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重力魔術士の異世界事変  作者: かじ
第2章 町へ
18/160

第18話 救出

こんにちは。本日2話目です。

いつもありがとうございます。宜しくお願いします。

 

 まず、俺とレアが奴らの巣部屋に音を立てないよう、中腰で静かに侵入した。

 光魔法は豆電球程度に抑えている。部屋の広さは長径100メートルほどの巨大な楕円形だ。入口はその長径の側面に位置していた。壁や天井にはびっしりと白い糸が張りつき、岩の地肌が見えている部分がほぼない。


 まさかここまでの規模とは…………この洞窟全体がこいつらの狩り場だったわけだ。


 窪んだ部屋の中央では、親グモがレアが斬り落とした脚からまだわずかに血を流しながら座っていた。そこに子グモが糸でグルグル巻きにしたエサを運んで行く。運ばれた餌は親グモの鎌に突き刺され、口へと次々に運ばれている。


「キシャアアア!」


 そうとう苛立っているのか、近くにいた子グモを切り裂き、食べていた。心なしか子グモたちが怯えているようにも見える。


「よし。レア、子グモの相手は頼むぞ」


「了解!」


 俺は近くにあった70センチくらいの岩に指をビキビキと突き刺して持ち上げ、それを振りかぶる。


「おりゃ!」

  

 放たれビュンッと飛んだ岩は、親グモが食べようとしていた糸がグルグル巻きの餌に直撃。


 ボゴォオオオン!


 餌ごと吹っ飛ばした。

 餌を食べようとした親グモの鎌は何もない地面をドスッと突き刺す。


「?」


 クモの目玉は動かせない。親グモは身体を動かして岩が飛んで来た方向を見ている。



「お食事中失礼。仲間を返してもらいにきた」



 俺はクモの目の前に堂々と姿を現した。ガブローシュたちから注意をそらすためだ。狙いどおり俺の声に一斉にクモがこちらを向く。

 そして、親グモが俺たちに気付くと、体を震わせた。



「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」



 親グモの怒号とでも言うべき一声に、子グモたちはビクリと身体を震わせる。


 そして、


 バラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ!!


 天井から何百という子グモが飛び降りてきた。他にも、壁の隙間や魔物の死骸の影など、ありとあらゆる場所から湧いてくる。


 ゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ…………!


「レア、頼むぞ」


「うん!」


 レアが俺よりも前に出た。


 高くジャンプし、飛びかかってくる子グモと空中で接近。レアが剣を数回振ると、子グモどもを一瞬でバラバラになった。


 ボト、ボトボトボトボトボト…………。


 子グモの肉片が降り注ぐ。


「さすが…………加護持ちだ」


 そのままレアが歩きつつ周囲を斬り刻みながら突き進み、半径1メートル半くらいの子グモがサイコロステーキのようにバラバラにされていく。だがそれも一瞬のこと。すぐに壁や天井を埋める子グモの大群に取り囲まれてしまった。


 だがそれも想定内。レアは山のように積み重なる子グモたちに向き直ると、俺に背を向けたまま言った。


「ユウ行って!!」


「ああ!」


 俺は身体強化した足で、子グモの包囲網をジャンプして飛び越える。子グモたちが上を飛び越える俺を、体の向きを変えながら目で追い、脚をたわめて飛びかかろうとする。


「させない!」


 その集団にレアが突っ込んだ!


 風魔法と剣でバラバラになる子グモを視界におさめながら、俺は親グモの目の前にダンッ! と着地した。


「さっきぶりだな…………!」


 俺に気付いた親グモは鎌をかかげ、臨戦態勢に入った。親グモの右脚の真ん中二本が半ばから千切れているのが痛々しい。


「キシシシ…………!」


 親グモが左脚の鎌2本を振り上げ、脳天を突き刺しにくる。俺はそれを右手に持った刀を左から右に振って弾いた。


「軽いな」


 今回は念のため、身体強化をかけている。そのためか、軽く振っただけで親グモをヨタヨタと数歩後退させた。悔しそうにキシキシと鳴く親グモ。


「罠にはめられなきゃ、こんなもんだ。あんまり時間もないんでな!」


 親グモに追いつき、左前脚を切り飛ばす! 断面から体液を撒き散らし、ブンブンと回転しながら脚が飛んでいく。


「キシャア!」


 これで左側は一番後ろの脚1本しか残っていない。ダメージもあってさすがに体重を支えきれなくなったのか、親グモが腹を地面につけた。


「終わりだな」



◆◆



「すげぇ…………」


 ぽつりとつぶやいたガブローシュの目には、1人で数百にも及ぶ子グモを相手にするレア、そして片腕で親グモを圧倒するユウの姿があった。


 ガブローシュが冒険者になったのは、幼い頃冒険者に救われたことに起因する。

 1人で森で迷子になり、熊型の魔物に襲われたガブローシュは何一つ出来ずに逃げ惑い、泣きわめくだけだった。だがたまたま依頼を受けて来ていた冒険者がガブローシュを発見。魔物を殺し助けてくれた。

 その事件で己がいかに無力であるかを痛感し、冒険者にあこがれ、自身も他人を助けられるような強さが欲しいと思った。



 ーーーー俺は、最低だ。人を救うどころか見栄を張って、仲間を危険にさらしてしまった。そしてまた、助けられている。



「お、俺だって…………!」



 ガブローシュは拳を握りしめた。


「エポニーヌ行くぞ!」


「うん!」


 2人は覚悟を決めてホワイトスパイダーの巣部屋へと飛び込んだ。


 クモたちはユウとレアを襲うため部屋の中央に集まっている。加えて部屋の中はユウの光魔法でよく見えるようになっていた。


「こっちだ…………」


 声のトーンを落としてそう言うと、身を屈め壁側を音をたてないように走る。地面は溶岩が溶けて固まったかのようにゴツゴツとして歩きにくい。


 30秒ほどで繭のようにされた餌が積まれて置いてある場所に来た。ユウとレアが暴れてくれているおかげでこちらには気づかれていない。


「コゼーット……!」


 ひそひそ声で叫ぶ。


 反応はない。


 ガブローシュたちは山積みの繭に足をかけ、のぼりながらコゼットを探す。繭は案外しっかりとしており、踏んでもたわむ程度で踏み抜いたり、潰してしまうことはなさそうだった。


「コゼットー」


 エポニーヌも1つ1つ繭に対してコゼットの名前を呼びかける。


「まさかもう…………」


 エポニーヌが泣きそうな顔をする。


「やめろ! ユウさんが生きてるって言ったんだ! 生きてるに決まってる!」


 先頭を行くガブローシュが振り返りエポニーヌを叱った。


「う、うん。大丈夫……しっかりしろ私!」


 パチンと両頬を叩くエポニーヌ。


 いつの間にか自分たちを助けてくれるユウとレアへの信頼は確かなものになっていた。


「コゼーット!」


 諦めずに呼び掛ける。


 とその時、ガブローシュの呼び掛けに、足元の繭が内側から叩くようにベコベコと上下した。


「今、これ動いたぞ!」


 動いた繭はちょうど子供1人が入りそうな大きさをしている。


「コゼットなのか!? 今助ける!」


 ガブローシュが剣で繭を切っていく。


「はぁはぁ、コゼッ…………!」


 だが、繭の隙間から突き出た手は、緑色をしていた。


「きゃっ!!」


 エポニーヌの驚いた声がフロアに響く。と同時にゴブリンの下品な声が撒き散らされた。



「グギャギャギャ…………!!」



 近いところにいた子グモたちが反応して、一斉にサッ! とこちらを向いた。


 しかし間一髪、ガブローシュたちは繭の山の影に隠れていた。


 子グモが近づいてくる。


 足音は聞こえないが、牙をカチカチ鳴らす音が鳴っている。それが嫌に不気味に聞こえる。


 …………そして、徐々にその音が近づいてきた。


 エポニーヌが身を縮め、恐怖で息が荒くなっているのを感じる。ガブローシュもそうだ。


(い、1匹ならなんとかなる。でも、他の奴らが沢山集まってきたら…………)


 恐怖に震える身体を抑え、出来る限り存在感を気迫にする。


 ザクッ!


「ひっ…………!」


 その音に、口を手で押さえたエポニーヌが静かに悲鳴をもらすが、気付かれてはいない。


 ザクッという音は、子グモがゴブリンに牙を突き立てた音だった。そして毒が注入されていく。


「グキャ…………」


 ゴブリンはすぐに静かになった。子グモは元の場所に戻って行く。


 ようやく肩の力が抜けた。


「…………な、なんとかばれなかったな」


「そう、だね」


 緊張で疲労感が隠せない2人。


 ガブローシュが立ち上がろうと、1つの繭に手をかけた時、繭の一部がたゆみ、中から白くて小さい人間の手が見えた。


「コゼット…………? 今度こそ間違いない、コゼットだ!」


 急いで剣で繭を斬り、中から2人掛かりでコゼットを繭からスルリと引きずり出す。コゼットには、引きずられたことによるすり傷があるくらいで目立った外傷はない。


「良かったぁ…………」


 安心して腰を抜かすエポニーヌ。涙がジワジワと滲んできている。


「まだだエポニーヌ。安心していいのはここを抜け出してからだ! それに、ユウさんとレアさんは…………!?」



◆◆



 こいつら予想以上に…………弱かったな。



 足元に転がる親グモを見ながら思った。


 親グモのこのでかさ。Aランクくらいあるかと思ったが、結局は良くてBランク下位だった。魔物の森を抜け出てから、なかなか手応えのある相手に出会えない。


「キシ……………………シ…………」


 そんなことを考える俺の目の前には、脚を全て斬り落とされ、芋虫のように身体を横たえる親グモがいた。絶えずドロドロとした血が流れ続けている。まだ生きてはいるが、もう助かるまい。


「ふーっ…………あれ? もうかかってこないのー?」


 そう言うのはクモの死骸の山の頂上で汗を拭くレア。


 子グモたちはレアに200匹近くやられてしまっていた。彼女が纏っている風のせいで、近づいた子グモは斬り刻まれ、肉塊になる。引っ掻くか噛みつくしかできない彼らにとって、相性は最悪だ。

 それでも全員でかかれば怪我くらいは負わせられたろうに、残りの子グモは親グモの惨状に気づき、どこかへ逃げ隠れてしまった。


 子どもが助けにこないとは…………ま、子どもを喰う親なら当然か。


「じゃあな」


 目下の親グモに向かって刀を振り下ろした。



 ズパンッ…………!!


 

 親グモは胸と首が分かれることになった。


「キシシ…………」


 転がった頭部のアゴがガチガチと最後まで動くが、それも徐々にゆっくりになり動かなくなった。


 こりゃガブローシュたちに隠密作戦をさせるまでもなかったか…………あいつらは無事か?


 繭山の方に目を向ける。


「ガブローシュ!」


 ガブローシュを呼ぶ俺の声が、クモたちがいなくなり静かになった洞窟内に反響する…………。


「は、はい! コゼットは無事です! 見つかりました!」


 繭山の方から部屋に反響する元気な声がし、ほっとする。


「そうか。こっちへ連れてきてくれ」


「は、はい!」


 良かった…………コゼットも生きてたか。というか、なんで急に敬語に?


 コゼットを背負ったガブローシュとエポニーヌと合流する。ガブローシュは慎重にコゼットを地面に下ろした。


「コゼットは……大丈夫ですか?」


 エポニーヌが心配で泣きそうになりながら聞いてきた。コゼットは麻痺しているだけで、命に別状はないようだ。胸も上下ししっかりと呼吸をしている。


「大丈夫、眠ってるだけみたいだ。ほい、と」


 すぐさま回復魔法で治療してやる。


「よし。これでもう少ししたら目を覚ますはずだ」


「「ありがとうございます!」」


 揃って礼を叫ぶガブローシュとエポニーヌ。


「良かったね。皆無事で」


 レアがホッとして胸を撫で下ろした。


「ああ。でも、群れの規模がここまでとは思わなかったな」


「うん。たしかホワイトアッシュスパイダーの子供って、多くても50匹くらいだったと思うんだよね」


 レアはポンと手を叩く。今そのことを思い出したようだ。


「まじか。1000匹以上いたよな? ならあの親グモ、別種か変異種じゃねぇか…………むしろ今討伐しといて良かったな」


「だね。タラテクト種の上位種族まで進化しちゃうと都市とか崩壊するレベルだし……」


 俺達が話していると、ガブローシュがあらたまったように話し掛けて来た。


「あ、あの……」


「ん?」


「す、すみませんでした!!」


 ガブローシュが顔をくしゃくしゃにしながら腰を折り、見事な謝罪を見せてきた。


「ふぇ? どうしたの?」


 レアは意味がわからず驚いているが、心当たりがないこともない。


「俺…………わ、私は身の丈に合わない依頼を受け、パーティメンバーを危険にさらしてしまいました。ユウさんとレアさんがいなければ、コゼットどころか、とっくに全員死んでました!」



「それは…………まぁ、そうだったろうな」



 俺がそう言うと、ガブローシュは泣きそうな顔で俺を見た。


「でも、そのことに自分で気付けりゃ十分! ガブローシュは今日でいっぱい成長したってことだな」


 ガブローシュの肩をポンポンと叩く。そして続けた。


「それに…………俺らの方こそ悪かった」


 今度は俺とレアも頭を下げた。


「へ? ど、どうしてユウさんが謝るんですか?」


 ガブローシュとエポニーヌが戸惑う。


「思った以上に危険にさらしてしまった。特にコゼットにはな」


「うん。これは私たちの驕りもあったしね…………」


 レアもそう感じたようだ。


「だからこれでおあいこだよ」


 俺とレアはガブローシュとエポニーヌの2人に拳を付き出して向けた。


「ははは」



 コツン。



 互いに拳をぶつけ合った。


「ほら町へ戻ろう」


「う~、早く体を洗いたいよう……!」


 クモの体液でぬるぬるになった衣服を指でつまんでレアが言う。


 よくわかる。臭いんだこれが。


「ほんとにそ……………………ん?」


【賢者】ユウ様、猛スピードで来る魔物がいます!


 おいおい今さら何なんだよ……どんな奴だ?


【賢者】強いです! ユウ様しか太刀打ちできません。


 …………っ! 今から、全員でこの部屋を出て、見つからずに逃げられるか?


【賢者】地理的にも不可能です。


 なら俺がやるしかないか。


「全員今すぐ出入口から離れろ! ヤバいのが来る! 出来るだけこの部屋奥に固まれ!」


 俺の発言で皆に緊張が走る。


「どっ、どうしたんですか!?」


 エポニーヌが心配そうに槍の柄を握りしめて聞いてきた。


「いいから早く! 説明してる暇はない!」


「わっ、わかりました!!」


 ガブローシュとエポニーヌはコゼットを連れて、部屋の奥へと走っていく。

 それを見届けながら、隣のレアに言った。


「レアもだ! 下がってくれ」


「え…………な、なんで!? 私もなの!?」


 自分も避難対象であることにレアが動揺していた。一緒に戦えると思ってたのだろう。でも、


「レアでも危険だ。俺1人でやる…………!」


 その発言にレアはショックを受けたようだ。


「私、私……強くなったよ!?」


 レアがか細い声で言う。


「ダメだ。今回は下がってくれ。頼む」


 両手を祈るように顔の前で合わせてレアにお願いした。


「わ……………………わかった」


 レアもしぶしぶガブローシュたちの元へ行く。と、すかさず4人を囲うキューブ型の結界を設置する。


「なっ! なんなんだこれ!」


 驚いたガブローシュが結界を拳で叩きながら叫んだ。


「そこを絶対に出るなよ!」


 結界の前に4人を護るようにして、入り口を睨みながら立った。

 その直後、



 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…………!



 どんどんと地響きが近付いてくる。天井からはぱらぱらと小石や砂が落下する。


 まだ姿は黙視できないが、ついに俺の空間把握内にそいつが入った。


============================

スモールタラテクト(幼体)

Lv.158

HP :1620

MP :1305

力 :1580

防御:1880

敏捷:1330

魔力:980

運 :90


【スキル】

・ポイズンブレスLv.8

・縮地Lv.6

・硬糸Lv.7

・怪力Lv.8


【魔法】

・毒魔法Lv.6

・土魔法Lv.3


【耐性】

・痛覚耐性Lv.5

・気絶耐性Lv.3

============================


 体高は6メートルくらい。体毛はなく、体のところどころが黒く硬そうな鎧のような外骨格で覆われている。頭から尻にかけて、短いトゲが縦にはしり、8本の脚の先には鳥の脚のような爪がついている。前に2本、後ろに1本、物が掴めそうな形をしている。


「デカい…………タラテクト種ってやつか。これで幼体か」


 俺の呟きが結界ごしにも聴こえたのか、激しい反応を見せるレアたち。



「「「タラテクト種!?」」」



 皆が今まで聞いたことのない、焦りを含んだ声を上げた。その途端、レアが叫んだ。


「ダメっ!! ユウここを開けて!! タラテクト種は幼体でも町の全軍隊と同等の力があるの! いくらユウでも死んじゃうっ!!」


 レアが俺の結界をガンガンとグーで叩く。結界の表面に血がつく。


 なぁ、賢者さん。俺がアイツに負けるか?


【賢者】ありえません。ユウ様の現在のステータスを表示します。


============================

名前ユウ16歳

種族:人間

Lv:85→90

HP:1310→1490

MP:3860→4310

力:1060→1270

防御:990→1150

敏捷:1590→1750

魔力:4250→4790

運:132→145


【スキル】

・剣術Lv.7→8

・高位探知Lv.1→2

・高位魔力感知Lv.1→2

・魔力支配Lv.1→2

・隠密Lv.8→9

・解体Lv.4

・縮地Lv.2→3

・立体機動Lv.3

・千里眼Lv.2→3


【魔法】

・火魔法Lv.7

・水魔法Lv.6

・風魔法Lv.7

・土魔法Lv.8

・雷魔法Lv.8

・氷魔法Lv.5

・重力魔法Lv.9

・光魔法Lv.4

・回復魔法Lv.10


【耐性】

・混乱耐性Lv.6

・斬撃耐性Lv.4

・打撃耐性Lv.5

・苦痛耐性Lv.9

・恐怖耐性Lv.8

・死毒耐性Lv.9


【補助スキル】

・高速治癒Lv.8

・魔力高速回復Lv.5


【ユニークスキル】

・お詫びの品

・結界魔法Lv.2

・賢者Lv.1→2

・空間把握Lv.1→3


【加護】

・ジズの加護

=============================


 なるほどね…………。


「ユウ、ダメだよぉ…………」


 結界の内側にすがり付くレア。


 とその時、ついにそいつが姿を現した。


「ひっ!!」


 後ろでエポニーヌが悲鳴を上げ、尻餅をついた。ガブローシュがエポニーヌの前に出て結界の中で剣を構えるがガタガタと剣がぶれている。


 まぁ、ある意味それなら可愛いもんだ…………というのも、



「ま、待て待て待て!!!!」



 痺れを切らしたレアが剣を構え、真剣な顔で剣に魔力をこれでもかと込めていた。結界を力尽くで破る気だ。


「レア落ち着け! そんなことしたら中のガブローシュたちも危ない!」


「大丈夫。結界を斬り裂いてすぐに風を外へ逃がすから。ガブローシュたちに危害はないよ。それより早く外に出ないとユウが死んじゃうもん」


 レアの顔は本気だ。


「ま、待ってくれよ。俺は勝てる。心配入らない。頼む…………信用してくれ」


 顔の前で両手を合わせてお願いすると、レアが口をへの字に曲げた。


「…………死ぬ、つもりじゃないんだよね?」


 レアが結界に手をついて、眉を寄せて聞いてくる。


「もちろん。俺はレアが思ってる以上に強いから大丈夫」


「ほんと…………?」


「本当!!」


「わかった…………」


 しぶしぶ納得したようだ。レアの魔力が霧散するのを確認してホッとした。


 ボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリボリ。


「…………ふう。で、こいつは何をしてるんだ?」


 現れたタラテクト種は斬り殺された大量のホワイトスパイダーの死骸を睥睨すると、頭を失った親グモの死骸に顔を埋めてむさぼるように食べていた。


「こいつら、どういう関係なんだよ」


「夫婦じゃなかったのかな…………?」


 ボリボリボリボリ。


「どうだろな。それより、こいつ俺らのことは無視か?」


 ボリボリ、ボリッ…………。


 話していると、とたんに咀嚼音が止んだ。


 タラテクト種は食べるのを止め、顔を上げていた。俺たちと目が合う。


 ただそれだけだったが、



「あっ…………あ、ああ…………!」



 ガブローシュとエポニーヌは歯をガチガチ鳴らすだけで、息が吸えなくなっていた。そして彼らの足元からピチャピチャと液体の流れる音がした。


 これは仕方ない。Eランクのガブローシュたちには同じ空間にいるだけで生物的な恐怖を感じているはずだ。実際、あのタラテクト種はガブローシュたちの30倍ほどのステータスを持っている。


 タラテクト種がその大理石の柱のように強靭で太い脚をたわめた。


「来るよユウ!」


 レアがガンガンと結界を叩いて叫ぶ。


「まかせとけって!!」


 ガブローシュたちから注意を反らすようにタラテクト種へと走り、そして奴に言う。


「その動きはわかってる。…………縮地だろ?」


 それは今日、嫌と言うほど見てきたんだよ!


 その通りタラテクト種はその脚に貯めた力を解放しようとする。確かにあの巨体でのぶちかましを食らえばキツいが、来るタイミングもわかっている。


【賢者】今です!!


 俺はレアと話している間に8本の脚全ての先端に設置していた8つの魔鼓に、重力魔法を発動させた。


「ここだ…………!」


 その瞬間、



 ビンッ……………………!


 ズガアアアアアアアアアアンンンン…………ッッッッ!!!!



 縮地を使って一気に飛びかかろうとしたタラテクト種は、全ての脚を俺の魔法で地面に縫い付けられ、胴体のみを縮地Lv.6の勢いで地面に打ち付けていた。



 ビキッ! ビキ、キキキキキキキキ…………!



 その衝撃に洞窟の壁に大きな亀裂が走る。


 そして、超速で地面に叩きつけられたタラテクト種はというと、


「ギ…………ギギ……………………!」


 口から血混じりの泡を吹きながら気絶した。


「はい、俺の勝ち」


 俺は刀にスッと魔力を通すと、


 ゴトン。


 歩み寄ってタラテクト種の頭を落とした。



「「「………………………………も、もう終わり?」」」



 その呆気なさに他の3人がポカンとした時、さらに異変が起きた。



 ビキビキビキビキビキビキ…………キキキ!!!!



 クモの糸に覆われて見えないが、空間把握でわかる。壁の亀裂がどんどん天井まで広がっている。


 ドゴン…………! ゴォン…………!


 ひび割れから壁や天井から剥がれるように岩がめくれ、クモの糸を破って落下し始めた。


「やばっ」


 生き埋めは不味い。


 すぐに結界を解除すると、3人に向け叫んだ。



「走れっ!!!!」



◆◆




「「「「…………うわあああああああああああ!!」」」」




 崩れ去る洞窟から転がるように5人が脱出した。


「ぶはぁ!! 死ぬかと思ったぁっ!!」


 洞窟の前で全員腰を下ろした。洞窟は入り口だけを残して崩壊した。入り口から吹き出した土ぼこりが今も立ち込め、口の中が砂でジャリジャリする。


 ガブローシュたちは、疲れきって仰向けに大の字になって倒れている。はぁはぁ言いながら激しく胸を上下させていた。


「おい、生きてるか?」


 俺も座りながらガブローシュとエポニーヌに声をかける。


「「だ、大丈夫です~」」


 コゼットも意識はないが、俺がしっかりと運んで来たので怪我はなさそうだ。


 しかしタラテクト種を洞窟の崩落までは予想できてなかった。無我夢中で、賢者さんの「こっちです!」、「右です!」という案内に言われるがままに走った。

 賢者さんが記録してくれていた帰り道がなければ、俺たちは死んでいた。



◆◆



 それからヘトヘトの状態で町のギルドへ帰った。


 長い…………1日だった。いろいろありすぎた。


 抱き抱えていたコゼットをそっと椅子に座らせる。俺たちは皆疲労困ぱいで、椅子に座ると、ぐでーとテーブルに突っ伏した。天井に吊るされた温かい色の魔石灯がアットホームな気持ちにさせてくれ、眠気を誘う。

 ガブローシュが依頼完了の報告をしに、フラフラと受付へ向かった。


「ふう~~」


 レアの伸びをしながら深く吐き出した息が聞こえたかと思うと、コゼットがぼんやりと目を覚ました。



「ん…………こ、こは?」



 目を擦りながら辺りを見渡すコゼット。


「良かった目を覚ましたのね! ここはギルド。コゼットは洞窟で毒グモに刺されて気を失ったの」


 エポニーヌがホッとしながら説明する。


「そうなの…………どおりでなにも覚えてない…………皆は、無事なの?」


 キョロキョロと皆の顔を見て、ガブローシュの姿がないことに気が付いたようだ。


「大丈夫。ガブローシュも私も無事よ。ちなみに依頼も無事に完了! と言っても、この2人が私達を庇いながら全部やってくれたんだけどね」


 空元気の笑顔でそう言って、エポニーヌが俺とレアへと視線を向ける。つられてコゼットもこちらを向いた。


「調子はどうだコゼット」


「ん、まだぼーっとするけど大丈夫」


 コゼットが眠たそうな目をして答えた。


「そっかそっか」


 まぁ麻痺毒だけだし、解毒したから大丈夫だろう。コゼットがぼーっとしてるのは元々だし。


「…………あの、ありがとうございました。足を引っ張っちゃって。多分ガブローシュもさんざん迷惑かけたと思います」


 意外にも、コゼットはきちんと頭を下げた。この子は見た目と違ってしっかりしてるようだ。


「気にしなくていい。俺らにも落ち度はあったしな。それに、俺たちだけじゃない。ガブローシュとエポニーヌもお前を助けようと必死だったんだ」


「そう、ですか…………」


 そこにガブローシュが戻ってきた。


「コゼット!! 目が覚めたか! 大丈夫か?」


「うん」


 目を覚ましたコゼットに気づき、駆け寄ってくる。


「…………ねぇ、ガブローシュ?」


「どうした!? まだどこか痛むのか?」


 ガブローシュが心配するが、コゼットは首を振り、


「…………ありがとうね?」


 ニコッとお礼を言った。


 ガブローシュが真っ赤になり、さっと後ろを向いた。照れてるのだろうか。確かにコゼットは透明感バリバリの色白で可愛い。


「ユウさん、レアさん!」


 照れを隠すようにガブローシュが俺達2人に、あらたまって名を呼んだ。


「どうした? まだなんかあったか?」


「これ、今回の報酬です」


 そういって小袋を渡してきた。予想よりもズッシリとした重さがある。


「ガブローシュ、これ報酬全額じゃないのか?」


「僕たちは助けていただくばかりで何も返せません。これでも足りないくらいです!」


「無理無理、こんなに受けとれない」


 俺はガブローシュに突き返す。


 Eランクとは言え、こいつらだってカツカツの暮らしをしているはずだ。


「いえ、受け取ってください!」


 エポニーヌが重ねて有無を言わさぬ顔で言った。


「私も命を助けていただいたお礼です。お願いです。受け取ってください」


 コゼットもそう言う。


「…………わかったよ」


 俺が押し負けてそう答えると、3人ともどこか嬉しそうに笑った。


 なんか、あったかいな…………。



「あ、あの。それと1つ…………お願いがあります!」



 続けてエポニーヌがもじもじと切り出した。


「どした?」


 エポニーヌがチラリとガブローシュを見る。そして、ガブローシュも頷いた。



「「あの、私たちを、ユウさんとレアさんの弟子にしていただけないでしょうか!?」」



 2人揃って声を張り上げた。気を失っていたコゼットだけは状況が掴めていない。



「「で、でででで弟子!?」」



 その突然のお願いに、俺とレアは声を揃えて驚いた。


「はい! 親グモを片腕で圧倒する強さ。100匹を越えるホワイトスパイダーを相手に傷1つ負うことなく完封する素早さ。それに、あの、例の、アイツを瞬殺だなんて! いまだに信じられません!!」


 あのタラテクト種は死骸を洞窟に生き埋めにしてしまい、何も証拠がなかったので、ギルドへは報告しなかった。あれほどの奴が何体もいるわけがないし、大丈夫だろう。


「いや、まぁそれだけ聞けば凄いように聞こえるかもしれないけど……」


 どうしよう…………そんなことを頼まれるとは思わなかった。俺は弟子なんかとる前に、まだまだ自分の強化をしたいんだが…………。


「どうしようか?」


 レアに聞くと、


「別にいいんじゃない? 私もユウに弟子入りしたいくらいだし!」


「へ? なんでレアまで?」


「だって、気付いたもん。ユウって私よりも、ずうっっっっ……と強いんだなって!」


「え…………いや、それは違うだろ」


 と、そこにエポニーヌが聞いてきた。


「実際、ユウさんってどれくらいの実力なんですか? 100%、Fランクじゃないとは思いますが」


「どれくらいって…………まぁギルドのランクは依頼をこなした数や内容で変わるだろ? 俺が登録したのついこないだだもんよ」


「私よりは確実に強いよね?」


 レアが興味津々で聞く。


「いや、そうは言っても、レアだって大分魔法が上手くなって来たから本気でやればわからないだろ」


「いやいや! ユウの魔法の足元も及ばないよ」


 レアが手のひら振って、本気で否定してきた。俺が魔法を覚えた時期もレアとそこまで差はないんだけどな。


「レアさんよりも?」


 ガブローシュが信じられないとでも言うような顔で言った。100匹を斬り殺したレアがなんらかの魔法使っていたのは気付いてたようだ。レアはよく風魔法を使うからな。逆に俺に魔法のイメージはなかったのか。


「あれ? …………そういえば、なんでもないように洞窟で光魔法を使われてましたよね? しかも並列でいくつも。明るさに慣れてしまっていて忘れてました」


 コゼットが聞いてきた。


 そういや戦闘じゃ目に見える形で使ってなかったか。


「思い出した!! 確かにあの時、千切れた自分の腕をくっつけてたような!」


 ガブローシュがあの時の場面を思い出したようだ。


「いや、それはさすがに無理だよ? そんなのもはや司教様クラスじゃないと…………」


 見ていなかったコゼットは信じないようだ。まぁ、別にどうだっていい。


「ほんとだって!」


 コゼットに信じてもらえなくて残念だなガブローシュ。今度また腕がとれたら見せてやろう。


「そういや、あのタラテクト種。どうやって倒したんです? いきなりこけたように見えなかったんですけど。もしかして、あれがユウさんの魔法?」


「まぁ、そうだな。あれが俺の魔法の一部ってとこかな」


 ガブローシュたちには何をしたかわからなかったようだ。レアは気付いていたようだが。


「け、剣が専門なのかと…………」


「まぁ、どっちも得意ではあるな」


「ど、どっちもって…………両方を極めようとすれば、器用貧乏になるとよく言われます。どうして魔法も?」


「どうしてって言われると、両方できた方が便利だし、そうしないと生き残れなかったからかな…………」


 アラオザルを命からがら逃げ出し、魔物の森を抜け、コルトの町へたどり着いた、あの時を思い出しながら言った。


「そ、そうなんですね」


 3人はまずいことを聞いたかと思ったのか、黙ってしまった。


「まぁ、ユウがこれだけの実力になったのには理由があるんだよ」


 レアが空気を察してフォローに入ってくれた。


「なら! そんなユウさんに聞きたいです! 俺達が強くなるためにこの先何が必要ですか!?」


 ガブローシュが前のめりになって聞いてきた。


 何が必要か、かぁ…………。


 腕を組んで考える。


「…………目標までの道筋を考えることかな?」


 ガブローシュたちはいまいちピンと来ていないみたいだ。


「ただ毎日何も考えずゴブリンを狩ってればいつかSランクに届くと思うか?」


 3人が口を閉じたまま首を横に振る。


「そう。ただ目標があるだけじゃダメだ。どうやって達成するかを考えろ。頭を使え」


 あの森で俺は生き残るためにどうすればいいか。それを常に考えて行動してきた。


「わかりました師匠!」


 エポニーヌが余りにも自然な感じで返事した。


「し、師匠!?」


 俺が驚く隣でレアが口元を手で押さえて、顔を背けながらサムズアップしている。


 レア、肩が震えてる。


「ダメですか?」


 エポニーヌがじーっと俺を見つめてくる。


「いや、ダメって訳じゃ…………」


「なら良いってこと!? やったぁ!」


 ガブローシュ、コゼットも一緒になって跳ねて喜んでいる。


「待ーて、待て待て。ただし、条件がある!」



「「「条件……?」」」



「そ、そうだ。お前らはまだ戦闘の経験が少ない。俺が教えるのは少なくともDランクになってから!」


「Dランク…………ですか?」


 無理難題じゃないはずだ。冒険者は頑張ればCランクまでは難しくないと聞いた。仕方ないが、それまで俺は出来る限りの強くなっておこう。


「わかりました!! 俺たちはDランクを目指します!」


「ああ、そうだ。それと1つ、『魔力操作』のスキルを取得することだ」


 俺は注目させるよう、人差し指を立てて言った。



「「「魔力操作…………?」」」



 首をかしげる3人。


 そこで俺は、修行のやり方を書いたメモを渡した。


「このスキルが、役に立つのですか?」


「ああ、絶対に役に立つからサボるなよ? Cランクになることとスキルの取得が最低条件だ」


 コクンと揃って頷く3人。


「じゃ俺らはこれで。なんかあったらまた頼ってくれ」


 そう言ってテーブルから立ち上がり、ギルドの出口へ向かう。


「ばいばーい」


 レアもニコニコと3人に手を振った。


「「「ありがとうございました!!」」」


 3人は揃ってお辞儀をした。


 バタン。


 ギルドの扉を閉める。外はもう夜で星が綺麗だ。空気が少し冷たい。


「あ~、疲れた」


「だね。でもあの3人が無事で良かったね」


 レアと並んで宿屋までの道を歩く。


「危な過ぎるだろ。ほっとけば死ぬとこだったぞ…………」


「でもありがとねユウ。一緒に助けに行ってくれて」


「え? ああ、元々はそういう罰ゲームだったからな!」


「あはははは!」


 レアは楽しそうに笑った。



 ーーーー俺たちは宿に帰り、倒れ込むように寝た。


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※過去話修正済み(2023年10月2日)

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― 新着の感想 ―
Ꭰランクが条件?途中からCランクになってるけどどっちかな? それから、主人公が復讐心を忘れて(忘れてはいないだろうけど読んでいて復讐心を微塵も感じない)エンジョイしてるのは復讐は二の次って心境になった…
[一言] 師匠風吹かせるには本人がまたまだ甘々で そろそろ学習しなよレベルだと思うんだけど
[気になる点] 主人公も気を抜いていた場面があったのになんか偉そうで鼻につきます。
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