわわわ、ごめんアリスちゃん!」


 レアが慌てて謝る。


「冗談よ」


 アリス、それ分かりにくいから。


「ま、まぁ後はこれをどう使うか。レアの工夫次第だな」


「うん!ありがとうねユウ!」


 これで皆のアドバイスはできたかな。ボチボチ防壁を改造してこよう。



◆◆



 ギルドを出て防壁へ向かうために町を歩いていると、知らない町の人から手を振られた。その後には知らない冒険者から声を掛けられた。知らぬ間に有名になってきたようだ。

 いや、それもそうか。町で有数の10パーティに混じって俺たちの名前があるんだもんな。


「おっ」


 途中、果物屋台を物色しているウルを見つけた。やたら挙動不審にキョロキョロしている。


 すると目があった。ウルは、はっ!とした表情を一瞬浮かべる。


「ウルっ…………!」


 声をかけ駆け出そうとすると、ウルは目をそらして舌打ちをした。そして道を折れ路地裏へと消えていった。


「やっぱ前のこと…………」


 探知を使うと、かなりの速度で遠ざかっていくのがわかる。


 しばらくは触れない方が良さそうだな。




 1人で町の様子を見ながらのんびり歩き、防壁に到着した。俺が作った防壁からさらにダンジョンに近いところで、魔術士たちが呪文を唱え、せっせと魔物足止め用の壁を作っている。見せかけだけでいいので厚みはないが、2~3メートルくらいの立派な壁が出来上がりつつあった。


 皆頑張ってんなぁ。さて、俺もやるか。


 防壁から飛び降り、真っ暗な堀の底へ着地する。思ったより深いし暗い。地上がかなり上に見える。地面は少し湿り気があるが、所々縦に割れやすそうな石が埋まっている。少し弱そうな地盤だ。


 よし、そしたらここに剣山を作っていこう。土が柔そうな分、結構魔力込めて丈夫にしておかないとな。どうせなら底の土を使って深さを下げるか。


「ほれ」


 土魔法でイメージする。地面がボコボコと波打ち、さらに地盤が低くなるとともに長剣のようなトゲが底一面にザンッと生えてきた。剣山の硬度は防壁よりも高くしてある。それを堀の底を歩きながら端から端へ全体へと広げていく。


「うし、こんなところかな」


 端まで着いたので一足でジャンプして地上へ上がる。堀の底は影になっていた分、急に夕陽が目に入り目を細める。目が慣れてくると、夕陽が綺麗だ。ダンジョン方向は荒野になっており、沈みかけの地を這うような夕陽に、石や岩の影が黒い木々のように長く伸びている。


 ダンジョン方向にはいつの間にか、魔術士たちが作った第2防壁が完成していた。後ろにある、重厚感と存在感を持ってそびえ立つ俺の防壁に対抗しようと張り切ったのか立派なものができている。でも、言っちゃなんだが大きさも密度も子供と大人くらい違う。


 まだ魔力は全然余裕があるな。というか使ったところから回復しているので剣山程度減った気がしない。


 あの第2防壁、けっこう遠いよな。防壁の上から魔法を撃ったとして、ギリギリじゃないか?それなら…………高さを稼ぐためにも見張り台のようなものがあってもいいかもしれない。


 防壁の裏へと回る。ここにも十分なスペースはあるが、裏手の地面はボコボコにするわけにはいかない。


 うーん、仕方ない。土も魔法で生み出すか。


 そうして壁の裏に出来たのは防壁と同じ強度、黒いツルツルしたまるで黒鉄のような塔だ。高さは20メートル。てっぺんには30人は余裕をもって立てるスペースがあり、敵の攻撃から身を守るための盾もある。防壁の裏手に接するように建て、防壁の上からでも、地面からでもどちらからでも登れるようにしてある。


「あぁ、やっぱ土も魔力から作るとだいぶ魔力持ってかれるな。あと2つほど作って終わりにしよう」


 そうしてだいたい100メートル感覚で左、真ん中、右と3棟の塔を建てた。これなら戦況も分かりやすいし、攻撃もやりやすい。なにしろ、戦争では上をとったものが有利って言うしな。


 そして、訓練場に戻ってみると、レアたちは終始暴れっぱなしだったようで、訓練場がまた穴ぼこだらけになっていた。


「…………んまぁたかよ。お前ら!」


 ギルドに注意受けるの俺なんだけど?


「ごめんね~。でも楽しくてつい…………」


「あたしのは溶けたら何も残らないわ」


 アリスが屁理屈をこねている。


「そういう問題じゃねぇんだよ。しっかり連帯責任だぞ?」


「まぁまぁ、成果は出すから大丈夫だよ。ねぇ?」


 フリーが自信満々に言った。


「ええ。ばっちりだわ!」


「うん、期待しててねー!」


 3人ともなにかを掴んだんだろう。


「絶対だからな!」


 とそこに…………


「ユウ、調子はどうだ?」


 ガランがたまたま俺を見掛けたのか声をかけてきた。


「見ての通りだ」


 俺はどうぞとばかりに手を広げ後ろの凍り付き、ズタズタのボコボコになった訓練場を見せる。と気付けば3人はどっかへ逃げていた。


「絶好調みたいだな」


 ガランが苦笑いする。


「まぁな」


「その辺にしとけよ。ジャンにどやされるぞ?」


「ははは。ガランのとこはどうだ?」


「うちはまぁボチボチだな」


 ガランはボチボチと言うが、防壁のど真ん中、魔物の衝突を真正面から受け止める位置にいるガランのとこは他のクランよりもやはり実力者が多い。そして率いるガランもただ者ではない。


「だがまぁ町じゃ、どいつもこいつも気を張り過ぎててなぁ」


 ガランが困ったように眉を下げて言う。


「それはあるな。このままいくと明日余計なミスが起きそうで不安だ。パーッと前夜祭でも始めるか?」


 冗談で言ったつもりだったが、その時ガランの眼がキランと光った。


「おう!それはいいな!このままじゃこいつら、今晩は緊張で良く眠れなさそうだ。景気づけにパァーっとやるか!」


「え…………本気で?」


 ま、まぁ確かに明日のことを心配して、不安がって眠るよりかは全然良いだろう。


「今から?」


「そらそうだろう?明日じゃあ流石に酔いが残りそうだからな。ユウ!皆を呼んでくるぞ!」


 まじか…………



◆◆



 夕焼けに照らされる中、冒険者たちがギルドに集まり、どこからともなくドンドコと太鼓の音が聞こえ出す。

 ガヤガヤと賑わいがすさまじい。みんな最近の緊張感に参っていたんだろう。ギルドに入りきらず、ギルドの扉は開けっ放しで外の道にも人が集まっている。道のど真ん中にテーブルや椅子が置かれ、もはや馬車の行き来は出来ない歩行者天国状態だ。


「大丈夫かこれ?ジャンに怒られね?」


 最近怒られたばかりだから気になる。


「大丈夫じゃない?だってほら」


 フリーの視線の先には、酒の入ったジョッキを皆に配るジャンの姿があった。


「ほんとだ」


 てか、ギルド職員たちも仕事を放棄して今はこの飲み会に出ていた。そしてどこかで聞き付けたのか食べ物屋台までもが、こちらに集まってきていた。戦えない町の人たちはここぞとばかりに盛り上げようと裏方に徹してくれている。本当に祭りのようだ。


 俺らはギルドの前の道で、色んな楽器が鳴り響く中、向かいの居酒屋が出してきたテーブルに座っていた。


「皆楽しそうだね」


「まさかこんなことになるなんて。明日なのよ?どうかしてるわ。まったく」


 アリスが頬杖をつきながら、集まってばか騒ぎを始める冒険者たちを見ている。


「まぁまぁ、息抜きも必要だろ」


 そうしていると、


「よし、まだまだ集まるだろうがそろそろ始めるか!」


 ガランはギルドの屋根に立つと、野太い良く通る大声で話し始めた。


「野郎共よく集まってくれた!今日は来るべき戦いに備えての祭りだ!存分飲んで騒いで英気を養ってくれ!酒は持ったか!?」



「「「「「「うぇーい!!!!」」」」」」



「っしゃあ!いいぞぉガラン!!早く始めろぉー!」


 モーガンがすでに飲み始めていた。顔が真っ赤だ。


「こういうのは仕来たりが大事なんじゃ馬鹿者!」


 タロンが勝手に飲んでいたモーガンにキレている。


「っせぇな!じじい!」


 各々が酒の入ったジョッキを片手に返事をする。


「さぁ飲むぞーーーー!! 乾杯っ!!!!」




「「「「「「「「「「かんぱーい!!!!!!!!」」」」」」」」」」




 何百、何千人集まってるのかわからないが、町中から乾杯の発声が聞こえる。音が大きすぎて地鳴りのように聞こえ、店のガラスがガタガタ振動する。耳がやられる。


 それらはギルド周辺から広まり、次第にいろんなところから飲み騒ぐ声が聞こえるようになり、町全体へと波及していく。そして町全体を上げてのお祭り大騒ぎとなった。

 徐々に町に魔石灯が灯り始めるなか、酒を持った人々が騒ぎ狂う。どこからか太鼓を持った人が現れ、リズムが始まり、低音、笛が加わりどんどん音楽が出来上がっていく。冒険者たちも騒ぎまくる。踊り子たちもところどころで踊りまくっている。


 これ、逆に明日大丈夫か?


「おいおい、羽目はずし過ぎじゃないか?」


「冒険者だからこれくらいがいいんじゃない?」


 アリスがソーセージを口に運びながら言う。


「アリスは飲まないのか?」


「あたしはそんなキャラじゃないもの」


 モグモグと口を動かしながら答えた。キャラて。


「そうだったな。あれ?フリーは?」


 いつの間にかフリーが座っていた椅子には知らない冒険者が座っていた。


「フリーさんならあそこで女の子と踊ってるよ?」


 見ると、町娘の格好をした若いショートカットの女の子と流れる太鼓のリズムに合わせて手を取って踊っていた。


「まったくあいつは…………!」


「なはは。楽しそうだね」


「まぁ前夜祭だからいいか…………」


 その時声を掛けられた。


「よう、若いの!飲んでるか!?」


 ガランだった。両手に2個ずつジョッキを持っている。


「おお。少しはな」


「なんだユウ!酒が空じゃねぇか!そんなんじゃ氾濫は乗りきれんぞ?」


 ガランが片手に持っていたジョッキをぐいぐいと押し付けられる。


 今時押し付けは良くないぞー? 


 そう思いながらも酒は嫌いじゃないので酒を受け取る。


「んっ、んっ、んっ…………ぷはぁ!」


 ジョッキを一気に飲み干す。喉ごしが素晴らしい。いい酒出してんな。


「おお!さすがはユウだ。明日は期待してるぞ!」


 そう言って背中をバシバシ叩かれた。


「おう。お前は飲みすぎんなよ?」


「がはははは!」


 ガランは背中を向け、また酒を調達しにどこかへノシノシと去っていった。


 それからしばらく、しっぽりと落ち着いて3人で皆が騒いで踊って歌うのを見て飲んでいた。まぁこういう町が一丸となって楽しむのも悪くないな。


「おっ」


 皆の席を渡り歩いているジャンを見つけた。


 ジャンもこういう席に出るんだな。


「どうしたのユウ?」


「ジャン発見。ちょっと行ってくる!」


 椅子から立ち上がり、ジョッキ片手に歩いていく。途中で屋台で酒をもらおうとする。


「飲みやすい酒を1本ビンでくれ」


「あいよぉ!…………っておいユウ!」


「あ?…………て、またおっさんか!?」


 武器屋のおっさんだった。今はいつもの武器の屋台に酒やつまみを乗せ売りさばいていた。


「今は出張居酒屋だ」


 ビジネスチャンスは逃さねぇ人だなぁ。と思っていると、ガッと胸ぐらを掴まれ引き寄せられた。


「そういや、おいユウ。てめぇ昼間黙って金置いていきやがったな!?」


 あ、武器を売ってくれたとき割引し過ぎだと思ったからこっそり100万置いていったんだった。あれじゃ、どう見てもおっさん赤字だったからな。


 突き返そうとしてくるが、手を突っぱねて断る。


「いらねぇって! じゃあ、いい酒をただでくれ。それでおあいこだ」


「ちっ!しょうがねぇな」


 そう言うと、木の箱から高そうな紫色の布に包まれたビンが出てきた。


「これは、50年物の蜂蜜酒だ。俺と同い年だぞ?飲みやすさも抜群だ」


 おっさんの情報はいらん。


「おう。さんきゅ」


 ビンを片手に歩き出すと、後ろから声がかかった。


「ユウ、明日頑張れよ!」


 振り返らずはいよと右手を立てて答えた。


 ジャンはヒラリーのいるテーブルにいた。どうやらリーダーたちのところを回っているようだ。


「おっすジャン」


「ああ、ユウかい?ちょうど良かった。挨拶しにいこうと思探してたんだよ」


「お前まじめか」


「そういうユウは?」


「俺はー、そこの綺麗なお姉さんに挨拶しとこうかなと」


 そう言うとヒラリーが俺に気付いた。会議で見た時は騎士の鎧のような防具を身に付けていたが、今は淡い紫色のワンピースを来ている。胸元が空いていてセクシーだ。


「あら、言うね」


 ヒラリーのパーティは全員女性のようだ。というか、ヒラリーのクラン自体女性が多い。


「会議の時は助かったよ」


 ヒラリーは俺がタロンのじいさんと揉めた時、味方をしてくれた。言おうと思ってたが昼間は言い忘れていた。


 話の中心だったヒラリーがこっちに向いたため、他の女性陣もこちらに注目してきた。皆若く、綺麗所が多いため緊張してきた。


「ああ、あれはタロンのジジイが気に入らなかっただけよ。それにあんたの実力はモーガンとの決闘で見させてもらったからね」


「へ?ユウ、モーガンと決闘したのかい!?」


「あー、成り行きでな」


「ジャンもスゴい奴見付けてきたんだね。モーガンの大剣を素手で、しかも片手で止めるなんて初めてみたよ。まさに度肝を抜かれたね」


 それを聞いた周りの女性陣はぎょっとして俺を見た。


「ちょっ!どういうこと!?あのモーガンの剣をすでで止めたの!?」


 それを聞いてジャンがやれやれとジェスチャーをした。


「ユウ、知ってるかい?モーガンはこの町じゃ、タロンと並んでパワー系トップなんだよ?」


「だから力強かったのか」


「呆れた…………」


「ああ、そうだ。これ良かったら飲んでくれ。ほれジャン」


 ヒラリーに呆れられたタイミングで、さっきおっさんにもらった50年物の蜂蜜酒を取り出し、テーブルに置いた。


「こっ、これは王都レムリア酒造のスウィートミード!」


 そう言いながらビンに飛び付いたジャンの手が震え出す。


「ははは、相変わらずジャンは蜂蜜酒が好きだねぇ。そんな甘い酒のどこがいいんだか、お子さまさん」


「それ、しかも50年物らしいぞ。気付けに空けよう」


「ご、ごじゅ…………良いのかい!?ユウ」


 これ、ジャンの好物だったのか。ちょうど良かった。


「もちろん。そのために持ってきたからな」


 とでも言っておこう。


「ヒラリーさんも、皆さんもどうぞ」


「「「良いの!?」」」


 ヨダレを垂らして見ていたので誘ってみると、予想以上の反応だった。皆のジョッキに蜂蜜酒を注いで乾杯する。


「じゃあ、明日は勝つぞ!」


「「「「「おー!!!!」」」」」

 


 カァン!!



 ジョッキをぶつけ合うと、良い音が鳴った。


 アリスたちの席に戻ってくると、アリスとレアは2人仲良くしゃべっていた。男性冒険者たちが2人に話し掛けに来ていたようだが、ことごとく無視されているようだ。俺が戻ると慌てて男たちは消えていった。フリーは今度は別の女の子と踊ってて戻ってきていない。


「あら、ジャンとは会えたの?」


「ああ、バッチリだ。楽しそうにやってるよ」


「ジャンさんは皆から人気だね」


「そりゃそうよ。この町の顔でしょ?それに多分すごい人よ。ギルド長だとしても、ギルマスに紹介状を書けるなんて普通ないのよ?」


「ああ見えて、実は凄いんだ…………」


「あんなに腰が低いから時々忘れそうになるよな」


 トントン。


 肩を叩かれた。


「ん?」


「ユウ。ダンジョンでは世話になったな。明日は宜しく頼むぞ」


 振り向くと、ヘクターが声をかけてきた。こいつもしっかりしてる奴だ。信用できる。


「ああ、任せとけ。あとその辺のやつらに飲みすぎるなって言っといてくれるか?」


「ははは、ああ」


 ヘクターは苦笑いしながら、他の者のところへ歩いていった。


「兄貴!お疲れ様です!!」


 その声にテーブルを向くと、フリーのいた席にブルートが座っていた。


「おお、ブルートか」


 こいつももはや、俺の非公式の舎弟として何故か俺よりも有名だ。


「レアの姉貴もアリスの姉貴もお疲れ様です!あ、これ酒です。有名な王都の葡萄酒っす」


「お、おう」


 ブルートがビンを1本テーブルに置くと、コルクを開け始めた。葡萄のフルーティな香りが鼻をくすぐる。


「あ、確かに良い匂い」


 アリスが反応した。


「でしょ?そうなんす!良かったらどうぞ」


 アリスのグラスにブルートが葡萄酒をトクトクと注ぐと、俺とレアにも入れてくれた。


「で、どうだ?調子は」


「絶好調っすよ!ほんと兄貴たちと一緒に戦えるってだけで俺は幸せっす!!」


 こいつらほんと大丈夫か?クスリやってる?


「それは良かった」


「そうだ。兄貴!チーム兄貴に激励をお願いします!」


 ブルートがテーブルに身を乗り出すと、熱のこもった目で見てきた。モヒカンが俺のデコに当たる。


「はぁ?そんなのいや…………」


「おいみんな!アニキからの有難い言葉だぞ!黙って聞け!!」


 こいつはほんと人の話を聞け。


 俺の周りにはもともと俺のクランのものが集まっていたのだろう。音楽が止み、皆しゃべるのを止めて俺に注目してきた。 


 おいおい、なんも考えてないってよ。まじか…………。


 ジョッキに入った酒をグッと飲み干す。熱い液体が喉を通るのがわかる…………一気に酔いが回ってきたようだ。


「えー、皆楽しく飲んでるところ悪い。少しだけ話させてくれ」


 そう言ってテーブルの上に立つ。


 そして、息を深く吸い込んでから話し始めた。


「明日は遂に氾濫だ。それも出てくる規模もレベルも過去最強の魔物たちだそうだ。だが、それは俺達も同じだ。俺らも今までで一番強い!冒険者ってのは強くなり続けているもんだ!魔物が強い!? なら俺達が魔物を殺し、それを越えていけばいいだけだろう!?」


「「「そうだ!!!!」」」


「俺達は誰だ。冒険者だ!! ちまちました安全な冒険はもう飽きた。違うか!?」


「「「そうだ!!!!」」」


「俺達は明日、今までで最高の冒険に出る。全ての魔物を殺し、ここで一旗上げようじゃねぇか! 明日の今頃はこの町の人間全員が英雄だ!明日は絶っっ対に勝つ!! それ以外は俺が許さん!!」


 場は静まり返るが、静かに内に秘めた興奮が伝わってくる。




「お前ら…………!!!! 勝つぞ!!!!」




 テーブルの上で力強く立ち、右手を強く握って天高く突き上げた。




「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」



読んでいただき有難うございました。


私は地方出身なのでたまに地元の方言なのか、標準語なのかわかっていないことがあります。もし読んでいて変だなと気付くことがあればおっしゃってください。おそらく方言か誤字脱字のどちらかです。

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