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重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第2章 町へ
37/160

第37話 出発

こんにちは。いつもありがとうございます。

 

 屋敷を出て昼食を食べに来た。コルトの町に3軒店を出しているというステーキ屋だ。お昼の時間を過ぎていたため客は少ない。


「ふぅマーズさんからの宣誓、ビックリだ。ビックリしすぎて『あ、はい』しか言えてないんだが……恥ずかしい」


 もっと堂々としておけば良かった。


「それより、なんかすごいことになっちゃったね」


 レアが疲れをにじませた表情で言った。


「これからどうする?」


 確かにこれから話すことが多すぎる。


「とりあえず支援については、何かあった時に必要な金銭や道具、情報の提供。それに、いざという時の後ろ楯だろうな」


「そうだろうけど、しばらく辺境伯はおおっぴらに動けないはずよね」


「あ、死んだふり作戦だ?」


 レアが人差し指を立てて楽しそうに言った。


「そうそれだ。っと先にメシだメシ」


 ちょうどジュージューと音を立てる肉塊を店員が運んできたとこだった。カチャカチャと音を立てながら皆無心でステーキを食べる。頭を使いすぎだ。


「んじゃ、辺境伯のこともあるけど、まずフィルはなんで刺されたんだと思う?」


 お腹いっぱい食べ、満足感で満たされたながらそう切り出した。


「そうねぇ…………フィルさんが作る武器はどれも一級品なんでしょ? 売りさばくにしても、自分たちが使うにしても、狙う理由には十分よ」


 アリスが行儀良く口許をおしぼりで拭いて言った。


「敵対勢力からしてもフィルの作る武器なら戦力強化につながるってわけか」


「でも、フィルさんって界隈じゃ有名だけど、彼がこの町にいることを知ってる人って少ないわよね」


「じゃあ、犯人は誰かから居場所を聞いたのかな?」


「つまり、情報提供者がいる可能性があるてことか…………なら『情報屋』に話を聞いてみるか」


 あいつに会うのはこの町に来た時以来だな。


「情報屋? あなた、そんなのとも知り合いなの?」


「まぁな、確か…………このへんに」


 ポケットを漁る。


「良かった。あったあった」


 ボロボロになったカードが出てきた。



◆◆



 昼食後、俺達は名刺に書いてあったお店に行ってみた。広場の裏路地にある目立たないがコジャレたバーだ。表に小さな立て看板がおかれている。



『 ーー バー・ニンチェ ーー 』



「ここだな」


 扉を押して開けると、趣のある乾いたベルの音がした。


 カラァン…………。


 中に入ると客は誰もいない。目につくメニューはアルコールばかりで、昼間にもバーとして営業していることに驚きだ。ジャズのような音楽が流れている。

 店のマスターは中肉中背でチョビ髭を生やしジレを着た、お洒落で渋いおじさんだった。入ってきた俺たちを見て、黙って軽く会釈をする。


 カウンターに行き、ニーナの名刺を見えるように置いた。


「取り次いでくれ」


 静かにワイングラスを拭く手を止めるとマスターは言った。


「かしこまりまし……」



「やぁ」



 マスターが言い終わる前に、真後ろから声をかけられた。



「「「おわっ」」」



 振り返ると身長140センチくらいの小柄な女の子? 女性がいた。相変わらずフード付きローブを目深にかぶっていて、顔がはっきり見えない。


「びっくりした。ニーナだな?」


「もちろんさ。久しぶりだねユウ。で、知りたいのは辺境伯、それともフィルじぃの件かい?」


「さすが情報屋。耳が早いな。フィルの方だ」


「わかった。どっちにしろ長くなりそうだね。あっちへ行こうか」


 ニーナの案内で、店の奥、ヴィンテージ感のある黒いソファへ腰かけた。


「こっちの元気なのがレアで、黒いのがアリスだ」


「やほー」


 ヒラヒラと手を振るレア。


「何なのよ、その紹介の仕方」


 今日も上下黒コーデのアリスが不満を言いながらもニーナに会釈をした。


「もちろん知ってるよ。君たちは有名人だからね」


 ニーナは自慢気に答えた。


「で、単刀直入に聞くが、お前、最近誰にもフィルの情報は売ってないよな?」


「それは言えないねぇ。情報屋だって口は、()()()()、固いんだ」


 ニーナがチッチッと指を振る。


 そういうことね。


 黙って1000コルの銅貨1枚を机の上に置いてニーナの方へ滑らせた。


「売ってないよ。その手の情報を買いに来た奴はいなかった」


 口軽いな。


「だったら、フィルさんの事件について何か情報はあるのかしら?」

 

 アリスが聞くが


「さて、その問いは…………うーん、そうだねぇ…………難しい問題だよ」


 ニーナがわざとらしく目を泳がす。


「わかったわ」


 今度はアリスが1000コル渡す。


「どうやら王都の方で暗躍している奴らがいるようなんだ」


「暗躍って、どんな? 具体的には?」


 ちょいちょいと指でお金をせびってくる。


「あーもう。はいよ、これで全部話せ」


 そう言って1万コルの銀貨を渡す。


「これじゃ話せないな。かなり不味い情報なんだ」


 ニーナは俺の銀貨を突き返した。


「わかったよ」


 銀貨を金貨に代えて渡した。


 ニーナは受けとると、ニヤニヤと指で金貨を弾いてローブのポケットへ入れた。


「実はね。この国をひっくり返そうとしている勢力がいる」


 やっぱりそこから入るのか。辺境伯のとこで聞いた話に関連してそうだ。


 とその時、



「や、やっぱり…………ちょっと待ってもらえないかしら」



 アリスが手を突き出してニーナを遮った。


「アリス?」


「ユウ、あなたわかってるの? この話を聞けばもう後戻りは出来ないのよ」


 アリスはしっかり者だ。その場の勢いで決断したりしない。


「そうだな。でも前に進むためにはきっかけと、ちょっとした勢いが大切だ」


「でもね……」


 アリスはチラッとレアを見た。


「乗り掛かった舟だ。違うか?」


 そう言うと、レアは拳を握って立ち上がった。


「そうだよ。私はこういうのを待ってたの! 絶対に勝てる相手ばかりじゃ、成長できないからね!」


 レアは力強く言った。


「お前はちょっと男前過ぎかな」


 苦笑いが出た。まぁレアは心配いらない。


 アリスに向き直った。


「アリス、自分みたいな思いをする人をなくしたいんだろ?」


「え、ええ…………」


「放っといたらどうなるかわかるだろ? まずはこの国を守るところからだ」


 アリスがうつ向いて考え込む。


「…………うん、そうね。そうかもね」


 独り言のように話すと、アリスはソファの背もたれにもたれ掛かる。


「ふぅ…………」


 そして天井を見上げながら深く息を吐いた。


 今日の格好が革ジャンにブーツのアリスは妙に絵になっている。バンドマンみたいで、タバコが似合いそうなほどカッコいい。アリスは今、覚悟を決めているのだろう。


「わかったわ。でも、やるからには徹底的にね? 絶対勝てない相手でも、負けることだけは許さないから」


 そう言いつつ、アリスは親指で首を切るジェスチャーをした。


 アリスは気合いを入れたようだ。


「当たり前だ」


「にっしっし! 良い心掛けだな。是非君たちの名を世界に轟かせてくれ」


 ニーナは楽しそうに俺たちを1人ずつわざわざ指差しながら言った。


「よし。で、敵はぶっちゃけこの国の東側に広大な領土を持つ『マードック伯爵』なんだけどね?」


 ものすごく軽くニーナは情報を漏らした。


「こいつが反乱を企てて、国内の町から有力な実力者を水面下で仲間に引き入れている。それと同時に強い武器を欲しているんだ。それでトップ鍛治士の1人であるフィルじぃが襲われたわけだよ」


 なるほどな。そのマードック伯爵が辺境伯と敵対している相手なのか。


「ということは、この町に来ていた侵入者が伯爵の刺客で間違いないんだな」


「確定ではないよ? おそらくね。この情報は不確定だから無料だよ」


「そりゃどうも」


「ま、襲われたときの状況は詳しくはフィルじぃが目を覚ましたら聞いてみてよ」


「ああ」


「で、伯爵はクルス帝国がバックにいて、反乱が失敗したとしても帝国に高い地位で迎え入れてもらえることが決まってる。ま、反乱が中途半端に失敗しても王国へは深刻な打撃だからね。帝国はそれを狙ってるみたいなんだ」


「あくまでも最終目的は戦争に勝つことか。というかお前はなぜ、そんなことまで知っている…………?」


「その情報は国家予算よりも高いよ?」


 ニーナがフードの奥でニヤッと笑った。


「はは、やめとく。どうせ今は関係ないしな」


「わかってるじゃないか。そう、ちょっと考えればわかることさ」


 ニーナはマスターが運んできたミックスジュースをストローで吸いながら答えた。


「国王は知ってるのか? どうして伯爵に対して動かないんだ?」


「先代ならまだしも、今の国王はそれほど力がある訳じゃないからね。お抱えの兵力も知れてるって話だよ。だから『動かない』じゃなくて、『動けない』が正しいかな?」


「へぇ、なるほど。そういう政界の事情もあるのか。ちなみに、もし反乱が成功したらどうなる?」


「裏で繋がっているのは帝国だからね。戦争にはならない代わり、マードック伯爵が王の座について王国ごと帝国の傀儡になるよ。帝国の思想を知ってるかい?」


「いいや」


 俺たちは首を横に振った。


「あいつらは帝国至上主義を掲げている。どっちに転んでも王国民はただじゃすまない。僕ならまず王国を出るね」


 ニーナは自虐的に笑った。


「なら反乱の阻止は最低条件だな」


「ただ、ここまで行くと正直いち冒険者がでしゃばっていい規模じゃないんだ。王国のSランク以上の冒険者数を知っているかい?」


「いや。こないだの火竜事件で1人死んだことは聞いたけど」


「現在王国のSランクは10人、SSランクは5人、SSSランクは1人さ」


「けっこういるな」


「そりゃうちは腐っても大国だからね。問題はSSSランクが例の伯爵の食客てことなんだ」


「SSSランクが敵か…………考えたくもないな」


「そうさ、こちら側にSSSランクを止められる人材がいないんだよ」


 俺たちは唾を飲み込んだ。ニーナが咳払いをして空気を切り替えるように続ける。


「いいかい? この時のため、強大国である帝国は長年戦争の準備を進めてきた。Sランク以上に相当する兵士は30人以上。非常に厳しい戦いさ」


 想像以上の状況の悪さに、沈黙が流れた。


「さて、ここからは情報屋じゃなく僕個人の見解だけど、間違いなく帝国は攻めてくる。こんな辺境に手を回して戦力を集めてるんだから、仕込みの段階は佳境だよ。あと2~3年以内に反乱を起こすだろうね」


「ふぅ…………なるほどな」


 静かになった。マスターが遠くのカウンターでグラスを拭いて戸棚にしまう音が聴こえてくる。


 話を聞けば聞くほど敵は強大だ。


 すると、レアが口を開いた。


「ねぇ、私たちって、思い返せばスゴくその伯爵の邪魔をしてきてるよね」


「まぁな」


 思い返せばレアの言う通りだ。辺境伯を助け、フィルを助け、火竜を殺し、バケモノとなった人間から町を救った。  


「今さら逃げても目をつけられてそうだな」


 冗談ぽく言った。


「だったら、尚更やるしかないじゃない」


 覚悟を決めたアリスは突き進む。


「そうだな。敵が大きかろうが知ったこっちゃない。俺たちでやるぞ…………!」




「「うん!」」




 レアとアリスは頷いた。


「それで、これからどうするかだけど、何か案はあるかしら?」


「ノープランだ」


 アリスがガクッとこけかけた。最近は打ち解けてきてノリが良くなったかもしれない。


「アリス、お前こんなの得意だろ? こないだのミズーリ村の時といい。我らの参謀じゃん、なんか案はないか?」


「はぁ、なんでよ。考えがあると思うじゃない」


「あるわけないだろバカ」


「誰がバカよバカ。んー…………そうね」


 文句を言いながらもアリスは頭を働かせる。


「まずはその伯爵の動向を探るためにも、王都へ行かないと始まらないんじゃない? ニーナさんが言ったように伯爵は国内の実力者を集めに動いてるとして、それでもこの町は伯爵の計画の末端の末端。必要な情報は手に入りにくいと思うの。だから火中に飛び込むべきじゃないかしら」


 やはりアリスは参謀だ。


「なるほど。なぁニーナ、王都までどれくらいだ?」


 黙ってジュースを吸っていたニーナは顔を上げた。


「本当に行くのかい? 馬車でも1ヶ月以上かかるよ?」


「反乱まで1ヶ月しかないって訳ではないんだろう?」


「うん、まだ余裕はあると思うよ。どのみち伯爵が動いてくれなきゃ尻尾を掴むのは難しそうだし。でも馬車はどうするんだい?」


 馬車か。まだ辺境伯を頼るには余裕がないだろうな…………。


「うーん、そこはギルド長に聞いてみる」


「はぁ、あのギルド長に簡単に聞きに行けるのは君くらいさ」


 やれやれとニーナが言う。


 まぁ、あの人には恩を売ってきたからな。


「それじゃ俺たちは行くよ。ありがとうニーナ」


 俺らは席を立とうとする。


「ちょっと待ってくれないかい?」


 ニーナがごそごそとポケットをあさっている。


「…………はいこれ。返すよ」


 思い出したようにニーナが金貨を弾いて返してきた。


「なんでだ?」


 パシッと金貨を受けとる。


「僕もフィルじぃには世話になってたからね。それはフィルじぃを助けてくれたことのお礼さ。ありがたくもらってくれよ」


 そう言ってニッと笑った。


「わかった。もらっておくよ」


「反乱の阻止が失敗するにしても、成功するにしても僕は君たちを応援するよ。頑張ってね」


「ああ!」


 

◆◆



 店を出てギルドへ向かう。その道中、


「やっ! お久しぶりー」


 相変わらずの細目、腰に刀、着流しを来たフリーがお気楽に声を掛けてきた。


 さっきまで込み入った話をしてた分、その落差に混乱しそうになる。


「フリーさん、お久しぶりです」


 レアが生真面目に挨拶をする傍ら、アリスが無言で会釈する。


「久しぶりだな。すまんちょっと俺ら急いでるんだけど?」


「ごめん、歩きながらでいいからちょっとだけ話聞いてくれない?」


 フリーの方から頼み事とは珍しい。とりあえず、ギルドへ向かいながら話をする。


「どうしたんだ?」


「いやぁ、カイルが修行に出ちゃってうちの『赤鴉』は解散状態なんだよねぇ。それで、一時的でいいんだけど僕もワンダーランドに入れてもらえないかい? お願いだよー」


 フリーが両手を合わせて頼んできた。


「お前、軽いなぁ」


 でも、このタイミングって怪しくないか? あの事件のせいで疑心暗鬼になっているのかもしれないが…………。


「フリー、お前本当にフリーか?」


 ハッとしたレアとアリスがじろーっとフリーを睨む。訳も分からずフリーはたじろいだ。


「へ? どういうこと?」


【賢者】ステータスまでは誤魔化せないので、鑑定すれば宜しいかと。鑑定しますか?


 頼む。



============================

名前 フリー

種族:人間

Lv :69

HP :1202

MP :590

力 :1623

防御:1390

敏捷:1860

魔力:970

運:395


【スキル】

・剣術Lv.8

・抜刀術Lv.6

・縮地Lv.2

・天歩Lv.1

・解体Lv.5

・探知Lv.5


【魔法】

・火魔法Lv.3

・風魔法Lv.3


【耐性スキル】

・斬撃耐性Lv.7

・打撃耐性Lv.4


【補助スキル】

・自然治癒力アップLv.5


【加護】

刀の加護

============================


 間違いない本物だ。


 フリーは『刀の加護』という加護持ちで剣術に特化し、剣術はもはや達人の域だ。さすがは町ナンバー1パーティの副長だったことはある。

 それに前衛特化のフリーがワンダーランドに入ってくれれば、かなりの戦力強化になるしパーティのバランスも良くなる。


「なんのことだい? なんかわからないけど、僕は僕だよねぇ」


 と首をかしげながら答えた。


「ならフリーならわかる問いだ。レアにはどんな服が似合うと思う?」


 急に名前を出されてレアがキョトンとすると共に、フリーの顔つきがキッと変わった。


「ああ、ちょうど前にユウに言おうと思ってたんだけど、ギルド受付嬢の制服ってどうかな? 絶対似合うと思うんだよねぇ」


「た、確かに……! 大人っぽい服装もあ…………じゃなくて間違いなく本物だ。どうだ? 俺は是非入ってほしいと思う」


 レアとアリスに向き合って相談する。

 

「途中は何の話かわからなかったけど、フリーさんなら大丈夫だよ!」


 レアは初めフリーに剣を習ったんだったな。


「あたしは……多分大丈夫。それに人を見る目ならユウの方が良いわ。あたしだって、あなたに誘ってもらったのだしね」


 こそこそと話をし、フリーの方を振り返る。


「わかった。これからよろしく頼むよ」


 フリーとがっしりと握手をかわす。


「わーい、ありがとねぇ」


 相変わらず緩いフリー。


「よろしく」


「フリーさん、よろしくお願いします」


 俺たちは改めてフリーと握手を交わした。


「ちょうど良かった。今からギルドに行くから一緒に来てくれるか?」


「りょうかい!」



◆◆



 ギルドへ入り、忙しそうなルウさんへは2階を指差しアイコンタクトを送るとコクッと頷いてくれたので、4人でギルド長室へ向かう。


「あれ? 依頼じゃないのかい?」


 階段を登りだした俺たちにフリーが聞いてきた。まさか用事が2階だとは思っていなかったのだろう。


「ギルド長に話があるんだ」


「わぁ、そりゃ大ごとだね」


 フリーが苦笑いをする。


 ギルド長室を俺がノックすると


「入れ」


 部屋の前、いつもの無愛想な声で呼ばれた。


「忙しいところすまんな」


 もはやギルド長に顔が利くようになってしまった。


「またお前か。で、なんでお前も一緒なんだ、フリー」


 ギルド長が座ったまま書類から顔を上げると、フリーに気がついたようだ。


「ついさっきここのパーティに加入したんだよねぇ」


「はぁ…………お前も物好きだな。それで、今回はどんな厄介事だ?」


「厄介事だと決めつけるな、と言いたところだが…………」


 俺の言葉を聞くなり、ギルド長はげんなりとした。


「またか…………」


「まぁまぁそんな顔せずに。辺境伯とフィルが襲われたのを知ってるか?」


「ああ聞いてる。どちらもお前が助けてくれたんだったな」


「その件についてギルドはどこまで掴んでる?」


 ギルド長がじっとこちらの目を見てくるので黙って見返してみる。なんらかのスキルだろうか。単純にかまかけだろうか。


「わかったわかった。話そう」


 ギルド長はわざとらしく両手を上げて観念した。すぐさまギルド長が魔法で部屋の音漏れをしなくした。


 それから俺達の知っている情報とギルド長の知り得た情報を擦り合わせた。

 ギルド長は辺境伯から情報を回してもらっていたそうだ。しかし、マードックが帝国と繋がっていたのは知らなかったようだ。ということは、これはニーナだけが知り得る情報か。まじであいつ何者なんだ…………。


 俺とギルド長の背後では、フリーがいつものニヤニヤ顔のままフリーズしていた。


 確かにフリーからすればとんでもないタイミングで入ったもんだよな…………。


 そう思っているとギルド長が口を開いた。


「なるほど。状況は理解した。それで、まさか王都へ行きたいとか言い出すんじゃないだろうな?」


「さすがよくわかってるな。じゃあさっそく馬車と地図をくれ」


 手を差し出した。


「やるわけないだろう」


 ギルド長は額に手を当てため息をついた。


「いや、持ってるだろ?」


「持ってるのと渡すのは違う」


「いっぱいあるだろ?」


「複数あってもお前の分はない」


「なんで?」


「こっちが聞きたいくらいだ! なんであると思う!」


 ギルド長が机をグーで叩いて憤慨した。

 

「ダメかぁ……」


「当たり前よ。なんでそれでいけると思うのよ…………」


 アリスが呆れた声が聞こえたかと思えば、ギルド長が観念したように言った。


「あぁ…………仕方ない。馬車なら貸してやれるが、地図は規則上無理だ。戦争時、戦局を左右する情報だからな」


「ああ、それもそうか。ならとりあえず馬車だけでも貸してもらおうかな」


「嘘でしょ…………なんで貸してもらえるのよ」


 アリスが退いている。


「いや待て…………お前は確かBランクの昇格試験がまだだったな」


 ギルド長が何かひらめいたようだ。


「ああそうだけど?」


「なら、試験として地図と馬車を貸し出してやろう。これなら言い訳できる範疇だ。お前と一緒にするなよ」


「はいはい」


「地図は絶対に返すんだ。いいな?」


「なくしたらすまん。ちなみにだが、その試験内容は…………?」


「国を救え」


「それBランクの試験…………?」


 とそこへギルド職員が駆け込んできた。


「ギルド長失礼します! フィルさんが目を覚ましました!」


「フィルが!?」


 良かった、起きたか。


「よし、今行く。お前たちもついて来い」



◆◆



 診療所はギルドのすぐ裏手にあった。


 シンプルな全体的に白い石造り3階建ての建物だ。ごちゃごちゃした内装はなく、清潔感漂う白色のベッドが並べられていた。天井は案外高く、シーリングファンで空気をしっかり循環させ、庭では水魔法で患者のシーツが洗われている。

 ここは元々怪我の多い冒険者用にギルドのそばに建てられたそうで、時たま出入りするギルド職員も見かけた。

 案内された場所へアリス、レア、フリー、ギルド長と一緒に向かうと、フィルがベッドに座って赤い果実を齧っていた。


「おう、ユウ。助けられたみたいじゃの」


 俺に気が付くと、手を上げて呼んでくれた。


「気にすんな。もう飯も食べられるくらいには回復したか。体調はどうだ?」


「いいぞ? 寝込む前よりもな! はっはっは!」


 予想以上に元気そうだ。良かった。良かった。


「元気そうだなフィリップ。何よりだ」


 相変わらずの愛想の悪さで、ギルド長がフィルを見下ろすように言った。それに気付いたフィルが言う。


「おう、ゾスの坊主か」


 そう言われて、ギルド長がさらに顔をしかめた。


「ぼ、坊主!?」


「昔からの知り合いじゃ。こいつがまだひよっこ冒険者だった頃からの」


 いやいやいやギルド長はエルフだぞ? フィルって一体いくつなんだ?


「おい、犯人については何か覚えてるか?」


 明らかに嫌そうな顔をしたギルド長が話題を変えにきた。


「そうじゃのう……犯人は覆面をしておった。仲間になれば優遇すると言われたんじゃが正直、まったく興味なくての。断ったら口封じに刺されてしもうた! ははは」


 フィルは無意識に刺された箇所を手でさする。


 ただの暗殺じゃない。フィル自身の勧誘も兼ねてたのか。


「偽コリンズではないもう1人の方だな。そいつの特徴は? 口調とか仕草とかでもいいんだ」


 フィルはアゴを触りながら考える。


「んん~、何も思い当たるものはないのう」


「ないか…………」


 広い王都では、探そうにも手がかりがなしで見つけるのは難しい。


 どうしようか考えていると、フィルが思い出したようだ。


「いや、あいつはわしの店の武器を奪ったんじゃな?」


「ああ。フィリップの店の商品は良いものばかりが盗まれていた」


 ギルド長がそう言うと、言い方が気に触ったのか少しムッとしながらフィルが言った。


「全部良いものじゃがのぉ…………その中に、お主に頼まれていた武器が含まれておる」


「なんだと…………? それは許せん」


 俺が命懸けで取った素材だ。オークの包丁に火竜の牙を使った武器だ。楽しみにしていたのに。


「たとえ顔を変えようが、積み荷を確認すれば犯人かどうかわかるはずじゃ」


 すると、それまで黙っていたアリスが口を開いた。


「あぁそっか。人じゃなく、積み荷で馬車を特定できるならなんとかなるかもしれない…………! 王都は遠いから途中で追い付ける可能性は十分あるもの」


「それなら確かに可能だ。だとしたら今すぐ追いかけた方がいいな」


 そう言って3人を見れば、もう覚悟は決まってるようだ。

 はっきりと俺の目を見てレア、アリス、フリーはコクリと頷いた。フリーは半ばヤケクソにも見えたが。


「私はギルドに戻って馬車を用意させる。お前たちは長旅の準備を整えろ。3時間後にギルドへ来い!」


 そうギルド長はローブを翻して言った。


「わかった。よしお前ら、テントや飲み水は魔法でなんとかできる。1ヶ月分の食糧と他必要そうなものを用意するぞ」


「それなら僕は前のパーティの寝袋があるから持ってくるよ」


「助かる。食べ物は俺が用意する。後は各自準備だ。それじゃ3時間後にギルド前集合だ!」


「「「了解!」」」



◆◆



 そして一旦フリーは自分の宿に、俺たちは屋敷に戻った。


「レア、アリス。空間魔法に荷物を入れるぞ」


 バタバタと屋敷の中を走り回りながら大声で話す。屋敷の中なら響くからだいたいどこでも聞こえるだろう。


「あら、何かありましたの?」


 スカーレットが絵画の中、上品に頬に手のひらを当てながら問う。


「すまんスカーレット、説明してる暇はないんだ! でもしばらく屋敷を空けることになる!」


「しばらくとは、どのくらいでしょうか?」


「俺にもわからん!」


「…………わかりました」


 スカーレットは少し寂しそうに答えた。


 そりゃそうか、スカーレットが目が覚めてすぐ、屋敷の主人が出ていくんだもんな。


「そんな顔すんな。後で俺の信頼できる友人をよこすから、屋敷を頼むぞ」


「わかりましたわ。わたくしは命に変えてもこの屋敷を守ります!」


 スカーレットは額縁の中で腕まくりをした。とそこに、


「ユウ~! 空間魔法があるけどカバンもいるの?」


 レアが前に俺とフリーが買ってやった服を持って、廊下を歩いてきた。


「一応な。フリーを完全には信用できてない。とりあえず荷物は見せかけだけでもマジックアイテムに入れている形で行こうと思う」


 レアから荷物を受け取り、ほいっと空間魔法へと入れる。


「で、でもフリーさんは良い人だよ?」


 レアはフリーが信用されていないことが悲しいようだ。猫耳がしゅんとなっている。


「それはわかってる。だけど、すまんな」


 わかってるが、あんな事件があった後は用心深くもなる。パーティメンバーを守るためでもあるから許してほしい。


「フリーさんには昔、助けられたことがあったの。フリーさんは絶対に大丈夫だから! ね?」


「うん、フリーは胡散臭いだけで、良い奴なのは俺もわかってる。ただ、もう少し待ってくれ」


「うん…………わかった」



◆◆ 



 それから、準備に手間取っていた女の子組は別行動にして、俺は食べ物を買うために屋台を目指しつつ、とあるパーティを探す。


「さて、あの馬鹿弟子はどこだ? 依頼に出掛けてなきゃいいが」


 探しながら向かうも、先に屋台通りに到着してしまった。

 東南アジアの街中のような香辛料の香りが立ち込め、料理で上がる湯気がモクモクと上がっている。ガヤガヤと人が大勢料理を求めて並んでおり、店では昼過ぎだというのにもう飲み始めている者もいる。ここらの店舗は平均で1食300コルほどと、料理が安くて旨い。


 とりあえず、旨そうや屋台の飯を片っ端から購入し、適度に量がたまると路地裏に入って全部空間魔法に収納した。4人いると結構な量になる。時間はかかったが一応1ヶ月分購入できた。


 と、そんな風に買いまくっていると知らぬ間に目立っていたのか、お目当ての人物から俺らを見つけてくれた。


「師匠! そんなに買って、いったいどれだけ食べるんですか!」


 この感じ、間違いなく馬鹿弟子だ。


 振り返ると、ちょうどガブローシュ、エポニーヌ、コゼットが揃っていた。こぞって俺を見上げている。


「こんにちは。師匠」


 エポニーヌが挨拶し、コゼットは会釈してきた。3人とも元気そうだ。


「良かった。お前らを探してたんだ」


「なんでです?」


「頼み事があってな。ガブローシュ、お前俺らの屋敷知ってるだろ?」


 ガブローシュが人差し指を立てて思い出したように言った。


「ああ、あの馬鹿広い屋敷ですね?」


「誰が馬鹿だ」


 ズドン。


 思わずデコピンが出た。


「あいたっ!」


 ガブローシュが後ろにのけ反り頭が見えなくなった。


「俺たちしばらく王都に行くから、その間あそこに住んで屋敷を守ってくれないか?」


「王都にぃ!? それに、あ、あああ、あそこに住む!? そんなの聞いてないですよ!」


 ガブローシュが煙の出るおでこをさすりながらツッコんできた。


「言ったろ?」



「「「いやいやいやいや」」」



 3人揃って手を横に振った。


「言ってなかったか。まぁそういうことだ」


「む、むしろ宿代が浮きますし、そんな豪邸、願ってもありません!」


 エポニーヌはむしろ嬉しそうだ。


「ああ、頼むよ。空いてる部屋は自由に使っていいからな」


「わかりました。師匠が戻って来るまで何人たりとも入れません!」


「客は入れていいからぞ。それとな」


 ちらりとガブローシュたちを3人を改めて一瞥した。


「何です?」


「お前ら、ランクは何になった?」


 俺は3人を1人ずつ見る。


「まだEランクのままです…………」


 ガブローシュが言いにくそうに言った。


「いや、それは良い。むしろ無茶をしてないようで良かった。ただ、さっきの話だが俺らはすぐに戻って来れるかわからない。下手すりゃ1年以上かかるかもしれん。だからな、ちょっと今から屋敷に行くぞ」


「「「へ?」」」



◆◆



 そして俺の屋敷の庭。


 庭は青々とした芝がきれいに生え揃い、キラキラと輝いて見える。


「すっごお!!」


 3人が青々とキレイに芝が生え揃った庭に素直に感心している。


「前、こんなんでしたっけ?」


 ただ、説明していたらキリが無さそうだ。


「時間がない。お前ら、魔力操作は取得できたか? 今のスキルレベルは?」


「俺はレベル4です」


 ガブローシュは自信満々に答えた。


「私はレベル3です」


「私も…………」


 うん、きちんと練習してたみたいだな。


「ガブローシュだけレベル4か。頑張ったな。十分だ」


「あの…………」


「なんだ? どうした」


 エポニーヌだ。


「魔力操作を取得することに本当に意味があるのでしょうか? このスキル、ユニークスキルでもないのに使う人も、持っている人すら聞いたことありません! 真面目に魔法の練習をした方が…………」


 エポニーヌには疑問があったようだ。


「おい! 師匠を信じろよ……!」


 ガブローシュがエポニーヌを咎めようとする。


「いや、説明をしなかった俺が悪い。エポニーヌの疑問ももっともだ」



ーーーー



 それから、魔力操作で無詠唱での魔法発動や身体強化ができるというところまで口頭で教えた。


「本当に…………そんなことができるのですか!?」


 エポニーヌが信じられないと言った。


「できる。例えば、俺は詠唱をしたことがない。それ以前に詠唱を1つも知らない。見てろ?」


 俺は魔力操作で体外に出した魔力から等身大くらいの球体の水を作り出した。作り出した水は球体を保ちながらチャプチャプと揺れ動き、水面に太陽が反射してまぶしい。


「こんな感じだ」


「で、でもあれは訓練を積めば詠唱を省略したり、心の中で唱えることができるから、師匠もそうなんだと思ってました!」


 魔法に詳しいコゼットならそう思うのも無理はないか。


「ん~、まぁ頭で詠唱してるんじゃないかと言われたら証明は難しい。ただ、俺は自分でイメージした魔法を使うから、逆に教科書通りの魔法は知らない」


 どうやったら無詠唱を証明できる? シンプルに、高魔力になればなるほど無詠唱は難しいだろうか…………?


「それなら…………!」


 真上の空を指差す。空に太陽のような、1メートルほどの高密度の炎の塊を出現させた。



 カッッッッ……………………!!!!



「うわっ…………!」


 白く輝くような熱量を持った塊は周囲の温度を一気に上昇させる。現れた途端、一瞬で熱が辺りを支配した。噴水の水が、空中に投げ出されたまま着地することなく蒸発し、屋敷の屋根瓦や塀が熱で変形し始める。




 ジリジリ…………ジリ、ジリジリ……………………!




「さぁどうだ?」


 振り返ればガブローシュたちがフラフラになっていた。


「す、すごい熱です…………!」


「し、しょ…………さすがに熱い」


 肺が焼けつきそうなほど暑くなったため、ガブローシュたちの意識が朦朧としており、今にも倒れそうだ。


「…………や、やり過ぎたっ!」


 慌ててミニチュア太陽を消すと、灼熱の気温が元に戻った。


 周りへの影響考えてなかった……。

 まずここ町中だし、ご近所さんたち大丈夫か? これギルド長の耳に入ったら殺され…………いやいやいや! 考えたくもない。


【賢者】少し屋敷の周辺に雨を降らせておきます。


 助かる賢者さん!


 ポツポツと降り出した雨がジュージューと立ててはいけない音を鳴らしながら周囲の温度を下げていく。


「…………な、なんか見たか?」


 庭に腰を抜かして放心状態の3人に、さりげに神聖魔法をかけながら聞いた。


「今、ちっちゃな太陽がここに…………?」


 ガブローシュが虚ろな目で空を指した。




「幻…………だな」




 バレたら町を出るどころか、ギルド長に殺され埋められ一生町から出られなくなる…………もう前の竜巻のせいで後がない。


「え? 地獄のような灼熱だったような…………あ、あんなリアルな幻あります?」


 首を傾げるエポニーヌ。


「あれくらい、普通だろ?」


「幻なはずありません! それに無詠唱どころか、文献にすら存在しない魔法でした…………!」


 そう興奮して饒舌で話すコゼット。


「…………さすがに無理があるか。ちょいちょい」


 指をくいくいとして3人を集め、肩を組む。


「お前ら、さっきのは幻だった。黙ってそういうことにしてくれ」


「そんな、スゴい魔法でしたし…………!」


「いいか? 正直、ちょびっとな? ちょびっとだけやり過ぎた。町中であんな魔法使ったのがバレたら俺がギルド長に火葬される。だからなかったことにしろ。わかったな?」


 俺の必死さが伝わったのか、3人は黙って首を縦に振った。


 教育はこれくらいにして、魔力操作については理解してもらえたようだ。これで、まじめなこいつらならしばらく俺が見なくても成長するだろう。


「ちなみに身体強化は使いこなせれば、一気に強くなった気がするが、筋肉に少なくない反動があるし、魔力だって消費する。調子に乗らないこと。まぁお前らなら、もう大丈夫だと思うがな」


「すっげぇ…………」


 ガブローシュは自分の手のひらを見つめていた。


 ガブローシュはすでに剣闘大会の時片鱗が見えていたから、さっきの説明で少しの身体強化ができるようになっていた。


「私たちが師匠の足元にも及ばないことがハッキリとわかった気がします。疑うような真似をしてごめんなさい」


 まじめなエポニーヌは納得してくれた。


「いや、何も説明してなかった俺が悪い」


「これなら魔術士の選択肢が広がる……!」


 コゼットの魔法に対する常識をくつがえしたようだ。


「コゼット、これは使いこなせれば魔術もさらに強化できる。魔力操作のレベルが上がったら属性をのせてみろ」


「属性を…………? わかりました。とにかく今は地道に練習します」


 コゼットがぐっと拳を握った。


「よし! そしたら屋敷を頼んだぞ! 短い時間しか教えられなくてすまん! 次はきちんと面倒見てやるから、Dランクにもきちんと上がっておけ」


「「「はい!」」」


「あ、それとスカーレットによろしくな!」




「「「スカーレット?」」」




◆◆



 それから少し遅くなってしまったのでギルド前へ急いだ。走っていくとギルド前の通りに馬車が用意されているのが見えた。

 というかよく見れば馬車をひいているのは馬じゃない。3メートル以上はある丸っこいサイに似たヴォーグという魔物だ。体は鎧のような皮膚に覆われ、頭、肩からツノが生えていた。ヴォーグレースに出ている生き物のようだ。


「あ、しまった。長旅だからこいつのエサ考えてなかった」


「それは大丈夫よ」


 声が聞こえた方を振り替えるとアリスだった。どうやらギルドから出てきたようだ。


「おうアリス、大丈夫ってのは?」


「ヴォーグなら草でも魔物でもなんでも食べれる超雑食よ。そこも買われて運搬用に使われてるの。それに、この巨体が食べる量なんて運べないわ」


「アリスは何でも詳しいな」


「常識じゃない。で、荷物はどうするの?」


「とりあえず、これを拡張カバンとしよう」


 そう言って俺は背中に背負っているリュックサックを見せる。オールなめし革でできたお気に入りのリュックだ。この町に来てすぐに買った物で結構高かった。4万コルくらいした。俺はけっこうおしゃれだと思ってる。


「なるほどね。了解」


 と、ちょうどこちらへ向かってくるフリーが見えた。寝袋を4つも担いでいる。その後ろから両手に荷物を抱えて走ってくるレアが見えた。


「よし、全員揃ったな。フリー寝袋ありがとう。それはこのリュックに入れておこう」


「それなんだい?」


 フリーが訝しげに鞄を見る。


「見ててくれ」


 寝袋は吸い込まれるように、ズボッとリュックに入った。


「拡張カバンかい!? 信じられないくらい高かったよねぇ?」


「まぁな。フフン、良いだろう。これも火竜討伐の報酬で買ったんだ」


 ガチャ。


 ちょうど扉を開けてギルド長が現れた。


「準備はできたか?」


「ああ。もうほとんど完了だ」


 4人分の食料に食器類、念のためレアが買ってくれてた回復薬と魔力回復薬、解毒薬も全部空間魔法へ入れてある。一番かさばる夜営のテント道具類は俺が土魔法でなんとかするので不要だし、地図と馬車はギルドが用意してくれた。


 ちなみに俺の異空間だが、俺が作り出しただけあって気温や湿度、明るさ、重力の向き・強さまで自由自在だった。なので試しに時間も止めれるかと思ってやってみたら、止められた。中に氷を作ってサウナくらいの気温にしても、1時間後見に来ると溶けてなかったのが証拠だ。


 すると出発の最終確認をする俺たちに、ギルド長が思い出したように話し出した。


「ところで、さっきお前たちの屋敷を中心にあの辺り一帯の気温が急上昇したらしいんだが、何か知ってるか? まるで太陽でも近くに現れたんじゃないかと思うほどだったらしい」


 なんでもう情報が届いてるんだよ。バレる前に出ようと思ってたのに。


「知らんな。異常気象じゃないのか? 世も末だな」


「そうなんだ。最近は竜巻もあの辺で起こったしな。困ってるんだ。ちょうどお前があの屋敷を買ったくらいからだな。世も末か」


「大変だな。はははは」


「はははは」



「「はははははは!」」



 ギルド長が胸ぐらを掴んで顔を寄せてきた。


「おい、こういう魔法が絡んでそうな事件は全部うちに問い合わせが来るんだ。馬車に爆弾でも仕込んどいてやろうか?」


 …………まじおっかない。


「ぐぇ…………ごめんなさい。爆弾はやめてください。許してください」


 ピキピキなギルド長に殺されそうなので俺たちは慌ててバタバタと馬車に乗り込んだ。


「おい、これが王都までの地図だ。地図は必ず返せ」


「わ、わかった」


「それと衛兵の方に確認したが、偽コリンズは今から4時間ほど前に検問を通過していたそうだ」


「そうか。けっこう経ってるな」


「追い付けなくともとりあえず王都を目指せ。馬車の方はいつでも出発できるぞ。もう出られるか?」


「行ける! いつでも大丈夫だ」


「そうか。よし、お前らこの国の行く末を頼むぞ。しっかりやってこい!!」



「ああ! それじゃ行くか、出発!!」



 俺たち4人を乗せた馬車は王都に向け出発した。



読んでいただき、ありがとうございました。

良ければ、ブックマークもしくは評価、感想等お待ちしております。


※修正済み(2024年2月16日)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 二章まで読みました。設定と伏線の貼り方が細かく、今後の展開も楽しみです。また、主要キャラクターに不快な感じがなく、感情移入もしやすいです。
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