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【100万PV突破!!】重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第2章 町へ
26/159

第26話 バケモノ

いつもありがとうございます。


 ザザザザ、ザザザザザ…………!!


 例の魔物がいるであろう場所まで身体強化、レアは風を纏って森の中、木々の間を突っ走る。時には魔法で葉や枝を払いながら、道なき道を直線で突き進む。


「はぁ、はぁ。ユウ! あとどのくらい?」


 さすがのレアも風魔法を纏ったままの全力疾走を続けていたため、息が切れてきている。レアの頬を汗が伝っていた。


「もう少しだ! あと1分!」


 だがその時。走りながらも広げていた探知に動きがあった。


「おい、嘘だろ!?」


 思わず立ち止まり、慌てて探知を冷静に確認する。


「何かあったの?」


 レアも風を収めて俺の方へと駆け寄る。


「1人、反応が消えた」


「っ…………!」


 レアの表情が曇る。


 反応が消えたってことは、高レベルの隠密スキルを使った。もしくは…………死んだか。


 だがその時、1つの反応がこちらへ向かってきているのが見えた。


「待て、誰かこっちに来る……!」


 探知ではもうすぐそこまで来ている。


「逃げてきたのかも! 急ご!」


 レアは真剣な表情で進行方向を向きながら言った。


「ああ」


 反応の方へ全速力で向かうと、徐々に声が聞こえてきた。



「……か! ……れか、たす……て!!」



 何度も叫びながら走ったのだろう。喉がつぶれてかすれた声に息も絶え絶えだ。


「この声、もしかして……!!」


「多分そうだ!」


 聞き覚えのある声に、俺もレアも誰なのかすぐに気付いた。


 さらに進むとハッキリと聴こえてきた。



「誰か! 助けて!!」



 木々に衣服を引っ掛け、ズタボロになりながら現れたのはカートのパーティのサリュだった。

 倒れそうになりながら俺のところまでたどり着くと、座り込んだ。


「ユウ? …………ユウなのね?」


 必死だったのだろう。目の焦点が定まっていない。


「俺だ! 何があった!?」


 普段とはかけはなれたボサボサの髪の毛のサリュは俺の顔を見上げながら、肩をガッと掴んだ。


「良かった……あなた、が来てくれ、て…………早く、皆を…………」


 サリュが意識を失い、力が抜けた。肩をしっかりと支えて問い掛ける。


「おい大丈夫か!?」


 完全に意識を失っている。


 皆ってカートたちか! 後衛のサリュを逃がしたってことは、それほど追い込まれているということ。思った以上に事態はひっ迫しているようだ。


「カートが危ない! レア、サリュを頼む!!」


 悠長に走ってる場合じゃなかった。カートたちの誰かが死んだかもしれない!


「方向はわかってる…………!」


 重力属性の魔力を用意し、前方へぶちまける。



 ズッッッッ……………………ゴゴォォオオオオオンンンン!!!!



 魔物の反応がある場所までの木々を全てを一直線に重力魔法で押し潰した。くり貫かれたように周囲よりも1メートルほど低い、直線の平らな道ができる。


「いた……!」


 視界の一番先、そこにカートはいた。直線距離にして300メートル。異形のバケモノに首を掴まれ、持ち上げられているカートが見えた。手足は力なくダランと垂れ下がっている。



「カァァーーーートオオオオ!!!!」



 たった今出来上がった真っ直ぐな道を飛ぶように走る!


 バケモノは俺に気がつくと、カートから手を離した。カートが地面にドサッと落ちる。


 落とされたカートは僅かに動いている。生きてはいるようだ。


 走って数秒でバケモノとカートがよく見える位置まで近付いた。だが、


「ん……………………?」


 俺は突進してすぐに勝負を決めるつもりだった。

 だがバケモノの姿が目の前まで来ると、その姿に思わず足が止まった。カートが無事で安心したからじゃない。


「お、お前…………何なんだ?」


 そいつはオーガとは全然違った。魔物とも違う…………生き物として、どこか不恰好でアンバランスだ。体長2.5メートルほどで全身が赤みがかった肌色をしている。人型ではあるが全身の筋肉が不恰好にボコボコと膨張し、顔面が崩れ片目が肉で見えない。胸にななめに大きく斬られたような傷痕がある。


 今まで魔物の姿を見て、恐怖心を抱くことはあった。でもこいつはそれらとは違う。





 ()()()()()()。そんな感情だった。





「グ、ガアアアア!!」


 急に叫んだかと思うと、右腕の筋肉が目に見えるほど急激に膨張した。立っている状態で、地面に指先が触れるほど右腕が巨大化した。


 賢者さん。何なんだ、コレは…………?


【賢者】申し訳ありません。私のデータベースには存在しない生き物です。


 賢者さんも知らない…………? 


 本当になんだこいつ。この見た目、まるで実験に失敗した動物か何かのようだ。


【賢者】ステータスになります。



=======================

Unknown

種族:不明

Lv.68

HP:858

MP:655

力:1905

防御:580

敏捷:1190

魔力:329

運:95


【スキル】

・探知Lv.2

・隠密Lv.5

・体術Lv.6

・思考加速Lv.3

・先読みLv.4


【魔法】

・火魔法Lv.4

=======================


 これ…………まるで人のステータスだ。


【賢者】はい。魔物でこのようなスキル構成はまず見られません。明らかに目的があって得たスキルになります。


 見れば見るほど元は人間だったんじゃないかと思える。


【賢者】そのようですが、不自然な点が1つ。力だけがAランク冒険者に匹敵します。ですが他の能力値が低すぎます。


 ステータスまでアンバランスとは、ますますわからない。こいつは何なんだ?


「ガアアアア!!」


 考察してる暇はない。バケモノが口から唾液を撒き散らしながら、足を踏み出し徐々に加速。突進してきた。


 レアだと危険だ。俺がやる…………!


 バケモノから目をそらさずに、後ろのレアに向かって叫んだ。


「キースとゴードンもこの辺りにいるはずだ。探してくれ! こいつは俺がなんとかする!」


「わかった! 気をつけてね!」


 心配そうな声が聞こえた。


「ああ!」


 レアはバケモノを回り込むようにして移動し、カートを抱えると安全な場所へ向かう。


「さて、と…………」


 後で調査するためにきれいに倒した方が良いかもしれないな。本当に元人間だと言うなら何があったのか知る必要がある。


 そこまで思考し、血液が巡るように全身に魔力を行き渡らせる。


「よし…………!」


 俺の2メートル目の前では、バケモノが巨大化した右腕を身体を反らして振りかぶっていた。これではせっかくの体術スキルが意味を成してない。

 分かりやすいほどのテレフォンパンチ。拳の大きさは1メートルほどにまで膨張したが関係ない。カウンターで首を狙う。


 右足を左足にクロスするように前に出し、無駄のない動きでバケモノの拳をスレスレで避ける。見え見えだった。


「これで…………!」


 拳を避けきった後、右上から刀がバケモノの太い首に吸い込まれていく。


 だが、刀がバケモノの肉を切り裂く瞬間、俺の左肩から胸にかけて痛みが走った!


「っ!?」


 その痛みに力が抜け、刀がぶれる。刀はバケモノの首を半ばまで斬り裂くだけに終わった。そしてバケモノとすれ違う。


「いっつ…………!」


 肩と胸の肉をベリベリとめくられたように、抉れていた。


 痛いが大した傷じゃない。でも、どうやってやられた……?


 すぐさま回復魔法で治療しながら、バケモノの方を振り返る。


「あいつ、いつの間に…………」


 バケモノの巨大化した右腕から骨がトゲトゲしく生えていた。


「ちょっ、ユウ大丈夫なの!?」


 2人を運んでいたレアが、俺が怪我したことに驚く。


「大丈夫。不意を突かれただけだ。ただ…………あんなもの初めからあったか!?」


 まさか殴った瞬間に運良く生えた? そんな馬鹿な。意図的に生やせるとでも?


「グガ、ガアアアア!!」


 苦しむようにバケモノが叫ぶと、今度は両肩からメキメキと鋭い黄ばんだ骨が生えてきた。


「そうか、今この瞬間も進化してるのか…………」


【賢者】ユウ様、アレのステータスが先程よりも上昇しました。


 なんて、生き物だ…………。


 俺が見てる前で、半分まで斬ったはずの首の断面がミチミチと動いたかと思うと、きれいに繋がった。


 この進化速度と再生能力。綺麗に仕留めるのは諦めよう。むしろここで取り逃がしたら面倒なことになる。


 久々に本気で殺るか…………。


 魔力を全開で準備をする。選んだのは得意な『重力魔法』。



 ズズッッッッ……………………!!



 突然の重力にバケモノは足を踏ん張る。地面にヒビが走るも、持ちこたえたようだ。そして、どうだとばかりに俺を見てニヤッとした。


「馬鹿。ここからだよ」


 今のは俺から漏れ出た魔力が重力属性を与えられ、周囲の重力が強まったことによるものだ。


「耐えてみろ。できるならな」

 

 立てた親指をひっくり返し、下へ向けた。





 ズ、ゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンッッ…………!!!!





 バケモノが一瞬で膝、両手を地面に着いて四つん這いになった。さっきの余裕の表情とは違い、目を見開いた後一瞬で必死になり、次いで苦痛に歪む。


 周辺の木々を巻き込み、地面が陥没していく。奴の腕がプルプルと震え、血管が浮き出しブシュッと切れる。身体の防御反応なのか、ボコボコと筋肉が膨張。もはや顔がどこなのかわからなくなるほどの筋肉の塊となって、生存本能で俺の重力に抗おうとする。


「フーッ! フーッ! フーッ! フーッ!」

 

 苦しむような息づかいが聞こえる。かと思うと、ボコンと筋肉の塊から顔を出した。そして俺を見て涙を流して叫ぶ。



「ガ……アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」



 そして、骨と肉が潰れる嫌な音が鳴り響いた。


 メキメキ……バキッ。バキバキ、バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキ…………バキョッ。


 ミヂュュッ…………!



「ィヤ……ダアアアアアアアアア…………ァァ!!」



 潰されながら、最後何か聞こえた。


 

 ズンンンン…………………………………………ッッッッ!!!!



 完全にバケモノは原形を失い沈黙。地面のシミとなった。


「…………喋った? あいつ、最後に言葉を…………?」


 いや、それよりもまずはカートたちだ。


「レアこっちは片付いた! キースとゴードンはいたか!?」


 空へ向け、俺は声をあげた。


「いたよ!! 早くこっち来て!」


 焦りを含んだレアの声がする方へ向かうと、キースが何本もの木を薙ぎ倒した先、木の根もとに倒れていた。


 右胸が凹んでいる。殴られた衝撃が原因か、肺が潰れてしまっていた。息はすでになく、空間把握で見れば心臓が痙攣している状態だ。これならまだなんとかなるかもしれない!


「ごめんユウ。私1人じゃ何も出来なかったよ…………。キースさんを助けられなかった」


 レアが膝を抱えてポロポロと泣き出した。


 でも諦めるのはまだ早い。この世界の人たちの生命力なら、まだ十分助けられる可能性がある。


「まだだ…………」


「え?」


「まだ呼吸が止まってからそんなに時間は経ってない!」


 俺は回復魔法を発動させ、キースの肺の修復にかかりながら、左右の手の平に雷魔法を用意する。職場でのAED研修を思い出す。


「下がってろ」

 

 俺がそう言うと、レアは涙の貯まった目で不思議そうに俺を見た。


「一体何するの?」


「いいから!」


 説明している暇はない。心臓を挟むように肩と脇腹に手を当て、


 バリィッ!!


 キースの胸がビクンッと跳ね上がった。


「ダメか…………もう一度っ!!」


 バリバリィッ!!!!


 その瞬間、


「かっ…………! かはあああああああああああ! んひゅうーー、はぁー、ひゅう、はぁあああああ!」


 キースが呼吸を始めた。


「う、うそ!?」


 レアが隣で腰を抜かした。


 だがキースは呼吸が苦しそうだ。眉間に深いシワを寄せ、目をギュッとつむりながら必死に呼吸を繰り返している。

  

「肺だな……」


 つぶれた肺を急いで修復し、体腔に溜まった血液を除去する。


「すー、すー」


 キースが呼吸は穏やかになった。


「良かった…………!! 間に合ったか!」


 俺は地面に尻をついて、ふーっ! と息を吐き出した。


 意識はないが、これでキースが死ぬことはなくなった。


「キ、キースさんが、生き返った!?」


 レアはポカンとしたまま動かない。

 ただ、レアのリアクションはオーバーだ。キースはまだ死んではいなかった。


 カートの意識はないものの、見た感じ打撲傷が主で、すぐに治療しなくても命に別状はなさそうだった。サリュはカートよりも軽傷だ。


「それで、ゴードンはいたか!?」


「そ、それが、見つけられなくて…………」


 レアが泣き出しそうに答えた。


「そんなはずない。レアの探知には?」


「私の探知じゃ、わからないの」


 レアの探知にも反応がない? いや、キースでわかったように、余程弱っていると探知にも反応しないことがある。まだ望みはあるが急がなければまずい。


 目を閉じ、神経を集中して探知を使う…………。


 この辺りの生き物は軒並み逃げ出していた。だが5つ向こうの茂みに何かいる。


「これか…………?」


 これがゴードンの反応ならかなり弱ってる。まるで小動物。


 反応があった場所に向かうと、ゴードンが血溜りの中に仰向けになっているが見えた。辺り一帯の木々の葉にまで血が飛んでいる。いったいここで何があったのか。

 それに何かがおかしい。やけにゴードンの身体のバランスが悪い。


 その理由は近付いてわかった。


「腕が…………!」


 ゴードンは両腕をねじりきられていた。さらにろっ骨が複数折られ、腹から突きだしている。飛び散った血は、これが行われた時のものだろう。顔は恐怖に歪み、目を開けたままだ。


「…………ひどい」


 レアが青ざめた顔で口を手で押さえた。

 ただ、驚くべきことは巨人族の生命力だろうか。ここまで悲惨な状態でも、胸がわずかに上下した。呼吸している。


「胸が動いたよ! ユウ助けてあげてっ!」


 レアがくしゃくしゃにした顔で言った。 


「あ、ああ」


 こんな傷治せるのか…………いや、やるしかない。


 顔をパンッと叩いて気合いを入れた。


「レアは腕を探してくれ!」


「わかった!」


 まずは腹の出血を止める!! 全力で回復魔法を使うと、今までにない勢いでガリガリとMPがなくなっていくーーーー。


「ここまで大きな傷を治すのは初めてだ……」


 だが、俺の馬鹿げた魔力のおかげで体の血は止まり、メキメキと腹を突き破っていた骨も、逆再生のように元の位置に戻っていく。ほんとに魔力馬鹿で良かった。


「ユウあったよ!」


 レアが自分の身長ほどもありそうなゴードンの太く大きな両腕を胸に抱えて現れた。


「よし! 断面を近付けて置いてくれ。左右間違えるなよ?」


「もちろん!」


 すると、ゴードンが生きようとしているように腕を繋ぐ魔力が見えた気がした。それをイメージし、力を注ぐ。



 回復魔法を続けること30分ーーーー



「なおっっった…………!」



 額に浮かんだ大粒の汗を拭い、後ろに脱力してパタンと寝た。ゴードンは完全に五体満足の状態にまで戻った。


「ユウ、お疲れ!」


 レアもホッとしたようだ。


 しかしあのバケモノ、ゴードンに余程の恨みでもあったのだろうか。


 それからカートと軽傷のサリュも治療し、皆の目が覚めるのを横に座って待つと、ようやくカートがぼんやりと目を開いた。俺が覗き込むと、何があったか思い出したようだ。



「…………ユウか」



「おう。体はどうだ? 生きてるか?」


 そう聞くと、仰向けに寝たままのカートは目の前に自分の手を持ってきた。


「生きてる……んだろうな……………。不思議だ」


「何も不思議じゃないぞ」


「…………皆は、無事か?」


 カートがゆっくりと身体を起こす。


「無事だ。ほら」

 

 胡座をかいたカートに顔を向けさせると、ちょうどサリュとキースが目を覚ました。


「わたし…………」


「あれ?」


 サリュとキースはもう動けるようで、不思議そうに辺りを見回している。


「おい、あの魔物は? あいつに俺らは…………」


 自分達がやられる瞬間をも思い出したのか、カートたちの目に恐怖がよみがえる。


「バケモノなら殺した」


「殺した? …………あいつを?」


 目を丸くするカートたち。


「ああ」


「…………そうか。お前らを信じて正解だったな」


 カートはホッとしたように胸を撫で下ろした。


「ははっ、そんなに信頼されてたとはな」


「ふん…………だが何故こうもタイミング良く来れたんだ?」


 カートが恥ずかしさを隠しながら聞いてきた。


「ああ、あのバケモノにやられたフリーがギルドに運び込まれたんだ。そこで聞いた」


「ふ、フリーですら負けたのか!?」


 カートが声を大きくして驚いた。


「そうだ」


 そう答えると、カートは両手で顔を覆って肩を震わせながら話した。


「…………アイツは、異常だった。あんな魔物、今まで会ったことがない。なんだったんだ?」


「俺にもわからん。とりあえずは俺がギルドに報告しておく」


「すまんな」


「気にすんな。あとはゴードンだな」


 するとぼーっとしたままだったサリュがハッとした。


「そ、そう! ゴードンは大丈夫なの!? 最後見えたのよ! ゴードンの血が宙を舞うところが!」


 そう言うと皆が心配そうに静かに眠るゴードンを見つめる。腕は完全に引っ付き、腹の傷は少し跡が残るくらいだ。きちんと心臓が動いているのも確認している。


「ゴードンも無事だ。巨人族は物凄い生命力だな。両腕と腹に穴が空いていたが、俺らが到着した時まだ息があった。おかげで助けることができた」


「そんな、に……? でも良かっ……………………たぁ」


 サリュが膝を抱えてうずくまり、絞り出すように言った。


 本当に良かった。サリュの頑張りがなければ、間に合わなかっただろう。


「ユウとレアは俺たちの命の恩人だ」


 レアが首を横に振る。


「そんな大層なもんじゃねぇって。ほら、こいつが起きたらさっさと町に戻って休もう」


 ゴードンを親指で指しながらそう言っていると、



「…………あれ? オイラは…………?」



 ゴードンが起きた。


「ゴードン! 身体は大丈夫か?」


 きょとんとしている。まだ頭が働いていないようだ。


「大丈夫かって、どういう意味…………あ、そうだった。オイラは、あいつ、に…………!」


 ゴードンがガバッ! と起き上がり、腹と手を見る。


「大丈夫だ。腹の傷も、両腕も、バッチリ元通りに治してやってるからな」


 俺はそう言いながらゴードンの背中をバシバシと叩いてやった。


「う、あ…………腕が…………ある」


 仰向けで腕を曲げ伸ばしし、じっと眺めている。


「ゴードン! 大丈夫!?」


 カート、サリュ、キースがゴードンを心配してそばに寄った。


「大丈夫、みたいだ」


 ゴードンが自分のお腹を触りながら言った。


「良かった……ユウが治してくれたのよ!」


 サリュが涙を貯めて言った。


 それを聞いたゴードンが座ったまま俺に向き直った。目からどんどん涙が溢れてきた。


「ほっ…………ほんとに! オイラ、オイラ、もう死んだと思った!! 腕がむしられる瞬間、ここが地獄の底なんだと本気で思った! ありがとうユウ、レア!」


 抱きついてきたので俺とレアはサッと避けた。



「うぉおおお! おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!」



 ゴードンは空を仰いでおんおん泣き出した。


 よくわかる。死んだと覚悟した後は俺もそうだった。



◆◆



 その後、戦う気力が残っていないカートたちを護衛しながら町へ向かった。町が近づいた頃には陽は沈んでしまっていた。


 カートたち4人は自分の足で歩いていたが、皆フラフラで特にゴードンは放心状態のようだ。カートですらひたすら黙々と歩いていた。

 落ち着いてから戦いのショックがフラッシュバックしたのかもしれない。


 俺もこの世界に来た頃、ゴブリンに殺されかけ、生死の境をさ迷った時は、精神的にもキツかったのは覚えている。あの時はデリックに助けられたんだったな。


 暖かい色の魔石灯が照らす、町の入り口が見えてきた。


「おいカート。帰って来たぞ」


 ボーッとしたままのカートの肩をポンポンと叩いた。


「ん、ああ。ここまですまんな」


 俺に言われて気がついたようだ。


「気にすんな友達だろ?」


「ふっ、そうだな。今日はありがとうな」


 無理矢理に笑おうとするも、カートの顔がひきつった。


 そんな顔されたら、心配になるだろ…………。


「なぁカート、今日のことは」


「え? ああ、助かったよ。お前のおかげだ」


 カートが握手すべく、右手を突き出した。


「違う。間に合ったのはサリュが死に物狂いで俺たちを見つけてくれたからだ。それに俺たちが町でちょうど情報を得られたのも運が良かった。つまり、お前たちの実力だ」


 カートは手を出したまま、首をかしげた。


「俺のいた国じゃ、『運も実力のうち』てことわざがある。わかるか?」


 カートたちは尚更きょとんとした。そして


「ははっ、ははははは!!」


 突然カートが腹を抱えて笑いだした。


「え? 笑うとこか?」


「うううん。笑うとこじゃないよ」


 隣にいたレアに聞くとレアもニコニコとしていた。


「ありがとうよユウ。そこまで心配してくれなくても俺たちはこんなところで折れねぇ」


 今度はいつものカートだった。


「心配なんかしてねぇよ」


 何故か急に恥ずかしくなってきた。


「なら早く帰れ馬鹿野郎!」


 怒鳴ってカートたちを追い返した。カートたちは少し元気になって町の中、自分の宿へと帰っていった。


「助けられて良かったね」


「ああ、本当に」


 今回ので実感した。やっぱり、強くあるべきだ。俺にもっと力があれば、あの時だって村の皆を救えたはずだ。


「レア、もっと強くなろう」



「うんっ!」


読んでいただき、ありがとうございました。

良ければブックマークと評価、宜しくお願いします!


※修正済み(2023年11月16日)

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