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【100万PV突破!!】重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第2章 町へ
33/159

第33話 Lv.2の実力

こんにちは。

いつもありがとうございます。仕事が忙しくなり、遅くなってしまいました。

33話目になります。

 

 今日はレベルアップした皆のステータスの確認だ。今後は3人の実力を把握するために何度か依頼をこなすつもりだ。


 待ち合わせたギルド前は今の時間帯が1番冒険者たちが集まる早朝ということもあり、冒険者の出入りが激しい。のんびりと武器だけ持っていく者もいれば、馬車に何日分かの食料を積み込んで出発しようとしているパーティもいる。


 レア、アリスの3人でガヤガヤと行き交う冒険者たちの間をすり抜け、ギルドへ入ると


「ユウさーん」


 入るなり、俺を呼ぶ声が聞こえた。カウンターを見るとルウさんが身を乗り出して手招きしている。


 いつの間にか俺たちはルウさんの常連客になっていた。ただ、向こうも自覚してくれているようで話が早い。


「なんだろう?」


「ユウのランクアップの件じゃないかな?」


「あ、そうだった」


 火竜の討伐に貢献すればランクアップを考えてやるとギルド長に言われてたんだった。ホームのことで忘れてた。


 ルウさんのカウンターへ向かう。


 周りの冒険者たちは俺だとわかるとざわめいた。火竜の件の後、俺の知名度はこの町1番になっていた。

 受付前はごった返していたが、自然と冒険者たちが道を譲ってくれる。


「おはようルウさん」


 今日もルウさんは美人だ。


「おはようございます。呼び止めてしまいすみません。ランクアップの件が確定したので一度ギルド長とお会いしていただけますか?」


「わかった。上に行けばいいか?」


「はい。案内します」


「おーい、ちょっとそこで待っててくれー」


 人垣の向こうにいるレアとアリスに声をかけると、2人はわかったとばかりにヒラヒラと手を振って返した。


 ルウさんの後について階段を上っていく。

 膝丈のタイトスカートから見える脚がすらりと長くて綺麗だなぁと思いながら着いていくと、いつの間にかギルド長室前に着いていた。


「ギルド長、ユウさんをお連れしました」


 ルウさんがドアをノックする。


「入れ」


 部屋に入ると、こちらを向いてデスクにギルド長が座っていた。俺が入っても、男エルフであるギルド長ゾスはその長いプラチナブロンドの長髪に魔石灯の光を反射させながら書類を眺めている。


 かと思えば顔を上げ、俺を見て嫌な笑顔を浮かべた。


 この人、笑顔似合わないなぁ……。


「ふん、やはりあの時倒れたのは種族レベルが上がったためか」


「…………さぁな」


 油断ならない人だ。よくわかるな。


「それで? 俺は合格だったか?」


「ふん。文句なしだ」


 ニッと歯を見せるギルド長。


「ふぅ、これでCランクか…………というか竜の討伐だからAランクにしてもらえないのかよ」


「ダメだ。冒険者ギルド共通の規定でな。Bランクからは上級試験に合格する必要がある」


「上級試験?」


「ああ、うちのギルドでは盗賊討伐だな。単純に魔物を狩るのではなく、対人戦や要人護衛といった複雑な内容の依頼経験が条件だ。お前はまだ未経験だろう?」


「ないな。それは俺もすぐ受けられるのか?」


「すぐには無理だ。試験に合った依頼がない。参加資格はお前なら十分だがな」


「わかった。とりあえず依頼があったら受けさせてくれ」


「ああ、もちろんだ。正直、火竜を殺せるお前をCランクに留まらせるのはギルドとしても良くない。早く上がってくれ」


「はいよ」


 ギルド長はこれで話は終わりだとでも言うかのように、手元の書類をトントンと机に当ててまとめて立ち上がる。だが続けて言った。


「そう言えば、この町を出るつもりはあるか?」


「ん? ないが、なんでだ?」


 むしろ拠点を買うところだ。


「カイルが去ってしまったからな。お前まで離れられると町の防衛にさける人員が減って困る」


 ギルド長は棚に書類を片付け、机の上に腰かけた。


「そういうことかよ」


 必要なのは俺じゃなくAランクってか。


「それとフィリップスの、鍛冶屋だがな、体調が悪く今日は休業らしい。お前、あの時刀折ってただろう? 行くなら明日にしてやれ。あいつも大分年だからな」


「ん? わかった」


 へぇ、意外や意外。ギルド長もフィルを知っているのか。

 とにかく早いとこ素材を持って行かないとフィルが先にくたばりそうだ。


 新しいギルドガードを受け取り、部屋を出ようとすると、


「ああそうだ」


 するとまた呼び止められた。


「まだあんのかよ!」


 ツッコむ俺に黙ってジッと視線を向けてくる。


「…………な、なんだよ?」


 気味が悪い。


「昨日、西区の方で巨大な炎の竜巻が目撃されたそうなんだが、心当たりはあるか?」


 げっ…………。


「し、し知ららないません。不思議ですすね」


 危ない。ドもるとこだった……。


「しかも負傷者はゼロ。家屋にも被害がなかったそうだ。スゴ腕の魔術士としか思えん。教えを乞いたいくらいだな」


「いやー、それほどでも」


 誉められると顔がにやけ、和やかな空気が流れ…………かけた。


「やっぱり貴様か。今度やったら知らんぞ? わかってるだろうな?」


「すません」



◆◆



「はぁ」


 タメ息をつきながら1階に戻ると、レアとアリスはテーブルに座って仲良く談笑していた。


「あ、ユウ! どうだった?」


 レアが俺に気が付いた。


「無事にCランクに昇格だ。ほれ」


 そう言って俺はCランクを示す緑色になったギルドカードを見せる。


「やったねユウ! おめでとうー!!」


 レアが満面の笑みで祝ってくれた。ついでにハイタッチした。


「おめでとう」


 アリスもパチパチと拍手しながら祝ってくれた。


「ああ。それで、なにか良い依頼はあったか?」


「あったよ! 待ってる間に見てたらちょうど良さそうなのがあったんだよ。ほらこっち!」


 レアに連れられ依頼表を見に行くと、レアが指差す先、オークの集落の調査依頼とあった。


>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>

~オーク集落の調査~


推奨:Cランクパーティ以上


種別:調査依頼


場所:魔物の森 南西奥地

 

詳細:魔物の森南側でオークの目撃情報が急増している。オーク集落の有無を調査してほしい。また、オークを束ねる上位個体がいる可能性あり。その場合は速やかに報告すること。


達成条件:オーク集落の発見、オーク多数目撃証言の原因究明、オークに関する何らかの情報等


注意)達成条件はギルドの方で査定いたします。


<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<



「どう? せっかくCランクになったんだし」


 久しぶりに暴れたいのかレアがやる気だ。猫耳がピコピコ動いている。


「そうだな。単純な疑問なんたが、オークって国を作ってたんじゃないのか? ここら辺にもいるのか?」


 ゴブリンは何処にでもいるイメージだが、オークは見たことがない。


「ああ、それは魔界ユゴスのオークだよ。人間界のオークも同じ種だけど、こんな風に依頼が出て冒険者たちが率先して殲滅するの」


「そうね。大きな集落になると文化も発達するし、強力な個体が現れるの。ユゴスではそれがどんどん大きくなって国にまで発展したのよ。だからゴブリンやオークの集落は頻繁に警戒されてるわ」


 2人とも詳しい。


「なるほど。それじゃ集落が大きくなる前に潰さないとな」


「そういうこと」


 まったくこの世界は人類の敵が多いな。


「じゃ、この依頼で問題ない?」


「ああCランクとしてもちょうどいい。それで頼む」


「了解!」



◆◆



 サラサラと波打つ草原を3人で並んで歩いていく。


「いい風ね」


 アリスがサラサラの髪を押さえて言った。


 オークが出ると噂されているのは、魔物の森の南側奥地だ。そこまではしばらくかかる。


「そういえばアリス。魔力操作の方はどうだ?」


「うーん……毎日練習はしてるんだけど、スキルレベルってそんな1日2日で上がるもんじゃないでしょ? まだかかりそうね」


 俺が隣を歩くアリスの方を見ると、あははと苦い顔をしながら言う。


「ねぇ、歩きながらでも見てもらっていいかしら?」


「ああ」


 歩きながら魔力操作を行い、集中しすぎてこけそうになるアリスの全身を高位魔力感知を使って調べる。

 別にいかがわしい意味ではない。これはそう、診察と同じです。悪いところを見つけるためにやってるんです。


「すごい! 以前よりずっと進んでるよ!」


 レアが拍手して誉めちぎる。


「ありがとう、レア」


 照れたようにお礼を言うアリス。


 アリスの戦闘用服は黄色のステッチが入った黒い8ホールのブーツに黒色のスキニージーンズ、カーキ色のマウンテンパーカーだ。カッコカワイイ。この服ってちゃんと冒険者用の装備なんだな。ただのおしゃれ着だと思っていた。


「うん、前よりスムーズになってる」


「少しは前に進んでるのね」


 アリスは嬉しそうに言った。


「ああ、無意識にできるくらいまで体に染み込ませるのがベストだな」


 そう、俺は体内の魔力を常時循環させている。そのため魔法の発動が必要になった時も即座に反応できる。


「そうね。それはでもまだまだ集中しないと難しいのよ」


「そこは気合いで」


「う…………根性論なのね」


 アリスは長いこと詠唱魔法を使うことに慣れていた。しかも魔力が大きいために余計に魔力を動かしにくいのかもしれない。


 アリスのステータスを見てみる。


=======================

名前 アリス 15歳

種族:人間

Lv :48→51

HP :572→665

MP :2752→3010

力 :380→422

防御:321→361

敏捷:695→761

魔力:2996→3258

運:17→18


【スキル】

・剣術Lv.3

・探知Lv.5

・魔力感知Lv.7→8

・解体Lv.4


【魔法】

・水魔法Lv.5

・風魔法Lv.3

・氷魔法Lv.7→8


【耐性】

・痛覚耐性Lv.6

・恐怖耐性Lv.5→6

・混乱耐性Lv.4

・打撃耐性Lv.2


【補助スキル】

・魔力回復速度アップLv.4→5


【加護】

・氷の加護(制御不能)

=======================


 魔力感知は上がっているが、魔力操作の取得はまだのようだ。また、こないだの火竜戦でレベルがさらに上がっている。


 町から森まではもう少しある。

 この辺は冒険者の出入りが激しいこともあって、魔物がほぼいない。アリスの魔力操作を見てるだけじゃ暇になってきた。そもそもそこまで頻繁にアドバイスするよりも、どちらかと言うと反復が大事だ。


「あ、そうだ。俺も自分の能力を確認してもいいか?」


 レアがコクンと頷いた。


「いいわよ。あなたの実力が気になるし」


「よし」


 まずは全力疾走してみよう。2人の視線が集まる。軽く屈伸してから加減せずに踏み込んでみる。



 ド…………ヒュンッ!



「ん?」


 景色が吹っ飛んでから気が付いて止まるまで、50メートルほど進んでいた。振り返れば、俺が通ったあとの草が千切れてブワッと舞い上がっている。


「えっ!?」


 とにかく元の場所に向かって走り、レアとアリスの前でキキキッと止まる。止まった瞬間に風が起き、レアとアリスの髪を揺らした。


「あ、あれ? 今一瞬、向こうに…………?」


 目をゴシゴシこするアリスが指差すのはさっき俺がいた場所だ。


「わ、私でも影しか見えなかった…………」


 レアも猫耳をピクピクさせて驚いている。だが1番驚いたのは俺だ。


「こ、こんなに違うのか…………上がり過ぎだ」


「ちょ、ちょっと待って、どういうこと!? 上がり過ぎってレベルじゃ…………」


 普段冷静なアリスが、困惑している。


「…………あ、そうだった」


「なんなの?」


 アリスにレベル2になったのを話し忘れていた。


「実は、火竜を討伐して種族レベル2になったんだ」


 アリスがサッと一歩下がってポカンとした。


「嘘…………!?」


「嘘じゃない」


「ああ、なるほど。冗談ね」


 アリスが手を叩いた。


「いや、違うって!」


「ほ、ほんとなの? …………Eランクなのに!?」


 失礼な。


「いや、もうCランク」


「ほとんど変わらないじゃない」


「す、すまん?」


「…………本当なのね。びっくりしたわ」


 アリスは手を広げて首をかしげながらヤレヤレとアメリカンなリアクションで答えた。


 ちなみにEランク冒険者とDランク冒険者よりも、BランクとAランクの方が遥かに差が大きい。上位にいくほど実力差は広がっていく。だから上級冒険者からすれば、下位ランクの冒険者は皆同じようなものだ。


「いや、話そうと思ってたんだが、最近バタバタしてただろ?」


「そうね。ごめんなさい。レベルアップおめでとう。同じパーティにレベル2がいるなんて心強いわ」


 アリスが楽しそうにグーで俺の胸をグッと押した。


「おおともよ」


 さて、次は腕力だな。


 そう思いながらキョロキョロと周りを見回し、手頃なターゲットを探す。


 あったあった。


 俺は草原草原から顔を出した1トンほどの岩へと近付いた。雨風で風化して、丸まっている砂岩のようだ。


「ちょっと下がっててくれ」


 2人を下がらせる。


 とりあえず、素の状態で殴ってみよう。


 目の前に立って、右腕を後ろにぎりぎりと引き絞る。


「せっ!」



 ドガンッ…………!



 パラパラ、パラ。


 岩に突き込んだ右腕が二の腕までめり込んだ。岩にヒビが走り、欠片が飛び散っている。殴った拳に痛みはなく、発泡スチロールを殴ってズボオッと腕が入ってしまったような感じだ。腕を引き抜くとヒビが広がっていき、岩はバカンと2つに割れた。


 岩のカケラをぐっと強く握るとパキュッとサラサラの砂になった。


「これならオークも素手で倒せるかもな」


「あはは。かもじゃなくてそうだよね?」


 レアが猫耳の裏をかきながら言った。


「刀折れたままだしちょうどいいか」


「いいのね…………」


 オーク殴殺決定。


「よし次は魔力だ」


 いったいどれだけなのか、魔力操作で試しに魔力を放出してみる。

 どんどん溢れる魔力は前とは比べ物にならない。ドバドバ魔力を出しても、枯れる様子がない。まるで貯蓄量が浴槽から池、いや湖になったようだ。俺を中心にして、水が溢れ出るように草原に魔力が広がっていく。


「おお、すごいな。俺の魔力だけで村くらいなら覆えそうだ」


 素直に感心しながら2人に話しかけるも反応がない。


 振り返ると、アリスは肩を抱いて震え、レアは口元を押さえてうずくまっていた。


「お、おい、お前ら大丈夫か!?」


 まずいと思ってすぐに魔力を引っ込める。


「大丈夫だ……よ。びっくりしただけ」


「はぁ、あなたどんな魔力してるの? そんなの、Aランク冒険者どころかSランクだから…………!」


 2人とも顔色が悪いが、魔力を戻すとすぐに落ち着いたようだ。


「いや、本当に悪かった」


「いいえ、これは私たちが弱いのが悪いのよ」


「そうだね。アリスちゃん」


 2人とも苦笑いをしていた。俺に悪意はなかったが、単純に魔力量の差に腰が抜けたようだ。


「すまん、次は2人に影響がないようにする」


 次は魔鼓を展開する。イメージは雷神様の太鼓だ。

 賢者さんのレベルもとっくにLv.2になっており、広げられる魔鼓の数は50個を超える。3重に小さい円、中くらいの円、大きい円と俺の背側に展開する。


「なんなの……これ。かっこいい」


 アリスが宙に浮かんだ俺の魔鼓を見上げてつぶやいている。


「おお、これのカッコ良さがわかるか!」


 共感してもらえてシンプルに嬉しい。


 そして30メートルほど先にある岩めがけ、火魔法でバレットを1発だけ撃つ。


 ダンッ……!


 打ち出されたバレットは俺がイメージする銃の弾丸ではなく、ロケット弾のような大きさで白く燃えていた。


 岩に当たる……爆発を予想し身構える。


 ボスッ……………………。


 予想に反し岩を貫通。そのまま地面に突っ込み見えなくなった。


「え…………?」




 ドオォォォォオオオオオオオオン…………!!!!




 地面がめくれ上がり、重低音が地面を揺らす。舞い上がった黒色の土がパラパラと降ってくる。


「ま、じか…………」


 着弾点には半径5メートルほどのクレーターが出来上がっていた。まるでミサイル。


「ちょ、ちょっと! 試すなら初級魔法で十分でしょ!」


 空から降ってきた土を払いながらアリスが困惑して言った。


「いや、ごめん。そのつもりだったんだけど」


「え…………うそでしょ? あ、あなた魔力いくつなの?」


 アリスが目を細めて聞いた。



「…………1万」



「い、いち…………?」


 アリスが目を丸くした後、口をひきつらせた。


「あはははは~」


 レアが笑っていた。


 確かSランクで5000以上だったな。


 とりあえず魔法の確認はこの辺にしてオークを探しに行くことにした。実戦が一番だ。


「あ、あたしも人のこと言えないけど、とにかくあなたは魔法の威力を抑える練習をすること……! 誤射しただけで吹き飛びかねないもの」


「すみません」


 確かに強すぎる魔法は味方すら巻き込みかねない。


「もしユウが本気で魔法を使ったらどうなっちゃうのか心配だよ…………」


 レアが真面目に危惧していた。


「考えたくもないな」


「それはあなたが言わないの…………!」


 と、ツッコミを入れてからアリスは慌てて付け加えた。


「まぁ、あの…………あたしが言えたことじゃないんだけどね」


 アリスは自分の発言がブーメランになって刺さったようだ。


「じゃ、お互い様だな」


 俺たちはケタケタ笑った。



◆◆



 それから魔物の森を南へ進んでいくと、1時間ほどで俺の探知に集団の反応があった。全部で少なくとも100匹はいるだろうか。

 千里眼で目視すると、ギルドの情報通りオークのようだ。


「……かなりいるな。もう少し近づいてみるか」


「うん」


 俺たちは茂みに隠れ、オークがいる方向を観察する。


「ねぇそれなら、オークの村の向こう側にも丘があるわ。あの上からなら全体を見下ろせるんじゃない?」


 アリスが指差す先には木々が生い茂る丘があった。あれなら上っていてもバレないな。


「そうだな」


 山側へ回り込んでいる途中、2頭のオークが近づいてくる反応があった。とりあえず3人茂みへ隠れる。オークたちは鼻をしきりに動かして匂いを嗅いでいる。


「バレそうだな。やるか?」


「私やるよー」


 レアは1人で2頭のオークの前へ飛び出した。オークの間に滑り込むと剣握ったまま華麗にシュンッ! と1回転。


 ボト……ボト。


 声を上げさせる間も無く、流れるように2頭の首を切り落とした。


「レア、あなたもとんでもなく速いのね……」


 アリスが驚いたようにレアを見た。


「えへへ、でしょ~?」


 照れたように頭をかくレア。


 レアは見た目と言動がほわほわしてるせいで見くびられるが、これでも風を纏えばAランクにも届きそうな実力がある。


 山の頂上に到着した。ここからオークの集落はよく見える。3人で茂みに身を隠して集落を観察する。

 オークたちは森を切り開いて、丘の上に木造のいびつな家を建て、村をつくっているようだ。建物に出入りするオークがチラホラあり、奥に1番大きい建物がある。


「見た感じ……20棟くらい。すでに十分に大きい集落よ。確実に討伐隊が組まれるレベルね」


「ギルドが危惧していた通りか。このまま殲滅するか?」


「え? いや、この数だから先に報告した方が…………」


 アリスがそう言うと


「うううん。殲滅、できるよ」


 レアが首を横に振って言った。


「だって、報告したところでユウがここに呼ばれるだけだもん」


「あ…………そうだったわ。ここにコルト最強がいるよね」


 アリスは額に手を当てた。


「まぁ、レアとアリスもいるし、大丈夫だろ」


「うん!」


 レアが何度も頷いている。頼られて嬉しいんだろうか。もうわかったって。


 というわけで、俺は単身オークたちに斬り込んで撹乱し、あわよくば全滅させる役目。レアとアリスはペアで捕まっているかもしれない人を探すことになった。ただ、魔術士のアリスが敵地ど真ん中に踏み込むのは職業的にも危険が大きい。


 そこでだ。


「アリス、剣は使えるか?」


「ええ。ソロでやってると近接もできなきゃダメだったからね。剣は氷で作るわ」


「なるほどな。それならこれやるよ。自分で作ったのより強いだろうし」


 そう言ってブルーボアの牙から作ったアイスエッジを取り出した。水色の半透明な刃に陽光が反射している。

 

「え、こんなに綺麗な剣、もらっていいの!?」


 受け取ったアリスがアイスエッジを陽に透かしたりして眺めている。

 短剣だが女の子のアリスにはちょうどいいだろう。


「いいぞ。俺とレアから、パーティに入ってくれたお礼だ」


「あ、ありがとう…………2人とも」


 アリスが照れながら喜ぶ。なんか凄く良いことをした気分だ。


「よし。話を戻すが、集落内くらいの距離なら俺のスキルで2人の状況がわかる。もしピンチになったら助けに行くよ」


「それなら安心だね」


「…………わかったわ。気をつけて」


「ああ、おまえらもな」



◆◆



「さぁ、いくか」

 

 軽く首を回して体をほぐした後、山を一気に駆け降りる。


 レベルアップしたステータスでぐんぐん速度は上がっていく。目の前に次々と迫ってくる苔むした木の幹をきちんと見定めて避けることができる。ビュウビュウと耳もとに風の音がする。今の俺なら1キロを15秒くらいで走破できるかもしれない。

 さっき走った時はあまりの速度に驚いたが、わかっていれば動体視力も上がっているので障害物にも対応できる。


 集落に近づくと、ちょうど不格好な鉄の槍を持ったオークが森へと向かってきた。


「ふーん」


 試しにリンゴくらいの石を地面から拾うと、野球の投球フォームで投げつける。


「せっ!」


 ピシュン! と風を切り裂き飛んで行く石。



 パァン…………!!



 石が直撃したオークの頭は、スイカのように赤い果実を散らして爆散した。そして投げた石は


 バキャ、バキャッ!!


 ボコォォォン…………!!


 後ろの木を数本粉々にして止まった。


「石を投げただけで…………」


 今の音を聞き付けて、もう1人槍を持ったオークがこちらに向かってきた。俺は空間把握で後ろを向いていても周囲の状況が手に取るようにわかる。

 オークが森に入って10歩ほど進んだところで、木の影から飛び出し、頭に向け拳をぶつけた!


「おりゃ!」


 バジャン!


 頭が破裂した。脳漿やら、血やらが飛び散り俺にかかる。スプラッタ映画のようだ。


「うへぇ、気持ち悪い」


 次に来たオークは背後から手刀で首を落とした。これが一番無駄がなく、汚れない。


 奴らは皮下脂肪は多いが、内部はぎっしりと筋肉に包まれており、しっかりとした手応えがある。ただの豚じゃなく、闘える豚だから油断はできない。


「さて、集落に入るまでは見つからないように…………」


 隠密を発動する。まだオークたちにはばれていない。木々に隠れながら進み集落に到着した。


 そもそも俺の隠密スキルはLv.9。探知を持たない相手には目の前で話し掛けてようやく気付かれるレベルだ。だが死体が見つかれば警戒されてしまう。


 オークは自分達の家を建てるために丘の上の森を切り開いて集落を作ったようだ。進むほどオークたちの気配が多い。

 家屋の裏に近づき、隠れて中を見てみると、ゴブリンやアグボア等魔物の死骸が置かれていた。食糧置き場だろうか。ハエや虫がわいていて食べようとは到底思えない。


 その隣の家屋にはオークが5匹がいた。言葉はわからないが、ガタイの良い、鎧を着たリーダー格のオークがフゴフゴと話をして4匹が黙って聞いている。


「さて…………」


 まず1匹目、窓枠から着地した瞬間にリーダー格の正面に座っていたオークの後頭部向け、掌底を放つ。


 パァン!


 リーダーオークの顔面に頭蓋骨の破片と脳みそがぶちまけられた。頭部を失ったオークはプラーンと脱力して立ったままだ。

 その隙に前へ踏み込み、左右の手で両脇にいた2匹のオークの首を同時に落とす。近い方にいたオークが息を吸い込み、声を上げようとする。その瞬間、ビュッ! と腕を伸ばしオークの喉仏を掴んでブチッとむしりとる。


 間一髪、声が出ることはなく


「ゴボ、ボボボ……!!」


 血が飛び散る。喉からは血が混じり、声ではない音を発しながらドシャッと倒れる。


 奥にいたリーダーオークは顔を真っ赤にしながら声を上げずに、槍を突き込んできた。


「遅すぎ、だっ……!」


 突いてきた槍の刃先を片手で掴む。ひんやりと冷たい鉄の感触が手の平から伝わってくる。そしてそのまま刃を握り潰す。


 バキンッ!


「ブゴ?」


 オークが握り潰された槍の先端を見つめて固まった。そのまま握り潰した刃をオークの額に突き刺す。オークはそのまま後ろに倒れた。


「よし、そろそろ派手に暴れようか……!」


 隠密を切る。これでレアとアリスが侵入できるだろう。


 ちょうどその時、後ろの入口側からオークがこちらを見つけ、上を向いて声を上げた。


「ブオッ、ブオオオオオ!!!!」


 侵入者を知らせているのだろう。



「ここからだ…………!」



 準備運動がてら腕をグルグル回す。


 家屋から歩いて外に出てみると、ぞろぞろとオークが100匹ほど集まって来ていた。俺の回りは槍を向けたオークが円形に取り囲んでいる。


「こんなにいたのか」


 ちょうどレアとアリスが集落に潜入してきたのが空間把握でわかった。良いタイミングだ。うまく誘導できており、集落の反対側にオークはいない。


「ブゴッ、ブゴ、ブゴゴ!!」


 とそこでオークたちがはやし立てるように何かをしきりに叫ぶ。とりあえず降参したかのように両手を上げ、小突かれながらも集落真ん中の開けた場所へ連れていかれた。


 家屋の影からレアとアリスが取り囲まれる俺を心配そうに見ているので、問題ないことを知らせに2人へ向けて首を振る。


 そして見渡せば、興味無さそうな顔をした1頭の巨大なオークが集落真ん中の巨岩の上にドカッと座っていた。足だけで丸太2本分はある。背の高さは4メートルほど、筋骨隆々なその右手には、2メートルはあろう巨大な肉切り包丁が握られている。


 あれがボスか…………! どうせ、捕まったのが男でガッカリでもしたんだろう。


「ブオオオオオオ!!!!」


 ボスオークが吠える。攻撃の合図だったようだ。


 一斉にオークたちの殺気が俺に向けて放たれ、360°全方向から槍が向かってきた。槍の尖端が余すことなく俺を穴だらけにしようと向かってくる。


「よっ」


 地面を蹴り、空中で仰向けに寝ることで槍をスレスレに避ける。そのまま背中の下を通っている多数の槍の内の1本に手を伸ばして掴み、捻ってオークから槍をもぎ取りつつ右足のみで着地する。

 そして周囲のオークたち目掛けてパパパッと3度突きを放つ。簡単に突きが決まり、3体のオークは息絶えた。


「さぁ、次だ」


 そう言うとオークたちは互いに顔を見合わせ、戸惑っている。そして少しずつ後退していく。


 攻撃すれば死ぬかもしれないと感じ取ったのかもしれない。



 ズン…………!!



 突如起こった地響き。


「ガアアアアアアアアア!!」


 ボスらしき巨体のオークが近くにいたオークを、その肉切り包丁で潰していた。地面に赤いシミが出来ている。


 ボスに殺されるという恐怖がオークたちを突き動かした。再び槍を構えて突っ込んでくる。


「そうだ。こんな時は予知眼だな」


 空間把握を併用すると空間内すべての少し先の未来が見える。集団戦には最適だ。普通なら脳が処理しきれないだろうが、俺には賢者さんがいる。


 おかげで無駄のない紙一重な避け方が可能になった。槍を振るうための予備動作を攻撃が飛んでこないスペースで行うことで、最小限の動きで避けられる。


「ブゴッ! ブゴオオオオ!」


 オークたちはこれだけの数で囲んで攻撃してるのに、なぜ当たらないのか理解できずヤケになっている。


「あっ…………」


 しかし、ついに俺が使っていた槍の柄が、木の棒に植物の蔓で刃物をくくりつけた簡素なものだったからか、接続部分が取れてしまった。まだ70匹は残っている。


 こいつらは俺の槍が壊れたのを見ると、活気付きだした。この実力差を見ても頭は動物並みのようだ。


「じゃ、こっからは素手だ」


 俺は残った槍の柄を放り投げ、オークの群れに突進した。


 槍を避けながら距離を詰めるという、我ながら器用な真似をしながら回し蹴りをオークにぶちこむ!


「ブゴッ…………?」


 オークはギロチンを受けたかのように上半身下半身を分かれさせて飛んでいった。


 完全に乱戦になったのを利用し、オークの腕を掴み、引きちぎる。両手を腹に突き入れ、縦に裂く。オークたちの肩の上を走り、すれ違い様に頭を爆発させる。


 ここまですると、恐怖を感じたのか逃げ出そうとする者が現れた。


 それはボスだ。


 あれだけ偉そうに座ってたのに、部下にこの場を任せて背を向け真っ先に森へと走り出した。危機察知能力が優れているんだか、どうなんだか。まぁ逃がしはしない。


「結界」


 逃げるボスの先に結界を張る。透明な結界に気が付かず衝突した。


「グララアアアア!!」


 腹立たしげに、その肉切り包丁で結界を斬りつけるが、傷1つつかない。

 結界魔法もレベルが上がってより多くの面積を出せるようになった。ボスは本能的に俺の仕業だと悟ったようだ。激高し、オークたちをさらに仕向けてくる。


「数がいれば良いってもんでもないだろ」


 今度は身体強化を試そう。


 循環させている魔力を体内で消費する。魔力の上昇に伴い、身体強化の効果も前とは比べ物にはならないほど上がっている。魔力が失われていく感覚と共に身体が軽く、全能感が湧き上がってくる…………!



「いくぞ…………っ!」



 残像すら残る速度でオークたちの間を縫い、一度も立ち止まらず全員の首に手刀を叩き込んだ。



 ブッッッ…………シュウウウウウウウ…………!!!!



 気味が悪いほど一斉に、まるで果実の収穫かのようにオークの首が落ちた。首のないオークの身体だけが立ち尽くしている。


「っ…………!」


 やはり、効果が大きい分体にかける負担も大きいようだ。だが、俺の回復速度と神聖魔法を併用すればまだまだ余裕はある。とりあえずこの相手に身体強化はオーバーキルになるから解除した。


 残るはボスだけ。地面は赤い染みと豚肉、豚骨が散らばっている。ムワッとくる湿度の高い血の匂いにむせ返りそうになる。その中を怒りに全身を震わせたボスオークがズンズンと歩いてくる。


 パキ…………グチャ、グチャ。


 肉片を踏み、ピチャピチャと血を跳ね飛ばしながら向かってくる。


「グガラララ…………」


 ボスオークが目の前に来た。体格差から影がさし、俺は下からオークを見上げる。


 恐怖は微塵も感じない。


「あとはお前だけだ」


 声をかけた。俺はすでにオークたちの血で全身真っ赤だ。両手の指先からはオークたちの血がまだポタポタと滴り落ちている。


「ヨクモ、オレノクニヲ……!」


 ボスオークが唸るように叫んだ。


 おお、こいつ喋れるのか。それなりに上位種のようだ。


「お前らの国?」


「ワレ、コノクニ、オウ!」


「王…………お前は何がしたかったんだ?」


 妙な気分だ。この距離でオークと話をするとは。


「ヒトハ、カチク。ハンショク、ショクリョウ」


 ボスオークは俺を見下ろして目を細めるとニヤリと笑った。


「…………」


 俺が殺すべきはこういう奴らだ。放っておけばアラオザルのような町がまた生まれてしまう。


「死ね」


 右足を蹴り足として地面を強く蹴り、左足を前にボスオークの真下へ向け動かす。と同時に右手を硬く握りしめ、体をスクリューのように捻りながらボスオークの腹めがけて拳をぶちこんだ!!




 ッッ、ガ……………………ァァアアアアンン!!!!




 鐘のようなものすごい音。手には金属の硬質な手応えがあった。


「いっ…………!!」


 俺の拳は奴の肉切り包丁に阻まれたようだ。

 しかし、奴はその衝撃に消えるような速度で吹っ飛ばされ、家屋へ突っ込み崩壊させた。


 思いの外硬い武器だ。殴って壊せると思ったんだが…………。


 ドゴン…………!


 尻餅をついたままのボスオークが自分で瓦礫を吹っ飛ばして現れた。


「グッガ、ガッガッ…………サスガ、Sランク、ブキ」


 Sランク? それは是非ともほしい。


 ボスオークは自分が壊した4メートルくらいの家屋の柱を片手で鷲づかみにガシッと掴むと、肩に担いで投げた!


 そうきたか。


 俺は魔鼓を1つ作り、そこから飛んで来る豪速の柱目掛けてファイアバレットを撃った。


 ドパァン!!


 木製の柱とバレットはちょうど中間当たりで衝突し、柱は一瞬で灰となって散った。


「グガ……!!」


 そこから、ボスオークは両手で次々と大量の瓦礫を投げつけてきた。


「芸のない……!」


 俺は展開する魔鼓を増やし、飛んでくるすべてを空中で衝突させる!




 ドガッ、ガガカガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!




 投げてきたすべての瓦礫が灰になった。


「せわしない奴だな」


 だがちょうど良かった。賢者さんの手を借りることなく調整した威力の魔法が撃てた。感覚は掴めた…………!


「フッ、フーッ、フーッ!!」


 ズンズンとボスオークはおもむろに最初に座っていた巨岩に近付くと、四股を割るような体勢をとった。そして巨岩と地面の隙間に両手をズゴッと差し込む。



「ガアアアアアアアアアアア!!!!」



 ボスオークの気合いの声と共に、ズゴゴゴゴ……とゆっくり地面から持ち上がる岩。岩は縦に割れやすく、青みがかったよくあるものだ。

 

「これほどか…………」


 それは岩と言われなければ気付かないほど巨大で、地面と一体化していた。しかも大部分がまだ地面に埋まっていたようだ。


 付着した土をドサドサと払い落としながら、地面からボコッと引っ張り出される。


「おいおいおい…………」


 ついにボスオークが頭の上に担いだその巨岩は、長径20メートルはある。太陽光が遮られ、集落へいっきに岩の影が差す。その岩の下にいる奴は全身に血管が浮き上がり、必死の形相をしている。岩が抜けてできた大穴にオークの家がガラガラと崩れ落下していく。



「「ユウ…………ッ!」」



 尋常じゃない光景に、レアとアリスが森の中の離れた場所で魔法を準備してくれていたようだ。2人が身を潜めるのを止めて森から出てきた。


「大丈夫だ。いいから下がってろ」


 そう言ったのも束の間、ボスオークは俺目掛けて巨岩をぶん投げた!


 一度フワリと空に上がったかと思うと、岩は上昇を止め、そこから重力に負け、俺めがけて落ちてきた。


 これを現実離れした光景だと思うのは、この世界にきた頃の話。俺もこのくらいの岩なら空を飛んでもおかしくないと思えるようになった。




 岩が、降ってくるーーーーーー




 賢者さん、俺の筋力で受け止められる?


【賢者】不可能です。ですが、魔力であれば問題ありません。


「だろうな…………!」


 岩よりも大量の魔力を立ち上るように体から湧き上がらせ、魔力支配で留まらせつつ降ってくる巨岩の方へと向ける。


 すぐに岩の倍ほどの大きさとなった俺の魔力と巨岩は接触した。



 グォオオオン……………………ンンッッ、ッッ……ッッ…………。



 岩を柔らかく、しっかりと受け止めた。


「軽い」


 これならまだまだ余裕がある。


 投げた巨岩が空中で受け止められ、ボスオークは投げた格好のままピシリと固まっていた。


 魔力で巨岩をしっかりと包み込む。これで岩をブンブン振れる。


「ほら、返すぞ!」


 金槌を降り下ろすように、ボスオークへ巨岩を叩き付ける。


 ヒュ……………………ッ!!











 ドッッ……ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ………………………………ン!!










 地面が大きく振動し、あまりの重量と速度にオークの集落が中心に向かってベコンッ! とへこんだ。大穴が空いていたこともあり、集落が崩壊していく…………。


 巨岩は、バラバラになって複数の岩に分かれてしまった。


 ボスオークはその割れた岩の下にうつ伏せに倒れているようだ。指だけが岩の隙間から見えた。岩の下からツーッと血が流れてくる。


 かなりのダメージはありそうだが探知にはハッキリと反応がある。まだ死んではいない。おそらく外傷はひどいが致命傷ではないのだろう。岩が脆かったか。


 奴の太い指がピクリと動いた。


 ドバアァァン!!


 倒れていたボスオークが体に乗っていた岩を吹き飛ばしながら起き上がった。

 すぐに賢者さんの予測線が働き、全て避ける。1つも掠らない。


「まだ元気そうだな……!」


 起き上がった血だらけのボスオークの手には先ほどの肉切り包丁が再び握られていた。


「フーッ、フーッ…………コロス!!」


 ボスオークの目の前までダッシュし、包丁で防ごうとした瞬間、右足にスピンを掛け、勢いそのままボスオークの側面に一瞬で回り、ピタッと止まる。そして、わき腹に正拳突きを放った。


「せっ!!」



 ドゴォオオオンン…………!!



 ボスオークは家屋数軒を巻き込みながら吹き飛び、森へと突っ込む。

 手応えはあった。アバラを数本折った感触も。


「どうした、もう終わりか?」


 さすがに今のは効いたのか、なかなか出てこない。魔法でトドメをさそうかと思ったその時、



「ブガッ、ガーーー!!!! フッ、フッ、フッ、フッ、フッ!」



 ブチギレしたボスオークが現れた。身体を前傾姿勢にし、前で肉切り包丁を両手で構え、激しく息をしている。


 タフな奴だ。




「ガァアラララララララララララアアアアアアアア!!!!」




 ドカンドカンドカン!


 その巨体で地面をへこませながら突進すると、俺に向け包丁を降り下ろした!


「いいだろう…………!」


 俺の頭めがけて降りてくる包丁を、白羽取りの要領で両手の平で挟み受け止める!


 手のひらで感じるボロボロとした感触。肉切り包丁は殺した仲間のオークの血がこびりついていた。


「ぐっ!」


 だが岩を投げたのは伊達じゃない。予想以上の腕力だ。俺の足元の地面がヒビ割れる。

 なめていた。怒りで力を増すスキルだろうか?


「おらっ!」


 身体強化を発動し、一気に巻き返す。ボスオークの目が見開かれた。その瞬間包丁から手を放し、一瞬で懐に入る! 


 そして地面を蹴りつけ、その勢いを腰に乗せる。右手の指を全てピンッと伸ばし、捻りながら上に向け、渾身の抜き手を打ち出した!!!!



 ドシュッ……………………!



 ポタポタ、ポタッ


 俺の右手はボスオークのみぞおちから体内を上に突き進み、そのまま心臓を掴んでいた。手には生暖かさとドクンドクンという動きが伝わってくる。


 あとは握りつぶすだけだ。


 ボスオークは血の気が引き、体の力が抜けたようだ。激昂していたさっきまでの勢いはない。自分の体内に差し込まれた腕を見た。


「ハッ…………へ、へ……………………?」


 そして、青い顔で弱々しく言った。


「マ、マッテ「無理」」




 ブシュウウウッ…………!!




 ボスオークの目からフッと光が消えた。体の力が抜け、巨大な肉の固まりがさらに重くなる


「……ついでに魔石でも取るか」


 心臓の脇にある魔石を掴んで抜き出す。血にまみれた赤黒い石は20センチはあった。


「でか…………売れば高そうだな」


 周囲を見渡してみると、集落は見る影もない。集落自体が真ん中に向け窪み、ほとんどの建物は崩壊、大穴には落下したオークの死体と岩が転がっている。オークたちは全滅だ。


「そうだ、2人は!?」


「ユウ~!」


 レアの声が聞こえてきた。瓦礫を避けながらこっちに向かって来てくれている。水魔法を使って体に付着した血を洗い流す。


「レア、アリス。無事か?」


 2人とも外傷は無さそうだ。


「余裕で無事よ。あなたこそなんて闘いするの……!」


 あきれ顔のアリス。


「こ…………これオークジェネラル?」


 レアが俺の足元に転がるオークを見てボソッと言った。


「う、嘘でしょ…………あまりに一方的だったから、まさかとは思ったけど」


 アリスはしゃがみこんでボスオークを観察する。


「ユウは、本当に凄い。凄いよ…………! 強すぎだよ!」


 レアがバシバシと肩を叩く。


「いだだだ、このオークのランクは?」


「Aランクに決まってるじゃない」


「Aか…………だったら手をつけられなくなるギリギリだったんだな」


「そうね。現段階でも、コルトとオークで総力戦を行う必要があったわ。まぁ、負けることはないと思うけど、火竜の直後だもの。皆の疲労を考えると簡単に行くとは思えなかったわ」


「なるほど。じゃあちょうど良かったな」


「え、ええ」


【賢者】ユウ様。今回の戦闘で推定のランクが出ました。


 お、どうだった?


【賢者】現状はAランク上位、身体が馴染めばSランク下位に匹敵するかと思われます。


 まじか。


「どっちにしても、これだけのオークがここに来てるなんて、ユゴスで何かあったのかもしれないね。ギルドへ報告しないと」


「そうだな。この大量の死骸、俺たちじゃどうにも出来ないし、またギルド長の機嫌が悪くなるぞ」


「まぁ、今回は事前に防げたわけだし」


「まぁな。そういや捕まっていた人たちはどうだった?」


「…………うううん、ダメだった」


 レアが下を向く。耳も尻尾も垂れ下がっている。


「あれは可哀想だった。冒険者の女の子1人と町の女の子2人だよ。ユウには見せられないから、そのまま埋めて上げたの。ユウならオークになんか負けないと思ってたから任せっきりでごめんね」


 アリスも目を伏せて首を横に振った。


「レアもアリスも悪くない。気にするな。それに、こいつらはそれに見合った目に合わせたつもりだ」


 やっぱりこいつらみたいな魔物はいなくなるべきだ。こんな目に合う人が1人でもいなくなるように。


読んでいただき、ありがとうございました。

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※過去話修正済み(2024年1月7日)

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