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【100万PV突破!!】重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第2章 町へ
24/159

第24話 試合結果

こんにちは。

いつもありがとうございます。


 目を開けると、目の前にレアの顔があった。


 おっきなクリクリっとした目に涙袋、猫耳がかわいい。


「お、おはよ…………?」


 徐々に見開かれていくレアの目。


「起きた!!!! ユウが起きたーー!!!!」


 レアが喜びに顔を弾けさせ、ぎゅーっと抱きついてきた。


「いだだだだ!!」


 レアの身体の柔らかさを感じる前に、そこら中が痛い。


「みんなー!! 目を覚ましたよ!」


 パッと俺を離すと、レアがパタパタと走っていった。

 

 落ち着いたので周りを見ると、ここはガブローシュが寝ていた病室のようだ。ベッドが10人分置かれ、壁は白塗りの石造りでどこか清潔感がある。普段は白い布で仕切られているようだが、今は開け放たれている。

 ただ、2つ隣のベッドだけ外から見えないように閉め切られ、中では数人が慌ただしくしている。


「俺…………なんでここ…………に?」


 記憶を探ればすぐに思い出した。


 そう、か。カイルの刀が腹に刺さって、燃えて…………。


 意識が明瞭になってくると腹に強い痛みが走りだした。


「いっつ…………!」


 痛みに腹を抱えるように身体を曲げる。


 そうだ、あの場では応急処置しかできていなかったな。


 回復魔法をかけようとするとバタバタと大勢の足音が聴こえてきた。そしてバンッ! と、勢いよくドアが開け放たれた。


「ユウ!」


「しじょお~~~!」


「師匠!」


 開けられたままの扉からレア、ガブローシュ、エポニーヌ、コゼット、それにカートたちが飛び込むように病室に入ってきた。


「師匠! 生きてますか!?」


 ガブローシュ、目が覚めたのか良かった。


「ああ、この通り…………」


 と言いながら右腕を上げるもプルプルと震えており、みっともないところを見せることになってしまった。


「起きたらダメっ!」


 体を起こそうとすると、両肩をレアに押さえつけられた。


「無茶しやがって…………お前、本当に死ぬところだったんだぞ?」


 カートが腕を組ながら眉間にシワを寄せ、真剣な顔で言う。


「大丈夫だ。慣れてるから」


「慣れるな」


 怒ったカートが俺の額を人差し指で突っつき、ボフンと頭を枕に置かされた。


 そして、カートをスルーしてガブローシュ、エポニーヌ、コゼットのガキんちょ3人組がボフンと俺の白いベッドに乗っかって来た。


「師匠、怪我大丈夫なんですか!?」


 そう言うガブローシュが元気そうで良かった。


「いや、お前こそどうなんだよ。あの時、傷は全部治せたと思うんだが……」


 そう言うとガブローシュは泣きそうに口をへの字に曲げた。


「し、師匠…………それどころじゃないですよ~!」


「ん、なんでだ?」


「だって…………か、身体の内側から内臓が焼かれてたんですよ!? 普通なら10回は死んでます! むしろなんでもう話せるのか、理解できません!!」


 俺だってそんなことわからん。


「…………気合いだ。気合いがあれば人は死なん」


「ほ、本当ですか…………?」


「ああ」


「さっ、さすが師匠!」


 純粋だなぁ。



「「いやいやいやいや…………」」



 聞いてたカートたちが首を振った。


「俺の方もエポニーヌたちから聞きました。師匠が治してくれたって! 本当にありがとうございます。ケガはもう問題ありません!」


 そう言ってガブローシュは腕に力こぶを作った。


「ははっ、ちっちゃな力こぶだな。これからも頑張れよ」


「はい、いつか師匠も超えて見せます!」


 ガブローシュが両手をグーにして興奮した様子で言った。


 可愛い弟子の頭をわしわし撫でていると、気が付けば隣に知らない男が立っていた。長髪に尖った耳をしている。


「おい、ここは保育園か」


「ん?」


「傷はどうだ? 今のお前はグロくて目のやり場に困る。見映えが悪いからなんとかしてくれ」


 自分の体を見てみる。


 治癒士が出血は止めてくれたようだが…………これが限界だったんだろう。

 この世界へ来た時に着ていたTシャツは燃えつき、体が焼き肉の焦げのような炭に覆われている。身体も熱を帯びていて熱い。普通なら発狂するレベルの痛み。苦痛耐性があって良かった。

 地球の常識だとこの怪我でなんで生きてられるか不思議だ。まぁ、この世界では高レベルなほど死ににくいのだろう。


「見映えね…………」


 なかなかヒドイことを言われたので完全に治すために回復魔法を使う。俺の体が光に包まれる。


 体の中の壊されていた組織が修復されていく。剥がれてしまった皮膚や、重度の火傷も下からきれいな色をした肉と皮膚が作られていく。


「なっ!?」


 カートたちが口を開けたまま、その光景を眺めていた。そして、俺の焦げた皮膚は身体に吸収され、傷は完全になくなった。


「ふぅ…………すまんな。心配かけた」


 グルグルと腕を回したり、上半身を捻ったりして動きを確認する。


「いや……いやいや……いやいやいや!! ユウお前回復魔法も使えるのか!?」


 パクパクと口を明け閉めさせながらカートが言った。


「うん」


「そ、そうか」


 カートの物わかりが良くなった。


「というかあんた誰だ…………?」


 俺が知らない男の顔を見上げると、どこかで見覚えがあった。そのプラチナブロンドの長髪に尖った耳、まさにエルフの特徴だ。


「ユウ、ギルド長だよ!」


 レアがこっそり耳打ちする。


「おお、あんたが」


「2人共意識不明の重体だったからな。様子を見に来たまでだ」


 無感情に俺を見下ろす、無愛想な人だ。選手を心配して来たのか、ギルド主催イベントで死人が出ることを気にして見にきたのかわからない。淡々と無感情に仕事をこなす機械のような人、そんな第一印象だった。


「そりゃどうも。カイルはどうなったんだ?」


「ああ。アイツはお前が即座に治療したおかげで生きてはいるが…………ギリギリの状態だ。お前、回復魔法の腕が良いんだろう? なんとかしろ」


「いや命令かよ」


 ギルド長が無表情に目で指した方向には布で隠されたベッドがある方向だった。ギルド長が布をはずすと、治癒士が4人付きっきりでカイルに回復魔法をかけ続けていた。そこには付き添いで何故かフリーもいる。


 カイル…………。


「よっこら……せっ…………」


 俺はベッドからお年寄りのようにゆっくりと立ちあがり、カイルの元へ向かう。


「おい、ユウ!」


「師匠! まだ歩くのは…………!!」


 カートやガブローシュが止めにはいるが気にしない。体力はギリギリでフラフラだが、俺の傷は完全に治っている。


 カイルのベッドまで近づくと、目を閉じたままのカイルがいた。その傷は深く、まだ意識が戻っていない。あたりまえだ。肩から胸にかけて、切り傷どころじゃない、完全に縦に切り込みが入っているんだ。あの傷で死んでいないことが不思議だ。


 これ、俺がつけた傷なんだよな…………。


「どいてくれ」


 懸命に治療にあたっている治癒士たちに言う。


「なにを! それどころでは…………!!」


 1人の治癒士が邪魔をするなと怒るが、別の2人が揃えて声をあげた。



「「あ、あなた様は!!」」



 この2人はガブローシュを治療してくれていた人たちか。


「今度その気持ち悪い呼び方したら、こいつと同じ傷を付けてやる」


 治癒士たちがプルプルと首を振って後ろに下がった。すぐさまカイルに回復魔法をかける。ギルド長もフリーも何も言わず俺に任せていた。


「おおっ!」


 肩の傷は組織が互いに呼び合い、ミチミチと修復を開始する。


「おい、お前ら手伝え」


「はっ、はい!」


 後ろで俺の治療の様子を呆けた様子で眺めていた治療士たちを呼び、カイルの傷口を力ずくで固定する手伝いをさせる。治療士たちは俺の魔法に興奮仕切りだった。

 今の俺の回復魔法のレベルは8を超える。命を繋ぎ止めるのが精一杯の一般の治癒士からすれば凄いのかもしれないが、王都まで行けばこれくらいできる人はごまんといるだろう。


 皆が無言で俺の治療を見つめること10分、カイルの肩の傷は閉じきり、跡形もなく完治した。地球の医学でもビックリだ。


 これでしばらくすれば…………と思うと。



「ん…………?」



 すぐにカイルが目を覚ました。ぼんやりとしていたが、俺を見つけて焦点が合った。


「調子はどうだ?」


 覗き込んでそう聞くと、



「…………けっ、てめぇか。最悪の寝覚めだ」



 そうカイルは苦笑いをすると、続けてポツリと聞いた。


「俺は…………負けたのか?」


「いや、俺の反則負けだ。魔法を使った」


「…………魔法?」


「最後、俺もあんたも一刻を争うほど瀕死だった。あのままだと2人とも治癒士を待たずして死んでいた。だから回復魔法を使った。俺はまだ死ぬわけにはいかないからな」


 事実をありのままに伝えた。


「…………そうか。それで俺は生きてるのか」


 カイルは仰向けのまま、ベッドで天井を仰ぐ。


「おい、ユウ」


「なんだ?」


「礼は言わんぞ。いらんことしやがって」


 カイルは俺を睨んだ。


「もちろん、俺が勝手にやったことだ」


「だが、はぁ…………」


 カイルは心底嫌そうにため息をついた。



()()()()()



「ははっ」


「ちっ…………ああ、それとそこのガキ」


 カイルがガブローシュに目を向けた。


「お、俺?」


 ガブローシュが戸惑いながら自分を指差し問う。


「…………悪かったな。こいつの弟子だと聞いて使う技を誤った。まぁ、もともと俺は加減が苦手だ。やり過ぎてお前を殺すところだった」


 カイルは無愛想ながらに口を尖らせて謝った。


 思わず笑みが溢れそうになる。


 こいつ、可愛いとこあるな。


「え!? いや、その…………こちらこそ弱くてすまん!!」


 なんだそりゃ。


 ガブローシュも頭を下げた。


「ははは! 弱くてか! 言えてるな」


 カイルは上を向いて高笑いをした。


「なんだと!」


 ムカついたガブローシュがカイルに突っかかるが、カイルに首根っこを捕まえられ、足をバタバタとさせている。


「精々頑張れよ」


「いだっ。いだっ!」


 カイルがガハハと笑いながらバシバシとガブローシュの背を叩く。

 と、その時



 ピン、ポン、パーン!



「ん?」


 会場の方から音がした。


「ユウ選手、カイル選手。意識が戻られたばかりですみませんが、一度ステージまでお上がりください」


 アナウンスが流れた。2人とも目覚めたことが運営まで伝わったのだろう。そういや、いつの間にかギルド長がいなくなっていた。


「もうかよ。あのギルド長まじ鬼だな」


「ほんとによ!」


 カイルが辛そうに体を起こす。


「カイル、動けるか?」


「ああ。なんとかな」


 カイルはゆっくりとベッドから降りると歩き出したが、すぐにふらついて、壁に寄りかかった。


「仕方ないか…………」


 肩を貸した。


 もう俺の中でカイルに対する嫌悪感はいつの間にかなくなっていた。こいつは不器用なだけだ。悪気は少なくともなかった。ガブローシュも満足したようだし、それで十分だ。



◆◆



 そして、表彰式。


「さぁて、お待たせしました! ユウ選手、カイル選手の登場です!」


 俺がカイルの肩を支えながらステージへ上がると、包まれるような温かな雰囲気に加え、大きな拍手と歓声をもって迎えられた。


 もうとっくに太陽は沈み魔石灯がステージを照らしているが、結果を知るために観客たちは帰らずに待っていたようだ。


「2人とも瀕死の重症を負うも、驚異の回復力と治癒士の皆さんのおかげでここに戻ってこれました。先程のいろんな意味で凄まじく熱かった戦いを称え、お2人にもう一度大きな拍手を!!」




「「「「「わああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」」」」」




 鼓膜がバリバリと鳴るほど、盛大な歓声と拍手が巻き起こる。


「うるせぇな」


 隣でカイルが嫌そうに言った。


「さて! では、先程の勝負の結果について発表しましょう!」


 会場が静まり返り、皆固唾を飲んで結果を待っている。




「勝者はーーーーっ!!!!??」



「待ってくれ」



 カイルがそれに待ったをかけた。


 アシュレイが優勝者の名前を叫ぶために溜めた息を、吐き出せずにつんのめる。


「カ、カイル選手?」


「こいつが最後に魔法を使ったと聞いた。だが、それは俺を助けるためでもある。実際、あの場ですぐに回復魔法をかけられてなければ確実に2人とも死んでいた……」


「そ、それは、そうかもしれませんが…………」


 そう言いながらアシュレイがギルド長に視線を送ると、ギルド長はコクンと頷いた。


「少々お待ちください。審議致します」


 アシュレイが裏へ引っ込み、ギルド長と何やら話し合いだした。


「おいおいカイル、お前…………っ!」


「うるせぇ、これくらい好きにさせろ」


 カイルは折れそうにない。


「お待たせしました!」


 30秒と待たずに戻ってきたアシュレイ。



「審議の結果、決勝戦は……………………『引分け』とします!」



「はぁ…………」


 なんかそんな気がした。


 

「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」」」」



 観客たちは納得したのかしてないのか、変に盛り上がる。


 …………いや、あれは俺の負けだ。負けだった。


「ははっ、引き分けだとよ。だが、勝負じゃ俺の負けだな」


 ステージの真ん中、カイルは清々しい顔でそう言った。


「いや…………カイル、お前まだ使ってないユニークスキルがあっただろ? なんで使わなかった?」


 そう、あの時鑑定で見たカイルのステータスにはもう1つのユニークスキル『黒炎』があった。


「あ? ばれてたのか。あれは加減ができる代物じゃねぇ。下手すりゃ会場ごと燃やしちまう。それよか、お前も回復魔法が使えたんじゃねぇか。魔法ありなら勝負はわからなかっただろ?」

 

「…………まぁ、そうか。そこはお互い様か」


「しかしお前、俺より化け物だな。お前のレベルが上がった時が恐ろしいぜ」


「ははは、どうだろな」


「それと…………。なぁ! 賞品はどうなるんだ?」


 カイルは再び司会席のアシュレイに向かって問い掛ける。


 そう、カイルは火竜の牙を欲しがっていた。それが今大会に出場した目的だろう。


「申し訳ありませんが、竜の牙は1セットしかありません。賞品は別の物になります」


 ペコリと謝るアシュレイ。


「あー、くそやっぱりか」


 膝をグーでゴンゴンと叩き、悔しそうなカイル。


「そんなに欲しかったのか?」


「当たり前だ。火竜は俺の刀の強化に最適なんだよ。冒険者の実力は個人のステータスもあるが、やっぱ装備も重要だからな」


「なるほどな…………」


 まぁ、カイルにならもう1つ恩を売っておいて損はないか。


「俺は竜の牙は別にいらないから、それカイルにやってくれないか?」


 ステージから司会のアシュレイに呼び掛ける。


「はぁ!? 何言ってんだてめぇ!」


 カイルが胸ぐらを掴みかかってくる。


「まぁまぁ。俺は火竜にこだわりはないんだ」


「おいっ…………!」


 カイルが何か言おうとするが言葉が出ない。


「ユウ選手、よろしいのですか?」


「ああ」


「わかりました! それでは、優勝商品はカイル選手のものとします! ユウ選手には後日代わりとなる物を送らせていただきます」


「すまん。恩に着る」


「さて、これで借り2つだな」


 そう言って俺が笑うと、カイルが苦虫を噛み潰したような顔をした。


「冗談だって」


「それではギルド長より表彰に移らせていただきます」


 そして、3位になっていたリグルという男と3人でギルド長より表彰を受けることになった。

 俺と準決勝で戦ったナグルという弓使いは、3位決定戦に興味がなく辞退したようだ。


 そして、そのまま表彰式となった。


「まさかお前のような逸材がFランクに眠っていようとはな。今後はこの町をカイルと2枚看板でやっていってくれることに期待しよう。…………どうやら魔法も使えるようだしな」


 最後にぼそっと魔法の話を付け加えて意地悪く目の奥が光った。


 この人は多分腹黒エルフだ。面倒ごとを押し付けられないよう注意しよう。


 さてこの大会、当初の優勝して金稼ぎする目的は果たせなかったが、ガブローシュとカイルの件も落ち着いたし、これで良かったのだろう。


 ただ、何か忘れているような気もするが…………。



◆◆



 大会閉幕後の晩。

 レアやカート、そしてカイルを筆頭とするトーナメント出場選手を交えてギルドで飲み会が開かれようとしていた。


「それじゃ! 剣闘大会2人の優勝者を称えて乾杯!!」




「「「「かんぱーーーーい!!」」」」




 なぜかレアの乾杯の音頭で打上げが始まった。ガヤガヤとギルド1階のテーブルは冒険者たちでいっぱいだ。その中心にいるのはもちろんトーナメント出場者たちだ。


 早速話題は俺のことからだ。


「まぁ大会MVPは間違いなく格上のカイルを追い詰めたこいつだろ。…………なぁ、本当にレベル1か?」


 そう問うのはトーナメントまで勝ち残った弓使いナグル。こうしてきちんと話すのは初めてだ。


「本当。ギルド長も俺はレベル2じゃないって言ってただろ?」


「む…………まぁ、確かにな」


 俺だってナグルに言いたいことがある。


「俺からしたらナグル、あんたの方がレベル1か疑わしいぜ」


「馬鹿野郎。俺がレベル2だったら優勝してるはずだ」


 酒を煽りながら、さも当然とばかりに言うナグル。


「ぐ…………」


 言い返せない。


「確かに、あの厄介さは否定できないな」


 カートが苦笑いで答えた。


「正直それは言えてるぜ。もし3位決定戦が行われてたら、俺だって勝つ自信はなかった……」


 そう言うのは今大会3位リグルという男。普段は弟と2人パーティを組んでおりBランクの中でもトップクラスの実力がある。中でも弟との息ピッタリの連携は町1番と言われる。


「俺もだ……。あの矢を向けられたときのプレッシャー。何度やっても勝てるイメージが浮かばない。俺の間合いに入れることすらできなかった」


 カートとリグルは揃ってズーンと落ち込んでいた。


「ふむ。リグルとやらは戦ってないからわからんが、カートは1年後なら勝負はわからなかっただろうな。センスはあるし、頭もキレる」


 ナグルはカートとの試合を思い出すように上を見ながら言った。


「そうか。そう言ってもらえると助かる」


 カートは顔を上げて笑った。


「だからこそ俺に真っ正面から突っ込んでくるこいつは、本当に頭がおかしい」


 ナグルが椅子の横に立て掛けていた自分の弓でコツンと頭を突っついた。


「いだっ」


「お前、ほんとにどんな反射神経と目だ。カート、こいつのやり方は参考にならんぞ」


 ナグルが俺を突きながら話す。


「まぁ、俺の感覚は特別だからな」


 ナグルの弓を手で払いのける。


「いや、はなからできると思ってねぇよ」


「だよな!」


「「ははは!」」


 カートとナグルは気が合うのか、いつの間にか仲良くなっているようだ。

 

 すると、話を聞いていたのかカイルが話題に入ってきた。


「おい反射神経と言えば、まさか俺の突撃技が初見で避けられるとは思わなかったぞ」


 そう言いなら浴びるように酒を呷っている。


「突撃…………あ!」


 …………あの高速移動か!


「お、お前アレはなしだろ! 何回死んだと思ったか…………!」


 もう一度やれと言われて全部避けきれる自信はない。腹が立ってきて、カイルを指差した。


「あぁ? お前死んでねぇじゃん。大丈夫だったろ?」


 するとキョトンと不思議そうに俺を指差してそう言うカイル。


「いや、そういうことじゃねぇよ。……もし俺が1発目で即死してたらどうするつもりだったんだよ?」


 呆れを隠す気も起きずに言った。


「お前がそう簡単に殺られるわけないと思ってたからな。それに、この中にもあれくらいの技、避けられる奴はいるだろ?」


 カイルが悪意のない顔で言う。


「…………」


 俺が無言で周りを見回すと、全員が全員しれっと目を合わさないようにした。


「ユウ、騙されちゃだめだよ。この場のメンバーどころか、町中を探したっていないよ」


 レアが苦笑いしながら皆の気持ちを代弁した。


 ウンウンと黙って頷く冒険者たち。


「あ~あ…………あれ使えば速攻くし刺しにして勝てると思ったんだがな」


 カイルが少し悔しそうに小さい声で言った。


「聞こえたぞてめっ! やっぱり殺す気だったじゃねぇか! 何が『大丈夫だっただろ?』だ!」


 カイルに掴みかかるが、カイルはどこ吹く風だ。


「そういやユウ、俺は魔法には詳しくねぇが、お前の回復魔法は治癒士からしてもおかしいレベルらしいじゃねぇか。おめぇなにもんだ?」


 カイルが気になっていたんだろう。飄々と俺の質問をスルーして聞いてきた。


「ああ。あれは、別に大したことないぞ。俺が訳あって魔物の森で暮らしてた頃、怪我ばかりでな……いつの間にか回復魔法が得意になってただけだ」


 そう答えるとギョッと俺の方に視線が集まった。



「「「「まっ、魔物の…………森!?」」」」



 全員の声が綺麗に揃った。


 いや、あんまりこの話題は深掘りされても困るんだが…………。


「おいおいユウ、どんな修行してんだよ」


 カートが問い詰めようとしてきたところで、レアが大声を上げた。



「あああ!!!! そうそう! そういやカイルさんはあの牙をどうするの!?」



 話題を切り替えてくれた。


「ん? ああ、それはこの焔火刀の強化に…………」





ーー和気あいあいとしながら夜は更けていき…………。





「おいユウ! 俺を忘れるんじゃねえ!」


 あの男が飛び込んできた。


 顔を見て、何を忘れていたか思い出した。


「ん? あ、すまんニック。本当に忘れてた」


 飛び込んできたのは、俺に金儲けの話を持ってきたニックだった。相変わらず大泥棒みたいにひょうきんな野郎だ。


 そうだった。こいつに頼まれてこの大会に出場したんだった。


「くそう、ユウ。もうちょっっっとだったのにな! 惜しかった! だが俺はあんな名勝負見せられちゃ、なんも言えねぇよ。互いに命を賭した実に熱い戦いだった! 感動した!」


 ニックは自分の手を握りしめ熱く語る。


 あれ? 思ったほどショックを受けてない? 引き分けだったから全損ってわけでもなかったのか?


「いや、約束は約束だ。期待を裏切って悪かった」


 とりあえず期待に報いれなく悪かったと思い、謝る。


「いや! いやいやいやいやいやいやい、いいんだ気にするな! 俺が無茶を言ったところもある。でも…………」


「でも?」


 ん?


「でもな! なぁ今度カイルと今日みたいな模擬戦やってくれねぇか? ちょっとだけでいいんだ。絶対に客を呼んだら大儲け…………へぶし!?」


 ニックが突然ぶっ飛んだ。飛んでいくニックはちょうどギルドに入って来たガブローシュの目の前を横切っていく…………。


「へぶし? …………ああ、なるほど」


 カイルが焔火刀の鞘でニックの頬を殴り飛ばしたようだ。


「悪いやつじゃないんだが、失礼なやつではある。そんで馬鹿だ。サンキュ、カイル」


 本当にただでは転ばん奴だ。


「ああ? 気にすんな。腹が立ったから殴っただけだ」


 とそこへ、


「「「師匠!」」」


 ガブローシュたちだ。


「お疲れさん」


「師匠何やってんですか。ギルドに入ったとたん目の前を人が吹っ飛んで横切ったんでビックリしましたよ!」


 テンション高めにテーブルを叩くガブローシュ。


「馬鹿弟子。そんなちっさなこと、いちいち気にしてたら生きていけねぇぞ」


「だから負けたのよ」


「小さい男…………」


 俺に続いてエポニーヌが、コゼットがボソッと呟いた。


「あれ? 俺が悪いの?」


 涙目になるガブローシュ。


 とそこへ。


「ん? おお、あの時のガキじゃねえか。もう体は大丈夫か?」


 フラフラといつの間にか酒瓶片手にギルド内を歩いていたカイルがガブローシュに声をかけた。


「あっ、カッ、カイルさん」


 ガブローシュが縮こまり、声が小さくなった。

 あの時の光景が脳内によみがえるのだろう。その時、後ろに来ていたエポニーヌとコゼットがガブローシュの背中をそっと押した。


「は、はい。お気遣いなく!」


「そうかそうか、悪かったな」


「いえいえ、それよりも! 次はもっともっと強くなって、師匠ですら引き分けたカイルさんを、師匠の代わりに倒して見せます!」


「ほぉ?」


 酒瓶をラッパ飲みしてカイルはガブローシュを見下ろした。


「はっ! おもしれぇじゃねえか。そういう気合い入った奴が最近はすくねぇからな! 期待して待ってるぜ!」


 カイルは楽しそうにカラカラと笑い、またどこかへ消えていった。


 それからはガブローシュたちやフリー、ギルド受付嬢の人達も合流し、飲み会は続いた。相当稼ぎが良かったのか、ルウさんは終始ご機嫌だった。


読んでいただき、ありがとうございました。

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※過去話修正済み(2023年11月9日)

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