第19話 剣闘大会
こんにちは。
小説を書くのって楽しいですけど、難しいですね。
よろしければ読んでください。
ーーーー3週間後、徐々にこの町にも慣れてきた。
今日はいつも通り依頼を受けようと早朝からギルドに来ており、レアと2人で依頼書を見ている。
ギルド内ではそれなりに知り合いも増えてきた。周りには俺たちと同じようにあーだこーだ言いながら壁の依頼書とにらめっこしている冒険者たちがたくさんいる。
「なぁ、レア」
俺は依頼書を見ながら、同じように横で依頼書を眺めているレアに声を掛ける。
「なに?」
レアの猫耳がピクッと動いた。レアの意識はまだ壁の依頼書にある。
「そろそろ風呂のついた宿屋に泊まりたいなー。なんてね」
反対されるのがわかっているので少し茶化すように言ってみた。ここ数日ずっと言っているが、受け流されてばかりだ。
「ユウ~? お風呂なんて別に水浴びと変わらないでしょ?」
案の定、レアがやれやれとこちらを振り返って答えた。
「それが違うんだよなぁ。たまに温かい湯に入らないと俺はダメになる」
レアが困った顔をした。
「もう。そんなこと言ってる時点ですでにダメになってるよ」
「だったらなおさらだろ?」
温かい湯に入れば、血行が良くなり自律神経が整って身体の疲れがとれて、スッキリする。だから最近は偶然見つけた町の銭湯に3日に1回は入浴しに行くようにしている。だがこれが高い。
「なら大金持ちになってお風呂のある家を建てなよ、もうっ」
「やっぱ金かぁー」
そんなことを話していると、後ろから声をかけられた。
「やぁやぁやぁ」
「なに?」
後ろを振り返ると、ニックと呼ばれる博打好きな冒険者がいた。相変わらず、某怪盗に似たもみ上げをしている。
「いやぁ、実はそこのユウにピッタリのうまい儲け話があってね」
またか…………。
ニックはことあるごとに、金を貸してくれだの、絶対儲かる話があるだの。大体はロクな話ではなかった。
「儲け話? また怪しい仕事じゃないだろうな?」
俺はいぶかしげに眉をひそめて聞いた。
「ちがうちがう! 魔法の練習台はもう懲りたって! 俺死にかけたんだぜ?」
そうオーバーに答える。ニックはこう見えてCランク冒険者でもある。だが、依頼を受けているところを見たためしがない。
「そうじゃなくて! もうすぐこの町でギルド主催のイベントがあるのは知っているかい?」
そう言ってニックはビシッと人差し指を俺に向ける。
「人を指差すな」
反射的にノータイムでニックの人差し指をへし曲げた。
「いだだだだだ!! 折れるっ! 折れるって!」
手を離した。
「で、ギルド主催のイベントだって? 初耳だな」
そんな話はまだ俺の耳には入っていない。
俺とレアは疑わしい目をニックに向けるが、そんなもの気にした様子もなく、彼は折られかけた指をさすりながら続ける。
「ちっちっち。そんなんじゃ世間の流れから置いてかれるぞ?」
得意気にウィンクするニックがウザい。
「うるせぇよ」
口を尖らせて言った。
「教えてやろう! それはコルト祭に次ぐこの町のビッグイベント『剣闘大会』! 開催は3日後だ!」
「「へぇー」」
レアとたまたま反応が被った。
「ちょいちょいちょい! なんだその興味なさそうな感じ! お前らだけに教えてやるが…………実はこの大会、金儲けにはうってつけなんだぜ? 貧乏同士、仲良くやろうぜ?」
俺にすり寄って話すニック。
お金がないのは事実だが、ニックに言われるとムカつくな。
「金がないのはあんたもだろ?」
そう言ってニックの口を右手で掴む。するとニックは開き直った。
「そーーーーーーーーーーーーーーーーーなんだよ! 実に今の俺の資産と言えば借金しか出てこねぇ!」
「それは資産とは言わん。負債だ!」
「てか、痛い。痛いでふ、は、はなしてぇ…………」
アヒルみたいな口になったままニックは話す。
いや、でもちょうどお金は必要なんだよな。
「ユウ、また怪しい話じゃない?」
レアがヒソヒソと耳打ちしてくれるが、とりあえず…………。
「話を聞くだけ、な?」
ニックの持ってくる話は確かに全部怪しいんだが、どうも心の少年部分をくすぐられるんだよな。
◆◆
3人で空いてるテーブルに移動し、腰を落ち着けた。
「で、どういう話?」
「まぁぶっちゃけると、Fランクだけど実は詐欺みたいな実力者のユウが剣闘大会に出場して、詐欺みたいに荒稼ぎしようって言う魂胆さ」
ニックが顔を寄せ、小声で言ってきた。
「詐欺、詐欺うるせぇよ」
見た目が大泥棒のニックに詐欺師とは言われたくない。だが、なるほど。良い考えかもしれない。
「でもなに、賭けでもあるのか?」
ニヤリとして俺も顔を寄せた。
「そそ! いやー話が早いねぇ。さすが大将!」
スリスリと手を合わせて話すニック。
のせるのが上手いんだよなぁ。
「俺はユウにフルベットするから、後は全員倒してくれりゃいいってハ・ナ・シ! どうだ簡単だろ? 受けてくれるか?」
「なるほどな…………レアはどう思う?」
一応保護者の意見をと思い、チラリとレアに目線を送る。
「確かにユウならいけそうな気もするんだけど。う~ん」
頭を人差し指で抑えながら、何か思い出そうとするレア。
「あ、そだ。あの大会って確か魔法禁止じゃなかった?」
「はぁ!? 魔法禁止!?」
そ、それは厳しい。魔法以外は普通の冒険者と比べても、ちょっと得意なくらいだし! ダメだ。一気にやる気がなくなった…………。
「そりゃ、剣闘大会だからな。逆に魔法以外ならなんでもありだぜ? 大丈夫だろユウなら!」
バシバシと俺の背中を叩くニック。
「なんせこいつは素手でCランク冒険者を倒すんだぜ?」
ニックはキランと歯を光らせた。
「おいおい、いくらなんでもAランクかBランクで前衛をやってる奴が来たらキツいぞ?」
「いや! この町でAランクなのはカイルだけ! しかもあいつはいつもこの大会には出てこない! なぁ、上位に入るだけでいいんだ! なっ! なっ!? じゃないと俺、借金で闇ギルドに消されちまう!!」
初めて知った。闇ギルドなんてあるのか。
「本音が出たな…………お前、マジでどんだけ借金あんだよ」
俺のドン引きしながらの言葉に少ししょんぼりとするニック。まじめに働け。
「そもそも俺が大会に出るメリットは?」
「それは…………お前は金が手に入り、俺も金が手に入る!」
心底真面目な顔で親指を立ててそう言った。立ち直りが早い。
「やだ」
シンプルに勝ち残れる自信がない。
「んなああああっ!?」
そんなコントみたいな驚き方、やめてくれ。
「いいか? 俺はお前が持ち上げるほど強くはない。魔法が使えねぇなら、ただの一般人だ」
「「それはないない!!」」
ニックとレアが食いぎみで手をブンブンと振った。
「やってみてもいいじゃんユウ。力試しにもなるし、どのみちお金は必要だよ?」
レアからの助け船がニックに出た。
「レアはそっち側なのかよ」
そう聞くとレアは頬に人差し指を当てながら可愛く答えた。
「ん~、良く考えたらこれってタラテクト種が相手でも見れなかったユウの全力が見られるチャンスなんだよね? まぁ、魔法がないのは残念だけど」
「魔法のない俺なんて大したことないよ」
「強いでしょユウは。それにこれで名前が売れればユウが他の冒険者たちに絡まれることも減るよ?」
「うっ…………」
そう。このFランクを示す白色のギルドカードを首から下げていると、何かと絡まれることが多い。
ま、俺のような最底辺冒険者が、レアみたいなとびきり可愛い猫耳美少女連れて歩いてると目立つわけだ。
「……わかったよ」
ため息と共に了承した。少なくともこれはレアに迷惑をかけないためにもなる。
「ほんとか!? 助かる!」
ニックが目をキラッキラさせてテーブルの上に身をのりだし、両手で俺の右手を握ってきた。
「離しやがれ」
俺は左手でニックの耳をちぎる勢いで引っ張る。
「いだだだだだ!! とれっ、とれた!! なぁ、ついてる? ついてる? 俺の耳!」
こいつ冒険者より芸人の方が向いてると思う。
「はいはい。で? 具体的にどんな大会なんだ?」
「おうそうだな。例年、参加者は腕自慢たちが20人弱くらいだ。武器は持ち込み可。場所はギルドの地下で、試合時間は20分。町中の人がこぞって見に来るビッグイベントだ。そして上位3名には賞金もある!」
「へぇ、どんくらい?」
「優勝者には100万コルだそうだ!」
100万コル!? そんなに!?
「まじか。ちょっぴりやる気出た」
「ちなみに賭けの方はあのスタイル抜群美人受付嬢のルウさん主催だ」
「ルウさん、そんなこともするのか…………」
「あの人は面白いぞ。ああ見えて結構冒険者たちと話が合うんだぜ?」
ニックは楽しそうに話す。
「剣闘大会と言えば、確か…………去年の優勝者はフリーさんだよ」
「まじか? アイツやっぱり強いんだな」
「まぁフリーは所属するパーティがあそこだし文句ねぇよ。だが今年フリーは出ねぇってよ。なんだか知らねぇが」
ニックがタバコをふかしながら言った。
「なんだ出ないのか」
「まぁ、大会に関してはそんなところだな。じゃあ参加登録は俺の方でやっとくぜ。よろしく頼むぞ!」
そうしてニックは勢いよく去っていった。取り分は金が入ってから決めるらしい。
「ま、仕方ないか。これも風呂のためだ」
「そのお風呂への執着はいったい…………」
レアが呆れながらつぶやいた。
別にいいじゃないか。いつか各家庭へも安い風呂を普及させたいな。
「でもあと3日しかないよ。準備しなくちゃ!」
レアがガタンと剣を片手に立ち上がった。
「準備って言ったって…………何すんだ?」
「魔物と人じゃ勝手が違うんだよ。対人戦の練習しなくちゃ!」
「あー、なるほど。よし! やるからには優勝するぞ!」
「「おお~!!」」
2人で拳を振り上げた。
◆◆
その日の午後、町の外で剣を抜いてレアと向かい合っていた。
周囲にはなにもなく、だだっ広い平原が広がり、サラサラと風で草がなびいている。
「ねぇ、前から聞きたかったんだけど、ユウの剣術って誰かに教えてもらったことあるの?」
レアが剣を構えたまま質問してきた。
「いや、ない。ない……と思う」
完全に自己流なんだよな。
「あそっか! その記憶もないんだよね。ごめん」
微妙に答えに詰まったからか、レアに変に気を使わせてしまった。というか、そもそも剣術は誰かに教えてもらうものなのか?
【賢者】特に決まりはありません。独学で剣術を鍛える者もいれば、誰かに師事することもあります。ですが、基本教えを受けた場合の方がスキルの成長も早いです。
そらそうか。
「レアはあるのか?」
「私は冒険者になりたての頃、基本だけフリーさんに教えてもらったの」
なるほどフリーか。
レアを見ると剣を両手で持ち、半身に構えている。
「ん?」
フリーと聞いたが、なんとなく構えがデリックの姿と被った。
いや、レアがデリックを知ってるはずないか…………。
「……フリーは剣闘大会の前回優勝者だろ? 優秀な師匠だな」
「師匠というならそうなのかな。でもそれなら魔法の師匠はユウだよ」
ニッと笑うレア。
「はは、師匠と言うほどのことは教えてないけどな」
するとレアはブンブンと強く首を横に振った。
「うううん、私には今まで剣しかなかった。自分がこんなに自由に風魔法を自由に扱えるようになるとは思わなかったもん。だから、ユウは私の人生を変えてくれた大、大、大恩人なの!」
レアは両手を握りしめて力強く言い、そしてニコッと笑った。
「ははは…………それほどのことをした覚えはないんだけどな」
こういう時、照れ臭くてなんて返せばいいのかわからない。
無意識にポリポリと頭をかいた。
「…………んじゃ、そろそろやるか?」
「うん! やろう!」
雑談もこれくらいだ。
「いくぞ…………!」
「うん!」
互いに同じタイミングで踏み出した。
相手が人ならば、当然技を使うし、頭も使ってくる。となればやはり相手の重心の位置や武器の構え、目線など、一挙一動を見逃さないことが大切だろう。簡単なことではない。
しかし俺には空間把握と並行思考がある…………!
そう構えた瞬間、身体強化したレアが目の前に現れた。
「いっ?」
気がつけば首筋に向かって横凪に迫る刃…………。
「う、うおおおおおおおおおおおお!!??」
驚きで変な声を出しながらも、首と剣の間に刀を滑り込ませる。
ギィン…………!
「……っらああああ!」
剣と刀が接触した瞬間、力業でレアを押し飛ばした。レアは何事もなかったかのように5メートルほど宙を舞い、ストッと膝を曲げ軽く着地する。
「ひゃーーすごい、今のに反応するんだね!」
無事に着地したレアが驚きながら言った。
「いきなり身体強化で縮地は死ぬって!」
レアは時々容赦がない。心臓がバクバク言っている。あれ? さっき大恩人って言われてたような気がするんだが…………気のせいか?
「だって、普通に戦ってもユウには勝てないもん。ちゃんと止めるつもりだったよ? それに試合じゃ、スキルは使ってもいいんだし」
言われてはっとする。スキルは許可されていたことを忘れていた。
「すまん、そうだったな。俺が間違ってた」
「いいよ。許す!」
レアは歯を見せてニシシシと笑う。
ほんとレアは清清しいほど男前な時がある。
「よし! どんどん来い!」
それから夕方まで2人で特訓を行った。レアは正直かなり強い。剣の腕で言えば俺の方が上だが、高い敏捷値に縮地や獣人族ならではのバネのある動きで良い勝負になった。これに加えて魔法まで使えるんだ。とっくにBランク以上の実力なのは間違いない。
ただ、俺が身体強化するとまったくレアでは相手にならなかった。やはり魔力は俺の切り札だと言える。
◆◆
その日の夕方、ギルドの食堂で晩ごはんを食べていると、3週間ぶりにあいつらの声が聞こえてきた。
「「「師匠ーーーー!」」」
この呼び方は…………。
振り返ると元気そうな少年少女3人が立っていた。
よく見れば少し防具が良くなっている。順調そうだ。
「ガブローシュたちだ! 久しぶりだねー」
レアが久々に会えて嬉しそうに駆け寄った。
「レアさんもお久しぶりです!」
エポニーヌがニコニコとレアと握手している。
「あの時以来だな。もうコゼットの体調は大丈夫か?」
「はい、もうすっかり元気です。お2人とも、ありがとうございました」
コゼットが小さな声でたどたどしく頭を下げる。
「いいっていいって」
椅子を引き、立ったままだった3人に座ってもらった。
「どうだ調子の方は?」
ガブローシュに尋ねる。
「はい。とりあえずは自分たちの身の丈にあった依頼をこなしています。慣れてきてから難易度の高い依頼にチャレンジするつもりです」
ガブローシュがかしこまって答えた。
「うん、そうだな。前の依頼は無謀過ぎだ。Bランクくらいあったんじゃねぇか?」
すると、ガブローシュが思い出したように言った。
「あ! それなんですが、師匠が倒したあの親グモ、実はホワイトアッシュスパイダーではなかったようなんです」
「あぁ、やっぱり違ったのか。納得だ」
エポニーヌがガブローシュに代わって話し始めた。
「はい、あれはゲイルスパイダーという魔物で、ここ50年は確認されたことのない希少種だったそうです。それに、親グモ1体だけならCランク上位の魔物なんですが、群れの討伐ともなるとBランク最上位だとか…………」
げんなりと肩を落とした様子の3人。
こればかりはギルドの調査ミスだな。
「そう考えると、よく生き残ったよな。ほんと…………」
レアと俺がいても実力的にはギリギリだったのかもしれない。
「ゲイルスパイダーの群れは数千~数万匹の子グモがいて、大地を埋め尽くすように生き物を蹂躙していく彼らは、時折災害扱いされることもある魔物だそうです」
エポニーヌは真剣に話した。
「ああ、確かにあれが全部地表に出たらと思うと…………」
「ゾッとするね…………でも、だとしたら余計に討伐できて良かったよ。私たちって知らないうちに町を救ったのかも!」
レアが興奮した様子で手を叩いた。
確かにギルドに恩を売ることができたのかもしれない。それに、
「それもそうだけど、本当にガブローシュたち死ぬとこだったんだな…………」
そう言いながらガブローシュの方を見る。
「はい。俺たちからすれば、あの時師匠たちに声をかけたことはとてつもない幸運でした。でなきゃ今頃、確実にこの世にいません」
ガブローシュは苦笑いをした。そして続けた。
「そ、それで、あれから3人で話し合って1つ私たちのパーティの目標を決めました」
あ、そういや決めろって言ったような、言わなかったような…………。
ガブローシュがすぅっと、深く息を吸った。
「目標は……ユウさんやレアさんみたいな冒険者になることです! 守られるのではなく、強くなって守る側に立ちたいんです!」
ガブローシュはそう大声で宣言した。エポニーヌとコゼットともうんうんと頷いている。
「お、おう…………」
ぐぅぅうおおおお! むず痒い! 凄くむず痒い!
じゅ、純粋過ぎる…………!
反応に困った俺をよそに、
「わーホント!? ありがとうー!!」
レアがニコニコしながらパチパチと拍手している。メチャクチャ嬉しそうだ。
「そのために今はただ、ユウさんに認めてもらうためにもランクを上げます!」
そうだな、ある程度の経験はいるはずだ。
「うん、今は基礎固めだ。とりあえずは地道に頑張ってくれ」
「はい! わかりました」
3人とも嬉しそうだ。
そうして、ガブローシュたちが帰ろうとするが、何かを思い出してガブローシュがかけ戻ってきた。
「あ、そうだ、師匠~!」
そしてテーブルに乗るように身を乗り出して言った。
「今度ギルドで剣闘大会があるの知ってますか?」
お、タイムリーな話題だ。
「ああ、今朝聞いたとこだ。俺も出場することになったしな」
「ほんとですか!?」
キラキラと目を輝かせるガブローシュ。
「ああ」
「やった!! 師匠が出れば優勝間違いなしだって皆で言ってたんです!」
ガブローシュが拳を握りしめて嬉しそうに言った。
「お前らまでか…………」
「あ、それと師匠! 今回賞金とは別に優勝商品があるの知ってます?」
ガブローシュが切り出した。
「商品?」
それはニックから聞いてないな。
「はい。なんと…………『火竜の牙』なんです!」
ガブローシュはイーっと自分の犬歯を指差して言った。
「火竜の…………?」
竜といえば、この世界で最強クラスの生き物のはず…………。
「実は、この近辺で討伐された子竜の素材なんだそうです! 子どもだとしても、加工すれば素晴らしい武器になるので今回皆力が入ってます!」
それは困るな。俺の優勝が遠くなる。
というか、火竜の子どもがこんな町の近くに現れたとは驚きだ。
「なぁ、子どもってことは親はどうしたんだ? 死んだのか?」
「えっ…………そう言えば、どうなったんだろう?」
エポニーヌは首をかしげる。
「普通なら探しに来ると思うのですが……そうじゃないところを見ると、すでに討伐されたんじゃないですか?」
ガブローシュが答えた。
「そうなのか。ところでお前らは出場しないのか?」
「う~ん、出場したいですけど、私らにはまだ早いです」
エポニーヌが苦笑いをした。
「うん。いい判断だと思う。ここは我慢して地道に頑張れ」
「「「はい!」」」
そして3人は仲良くギルドから出ていった。
「真っ直ぐな子らだねー。ユウのこと応援してくれてたし、ちゃんと面倒見てあげなきゃね」
ニコニコと3人の背中に手を振りながらレアが言う。
「だなぁ」
懐かれて嫌な気はしない。
「ねぇさっきの話だけど、子どもでも火竜がこんなところに現れるなんて聞いたことないよ。不思議だね」
「んー」
なぁ賢者さん、そもそも竜はどこに住んでるんだ?
【賢者】竜はここより遥か北の山脈に生息しています。飛んで来れなくはないですが、距離がありますので何か目的がないと来ることはまずないでしょう。
じゃあますます謎だな。
◆◆
ギルドからの帰り、すでに陽は落ち、大通りを魔石灯が照らしている。
正面から歩いてくる4人組の集団がいた。1人はでかい。身長3メートルはある。
「わかりやすいな」
「だね」
レアも頷いた。
あのでかいシルエットは巨人族のゴードンだ。つまりあれはカートたちのパーティだろう。
彼らは俺がコブロをボコした後、パーティに誘ってくれた気の良い奴らだ。ギルドで何度か顔を合わせたことがあるが、毎回声をかけてくれるので俺の中での好感度は高い。
「よぉ」
「やっほー」
俺とレアは軽く片手を上げる。
「おう、ユウとレアか」
イケメンのリーダー、カートが答えてくれた。
カートたちも依頼を受けた帰りだろう。彼らはフル装備で、いったい何を討伐したのか、カートの大剣には紫色の液体が付着している
そしてカートは続ける。
「お、そうだ。ちょうど良い。剣闘大会の話は聞いたか?」
今日はこの剣闘大会の話題ばかりだな。
「ああ、さっきギルドで話を聞いたとこだ。竜の牙が優勝商品なんだろ?」
「それだ。ユウとレアは出るのか?」
カートが問う。
「私は出ないよ。でもユウは…………ね?」
チラッとレアは俺に目線を送った。
「俺は出るよ。まぁ牙より賞金目当てだけだけどな」
「なんだユウ、考えてみろよ。竜の牙だぞ? 剣にすれば岩のような魔物の表皮だって斬り裂ける。俺らはさらに上にいけるんだ」
カートは自分の大剣を撫でながら話した。
「なるほど。確かにパーティの強化には良さそうだな」
「しかしな…………お前が出場するってことは相当厳しい戦いになりそうだな」
カートが顔をしかめると、ゴードンも腕を組みながらウンウンと頷いている。ゴードンは体はデカイが物静かで、根は優しい巨人だ。
「お前らまで俺を買い被りすぎだ。そもそもまだFランクだぞ?」
Fランクを逆手にとって油断させる作戦だから、どんどん言おう。
「ま、馬鹿はお前を馬鹿にするだろうが、お前と関わったことのある奴なら違うだろうな」
「そんなもんかね?」
客観的には俺ってどう見えてるんだろう…………。
「ユウには、底知れない強さがある」
ゴードンまで頷いてゆっくりとそう言った。
「そうだな、そもそもお前の本気がわからねぇ。どれくらいだ?」
「ん…………Cランクくらい?」
「「「「嘘つけ!」」」」
カートたちが全員ハモった。
「いや、別に嘘じゃ…………」
レアまでフルフルと首を横に振っている。
「…………なぁユウ、レア。明日一緒に依頼を受けないか?」
カートが一瞬考えてから聞いてきた。
「別にいいけど、どんな依頼だ?」
「ちょうど受けたい2パーティ推奨の依頼があってな。サラマンダーのつがいの討伐だ」
「つがいって夫婦のことか?」
「そうだ。どうも北の山から住み処を移してきたらしい。放っておくと、こいつらに追われて辺りの魔物がどんどんと南下してくる。Cランクのレアが一緒ならBランクの依頼だって受けられるだろ?」
カートは俺の実力を図るつもりなのかもしれない。まぁいいだろう。
「2パーティ合同なんて初めてだな。俺は参加オッケーだ」
チラリとレアに目線を送ると
「良いと思うよ。カートさんたちのパーティの連携はすごく勉強になるし」
レアも親指と人差し指で丸を作った。
「そうか。確かにパーティ戦を見るのもいいな。わかった」
「よし! じゃあ明日朝、日の出の時間に森側の町の入り口で待ってるぞ」
「よろしくね?」
魔術士のサリュが先端に石のついた杖を肩にかけて言い、小柄なレンジャーのキースがサムズアップした。
「ああ!」
読んでいただき、ありがとうございました。
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※過去話修正済み(2023年10月12日)