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重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第3章 ダンジョンの町ワーグナー
53/159

第53話 残り2日

こんにちは。

ブックマークや評価していただいた方、有難うございました。

第53話になります。宜しくお願いします。


 翌日朝9時、ギルドに行くと受付で2階会議室に案内された。


「失礼しますっと」


 両開きの扉を開くとそこにはジャンが呼び集めた町で有力なパーティのリーダー10名が円卓に座っていた。どうやら俺が最後だったらしい。


 大人の男性が6人に、14~15歳の少年が1人、女性が1人、狼の獣人が1人、リザードマンが1人だ。よく見るとその中にいつぞや一緒に飲んだガランもいた。


 そういや、あの時会議があるとか言ってたな。


「ユウはここの席で頼むよ」


 ジャンは奥の正面の席にこちらを向いて座っていた。


「はいよ」


 案内されたジャンの隣の席へ歩いていく間、無言の空間に値踏みするような冒険者たちの視線が追いかけてくる。イライラとやたら貧乏揺すりをしている男もいる。


 ふう…………。


 椅子を引いて席に着くと、ジャンが話し始めた。


「よし、皆揃ったね。今回はギルドの呼び出しに応じてくれてありがとう。今日は……」



「ちょっ……と待たんかい!」



 いかにも機嫌が悪そうなその男はバタンと力任せに円卓を両手で叩いて注目を集めた。


「どうしたんだい?タロンさん」


 ジャンの言葉を遮った男はタロンというらしい。肩幅より遥かに大きい斧を背負い、長い髭を蓄えている。見た感じは60歳くらいで背が低く、筋骨隆々だ。もしかしたらドワーフかもしれない。そしてこの男、強い。25BP(一般的なBランク冒険者25人並み)と、この中じゃジャンを除いてガランの次くらいに腕が立つ。


「ジャン。ここにいるのは冒険者たちを統括するため呼ばれた名のあるパーティのリーダーたちでええな?」


 ジャンに視線を向けながらタロンは話す。


「そうだね」


「そういうことなら最後に入ってきたそのガキは誰じゃ。なぜこの場におる!」


 タロンはぶしつけにも俺をはっきりと指差した。


「あぁ、紹介がまだだったね。彼は……」


「そいつ、知ってるよ」


 意外にも割り込んで来たのは、槍を円卓に立て掛けている女性の冒険者だ。20代後半くらいだろうか。金髪の長い髪を後ろで束ねた凛とした佇まいに、騎士のような鎧を着ている。この中で唯一の女性だ。


「この町に来たばかりの若造だよ。人柄は知らないが、実力は確かさ。ここに来る資格はある」


 足を組んだまま、俺を見て微笑んだ。


 どっかで見たことあると思えば、この人モーガンと決闘した時、見物客の中にいたな。


「ヒラリー、こんな奴を信用するのか?」


「頭が固すぎるんだよあんたは。信用も何も、今のあたしたちには助っ人が必要だろ?」


 ヒラリーがタロンを見て話す。


「必要ない!」


「違うよタロンさん。できたら僕たちだけで何とかしてる」


 ジャンも証言してくれる。


「ぐう…………」


「ジャンの言葉が信用できないのか?」


 俺がそう言うと、タロンが憎らしげに俺を睨んでくる。


「ジャンは信用しとる。できんのは貴様じゃ」 


「ああ?どう違うんだ?」


「まぁ、待てユウ」


 声をあげたのは、それまで黙っていたガランだ。薙刀を装備しており、戦国武将みたいな鎧を着ている。


「ジャン、発言いいか?」


「どうぞ」


「知っているものもいると思うが、俺はガランという。パーティ雷槍の守り人のリーダーだ」


 ガランが自己紹介しながら話し始めると、タロンも口をつぐみ耳を傾けた。気づけば、あの時ぶちのめしたモーガンもガランの隣に座っている。モーガンは俺とタロンのやり取りを見ていつぞやと自分の姿と被ったのか、頬杖をつきながらぶすっとしていた。


「断言させてもらう。ユウは信頼に足る人物だ。実力も申し分ない。それはこの俺と、こいつモーガンが保証しよう」


「おいガラン!」


 突然名前を上げられたモーガンが食って掛かるが


「お前が実力を認めんでどうする!」


 ガランに一喝され、黙った。


「ふっ。そうさね。あの時の決闘を見りゃ、私も実力は十分だと思うけどね」


 女性冒険者が言った。


「3人の証言があるんだ。そろそろ納得してくれるかな?タロンさん」


 ジャンがニコッとそう言うが、


「ぐぬぬ…………!」


 タロンは青筋を額に浮かべ、俺を睨み付けた。ジャンも大変だなこういう人がいると。


「認めないのであれば、認めさせるまでだ」


 椅子から立ち上がる。


「小僧、死にたいようじゃの。長生きしたけりゃ大人しく家へ帰れ」


 顔のしわをさらに深くしながらタロンが立ち上がった。そして背に担いだ巨斧に手をやる。


「タロじい、止めた方がいいよ」


 俺らを制止する声が聞こえた。14~15才くらいの小柄な子供だ。身の丈ほどの杖を抱えて座っている。魔術士か?


「僕はその人の魔力量が分かるんだ」


 お、魔力感知持ちか。


 少年は椅子に座り、俺に目だけ向けて言った。


「あなたの実力、はっきりは分からないけど本当はそんなもんじゃないでしょ?その辺の魔術士10人や20人じゃ、とても足りないくらいの魔力量。タロじいでも絶対に勝てない。殺られちゃうよ?」


 すると、タロンの態度が変わった。ミゲルというのか。


「ぐ、ぐぐぐ……………………ふん」


 ガランと同じくこの少年の言葉も影響力がでかいのだろう。そこまでしてようやくタロンは椅子に座り腰を落ち着けた。ガランやミゲルはこの中でも実力が高く、影響力がでかいのだろう。


 俺も自分の椅子に座り直す。そこでジャンが再び話し始めた。


「まぁ各々あると思うけど、協力し合ってほしい。で、今名前が上がったユウだけど、ミゲルが言ったように実力は折り紙つきだよ。コルトのギルド長によると、なんとあの火竜を殺し町を救った功績もある。しかも大型の成竜をね?」



「「「火竜だと!!!?」」」



 その情報で場がざわついた。


 ゾスめ。なに勝手に人の情報流してんだ。


「わかったかい?」


 そう言いジャンはゆっくりと皆の顔を見渡す。


「彼の実力は申し分ない。むしろ十分すぎると言っていい。ユウにはもちろん防衛に参加してもらう。それに加えて、氾濫までに町の防壁の強化を手伝ってもらう予定だよ。防壁には他の魔術士たちにも声をかけている。今回はユウを皆に紹介するために呼んだのもあるんだ。ユウ」


 ジャンが目配せしてきた。


「え~、今紹介してもらったユウだ。王都へ向かう途中でこの町に寄ったんだが…………まぁいろいろあって手を貸すことにした。こんな若造で悪いがよろしく頼む。それと納得できないやつが居ればいつでも相手する」


 タロンを見ると、嫌な顔をしながらしっしっ、と手を振って払われた。


「…………以上だ」


 そこで、ようやくジャンが氾濫について説明できる状態になった。


「さて、本題に入らせてもらうよ。話は聞いてるだろうけど、連絡事項としてダンジョンのボスがSランクの魔物になった。そして知っての通り氾濫が近い。だから僕たちは強力になった魔物の氾濫にすぐさま備えないといけない」


 全員が神妙な顔で頷く。


「そして今回はオーランドがいない。これは大きいよ?彼がいればまだいくらかは楽だったと思うんだけど」


「あいつはどこへ行ったんだ?」


 ガランがジャンに問う。


「聞いた話、どこかの誰かの誘いにのったそうだね。要は引き抜かれたんだよ」


「はっ!元々いけすかん野郎じゃ。清々するわい!」


 へぇ、ジャンはそのこと知ってたんだな。もしかしてジャンも声をかけられたのだろうか?


 そしてジャンは続ける。


「だからね? 前回のように各自が思い思いに戦っていては町は守れない。町を訪れてくれた冒険者たちにも声をかけているけど、隣町からの増援も期待できそうにない。考えている以上に厳しい状況だよ」


 うむむ……とリーダーたちは唸る。


「はい。そ、こ、で! 今回集まってもらった君達にはこの町ワーグナーの冒険者たちで参加できる実力のある約1000人をまとめてもらいたい。自分たちと交流の深いものを集めて情報を共有し指揮系統を作ってほしいんだ。今日は氾濫時の布陣を考えていこう」


「指揮系統?」


 ガランが聞いた。


「クランの真似事をしろということか?」


「真似事じゃなくクランだよ。作戦もなく動いてたんじゃ、今回は間違いなく負ける。だから100人単位のクランを君ら各リーダーたちで10個つくってほしい。そして各クランで分担し町の守護にあたる」


 腕を組んで考え出す。


「当日僕が総監督をとってこの場の皆に指示を与える。そして、クラン内はここにいる皆にまとめてほしい」


 頷いている者もおり、反応は上々だ。


「なるほどな。おいジャン、そいつはどうする?」


 モーガンは俺を指差した。


「あん?」


「ああ、ユウはどこにも属さないよ。彼のパーティには遊撃隊として動いてもらおうと思う。強いて言うなら11番目の僕の所属かな。ユウに関しては実力的には申し分ないんだけど、来たばかりでクランを作るには交流の深い冒険者が少ないだろうからね」


「ちっ!」


 モーガンが舌打ちをした。それはどういう意味だ。


「いいかな。そして、今回の防衛にあたって大きな問題点が2つ。1つ目は全体的に魔物が強力になっていること。これはクランでなんとか対応するしかない。2つ目は…………これが最大の問題なんだけど、ヒュドラだよ」



「「「「「ヒュドラ!?」」」」」



 皆がガタンと円卓を揺らした。


「うん。竜だよ」


 ジャンは落ち着いて答える。


「竜だよ。じゃないよ!そんな怪物、どうしろっていうんだ!」


 さっきまでの落ち着きを失い、魔術士のミゲルがうろたえる。


「ミゲルの言う通りだ。さすがにヒュドラの相手はジャン、お前であっても無理だ。そこはどう考えとる?」


 ガランがジャンに質問する。


「わかってる。だからここは、ユウにお願いしようと思ってる」


 ジャンが俺を見た。そうだろうと薄々感じてた。ジャンは総監督で最後の砦だから最前線に出るわけにもいかない。


「ああ。了解」


 ざわめく。皆、さまざまな反応を見せた。納得の表情の者から、不安げに俺を見る者。そして

 

「そいつ、本当にいけるのか?無理だった時に責任とれるんだろうな?ああ?」


 タロンが不服そうに言った。


 まだ言うか?無責任な…………自分ができもしないことを偉そうに言うな。


「なら代わりにあんたがやるか?」

 

「ぐっ…………」


「タロンさん、黙っていてください」


 さすがに自分勝手が過ぎる。ジャンが珍しく注意した。


「ええじゃないか。ユウがしくじったときはタロンに任せたらどうだ?」


 ガランが、がははと笑いながら嫌らしく言う。


「ガランさんもそのへんに」


 ギルド職員がなだめた。


「はいはい」


「で、魔物の相手なんだけど、防壁を町の外に築くから基本皆は防壁の上から魔物を攻撃してくれればいい」


「防壁?」


「そんなもの、今から作って間に合うの?」


 リゲルが問う。自分が魔術士であるからよくわかっているようだ。


「俺がやるから問題ない」


「な、なるほど……。土属性魔法が得意なんだね」


 違うけどな。


「よし!ならユウにはそろそろ防壁の方に行ってもらおうかな。そろそろ他の魔術士たちが集まってる頃だよ」


「ああ」


「じゃあ、職員に案内させよう。おーい、ステラ」


 ギルド長のジャンに呼ばれ、ステラと呼ばれた女の子の職員が横に現れた。


「あ」


 ギルドの黒いカッチリとした制服に身を包んでいるが、背が低くかなり若い。ミニスカートを履き、頭のてっぺんから2本飛び出たあほ毛がかわいい。


「お、お久しぶりです。こちらです」


「ああ、あの時の」


 昨日の試合の審判をしてくれた女の子だ。ステラと言うらしい。



◆◆



 ステラと会議室を出ると、


「待ってくれ」


 ガランに後ろから呼び止められた。


「どうした?」


「いや、きちんと挨拶してなかったと思ってな」


 そう言ってニッと笑った。相変わらず人懐っこい笑顔だ。


「こないだ飲んだ時以来か。まさかお前が火竜を倒していたとは恐れ入った」


「おう」


「あと、あのじいさんに関しちゃ、すまんな。タロンはこの町で一番の古株だ。何度も氾濫を経験してる分、今回みたいな場合、あの人は特に余所者を嫌う」


「いい、いい。気にしてねぇよ。気持ちがわからんこともないし、年寄りの経験は馬鹿にできんからな」


「ああ。そう言って貰えると助かる。すまん、時間とらせたな。防壁を宜しく頼む。うんと丈夫なやつを作ってくれ」


「おう!任せとけ」




 それからステラに先に外で待ってもらい、ギルドの1階のレストランで待たせていたアリスたちに声をかける。そして会議の内容とこれから防壁の強化に向かうことを伝えた。


「わかったわ。それじゃ、私達は…………どうしようかしら?」


 アリスが口元に曲げた人差し指を当てて考える。


「そうだな…………一緒に来てもいいがやることもないしな。買い出しして装備を整えといてくれ。あとは自主練だな」


「了解!」


「ユウに勝てるくらい仕上げとくよ」


「おう。実際個人でAランクの魔物を相手にすることもあるかもしれん、準備は念入りにしておいてくれ。だが、魔力操作が出来るようになっていれば大丈夫だ。じゃあな」


 3人とはそれだけ話をしてギルドを出た。外ではステラが待っていたが、フラフラと道行く人を眺めており少し子どもっぽい。


「待たせたな」


 声をかけるとびっくりして振り向いた。


「はっ…………いえいえ。では」


 ステラに案内され、町中を歩いて外の防壁へ向かう。彼女の話によると、もともと町は高いところで高さ5メートル、厚さ2メートルほどの壁が町を取り囲んでいる。昔、魔術士たちが1~2年かけて作成したそうだ。今回はその防壁の前にもうひとつ、防壁を作ることを計画している。

 というか、目の前を歩く職員のピョコピョコ動くあほ毛が気になる。


「なぁ、髪はねてるぞ?」


 2本のあほ毛を指差す。


「こ、ここはどうしても跳ねちゃうんですー!」


 ステラが慌てて髪の毛を押さえながら怒った。


「はっ!すみません」


 申し訳なさそうに謝った。おや、こいつおもろいぞ?


「切ったら?」


「なっ、なんてこと言うんですか!」


「なんで?」


「乙女の髪を切れだなんて。セクハラですよ!」


 それってセクハラなのか? どちらかと言えばパワハラ?


「待ってろ」


 直してやろうと、重力魔法をステラのあほ毛限定で当てる。


「なっ!」


 俺の重力魔法が効かない!?


 相変わらずピョコピョコ跳ねたままだ。


「何をやってるんですか?ちょっ、見すぎじゃありません?」


 ステラがなぜか恥ずかしそうに顔を赤らめる。


「ちょっと待て。じっとしろ」


 ステラのあほ毛に焦点を当て、集中して重力魔法を重ねる。


「はぁ、はぁ。おいおいなんてあほ毛だ。どんな生命力してやがる」


「な、なんだか頭が重くなってきました…………」


 ステラを適当にからかいながら10分ほど歩き、町の外に出て防壁作成予定地に到着した。20人ほどの魔術士が待っていた。防壁を作るということはここにいる全員が土属性の魔法が使えるということなのだろう。


「お待たせいたしました。こちらユウさんです。これで全員揃いましたね」


 待たされた魔術士たちは若干機嫌が悪い。そしてステラが待っていた魔術士たちに説明を始める。

 

「ええと、まず新たに作成していただく防壁は厚さ3メートル、高さ5メートルものになります」


 それを言った瞬間魔術士たちがざわつく。


「おい、無茶を言うな。そんな質量のもの、ここにいる全員が当日まで休まずに費やしても無理に決まっているだろ!」


「へっ!? いや、でも…………」


 集中攻撃され、ステラはテンパる。


「これだから魔法を知らん素人は…………」


「魔法はなんでもできる便利な道具じゃないんですよ!?」


 実際そうだ。聞いたところによると、土属性魔法は土や岩石を動かして壁や槍、石つぶてとして攻撃するが、C~Bランク魔術士で一度に扱える質量は2メートル × 2メートルくらいのものだ。無理を言っているように感じるのは当たり前だ。


「いえ、あの、それは…………こ、この方が」


 ステラがビシッと俺を指差した。


 このあほ毛全部俺にふるのか?というかジャンのやつ、はなから俺がいる前提で無茶な防壁考えてやがったな…………。


「そいつは誰だ? 見たことない顔だな」


 1人の魔術士が聞いてきた。


「俺は…………」


「ギルドの秘密兵器です」


 ステラが俺と目を合わせずにサッと答えた。


「違います。物で釣られただけの普通の冒険者です」


 誰もが疑わしそうな目で見てくる。なんでいちいち説明せねばならんのか。


「まぁいい。おい、その壁はどう言った形で配置するんだ?まさか、この町周辺を一周しろとかいう訳じゃないだろ?」


 ステラに聞く。


「は、はい。モンスターたちはもちろんダンジョンがある方に現れますので、ダンジョン側のみで大丈夫です」


「なるほど、どれくらいだ?」


「この町を5分の1周する程度で問題ありません。あそこから…………あの辺くらいでしょうか」


 ステラは防壁の範囲を腕を伸ばして指差しながら説明する。


「魔物たちは最短距離で一直線にこの町を目指してきますから、それだけあれば十分です」


「で、出来るわけがないだろ!」


「そいつ、馬鹿なんじゃねぇの?」


 さらに魔術士たちから口撃され、能天気なステラもスカートの裾を引っ張りながらうつ向いてしまった。

 

 さすがにちょっと可哀想だ。


「うるせぇな。別にこいつは無理難題を言ってるわけじゃない。できないのはお前らの実力不足だ」


 心外だとばかりに、ずいっと前に男が出てくる。


「なんだと馬鹿か?普通できるわけないだろ」


「そりゃ普通のお前が悪い」


「なっ…………」


 口をパクパクさせる男。


 そこにしっかりした気の強そうな魔術士の1人が止めに来る。


「お前ら落ち着け。どのみちこれだけの人数がいたところでさっきの設計じゃ、氾濫には間に合わない。諦めて壁を設計し直すぞ」


「いい。このままやる」


「おい!?」


 俺は無視して魔力を練り、壁をイメージする。ただの壁じゃダメだ。密度を上げ、丈夫で堅いものを創るんだ。イメージは万里の長城。町側からは階段で壁の上に上がれるようにしよう。土を魔法で一から作るとコストがかかる。すべてダンジョン側の地面から使おう。土を使った部分は堀として利用できそうだな。

 よし、イメージは固まった。賢者さん補助よろしく。


【賢者】了解しました。


「よしいくぞ?」


 俺の体から魔力が溢れだす。一度に大量に魔力を使うからか、汗がぶわっと出てきた。


「お、おい?嘘だろ?」


 周りの魔術士たちがどよめく。


「な、なんつう魔力だ…………化け物じゃないか!こいつ…………こいつまさか!」



「Sランクか!?」



 ギョッと魔術士たちの視線が集まるが、全然違う。わーわー言いながら後ずさりし皆尻餅をついている。


 まぁいい、準備は出来たな。よし。


「ほれ!」



 ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!!



 大地が振動する。


「何ですかこの揺れ!」


 ステラがキョロキョロとしていると、


「あ、あっちだ!」


 気付いた魔術士が前の地面を指差す。



 ボコッ! ズズズズズ…………!



 目の前の地面が巨大な手で摘ままれた粘土のように持ち上がり始めた。


 ただし、摘ままれた部分1箇所だけでこの町の大聖堂くらいの大きさがある。




「「「いやいやいやいやいやいやいやいやいや……!!」」」





 その規模の大きさに冒険者たちは立てた手のひらをそろってぶんぶんと振る。


「じょっ、冗談だろ!?」


「こっちも!?」


 隆起は目の前に広がる地面の至るところで起こり始めた。そして徐々に引っ張られた地面は所々裂けながらも持ち上がり始める。持ち上げられた十数ヵ所の地面は途中で合流し、壁になっていく。さらにどんどん壁は高さを増し、太陽の光が遮られ今いる場所に影が射す。


「あ…………あ、あ…………」


 泡を吹いて魔術士の誰かが倒れた。


「ど、どこまででかくなるんだ?」


「おい、しかもあいつ詠唱してたか!?」 


 壁の高さは40メートルを越え、止まった。


「たっ、高過ぎません?」


「違う。ここからだ」


 これじゃあ壁の強度が足りない。ここからギュッと圧縮し、さらに魔力を付与し硬化させる。魔力を与え、イメージすると壁が凹み、縮み始めた。さらに重力魔法で賢者さんが補助してくれる。



 ボコッ、ボコボコン、ボコンッ…………!



 無駄に肥大した土塊は、みるみるうちに押し固められ、完全な防壁へと姿を変える。


「ふーーーーっ。さすがに疲れた…………」


 俺は袖で額の汗をぬぐう。

 

 出来上がったのは高さ12メートル、厚さ5メートルの防壁だ。壁の表面は黒く、ツルツルとテカっている。重厚感たっぷりで、冒険者たちが登りやすいよう、町側に階段を50メートル感覚で設置してみた


「なんでこんなものが一瞬でできるんだ?」


「これ…………夢か?」


 自分の頬をぱしんぱしん叩きながら男が言った。


「さぁ、どんな感じだ?」


 できたての防壁に近づき、階段を上ってみる。踏んだ感触は鉄の塊だ。強く踏んでも申し分ない。


「うん。これなら大丈夫そうだ」


 壁の上まで上がる。ダンジョンを向いた壁の淵には凹凸を作り、遠距離攻撃を防げるようになっている。そしてダンジョン側の壁の下には、深さ25メートル、幅10メートルほどの堀が出来ていた。ここに魔物が落ちてくれればいいが。


「あとは…………横にどこまで出来ているかだな」


 下のステラに呼び掛ける。


「おーい、壁の端を確認しにいくからついてきてくれ」


 壁の下にいる他の冒険者たちに声をかけるが誰も何も言わない。ただ呆然と固まっているだけだ。


「おいって!」


 防壁の上から飛び降り、グルグル目を回しているあほ毛の肩を揺さぶって現実に戻す。


「わはっ、はい!わかりました」


 2人で壁の上に上がり歩いていく。後ろからはぞろぞろと魔法使いたちが着いてきた。お前らは来なくてもいいんだかな。


「うーん、ここまでか」


「あ、あの。これで予定の3分の1は完了しています」


「ああ、3分の1しかないのか。思ったより広いんだなこの町。よし、じゃああと何度かするから着いてきてくれ」


「はいっ、わかりました!」


 そうしてあと2回繰り返した。2回目からは消費魔力は少なくてすんだ。賢者さんが効率化してくれたようだ。結局予定の範囲を作るのに全部で俺の魔力半分ほどで事足りた。ちなみに1つするのに3分ほどかかったから、移動時間も含め大体20分で完了した。


「どうもありがとうございました」


 ステラが腰を折ってお礼を言う。


「頼まれたからな。こんなもんで十分だろ?」


「十分過ぎます。それに…………さっきあの人たちから庇ってくれましたよね?」


「いんや?」


「あはは。そうですか…………。では、予定よりかなり早く完了したのでギルド長に報告に言って参ります」


 ペコリとするとあほ毛が元気よく駆け足で去っていく。


「へーい」


 手を振ってあほ毛を送り出した。すると、




「あ、あの…………!」


「へ?」


 声をかけてきたのは魔術士たちだった。


「その魔法の使い方、どうなってるんですか?」


 確か前にギルドでレアの魔法を誉めていた女の子だ。ここにいるってことは結構優秀だったんだな。後ろにもぞろぞろと聞き耳を立てながら近づいてくる男どもがいる。


「どうって?」


「魔力量や出力がぶっ飛んでいるのはわかるんですが、あれだけの大規模魔法、用意から発動までの時間が短すぎますし、しかも複数並列に発動してます。魔法自体も見たことのない土魔法です。何より無詠唱…………おかしいです。おかしすぎます!!」


 まじめな子だな。いや、後ろの奴らもそうだが、魔術士ってのは研究熱心だ。


「それは企業秘密だ」


「そっ、そんな…………!」


 おどおどとした女の子が頑張って聞いてきてくれたのにショックを与えてしまったようだ。なんか悪いことしてる気分だ。


「そりゃお前ら、自分のスキルを人に話すか?冒険者の命綱だぞ?」


「う…………」


 正論にたじろぐ女の子。しかし食い下がる。


「で、ですが!なんとか、教えてくれませんか?ユウさんの仲間もそうでしたが、無詠唱でかつ、オリジナリティのある魔法を使われていたと思うんです。それには必ず何か秘密が…………!」


 今まで馬鹿げた魔力でドン引きされることはあったが、ここまで技術を言われたのは初めてだ。


「ダメだ」


「そっ、それなら、なんでもしますから!弟子にしてください!」


「「「お願いします!」」」


 連なるように他の魔術士たちも頭を下げた。


 調子の良い奴らだ。


「やだ」


「な、なら…………!」


 先ほどとは別の冷や汗が流れた。しかし彼らも諦める様子はない。一蹴されたにもかかわらず、ねばってくる。


「いや、だから俺そういうのいいから」


 こいつらとの言葉の応酬をしていると、ジャンが到着したのか声が聴こえてきた。


「な、なんだいこりゃ!?」


 現場を見て愕然としている。ちょうど良いタイミングだ。話題を変えてくれ。


「これをユウ様が20分ほどで…………」


 先ほどのあほ毛がかくかくしかじか説明している。とそこでジャンが俺に言った。


「ユウ、普通って言葉知ってる?」


「知らん」


「覚えて!?」


 ジャンがずっこけた。


「普通ならここにいる魔術士全員で取りかかって半月でやっとこれくらいのものが出来る。当初の予定ではもっと簡素なものができるイメージだったんだけどね。もっとも冒険者たちにお願いしたところでこれほどの硬度の壁はつくれないと思うよ」


 そう言って壁をジャンが腰を入れたパンチで殴る。


「ふんっ!」


 ドゴッ!


 Aランクのジャンがそれなりに本気で殴っても傷ひとつつかない。


「おかしいよね?これ!ねぇ!」


 ジャンが殴った右手を振って冷ましながら壁を指差す。


「そうか?」

 

 賢者さんにより効率化された結果こうなったのだろう。まぁ防壁が丈夫で悪いわけがない。


「ははは…………なんにしろこれで防衛は大分楽になっただろうね。感謝するよ」


「まぁこれくらいならいつでも言ってくれたら作るぞ」


「ははっ、これほど頼もしいことはないね。あ、そうそう。ユウに連絡事項があってね」


「なんだ?」


「氾濫が起きたとき、ユウのパーティは遊撃隊だって話だったけど、少し妙な声が上がっていてね。氾濫の対応策としてクランを作ることを知った者たちが、ユウが代表のチームがいいと言い出して…………」


「は!? 一体だれがそんなことを!?」


 止めてくれ。


「ブルートやへクターたちだよ」


 へクターといや、ダンジョンでベルガルを殺る時に会った槍使いだな。あとはブルートか。


「はぁ、あいつらかぁ…………全部で何人だ?」


「50人ほど」


 ニコニコとジャンは言う。


「多っ!」


 モーガンとの決闘や訓練場での試合を見てた奴もいそうだ。


「そ、その話、私もユウさんのクランに入れてもらえませんか?」


 その場で聞いていた女の子の魔術士が言い出した。


「俺も!」


「俺もだ!頼む!」


「さっきの魔法、感動した!一緒に戦わせてくれ!」


 他の奴らも後に続き出す。


「え、嫌なんだけど…………」


 がーんと、可哀想なくらいショックを受けたような顔をする女の子。


 だって、ガブローシュみたいなのこれ以上増やしたくない。面倒を見るのも大変だもの。


「どうしてだい?」


 ジャンが不思議そうに聞いてくる。


「だってめんどく…………」


 断ろうとしたのがジャンにバレたのか、ジャンの眼鏡がキラッと光った。


「ああそうだ。そういやあの壊れたギルドのバーカウンターなんだけどね?」


「や、やらせていただきます!」


 ジャンが最近俺に対して容赦なくなってきた気がする…………。


 結果、10人の魔術士たちも俺の下につくことになった。もちろん彼らのパーティも一緒だ。


「はぁ~、めんどくさい」


「あはは、よろしく頼むよ」


 くそ、たくましくなってきたなジャンの奴。


「とりあえず今日はこれで終わりか?」


「そうだね。今日はありがとう。明日の朝、ギルドの訓練場に集まってくれるかい?」


「はいよ」



◆◆



 そして帰り道。


「もうすぐ氾濫か…………」


 大量の魔物が攻めてくるんだ。俺は死ぬことはないと思う。でも誰だって自分が死ぬとは思っていないもんだ。ただ、少なからず2日後に亡くなる人は出るのだろう。火竜の時は突然のことで、誰もが必死だった。でも今回は違う。…………わかってたら防衛になんて出ないでいいのにな。状況が似ているからか、どうもアラオザルを思い出してしまう。


 まだお昼前だというのにそんな後ろ暗いことを考えながら宿への道を歩いていると、


 パリンッ…………!


 小さなガラスの割れる音が左手の家屋の中から聴こえてきた。顔を上げると見覚えのある建物に気が付いた。


「ここは…………武器屋のおっさんの家か」


 黒い刀を譲り受けたあのおっさんの家だ。


 …………何してるんだ? 氾濫も近いし、気になるな。挨拶くらいしてくか。


 そう思って玄関のドアを開く。


「おーっす、おっさん元気…………か?」


 ドアを開けたそこにいたのは、いつぞやの3兄弟の次男ヒューズだった。壁に掛けられた剣をまじまじと観察している。そして、俺に気付いた。


「あっ!…………おまっ!?」


 パクパクと口だけを動かし、声が出ていない。


「静かにしろヒューズ! …………てお前!なんでここにいる!!」


 ノーブルが2階の方から降りてきた途端、俺を見て固まった。


「それはこっちのセリフだ!お前らもしかして…………空き巣か?」


 怪しすぎる。


 じろりと疑いの目を向けるとノーブルはすぐさま否定した。


「そっ!そんなわけねぇだろ。俺らはここの家主に家の掃除を頼まれてだな?」


 とその時、地下から三男モッシュの声が聞こえてきた。


「おーい、兄ちゃん。ダメだどこにもない!早く盗ってずらかろうって…………ん?」


 はっ!とモッシュは口を押さえた。



「「「…………」」」



 しばらく、無言の時が流れた。


「おい?」


 俺が一歩前に踏み出すと、ノーブルが一歩下がった。


「ちっ、違う!」


「お前ら、刀探してんだろ? いや、絶対そうだろ。前に怪しい奴から探し物頼まれてたもんな」


 ノーブルの後ろでモッシュがヒューズにしばかれている。


「大道芸しながら情報収集でもしてたか?」


 問い詰めると、ノーブルがかすれた声で言った。


「…………証拠は?」


「あ?」


「証拠はあるのか?」


 ノーブルがずいっと反撃に出た。


 こいつ…………開き直りやがって。


「なら何してたんだ?ここは知り合いの家だ。証拠なんかなくても家主に代わって牢屋にぶちこんでやろうか?」


「……………………」


 じっとノーブルと睨み合った。


「はぁ」


 ノーブルが息を吐き出し、両手を上げた。


「無理。状況が悪すぎる。俺らの負けだ。刀を探してた。王家の話の方はヤバそうだったが、武器ならなんてことない。金になるなら、盗みまでは俺らはやる」


 さらさらと白状しやがった。


「よし、ならこのままギルドに引き渡してやる」


 俺が詰め寄るとノーブルはそれを遮った。


「待て。交換条件だ」


「あ?」


「お前らはこのまま王都へ行くんだろ?」


「そうだ」


「俺らはもうこの町を出る。今回の氾濫はヤバそうだからな。こんな滅ぶかもしれん町に長居できるか」


 その言い方はちょっとどうなんだ?まぁいい。


「それで?」


「情報をやる。それで見逃してくれ」


「家主には世話になってる。見逃すのは無理だな」


「王都へ向かうのならお前らにも関係してくることだ」


 そう言われちゃなぁ。


「…………はぁ、俺にできるのは家主の説得までだ。嘘だったら牢屋だぞ?」


 ノーブルはこくんと頷くと話し始めた。


「確かな情報だ。ここから王都に向かう途中、ベニスという町がある。どうやらその町の様子がおかしいらしい」


「おかしい?」


「ああ。ここ2~3日、連絡が途絶えているそうだ。町に向かった商人は1人も戻って来ず、さらにはあの町周辺の盗賊たちが行方不明になっている。必ずや何らかの事件が発生してると見た方がいい」


「なんだそりゃ?気味が悪いな」


「わからん。わからんが、近くまで様子見に行って無事に帰ってきた冒険者によると、町に人影を見たそうだから人はいるのだろう。なぜ連絡が途絶えたかは謎だ。あそこは俺らも迂回して王都へ向かうつもりだ。ま、最近は王都も色々とあるようだし、この国もそろそろ危ないかもな」


「ふーん」


 いや、これが本当なら有用な情報なのかもしれん。


【賢者】確かにベニスという町は存在します。人口400人ほどの小さな町ですが、王都からコルトまでのルートに位置するため商人の往来は激しいようです。


 どうすっかな?…………正直今のギルドにこいつらを突きだして仕事を増やすのも気が引ける。


「わかった。命拾いしたな。ただし!店のおっさんにはしっかり絞られてこいよ?」


「ああ」



◆◆



 そこからいつものおっさんの屋台へと連れて行くと、おっさんに説教され、こってりと絞られた3兄弟。しかも屋台の前で客引きをやらされるという始末。だが案外3人とも喋りが上手く、お客さんがどんどん集まってきた。おかげでおっさんだけでは客をさばききれず、俺まで夕方まで手伝う羽目になった。


 そして日も傾き始め、ようやくおっさんのお許しが出た。3兄弟はほっとした様子で再度おっさんに謝り帰路につこうとする。


「お前さんら、もううちで働かんか?」


 余程気に入ったのか最後におっさんが声をかけるが


「「「お断りだ!」」」


 はっきりと拒否し疲れきった背中で帰っていく3人。


「あ、忘れてた」


 最後にこれだけは伝えておこう。



「おーい、お前らが探してるその武器な。持ってるの俺だから!」



 ノーブルが黙って中指を立てた。



読んでいただき、有難うございました。


ストレスが溜まり過ぎた時は、一回あほになればいいです。

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