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重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第3章 ダンジョンの町ワーグナー
46/161

第46話 悪魔竜

こんにちは。いつも有難うございます。

またブックマークしていただいた方、有難うございました。

第46話になります。


 ジャンと町の防衛を約束した後、ひとまず休息を兼ねて眠ることにした。周囲の警戒は助けられた礼として、ジャンたちのパーティがしてくれることになった。


 ジャンは責任感があり町人のためを考えている好人物だ。ギルド長であり、話のわかる人間に会えて嬉しいと思った。

 レアたちも順調に強くなってきた。どれほどの規模の氾濫かはわからないが、俺1人では手が回らないだろう。だから今回はレアたちの強化が氾濫を乗り切るためのキーになると思う。


 そんなことを考えていると、知らない間に眠りについていた。



◆◆



 タタタタタタタ…………バタン!


「ユウそろそろ出発だよーー!! もちろんフリーさんもねっ!!」


 レアが起こしに来てくれたようだ。城中にレアの元気な声が反響する。

 

「ふわぁ……おはよレア」


 起き上がりベッドに腰掛け、あくびをする。


「あれ? ユウまた悲しい夢でも見たの?」


 レアが心配して近寄ってきた。


「へ? …………あぁ、またか」


 目が覚めたら泣いているのはいつものことだ。だが最近はその頻度も減ってきた。喜んでいいのかはわからないが。


「すまん、心配かけた。でも大丈夫だ」


「そう。ならいいんだけど…………」


 レアは俺の目を覗き込んでくる。


「それよりも…………」


 ちらりと隣のベッドを見ると、我関せずと寝続けるフリーがいた。


「起きろ馬鹿!」


「ふわっ!?」



ーーーー



 涙をぬぐいながら部屋を出て、中庭へ向かう。到着すると、ジャンたち4人は鎧を着込み、もう準備が出来ていた。


「すまん遅くなった」


 俺たちは皆軽装だ。最近成長したのか、レアこそはち切れそうな胸当てをしているが、フリーなんて着流しのまんまだし、アリスだってブーツに黒のスキニージーンズに白のワイシャツだ。起きたらすぐに準備が整う。


「良いよ良いよ。ダンジョン内じゃ時間なんてわかんないんだから」


 ジャンが笑いながら許してくれた。


「おい早くしろフリー!」


「あ゛~、もっと優しく起こしてくれる奥さんがほしいねぇ」


 俺が殺気を向けることで強制的に起こされたフリーは、見張りをしてくれていたジャンたちよりもやつれていた。


「お前が起きないからだっ!」


「ユウはいけずだねぇ」


 あくびをしながらフリーは眠たそうにいった。


 ゾロゾロとジャンを先頭に話をしながら城外へ出る。狭いダンジョンの通路じゃ、8人もいれば大所帯だ。


「さてこの人数だけど、どう進んでいく?」


「そうだな…………」


 そう言いつつジャンたちを観察する。ジャンは人1人が隠れられるほどの大きさのミスリル製のタワーシールドに長剣と見るからに前衛、壁役だ。

 ミスリルなんて初めて見た。不思議な鈍色の光り方をして魔力を感じる。

 ジャンの他には魔術士が1人、斧使い、槍使いが1人だ。元々バランスの良いパーティだ。


「急ごしらえのパーティで連携するのは難しいだろ? ましてや慣れないダンジョンの奥深くだしな。前衛をパーティ単位で交代交代で努めていったらどうだ?」


「確かにそうだね。それで大丈夫かい?」


 皆が頷く。


「よし、それじゃさっそく出発しよう」


「お、待って。ちょっと忘れものだ」


 後ろを振り返ると、歩き始めてちょうど俺の城から十分離れたところだった。


「よっこらせ!」


 硬く固めた城を形作る岩石の強度を、今度は土魔法で緩めていく。



 ゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!!



 ガチガチに固められ、ハッキリとした輪郭をしていた城は地響きとともに輪郭がぼやけ砂になると、ザザザザと崩れ城は大量の土砂の山となった。



「「「「あー、そんなぁ…………!!」」」」



 ジャンたちが残念そうな顔で城に向けて手を伸ばす。


「いや魔物に住まれたらめんどうだろ?」


 そんなに残念がられるとは意外だ。


「最初はどうかと思ったけど、よく考えたらあれほどの城、普通ないぜ?」


 槍使いの男が興奮した様子で語る。


「だな。デザインもカッコ良かったし」


 思った以上に気に入ってくれてたみたいだ。今まで否定意見しかでなかったので嬉しい。


「なら、氾濫が落ち着いたら町に城でも建ててやろうか?」


 思い付きで提案してみた。


「本当かい!?」


 ジャンは目を光らせて食い付いた。


「意外だな。そんなに良かったか?」


「いや、だってねぇ。誰だって憧れるじゃないか。一城の主だなんて」


 ジャンって英雄譚とかにあこがれるタイプか?


「わかった。建ててやるよ。ただし!」


「ただし?」


「ジャンが無事に氾濫から町を守りきったらな?」


「やった!」


 ジャンの仲間たちは小躍りしだした。


「それならほれ」


 俺は小指を立てて差し出した。


「それなんだい?」


「昔の約束のおまじないだ。ジャンも」


「あ、ああ」


 ジャンの小指と指を組む。そして上下に手を振りながら歌う。


「はい、ゆーびきーりげーんまん、うーそつーいたーら、おまえの口に石詰めて顔面百発なーぐる! ゆーびきーった!」


「こわっ!」


 ジャンが後退りした。


「はい。じゃあ進むぞ」


 寝起きでフラフラするフリーをひっぱりながら歩き始める。


「フリーは早く目を覚まして先頭。その後ろにレアと俺、そんでアリスで行こう」



◆◆



 それから細い通路を進んでいくと三叉路に行き当たった。


「フリー、右からデミリザード」


「了解っ!」


 デミリザードは悪魔系のトカゲだ。

 顔はトカゲというより肉食恐竜に近い。尻尾をいれると全長4~5メートルくらい。黒紫でツルツルした光沢のある体表に、前足には50センチはある、刀のような爪を生やしている。そして、厄介なことにその体表全体から重力を発生させ獲物を引き付けるBランク中位の魔物だ。


 それがヒカリゴケに淡く照らされた右側の通路から、歯を剥き出しに口元をピクピクと痙攣させながら現れた。


「怪我してる?」


 現れたデミリザードは後ろ足を引きずり、ガクンガクンと歩いてきていた。後ろ足は何かに踏み潰されたかのようにペシャンコだ。


「仲間同士でケンカでもしたんじゃない?」


「そうだねぇ」


 だが、明らかな敵意をむき出しにして、こちらを襲うつもりのようだ。

 フリーは、まずは身体強化なしで動いた。デミリザードが重力を発生させ、鋭い前足の爪を振りかぶる。フリーは重力魔法に引き寄せられ、なす術なく爪に引き裂かれそうになる。

 だがその瞬間、フリーは一気に身体強化し、速度を上げた。デミリザードは緩急のある動きに反応できずに、フリーに振り下ろす爪の下を潜られる。さらにフリーは身体強化で勢いづいて通り過ぎてしまいそうな自分の体を身体強化をゼロにして無理やり速度を落とした。そして、左に捻るように無防備な背中目掛けて魔力を纏わせた刀を降り下ろす!



 ズパン!!



 一瞬でデミリザードが背骨ごと、輪切りにされた。


「ふぅ、良い緊張感の相手だねぇ」


 フリーはやれやれと額の汗を拭ってから刀をトントンと肩にのせて言った。


 どよめくジャンのパーティメンバー。


「ちょ、ちょっと! デミリザードってソロでやる魔物じゃないよね?」


 ジャンが代弁して聞いてきた。


「フリー、君はAランクなのかい?」


「僕はれっきとしたBランクだねえ。今の動きにはコツがあるんだよ。教えないけど」


 フリーがいやらしい顔をしながらベーと舌を出した。


「なぁ、どの道を行く?」


 ここから三手に分かれる道がある。1つ目はデミリザードが来た道、2つ目は下へと下る道だが途中崩れて通れなさそうだ。3つ目は、広いが、剣山のように尖った鍾乳石が敷き詰められた通路だ。


「ユウ、この先臭うよ」


 レアがクンクンと臭いを嗅ぎながら指を指して言った。レアが指すのはデミリザードが来た方だ。


「ん? 変だな。探知に何も反応はないぞ」


「うううん、確かに生き物の臭いがする」


「わかった。こっちにしようか」


 ジャンたちの了解を得て、デミリザードが来た道を進んでいく。


ーーーー


「なん、だ…………これ」


 進んだ先に広がっていたのは、デミリザードたちの死骸だった。それも、無惨に食い散らかされ肉片や骨が散らばっている。壁に叩き付けられて死んだものもいるのか、派手にシミがついていた。バラバラで元々何体いたのかすらわからない。さらに地面に妙な陥没がある。


「これ、殺られたの1体や2体じゃないわね……」


 レアが感じたのはこの臭いだったのか。死んでるから探知には反応しないわけだ。


「さすがに、これは…………」


 魔物と言えど、凄惨な光景だ。


 だがジャンは別のことを懸念していた。


「まずいね。デミリザードは集団だと危険度は跳ね上がるんだよ。なんたって元々25階層のボスは3体のデミリザードだったんだからね」


 Aランクのデミリザードたちを一方的に葬る魔物か…………。


「なら、これをやったのはAランク中位、それか階層ボスとしくはボスそのものがうろついているのかもしれないということか?」


「まじかよ…………」


 ジャンパーティがどよめく。そして、彼らをチラリと見ながらジャンは言った。


「そうだね。だとしても進むしかない。早いとこ氾濫の魔物を探しだそう」


「ああ」


 ジャンのパーティにはジャンのやり方があるのだろう。そこはジャンに任せる。


 それから何度か戦闘があったが、特に異常は見当たらなかった。そして交代となり、ジャンたちが鍾乳洞のようなダンジョンの壁に手をつきながら慎重に進んでいく。その動きからも彼らの緊張が伝わってくる。

 まぁ、さっきの惨状を引き起こした奴が彷徨いてると考えれば仕方ないか。


「ジャン。俺は探知が得意だから魔物が来たら教えるよ。さすがにトラップはわからないけど、もっとこう、ガーッと進んでいいぞ?」


「そうなのかい? それでもユウたちくらい攻撃的に進むのは難しいね」


「そうか」


 それでもさすがはAランクだ。安定し危なげなく敵を倒していく。ジャンの戦闘スタイルは、防御が主体の慎重派で、俺たちみたいな全員攻撃タイプとは違う。ジャンが巨大なタワーシールドで攻撃を受け止め、その間に安定して他の3人が仕留めていく。

 ジャンも種族レベルが2なのだからユニークスキルを持っているのだろうが、それはまだ見えない。


ーーーー


 そして、22階層に差し掛かろうというところで、今日の探索は終わりになった。今回は直径40メートルくらいの広めの部屋を見つけたので、くまなく魔物を駆逐し、安全地帯とした。


 今度はレアとアリスの希望で小さめのメルヘンな一軒家を建ててみた。外壁には強度の高い黒い材質を使い、その上にメッキのように強度の劣る白い土で覆うことで色をつけた。これが案外難しい。ダンジョンに入って、なんでここで一番苦労してるんだろうと思ったが、こういう一手間のおかげか、嬉しいことに土魔法のレベルがさらに上がった。


 他にも部屋の中に追加で2軒建て、俺とフリー、ジャンたちの住居とした。皆がご近所さんのようだ。どこか海辺の家を思わせる白い外壁の家に女子たちの評判が良かった。レア曰く、俺の建てる住居のおかげで毎日疲れを残さずに眠れるらしい。



◆◆



 そして、これから皆がちょうど眠りについた頃…………


【賢者】魔物です!


 賢者さんの高位探知に反応があった。現在の見張りはジャンだが、まだ騒いでいる様子はない。


 了解…………近いか?


 目を開け、ボンヤリと天井を眺めながら返事をする。


【賢者】はい。こちらに真っ直ぐに向かってきます。


 わかった。


 反応があるのは通路じゃない、レアたちの家の裏手だ。家を勢いよく出る。外は時折魔物の声が遠くから聞こえてくるものの特に変なところはなく、静かなものだ。


「ん? どうしたんだい?」


 家から飛び出してきた俺に、屋根の上にいたジャンが気づいた。


「こっちに何か来る! ジャン、皆を呼んでくれ」


「了解! すぐに戻る!」


 ジャンが走って行く。


 気配からして雑魚ではない。

 大規模な戦闘ができるだけの十分な広さがあるか、ダンジョン内を見回す。この部屋も今までのフロアと変わらない、鍾乳洞のように凸凹のある黒色の天井に黒色の壁だ。それらが、うす緑色のヒカリゴケに照らされている。


「さて」


 反応がある壁を見つめる。普通の気配ではない。何が出てくるやら。



 ドゴォォォオオンッ…………!!

 


 見ていると壁に衝撃が走った。壁に亀裂が走り、メリメリと壁が内側に膨らむ。衝撃で石が壁からパラパラと剥がれ落ちていく。


「……ロロロ………」


 魔物のいるであろう壁に向かって立っていると、向こう側からうなり声のようなものが聞こえた。


「ユウ!」


 皆フル装備で集まってきた。


「ふぁ~、ヤバそうだけど一体何が来るんだい?」


 フリーが眠そうな目を擦りながら聞いてくる。


「手応えのありそうな相手だ」



 ボゴンッ…………!



 壁から突き出したのは、長さ70センチはあろうかという太く黒い爬虫類を思わせる指。指の腹は薄紫色をしており、先端には獲物を引き裂くための鋭い爪が生えている。それが壁を突き破り見えた。

 そして静かになった。まるで穴を開けるために助走をつけたかのように…………。


「来るぞ!」




 ドゴオォォォォォォォォオオン…………!!!!




 大小様々な岩石が弾け飛ぶ。


「おいおいおい…………」


 現れた魔物の予想以上の体躯に、俺たちはそれを見上げた。 



「グロロロロロロロロロ…………!!!!」



 そいつが重低音の雄叫びをあげた。





「「「「「竜……!!??」」」」」





 現れたのは翼のない黒い竜だった。

 体高7メートル、尾が異様に長く30メートルくらいある。尾の先は二股で槍のように鋭く尖っている。手足も長く、顔も火竜に比べると細長い、口には鋭く細かい牙が並んでいる。そして纏うは禍禍しい魔力。


「そんな…………!」


 ジャンが絶句した。


===========================

デモンドラゴン

Lv.208

HP:680

MP:3980

力:3805

防御:1895

敏捷:3480

魔力:3470

運:390


【スキル】

・ヘヴィブレスLv.7

・ダースドレインLv.5

・猛毒槍Lv.6

・鋭重鞭Lv.6

・悪魔竜鎧Lv.7


【魔法】

・重力魔法Lv.4

===========================



 これはーーーージャンでも厳しいかも。


 そしてこいつは、どうやらダンジョン内を掘り進んでここまで来たようだ。背後に長いトンネルが見える。


「いくらジャンとユウがいるからって、こんなの無理だ!」


「俺は死にたくねぇぞジャン!」


「ど、どうする!?」


 ジャンのパーティがわめき、槍使いの男がジャンの肩を引っ張る。


「なぁ、こいつ知ってるのか?」


「Aランクの魔物、デモンドラゴンさ。グルドの言う通り、僕らだけでは無理だね…………僕が時間を稼ぐから逃げてくれ」


 ジャンが表情を隠しつつ眼鏡を上げると、1人だけで前に出た。


「何カッコつけてんだよ」


 ジャンの隣に立った。

 デーモンとはわけが違う。ジャンだけでは無理だろう。


 そう考えていると、アリス、レア、フリーがいつの間にか俺の横に並んでいた。


「おいおいお前ら。さすがに今回は下がれ」


 横を眺めて言う。


「ユウは馬鹿だねぇ。それを抜け駆けって言うんだよ」


 フリーは刀を抜きながら言う。


「抜け駆けとかじゃなくてな」


「ユウが死んだら嫌だもん」


 レアが拗ねたように言う。


 ストレートにそう言われるとウッとなってしまう。


「違うわよ。言い換えると、あたしらも暴れたいのよ」


 アリスがツンと言った。


「え、ストレス貯まってるの? 君ら」


 俺らがのんびりやり取りをしていると、


「お前らどうかしてるぞ! 早く逃げろよ!」


 壁際にまで下がった槍使いの男が遠くから口うるさく言ってくる。


「何をしてるんだ! 早く逃げろって言ってるじゃないか!」


 ジャンまでもが堪えきれずに怒った。


「だからってお前が犠牲になってどうするんだよ……それに見ろジャン」


 指差したデモンドラゴンは傷だらけだった。尖った外殻は所々がヒビ割れ、内側の肉が見えている。


「……ニクイ、ニクイ…………」


 口からは荒い息が漏れている。


「ハラ、ハラガヘッタ」


 そう言いつつ、俺たちを黄色い目玉が捉えた。よほど腹が空いているようだ。


「怪我…………? そんな、まさかありえない」


 ジャンが動揺する。


「なんでだ?」


「この竜は、ギルドの調査でダンジョンボスだと考えていた魔物なんだ。だから怪我を負うなんて、それこそ誰かと戦って負けたとしか考えられない」


「なら、デーモンが言ってたボスの座から蹴落とされた竜ってのはこいつのことだな」


 と言った瞬間、竜と目があった。


 俺の言葉が自分のことだとわかったのか、目に怒りを感じる。


「てことは、これに勝った魔物がいるってことよね?」


「だろうな。まぁでもとりあえずは…………っとあぶなっ!!」


 デモンドラゴンが長い尾で俺たちを薙ぐ。ジャンはとっさに前に出て重心を落とすと、タワーシールドを地面に突き立ててガードする。



 ガガガガガガ! …………ドガンッ!!



「なんっ、だ…………! この重さ!!」


 ジャンが俺とアリスの間をきりもみしながら吹き飛び、俺達の家に直撃した。頑丈に作ったはずの家がガラガラと崩れ去る。


「ジャン!!」


 皆が叫んだ。


 Aランクでタンクでもあるジャンが簡単に飛ばされた。鋭重鞭というスキルだろうか。ジャンの仲間たちもいい加減に腹が決まったようだ。ジャンを追いかけていく。その間にデモンドラゴンは魔力を高め、息を吸い込んでいる。


 おそらくヘヴィブレスだ。後方にジャンもいるから、ここはなんとしても防ぐしかない…………!


「結界!!」


 10枚の多重結界を張り、集中する。



 ゴボボホホホホホホホ…………!!



 デモンドラゴンの口からは、大きな質量を持った黒灰色の煙のようなブレスが吐き出された! 地面を這うように、ブレスというにはゆっくりとした速度で進んでくる。触れた地面にはその煙の重さゆえにヒビが入り、凹んでいく。それがどんどんと迫ってくる。


 重い煙か! 思ったより厄介そうな特性だ。とにかく力業で止めるしかない。


「ぐ…………」


 結界が1枚目、2枚目とゆっくりと質量ブレスに押し潰されていく。


 バキッ…………バキッ……。


 3枚目までは破壊されたが、そこでブレスは止まった。結界の強度も上がっているし、あの火竜ほどではない。だが、火竜のブレスよりも、生身に受けた時のダメージは大きそうだ。触れただけで骨は砕けるだろう。

 ブレスが通過した後の地面は削り取られたように深さ2メートルは陥没していた。



 ズガッッ…………バキンッ!!



 そう考えていると、結界に竜の尾が突き立てられた。


「今度はそれか!」


 猛毒の槍だ。まるで尾だけで別の生き物であるかのように動いている。


 バキバキバキバキ…………。


 俺の目の前十数センチで、結界に向けグリグリと尾を動かし、俺の脳天を貫こうとしていた。


 バキンッ!


 バキ、バキバキ…………バキン!


 2枚突き破られた。でもそこまでだ。これ以上破ることはできなかった。デモンドラゴンも予想以上の強度に戸惑っている。


「俺の結界を突き破ろうなんざ、百年早いな。せっ!!」


 残った結界を地面を削りながら思いっきり前へと押し出し、デモンドラゴンに向けぶつける。




 ガガッ、ガガガガガガガンッ!!


 


「グアッ!!」


 衝突の勢いにデモンドラゴンが壁にぶつかられたように弾かれる。そして、完全にブチキレた黄色い眼で俺を睨んだ。


「グロロ…………!」


「それで終わりと思うなよ!」


 そのまま結界を前へと押し出し、奴ごとダンジョンの壁にぶつけ、押し付ける。



 ガガガガガガ……ドゴォンッ……!!!!



「グルアアアアアアアアアアア…………!」


 デモンドラゴンは壁に押し付けられ、頭を上に向けたまま動かせずに手足を苦しそうにもがいている。


「よし。後はどうやってとどめを…………」


【賢者】……避けてください!!


「ん…………?」




 ドシュッ…………。





 腹が熱い…………。


 違和感を感じ、足元を見ると下腹部の右側に細く鋭い2本の槍が、腹を突き破り出ていた。槍の先を伝った俺の血がポタポタと地面に黒いシミを作る。


「ごぷっ…………」


 突如喉元をせりあがった血が口から溢れてきた。胃か肺をやられたか、鉄臭く、生臭い。顔を上げると、奴から伸びたその極端に長い尾が、結界の端から回り込み、俺を後ろから串刺しにしていた。


 あぁ尻尾だけ結界からはみ出てたのか。長すぎだろ。


 刺さったまま尻尾に持ち上げられ、身体が高く宙に浮く。そして、竜と目があった。それは、ニタニタと勝ち誇った目をしていた。


「グロロロ……!」


 しかしだ。レベル2の俺が、この程度で死ぬと思われてるとは心外だ。


 目を真っ直ぐに見て、笑ってやると竜の表情が変わった。自分の毒をくらってまだ生きていることに驚いたのだろうか。まったく、自分の武器を過信しないことだ。それが通用しない相手だっている。



「「「ユウ!!!!!?」」」



 レア、アリス、フリーの焦った声が揃って聞こえた。


「悪い、ちょっと油断した。いたた…………」


 そう、下にいるアリスたちに言う。


「どいて!!」


 アリスが血相を抱えて走ってくると、魔力を練る。


「大丈夫! ユウなら大丈夫だから!」


 パキン!


 アリスが俺を貫いている奴の尾を氷でガチガチに固定した。その間にレアとフリーが俺を守るように前に立ち、デモンドラゴンを睨んでいた。


「レア! フリー!」


「うん!」


 レアが風を纏った剣で尾に斬りかかる!



 ガガガガガガガガガガガガ!!!!



 いつもの相手をサイコロステーキにする技もデモンドラゴンの悪魔竜鎧に弾かれる。だが、手数の多さでデモンドラゴンの鎧のような外殻をボロボロにした。


「フリーさん!」


「了解」


 目を閉じ、フリーが研ぎ澄ませた魔力で、透き通った静かな斬撃を放つ!



 スッ…………ブチン!



 尾が斬り落とされ、俺は背中から腹にかけて尾が刺さったまま、地面に足から着地する。


「ぐっ!」


 着地の衝撃で内臓が溢れそうになるのを堪える。


 おそらくデモンドラゴンの体で最も硬く鱗に覆われた尻尾。それを2人で斬り落とした。見事な連携だ。



「ゴルァアアアアア!」



 デモンドラゴンは尾を斬り落とされた痛みにもがき、断面から血を撒き散らしながら尾を振り回している。暴れまわる尻尾が壁や地面を叩き、アリスたちの家まで無惨に破壊していく。


「ユウ!」


 パキ、パキパキパキ…………!


 アリスは俺ごと覆うように厚さ2メートルはある分厚い氷のかまくらを築いた。レアは風で受け流し、フリーは刀で弾く。ジャンの仲間たちも連携をとって、おさまるのを待っている。


「いだだだ」


 その間に背に刺さった尾の端を掴むとズルリと引き抜く。槍部分が身体の中を通り抜け、抜けた槍の先端から血の糸が引く。すでに俺の補助スキルが自動的に修復を開始している。傷口が徐々にではあるが目に見える速度で修復をされ始める。

 

 気持ち悪い。自分の内臓が直接触られる感覚ってのは何度あっても慣れない。


 いろんなものが飛び出そうになるのを手で押さえながら神聖魔法を使う。これくらいの怪我なら焦らなくなってきた。

 毒も、猛毒くらいなら問題じゃない。本当に問題なのは、相手を追い詰めたと思って油断したことだ。賢者さんも警告をくれていた。これは完全に俺が悪い。油断しないと決めたのにな。


「大丈夫なの!?」


「怪我は問題ない。俺を殺したきゃバラバラにでもするんだな」


「そ、そう。良かったぁ……!」


 アリスはほっと胸を撫で下ろした。思ったより仲間から心配されてたみたいでちょっと嬉しい。そして申し訳ない。


 しかしその時、デモンドラゴンが隙をみて結界の横の隙間からはい出てきた。


「グロロロロロロロロ!!!!」


 瞳孔が拡大し、ものすごい眼力で俺を睨んでくる。


「うわ…………めっちゃキレてる」


 デモンドラゴンが地面を踏みしめ、地鳴りを上げながら突進してきた。怒り過ぎて白目を向きながら、口を開けている。



「グルアアアアア……!!!!」



「ユウは休んで!!」


 後方からジャンの声がした。無事だったようだ。


 ジャンがタワーシールドを構えたまま、ものすごい勢いで俺を後ろから追い抜き、デモンドラゴンへと突っ込んでいく。


 いや、ジャンでも正面から竜とぶつかれるはずがない…………! ジャンの4倍以上の体躯をほこるデモンドラゴンだ。どう見ても無茶だ。


「おいジャン!」


 呼び止めようとするも、ジャンとデモンドラゴンが正面から衝突する。




 ドゴォンッ……………………!!!!




 その衝撃にビリビリと空気が振動する。


「…………まじかよ」


 現実は想像とは違った。なんとデモンドラゴンとジャンは拮抗した。よく見ると、ジャンが薄い魔力のようなものに覆われ、見ているそばから勢いよくそれらが空気中に蒸発し消えていっている。見た感じ、身体強化とは違うようだ。


【賢者】あれはユニークスキル『ハーフクライシス』の力です。消費量によりますが魔力を消費している間は「力」、「防御」、「速さ」が数倍になります。


 とんでもなく良いスキルだ。それだけの効果だからか、コスパは悪そうだが、ここぞというときの切り札として使える。身体強化の別パターンみたいなものか。


 力が拮抗したまま、ジャンはおもむろに右手で前傾姿勢になっていたデモンドラゴンの頭を掴む。その握力に頭部の外殻にヒビが入る。そして、そのまま地面に叩きつけた。



 ドッ…………ビキキキキキ……!!



 そして頭を足で蹴り上げる! ドラゴンは仰け反り天を仰ぐと、7メートルある巨体がゆっくりと宙に浮き、そのままひっくり返った。



 ズズンンンンンッ…………!!



「まじか」


 竜を蹴り上げて宙に浮かすなんて聞いたことがない。俺でも生身じゃ出来ない。あのユニークスキル、そこまでステータスを上げられるのか。


「ジャン、めちゃくちゃ強いじゃねぇか!」


 眼鏡の見た目からは想像できないワイルドなパワープレイだ。そりゃ頼りになるわな。


「ジャンがあれを使えばもう大丈夫だ!」


 後ろでどや顔で頷くジャンの仲間たち。お前らちょっとは働け。


「このまま終わらせてくれればいいが…………」


 だが、あの魔力の消費速度が心配だ。言わば超強力なドーピングと変わりない。あの勢いで使い続ければ1分持つだろうか。


 そして、ひっくり返ったデモンドラゴンに剣で追撃をするのかと思いきや、ジャンが振り返った。


「ユウ、大丈夫かい!?」


「いやお前、今がチャンスだろ。畳み掛けろ、前だ前!」


 俺が指差して知らせるも、その隙にデモンドラゴンは起き上がって、後退してしまった。


「だって心配じゃないか! 一番はまず人命さ!」


 とことん優しい奴だ。ジャンが大事な選択を誤らないか、そっちが心配だ。


「騒ぐほどの怪我でもないだろ!」


 もう腹の傷は塞がってる。


「騒ぐべき怪我だよ!? ってなんでもう治ってるの!? いや、でも猛毒が…………」


「怪我は治したし、俺に毒は効かねぇんだよ」


「嘘っ……!? そんなわけないよ! デモンドラゴンについてはギルドでも調べてある! かすり傷ひとつで人間が数秒で死ぬ超猛毒を持ってるんだ!」


 納得していないのか、なおも俺の心配をしてくれる。


「俺が普通の人間なわけがないだろ!」


 レアたちが揃ってうんうんと頷く。


「……………………なるほどね!」


 ジャンは少し考えて納得した。


「それより今はアイツだ」


 ジャンの後ろにいるデモンドラゴンを指差した。デモンドラゴンはこちらをじっと見つめ、警戒している。


 いや……違う。警戒してるだけじゃない、魔力が高まっている。仕掛けてくるつもりだ。


「重力魔法だ! 来るぞ!」


 その瞬間、体が強烈な重さに襲われた。俺が今までくらった魔法の中じゃ、トップクラスの威力だ。



 ズズズンッ…………!!!!



 地面にヒビが走り、陥没する。俺たちの家が完全に崩壊し地面と一体化した。俺はたたらを踏むも、身体強化し地に押さえつけようとする重力に物理的に抗う。


「ぐあっ!」


「な、何これ…………」


「ぐっ! 体が………」


 俺とジャンを除いて、皆立っていられなくなり膝をついた。魔術士である2人は筋力が低いため、地面に這いつくばっている。


「ユウ、僕が……!」


 そう言うジャンだったが、想像よりも消耗してそうだった。


「きゃあああ!!」


 さらに重力が強くなる。


 さっきのデミリザードが潰れて死んでいたのはこれか…………! このまま全員を押し潰すつもりなんだろう。だがそこまではさせない。させてたまるか。


 しっかりと足で立ち、右手を開いて掲げた。



「斥力…………!」




 ゴッッ………………………………ッッ!!!!!!!!




 重力魔法である斥力が、下からデモンドラゴンの重圧を押し上げる!!


「あれ? 重くなくなったよ?」


 レアがしゃがんだまま顔を上げた。他の皆も重さがなくなり、顔を上げる。突然普通に動き出した俺たちに、デモンドラゴンの動揺が見える。


「おい、これが本当の重力魔法だ」




 ズズッ、ゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオォォォォ…………ン!!!!




「グル…………ア、ア…………ア……」


 あいつが使ったヨワヨワな魔法じゃない。範囲をデモンドラゴン周辺に絞って魔法を放つと、残像を残すほど一瞬でデモンドラゴンが地面にめり込んだ。



 バキッ! バキバキバキバキ!



 骨が折れ、外骨格が割れる音がする。そして、黒い液体がデモンドラゴンの体からどんどん染み出してきた。おそらく血だ。


 そのままデモンドラゴンは何も声を発することなく動かなくなった。


「い、一撃…………!?」


 ジャンのパーティの男が言った。


「死んだか?」


 思ったよりもあっけなかった。近くで見ると、体が潰れ開いた口から舌をはみ出させて倒れている。腹の部分なんかは10センチくらいの厚みしかなかった。


「ん?」


 その時、かすかな魔力を感じた。


【賢者】ユウ様警戒を。まだ生きてます。


 わかった。


 そして、目玉がグリンと動いた。


「グロアアア!!」


 なんとデモンドラゴンは動かない身体を引きちぎり、頭だけで飛びかかってきた。


「賢者さんをなめるな。バレバレなんだよ」


 頭を魔力で捕まえると、そのまま圧力を高めて握り潰す!


 ブシュッ!!


 フルーツを搾ったような感覚だった。ジューシーな液体が溢れだし、今度こそ動かなくなった。


 搾りかすを投げ捨て、使えそうな尻尾などの素材は回収する。なかなかの相手だった。


「完了……! じゃあ怪我した人、今から治療するぞ」


「あ、あたし」


「僕も頼むよユウ!」


 即座に集まってくるアリスたちに反し、ジャンたちは立ち尽くしていた。


 レアは無傷、アリスとフリーは軽傷だったのですぐに治った。アリスは魔術士でありながら、あの重力魔法は身体強化で耐えていたらしい。

 

 そして、意識が地上にまで飛んでそうなジャンたちをひっぱたいて現実に返す。


「あいたぁ!」


ーーーー


 ジャンたちは傷の程度がひどかった。ジャンも無事なように見えて、打撲傷がひどく、腕と顔が腫れ上がっていた。


「ユウ、君はレベル2なのかい?」


 座ったジャンが治療の最中に聞いてくる。


「まぁな。こないだなったばかりだけどな」


「どおりで。というか、ならなんでまだCランクなんだい?」


「冒険者になって間もないんだ。ランクが追い付いてないだけ」


「なるほど。それならありえるね。僕の権限で上げてあげようか?」


「軽いな! おいギルド長」


 思わずツッコミが入った。


「あははは、でもどうなんだい?」


「いいよ、めんどくさい」


「そっか、残念」


 コルトのギルド長に上げるなとも言われてるし、とりあえずランクにこだわりはない。


「というかジャン、お前ユニークスキル持ってるな?」


 ジャンのケガを治しながらストレートに問いかけると、隠す気もなく答えた。


「ああ、バレたかい?」


「当たり前だ。さすがに生身でドラゴンは蹴り飛ばせないだろ?」


「あはは、それはそうだ」


「なら、ユウのスキルは何なの?」


 皆が聞いていないフリをして聞き耳をたてているのがわかる。でも、あんまりもらしたくはない。


「俺のは、魔法かな。強い魔法。さてどうする? まだ休憩は必要か?」


 あながち間違いではない。


「どうだろう。できたら早いとこ氾濫の魔物を見つけて撤退した方が良い気がしてきたよ」


「ええ、そろそろ皆も余裕がなくなってきたところだし、大怪我をする前に早いとこ調査を終わらせましょう?」


 確かにアリスの言う通り、同じような奴がうろついてるとも限らない。


「そうだな。それにあの竜を蹴落としてダンジョンボスに成り代わった奴がいるのはもはや間違いない。となれば、ここはもはやAランクダンジョンの23階層と考えるべきだ」


「確かにそう考えると私たち、すごいところにいるね…………」


「そう言えばそうね」


「お前ら今頃気付いたのかよ。まぁいい、そろそろ皆の怪我も治っただろ」


「ねぇ、思ったんだけどあの竜が掘って来た穴。どこに通じてるんだろうね?」


 フリーが先の見えない真っ暗な穴を指差す。


「見てみよう」


 竜が掘った通路はかなり大きい。直径8メートルはあり、どんどんと奥へと続いている。さすがにヒカリゴケは生えていないので、光魔法を飛ばし光源を確保する。


「どこまであるんだよ……」


 掘ったばかりで柔らかい土の上を踏みしめ、皆で歩いていく。1分ほど歩くとその先は巨大な縦穴へと続いていた。


「広ぉ…………!」


「ここ、すごい長い縦穴だね。あの竜は下から登って来たみたい。壁に跡が付いてる…………」


 落ちないように手を付いて、穴の底を覗き込んだレアの声が響く…………。


 俺らが落ちてきた穴とは全く違う。あれよりも遥かに大きい、小さな町ならすっぽりの入りそうなくらいに巨大な穴だ。


「どれだけ深いんだろねぇ」


「待ってろ」


 光魔法を底まで飛ばす。皆が見つめるなかで、ずーっと下まで光が降りていく。10秒経過してまだ底に付かないので光を強めてみる。さらに5秒ほどしてからポトッと光が止まった。


「お、やっと止まったみたいだねぇ」


「え…………なに、あれ? また竜? なんかいっぱい…………」


 アリスが底に何かを見つけた。興味深そうにジャンがじっと底を覗き込む。





「あ、あれは…………ヒュドラだ」






こんにちは。

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