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重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第3章 ダンジョンの町ワーグナー
52/161

第52話 残り3日

こんにちは。

ブックマークや評価していただいた方、有難うございました。

第52話になります。宜しくお願いします。


 訓練場の惨状に目を丸くするジャンとギルド職員たち。申し訳なくなって切り出した。


「えー、ギルドに被害出た?」


「ユウ、ギルドが何度か揺れたよ。あと、1階のバーカウンターの一角が崩壊したんだけど…………」


 後頭部をかきながら、やれやれとジャンは言う。


「あちゃあ…………」


 思わず額を叩く。


 フリーの必殺技をいなした時、確かに天井に当たった気がする。下から衝撃が伝わったか。逆にあの技でそれだけの被害で済んで良かった。


「け、怪我人は…………?」


 まさかと思いながら聞く。


「いないよ?いないけどねぇ…………」


 ジャンがボコボコになった訓練場を見回してからチラリとこちらを見た。


「わ、悪かった。弁償するし、すぐにここも元に戻す!」


「ふぅ、ユウだから許すけど今回だけだよ?」


「あぁ、すまん」


 この大変な時期に面倒事を増やして申し訳ない。


「あと、ちょうど良かった。連絡したいことがあるから一度僕の部屋まで来てもらえるかい?」


「ん?了解」


 なんだ? やっぱり怒られんのか?



 ◆◆



 レアをギルドの医務室に寝かせると、ギルドの応接室でジャンに面会した。フリーはレアについているそうだ。


 俺とアリスでふかふかのソファに着くなり、職員が紅茶のような飲み物を用意してくれた。


「それで話って?」


 俺がそう切り出すと、ジャンはメガネを上げながら言った。


「実は、ダンジョンの氾濫の時期が確定したんだ」


「お、やっとか」


「遅くなってすまないね。でもそれの前にまず報告することかある」


「何?」


「あれからギルドの方でダンジョンの異変を探っていた。そしたらね、ちょっと不味いものが観測された。12階層で巨大なうごめく影…………情報からして、おそらくヒュドラだよ」


「えっ!」


 アリスが驚きの声を上げる。


「…………あいつ、起きたのか」


 あの巨大な縦穴でヒュドラを見たときはまだ眠っているというか、封印されているようだった。それがついに動き出したか。


「今はおそらく、ダンジョンの入り口向けて上ってきているところだろうね」


 ヒュドラと言えば竜だ。氾濫に竜までも参戦するとなれば不味いな。しかも…………


「あれはデモンドラゴンを凌ぐだろ?」


「間違いなくね」


 俺がヒュドラを抑えるとして、他の魔物の相手は冒険者たちだけでなんとかなるのか?いや、それよりも。


「ということは、ヒュドラがボスなのか?」


 ジャンは首を振った。


「それがね?僕も気になって過去の文献を調べてみたんだけど、ヒュドラがダンジョンのボスになることはないらしい」


「どういうこと?十分にボスだと考えられる強さじゃないの?」


 不思議に思ったアリスが尋ねる。


「いや、ダンジョンのボスというのは強いだけじゃダメなんだ。ダンジョンを管理出来るだけの頭脳が必要なんだよ。ヒュドラは力だけなら十分素質があるが、複数の頭ゆえに思考がまとまらずバカなところがあるらしい。だからヒュドラをコントロールするやつがいるはずなんだ」


「なら他にヒュドラを上回るかもしれないボスが存在するってこと?」


 ということは、やはりデーモンが言っていたようにデモンドラゴンをボスの座から引きずり下ろした何者かが存在するのだろう。


「そう。その通りだね」


 ジャンは紅茶を一口、口に運んだ。


「なんてこった…………あいつより強いとなれば確実にBランクの冒険者の手には負えないな」


 ジャンは神妙に頷いた。


「すでに氾濫の兆候は現れてる。浅い層にまで、高ランクの魔物が見られるようになった。ギルドとして準備はしてきたつもりだよ。でもここまで全体の魔物のレベルが高いのは想定外だ。氾濫の始まりは…………明明後日の正午だと予想される」


 近いな…………今はちょうど昼過ぎ


「残りちょうど3日くらいか……それで俺たちはどうすればいい?」


 俺らの立ち位置がはっきりとしない。どこでどう戦えばいい?


「それなんだけど、氾濫の時期が確定しなくて延期になっていた対策会議が明日ようやく開かれる。そこに、ユウも来てくれるかい?」


 そういやガランが対策会議だなんとか言ってたな。あれ、まだ開催されてなかったのか。俺がそこに呼ばれるってことは、もう間違いなく中心メンバーに加わるってことだよな?…………まぁ元々そのつもりではいたが。


「…………もちろんだ」


「そっか、良かったよ」 


 気を使いすぎだ。ジャンが禿げないか心配になってくる。


「ホントはユウに少しだけ手伝ってもらって、重荷を背負わせるつもりはなかった。町の人間だけでなんとかするつもりだったんだよ。でももうそれじゃ、正直無理なんだ」

 

 まぁ、そんなとこだと思ったよ。


「そんなに心配しなくても大丈夫よ。ユウも私たちもいるんだから、なんとかなるわ」


 アリスがジャンを心配して励ました。


「その通りだ」


「ありがとう。頼もしいよ。他の冒険者にも依頼して急ピッチで防衛の強化を進める。対策会議は朝9時だよ。よろしくね」


「わかった」


「それとユウ。前話してたあの防壁の話だけど…………」


「ああ、わかってる」


「ダンジョンがある側北区の防壁を頼むことになると思う。また明日会議で説明するよ」


「おう」


 最後にジャンは立ち上がると、


「来たばかりの君たちにここまで頼んでしまって申し訳ないとは思ってる。でもこの町を魔物に滅ぼされるわけにはいかない。よろしくたのむよ!」


「「了解!!」」


 俺らも立って握手を交わした。



◆◆



 それから一旦休憩に宿へ戻り、試合で気を失ったままのレアをベッドへ運ぶ。


 レアほんと軽いよなぁ。こんなんでよくあれだけの力が出せるもんだ。


 レアをおんぶして背中にレアの感触を感じながら思う。ちなみにフリーがレアを運ぶと言い出したが、全速力変態フリーの下心がアリスにバレ、俺が運ぶことになった。


 アリスが自分たちの部屋の扉を開く。


「へぇ…………」


 そして、なんだかんだ初めてレアとアリスの部屋に入った。内装は俺らと同じだ。2人のベッドの横には大きめのリュックサックが一個ずつ置かれていた。そこまで洋服に興味のないレアはシンプルな革張りで、アリスのは予想どおり黒色の四角の革製カバンだ。

 2人のベッドの間には小さな衣装ケースがあり、2人の持ち物が詰め込まれている。入りきらない洋服等はベッドに山積みに置かれていた。基本このランクくらいの宿じゃ収納はしれている。入りきらないのだろう。


「レアのベッドはそっちの窓側よ。あと、あんまりじろじろみないこと!」


「へいへい」


 そう言われながらもついベッドに置かれている荷物を見ようとすると、アリスに両手で頬を挟まれ、顔の向き変えられた。


「ねぇ、あたしの話聞いてた?」


「スミマセン」


 うん、あんまり見ないでおこう。


「まぁ、レアが起きるまでなら滞在を許すわ」


 そう言いながらアリスは自分のベッドに横になる。


「ははは、そりゃどうも」


 とりあえず一息ついた。俺はともかく3人は全力だったからな。俺とフリーは壁にもたれながら床に座った。


「ジャンはなんて言ってた?」


 隣に座ったフリーが聞いてきた。


「ああ、氾濫についてだ。またレアが起きたら話すよ」


「わかった」


 フリーが自分の肩に立て掛けた刀を握って話し始めた。 


「…………僕はねぇ。今までAランク冒険者以外じゃ剣で負けたことは無かったんだよ。技術がステータスで埋められちゃうからね。でもユウに身体強化を教えてもらって、これならAランクにも勝てると思った。ステータスではユウに劣るもののそこまで差はなかったはず。ユウ、剣術のレベルはどれだけなんだい?」


「今はレベル9だな」


「「レベル9!?」」


 話を聞いていたアリスも一緒に声をあげた。


「は…………はは、そうかい」


 フリーは苦笑いだ。


「人間でもそこまでいけるんだね。夢が持てるよ」


「ああ、フリーなら余裕だろ。これからだぞ?」


 嘘じゃない。フリーの才能なら届くと思う。


「わかったよ。ありがとう」


「ほんとあなたに弱点ってないの?」


 アリスがベッドに仰向けになりながら聞いてきた。


「弱点かぁ…………あったら教えてくれ」


「この……腹立つわね。いつか凍らせてあげるから覚悟しなさい」


 起き上がりむぅと睨み付けてくるアリス。


「へいへい」


「僕もいつかユウを真っ二つに斬り分けられるよう強くなるよ」


「ははは、まぁ俺も追い付かれんようにしないとな」


 そう話していると言うと、レアの声がした。


「なら私はユウを空まで吹き飛ばしてあげるよー」


 どうやら目を覚ましたようだ。


「起きたか。体はどうだ?痛みは?」


「うううん。もう大丈夫だよ。ありがとうね。ユウ」


 そう言いながら、よいしょとレアは体を起こしベッドに腰かける。


「そっか。なら良かった。おもっきりぶつかったからな」


「ごめんね。心配させて」


 申し訳なさそうにレアが言う。


「いいんだ」


「それじゃあ、ユウは?」


「何が?」


「ユウの目標」


 まだ続いてたのか。目標ねぇ…………。


 考え込む。


「Sランクに上がることとか?」


 レアが人差し指を立てて言う。


「それもそうなんだが」


 俺ばかりが強くなってもな。


「俺の目下の目標は…………まずお前らを俺に勝てるくらい強くすることだな。まぁ無理だと思うが」


「あなたねぇ、見てなさいよ?」


「そう言えるのも今のうちだよ!」


「…………言ってくれるねぇ」


 3人ともムッとする。それくらいがちょうど良い。


「へいへい。っとそうだ、全員揃ったから伝えておく。氾濫の日時予想が出た」


 レアとフリーが黙って俺に注目した。


「いつだい?」


「3日後の正午だ」


「あと3日か…………」


 俺らの中にも少し緊張感が出てきた。



◆◆



 それから、しばらく宿でごろごろ休憩をしてから4人で早めの夕御飯を食べに行った。もう店を探すのがめんどくさいので一度ギルドの飯を食べてみることに。


「俺ら、見つかったら騒ぎにならないかな?なんか有名人みたいだし」


「今の時間、夕御飯時でごったがえしてるわ。大人しくしていれば大丈夫じゃない?」


「大人しくってなぁ」


 ギルドの扉を開けるとアリスの言うとおり、わいわいガヤガヤしている。ダンジョンが閉鎖されても皆普通に飯を食べに来るようだ。おかげで俺たちはだれにも気づかれることなくテーブルにつくことができた。ちなみに崩壊したバーカウンターの一角はロープが張られ、立ち入り禁止にされていた。


 ギルドは冒険者登録をしているものなら1割引で食べられるそうだ。だからお金のない初心者などはよくギルドで食べ、情報収集をしている。なお食材はもちろん冒険者たちが捕ってきた魔物の肉でかなり新鮮。しかもけっこう珍しい肉も食べられる。


「ねぇ、これって…………?」


 メニューを見てアリスがつぶやいた。


「ああ、それはねオークの睾丸だよ。精力アップに効果があるらしくて男性冒険者に人気みたいだねぇ。僕もひとつ…………あいた!」


 フリーが顔を赤くしたアリスにはたかれていた。


「フリー、何を頼もうとしたの!?」


「ははは。ごめんごめんアリスちゃんはシャイだねぇ。でもその恥ずかしがってる顔が可愛…………」


 ぼこっ。


 今度はグーだ。アリスの左手がしゅっと動き、フリーは横腹を押さえてうずくまった。


「ぐぇっ」


 今のはフリーが悪い。


「フリー、やっぱおまえアホだろ」


 さて、全員揃ったことだし試合の振り返りをしたいと思う。何にしても、氾濫での皆の生存率を上げるため、そしてジャンとウルのためでもある。


「さて、さっきの試合についてだが…………アリスは広域殲滅、レアはその中間、フリーは対個人が得意そうだな」


 皆を見回しながら言う。ある意味バランスが取れている。


「そうだねぇ。僕も大規模な技が欲しいところだけど、なかなか難しいね。こればかりは個人の特性だし」


「レアはバランスがいいわね。最後にユウに対して使った技、あれなんて城壁でも貫通しそうだわ」


 風の魔力を纏っての突進か、あれは確かになかなかの威力だった。


「へへ~、私もいろいろ編み出してるんだよ♪」


 レアが嬉しそうに髪の毛をくるくるしている。


「アリスも近接戦闘できるんだろ?こないだみたいな氷の刃を操りながら、アリス自身二刀流で斬り込んだらどうだ。それだけの手数でいけば、相手は頭が2つないと対処できないぞ?」


「バカじゃない!? そんなの私も頭が2つないと無理よ!」


「そうか?できるだろ?」


「いやいや、魔法を発動しながら剣を使うなんて、かなり修行が必要だよ」


 と、その時料理が到着した。


「お待たせいたしました。イエローボアのピリ辛ステーキとキャシオサラダになります」


「あ、俺」


 手をあげ、料理を受け取った。そうして皆に料理が運ばれた。


「はーい今日はお疲れさん、じゃあカンパーイ」


「「「カンパーイ!」」」



 カラァン。



 4人で喋りながら食べていると、正面から歩いてくるブルートと目があった。


「あ」


 すぐさま駆け寄ってくる。


「ユウのアニキ!さっきパーティメンバーで模擬戦してたらしいじゃないすか!なんで呼んでくれなかったんです!?」


 俺に半殺しにされたブルートことモヒカンだ。


「え?お前もおれと戦りたかったのか? いいけど、そのモヒカン消し飛ぶと思うぞ?」


 途端に俺に潰された記憶がよみがえったのか、ブルートが慌てる。


「な、なんで俺とアニキがやるんすか!もう十分懲りてますって!俺はアニキたちの戦いを見たかったんすよぉ……!」


「ブルートおまえ今度こそおっ死んじまうぞ!」


 他にも集まってきた冒険者たちがブルートを囃し立てて笑う。そして、冒険者たちが集まってきた。昼間の俺たちの戦いに感銘を受けた者たちらしい。


「でもよぉ、本当に凄かったよな。とてもBランク冒険者同士の戦いとは思えないぜ」


 模擬戦を見ていたらしい前歯のない冒険者が言った。


 この世界に差し歯ないんだな。作ってやろうか?


「ほんとだよな。ユウは将来Sランクになれるんじゃないか?」


「いや、もう実際Sランクくらいはあるだろ」


「まさかさすがにそれはねぇだろ?それなら王都からお呼びがかかってもおかしくねぇ」


 めんどくさそうなことを聞いた。


「Sランクになると王都へ呼ばれるのか?」


「ああ!Sランク冒険者の数はその国の戦力に直結するからな!他国に向けたアピールも兼ねて大々的にパレードを行うんだ」


 うげ、それは嫌だな。なりたくなくなってきた。


「ユウってそういうの苦手そうね?」


「あれ?顔に出てた?」


「ええ、明らかに嫌な顔してたわ。良いじゃないパレード」


「え?じゃあ俺がSランクになったら代わりにアリスが出てくれるか?」


「嫌よ」


「おまえもじゃねえか!」


「あ、でも断りにくいらしいぞ?最悪国王から直々に頼まれるそうだからな。まぁでもSランクともなれば変わり者も多いから半分は出てないらしいがな」


「よしっ!」


 ガッツポーズが思わずでた。


「どんだけ嫌なのよっ」


「でもあれだよな。ユウもすごいが、仲間の3人もやべぇよな?アリスちゃんなんか、訓練場そのものを凍らしちまうんだぜ?もうファンになっちまった!しかもクールで可愛い!!」


 大きな盾を背負ったガタイのいい男がデレデレと言った。


「いやよ止めて。変なことしたら凍らせるわよ?」


 アリスが冷たい目付きでにらみながらマジレスする。


「このグサッとくる感じ…………。あぁ、もっと言ってほしい」


 それに喜ぶ男。こいつやばそうだ。アリスになんかあったら俺がこいつを殺してやろう。


「それを言うならレアちゃんだ。あんな風魔法の使い方が出来るなんてな。レアちゃんは天才だ」


「うん、あれは同じ風属性魔術士の私からしても。今までにない発想でした」


 大人しそうな女の子の魔術士が杖を抱えながら言う。


「えへへ~、あれはユウのおかげなんだけどねー」


 嬉しそうにそう言うレア。そこに右眼に傷のある隻眼の冒険者がぐいっと入ってきた。


「お前らわかっちゃねぇな。フリーの渋さが。2人みたいな派手さはないが、剣の腕は達人だ。しかも、あの緩急をつけた動き、タイミングをずらされたら剣士には致命的だ。あれができるやつなんざ、まずこの町にいねえ!」


 うんうん。


 剣を使う冒険者が皆揃って腕を組ながら頷いている。


「いやー、それほどでも」


 まんざらでもないようにフリーが頭に手をやる。


「ま、なんだか次の氾濫はヤバいそうだがな…………これだけの手勢のワンダーランドがいれば大丈夫だな!」


「馬鹿!当たり前だろ!アニキが戦ってくださるんだぞ!?」


「「ちげぇねぇ!」」


 ブルートが怒って言うと周りはゲラゲラとウケていた。さすがに氾濫の話は皆も知っているようだ。


 そうして夜は更けていった。



◆◆



 その晩、宿のベッドで眠っていると。


【賢者】ユウ様、ユウ様。起きてください。


 …………賢者さん、敵か?


【賢者】敵意はないようですが、真っ直ぐにこの部屋へ向かってくる反応があります。


 こんな時間に来る奴なんて……。


【賢者】隠密スキルを使用しています。念のため警戒を。


 ああ、大丈夫。隠密てことは、多分ウルだ。



 コンコンッ、コンコンッ!



 窓を叩く音に外を見ると、そこに写るのはダボダボのラッパーみたいなサイズのシャツを来た小さな影。


「やっぱり」


 ガララ。


 上に窓を開ける。


「おいユウ!ちゃんとジャンに言ってくれたんだろうな!?」


「うっさいわあほ」


 俺は口元をつまんで黙らせる。こんな時間にそんな大声出すやつがいるか。


 振り返ってフリーを見ると全く起きた気配はない。


「んー!!」


 手をバタバタさせ、何かを訴えてくるウル。


「なんだよ。ここじゃ無理だ。どっか話できるところはあるか?」


 しゃべらせるため手を離す。


「さっさと手をはな……!んー!!」


 もう一度つまんだ。


「学習しろあほ」


 そしてそのまま窓から飛び降りた。


「んーーーー!!!?」


 タッとウルを抱えたまま道に着地する。この宿の前は5本の路地が合流する小さな広場になっている。だからといって、人通りはない。今は深夜2時。


「いいか?叫ぶなよ?」


 コクンコクン。


「ぷはぁ。ユウに頼んでたやつ、明日にしようと思ったんだけど気になって眠れなかったぜ」


 こんな深夜に来るな。


「ガキか!?」


「そうだ!」


「そうだったぁ…………」


 思わず頭を抱えた。



◆◆



 落ち着いて話せる場所ということでウルに案内され来たのがシュタイン大聖堂の鐘塔、巨大な鐘のぶら下がる最上階だった。一部は壁に囲まれておらず、転落防止の鉄柵がもうけられているだけだ。


 ここからは、このワーグナーの町が一望できる。これから地平線の向こうへと下って行こうとしているのは、目の前を埋め尽くすほどの銀色に輝く月。それに青白く照らされるは付き合いの太く短い、人工の灯りの消えたワーグナー。夜の町は空気が澄んでいてきれいだ。遠くまで良く見える。


「…………すげぇなここ」


「だろ?なんたってここが俺んちだからな!」


 ウルはそう自慢げに胸を張って答えた。


「は?お前の家?」


 何言ってんだこいつ。


「は?じゃない。ほれ」


 ウルの視線の先には石造りの床にきれいに敷かれた布団があった。


「おっ、お前なんて良いとこで寝てんだよ!貴族でもこんなとこで寝ねぇよ!」


「ほめんなって」


「ほめてねぇ」


 よく見ると壁際には洋服や食器、仕事に使う小道具等、微妙に生活感が漂っている。


「ウルお前…………よく司祭に追い出されねぇな」


「まぁな、俺がここに住み着いた時はうるさかったけど、途中から静かになったんだ」


 それ裏でジャンが頭下げたんだろうな。ウルの寝床は知ってるって言ってたし。


「そういやユウてめぇ、こないだここにねぇちゃんと2人で来てたな。何してたんだ?」


「ねぇちゃん?」


 ああ、アリスと来た時か。


「お前あの時いたのか?」


「俺んちだぞ?家にいて何が悪い」


 妙な視線、あれはフリーたちじゃなくこいつだったか。てか、ウルの家じゃねぇ。


「お前なぁ、お前が住めばお前の家か」


「そうだ!」


 自信満々で言い切られると言い返す気力が削がれる。


「そうですか…………」


「で?ジャンはなんだって?」


 もう俺の話題に興味をなくしたのか、ウルが前のめりに例の件について聞いてきた。


 そうだった。ウルの氾濫への参加、説得できなかったこと…………伝えなきゃダメか。


「…………ジャンは、ダメだった。すまん」


 レアの気持ちを考えると申し訳なく、頭を下げた。


「は!? なんでだよ!!」


 案の定、ウルは動揺した。怒って俺の胸ぐらを掴んだ。


「ウルはまだまだ子供だからな。あんな死地に送るわけにはいかないんだ」


 淡々と答えた。


 ウルの目に涙が貯まってくる。


「また!またそれかよ!! もううんざりだ!なんだ!? ガキだって十分に戦えるって言ってんだろ!」


 ウルは鉄柵を蹴りつけた。柵がひしゃげる。


「ウルにはまだまだわからないと思うが、愛情込めて育てた自分の子を戦場に送りたい親がいると思うか?」


「そんなもん言い訳だ!俺が親なら行かせてる!」


「…………だからお前には分からねぇんだよ」


 真っ直ぐにウルの目を見て言った。


「分かりたくもねぇ!子供の気持ちを考えねぇ親なんて!! …………俺だって、俺だってジャンの役にたちてぇんだよ…………。ジャンには一生かかっても返しきれねぇ恩がある!だから俺は戦いたいんだ!ジャンを手伝って!ジャンを助けるんだ!!」


 やっぱりこうなったか。


「お前の気持ちはわかってる。でもダメだ」


「なんだよユウ?お前あの時は賛成してくれたじゃねぇかよぉ!」


 ウルは胸ぐらを掴むのを止め、俺をどんっ!と突き放した。押されて後ろに下がる。


「事情が変わったんだ」


 申し訳ない。お前が王女じゃなけりゃ、もう少し話は違っていた。


「んだよ!これだから大人は信用ならねぇ!」


 ウルはイライラして歩き回る。


「信じてくれ。これはウルのためだ」


「ちがう!それは俺のためじゃない!」


 ウルは首を大きく横に振る。


「俺は強いんだ! Aランクモンスターにだって負けない!」


「だからそういう問題じゃねぇって……」


 突然閃いたようにウルが渇いた笑いをした。


「ははっ、そうだ! なぁユウお前聞いたぞ?めちゃくちゃ強ぇんだろ!? 俺と勝負しろ!」


 目の前のことに必死で現実が見えていない。ウルの瞳には虚空が写っていた。


「は?お前何言って…………」


「俺が勝ったら戦場に出ても文句ねぇだろ!?」


 そう言ってウルはナイフを抜いた。


「おいおい!待てって!」


 ウルが隠密スキルを発動させたのか気配が薄くなっていく、そして暗がりにウルは消えた。


「待てよウル!そういうことじゃねぇだろ!?」


 俺は暗闇に向かって問い掛けた。


「…………無視か」


 仕方ないな…………。あいつの隠密はかなりレベルが高いが俺には通じない。


「後ろ」


 背後にナイフを俺の首もとに突き付けようとするウルを見つけた。


「なっ!?」


 一瞬に振り向き、ウルの突き出された右手のナイフを左に避けると、すれ違うようにウルの胸元に手を添える。そして手加減して軽く地面に叩き付けた。


 ドカッ!


「がっ!!」


 カラン……カラカラカラ。


 ウルの手からナイフが離れ、滑っていった。ウルは脱力する。すると目元に右腕を持っていき、そのまま泣き出した。


「ちくしょう…………ちくしょう…………!」


「…………すまんウル。わかってくれ」



「うあああん!…………なんで!? なんでだよぉ…………?」



 泣きじゃくるウルを置いて、大聖堂を降りた。


 夜のワーグナー町に響くウルの泣き声が、いつまでも耳にこびりついていた。



読んでいただき、有難うございました。


皆様お体を大切にお過ごしください。

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