第44話 デーモン
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20階層のボス部屋は一辺50メートルくらいの正方形をしていた。部屋への入り口は正方形の角っこに位置している。
薄暗かった部屋は俺達が入るとほのかに明るくなった。デーモンは俺達が足を踏み入れると、ミシシと長い間動いていなかったかのように顔を上げ、俺達を見た。
「じゃ、俺はここで見てるから」
「うん!」
レアが元気良く返事し、3人が緊張の面持ちでデーモンへと近付いていくと、デーモンはゆっくりと腰をあげた。骸骨である頭部に、空洞であるはずの眼下は赤い光を灯している。レアたちはデーモンの動きに注意したまま、それぞれが互いに動きやすいように距離をとった。
「フン、ここでは初めての客だな。これもあの怪物がダンジョンボスの座から蹴落とされたおかげというものか」
「しゃべった!?」
アリスが声をあげた。
「どうした小娘。言葉を話すことがそれほど珍しいか」
デーモンが癪に触ったのか、アリスを見た。
「アリスちゃん、デーモンくらいになると意思を持つんだよ」
「そうなの…………知らなかったわ」
俺も知らなかった。まぁレッサーデーモンであれだけ狡猾に襲ってきたから、デーモンとなれば喋りくらいするか。
「じゃあ、さっそく倒させてもらうよ?」
ニコリとして、刀をシャン……と抜きながらフリーが言う。
「フン、愚かな」
突如両手を広げるデーモンの周りに3つ火球が浮かんだ。それも1つ1つが5メートル級の大きさがあり、とんでもない熱量を湛えている。
「っ!!!!」
それを見たアリスの判断は迅速だった。あらかじめ用意していた魔力を解放し魔法を使う。
「アイスウォール!」
パキパキ、バキバキバキバキバキバキ…………!!!!
火球が放たれるとともに、アリスの魔法が発動した。地面から六角形の氷柱が生え出したかと思うと、それらは次々と組み合わさり巨大な今まで見た中で最大級の氷壁ができた。厚さ5メートル横幅は部屋の端まで到達しそうだ。まるで城壁。視界すべてを埋め尽くす青く澄んだ透明な氷の壁に、火球が直撃する。
ドオォン!!
ドオォン!!
…………ドォガシァァァァァァァン!!!!
3発目で氷が砕け散り、氷の欠片がキラキラと降り注ぐ。デーモンの姿がこちらから見えるも、すべての火球を防ぎきった。こちらに被害はない。
「防げた!」
アリスが汗をかきながらも結果にニヤリとする。少なくとも魔力の出力はアリスの方が上だ。
「皆大丈夫。火竜よりかはマシよ」
「さすがはアリスちゃん、頼りになるねぇ。でもアレを比較に出すとかまじで勘弁だよ」
フリーが笑いながら刀を構える。
「こしゃくな」
デーモンが面白くなさそうにつぶやく。
「うりゃっ!」
様子見でレアが魔力を練り、風の刃を連続8発飛ばす。
デーモンは突っ立ったまま右手を突きだし手首を返すと、ヒョイと人差し指を上へ向け振った。
ボゴンッ!!!!
突然デーモンの目の前に10メートル四方の立方体が地面からくり貫かれ、持ち上がった。
そして、そこにレアの魔力が込められた風の刃が岩に衝突する。
ガッ、ガガガガガガ…………
ズパンッ!
ただの地面の岩を持ち上げただけでは、レアの風は防げなかった。
デーモンの前の岩が左斜めに滑り落ちる。
ズズズ…………ズンッ!
「ぬ…………」
その向こう側のデーモンの腕には切り傷が刻まれていた。
「少しはやるようだな」
デーモンは腕の傷を見ながら言った。
「そんな余裕をかましている暇はないよ?」
フリーがレアが斬った岩の影に隠れていた。影から飛び出し、デーモンの首を狙う。フリーの経験則があるからこそできる、完全に不意を突いた完璧なタイミングだ。
「ふん」
しかし、デーモンが反応し、生身の左腕で防いだ。
「なっ!?」
フリーの刀はデーモンの腕に食い込むも、1センチほどの深さしか斬ることが出来ていなかった。これはあのバケモノ戦の時と同じだ。
「狙いは良かったが……いささか力が足りんな」
デーモンの背の高さは3メートルに及ぶ。フリーも背が高いと言えど、デーモンの首を狙うにはジャンプしなければならない。首を斬り飛ばすつもりだったフリーは、刀を受け止められたまま空中で身動きが取れない。デーモンがギギギと空いている右腕を引き絞り、ガッと力強く拳を握る。
「やばっ……!!」
フリーといえど、直撃を食らえば只ではすまない。
ボッ……!
引き絞られた拳がフリーの腹部めがけて打ち出された。
「アイスシールド!」
アリスが絶妙なタイミングで、フリーとデーモンの拳の隙間に氷の盾を挟み入れた!
バキンッ!!
しかし、アリスとて一瞬で作れる盾の強度には限界がある。デーモンの拳はアリスの盾を空しく貫通し、フリーの腹に直撃した。
「ごふっ…………!!」
フリーが口から血を吐き出した。デーモンはフリーをくっつけたまま腕を最後まで振り切る。フリーは殴り飛ばされ、ダンジョンの壁近くまで飛んでいき、そして壁に衝突した。
ドゴンッ!!
「フリーさん!?」
レアが振り返ってフリーを見る。フリーは地面に横たわると、ごろりと仰向けになりヒラヒラと手を振った。
大丈夫。死んではいないようだ。フリーも自分の刀で防御していた。
「許さない!」
怒ったレアがデーモンに迫る。レアは繰り返し、何度もデーモンに斬りかかるが、全てかわされ、いなされる。
「威力はあるが、剣筋がまだまだ甘い」
そう、レアの魔力を纏った剣ならばデーモンに通じるが、剣の腕が及ばない。フリーは達人クラスだが、強化していない刀ではデーモンの首を飛ばすには足りない。
しかし、レアも剣術スキルが低いわけではない。その攻撃をああまで避けられるのは、あのデーモン、体術スキルがかなり高い?
「なんで!?」
レアがムキになり、剣筋が荒くなった。レアがここまで遊ばれるのは珍しい。風の魔力の纏いも乱れ、集中できていない。それにこないだのベルガル戦のような迅さが今はない。
「レア一度離れて!魔法が撃てない!」
後方からアリスが叫ぶ。
対してレアはチラリと後ろを見て返事をしようとした。
「わかっ…………!!!!」
「よそ見とは、余裕だな」
…………ドォン!!!!
デーモンの回し蹴りがきれいにレアの側頭部に決まり、レアは立った姿のまま不恰好に回転して吹き飛んだ。
「むっ?」
デーモンは蹴り飛ばした片足立ちの格好のまま固まる。どうやら蹴った感触に違和感を感じたようだ。
あの飛び方、普通ならただではすんでいなさそうだ。だが、レアは身体強化し高密度の風を間に挟み入れていたため大丈夫だろう。
「レアッ!」
アリスが心配そうに叫ぶ。
その間にアリスは俺との模擬戦で見せた、無数の氷の刃を作り出していた。あの時よりは数は少ないようだ。アリスの周囲にキラキラと光るものが舞っている。
「行って!!」
ザラァッ…………!!!!
一斉に氷刃が動きだし、全方向からデーモンに対し迫る!!
「そんな小さな攻撃、効くわけが無かろう」
そう言って、先頭の一陣をデーモンは腕で払おうとする。
ドッ…………!
だがアリスが作り出した氷は、デーモンの腕に突き刺さっていた。
「なっ!?」
「ふんっ、馬鹿なの?さっきのフリーを見ていたのよ。対策を練らないわけがないでしょ」
アリスはフリーを庇ったアイスシールドレベルの魔力を凝縮し、1つ1つの氷に込めていた。魔力のあるアリスだからこそできる芸当だ。それもそのはず、アリスの魔力はAランク相当だ。アリスも大分魔力操作に慣れてきている。
そうして、全ての氷の刃がデーモンに向かって突撃した!
「ぐっ…………!ああああああああああ!!」
ドシュドシュ!ドドドドド!!
デーモンがいくら体術に優れているからと言って、全てをかわすことは出来ない。氷の刃がヒュンヒュンと飛び交い、デーモンの血が宙を舞う。
静かになった頃、ようやくすべての氷刃が放たれ、アリスの魔法がおさまった。
「ふん、まだ生きてるの…………しぶといわね」
「……その程度の攻撃でやられるわけがなかろう」
デーモンは十数箇所氷に貫かれながらも、頭と胴体は完璧に守っていた。だが、手足は穴だらけだ。そして、その周りは地面に突き刺さる氷の刃が剣山のようだ。
アリスは気丈にふるまってはいるが、さすがに魔力の消費が激しいはずだ。
「ならこれで貴様はおしまいのようだな」
「偉そうに…………!」
「気付いていないわけないだろう?魔術士である貴様が今無防備であると言うことに」
そう、アリスを守る前衛は今2人ともいない。
「ぐっ…………」
そう言って、デーモンは周りの氷の刃をパキパキと踏み潰しながらゆっくりとアリスの方へ歩き出した。
「傷が…………!?」
そして、じゅくじゅくとデーモンの傷口が元に戻っていく。
アリスはその光景に驚きながらも、後ろに下がることはない。アリスとの距離が5メートルほどにまで近付いた。アリスが短剣のコールドエッジを抜く。
「そんなもので我と戦う気か?」
デーモンがバカにしたように、見下しながら言った。
「あんたはこれで十分よ」
アリスは強気にそう言いながら、剣を構えた。
だがそれはフェイク。アリスは魔法を使う。デーモンの背後から氷の円錐が生え、デーモンを串刺しにしようと迫る…………!
「なめられたものだ」
デーモンは振り返りもせずに、氷の円錐の先を掴むと握りつぶした。
バキンッ!!
「隙だらけよ」
そこに刃を延長したコールドエッジでアリスが首めがけて斬り込む!
「ふん……」
だが、アリスはコールドエッジを握ったまま固まる。
ツーーー…………。
アリスの刀はデーモンの首から一筋の血を流させるだけだった。
「魔術士が我に剣で血を流させたことは誉めてやるが、所詮はその剣のおかげだ」
「くっ…………!」
そしてアリスは膝を突いた。肩で息をしている。さっきの氷刃や防御魔法と大魔法を短期間で連発し、さすがに限界が来たようだ。
デーモンはつまらなさそうにアリスを見下ろす。
「貴様が一番奮戦したがどれも我に見合う相手ではなかったな」
「…………馬鹿じゃない?」
アリスが膝を突いたままデーモンを睨み付ける。
「ん?」
「あたしが時間稼ぎだって気付かないなんて」
「なんだと?」
気配に気付いたデーモンが振り返ると、血まみれのフリーが刀を引き絞り、デーモンの首を狙っていた。
「はっ!またお前か」
先程と同じように腕で防ごうとする。
…………スパンッ!
デーモンの腕は、肘から先を失い高く回転しながら飛んだ。
「なんだと!?」
ブシュウッ……!
遅れて傷口から血を吹き出した。
「さっきとは…………同じと、思わない、ことだねえ」
フリーはボロボロの状態だ。デーモンに殴り飛ばされ、あばら骨が数本はイっている。話すだけで骨がキシむだろうが、フリーは楽しそうに言った。
どうやら魔力強化された腕に思いっきり殴られて、感覚を掴んだのか、魔力操作が一気に目覚めたようだ。フリーは今や、武器にまで魔力を纏わさせられていた。
デーモンもさっきまでのフリーとは違うことに気付いたようだ。デーモンがバックステップでフリーから距離を取ると、ようやく拳を構えた。フリーが敵になり得ると判断したようだ。
2人が向かい合いじりじりと対峙する。
デーモンが先に動いた。
ボッ……!
デーモンの音速を超す拳の突きがフリーの顔面に向かって迫る。当たれば血の詰まった風船のごとく頭は吹き飛ぶ威力だ。
フリーは半身の状態から右肩を後ろに下げ、突きを避ける。そして、そのままの勢いに体を右回転させ、左から横凪にデーモンの胴体を狙う。
デーモンはくんっと体をくの字に曲げ、刀をかわす。
ブシュッ!
「くっ!」
無理な体勢から避けきれなかったデーモンは腹から血が吹き出す。デーモンは腹を押さえながらたたらを踏んだ。
「確かに先程とは違うようだ」
そう言いつつ腹の傷が消えた。
「その再生能力、うらやましいねっ!」
フリーは後ろに盛大に刀を振りかぶると、力のこもった縦斬りで斬擊を撃ち出す!
今まで撃ってた飛ぶ斬擊とは違う。地面に幅2メートルにも及ぶ太い溝を彫りながら、デーモンよりも巨大な斬擊が飛んだ。
「ガアッ!!」
デーモンが濃密な魔力を拳に集め、迎え撃つ。
ズガガガガガガガガ…………ガンッ!
「がっ…………!」
砂ぼこりが晴れると、デーモンは体に長く深い傷を残しながら手足を投げ出し仰向けに倒れていた。
「破れるわけがないよねぇ。これ、おじさんに習った技だよ」
ガララララ……。
デーモンは瓦礫をどかし、膝に手を当てて立ち上がる。刻まれた傷から血が流れ落ちる。
「餓鬼が!」
デーモンが地面を強く蹴り、フリーに向け突撃する。体術のメリットである連擊を放ち、手数の多さでフリーを仕留めようとするが経験則と技術で避け、いなす。
デーモンよりもフリーの方がやはり腕は上なんだろう。力の使い方がわかればフリーがデーモンを上回る。デーモンが躱し、攻撃を繰り出すも全てフリーにいなされ、デーモンの体に傷が増えていった。
「くそがっ!!」
デーモンが両手を広げて、大量の小さめの火球をフリーに向けて放った。
ボボボボボボボボッ…………!!!!
「あぁっ!」
フリーは下がりながらも、避けられないものは刀で火球を斬り裂き、一発も当たることはなかった。しかし、
ガクンッ…………!
フリーは突然力が抜けたのか膝を突いた。
「へ…………あれ?」
本人もわけがわからないようだ。フリーは慣れないうちに大きな魔力を使って斬擊を飛ばした。あれはぶっぱなし過ぎだ。おそらくほとんどの魔力を使ってしまっていた。
「くっ…………はぁはぁ、当たり前だ。そんだけ派手に魔力を使えばわかるだろうに」
そしてその隙に、デーモンが斬られた腕の付け根を左手でぐっと握り、魔力を込める。
「はあぁ!」
気合いを入れたような声の後、ミチミチと音がしたかと思うと、ズルルッ!と腕が生えてきた。
「はぁはぁ…………」
かなり力を使ったのか息を切らしている。他の傷は治っていないため、多用は出来ないのだろう。
「腕が……生えた?」
【賢者】悪魔族は生き物の感情や願いが作り出したものです。完全に肉体に依存はしないので、多少の欠損であれば治癒が可能です。
なるほどな。
そしてデーモンが復活させた右腕を前に突きだした。
「我は召喚する」
稲妻が走ったかと思うと、デーモンの右腕に現れたのは長さ50センチはある3本の鈎ヅメだ。配下じゃなく召喚したのは武器だった。揺らめくような濃密な魔力を感じる。
「あれはまずいねぇ」
そして、右腕を高くかかげ、鈎ヅメをフリーに向けて振りかぶる。
ズガガガガガガガガガガガガガガガ…………!!!!
「くっ!」
フリーは頭を下げることで、鈎ヅメをかわした。だが、離れた遥か後ろの壁には3本の深く大きなケルベロスの爪痕のような引っ掻き傷が10メートル以上にもわたって刻まれていた。速度は変わらないが、魔力を纏っていて威力が段違いだ。あれは今のフリーには受け止められない。背後にできた傷痕を見てフリーが目を見開いた。
「あはは、冗談じゃないねぇ」
そう言うとフリーが立ち上がる。身体強化だけはかろうじて復活したようだ。デーモンが攻勢にまわり、フリーは刀を納めただひたすらに鉤爪を避ける。ダメージが大きいデーモンの攻撃も大振りになり、フリーが必死に避ける。フリーの達人クラスの腕がなけりゃとてもじゃないが、即詰んでいる。
「はぁ、ちょこまかと…………!」
「そんなもの…………!当たるわけにはいけないからねぇ!!」
体に当たれば胴体を分断されるだろう。さっきまでと形勢が逆転した。
ドシュッ!
「くっ!」
だが、血を流したのはデーモンの方だった。フリーが鉤爪を掻い潜り、すれ違い様にデーモンに一太刀浴びせ動きを止めた。
「威力が凄くてもねぇ。速さが変わらないから慣れてきたよ」
尽きようとしている魔力で、フリーが最後の反撃をした。だが魔力の消費過多で鼻血を流している。
そして、斬った後、背後へ走り抜けたフリーを振り返りながら、デーモンが食い縛るように悪態をつく。
「まだそんな動きが…………!!」
「そっちこそ、いい加減くたばってくれてもいいんだけどねぇ!」
両者とも、相手を憎らしそうに睨む。
そして衝突。
フリーの刀がデーモンの腹を裂こうとした。
「甘いわ…………!」
見え見えの右足を後ろに引き、フリーの刀をかわしてからカウンターを狙うデーモンだったが、その足は凍らされ地面に固定されていた。
「どっちが、甘いんだい?」
辛そうにしながらフリーは笑った。
「なっ…………!?」
足が止まり、デーモンのわき腹をフリーの刀がえぐる。血が吹き出した。
「ぐおぉ…………」
ついにデーモンは苦しそうに声を上げる。そして、足を凍らせた犯人に気が付いた。
「貴様まだ…………!」
振り返り怒りのこもった視線を向ける。
「あら、今度はきちんとトドメを刺しておくのね」
アリスが肩をすくめながら、冷たく言い放った。
デーモンの足元からパキパキと凍っていく。反撃する間もなく、デーモンの体は白い霜に覆われた。凍った体からは冷気が漏れ出ている。もはや首から上しか生身の部分はない。
どうやらアリスは魔力ポーションを飲んで回復していたようだ。
「レア!」
アリスがレアを呼んだ。すると、アリスの後ろからゆらりとレアが現れた。
「さっきはよくもやってくれたよね」
レアが剣が揺らめくほどの魔力を纏わせて、ゆっくり歩いてきていた。レアの雰囲気が違う。ほぼ全魔力を剣に込めている。
キレてる。めちゃめちゃキレてる。仕留める気だ。その迫力に目が光っているようだ。
「クソッ!!我がこんな奴らになど…………!」
頭以外が完全に凍りつき動けないデーモンが怒りに震える。
「諦めなよ。ここまでだよ?」
フリーがデーモンに向け刀を突き付ける。
「ぐっ…………ふふっふふふふふふふふ!!」
デーモンがうつむき、笑った。
「まだ何かする…………気?」
デーモンのまわりに火球が1つ現れた。残りの魔力をすべてつぎ込んだかのような濃密で純度の高い炎。
「こんなところで死ぬわけにはいかぬ!!!!」
直径10メートルにも及ぶ火球が一直線に矢のような速さで、俺に向かって、迫る…………!
ん?
「って、おれか!?」
もう3人は大丈夫だと思ってから、イスに座って茶を飲んでいた。
「はははは!! わかっておる。さっきから手を出さず、そこで傍観しておるだけの男。貴様らとは違って、我と戦う力を持たぬのだろう!?」
デーモンが勝ち誇ったように大口を開けて叫んだ。
「ほら、どーした!? お前らの仲間が焼け死ぬぞ?」
「あちゃーーーー…………」
アリスがおでこを押さえた。
「馬鹿、逆よ逆」
目の前まで火球が迫ってきた。波打つ炎の球体が俺を焼き焦がそうとする。
「結界」
ドゴオオオオオオォォ…………ンッ!!!!
大爆発が起きた。壁を焼き焦がす目の前いっぱいの火炎に、爆風で舞い上がる粉塵、揺れるダンジョン。そのすべてが結界に防がれていた。こちらには砂粒1つたりとも飛んできてはいない。
弱いな。ほとんど魔力がなかったか。
「くはははははは!! 貴様らの仲間を1人仕留めた!これで少しはレベルが上がっ…………は?」
何かに気づいたようだ。
「はぁ…………」
フリーが残念そうにため息をついた。
「何を言ってるのかねぇ。このアホ悪魔は」
「ホント。せめて今の攻撃で私らを狙えばまだ、反撃のチャンスはあったというのに…………」
「なぜだ!? なぜレベルが上がっておらぬ!?」
煙が晴れてきた。
「なっ…………!!!! 無傷だと!?」
「だからそうだって」
デーモンがその骸骨の顔を軋ませた。
「おーい!すまん、邪魔した!俺は手を出さんから最後まで宜しく!」
俺が声を張り上げて言うと
「はーい!」
レアが手を振って答えた。
「…………っ!……っ!」
デーモンは苦し紛れに力業でアリスの氷の拘束から抜け出そうとするも、もはや魔力も残ってはいないようだ。デーモンが声をあげられずに、氷に捕らえられた状態で必死に首だけを振った。
「じゃ、あ、ねっ!!!!」
レアが地を這うように下から剣を掬い上げるように振るう。
ズッ…………ズパパパパパパパパパパパパンッ!!!!
バラッ、バラバラバラ…………。
縦に斬られたデーモンが一瞬で体の内側からサイコロステーキのようにバラバラになった。それらが地面にバラバラに散らばる。
そしてポーンと大きく跳ねたデーモンの頭が俺のところまで転がってきた。
「我があんな奴らに…………!」
何か言っている。
靴の裏で頭をボールを止めるようにすると、ちょうど目があった。
「よぉ」
「き、何故貴様は生きている!?」
「そんなの、俺の勝手だろ?」
「勝手もあるか!こんなところで!あのまともに言葉も交わせん竜が、せっかく格落ちしたというのに…………!!」
なんかブツブツ言ってんな。……竜?
「竜がいるのか?ここに?」
「自分の目で確かめるがいい。何をしたかわからんが、所詮雑魚の貴様では…………」
「雑魚、そうか…………」
最後までそう思われてるのは癪だ。
「冥土の土産だ」
俺は引っ込めていた存在感を表に引っ張り出した。
「ひっ…………!」
デーモンは骸骨の首だけになりながらも、ガタガタと震える。その頭に足をのせ、力を込める。
「は…………ば、ばけも…………」
パキパキパキパキ…………パキョッ。
黙ってデーモンの頭を踏み潰した。
「失礼なやつだな。俺より化け物みたいなやつはもっといるっての」
こんにちは。
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