第28話 竜
こんにちは。いつもありがとうございます。
ジーク辺境伯と話をしてから3日後、俺はEランクになっていた。
「感慨深いな……」
町を歩きながら、Eランクを示す水色のギルドカードをしみじみと眺めると、この町に来たばかりの頃が昔に思える。
「私にはまだまだ及ばないけどね?」
ニヤニヤしたレアがCランクのギルドカードをひらひらと見せびらかしてきたので、おでこにデコピンをお見舞いした。
「あいたっ、ほんとのことなのに…………」
レアも俺に依頼のレベルを合わせなかったら、もうBランクになっていてもおかしくないのにな。
現在の俺のステータスはこうだ。
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名前ユウ16歳
種族:人間
Lv:90→94
HP:1490→1630
MP:4310→4500
力:1270→1410
防御:1150→1260
敏捷:1750→1880
魔力:4790→4990
運:145→150
【スキル】
・剣術Lv.8
・高位探知Lv.2→3
・高位魔力感知Lv.2
・魔力支配Lv.2
・隠密Lv.9
・解体Lv.4
・縮地Lv.3
・立体機動Lv.3
・千里眼Lv.3→4
・思考加速Lv.3 NEW!
【魔法】
・火魔法Lv.7
・水魔法Lv.6
・風魔法Lv.7
・土魔法Lv.8
・雷魔法Lv.8
・氷魔法Lv.5
・重力魔法Lv.9
・光魔法Lv.4
・回復魔法Lv.10
【耐性】
・混乱耐性Lv.6
・斬撃耐性Lv.4→6
・打撃耐性Lv.5
・苦痛耐性Lv.9
・恐怖耐性Lv.8
・死毒耐性Lv.9
・火属性耐性Lv.3 NEW!
【補助スキル】
・高速治癒Lv.8→9
・魔力高速回復Lv.5
【ユニークスキル】
・お詫びの品
・結界魔法Lv.2
・賢者Lv.2
・空間把握Lv.3
【加護】
・ジズの加護
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カイル戦のような濃密な戦闘経験はスキルの取得や成長をより促すようだ。
今はこの調子で力をつけよう。あの甲冑ゴブリンを倒せるようになるにはあとどれくらいかかるのだろう…………。
そして今日はフィルに頼んでいたブルーボアの短剣を受けとる日だ。
「良いのができてるといいね」
「あのじいさんの腕は本物らしいし、期待できるな」
レアと話しているといつの間にかたどり着いた鍛冶屋の扉を開けると、フィルが椅子に座って眠りこけていた。
「おーい、フィル来たぞ。起きろ」
肩を揺さぶってじいさんを起こす。
「ん? おお、おぬしか」
フィルがもそもそ動き出した。
いくら客が少ないからってなぁ…………店に並んでるのは全て業物ばかりだから盗まれないか心配だ。
「短剣ならできとるぞ。見てみい」
フィルが椅子からゆっくりと腰をかばうように立ち上がり、店の奥から布に包まれた短剣を取り出してきた。布をめくると、氷のように透き通り光が反射して煌めく刃が現れた。まるで1つの透明な氷から切り出されたようだ。
「すごぉおおおーーい! 宝石みたいに綺麗!」
レアのテンションが爆上がりする。
「なかなか良い牙じゃったんでな、ちょっとした魔剣になってしもうた」
レアの反応にフィルは鼻を高くしながら自慢げに言った。
「「魔剣!?」」
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アイスエッジ
ランク:B+
属性:氷
〈フィルが打った刀。斬った相手を凍結する〉
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「スゴい、相手を凍結させるのか…………! ありがとう。大事に使わせてもらうよ」
軽く素振りをしてみるが、持った感じがひんやりとして気持ちいい。
「うむ。じゃが、その程度のものは王都へ行けば珍しくない。もっと上質な素材があればわしの本領が発揮できるんじゃがな……」
そういうフィルはもの惜しげに短剣を見ながらつぶやく。
「すまん。素材はもう少し待ってくれ。ランクが上がらないと上の依頼が受けられないんだ」
「おお、気にせんでくれ」
フィルは目をそらして謝った。
「そういや聞いたんじゃが、おぬしEランクになったそうじゃのう」
フィルが白くなった片眉を持ち上げながら、骨張った指で俺を指して言った。
「え、それ今朝の話だぞ? よく知ってるな」
「ほっほっほ。知り合いに情報屋がおるんじゃ。これから贔屓にする客じゃろ? お前さんがどういう男か気になっての」
情報屋? そういや俺も会ったことあったな。
「確か…………ニーナ、だったか?」
背の低い、フードを被った男とも女ともとれる背格好を思い出した。
「なんじゃ? 知っておるのか?」
「ああ。こないだ向こうから声を掛けてきたんだ」
「ほう! あいつは面白そうなやつに目をつけるのは早いからのぉ。ほっほっほ」
フィルは自分の白い髭を撫でながら笑う。
「俺って面白そうか…………?」
「うーん?」
レアは首をひねっていた。
「ともかく奴は金を積めば情報が買えるんじゃ。知り合っておいて損はないと思うぞ」
「そうだな。必要あらば連絡してみよう。短剣はほんとに助かった。またよろしく頼むよ」
「おう! 次はもっと良い素材を持ってくるんじゃぞ!」
「ああ」
フィルに手を振りつつ店を出ると、俺とレアはギルドに向かって歩き出した。
◆◆
途中屋台が並んだ通りを進む。香辛料の香りや鉄板で野菜や肉を炒める音、屋台のおっちゃんの声が飛び交っている。人通りは多いし賑やかだ。まるで東南アジアの国々を思い出す。
「そこの可愛い嬢ちゃん! パルケはどうだい?」
頭にタオルをまいたおっちゃんが声を掛けてきた。
「お、わかってるな。おっちゃん」
レアの可愛さに気付くとは、良い目をしている。
「へへっ、あったり前よ!」
二の腕のパンパンと叩くおっちゃん。
「い、いえいえ、そんな…………」
小声でレアが答える。レアが手のひらで顔を隠してリアルに照れて恥ずかしがってる。
「で、パルケってなんだ?」
「ん? パルケを知らんのか。これだ。甘くて、このふわふわの食感が癖になるんだ」
店のおやじが出してきたのは、綿菓子とパンケーキの間のような、ふわふわのハチミツのような食べ物だった。串に刺さって食べやすそうだ。
「旨そう。2本くれ!」
「はいよっ! 毎度あり!!」
て1本700コルか。けっこうするな。
「あま~~~い!」
レアは1本のパルケを両手で持って、歩きながら夢中でパクパク食べている。
「おわ、ほんとだな」
パクッと1口食べてみるが、優しい甘さだ。ミルクのような風味もする。
「レアは甘いものが好きなんだな」
そう言って隣のレアを見ると、
ペロペロペロペロペロペロペロペロ。
旨すぎたのか、水を舐める猫のように夢中だ。ニッコニコで声が届いていない。
「そんなに好きなら、俺が今度お菓子でも作ろうか?」
その言葉は届いていたようでピクッとレアの猫耳が反応した。
「作れるの!? やったぁ! お願い~!」
レアが両手を祈るように組んでお願いしてきた。
「お、おう」
その時、後ろから聞いたことのある声が聞こえてきた。
「おっふ、たっり、さーん。久しぶりっ」
振り向くと、にこやかなフリーがいた。レアが会釈する。
「おおフリー。久しぶりって言うほどでもないだろ?」
前は死にかけてたくせに元気そうだ。
「まぁねぇ……それよりこないだは本当にありがとうね。おかげで命拾いしたよー。何かお礼させてくれる かい?」
胸の前で両手を合わせる糸目のフリー。
「いらねぇって。あぁ、あれだ。この町に来た時に宿の金を貸してくれた礼だ。あれの利子だと思っといてくれ」
「え、あの時の利子……すんごく高かったんだねぇ」
「利子は100コルくらいか?」
「あれ? それってすんごく安くない? 僕の命100コ…………いやまぁ、なんにしろ貸しておいて良かったよ」
納得してくれたようで良かった。
「いいって」
「いや、だって君に借りをつくるのは気持ちが悪いからねぇ」
フリーは苦そうな顔をした。
「なんでだよ」
失礼なやつ。
「そういや、フリーもこの辺よく来るのか?」
なんだかんだここの屋台がある通りには初めて来た。
「そうだねぇ。この通りは僕のお気に入りだよ。勝手にメシメシ通りって呼んでるくらい。人が多くてにぎやかで、好きなんだよね」
「メシメシ通りねぇ」
「聞いたくせに、なんて興味のなさそうな反応…………」
じとっとフリーが俺を睨む。今度はレアが話しかけた。
「フリーさんは最近ギルドの依頼、受けてないんですか?」
するとフリーは上を見て歩きながら話した。
「ん~、最近はそうだねぇ。こないだ団長が大物を単独で仕留めたんだけど、どうも納得していないようでねぇ。今も魔物の森にこもってるんだよ」
「魔物の森にこもるとかヤバい奴だな」
「…………ユウがそれ言っちゃう?」
レアの視線を感じるが、俺は好きでこもってたわけではない。
「その団長とやらは変わり者なのか?」
「え? ユウはうちの団長知ってるでしょ。こないだ戦ったばかりじゃん」
フリーは屋台のおばちゃんに手を振り返しながら言った。
「こないだ? こないだって…………」
最近戦ったばかりで、魔物の森に平気でこもるような変わり者といえば、思い付くのは1人だ。
「あぁ…………まじか」
「ユウ、フリーさんとこの団長はあのカイルさんだよ?」
「なるほど…………というかフリーお前、カイルのパーティにいるのかよ!」
「いるというか、僕はカイルのパーティ『赤鴉』の副長だからねぇ」
「副長!?」
「そんなに驚くこと?」
フリーがケタケタ笑いながら言う。
た、確かに。戦闘スタイルといい、装備といい、不思議なほど揃っている。というか、元々この町のナンバー2のフリーがカイルのパーティーなら納得だ。
「なぜ気づかなかった…………」
「まぁまぁ。団長はきちんと筋の通った人間だよ。ユウは好きじゃないかもしれないけど、その辺は信用してよ。ホント粗っぽいけどねぇ」
「うん、確かにそうだったな」
良くも悪くも。
「てことは、大物ってのは噂の火竜のことか」
「そうそう。その話なんだけどね。実は団長が子供の火竜に会った時、すでにかなり弱ってみたいなんだよ」
「弱ってた? あぁ、確か拘束されてたんだったか?」
「そう、それに牙が2本とも抜かれていてね? おそらく、剣闘大会の商品ってその火竜のものだったんだよ」
フリーは人差し指を立てながら話す。
「なるほど。それが市場に流れ、何の因果かギルドが手にして、カイルに渡ったと…………そしてその火竜をカイルが自分で討伐。子どもでボロボロだったろうに、気分悪いな」
「良くはないだろうねぇ。僕だって嫌だよ」
腕を組ながらうーんと複雑そうな表情をするフリー。
「ふぅん。てことは…………ギルドで見たカイルは、ふてくされて飲んでいただけだったのか」
「うん、多分そうだろうね。団長、気に入らなかったらしこたま飲むんだよ」
「わかるなぁ」
どこの世界もストレスがたまったら酒に逃げるのな。
そんな話をしながら3人はギルドへ向かって歩いていく。と、突然フリーが思い出したように切り出した。
「そういや前から気になってたんだけど、2人は恋人同士なのかい?」
「げほぁっ!」
思わずパルケを吹き出した。
おかげで通りの石畳を汚してしまい、口元と石畳を水魔法できれいにしながら答える。
「はぁ…………そんなわけないだろ? 俺とレアじゃ釣り合わない。レアに俺なんかはもったいないからな」
どちらかと言うとホントに家族みたいなんだよな。妹みたいな感じか?
「そうかねぇ…………お似合いだと思ったんだけどねぇ」
思わずチラッとレアを見てしまうが、レアは手に持ったパルケを見つめながら黙って歩くだけだった。
というか、レアは俺の他に人がいる時はほとんど話さない。2人きりの時は話してくれるのに。人見知りなのか。と思った矢先、
「ねぇユウ、そろそろギルドに行かないと!」
突然レアが袖を引っ張って来た。
「そうだった! 俺たちはこのままギルドへ行ってくる。フリーはどうする?」
「暇だし僕もついていこうかな?」
「暇つぶしかよ」
◆◆
それから3人でギルドに着いた。扉を開けると、また騒ぎが起きていた。だが今回は殺伐としている。
「落ち着いて! 皆さんどうか落ち着いてください!!」
ギルド職員が止めようと叫んでいるが聞こえていない。
中では7、8人の男たちが乱闘し、物が飛び交っては2人が床で伸びている。
「こりゃまた血気盛んなことで」
さらに今パンチがクリーンヒットした男がこちらに飛んできた。とりあえず魔力でクッションを作り、柔らかく受け止める。
「おーい?」
頬をペシペシ叩くも、気絶していた。
「どうする?」
レアとフリーに聞く。
「放っとこうよ。知らない人だしねぇ」
「そうだな」
フリーに従って床に置いておいた。
「今回はどうしたのかな?」
「そうだな…………お!」
受付に困った顔をしたルウさんがいたので声をかけてみる。
「ルウさん!」
「あ、ユウさん! いいところに!」
一瞬こないだの泥酔したルウさんが脳裏によみがえったが、それどころじゃなさそうだ。受付を離れて慌てて駆け寄ってくるルウさん。
「何の騒ぎ?」
「それが……マットという冒険者が北の山で竜を見たと言うんです」
ルウさんは頬に手を当てながら眉をひそめて話す。
「「「竜!?」」」
最近よく聞くようになったワードに俺たち3人はハモった。
「竜はカイルが倒したんじゃなかったのか?」
「子供の火竜ではありません。成竜です!」
「本当!?」
声高にビックリするレア。
成竜…………いやそもそも俺は竜のこと全然知らない。賢者さん、竜について教えてくれ。
【賢者】竜は世界トップクラスの生物です。最下級のワイバーンや幼竜ですらBランクであり、成竜ならAランク以上、龍や古龍、各龍王はSランクを凌駕します。古龍以上は人類には太刀打ち不可能な天災です。
へぇ、でもワイバーンは弱かったような……。
【賢者】ワイバーンは実質、亜竜に分類され、竜よりかは数段劣ります。それでもBランクですが。
だからあんな簡単に倒せたわけだ。
【賢者】もっともAランク以上はスキルや相性によって振れ幅が大きくなるため、一概には言えません。
なるほど。
「竜と言えば、遥か北のユーダリル山脈に棲んでいたはず。目的もなくこんなところまで来るのは考えられないけどねぇ」
博識なフリーは首をかしげた。
「なるほどな。それで、信じない奴らと口論から乱闘になったと?」
「はい、まさにその通りです」
ルウさんが疲れた様子で答え、そして続ける。
「そもそも、あの山脈の成竜がこの町の近くに来たとならば、王都の方で情報を掴んでいないはずがありません。町が滅びかねない脅威ですから」
とその時、バンッ! と扉を勢いよく開けて息を切らしながら飛び込んでくる男がいた。
「突然すまない! 俺は隣町カルーアのピンツという! ギルド長はいるか!?」
顔色が悪いのは、息切れが原因ではなさそうだ。
「ピンツさん!? はいすぐに!」
その慌てようにルウさんとは別の受付嬢が急いでギルド長を呼びに行く。
「これは、まさか…………?」
「まさかかもねぇ…………」
フリーと目を合わせ頷く。
すぐにゾスが降りてきた。ギルドの一階の真ん中で、ピンツとギルド長が向かい合う。冒険者たちは2人を取り囲み、黙ってその会話に注目した。
「ギルド長は私だが?」
「あんたがゾスか? どうせ広まることだ。はぁはぁ…………ここで話させてもらうぞ。今町ではお触書が出されている」
「なんだ、早く言え」
ピンツという男がすぅっと息を吸い込んだ。
「ユーダリル山脈の竜たちが暴れだした!!」
「どういうことだ?」
おいおい、やっぱりさっきの話は本当だったのか?
レアが不安そうに俺の服を握ってくる。
「さ、3週間前、何者かが竜の巣で奴らの子供や卵を盗んだらしい! おかげでとんでもなく竜たちがお怒りだ。パニックを防ぐため戒厳令が敷かれ、Sランク冒険者数名で鎮圧を行っていたが…………」
額の汗を拭いながら、男が続ける。
「鎮圧に向かったSランク冒険者の1人、氷槍のラッドが……命を落とした」
「……Sランクが!?」
各々が口々に不安を叫ぶ。ざわめきが大きくなる。
「静まれ……!!!!」
ギルド長がゆっくりとした口調で一喝した。一瞬、ギルド長からカイルに匹敵するほどの威圧感が放たれた。皆が一斉に黙る。
「ラッドか…………懐かしいな。正義感の強い男だった」
ギルド長が右手で目元を押さえた。
「Sランクとは言え、怒り狂った竜たちを相手にするのは無理だったんだ。これで数少ない王国のSランクはさらに減ってしまった」
しーんと静まり返るギルド内、ギルド長が男に問う。
「犯人の目星は?」
「最近の動向からクルス帝国ではないかと睨んでいる。盗んだ竜を育てて竜騎兵にでもするつもりかもしれない。どちらにしろ王国は竜が暴れて大打撃だ」
帝国…………こないだ国名を聞いたところだ。
「それで……それだけか? わざわざ直接ここに来たくらいだ。本題があるんだろう?」
ギルド長の問いかけに、皆が固唾を飲んで男に目を向けた。
「ああ…………成竜が1匹、ここから近い北の山で休んでいる」
ギルドがザワッとなる。
「ひっ…………!」
「なっ!?」
「おい、それはやべぇぞ!!」
ああ、そういうことか。
おそらく最近のサラマンダーなどの魔物の動向はその火竜に棲みかを奪われたことが原因だ。じゃなきゃあいつらほどの魔物がそうそう棲みかを変えるとは思えないし、他のことにも納得がいく。
「だとよフリー。カイルが喜びそうだな」
横にいるフリーに冗談交じりで話しかける。
「だねぇ。今のあの人なら喜んで竜に突っ込んで行くよ」
フリーがやれやれといった風に言った。
「ユ、ユウ、私ね、村で聞いたことがあるの! 成竜は本当にヤバイんだよ!?」
レアが激しく俺の肩を揺さぶる。
だがまだ話は続いていた。
「竜は犯人を探しながら怒りのままに飛んできたのだろう。休憩が目的ならもう十分だろうし、そろそろ腹も減る。この町が襲われることは…………予想に難しくない」
「ふむ…………」
ギルド長があごに手を当てて黙り込む。そして顔を上げると冒険者たちに向かって腹の底から声を張り上げた。
「お前ら、特別依頼だ……! 報酬ははずむ。竜を倒すのに立ち上がる者は3時間後、もう一度この場に集合だ! ただし、ランクはC以上とする! ここにいない者にも知らせろ!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」
恐怖よりも、名を上げるため、町を守るために盛り上がる冒険者たち。
ゾスが俺の隣にいるフリーを見た。ザッとその間にいる冒険者たちは雰囲気を察し道を開けた。
「おいフリー」
「なんだい。ギルド長」
いつもと変わらない細目でギルド長を見返すフリー。そしてギルド長は言った。
「カイルを呼んでこい」
「りょうかい」
フリーは口元だけニヘラと笑うとギルドから出て行った。
「ユウ!」
そのままギルド長が俺を真っ直ぐ見て、鋭く名前を呼んだ。
「え、俺?」
自分を指差しながら聞いた。
「そうだ。お前も参加しろ」
「いや、俺Eランクだけど?」
言いながらポリポリと頭をかく。
「黙れ。今回手柄を立てればCランクまで引き上げてやる。参加しろ」
「は、はぁ」
言い方がまるで脅し…………いやまぁ、Cランクになれるならいいか。
「ユウ行くの!? Sランクの人までやられたって言ってるよ?」
レアが不安そうにしがみついてくる。
「それは相手が竜の群れだったんだろう? こっちは竜1匹だけだ。それに冒険者が山ほどいる。大丈夫。なんとかなるさ」
レアの頭をガシガシと撫でてやる。
「あ、そっか…………う、うん。そうだね。私たちは、こんなとこで怖じ気づいていられないもんね」
「来れるか?」
「うん……! ユウが行くなら!」
レアが拳をギュッと握って強い目をして答えた。
頼りになる相方だ。
「おう!」
というかあれだな。ここで乱闘始めた最初のやつ。ウソじゃなかったな。
かわいそうに…………。
◆◆
3時間後、Cランク以上に限られているにも関わらず、80人以上もの冒険者がギルドに集まった。俺とレアは火竜に備えて装備の点検と、腹ごしらえをしてきている。
中にはカート、ゴードン、サリュ、キースもいる。あ、こっちに気づいた。
「よ。こないだは世話になったな」
カートは手を上げて話しかけてきた。
「そればっかじゃねえか。気にすんな馬鹿」
レアもフルフルと首を横に振る。カートはあれから顔を会わすたびにこう言ってきていた。
「あ、ああ」
カートは苦笑いをして続けた。
「しかしユウ、お前当然のようにここにいるのな」
カートが言うのはランクのことだろう。
「ギルド長に頼まれたんだ。仕方ないだろ」
「あの人、使える奴には遠慮しないからな」
カートはギルド長のいるであろう上の階を指差しながら言った。
「そういや、町の上級冒険者がこんなに集まってるのは初めてだ」
「まぁなかなか機会はないだろうな」
カートもギルド内を見渡した。
「ちなみに注目株はいるか?」
仲間に誘えそうな奴がいないか知りたい。
「そうだなぁ。お前も大概だが……まずは当然カイルだな」
カートの目線の先で、カイルはフリーと話をしていた。
「おい、フリー! まさかまた火竜とやれる時が来るとはな。戻って来といて良かったぜ」
カイルが犬歯をむき出しにして言った。
「そんな喜ぶことじゃないと思うんすけどねぇ?」
カイルは火竜の成竜と聞き、やる気に満ちている。
「あいつ、竜と戦えることを喜ぶタイプか」
「ああ」
フリーとのやり取りを見て、カートが呆れながら答えた。カイルは火竜の子供で不完全燃焼なのだろう。やる気に燃えていた。
「あとは、同じ『赤鴉』副長のフリーだな。やつも達人クラスの剣の腕だと聞く」
カートはカイルと話すフリーにも目を向けた。
「なるほどな。さすがはナンバー2」
「ああ、それとあいつもだ。Bランクでソロの魔術士アリス」
「ソロ?」
「ああ。アイツは群れるのを嫌って一匹狼をやってる変わり者だが、凄腕の氷魔術の使い手らしい」
「あ、ユウ。私が言ってた子だよ」
レアが俺の肩を叩いて言った。
「ああ、あの噴水アートの子な。どこにいる?」
「ん、探してたのか? ほら、あそこの壁にもたれかかって床に座ってる。あの黒っぽい格好をした奴だ」
カートを指差す先に、全身黒コーデのその女の子はいた。
「お、あいつか!」
この町に来た時に噴水で凍らせたアートで小銭を稼いでいた2人のうちの1人だ。
うちのパーティの後衛に入ってくれたらちょうどいいんだが、少し癖が強そうだ。後で話しかけてみよう。
「なるほどな。それくらいか?」
「いや、まだいるぞ。リブロ兄弟だ。こいつらは2人ともが剣の達人で、最高のコンビネーションをしている。1人でも強いが2人ならオーガをも数分とかからずに倒すらしい」
「ああ、兄が闘技大会で3位だったやつだな」
闘技大会の打ち上げで少しだけ話したことがある。
「で、後は俺たちだな」
そう言ってカートは親指で自分を指すと、ニヤリと笑った。
「ああ、そこは俺も注目してた」
俺も少し冗談っぽく言う。だが、実際カートはBランクであるし、パーティ自体のレベルももうすぐだろう。
「いいかユウ。今回で手柄を上げるのは俺達だ。わかったな?」
「おう」
そう言い残し、カートは仲間たちの元へ戻っていった。
ーーーー
冒険者たちが集まったとこで、ギルド長ゾスが話し始めた。
普段は自分勝手に騒ぎまくる冒険者たちも、この時ばかりは静まり返ってギルド長の声に耳を傾ける。
「お前達、よく集まってくれた。今この町は前代未聞の危機に瀕している。…………原因は知っての通り成竜だ。情報によると、北の山の山頂辺りに休んでいる姿が確認された。数日前からこの辺りで子供を探しているようだ」
その情報に冒険者たちが、反応する。
「おい、まさか子どもって…………」
「なぁ、それって…………!」
そう、火竜の子供ならカイルが討伐してしまっている。
「言いたいことはわかる。だがこうなった以上は討伐するしかない。でなければ町は滅び、半数の人が死ぬだろう」
子供を殺してしまったことが親に知れれば、怒り狂った竜はこのコルトの町を灰塵に帰すだろう。
「対象は火属性の火竜。成竜の中でも特に巨大な個体で、討伐ランクは間違いなくAランク以上…………! ここにいる何人か、もしくは全員が死ぬかもしれない。それでも参加するという覚悟のある者だけ、ここに残ってくれ」
ゾスが冒険者たちを見渡す。3分の1ほどが互いに顔を見合わせるも、立ち去るものはいなかった。
「…………感謝する。北の山までは歩いて半日。到着は夜中だろう。火竜は昼間に活動するため夜襲をかける。町は領主の軍が防備を固めてくれているので心配いらん。俺たちは気兼ねなく火竜を討てばいい」
かなりざっくりとした作戦だが、協調性のない冒険者たちだ。細かな作戦を決めるよりも連携のとれる各々のパーティで動いてもらった方がいいのだろう。
「質問はあるか?」
「寝込みを襲うなら、初撃は誰が?」
冒険者の1人が聞いた。
「俺がやる」
カイルが名乗り出た。皆の視線がカイルに集まった。
「俺が子どもをやっちまったんだ。けじめをつける」
「ダメだ」
セリフに被せるようにギルド長が却下する。
「あ?」
「相手は火竜。お前じゃ相性が悪い」
ギルド長がバッサリとその提案を切り捨てた。
「んだと!? てめぇこ…………」
カイルがギルド長に詰め寄ろうとすると
「はい、すみませーん」
フリーがカイルを後ろから羽交い締めにして押さえる。
「フリー! てめ、こら!」
吠えるカイルをフリーはなんとか説得する。
「ギルド長が言うことはもっともっすよ。ここは任せましょう。で、結局誰が?」
「アリス、お前がやれ」
はじっこで聞いていたアリスに視線が集まる。あまり実力は有名ではないのだろう。なぜかわからない冒険者たちが大半だが、頷いている冒険者たちもいる。
「あたしが…………? いやよ。止めとく」
思ったより大人びた艶のある声をしてる。
「いや、おまえが適任だ。隠せてると思うな。Aランクに匹敵する魔力に加え、氷属性なら火竜と相性もいい」
「本気?」
長いまつ毛の目でギルド長を見返す。
「そうだ」
「…………はぁ、わかったわ。あなたが言うなら仕方ない。仕留めるつもりで撃つから、カバーよろしく」
アリスが肩をすくめて答えた。
「任せろ。補助は俺が行う」
「へぇ、ギルド長もでるのかい?」
フリーが問う。
「当たり前だ。お前らだけじゃ手に余る。相手は竜の中でも最も攻撃力の高い火竜。私が防御を行う。私がいない間、ギルドは副長のミーカに任せる」
ギルド長は元Aランクだったらしい、あの覇気は本物だったようだ。ならば心強い。
「それと馬車はギルドから6台出せるが、全員は乗れまい。馬車を持っているものは各自で頼む。できるだけ体力を温存した状態で行くぞ。他、あるか?」
ウズウズするような良い緊張感に満たされるギルド内。声は上がらなかった。
「よし、ならば出発だ!!」
ギルド長が杖を掲げた。
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」
冒険者たちの雄たけびにギルドが揺れた。
読んでいただき、ありがとうございました。
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※過去話修正済み(2023年11月25日)